●それは、強風と共に現れて……
その日は朝から、東から西へ向けて強い風が吹いていた。
それが、自然の力ではなく……デウスエクスの力の為だと人々が知ったのは、午前11時を過ぎる頃だった。
大空から、正に神と言っても良い清廉な輝きを纏った純白のドラゴンが現れたのだ。
「私は、アルブム・ラーミナ。ドラゴン種ながら同胞たちに疎まれる存在……。私が種族間の争い……そして、何よりこの地球侵略に力を貸さずにいたのが原因だろう……。人はこの数年で己たちよりも強い存在と戦えるだけの力を付けた……そのことが、私にはとても興味深かった……だが」
そこまで言うと、 アルブム・ラーミナは自身が纏う風の力を一層強くする。
「私は『重グラビティ起因型神性不全症』に罹患してしまった。この地球の力が私を死に追いやるのだ……。私とて、ドラゴン種……同胞と意見を違えてまで命の延命『定命化』とやらは、望まぬ。……ならば、私がやるべきことは一つ。疎まれ続けた同胞の為であろうと、この命をもって同胞の命を延命させる。私の力に恐怖し『憎悪』と『拒絶』を私に、ドラゴン種に向けよ……地球が『病』と言う形で私達を『拒絶』している様に……」
言い終えると、アルブム・ラーミナは纏う風を刃とし、町を……人々を……切り裂いていった……。
●その竜は強く気高く、神に等しい……
「みんな! 『重グラビティ起因型神性不全症』に罹患したドラゴンが攻めてくることが予知出来た。厳しい相手だと思うけど、覚悟のある奴は俺の話を聞いてほしい」
資料を片手にヘリポートに現れた、大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)は、真剣な瞳でケルベロス達を見回すと、説明を始める。
「今回襲われるのは、岩手県宮古市沿岸の市街地だ。そして、ドラゴンの名は『アルブム・ラーミナ』……西洋竜タイプの純白の毛並みが特徴のドラゴンだ。アルブム・ラーミナの目的は勿論、ドラゴン達の『重グラビティ起因型神性不全症』の進行を遅らせるために必要な『憎悪』と『拒絶』を集めることなんだけど、どうやら仕方なく行動に移ったって感じなんだよな……」
『仕方なく』デウスエクスに使うには、珍しい言葉だ。
「アルブム・ラーミナは、俺達に大打撃を与えた『八竜』にも劣らない力を持っているんだけど『第二次大侵攻』が始まって以降、ずっと静観を決め込んでいたんだ。理由はただ一つ、地球が神の力……『デウスエクス』の侵略にどこまで抗えるか興味があったから。だけど、竜種としては異端な考え方だから、仲間達にも疎まれていたらしい」
それでも、強制的な任を押し付けられなかったのは、一重にアルブム・ラーミナの力が強大で、利用価値があったかららしい。
「だけど『重グラビティ起因型神性不全症』に罹患し、アルブム・ラーミナ自身が死に直面したことにより、最後の力を仲間の為に使うことを決めた。……どうせ、死ぬなら少しでも仲間の為にってところなんだろうな……。戦うのが本意じゃなかったとしても、アルブム・ラーミナは腹を括った。『デウスエクス・ドラゴニア』として人々を蹂躙するだろう。もう、アルブム・ラーミナの考えは変わらない。敵対するドラゴンとして撃破してほしい……。俺達にも守るべき人達がいるのは変わらないからな。お互いが守るべきものの為に戦う……ただ、それだけのことだ」
事前に人々を別の都市に避難させることが不可能なことも、雄大は付け加える。
避難中の人々がドラゴンに襲われる危険性が高く、却って危険が高くなり犠牲者が増えてしまうからだ。
人々には市街地の大きな避難所に集まってもらい、アルブム・ラーミナが撃破されるまで外へ出ることを禁止するとのことだ。
ケルベロスが敗北或いは、撤退しない限り、一般人の被害は出ない……但し、ケルベロスの敗走は街の壊滅に直結する。
最強のデウスエクスである『ドラゴン』が相手……確実に勝てるとは言い難いが、勝たねばならない。
「アルブム・ラーミナは、高潔な性格で卑怯とは無縁の戦い方をしてくるけど、ドラゴンとしての戦闘力は高いと言っていい。『重グラビティ起因型神性不全症』によって、体力が落ちていなければ勝てる可能性が無かった程の相手と言える。アルブム・ラーミナの属性は『風』で攻撃手段も風を使ったものが多い。まず一つ目が常に体に纏った風を刃にする攻撃、次に冷気を混ぜることにより継続ダメージを引き起こす旋風、3つ目が竜巻を起こすことで対象を束縛する攻撃、最後が翼の羽ばたきによって複数人のグラビティを身体から引きはがす攻撃。アルブム・ラーミナは、敵のグラビティを乱すことに長けているから気を付けてほしい」
説明を聞くだけでも強力なドラゴンであることが窺える。
ドラゴンとして異端な思考を持っていたとしても、ドラゴンと言う強大な敵であることは変わらない。
「『重グラビティ起因型神性不全症』にさえかからなければ、アルブム・ラーミナは、ずっと、この戦いを静観していたかもしれない。そんな相手が、考えを変え……戦うことを選んだんだ、間違いなく全力で向かってくるだろう。そして、アルブム・ラーミナも地球人が……ケルベロスが、どれだけの力を持っているかをその目で見たいであろうことも予測出来る。だけど……みんなが一番、成し遂げなければならないことは、アルブム・ラーミナを倒し人々の犠牲を出さないことだ。背にいる人々の為に、絶対勝ってくれ! 頼んだぜ、みんな!」
雄大は拳を突き上げると強く叫んだ。
参加者 | |
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岬・よう子(金緑の一振り・e00096) |
クリームヒルデ・ビスマルク(自宅警備ヒーラー天使系・e01397) |
スプーキー・ドリズル(凪時雨・e01608) |
不破野・翼(参番・e04393) |
雨宮・流人(紫煙を纏うガンスリンガー・e11140) |
神野・雅(玲瓏たる雪華・e24167) |
スノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305) |
龍造寺・隆也(邪神の器・e34017) |
●風来たりし時
強い、強い……風が吹いていた。
東から西へ向けて……。
この場に到着し、次第に風は強くなっている。
「……風に、グラビティが微かに感じられるな。……すぐに姿を現すだろうな」
吹き荒ぶ風の中に僅かな竜種のグラビティを感じ取り、龍造寺・隆也(邪神の器・e34017)は、呟く。
仲間達も、それぞれ表情を引き締め、得物に手をかけている。
「誇り高き白竜なら、最後まで病に抗って見せるのが覇龍としての矜持じゃないのかしらねぇ……?」
そう仲間達に問いかけるのは、スノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305)だ。
「やはり、罹患すると……疎まれても最後は、同じ種族を助けたいって、仲間意識が生まれてくるものかしら? 病気に掛かると心情的に脆くなるのは、一緒ってことなのかしらね? そこの所を教えていただけるかしら……『アルブム・ラーミナ』様?」
スノーの最後の言葉は宙へと投げかけられていた。
風を幾重にも纏い、暴風を壁とした、白き毛並みの竜……『アルブム・ラーミナ』へと。
「その問いに答えられる、答えを私自身は持っているやも知れぬ……だが、その答えに納得し、退くことは無いのであろう……ケルベロス?」
アルブムは、既にこの地でケルベロス達が何故ここに居るのか分かっているような口振りで答えた。
「此処はこの星の大切な学舎だよ。君も……何かを学びに来たのかい?」
穏やかに、だがその青い瞳には憂いの色を覗かせ、スプーキー・ドリズル(凪時雨・e01608)が煙草の煙と共にアルブムに尋ねる。
「……学び舎か。人は学びの社を建てることで、学ぶ場を……自身を鍛える場を築き、仲間と共に成長していくのだったな。……私達とは、全く違う成長の仕方だ。竜種は……デウスエクスは、生まれ落ちた後……自身の力のみを信じ、磨き、誇示し、優劣を決めるからな」
スプーキーの言葉に答えるアルブムの言葉は、人々を襲撃に来た殺戮者である筈の……『デウスエクス・ドラゴニア』の荒々しさが無く……どちらかと言えば、隠者や学者のような達観した言葉に聞こえる。
「アルブム・ラーミナ……話に違わぬ変わった竜だな? 人々を虐殺しに来たのではないのか?」
自身の手に魔力で具現化した剣を握り、隆也が疑問の言葉を投げかける。
「違わぬよ。……お前達がどのようにして、私の襲撃を知り得たかは分からぬし、今、知ったところで何の役にも立つまい。だから、お前の質問だけ肯定しよう……。私は、同胞の病の進行を遅らせる事の出来る感情を生みに、人々を殺戮しに来たのだ」
瞳に悪意の色は映さず、ただ……その事実のみを口にする、アルブム。
「異端の竜と聞いてましたけど……結局、やろうとしていることは一緒なんですね」
光で描かれたキーボードや宙に現れたタッチパネルを操作しながら、クリームヒルデ・ビスマルク(自宅警備ヒーラー天使系・e01397)が言う。
「こうなっては、お仕事の対象以外の何物でもないですね。ネトゲで鍛えた凄腕ヒーラーの業、魅せてしんぜよう」
クリームヒルデは、宙に浮かぶエンターキーを押し、仲間達に防御の力を与える。
「高みにあれば崇めるものを、罹患したならば貴殿も侵略者に過ぎぬ。我が生は我が思想の為に、我が身は我が地の為に。神殺しのミサキが、貴殿を弑することを誓約しよう」
両に手にした右の刀の切っ先をアルブムに向け、岬・よう子(金緑の一振り・e00096)が凛々しく言う。
「良かろう……ケルベロスの娘、その制約……私の胸に刻もう。だが、娘よ……私に一つ聞かせてほしい。竜種を……デウスエクスを全て屠ることが出来たとしよう。発展、目覚ましい地球の抵抗力……私は世迷い事とは思っておらぬでな。その後……力を持った地球人はどうなると思う? 力を持った者同士、別離が来ると思わぬか? 私達、デウスエクスが資源の奪い合いを続けるように……その時、娘……お前の旗印はどこにある?」
アルブムの重い言葉によう子は一瞬だけ躊躇うが、大地を蹴ると刃をアルブムの巨体に振り下ろす。
「仕方なく……その言葉を持って、人々を傷つけようとしているモノの言葉に吾輩は惑わされない。地球の犠牲の上にある略奪を行う、貴様は簒奪者である……退くか下るか選べなかった、その誇りだけが生き残るのだな。貴様の言で吾輩の旗印が揺るぐこと等無い」
由緒正しき神殺しの血統……自身は、グラビティを操る術を得、地球を守る為に剣を振るう……だが、アルブムがよう子に尋ねたのは……その先のことだ。
今は退かぬことで矜持を貫ける……だが、防ぐべき脅威が無くなった時、よう子が何処に剣を預けるのか……アルブムはそれを尋ねたのだ。
迷いは剣の斬れに現れ……よう子の刀はアルブムに深く刺さらない。
「アルブム・ラーミナ……敵地で御高説とは余裕だな?」
流星の力を身に纏い、アルブムの顔を蹴り下ろしながら、雨宮・流人(紫煙を纏うガンスリンガー・e11140)が言う。
「俺のこと、覚えてるかい? 白竜? あんたには右腕の借りがあるが、いきなり襲った俺も悪いってことでチャラなんだが……けどな、あんたがやろうとしている事は見過ごせねえ。悪いがその凶行、止めさせてもらう」
「……その言葉を聞く限り、私がお前の右腕を奪ったことになるな」
「その通りだろ?」
アルブムの言葉に、流人が唇の端を上げて答える。
「人の病に相貌失認症と言うものがあるのは、知っておるか? 顔を見ても判別が出来ないと言う病らしい。私達ドラゴンにも、それが当てはまるのかもしれぬな……。私がお前を覚えておらぬというのはお前を軽視していたということではない、人の顔等全て同じに見える。そして人は年をとる生き物、大きさだけで区別も出来ぬ。だが、此度の戦いでお前の顔……覚えておけるように努めよう」
「随分とお喋りだな……アルブム・ラーミナ。……高潔な風の竜。神へ抗う人の力を見せよう。今こそ」
月の弧を描きながら『竜切丸』をアルブムに奔らせ、神野・雅(玲瓏たる雪華・e24167)が強く言う。
「すまぬな。膨れる興味は……この場にあっても変わらぬらしい。だが、竜種として……挑まれた戦いは真摯に受けよう」
アルブムは言葉を終えると、身に纏った風の刃を縦横無尽にケルベロス達に降り注がせる。
だがその刃は、よう子、スプーキー、そして……不破野・翼(参番・e04393)が全て受け、被害を最小にする。
「はじめまして。俺は姓は不破野、名は翼……ただのケルベロスです。アルブム・ラーミナ……仲間を想い戦うのは、どの種族でも同じですね。……ですが、その行いを見過ごす訳にはいきません」
翼の精神力が最高潮まで高まると、アルブムの翼が小爆発を起こす。
「仲間を傷付けるその力……止めて見せます」
翼が言えば、相棒である鋼色のボクスドラゴン『シュタール』も自身の属性を翼に注ぎ込む。
「話が過ぎたかな……」
「いや……だが、ここからはケルベロスと竜種として……手加減は無しだ。死んでもらうぞ」
アルブムにそう返すと隆也は、傷口に侵食していく紅きオーラを纏った刃を白毛に斬り込ませる。
「Shoot the Meteor!」
金平糖を彷彿とさせる角付きの弾丸を『clepsydra』に込めるとスプーキーは、その貫通力優れる弾丸を彗星の様に打ち出す。
(「不思議なことに……君に嫌悪感は無いんだよ。この場が酒場なら、酒を酌み交わし、紫煙に包まれ……夜まで語らうのも良かったかもしれない」)
「……この場が、その場で無いことが残念だよ」
呟いてスプーキーは、『雨久花』を黒漆鮫皮の鞘から抜く。
「結局やることは変わらないのですのよね。……いい加減、この大きなトカゲさんには、表舞台から、退場してもらわないといけませんわね。……あんまり長く居座ってると、老害とか言われて嫌われちゃうのが世の常よ?」
言うとスノーは、グラビティを中和し弱体化するエネルギー光弾を『スナイパーライフル』から勢いよく射出した。
最後衛を務めるクリームヒルデの瞳に、悲しげに一度眼を閉じ、開いた時には、瞳を竜種の『それ』にしたアルブムが映った。
●風の問いかけ
「……私は竜を葬る。一体でも多く。……いずれ全ての竜を」
雅がその言葉を口にする度に、アルブムを裂く『竜切丸』は狂気の色を帯びていく。
そして、雅の思考を過るのは竜に殺された友の顔……。
「竜種に特段の恨みがあると見える……」
アルブムが呟いた次の瞬間、雅の身体を大きな竜巻が包み宙高くへと吹き飛ばした。
「ぐあっ!」
地に叩きつけられ、雅の口から思わず声が出る。
「……何度だって立ち上がってみせるさ。……あの光景を繰り返さない為に」
「どうやら、竜種に復讐すること……いや、竜種を憎むこと、それ自体に存在意義を見出しているな? 違うかね?」
表情にこそ出さないが、雅の心に僅かな動揺が生まれる。
「君の望みを叶える事が不可能なことは分かっているかね?」
「何を……? 力の差こそ、何れ埋めて見せるに決まっている」
雅の言葉にスノーの魔法光線、隆也の刃の鋭さを持った攻撃を受けながら、アルブムは溜息を吐く。
「そうではない……全てと言う言葉の意味が分かっておらぬのだ。君の言っていることは、人を襲ったことの無い、これから生まれ出るドラゴンも含まれておる。それに、そこに居る鋼色のボクスドラゴン……彼も殺すと言う事に相違ないのだ」
アルブムが視線で差したのは、よう子にヒールを送っている『シュタール』だ。
「地球の者達は、別のモノと考えているようだが『彼』と私は本質的には同じなのだよ。破壊衝動を鎮め、小型化に成功した個体……それが『彼等』だ。呼び名が変われば、その本質は全く別のモノで出来ていると考えるかね? 君は?」
「アルブムの言葉に耳を貸さないで、雅。シュタールはシュタールですよ、アルブム」
ほんの一瞬……迷いの生まれた雅を呼んだのは、シュタールの相棒、翼だった。
「不破野の追の型からは逃しません」
初撃の拳でアルブムを掴むと、二撃目の脚撃でアルブムに強烈なダメージを与える、翼。
「今は、心を真に自由にして……グラビティ・チェインを癒しの力とするのがいいでしょう」
クリームヒルデが言葉と共に放った、自由を司るオーラは雅の心を捕縛していたかのようなグラビティの乱れを正常にしていく。
「全く……ただ凶暴なドラゴンの方が叩っ斬りやすいってもんだ。ワリィな、俺は接近戦もイケるんだ」
アルブムの純白の毛並みをアルブム自身の血で汚しながら、流人が呟く。
「恐るることはない、奢るることはない、戦場で共に踊ろう」
愛らしいよう子の笑顔から目を逸らす事が出来ないという感覚にアルブムは陥る。
それがグラビティでの攻撃だと言うことは分かっている……それでも、よう子が振るう刀をただ見つめる……自身を傷つける刃を……。
「君は聡明だ……このままでは、何も出来ずに君は死ぬ。憎悪や拒絶などは生まれない……それでも、戦いを続けるかね?」
『雨久花』が真昼の月のように輝けば、スプーキーは既にアルブムに大きな刀傷を作っていた。
「……戦いを始めて何分になるかね?」
隣人に時間を尋ねるような気安さで、アルブムはスプーキーに尋ねた。
「……5分と言うところだが」
アルブムの質問を怪訝に思いながらも、スプーキーは答える。
「それでは……そろそろ本気を見せねば君達に失礼かもしれぬな」
アルブムはそう言うと、白翼を大きく蒼天の空に広げた。
●風と共に去りぬ
「ぐああああああああっ!!」
銃創だらけのスプーキーの竜翼を強烈な冷気が襲った。
可能な限り広げている為、その陰で庇われる形になった雅にダメージは無い。
だが、スプーキーと同時にアルブムの冷気の風の標的になった、よう子と翼のダメージも目に見えで酷い。
「スノーさん回復支援お願いしますでーす!」
癒しのオーロラで仲間達を回復しながら、クリームヒルデがスノーに叫ぶ。
「了解ですわよっ! お疲れ様! 色々と頑張ってくれてありがとうね♪」
スノーが含みのある笑顔を輝かせれば、それはヒールの力となり、スプーキーの凍てついた翼の氷を溶かしていく。
アルブムがスプーキーに時を尋ねてから、更に7分が経っていた。
この7分、前半のケルベロス優勢から……アルブム優勢に力関係が変わるのに3分とかからなかった。
最初の5分、アルブムは手を抜いていた訳ではない……ケルベロスと対話することにより、死する自分への答え合わせをしようとしていたのだ。
ケルベロスの力は十分強い……。
それでも普通なら負ける事は無いだろう……だが、自身は今、病に罹患している……時間はかかるにしろ、倒されることになるだろう。
だから、死ぬ前に疑問を減らしたかった……死にゆく自分が見る事の無い未来にケルベロス達が何を見ているのか知りたかった……。
答えは得た……彼らの中でも答えを見出していないという『答え』を。
その答えを示してくれた彼らに敬意を払おうとアルブムは思った……全力の竜の力を見せることで。
その風を操る力は強大で、クリームヒルデとシュタールの回復が機能しなくなれば戦線が何時崩壊してもおかしくない程だ。
だが、アルブムの清廉な純白の身体が白さを失う度に、流れ出る鮮血とグラビティ・チェインが失われて行く度に、アルブムの死が近づいていくことが、ケルベロス達もアルブム自身も分かっていた。
僅かな回復の後、よう子が斬霊刀を閃かせれば、翼が魔を降ろした拳をアルブムに打ち据える。
「我が吐息よ、浄化の焔と化せ――」
恵みと破壊を司る紅蓮の炎が雅の意志で銀竜となってアルブムをその歯牙にかける。
「戦意は持てても……悪意や敵意といったものが持てるかは相手次第なのだな……」
鋭き眼光に一抹の寂しさを映しながら、隆也は魔剣を振るう。
「……さらばだ。誇り高き白竜よ」
「……世界の続きを……君の代わりに観るよ。……いつか地獄でお伝えしよう」
静かに引鉄を引くスプーキーの頬には、ドラゴニアンたる黒鱗が表れていた。
「……あの時は、いきなり襲いかかって悪かったな。……お詫びに遺言くらいは聞いてやるぜ、アルブム」
流人の言葉にアルブムは、静かに首を振った。
「……何時か、運命が交差した時の為にそれは取っておこう」
「……そうか。……来世は俺達の同胞に生まれてくれると嬉しいぜ」
流人の漆黒の日本刀が『アルブム・ラーミナ』の真白の羽毛に埋もれると、横に大きく一閃し……白竜の首を刎ねた。
瞬間……アルブムの身体は猛烈な風に包まれ、そのまま……その存在が無かったかのように、全てが空へと吸い込まれた。
アルブム・ラーミナは、最後まで高潔に――地球と言う舞台から――姿を消したのだった……。
作者:陸野蛍 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年4月20日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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