ミッション破壊作戦～正直は、最上の戦略である

■リプレイ

●攻撃
　飫肥城では桜が満開を迎えていた。
　対神組織デュランダル、狂えるエインヘリアルたちに占領されてから迎える初めての春。
　城内では、風に吹かれたピンク色の枝が揺らめく度に、ひらりひらりと花弁が舞っていた。
　同じ頃、その遙か高空で到着したヘリオンの胴体部の扉が開かれた。
　真っ先に飛び出て、降下を開始したのは、皇・絶華（影月・e04491）。
「今度こそ……破壊する！」
　上空の空気は冷たいが、遠く離れてはいても満開の桜の色はハッキリと見てとれる。地形や建物の配置は恐らく変わっていない。でも咲き誇る桜の数は意外な程に多く、まるで違う場所に来たかのように思えてしまう。
　もはや頬を打つ空気には刺すような冷たさは無かった。
　急速に小さくなって行く絶華の背中を見つめ、尾方・広喜（量産型イロハ式ヲ型・e36130）も降下を開始する。
「あれを壊せば、この場所に大勢の連中が来るようになって、そいつらが喜んだり笑ったり出来んだろ」
　視界に認められるドーム型のバリアを見つめて広喜は、どこか楽しげに唇の端をもたげた。
　上空からケルベロスたちが迫っていることも知らずに、魔空回廊の下では占領者の日常が流れていた。
　修復され、美しく手入れされた石垣や白壁。兵士たち戦士たちは、いつ来るかも分からない敵に備えて見回りをし、あるいは戦いに備えて訓練に勤しんでいた。
「いい加減にしろ！！　一人で戦おうともせず、神を目指すとは片腹痛いわ！　大義も無く不条理に人々の命を脅かしておいて、何が神か！」
　雷鳴のような、絶華の叫びが轟くと同時、グラディウスが叩き付けられた。強烈な閃光と共に幾筋もの稲妻が暴れ回り、天守の上方、魔空回廊を覆うバリアが鳴動する。
「敵襲っ、敵襲だ！！」
　カンカンカン！　櫓の上で狂ったように半鐘が打ち鳴らされ、悲鳴と怒号が飛び交う。なぜ誰も気づかなかったんだ。見張りは何をやっていたんだ。急速に広がりはじめた煙の合間に絶華の影を認めたエインヘリアルが撃ち落とせと、声を上げる。
「神とは人の心を救う者！　貴様らなぞ唯の俗物に過ぎぬわ、馬鹿者がぁあああ！！」
　瞬間、続く叫びに万感を込めた絶華の身体が弾き飛ばされる。それと同時に枝状に分裂した稲妻が上を指差すエインヘリアルの上半身を消し飛ばした。
（「――すげえよな。俺は壊すしか能が無えけど、それでもこれが役に立つんだろ？」）
　煙はバリアの表面を流れ落ちるようにして広がり、初撃の余韻のスパークがそこかしこで煌めいている。半鐘を打ち鳴らす音が響き続ける中、広喜は飾り気のない感情をグラディウスに集中させた。
「思いっきり派手にぶち壊してやるぜ！！」
　間近では巨大な壁のようにしか見えないバリアの天井部を睨み据えて、広喜は落下の勢いを乗せたグラディウスを突き立てた。瞬間、この日２度目の爆音が轟いて光が爆ぜる。雨のような雷光が地上に降り注ぐ逃げ惑う兵士たちを串刺して、ある者は虫ピンに止められた昆虫標本のように動かなくなり、またある者は背中から青い火花を散らし悲鳴を上げながら地面をのたうち回る。降り注ぐ雷光の雨に地表は高温と化して、満開の桜もシューシューと音を上げながら燃え始める。
「罪も無い人たちの幸せを奪うなら……、わたしは、絶対に許さない！　不幸になる子たちを出さない為にも、必ず、討ち倒してみせるよ！」
　自身の境遇に思いを巡らせて、同じ思いは誰にもさせないと。決意を孕んだ叫びと共にリーナ・スノーライト（マギアアサシン・e16540）はグラディウスを打ち付ける。次の瞬間、赤い炎が爆ぜて、続けて稲妻の如き光の枝を内包した灰色の茸雲が立ち昇った。焼け崩れる櫓と共に、半鐘を鳴らしていた兵士の肉体が灰なってと砕け去る。
「至高の神になるなどと、相変わらずおかしい主張を繰り返している。そろそろ無駄なことであると察して下さい」
　肌で感じられるほどに濃密な煙を裂いて、ダリル・チェスロック（傍観者・e28788）は降下を続ける。
　煙は魔空回廊を覆うバリアを起点に広がり続け、僅か数分で見えていた地形の輪郭や道筋を覆い尽くす。そして桜や倒壊した櫓が燃える炎の色が煌めいている様が見えて、普段は物静かに見えるダリルも戦慄を覚える。
「このような回廊を二度とこの土地には開かせない。否、ここだけではなくあらゆる魔空回廊を潰します」
　額が衝突しそうになる程の近距離、両手で構えたグラディウスを突き出して、ダリルは静かな怒りを込めて叩き付ける。瞬間、爆ぜる雷光と共に煙が巻き起こる。
　グラディウスによる攻撃はそれを持たない者に襲いかかる。攻撃の反動に弾き飛ばされるリーナとダリル、そして入れ替わるように降下してくる、村雨・柚月（黒髪藍眼・e09239）の間を縫うように雷光は飛び抜けて分岐を繰り返しながら地表に降り注ぐ。垂直に落下してくる雷光は逃げ惑う兵士たちに命中すると白銀の光を放ちながら周囲に飛び散り、周囲を火の海に変える。攻撃開始から数分にも満たない時間で城内には強烈な火災が発生し、多くの兵士が生きたまま火だるまとなる。
「卑怯者ども早く姿を見せろ！」
「俺はケルベロスだ！　平穏な日常、人々の笑顔を守るためなら、たとえ神でも容赦しねぇよ！」
　――とっとと消え失せろ！　狂ったような叫びに応えるようにして、柚月はグラディウスを叩き付けた。
　この日５度目の轟音、閃光と同時、地に突き刺さるような鋭い音がバリアを上下に貫いた。今までに無かった奇妙な音に反射的に立ち上がった兵士たちの上半身だけが、白銀に輝く雷光に薙がれて蒸発して消える。
「ただの雑兵じゃないか、それでいて自ら神に成り上がろうとするその傲慢な精神も気に入らねぇな！」
　濃霧のように立ちこめる煙の中、柚月はダリルが降下して行った方に向きを合わせて、バリアの天井から降りて行く。その下方で炎を上げる天守を見つめながら、複雑な感情を抱く。
「統率の取れた集団行動の実現は確かに秩序的に素晴らしいことです。しかし歴史ある場所を占拠し、そこを愛する人々を悲しませて顧みず、その上人々からグラビティチェインを奪う様な輩によるものならば、私は憤慨します！」
　間髪を入れずに、セデル・ヴァルフリート（秩序の護り手・e24407）の叫びが響き渡る。サイレントと名付けたビハインドと共に、呼吸を合わせたような所作でグラディウスに手を添えて力を込める。瞬間、衝撃波が大気を揺らし光柱が立ち昇る。
「それだけの統率の取れた動き、素晴らしい能力であったはずなのに……ですからこの怒りを、全て此処にぶつけて、人々の悲しみと苦しみを此処で解放します！！」
　なぜ間違った方向に力や情熱を傾けてしまうのか、口惜しさを込めたセデルの叫びに返されるのは、自業自得の悲鳴と怒号、そして一方的に蹂躙される者の呪いだ。
　人々のため、ケルベロスの義務、そんな殊勝な動機はない。ウルトレス・クレイドルキーパー（虚無の慟哭・e29591）は思う。死地に身を置けば、生きるために戦うのは当然で、己が何者か考える必要も無い。
「ヴォォォォオォォオォアァァ！！！」
　小剣と我が身、合わせて一つの弾丸だ。さあ、砕けて消えろ。心に抱く思いは言葉にしないまま、全身全霊を注いだ慟哭に乗せて、ウルトレスはグラディウスを繰り出す。７度目の閃光と轟音、爆煙と稲妻が嵐となって城内を駆け巡る。それらがグラディウスを持たぬ者を狙い撃つように襲いかかる中、別の叫びが響き渡る。
「争うのも勝手、競うのも勝手だけど、ここはエインヘリアルの星じゃないし、飫肥城もあんたらの物じゃない。多くの歴史と多くの人たちの思いが詰まった大切なものなんだ！」
　踏みにじられた無関係の人々に思いを馳せ、風陽射・錆次郎（戦うロボメディックさん・e34376）は胸に抱く憤りを込めてグラディウスを叩き付ける。瞬間、バリアに広がるのは樹枝状に広がる無数の黒い筋。
「一刻も早く、そっから出て行け！　争いたいなら、自分達の星でやって！　砕け散れ！」
　わずかに数分の攻撃で、城は甚大な被害を被っていた。敵の大部分は戦闘力を保持していたが、煙が晴れるまでは本格的な反抗が出来ないことを経験から学んでいた。
　流れ落ちる煙に輪郭を露わにされるバリアは下から見上げれば、燃え上がる城の炎に照らされ、赤い壁面が空中にそびえ立っているようにも見えた。そこには無数の亀裂のような筋が入っている。
「急いで撤退だ」
　錆次郎と共に合流した、ウルトレスが戦果を評価している間は無いと、緊張を孕んだ声を上げる。
「こっち……だ？！」
　その通りだと応じるように、退路を指し示し、絶華が走り出そうとした瞬間、頭上にある魔空回廊が水飴のようにグニャグニャと変形を始める。それが魔空回廊の崩壊の始まりだと誰もが直感した。
「此処まで本当にてこずらせてくれたな！！　だが此処までだ！！！」
　思わず声が出る。次の瞬間、同心円状に広がる高速の衝撃波に大気が振動する。直後、魔空回廊も、それを守るバリアも自重を支えきれなく無くなったビルのように下から崩落して行く。

●撤退戦
　絶華はこれまでの経験と勘を遺憾なく発揮し、最短にとも言えるルートで城内を駆けた。
「ここを真っ直ぐに進めば大手門だ」
　故に四度目の撤退はこれまでに無いスピードで進んだ。
　だが、魔空回廊が崩壊した瞬間から、周囲に通常とは異なる復讐心と殺気が急速に膨らんで行くのを感じた。
「見つけたぞ、ケルベロスども！　デュランダル騎士団をなめるな！！」
「？！」
　煙を裂いて、デュランダル騎士が現れると同時、振りかぶった巨剣が先頭を行く絶華に振り下ろされる。咄嗟に踵を踏み込んで、後ろに引きながら刃を抜き放つも、刃で受け止めることは叶わず、巨剣は強かに絶華を打ち据えた。
「こいつと顔を合わせるのも最後だ。気合入れていこうぜ！」
　言い放つと同時、柚月は二振りのナイフを同時に抜き放ち、舞うようなステップを踏みながら、デュランダル騎士に迫る。そし脇を抜ける刹那、繰り出した刃の乱舞が鎧を切り刻む。
「ここでの戦いも今日までです！」
　セデルの澄んだ声と共に色鮮やかな爆発が起こり、その爆風は傷つき膝を着いたままの絶華を癒し、敵と対峙する前衛の背中を力強く押せば、続くウルトレスの奏でる疾走感溢れるサウンドが鳴り響く。
「さぁ、傷を見せてねぇ？　大丈夫、痛くしないからねぇ？　デュフフフフ……」
　錆次郎は絶華に密着すると、自身の機械腕を展開して治療を開始すれば、イヤーサイレントの念に操られた石ころが浮かび上がり、凶器となって騎士に襲いかかる。
（「……奇襲、暗殺はわたしの得意技。……決して、望んで得た技術じゃないけど、ね……」）
　飛び交う石ころのダメージが意外に大きく、デュランダル騎士は身のこなしだけで避けようとする。しかしその隙を見逃さずに、リーナの繰り出した神速の突きが、鎧を突き破って深々と突き刺さる。
　体内で暴れる雷に目を剥いて身もだえする姿に、ダリルはこの騎士が、もはや長くは持つまいと直感して、絶華の肩を軽く叩く。そして反対側の手で大鎌を投げ放った。
「今度こそ、決着を付けてください」
　言葉が耳に届くのと前後して、回転しながら飛ぶ鎌刃は騎士の装甲を切り刻み、鎧を不定形の鉄塊に変えて行く様が見えた。次の瞬間、謝意を示すように絶華は速やかに、焼け焦げた地面を踏み込んで駆け出し、最少距離で間合いを詰める。
（「これじゃ、一方的な虐殺だな」）
　明らかに劣勢な騎士に向けて繰り出すのは絶空斬、直後、ダリルの刻みつけた傷に斬撃が重ねられ、斬り広げられた傷口から赤黒い血が溢れ出る。
「目標を破壊する！　ファイアー！！」
　広喜の振り上げたドラゴニックハンマーが砲撃形態と変わる。鋭い腕の一振りから放たれた竜砲弾や騎士の胸を直撃して大爆発を起こす。もはや鎧は原型が分からないほどに破壊され、爆発の熱に焼かれた傷口からは赤黒い血が大量に溢れ出ている。勝った。だれもがそう思った。
「我は不滅なり！！」
　巨大な剣を地面に突き立て、騎士は咆哮した。
　次の瞬間、突き立てた剣から噴き出る銀色のオーラが瀕死の騎士を包み込み、瞬く間に傷口が塞がって行く。
　しまった。
　完治にはほど遠いが、傷を癒した騎士の口元が僅かに笑んで見えた。
「……戦いで不幸になる子なんて……もう十分だよ……」
　撤退戦においては時間が重要、この敵をすぐに殺さなければという思いに駆られるようにリーナは駆け出す。
「集え力……。わたしの全てを以て討ち滅ぼす……！　滅せよ……黒滅の閃光！！」
　漆黒の刀刃がリーナに集まるありとあらゆる力により形を変え、無造作にも見えるひと突きから放出された莫大な破壊力を孕んだ魔法砲撃が攻勢に転じようとしていた騎士を直撃する。
「なんだと、莫迦な……」
　血を吐いて声を詰まらせる騎士。煙は薄くなって来ている。あと少しだけ時間を稼げば、復讐心に燃えた味方が来援するはずだった。
「健闘は認めてあげるけど、そろそろご退場願いたいね」
　柚月の身体から噴き出たブラックスライムが現れる。遠慮無く食え。鋭い腕の一振りで指し示せば、ブラックスライムは捕食形態となって、騎士の巨体を丸呑みにする。
「今まで苦戦させられましたね……ですが、もう終わりです」
　無造作に言い置いて、セデルが高速演算で見破った弱点を目がけて神速の一撃を繰り出せば、騎士の背後に出現したイヤーサイレントが攻撃を重ねる。
「今度こそ終わりだ！」
　ダリルが詠唱する古代語の呪文と共に放たれた光線が騎士の身体を包み込む。光が齎す石化の力により急速に動きが鈍くなる騎士を目がけて、絶華は己の持つ全ての力を刃に乗せて、その切っ先を爪のように振るい、叩きつけた。
　刃は騎士の胸元に飲み込まれたように突き刺さっていた。
　それを脇腹まで切り下げると、胸の鼓動が止まった。
　次の瞬間、軽い音を立てて、デュランダル騎士は倒れた。

●最良の結果を胸に抱いて
　煤と返り血に塗れた、仲間たちの姿が目に入る。そしてまだ距離は離れているが、薄くなった煙の向こう側から近づいてくる数え切れない程の敵の気配にも気がついた。
「多分こっちだ、絶対に逃がすな！」
「ぶっ殺してやらあ！！」
「うわあ、ものすごく……怒っているみたいだよねぇ」
「あんたも急がないと置いて行かれるぞ」
　額から滝のような汗を流す、錆次郎にウルトレスは促すように告げた。そしてリーナとダリルが殿に着いて一行は燃え盛る大手門を通って城外へと走り続けた。
　間も無く、ミッションに挑むケルベロスたちと出会い、ここで魔空回廊の破壊成功伝える。
「それじゃあ、城を取り戻したことに乾杯しとくか」
　戦いの前は儚げに見えた、満開の桜が今は戦いの勝利を祝福しているように見えた。

作者：ほむらもやし	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年4月17日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。