未来を占う大妖精

作者:飛翔優

●対価は大切なもの
 春麗らかな陽気に恵まれた、四月始めのお昼過ぎ。
 穏やかな風が吹き抜けて桜の花びらを散らしていく街道を、少女が一人歩いていた。
「ほんとうにいるのかな、いないのかな。でも……うん、あって、ききたいな」
 未来を視ることができるという、森の奥の小さな泉に潜む大妖精。
 実際にいるのなら、それはきっと素敵な存在。
 だから会ってみたい、できれば話を聞いてみたい。だから、少女は進むのだ。
「だいじょうぶ、たいせつなものもじゅんびしてきた。だからきっと、だいじょうぶ……」
 大妖精は未来を視る対価として、足を運んできた者の大切なものを奪うという。
 大切なものを忘れたなら、その命を奪うという。
「……うん」
 ポケットを軽く叩き、大切なものがあるか確認する。
 力強く頷きながら、森の中へ……。
「わっと」
 誰かにぶつかり立ち止まった。
 少女は慌てて飛び退いて、勢い良く頭を下げていく。
「ご、ごめんなさい! い、いそいで……て」
 顔を挙げた先、黒い装束の女性が静かに佇んでいた。
 異様な空気を感じ取ったか、少女は身をすくませた。
 意に介した様子もなく、女性は一本の鍵を取り出し……少女の胸に、突き刺した。
「えっ……」
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの興味にとても興味があります」
 女性は静かに告げながら、少女から鍵を引き抜いていく。
 少女はその場に倒れ伏した。
 入れ替わるようにして、人間の子供ほどの何かが姿を現していく。
 それは女性に似た体つきをしていた。
 薄手の衣で体を包み、透明な羽をはためかせていた。
 けれど、瞳の周囲はモザイクに覆われていて……。

●ドリームイーター討伐作戦
 ケルベロスたちを出迎えた笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)。メンバーが揃ったことを確認し、説明を開始した。
「町外れの森のなかにある小さな泉に、未来を視ることができる大妖精がすんでいる……そんな不思議なお話に興味を持って、実際に自分で調べようとしていた女の子が、ドリームイーターに襲われて興味を奪われてしまう……そんな事件が起きちゃったみたいななんです」
 興味を奪ったドリームイーターはすでに姿を消しているようだが、奪われた興味を元にして具現化した怪物型のドリームイーターによって、新たな事件も起きようとしている。
「ですので、この怪物型のドリームイーターによる被害が出る前に、撃破してきて欲しいんです」
 このドリームイーターを倒すことができれば、興味を奪われてしまった女の子も目をさましてくれることだろう。
 続いて……と、ねむは地図を取り出した。
「大妖精の噂の舞台となっていたのは……この森のなかにある小さな泉。でも、女の子が襲われたのはこの……森の入り口から少し進んだ先になります」
 故に、そこを起点に怪物型のドリームイーターを捜索することになるだろう。
 怪物型のドリームイーター。姿は、人間の子供くらいの背丈と女性に似た体つきを薄手の衣に包んでおり、透明な羽を生やしている……いわゆる、妖精のような姿。また、瞳の周囲がモザイクに覆われているようだ。
「怪物型のドリームイーターは人間を見つけると、自分が何者であるのか聞いてくるみたいです。そして、正しく答えられなければ殺してしまうみたいなんです」
 一方、正しく答えることができれば見逃してくれることもあるようだ。
「そして、自分の事を信じていたり噂をしていたりする人が居ると近寄ってくる性質もあるみたいです。なので、これらを利用して探せば、向こうから寄ってきてくれるかもしれません」
 そうした実際に相対したら、戦いへと持ち込むことになるだろう。
 戦闘においては、素早い動きで翻弄しつつ的確な一撃を加えてくる。
 グラビティは三種。水流を放ち加護ごと砕く力。心を惑わす力を持つ鱗粉を敵陣に向かわせる力。命中精度を高めつつ傷を癒やす未来予知。
「以上で説明は終わりです」
 ねむは地図を纏め、締めくくった。
「女の子の持つ興味。それをうばい、利用するなんて許せないのです。だから、どうか……全力での行動を、お願いします!」


参加者
十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)
相良・鳴海(アンダードッグ・e00465)
クロコ・ダイナスト(牙の折れし龍王・e00651)
クローチェ・テンナンバー(キープアライブ・e00890)
知識・狗雲(鈴霧・e02174)
メーリス・サタリングデイ(希望の歌・e10499)
フェリシティ・エンデ(シュフティ・e20342)
七々美・七喜(黒炎の幼狐・e35457)

■リプレイ

●偽りの未来を語る者
 春麗らかな陽気を浴びて、艶やかな彩りが楽しげに踊る森の中。優しい風が奏でていく木々の音色を聞きながら、フェリシティ・エンデ(シュフティ・e20342)はボクスドラゴンのそば粉に語りかけていた。
「ねぇねぇそば粉っ。妖精さんって見たことある? どうやらこの森の中に住んでいて、大切な物と引き換えに未来を教えてくれるらしいのだけど……そば粉は何が知りたい? んー明日の晩御飯とか?」
 きゅーきゅーと鳴くそば粉の返事を読み取りながら、会話を続けていくフェリシティ。
 同道するケルベロスたちも、各々のスタイルで語らい合っていた。
 既に、キープアウトテープなどを用いて最低限の封鎖は行っている。森の中に、誰かが入り込んでくることはない。
 迷うことなく歩を進めていく事ができるのだ。
 もっとも、腰が引けているものもいた。
「うぅ、この辺に未来を見通せる妖精さんがいるみたいですよね……。ただでさえお先真っ暗の人生でズバリと真っ暗なのを言われたら生きる気力を根こそぎ持ってかれそうですね……。それだけでも恐ろしいのにまだ大切なものを奪うだなんて強欲な妖精さんですね……」
 クロコ・ダイナスト(牙の折れし龍王・e00651)は翼をへにょりとさせながら、自分の体を抱きしめる。
 うんうんと頷き、クローチェ・テンナンバー(キープアライブ・e00890)は口を開いた。
「どうにもワタクシにはその妖精さんがいいものに思えないのデス。未来なんてどうなるか分からないものデスヨ! 予言されてる未来なんて面白くないデス! 大切なものを犠牲にしてまで知りたいものでもありまセンネ! お前の未来はこうなんだと言われたら、絶対そうなりたくなくなるレプリカント心!」
 熱のこもっていく演説は、森の奥まで響いていく。
 一方で、フェリシティのように多大な興味を寄せている者もいた。
 メーリス・サタリングデイ(希望の歌・e10499)は相良・鳴海(アンダードッグ・e00465)らを捕まえて、無邪気に語りかけていた。
「ねえ? ここにおっきなよーせーさんがいるらしいんだって! ボク見たみたいな―!」
「……」
「どんな子なんだろうね。羽の色とか、何色かな、透き通っているのかな」
 複雑な表情を浮かべている鳴海に代わり、知識・狗雲(鈴霧・e02174)がメーリスの相手をし始めた。
 メーリスは首を大きく傾げた後、目を輝かせる。
「キレーな羽だといいよねー!」
「それに、大きな羽かもしれない」
「よーせーさんって何ができるんだろ! すごいことしてくれそう!」
 頷き合いながら、身振り手振りでも感情を表現していくメーリス。
 一方、鳴海はメーリスら楽しげに話している者たちには聞こえないよう注意しつつ、ひとりごちていく。
「未来を視る妖精ねぇ、その対価が大切なものだって? 悪魔の間違いじゃねぇのか」
「ホントに見えるんなら、オレが将来どんな立派な妖狐になってるか、見てほしいモンだよなー!」
 七々美・七喜(黒炎の幼狐・e35457)が頭の後ろに両腕を回し、鳴海に視線を送っていく。
 一瞥し、鳴海は肩をすくめた。
「まぁ昔話の妖精なんて性悪なもんか……それがデウスエクスなら尚更だ」
「ま、違いなねーな。テレビに出てる似非超能力者かよーっつーの」
 期待を寄せる者、警戒を強める者。様々な色を見せながら、ケルベロスたちは森の中を進んでいく。
 空気に変化が訪れたのは、それから十分ほどの時が経った後。
 右手側にある背の低い木が、小さく揺れた。
 ケルベロスたちは立ち止まり、視線を送っていく。
「あっ」
 メーリスが小さな声を上げる中、背の低い木の中から飛び出してきたのは小さな女の子。
 背丈こそ小学生ほどの少女だが、薄手のワンピースに包まれた体つきはとても女性らしく……どことなく、大人の女性を小型化したような造形だと感じられた。背中にきらめいている虹色に輝く羽が、彼女が噂の大妖精なのだと教えてくれている。
 瞳の周囲はモザイクに覆われており、ドリームイーターであることを示していたのだけど……。
「私は誰でしょう?」
「よーせーさんよーせーさん!」
 メーリスが元気な声を響かせる。
 一拍置き、七喜も答えた。
「大妖精、だな。ま、もっとも……」
 小さな息を吐いた後、ゆっくりと腰を落としていく。
 仲間たちが次々と名を呼んでいく中でも左右に視線を走らせ、右手側の大樹を駆け上った。
「人間ってのは、見えない道を懸命に歩くからこそ価値があるんだよ! ってじーちゃんが言ってたぞ! ……いや、興味ねーとは言ってねーけど! 見れるんなら見てみてーけどさ! 誰だってそうだろ!」
 太い枝をばね代わりに跳躍し、大妖精めがけて蹴りを放つ。
 大妖精が一歩右へと動いた時、その進路を塞ぐかのように、炎に染まりし銃が振り下ろされた。
 慌てて飛び退いたドリームイーターが七喜に蹴っ飛ばされていく中、鳴海は左手に握る銃を軽く振るいつつ吐き捨てる。
「ガキの好奇心を利用して食いもんにするデウスエクス……お前らはどいつもこいつもクソったれだが、お前はとびきり気分が悪いぜ」
 とある少女の興味を元に生み出されたドリームイーター。それはとても純粋なものであったはずなのに……今はもう、人々を殺して回るだろう悪しき存在。
 打ち倒さなければならない。
 人々が犠牲になる前に、少女の興味を取り戻すために。

●死の未来を作る者
 いつもはオーラを纏わせている手に今は、黒いモノ。感覚が少し違うことに戸惑いながらも、十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)はもう片方の手でナイフを軽く握りしめた。
 少し安堵を覚えるのは慣れた得物だからだろうか。
「……」
 小さな息を紡いだ後、かかとを軽く打ち鳴らす。
 未来は知りたいけれど、過去の苦難があったからこそ知りたいけれど……胸の片隅に追いやって、低い姿勢で駆け出した。
 エアシューズを転がして、どんどんどんどん加速する。
 見えないはずの未来を目指し、あるいは追い抜かんほどの勢いで。
 未来を語る大妖精に追いつけば、未来の代わりに大妖精を切り開く!
「……新しいことを、自分を、この手で……」
 散りゆく力を浴びながら大妖精の背後の側へと駆け抜ければ、代わりにクロコが正面へと踏み込んだ。
「あなたを倒します、倒して女の子を救います!」
 地獄の炎を纏わせた鉄塊がごとき剣を振り下ろせば、大妖精は体をひねり左に避ける。
 砕けた地面が炎に染まり、大妖精を左側へと押しのけた。
 翼をはためかせ衝撃を和らげながら着地した大妖精は、天に両手をかざしていく。
 招かれし水流が、長尺の竜が如くうねりながら前衛陣へと襲い掛かってきた。
 軌道上にフェリシティが立ちふさがり、オーラを全開にした両手で水流を押さえ込んでいく。
 背中を、そば粉の力が支えていく。
 それでもなお、強い一撃だったのだろう。フェリシティは水流を受け切ると共に、後ろへ下がった。
「メーリス! 次、お願い!」
「はーい! みんなを守っちゃうよ!」
 入れ替わり、メーリスがテレビウムのホッピーと共に大妖精の前に立ち塞がる。
 二人を中心に体を張って守ってくれている内に、可能な限りの攻撃を。
 七喜は大妖精の背後を取った後、再び大樹を駆け上がった。
「もう一発、食らえ!」
 無防備に見える背中に向けて、落下の勢いを乗せた蹴りを放つ。
 真っ直ぐに伸びゆく飛び蹴りは、忙しなく動く羽に弾かれた。
 大妖精本体へ衝撃を届けることができなかったわけではない。蹴りを弾いた大妖精が僅かに動きを止めた時、すかさず鳴海が弾丸を撃ち込んだ。
 攻撃も、守りも連携を取りながら、ケルベロスたちは攻撃を重ねていく。
 勢いは、ケルベロスたちの側にある。
 狗雲はボクスドラゴンのアスナロと共にメーリスの治療を行いながら、大妖精の動きを追いかけ続けていく。
 隙あらば、自分も攻撃に参加する。
 少しでも早く、この戦いを終わらせることができるように。
 強い視線を気取ったか、大妖精が顔を向けてきた。
 モザイクの瞳を見つめながら、狗雲は告げていく。
「俺の知ってる妖精さんはいつも医学書を要約してくれる子。お前よりうーんと可愛いぞ。な、アスナロ!」
 頷き、口元に笑みを浮かべていくアスナロ。
 大きな反応を見せる様子もなく、大妖精は口を開いていく。
「あなたの未来、教えてあげる。それは、死。私が殺す、あなたの未来。私の行いを含めた、未来の予言」
「悪いが、人を襲う怖い妖精は夢を盛大に壊しかねないから退治しないとな」
 狗雲もまた予言を袖にしつつ、仲間たちへと意識を移した。
「さぁ、みんなが全力を出せるように頑張るぞ!」
 大きく頷き、周囲を眺め回していくアスナロ。
 不意に、戦場に影が差していく。
 クローチェの示すがまま、空を覆う黒太陽が輝きを増していく。
「未来なんて、誰かに教えて貰わなくても自分の目でみればいいのデス!」
 溢れ出す陽光が大妖精を照らし出し、その動きを鈍らせる。
 今はまだ、決定的なチャンスを作り出せるほどのものではないけれど……重ねていけば、いずれ到達できるだろう。
 戦いを楽なものとするために、クローチェは力を高め始めていく。
 世界に、気高き音色を響かせる……!

 戦場に舞う鱗粉は、心を惑わすためのもの。
 フェリシティはエアシューズで周囲をめぐり、自らのオーラで絡め取る。
 広がるのを防ぐ代わりに、その影響の多くを自身に引きつけた。
 若干思考が乱れていくのを感じながらも、力強い光を湛えたまま大妖精を睨みつけていく。
「未来は分からないからこそ、楽しみがあるんじゃなくて? ……まあ、ちょっとだけ、知ってみたくはあるけど……でも」
 そば粉の治療を受ける中、メーリスに背中を叩かれた。
 頷き後退しながらも、視線は外さず告げていく。
「……大切な物と引き換えに知りたい程の未来なんてないわ!」
 気合を入れ、すぐにでもメーリスと交代する事ができるよう準備を整えた。
 守られているクローチェはゆうゆうと、ミサイルポッドを展開する。
「ワタクシも予言しマスネ! アナタがワタクシ達に倒される未来ってのはどうデスカ?」
 返答は聞かずにミサイルを射出。
 逃げ場を塞ぐ形で打ち込めば、大妖精は爆発と爆煙の中心に。
 必死に耐えようとしているのだろうと察しながら、狗雲は薬液の雨を降らせていく。
 細かなダメージを洗い流すため。
 万全の状態を整えて、仲間たちの憂いを消し去るのだと。
「さあ、決着といこうか」
「みんなー、頑張って!」
 メーリスも爆破スイッチをポチッと押し、前衛陣の背後でカラフルな爆発を巻き起こした。
 高まりゆく力を感じながら、鳴海はメーリスを一瞥。小さく頭を下げた後、銃を右手に持ち替えた。
「指一本でいい……この一瞬は、あの頃の俺に……!」
 高まりゆく力に誘われ、爆煙の中心に銃口を突きつける。
 仲間たちの音を消し、風の木々のざわめきを消し、心音のみが聞こえる世界に自分を置き、ただただ瞳を細めていく。
 指先には、黒い炎のゆらめきが。
 弾丸が飛び出す破裂音すらも遠くに聞こえる世界の中、弾丸は真っ直ぐに爆煙の中心へと向かっていく。
 鳴海が銃を構えてから大妖精を撃ち抜くまで、一秒にも満たなかった。
 体の中心を穿たれた大妖精は、足元をふらつかせながら爆煙の外側へと脱出した。
 次の刹那には、影がさす。
 瞬く度に位置を変え。
 そのたびに大妖精は右へ、左へとふらついた。
 果てには蹴り倒されたかのように、膝をついていく。
 影は、泉は背後に立ったまま、告げた。
「夢は夢に帰る時間。あなたに告げます、終焉を」
「んじゃ、決めるぜ!」
 真紅の炎が揺らめいた。
 七喜が紡ぐ言葉に誘われ、巨大な妖狐を形作った。
「――起きろ妖狐! 叩き潰せ!」
 吼えるかのように天を見上げた後、炎の妖狐は大妖精のもとへと走り寄る。
 放つは、巨大な尾の一撃。
 叩き潰された大妖精は、地面に埋もれ動きを止めた。
 炎の妖狐が消える頃には光の粒子へと変わり、いずこかへと飛んでいき……。
「よっしゃ!」
 勝利を知り、七喜はガッツポーズを決めていく。
 仲間たちに、戦いの終わりを知らせていく……。

●未来への一歩は自分の足で
 各々の治療は道中でもできるから、今は戦場……森の修復が最優先。
 あるべき姿へと整えた上で、鳴海は森の奥へ……大妖精が棲んでいるという物語の舞台がある泉の方角へと視線を向けていく。
「どうせだ、この先の泉っての見てから帰るかね」
 その前に……と、イーリスが腕を引っ張った。
 クロコが頷き、森の入口の方角へと向き直る。
「まずは女の子を保護してから、ですね」
 ケルベロスたちは希望者を募り、女の子の保護へと向かった。
 森の入口に、大樹を背にする形で眠っていた女の子。ケルベロスたちが見守る中、涼し気な風にくすぐられるようにして目を覚ました。
 状況が理解できないのか、キョロキョロと周囲を見回していく女の子。
 簡単な説明を行う、その前に……と、クロコが問いかけていく。
「あなたは、こんな所で何をしていたんですか?」
「あ、えっと……」
 女の子は語る。
 未来を視ることができる大妖精を探していたと。
 クロコは女の子を真っ直ぐに見つめたまま、表情を若干硬くした。
「聞いて下さい。その妖精は、未来を占う代わりに大切なものを……命を奪ってしまう存在でした」
「え……」
 大妖精の物語。
 大切なものを奪う代わりに未来を占う物語。
 正確に語るならば大切な命を奪い、死の間際に死の未来を伝えるという物語。
「それに、森は危険な所。女の子一人で、近づくような場所ではありませんよ」
「……」
 女の子が、悲しげに視線を落としていく。
 唇を、小さく震わせ始めていく。
 だから、泉は優しく肩を叩いた。
「やっぱり、未来を知りたかったのかな?」
「……うん」
 小さく頷いていく女の子。
 けど……と、泉は続けていく。
「未来は自分で切り開かないと、かな?」
 あるいは、自分に言い聞かせるかのように……。
「……」
 視線を落としたまま、少女は沈黙し続けた。
「……あの」
 再び口を開いたのは、風の動きが変わった後。木々のざわめきが、少しだけ優しく感じられるようになった時。
「それなら、その、いっしょについてきて。ようせいさんがいなくても……みてみたい、いずみを。そうすれば、わかることもあるのかな、って……」
 顔を上げ、瞳は揺れていたけれど、その奥に宿っていた光は力強い。
 力強く頷き、鳴海が泉の方角へと体を向けた。
 泉とクロコは女の子の手を取って、歩調を合わせて歩き出す。
 女の子の新年度に向けた大事な一歩が、幸いなものであるように……。

作者:飛翔優 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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