載霊機ドレッドノートの戦い~弩級戦線

作者:黄秦


「この前の弩級兵装回収阻止に向かった皆、危険な任務を本当にお疲れ様。
 皆の活躍のおかげで、弩級兵装の2つを完全に壊して、残りの『弩級超頭脳神経伝達ユニット』と『弩級外燃機関エンジン』にも大きなダメージを与えることが出来たの。
 完全破壊に至らなかった2つは、コマンダー・レジーナと共に敵方に回収されて、どうやら載霊機ドレッドノートに転送されたみたい。
 このことは、ドレッドノートの調査を行っていたバアルルゥルゥ・アンテルエリ(ヴィラン・e34832)さん達6人から報告があったの。
 どうやら指揮官型ダモクレス達の目的は、載霊機ドレッドノートに弩級兵装を組み込むことで再び起動させる事みたい。
 弩級ダモクレスの代名詞でもある『ドレッドノート』が動き出すような事があったら、人類はケルベロス・ウォーを発動しないと対抗出来ないの!
 弩級兵装にこれだけのダメージを与えているんだから、載霊機ドレッドノートがすぐに動き出す事はないと思うの。
 でも、コマンダー・レジーナが『弩級超頭脳神経伝達ユニット』を修復することが出来るから、敵に時間を与えてしまえば、ドレッドノートは本来の力を取り戻しちゃう。

 今、指揮官型ダモクレス6体は、全力で載霊機ドレッドノートを守って、復活させようと動き出しているの。
 そこで、載霊機ドレッドノートへの強襲作戦なの。
 ケルベロス・ウォーでの決戦の前に、載霊機ドレッドノートを守るダモクレス達にどの程度の打撃を与えられるかが、今後の戦いの行方を決めることになりそうなの」


 現在、載霊機ドレッドノートは、ダモクレス軍団によって制圧されていると安月・更紗は言う。
 ドレッドノートの周辺は、マザー・アイリスの量産型ダモクレスによって封鎖されており、強固な防御陣地となっている。
 地上から攻め込むのはほぼ不可能なため、ヘリオンによる強襲降下作戦を行う事となった。
 しかし、踏破王クビアラが、ドレッドノートの周囲に『ヘリオン撃破用の砲台』を設置し、強力なダモクレスがその守備と砲台の操作を行っている。
 これがある限り、ヘリオンが大きな危険にさらされるだけでなく、作戦終了後に撤退するケルベロスを回収する事も難しくなるため、まずはこの砲台を破壊しなくてはならない。
 そこで、砲台直上まで突入したヘリオンからケルベロスを降下、空中でヘリオンへの攻撃を防ぎつつ、砲台を守るダモクレスを撃破し、砲台を破壊。へリオンはそのまま離脱する。
 成功すれば、載霊機ドレッドノートへの潜入が可能になるだろう。

 潜入後の攻撃目標は4つ。
 1つ目は、ドレッドノートの歩行ユニットの修復を行っている、ジュモー・エレクトリシアンとその配下の撃破。
 『弩級高機動飛行ウィング』が完全破壊され、失われた飛行能力の代わりに、二足歩行システムを修復しているらしい。
 この部隊を攻撃する事で、ドレッドノートの動きを阻害する事ができるだろう。

 2つ目は、ディザスター・キングが守る『弩級外燃機関エンジン』。
 ディザスター・キングの軍団は、自らがエンジンの部品として連結する事でその出力を確保しようと試みている。
 『弩級外燃機関エンジン』を完全に止める事はできないが、彼らを撃破する事で、ドレッドノートの出力を引き下げる事ができるだろう。

 3つ目の攻撃目標は、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の修復を行っている、コマンダー・レジーナとその軍団。
 コマンダー・レジーナは、配下のダモクレスを護衛として、ユニットの修復作業を行っている。
 修復が成功した場合、ドレッドノートはその巨体を自由に動かし、ケルベロス達に攻撃を仕掛ける事が可能とななるため、危険度は一層大きくなる。

 最後の目標は、弩級兵装回収作戦で動きのなかった指揮官型ダモクレス、イマジネイターとなる。
 イマジネイターはドレッドノートと一つとなり、自らがその意志となるべく融合しようとしているようだ。
 現時点での危険度は低いが、万が一、ケルベロス・ウォーに敗北するような事があれば、自ら意志を持つ弩級ダモクレスが出現する事になる為、阻止できるならばしておきたい。

「今回の作戦は、重要な拠点をピンポイントで攻撃する奇襲作戦なの。作戦が終わったら、素早く撤退しないと、敵の勢力圏に取り残されることになるので注意なの。
 載霊機ドレッドノートと戦うには、ケルベロス・ウォーを発動する必要があるのね。
 ケルベロス・ウォーでの決戦を有利に進める為にも、今回の載霊機ドレッドノートへの攻撃は成功させないとなの。
 難しい作戦だけど、皆ならきっと大丈夫って信じてる。
 どうぞよろしくお願いします、なの!」
 そう話を締めくくった更紗は、深く一礼する。
 彼女にも覚悟の表情があった。


参加者
祭礼・静葉(サイレン堂店主・e00092)
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
五継・うつぎ(ブランクガール・e00485)
アイリ・ラピスティア(宵桜の刀剣士・e00717)
レーベン・ヴァルター(エグゼクター・e01734)
ヴェスパー・セブンスター(宵の明星・e01802)
ステイン・カツオ(クソメイド・e04948)
ゼファー・ルヴォイド(孤高の西風・e05538)

■リプレイ


 載霊機ドレッドノートの起動を阻止せんと、挑むケルベロスたち。
 砲台は沈黙し、ヘリオンより降下したケルベロスらは各々の戦場へと馳けていく。
 指揮官の一人イマジネイターは、自らがドレッドノートと融合し、その『意志』となって起動させようとしていた。
 それを阻止するには、イマジネイターを守護するダモクレス軍団を総て撃破しなくてはならない。
 守護者たちと、ケルベロスの戦端が開こうとしていた。

 ヴェスパー・セブンスター(宵の明星・e01802)は、かつての姉妹機であり、今はイマジネイターの配下となったシン・オブ・プライドを探していた。
 そんな彼女の傍へ、祭礼・静葉(サイレン堂店主・e00092)が歩み寄る。
「絡んだのも何かの縁。セブンスターの因縁の相手全滅といこうか!」
 ……まあそこまでは流石に無理だろうけど、と笑って見せる。足元に纏わりついたミミック、『シカクケイ』が蹴飛ばされて転がった。
「あまり無茶はなさらぬように。この作戦のあとも本命が控えておりますし」
 ステイン・カツオ(クソメイド・e04948)は、あわよくば、イマジネイターもぶっ壊そうという勢いだ。

「大きい……っ」
 アイリ・ラピスティア(宵桜の刀剣士・e00717)はドレッドノートの巨大さに息をのむ。かつて倒した巨大ダモクレスなど比ではない。
(「弩級の名の元になったドレッドノートか。お目にかかれるのは光栄な話だな」)
 レーベン・ヴァルター(エグゼクター・e01734)は、戦場を見ていた。
(「来たる決戦を優位に進めるためにも、少しは役に立っておくか」)


 何の工夫もなく、それは待ちかまえていた。
「出ましたねダモクレ、ス……?」
 五継・うつぎ(ブランクガール・e00485)が首をかしげるのも無理はない。
 本体こそ機械だが、その背からはいくつもの攻性植物が生え、ダモクレスと言うより、攻性植物を人型の装甲に押し込めたような風体だ。
「……シン・オブ・グラトニィ……」
 ヴェスパーが呻く。
「あれが、べすぱーの敵、か?」
 伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)が指さして問うた。
「あれは『暴食』シン・オブ・グラトニィ。……はい、敵であります!」
「ん、わかった。どかーんって、やる」
 勇名の持つケルベロスチェインが伸びる。鎖の猟犬がシン・オブ・グラトニィに襲い掛かり、絡めとった。
 『暴食』と呼ばれたダモクレスは、低く不気味な唸り声を上げた。
 いくつもの触手が飛び出して蠢き、その先端が巨大なハエトリグサに似た形状に代わる。長く鋭い歯の生えた顎を広げ、一斉に襲いかかってきた。
「『ベルゼブブの叢り』であります!」
 攻性植物を複数捕食形態にして襲いかからせるグラビティだという。無数の牙で肉を貪り、毒を流し込むのだ。
 ゼファー・ルヴォイド(孤高の西風・e05538)は飛び出すと『斬甲刀・狂牙』を抜いて、斬り払う。
 その攻撃をすり抜けたハエトリグサの攻撃は、うつぎが受け止めた。長い牙が食い込み、滴る毒がうつぎを冒す。
「誘導弾。鬼さんこちら、です」
 うつぎは派手なマズルフラッシュと爆発を引き起こす砲弾で、シン・オブ・グラトニィの注意を引きつける。
「……問題ありません。私の事は気にせずやっちゃってください」
 そうしておいて、いたって普通の声音で言うのだった。
 シン・オブ・グラトニィは、唸り、吠え猛るばかりで言葉を話さない。『暴食』を冠するモノは、飢餓のあまりに、理性を失っているのだろうか。
 ゼファーの仕掛けたブレイブマインが炸裂した。ステインは幻影を纏わせて、植物の気を逸らせて追撃をかわす。
 纏わる木の葉は、レーベンの魔法の護りだ。
 シカクケイに護りの指示をだし、静葉自身は禁縄禁縛呪を展開する。
 『御業』がシン・オブ・グラトニィを鷲掴みにしたところへ、アイリは影から飛び出してにナイフで滅多切りにした。
「……いっぱい、どかーんって、やる。ぼくのしごと。……じゃすてぃすー」
 勇名は凍結光線を発射する。攻性植物の体液まで瞬時に凍らせ、破壊した。
 シン・オブ・グラトニィは肩のアームドフォートを起動した。狂ったように吠え立て、焼夷弾をばらまく。それはゼファーらを炎の渦に巻き込んだ。
 捕食形態の攻性植物が、大きく顎を開いて襲いくるそこへ、レーベンは表情一つ変えず、的確に連射を叩き込む。弾丸をたらふく食わされ、ハエトリグサは吹き飛んだ。
「皆様方、ガンバガンバ!」
 ステインはでっかく『防衛』と書いた符を貼り付けては防御を高めていく。
「『暴食』!」
 ヴェスパーは叫ぶ。シン・オブ・グラトニィは振り向いて彼女を……多分、見たのだろう。だが、今の『暴食』には、何もかもがが食らうものにしか映らないようだった。
 グラトニィの攻性植物が背後から襲い掛かる。それに気付いたゼファーが辛うじて体で止めた。
 ヴェスパーは二振りの斬霊刀を抜き放ち走る。
 姿勢を低く踏み込み、セブンスソードで掻っ捌ばく。がら空きになったシン・オブ・グラトニィの胴に、もう一つの斬霊刀を突き込み突き通した。
 柄まで通した刀身を引き抜けば、回路とも植物の根ともつかない紐状のモノが絡みつき、引きずり出された。
 斬り裂いた箇所から、機械が、コードが、木の根が茎が蔓が雪崩のように噴き出した。
 中身を全て撒き散らし、がらん、ごろんと空虚な音を立てて転がったそれは、がらんどうの鉄塊であった。


(「親類と敵対するってどんな気持ちなんだろう」)
 アイリが、それをゆっくり考える暇はなかった。
 新たな敵が現れたからだ。

「ほほほ、やっぱり使えませんわね『暴食』」
 鈴を転がすようなきれいな声で、言い放つ。
 漆黒に星の瞬きを散らす甲冑を纏ったダモクレスは、仲間であった鉄塊を踏みにじった。


 血が逆流するような、激しい熱がヴェスパーの中で渦巻いた。
「……シン・オブ・プライド」
 全ての感情が入り乱れて、やっとそれを口にする。当のシン・オブ・プライドは、名を呼ばれたことが不思議なようだった。
「あれは? あれも、べすぱーの敵、か?」
 勇名が尋ねる。敵、と言うその一文字はさっきよりもなお響きが重い。
「潰したい奴がいるから潰す……こんなに分かりやすい行動原理はねえぜ」
 ゼファーは少し苦しげに息を切らせていた。攻撃を受け続けた傷が回復していないのだ。

「おほほほほ! 下郎共の雑音など耳を傾けるにも値しませんわ!」
 話す価値もないと断じて、シン・オブ・プライドは鋼の翼を大きく広げた。
 黒鎧の星は輝きを増し、鋼翼まで広がった。
「今だけは私を見上げる事を許して差し上げます。我が煌めきをその腐った眼に焼き付けて……死になさいっ!」
 収束した瞬きは無数の銀の光線となり流星群のように飛び交い、ケルベロス達を襲った。命中すれば、それは肉体を焼くだけでなく痺れさせた。
「ああっもう! やりすぎですわよ!」
 ステインはいくつも『防衛』の呪符を投げる。それだけでは追い付かず、うつぎは自らをオーラで癒した。
 ヴェスパーはフォートレスキャノンを掃射し、シン・オブ・プライドの動きを止め、後退させた。
「下郎ごときに不意打ちとは、芸風が変わったでありますな『傲慢』。イマジネイターの配下になったせいでありますか?」
 名の通りプライドの塊である彼女が、なぜイマジネイターの配下となっているのか、興味があった。
「下郎は本当に浅はかですわね。私はイマジネイターがどうしても、と頼むから、仕方なく! 手を貸して差し上げているだけですわ」
 ――嘘だッ。
 全員の、正直な感想であった。
 とは言え『傲慢』であるところの彼女が手を貸してよいと思うくらいには、イマジネイターはその心を掌握しているという事でもある。
 今、シン・オブ・プライドの心に存在するのは、イマジネイターだけなのかもしれない。
(「……だとしても、ルイ……否、シン・オブ・プライドは、ヴェスパーの双子の姉とも言える存在であります」)
 勇名はアームドフォートの主砲を一斉発射するが、ほとんどを弾かれてしまった。
 ステイン、分身の術で抵抗を高める。
「傲慢ねえ……なんにせよ、他人に頼るのもうちょい考えてもいいんじゃねえの?」
「……いえ」
 皆が自分について来てくれたことで、ヴェスパーにとっては充分だ。決着をつけるのは、自分でなければならない。
 うつぎは乙女の幻惑を使用する。
「鬼さんこちら、です」
「ふん、暴食のおバカさんと一緒にしないでくださいな」
 確かにダメージは小さいようだ。しかし、『傲慢』の性質故か、自分より目立ってるっぽいうつぎに目が釘付けであった。
 静葉はまずは禁縄禁縛呪で捕縛を試みる。ダメージは少し入ったようだ。
「しぶといですわね、下郎ども! そんなに欲しいならもっと恵んで差し上げます!」
 再び星が瞬き、鋼翼から数多の光線が放たれる。
「さっきより威力が高いっ!?」
 縦横に奔り、アイリを、うつぎを、ヴェスパーを貫き焼き焦がした。
 ステインは分身の術を使用すれば、静葉も『御業』で守護する。
 より深く斬り刻もうとするシン・オブ・プライドの背で、レーベンの銃弾が爆ぜた。
「闇討ちとは、下郎のやりそうなことですわね!」
 振り返った時は、暗殺者は闇に潜んでいる。それが随分気にさわったのか、悔し気に唇をかむ。
「『宵闇に浮かぶ月の如く。冷たく、鋭く、鮮やかに』 」
 奥義の名は、宵桜・氷月。
 アイリは、凍てつく霊気を纏った刃で銀月のごとき弧を描く。シン・オブ・プライドを確かに切り裂いたはずの斬撃は、何の痛みも齎さなかった。
「……何をしたのかしら?」
 唇をゆがめて嘲るシン・オブ・プライドの顔が、文字通り凍り付いた。切り裂かれた傷口から凍りつき、砕け散った。
「こいつは取っておきだ! 消し飛べッ!!」
 ゼファーの手に収束した螺旋の気が、放たれる。特大の気咬弾に魔力を上乗せして放つ光波がシン・オブ・プライドを貫いた。
「今のはそこそこ効きましてよ……下郎にしてはよくやったと褒めてあげます……」
 美貌が憎悪で歪んでいた。
「だから、お前から殺してあげるッ!」
 シン・オブ・プライドは鋼翼を閉じた。そしてそこに光の粒子を収束すると、それを推進力に変えて、突撃する。
 さながら彗星が激突するかのような一撃を、全ての力を使い切っていたゼファーは、躱しきれずにまともに食らった。
(「ここまで、か……。お前の獲物を確実に仕留めろよ、ヴェスパー」)
 ゼファーは、意識を失った。
「はぁ……はぁ……雑魚のくせにっ」
 怒りに震えるシン・オブ・プライド。しかし。
「……鬱陶しい」
 誰にも聞こえない、小さな呟き。レーベンは地に掌を置き、影の網を放出する。
「きゃああっ」
 影は音もなく地面を伝い、シン・オブ・プライドを捕らえた。黒の甲冑ごと影は侵食し、その動きを封じる。
「かつてこの刃が司った絶望と恐怖、あえて再び振るいましょう」
「えっ!?」
 まるで急に空間から現出したかのように、うつぎはシン・オブ・プライドの眼前に現れた。
 何が起きたのか把握するよりも先に、『空木一片』がその胸に突き立った。ジグザグに変形した刃を力任せに引いて、切り裂く。
 静かに、無慈悲に。なお斬り裂こうとする、うつぎの手に、シン・オブ・プライドの手がそっと置かれた。うつぎは顔を上げ、再び、目が合う。
「……痛くてよ」
 シン・オブ・プライドから、オーラが立ち上る。
 はっとしたうつぎがナイフを引き抜こうとするのを押さえつけ、シン・オブ・プライドのオーラが刃と化して、うつぎを貫いた。
「……っ」
 悲鳴を飲み込む。心配させてはいけないから。
(「私は、力になれましたか?」)

 倒れ伏す、うつぎ。高らかに笑うシン・オブ・プラウド。
 覚悟はとうにできている、つもりだった。
「それが悪事を為すというのならそれを止める義務がヴェスパーにはあるのであります……悲しいことでありますが」
 口に出して、そうと気付いた。
 もうお互いにボロボロだ。どちらも血と泥に塗れ、白も黒もありはしない。
「この世の全ては私のために存在しますのよ!」
 それでも、全ての力を光に変えて輝くシン・オブ・プライドは、明けの明星のようだった。
「いいえ、違う」
 ヴェスパーはセブンスソードを構えて待ち受ける。
 この痛み、切先を鈍らせるこの感覚を自分は何と呼ぶかもう知っている。
 シン・オブ・プライドが眩い光の弾丸と化してヴェスパーへと突撃する。
「『傲慢』。その悪徳ごと……断罪します」
 両者は激突した。全身が砕けるような凄まじい衝撃が走る。光熱が、装甲を溶かし皮膚を焼く。全身で攻撃を受けたヴェスパーは地に叩きつけられた。
 その手に、刀は握られていない。
 ふらつき、ようやくと言った体だが、シン・オブ・プライドはまだ立っていた。
「……べすぱー!」
 勇名は、背を向けたシン・オブ・プライドにケルベロスチェインを投げつける。動きの鈍い彼女に、鎖は易々と絡んで捕縛した。
 レーベンは弾丸をありったけ叩き込む。衝撃にぐらついてもまだ、倒れない。
 静葉が走り、2人の間に割って入った。オウガメタルの拳を振りあげて、気付く。
 ヴェスパーの刀が、シン・オブ・プライドの肩から腹へと刺し貫いていた。
 シン・オブ・プライドは、倒れたヴェスパーをじっと見ていた。その視線がさっきまでの侮蔑に満ちた物とは違うと、静葉は感じる。
 ヴェスパーに斬られた箇所からずるりと裂けて、下半身は立ったまま、両断された胴体だけが仰向けに地に落ちる。
 動きを止めたシン・オブ・プライドは、その瞳に空を映していた。


「ここまでです。引きましょう」
 ステインは意識の無い者もできるだけ癒しの力を振るう。意識がある者たちもギリギリで、これ以上連戦は無理だろう。
 アイリは、意識のないヴェスパーの手をそっと握った。心なしか、安堵したように見える。
「お疲れ様でした」
 静葉は、深手を負ったゼファーとうつぎを労った。

 負傷者を担ぎ、警戒しながら撤退する。レーベンが注意深く戦場を見渡せば、同じく撤退するものあり、遠くにはまだ戦火が上がっているところもあった。
(「それなりに役に立てているならいいが」)
 守護者を総て排除し、イマジネイターを打倒するには戦力が足りていない。
 それでも、2体の強敵を撃破したことは戦果だ。次の戦いを有利に出来るはずだとレーベンは信じる。
 何の気もなく、ドレッドノートの方を見たとき、流石のレーベンもどきりとせずにいられなかった。
 黒い小山の如く横たわるドレッドノートの眼窩に、僅かな光が点った気がしたからだ。
 イマジネイターとの融合が進んでいる証のようで、レーベンは知らず足を速めてしまう。
 戦場を離れるのではなく、次の戦いに備えるために。
 一刻も早く。

作者:黄秦 重傷:五継・うつぎ(記憶者・e00485) ヴェスパー・セブンスター(宵の明星・e01802) ゼファー・ルヴォイド(孤高の西風・e05538) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月14日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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