●えらいぞ
「おー、先の弩級兵装回収作戦は頑張ってくれたなァ、皆えらいぞー」
レプス・リエヴルラパン(レプリカントのヘリオライダー・en0131)は賞賛するように何度も頷き、ケルベロス達と真っ直ぐに視線を交わした。
「お前たちのお陰で弩級兵装の内2つは完全破壊、残る2つにも大ダメージを与える事が出来たぞ」
話しながら片目を瞑った彼は、掌の上に資料を展開しながら言葉を次ぐ。
「だがなあ、ダメージを与えられたとは言え弩級兵装の『弩級超頭脳神経伝達ユニット』、『弩級外燃機関エンジン』と指揮官型ダモクレスの一人、――『コマンダー・レジーナ』が回収されちまっただろ?」
掌の上でくるりくるりと立体映像が回る。
「そいつらが全部『載霊機ドレッドノート』に転送されちまったようでなァ」
弩級兵装を組み込む事でドレッドノートの再起動をしようという、指揮官型ダモクレス達の目論見がラズェ・ストラング(青の迫撃・e25336)達の調査で発覚したとレプスは言う。
「お前たちも知っての通り、ドレッドノートは弩級ダモクレスの代名詞みたいなモンだ。アイツが復活しちまえば、ケルベロス・ウォーを発動しても手こずっちまうだろうな」
ケルベロスたちが弩級兵装に与えたダメージによって、ドレッドノートがすぐに動き出す事は無いだろう。
――しかし。
『弩級超頭脳神経伝達ユニット』を修復可能なレジーナがドレッドノートに居る為、何も手を打たなければドレッドノートは復活してしまうだろう。
「ま、その前にお前たちの出番って訳だ」
来るべきケルベロス・ウォーによる決戦の前に。
ドレッドノートを守るダモクレス達へ強襲先制パンチを食らわしちまえ、とレプスはケルベロス達を見渡してにんまりと笑った。
●さくせんがいよう
「ドレッドノートは、今はダモクレスどもに制圧されているぞ」
掌の上で周辺地図を展開したレプスが空中を指先でタップすると、『マザー・アイリスの軍勢』と『ヘリオン撃破用砲台』と記された赤い模様が地図上に大きく広がった。
「見ての通り。周りはマザー・アイリスの量産型ダモクレス共がガッチリ固めちまっている。それらを相手するには時間も戦力も足りねぇ。それこそ、ケルベロス・ウォーでも発動しなければとても敵わないぞ。――で、その軍勢をまるっと回避する為にヘリオンから直接降下して貰いたいんだが……」
ソレを阻むのは『踏破王クビアラ』によって設置された、強力なダモクレスが守護と操作を行う8台の『ヘリオン撃破用の砲台』だ。
この砲台がある限り、ドレッドノートに直接ヘリオンで降下する作戦は大きな危険にさらされるだけでなく、作戦終了後に撤退するケルベロスを回収する事も難しくなるだろう。
「まずはこの砲台をぶっ壊さない限り、ドレッドノートへの潜入は出来ないぞー」
砲台直上まで突入したヘリオンからケルベロスが降下。そして、ヘリオンはそのまま離脱する作戦を行う。
降下するケルベロスは、空中でヘリオンへの攻撃を防ぎつつ、砲台に取り付き、砲台を守るダモクレスを撃破。それから砲台を破壊する流れとなる。
「……っつってもお前たちのチームに全てをお願いしたい訳じゃない。――お前たちには、目的を定めて行動をして欲しいと思っているぞ」
ドレッドノートに侵入し、指揮官型ダモクレスたちが率いる軍団を撃破する事。
どの行動も全て比較できない程今回の作戦には大切な事である、とレプスは付け足し資料を切り替えた。
「ドレッドノート潜入後の目標は4つだ」
1つ目の攻撃目標は、『ジュモー・エレクトリシアン』とその配下だ。
『弩級高機動飛行ウィング』が完全破壊された為、ドレッドノートは飛行能力を失った。ジュモー達は、その失われた飛行能力の代わりにドレッドノートの二足歩行ユニットの修復を行っている。
この部隊を攻撃する事でドレッドノートの動きの阻害が見込めるだろう。
修復作業の指揮を執っているのはドクターD、智の門番アゾート、ネジクレス、ジュモーの4体だ。
彼らはそれぞれ護衛部隊を引き連れており、ジュモー以外のダモクレスを撃破するには1体につき、ケルベロス3チーム~4チームが必要となるだろう。
そして、ジュモーは腹心の3体の護衛の他に更に3体の護衛ダモクレスを引き連れており、他の3体の倍以上の戦力を投入する必要があると予測されている。
レプスの指先が踊り、立体映像が切り替わった。
2つ目の目標は、『ディザスター・キング』が守る『弩級外燃機関エンジン』である。
ディザスターの軍団は自らが『弩級外燃機関エンジン』の一部となる事で、必要な出力を確保しようとしているようだ。
ドレッドノートが起動されれば、このエンジンから生み出されたエネルギーを利用して数多くの戦闘用ダモクレスが生み出されるだろう。
『弩級外燃機関エンジン』を完全に止める事はできないが。ケルベロス・ウォーを見据え、可能な限り多くのダモクレスを撃破しその出力を弱める必要があるだろう。
3つ目は『コマンダー・レジーナ』とその軍団だ。
レジーナは配下のダモクレスを引き連れ、ドレッドノートの脊髄部にて『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の修復を行っている。
この『弩級超頭脳神経伝達ユニット』が修復されてしまうとドレッドノート自身が自らを制御できるようになり、その巨体を自由に動かす事ができるようになってしまう。
ドレッドノートのパンチは殺害した人間のグラビティを奪う能力がある。
この能力をもったまま活動を続ければ、ドレッドノートは力を獲得しつづける事となるだろう。
「しかもドレッドノートパンチは地面に大穴をブチあけるくらいの力強さだ。――できるだけ阻止してぇ所だな」
このシステムを破壊する為にはコマンダー・レジーナを撃破する必要があり、それにはドレッドノートの脊髄部への集中攻撃が必要だ。
さて、と肩を竦めたレプスの指先が空中を再びタップする。
最後の4つ目。
弩級兵装回収作戦でも動きのなかった指揮官型ダモクレス、『イマジネイター』。
イマジネイターは自らがドレッドノートの意志となるべく、ドレッドノートと融合しようとしている。
イマジネイターは、現時点では危険度も低く優先度は低い。しかし、融合後にケルベロス・ウォーでも撃破が出来なければ自ら意志を持つ弩級ダモクレスが暴れまわる事になってしまう。
融合中であるイマジネイターを撃破する事は難しくないが、イマジネイターを守る配下を全て排除しなくてはならない。
イマジネイター軍団はその特性故に個々の連携が取れない為、敵の数が多くとも1体ずつ相手取って戦闘を仕掛ける事が可能とはいえ、強敵のダモクレスを相手にして連戦で勝利するのは体力が持たないであろう。
その為、イマジネイターの撃破を目指す場合は相応の戦力を投入する必要があると予想されている。
一通り説明を終えたレプスは、細く息を吐き資料を閉じた。
「好き勝手に暴れまわってやがるダモクレスたちにケルベロス・ウォーを仕掛ける前に、いっちょコッチからもブチかましてやろうぜ」
後は俺もヘリオンも撃破はされたくねぇからな、頼んだぜと付け足して。
レプスはケルベロス達への信頼に瞳を揺らし、瞳を細めた。
参加者 | |
---|---|
ティクリコティク・キロ(リトルガンメイジ・e00128) |
ヴィンチェンツォ・ドール(ダブルファング・e01128) |
狗上・士浪(天狼・e01564) |
エルネスタ・クロイツァー(下着屋の小さな夢魔・e02216) |
新条・あかり(点灯夫・e04291) |
月鎮・縒(迷える仔猫は爪を隠す・e05300) |
フィー・フリューア(赤い救急箱・e05301) |
湯島・美緒(サキュバスのミュージックファイター・e06659) |
●空を駆ける
「もうすぐ、降下ポイントだね、……大きいなぁ」
「大層なものだ、だが難攻と言っても不落ではあるまいさ」
「うん。……怖いけど、ここで頑張らなきゃもっと怖いことになるもんね」
窓の外に広がるドレッドノートを見下ろす、ヴィンチェンツォ・ドール(ダブルファング・e01128)と、ファミリアの黒猫チロちゃんを抱きしめた月鎮・縒(迷える仔猫は爪を隠す・e05300)は言葉を交わす。
「ああ、失敗の許されぬ先陣だ。後続の為にも、任務は確実に……――レプス!」
相槌を打ちかけたヴィンチェンツォは、その赤い瞳を鋭く細めて声を上げた。
歪む空気。
窓の外には砲台より解き放たれた弾が、ヘリオンに食らいつかんと迫っている。
「……ッち、早ェな! ――捕まってろ、揺れるぞ!」
眉根を顰めたレプスが吠えた。
身体が転がりそうな程、機体を傾かせるが努力も虚しく。
ヘリオンの腹を砲が掠め、轟音と衝撃が皆を襲う。
「スマン、当たっちまった、……皆大丈夫か?」
軋む音、割れる窓、焦げた臭いが機内に広がる。
体勢をすぐに立て直したフィー・フリューア(赤い救急箱・e05301)が手早く魔術切開を展開し、ヘリオンに癒しを与え仲間を見渡す。
「平気平気ー、手術ーっと。……ヘリオンを治すのは初めてだけど、こんなものかな?」
同じく、癒しの霧をヘリオンに与えていた湯島・美緒(サキュバスのミュージックファイター・e06659)は眉根を寄せ呟く。
「掠めただけでこのダメージ……、連続で当たると墜落もありえますね」
「でも、次が打たれる前に降りられそーだぞ」
バトルガントレットを引き絞り、狗上・士浪(天狼・e01564)は喉を鳴らす。
更に荒く、速くなる飛行。飛ばすぞとレプスが言ったヘリオンは、更に勢いを増して降下予定ポイントまで一気に駆けた。
ティクリコティク・キロ(リトルガンメイジ・e00128)が扉を開け放てば、ヘリオンを見据える砲台が真下に見える。
「さぁ、仕事だ。ベストな仕事をしようか!」
「はーい、おしごとはきっちりとねー」
黒猫のきぐるみに身を包んだエルネスタ・クロイツァー(下着屋の小さな夢魔・e02216)も、ミシンハンドを掲げてお返事だ。
「うん、行こう」
エルフの耳をピンと立てた新条・あかり(点灯夫・e04291)は頷き、左手の指を覆うように右手を重ねた。
「ここを壊して、後から来る皆には先に行って貰わなきゃいけないからね」
先に進んで欲しい彼の、緑の瞳が頭に過る。――必ず、必ず砲台は破壊しよう。
「ではお先に!」
カーボウイハットを片手で抑え、獣の尾を風にはためかせて宣言したティクリコティクは、真っ先に空へと滑り込む。
自由落下。
風を切り、重力に引かれ落ちる。
見える地上はまだまだ遠く。
「はい、地上にてまたお会いしましょう」
気負わず、……焦らず。何時も通りに。
まるで家の外に足を踏み出すかのように、大きく深呼吸をした美緒も跳ねる。
「う、うん、大丈夫、華麗な猫の着地術を見せてあげる! ――危険なとこまでありがと、あとは任せてね!」
それに続いた縒が小さな指輪にグラビティを展開させ、ヘリオンにマインドシールドを展開した、瞬間。
空気がビリビリと震え、砲台より再び砲が吐き出された。
「――狙い通りになんて、させるもんかっ!」
目を見開いて縒は叫び、空へとその身を投げ出す。弾ける閃光が身体を穿き、内蔵から焼かれるような痛み。
「……っぐぅ!」
両手を身体の前で交わした縒が、その身で砲よりヘリオンを庇う。
傷ついた彼女を追うように、同時にあかりとフィーは空へと飛んだ。
「良く庇えたね。ありがと、縒さん」
「――こんなもの、直ぐに治すよ! ウィッチドクターの矜持、見せてあげる!」
即座にあかりとフィーは言葉と回復を重ねる。
薬剤の雨と、叩き込まれる医療魔術。
「ん、もう大丈夫!」
痛みに歪んだ表情を覆うように、縒はにーっと笑ってみせた。
――仲間がいれば、フィーちゃんがいれば。絶対に癒してくれるから。
こんな怪我なんとも無い、何も怖くなんて無いのだから!
●紙雀
「直下降下からの戦いだなんて、 心が踊るじゃないか」
スーツの裾を遊ばせたヴィンチェンツォの鋭い視線は、既に敵を捉えている。
――踏破王クビアラ軍団が一人、カミスズメ。
「せんて、いかせてもらいまーす。――みたまさん、おねがい!」
ヘリオンから身を乗り出したエルネスタが、黒猫さんの尾を風に揺らしながら地上を狙う。
細めた瞳で睨め付ける、巨大な敵。
重ねる形でヴィチェンツォのリボルバー銃と、ティクリコティクのシルバースターより弾丸が放たれる。
「ははっ、こーんなに大きな的に当て損ねるなんて、よっぽど腕が良いんだな!」
父親仕込みの罵倒術も、ついでに叩きつけたティクリコティク。
応えの代わりに響いたのは、空気を切り裂き震わせる砲撃音。
叩きつけられる攻撃に煽られたかのように、空中を舞うケルベロスたちに向けて砲弾が一直線に駆ける。
「させま、せんっ!」
喉を鳴らし、空を蹴った美緒。
「……ひ、ぐ……っ!」
構えたゲシュタルトグレイブで砲を裂くも、叩きつけられた痛みに焼かれ美緒は奥歯を噛み締めた。
「……でも」
ヘリオンが離脱し遠ざかる音を感じ、彼女は口許を柔らかく笑みに持ち上げる。
例え失敗が許されない作戦でも、何時も通り気負わず守れた。
美緒から膨れ上がる御業は鎧と化し、彼女を癒し守る。
自由落下。
風を切り、重力は身体を地上へと引き寄せる。
臨む地上までは、後もう少し。
「――オラァッ!」
気合一閃。
直接砲台に気咬弾を叩き込んだ士浪は、砲台を蹴り上げて地上へと着地する。
「露払い上等、後の連中の為にきっちりとしとかねぇとな」
砲台を操作していたカミスズメと、視線を交す士浪。
「さぁて、そのあぶねー玩具は解体処分といこうじゃねぇか」
鉄と鉄が擦れるような鳴き声を上げたカミスズメ。
「ついでにテメェもな、機械人形」
白い機械の鳥は巨大な尾羽根を軋ませて、砲台を守るように陣取り羽根を広げ。士浪を排除せんと、風を切って迫りくる。
「……ボクらの相手はお前か」
落下の勢いで砲台を蹴り上げ、士浪を庇う形でカミスズメの翼の上に着地したティクリコティク。
「時間外労働お疲れさん、労いに来たぜ?」
そしてティクリコティクは口端を持ち上げて笑い。バランスを崩したカミスズメの刃のような翼に裂かれながらも、そのままカミスズメの腹に銃口を押し付けて炸裂させる。
軋むような鳴き声を立て、カミスズメは身を捩って彼を薙ぎ転がした。
「ティクリコティクさん!」
白衣をはためかせて着地したあかりは、希望の名を託したオウガメタルを膨れ上がらせ、弾き飛ばされた彼と前衛に癒しと加護を与える。
ギィと鳴いたカミスズメが間合いを取ろうとした、その瞬間。
丁度、空より舞い降りたヴィンチェンツォ。足元にはカミスズメの翼。
落ちた先が針山だったようなものだ。
「Stronzo! やってやろうじゃないか」
小さく悪態をついた彼は空中で身を捩り。硬い羽根を避けてグラビティの乗った拳銃の台尻でカミスズメの頭を殴りつけると、その勢いで旋回した。
「Ciao、Inoltre!」
空中で回転したヴィンチェンツォは踵でカミスズメの首筋を蹴り上げ、反転する。
「縒ちゃんはシールドを!」
「おっけー、フィーちゃん!」
縒は加護を。フィーが癒しを重ねると同時に、美緒は地を蹴って飛び込み稲妻めいた突きを繰り出した。
巨大な翼が風を掻きカミスズメはひらりと身と躱すが、代わって間合いを詰めたエルネスタが巨大なハンドミシンが振りかぶる。
「こっちもみてよねー!」
黒猫のきぐるみ姿のエルネスタが叩きつけたミシンから霊力が溢れ、展開した尾羽根とギチギチと噛み合う。
霊力を断ち切るようにその身を振るったカミスズメの懐へと飛び込んだ士浪は、電光石火の蹴りを叩きつけた。
「硬ぇな。焼いても煮ても喰えそうにもない」
ビリビリと痺れる足先。
一筋縄では倒れてくれそうになさそうだと、士浪は赤い瞳を揺らした。
●神雀
長いエルフの耳を彩るパールビーズ。
風に花と葉が揺れる。
左手をぎゅっと握り込んだあかりは、仲間たちを見渡した。
ダメージは蓄積しているとは言え、倒れそうな者は居ない。そして敵も疲労こそ見えぬが、引きずった羽根は蓄積したダメージの現れであろう。
揺れる金色の瞳が、まっすぐに敵を見据える。
「そろそろ壊れても良いよ」
「全くだ」
突進しようと風を切った鳥に向かい、低く構えたあかり。空薬莢を転がし、手早くリロードしたヴィンチェンツォが真っ直ぐに銃を構えた。
放たれた弾は、カミスズメの顔面を叩く。
怯んだかのように進路を歪めたカミスズメとすれ違いざまに、あかりは砲の形に変形させたドラゴニックハンマーを横薙ぎに叩き込み。
インパクトと同時に噴出された竜砲弾は、機械鳥の尾羽根を爆ぜさせる。
「――只管に喰らい尽くせッ!」
漲るグラビティ・チェイン。
叩く、弾く、殴る、殴る、殴る、殴る。
勢いを失ったカミスズメに跳躍で取り付き、幾度も叩きつける士浪のラッシュ。
うっとおしそうに頭を揺すったカミスズメが身を捩り薙ぎ払い、その風圧に煽られ引き剥がされた士浪は、受け身から地を転がる。
「チロちゃん!」
勢いを殺さぬように間髪いれず。縒の呼びかけにロッドが解け、赤いリボンを揺らした黒猫が駆けた。
「うちらが砲台を壊さないと、皆が進めないんだ。――皆の邪魔はさせない、よ!」
「そうそう、砲台破壊はこの後の突入班が揃う絶対条件だもんねぇ。此処が正念場ってやつ?」
赤ずきんを揺らしてフィーはにんまり笑って見せる。余裕は余りないのだけれど。ぎゅうと握りしめたロッドに深紅の光が脈打つ。
想い描く結末は――もうその掌の中に。
幻が描き出す小さな人形や、動物達のオーケストラ。絵本の中のような幸いの光景。
指揮棒のようにロッドを奮ったフィーから、仲間たちに癒しが与えられる。
「縒ちゃんの守備があって僕の治癒がある、この連携はそう崩させないよ!」
黒猫を薙ぎ払い、大きく羽根を広げた機械の鳥が一瞬で距離を詰め飛ぶ。
狙いは小さな身体、エルネスタだ。
彼女の前と鳥の間に間に滑り込んだティクリコティクはシルバースターの弾丸を全て叩き込んでやるが、機械鳥の動きは止まらない。
「……ぐ、ぅ、うっ!」
その嘴に捕らえられ、万力の如く締め上げられるティクリコティクの身体。
「やめなさいっ! ――速弾きは激しいだけじゃないんです!」
「キロくんをはなして! おねがい、みたまさん!」
美緒が吠えるように鳥を睨めつけ、バイオレンスギターを弾き。エルネスタの御霊を纏った巨大なミシン針が吐き出される。
同時にティクリコティクが、自由にならぬ身体を捩った。
空薬莢が彼の手元から転げ、その瞬間に服から零れ落ちたスピードローダーを蹴り上げて手元の銃へと叩き込む。
ギターから生まれた衝撃波と叩きつけられるミシン針が派手な音を立て、銀色のパーツを弾き飛ばした。
「……くそ喰らえだっ!」
衝撃に少しだけ緩んだ嘴。
更に腕を押し込んだティクリコティクは、カミスズメの喉奥に向かってリロードしたばかりの弾を炸裂させる!
勢い良く吐き出された彼は、地を跳ね転がった。
「――Numero.2 Tensione Dinamica.」
雷神の哮り。
ヴィンチェンツォの白銀の光を放つ弾丸はカミスズメを捕らえ、磁界の檻に押し込む。
「――っ、らああああああ!」
「はあっ!」
左右から迫るのは、士浪とあかりの2本のドラゴニックハンマーだ。
もう動く事もままならぬカミスズメを同時に叩きつけ、破砕する一撃。
声を漏らす事もできずに崩れ落ちた鳥は、壊れたパーツから紫電を弾かせ、引きちぎれたコードは繋がる事はもう無い。
「――Addio」
動かなくなったカミスズメを見下ろし、ヴィンチェンツォはシガーケースから一本煙草を取り出した。
弔いに、炎を灯して。
エルネスタが、転がったままのティクリコティクに手を伸ばす。
「だいじょーぶ? なにかちぎれてたりしないー?」
「何とか、繋がっているみたいですよ」
「じゃあだいじょーぶだねー」
転がったカウボーイハットを被り直したティクリコティクは、エルネスタの手を取って立ち上がる。
「じゃあ、あとはほうだいをこわすだけだねー」
「……はい!」
「ではもう一仕事、ですね」
疲れから座り込みそうになる身体を何とか留まらせ、美緒は肩を竦めて砲台を見上げた。
●戦いの始まりの終わり
「あー、スゲーつかれた……」
「はい、……疲れましたけれど、これで皆さんが前に進めます……よね」
肉体を酷使する戦い方をしていた士浪は、ダルげに頭をガリガリと掻き。美緒がへにゃりと笑って回復を重ねる。
壊れた砲台の残骸から、縒がぴょこりと顔を覗かせた。
「フィーちゃん、よろしくー」
「おっけー、よいしょ、っとっ!」
フィーが信号弾を引くと、緑色の煙が空に放たれる。
「何とかなったねぇ」
「えっへへー、うちらが組んだら無敵だもんね!」
「……そうだねぇ」
笑う縒と顔を見合わせて、フィーも笑う。
「おー、ほかのはんもたおせたみたいだねー」
「次は、本丸ですね」
黒猫の着ぐるみの尻尾をぴょこりと揺らしたエルネスタが、両掌を掲げて空を見上げ。
「最良の結果が残せれば良いのですが……」
「だいじょーぶだよ、けるべろすつよいからねー」
座ったままのティクリコティクが煙の数を指折り数え、エルネスタが笑った。
「仕事は果たした、――あとは仲間達に全てを託す」
ヴィンチェンツォの呟き。
遠くの空には幾つもの緑の煙に混じり、ヘリオンの姿が見え始めていた。
「うん、……信じてるからね」
左手薬指のお守り。
――指輪を撫で。あかりは迎えのヘリオンが来るまで、ずっと空を見つめていた。
作者:絲上ゆいこ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年4月14日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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