載霊機ドレッドノートの戦い~明日へと繋がる道

作者:秋月きり

「みんな。ダモクレス達の次の狙いが判ったわ」
 ヘリポートに集ったケルベロス達に告げるリーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)の声は、何処か弾んでいるようにも聞こえた。
「『載霊機ドレッドノート』で間違いないようね」
 それは、マイ・カスタム(重モビルクノイチ・e00399)を始めとした6人のケルベロス達の調査で判明したこと。ダモクレス達によって回収された『弩級超頭脳神経伝達ユニット』と『弩級外燃機関エンジン』はそこに運び込まれたと言うのだ。
「目的はドレッドノートに弩級兵装を組み込むことでしょうね」
 だが、それに関してはケルベロス達の活躍によって、完全な形での回収を阻止したことが幸いしている。2つの弩級兵装を完全破壊したことも大きな影響を与えているだろう。
「とは言っても、時間の問題だけど」
 現在、修復作業が急ピッチで進められているようだ。敵に時間を与えてしまえば、ドレッドノートの完全復活は想像に難く無かった。
「だから、その強襲作戦が立案されたわ」
 載霊機ドレッドノートへの強襲作戦。来るべきケルベロス・ウォーによる決戦の前に、載霊機ドレッドノートを守るダモクレス達に、どの程度の打撃を与えられるかが、今後の戦いの趨勢を占うことになるだろう。
「無論、敵も無策じゃない。6体の指揮官型ダモクレスも全力を以ってドレッドノートの復活を行おうとしている」
 おそらく、本作戦がダモクレスとの戦いの分水嶺となる。興奮を隠しきれず、リーシャはケルベロス達にそれを告げる。
「ドレッドノートの現状だけど、ダモクレス達によって制圧されているわ」
 その周囲をマザー・アイリス率いる量産型ダモクレスの軍勢が展開しており、ケルベロス・ウォーの発動が無ければ攻め込む事は難しいだろう。しかし、ヘリオンを使っての降下作戦に対して、敵は予防線を張っている。それが、踏破王クビアラがが設置した『ヘリオン撃破用の砲台』だ。
「8台ある砲台のそれぞれに強力なダモクレスが設置されている。守備兼操作要員ね」
 これらを排除し、砲台の破壊が出来ればヘリオンによる降下作戦によってドレッドノートへの潜入が可能になるだろう。これが最初の関門。
「潜入後の攻撃目標は4つ。みんなに選択してもらうわ」
 一つ目、ドレッドノートの歩行ユニットの修復を行っている、ジュモー・エレクトリシアンとその配下。この部隊を撃破する事で、ドレッドノートの動きを阻害する事が出来るだろう。
 二つ目、ディザスター・キングが守る『弩級外燃機関エンジン』。その一部となる事で必要な出力を確保しようとしている彼らを撃破すれば、ドレッドノートの出力を引き下げる事が出来るだろう。
 三つ目。『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の修復を行っている、コマンダー・レジーナとその軍団。『弩級超頭脳神経伝達ユニット』が修復されれば、ドレッドノート自身がその巨体を制御して戦える為、危険度は一層大きくなものとなる。
 そして最後。指揮官型ダモクレス、イマジネイターの存在だ。
「弩級兵装回収時には動きのなかった指揮官よね」
 彼女は自らがドレッドノートの意志となるべく、彼の機体と融合しようとしているようなのだ。
 現時点での危険度は低いが、万が一、ケルベロス・ウォーに敗北するような事があれば、自ら意志を持つ弩級ダモクレスが出現する事になる為、可能ならばこの融合を阻止しておきたい処である。
「今回の作戦は、重要な拠点をピンポイントで攻撃する奇襲作戦になるわ。作戦終了後は、素早く撤退しなければ、敵の勢力圏に取り残されちゃうので、注意してね」
 その重荷をケルベロス達に背負わせる事に胸を痛めながら、それでもリーシャは彼らを送り出す。地球を守る事は、彼らにしか出来ないのだから。
「いってらっしゃい。みんなならダモクレスの野望を挫けるって信じてるわ」


参加者
榊・凛那(神刀一閃・e00303)
深月・雨音(夜行性小熊猫・e00887)
アニエス・エクセレス(エルフの女騎士・e01874)
イピナ・ウィンテール(眩き剣よ希望を照らせ・e03513)
立花・彩月(刻を彩るカメラ女子・e07441)
クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)
黒岩・りんご(禁断の果実・e28871)
日影野・燦(這い寄るコールタール・e32883)

■リプレイ

●永遠の風
 爆撃の音が響く。衝撃がヘリオンの身体を2度3度と揺らした。
「よくもまぁ、こんな中を飛び回れるよね」
 にへらと笑い、日影野・燦(這い寄るコールタール・e32883)は操縦席へ続く扉に視線を向ける。口調は軽く、だが、その瞳には、彼女の頑張りに応えなければ、と気概に宿っていた。
「リーシャちゃん……」
 祈るように両腕を合わせ、深月・雨音(夜行性小熊猫・e00887)がヘリオライダーの名を呼ぶ。励まそうにも、彼女に声を届ける手段はない。連絡用イヤホンは通信障害の可能性から使えず、今はただ、祈るしかできなかった。
(「せめて、ヘリオンを守れたら」)
 外壁に張り付いて防御役を担う、と言う作戦は破棄せざる得なかった。いくらケルベロスが超人とは言え、高速で飛行するヘリオンに張り付く行為は無謀。1度脱落すれば復帰出来ない可能性もあったのだ。
「今は、彼女を信じましょう」
 想いは同じだと、榊・凛那(神刀一閃・e00303)から声が掛かる。凛とした、しかし、優しい声色に雨音の表情が綻んだその瞬間。
 一際大きな衝撃が走った。
「着弾――?!」
「各自、ヒールを頼むであります!」
 困惑の声はアニエス・エクセレス(エルフの女騎士・e01874)から、続く言葉はクリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)からだった。治癒用ドローンを駆る彼女同様、ケルベロス達は各々の治癒グラビティをヘリオンに施していく。
 迎撃用の砲弾の中、無傷でケルベロス達を届ける行為は神業に等しい。着弾も止む無しと引き受けてくれたヘリオライダーには頭が下がる思いだった。
(「一緒にお祭り、行くって決めたものね」)
 故郷に思いを馳せ、立花・彩月(刻を彩るカメラ女子・e07441)がヘリオンへ治癒のオーラを施す。
 無茶な行軍は、ケルベロス達の治癒によって支えられていた。無論、ヘリオンとてサーヴァント。着弾が積み重なれば治癒不能ダメージも増えていく。だが、急場を凌ぐだけならばこれで充分。
「――ギリギリまで、お願いしますね」
 その負担はどれ程のものか。黒岩・りんご(禁断の果実・e28871)の想像を遥かに超えた恐怖がヘリオライダーを苛んでいるのだろうと思う。必ず報いると、治癒を施す腕に力が籠もる。
「大丈夫。リーシャさんは結構、無茶な運転も多いですから」
 場を包む緊張を解そうと口にしたイピナ・ウィンテール(眩き剣よ希望を照らせ・e03513)の言葉に、「で、ありますね」とクリームヒルトが同意し、彩月がぷっと噴き出す。
「そんなこともないと思うけどね」
 とは燦談。だが、浮かぶ薄笑いの為、真意が図り兼ねた。
 やがて、ヘリオンが空中に停止し、降下ハッチが口を開ける。
「到着、ですね」
 緊張を飲み込みながら、アニエスがそう、告げた。

●明日を探そう
 砲撃の音が響く。着弾とまで行かずとも、間近での破裂を見てしまうと、身が竦む思いだった。
「それでも……」
 後に続く仲間の為に、と真っ先に飛び出したのは彩月だった。光の翼をはためかせ、クリームヒルトが彼女に続く。その傍らではボクスドラゴンのタングステンが寄り添うべく、翼を揺らしていた。
「行ってきます」
 操縦席に一礼し、凛那と雨音、そして燦もハッチから飛び降りる。一歩遅れて飛び出したのはりんご、そして――。
「第二陣?!」
 続いたイピナの唇から悲鳴の如く声が零れた。ケルベロス達の間を縫う様に放たれた二撃目はそのままヘリオンに着弾――。
「任せて下さい!」
 刹那、頼もしい言葉をアニエスが発する。同時に彼女の命を受けたシャーマンズゴーストがその身を盾にと、ヘリオンとの間に立ち塞がる。響く爆音は、着弾を告げる知らせでもあった。
「……頑張ったね」
 落下しながらも、ぼろぼろの風体と化した自身のサーヴァントを撫でる。ディフェンダーの恩恵があったからこそ、この程度で済んだ。そう判断する事にした。
 やがて、ケルベロス達の視線もまた、自分達を狙った砲台に向けられる。
 そこに1体のダモクレスがいた。身長は2mに届かず。コートを身に纏った中背中肉の機人は袖口から延びるケーブルで砲塔に触れ、その制御を行っていた。
 そしてケルベロス達は直感する。彼こそが自分達の敵。排除しないといけない障害だ、と。
「この距離なら――」
 りんごは竜砲弾を装填。気合と共に放つ。目に見える距離ならばグラビティは届く、との意思の下、敢行された遠距離攻撃は、確かに砲台、そしてその守護者へと突き刺さって行く。
 それが皮切りとなった。
 彩月の闘気弾が、イピナのノワールによる尖撃が、アニエスの銃口による一斉射撃が、そして着地と同時に放たれた雨音の蹴りがダモクレスに炸裂する。
(「この距離だとちょっと攻撃は難しいか」)
 地面に着地と共に、シャーマンズゴーストへ治癒効果のある矢を放った燦が小さく呟く。治癒役に徹する自分はともかく、近距離グラビティしか有していない仲間はやきもきするだろうなぁ、と少しだけ同情した。
 5度煌いたグラビティへの返答は砲撃を以って。
 戦域から離脱したヘリオンに代わり、それが狙いを定めたのは、蹴りに体勢を崩した雨音だった。
 ディフェンダーの恩恵ならぬクラッシャーの身。派手な爆音と共に吹き飛ばされる筈の彼女はしかし。
「――この程度!!」
 間に割って入ったクリームヒルトによって、その身体に砲撃が届く事は無かった。
「あ、ありがとう」
「皆の盾となる事が我が誉れ、であります」
 零れた礼に対する戦乙女の返礼は、何処か照れを孕んでいて。
 戦いの最中に関わらず、思わず破願してしまった。
「――地獄の番犬、ケルベロス!」
 身構える彼らに、ダモクレスが一直線に突っ込んでくる。砲撃よりも、自身の手で葬る事を選択したようだ。触手を思わせる無数のケーブルは鞭の様に揺れ、彼の周囲には丸鋸を思わせる得物が飛び交っている。その表情は仮面なのか、それともそれが彼の顔なのか、黒金色のマスクに覆われて、何も伝えてこなかった。
 何より特徴的なものは。
(「――オラトリオ?!」)
 醜悪な模造だと、イピナが嫌悪の表情を浮かべる。彼の背に備わった1対の白翼、そしてガラスを思わせる黒翼が更にもう3対、計4対の翼は、機械と天使の融合体のようであった。
 蹴りが飛ぶ。ダモクレスの一閃を受け止めた彩月はしかし、その重さに呻く。
「流石、守護を任されるだけあって、実力は達人級ね」
 斬霊刀を抜き放った凛那の言葉に応えは無く、ただ、ダモクレスは拳を、そしてその先のケーブルを振るう。得物でそれを受け止めた彼女はしかし、それが帯びた電撃による衝撃に、小さな悲鳴を口にした。
「――ボクの名はクリームヒルト・フィムブルヴェト! 輝盾の二つ名を抱く騎士であります!」
 仲間達を援護するべく、小型治療無人機の群れを召喚するクリームヒルトは、名乗りを上げる。ダモクレスがケルベロス達を屠るつもりならば、ケルベロス達もまた然り。彼を撃破し、砲台を破壊する事が彼女達に課せられた使命なのだ。故に、自身の名を抱いて逝けとの宣言は、同じ、思惑の下、ダモクレスからも紡がれた。
「アイラス・ウィンテール。それが我が個体名だ」
 その宣言に、はっと息を飲む声が聞こえる。ウィンテール。それが意味する事は。
(「偶然……?」)
 攻撃補助用のドローンを操る彩月の視線は、同じウィンテールの姓を持つ仲間へと向けられていた。
「アイラス?」
 震える唇がダモクレスの名乗りを繰り返す。その名を彼女は知っていた。まさか、と言う想いが衝撃となって襲ってくる。
「イピナさん!」
 案じる声はりんごから発せられた。二者の因縁は彼女には判らない。故に、イピナの受けたそれを図る事は出来ず、ただ、彼女の名を呼ぶ事しか出来なかった。
 だが、それで十分だった。
 大きく頷いたイピナは日本刀を正眼に構え、ダモクレスに向かって言い放った。
「その名を騙られるのは不愉快です。……ここで死んで貰います」
 自身に近しき存在と同じ名を持つ機人が、仮面の奥で嘲笑った気がした。

●さよならが教えてくれたもの
 回転鋸の鋭い音が響く。十重二十重と切り結ばれた斬撃は、シャーマンズゴーストを切り裂き、その身を光へと転じさせる。
 丸鋸による斬撃はそれに留まらなかった。大きく弧を描いて飛来した刃は勢いを殺さず、主であるアニエスの鎧をも切り裂く。戦輪を思わせる得物が奏でる輪舞曲は、本人との二重演奏だった。
「くっ?!」
 袖口から延びるケーブルに縛られたアニエスが、苦痛の呻きを零す。女騎士を掲げるように縛り上げたアイラスが次に行った選択は、彼女そのものを得物とする事だった。
「そんなっ?!」
 捕らえたアニエスごと、ケーブルは彩月に叩き付けられる。鈍い音が周囲に響いた。
「だ、大丈夫?」
 それでも、彩月の選択は仲間の安全だった。三日月の刃を投げ出し、両腕を広げてその身体を抱きとめる。咄嗟のその行動が無ければ、アニエスの身体は地面に激突する処だった。
 だが、追撃の手は留まる事を知らない。飛び上がったアイラスによる回し蹴りは、タングステンの竜身へ突き刺さる。ボクスドラゴンの悲痛な叫びが周囲に響き渡った。
「やるでありますな!」
 従者の仇とばかりに打ち出されたクリームヒルトの一撃は、ダモクレスが纏うロングコートを切り裂き、機械の皮膚を露出させた。
「流石……とは言い辛いですが」
 りんごが賞賛の言葉を口にする。アイラスと名乗ったダモクレスの強さは本物だった。そして、身軽に飛び交う身体には、おそらくキャスターの恩恵が宿っている。動きに翻弄され、ケルベロス達は有効打を打てずにいた。
(「――せめて」)
 凛那による音速拳は回避され、雨音の斬霊刀による一太刀は、その皮膚を浅く切り裂くだけに留まっている。返すアイラスの丸鋸やケーブルによる攻撃は、如実にケルベロス達を追い詰めていた。
 せめて、と益体無い言葉が頭に過る。エンチャントさえ上手く施されていれば――。
(「防御に比重を置き過ぎた、かな?」)
 切り裂かれた衣服ごと、アニエスにヒールを施しながら、燦が苦渋の表情を浮かべる。前衛はサーヴァントを含め、7人。引き起こされた減衰は、彼らへの負担にしかなり得ていなかった。
 そして。
(「どうして?」)
 泡立つ心を抑え、イピナは刃を振るう。
 ダモクレスの体捌きに見覚えがあった。その動きは幼き日、彼女が目にした父の呼吸そのものだった。
 そんな筈はないと呟く。そんな訳はないと自分に言い聞かせる。
 そうしないと、心が折れてしまいそうだった。
「貴方は、どうしてその名を!」
 問い掛けへの応えは、返答代わりの応酬。丸鋸による強襲をイピナは日本刀で受け止める。衝突に伴って響く、がりがりと削れる音は、どちらの刃が立てた音か、彼女には判断できなかった。
 その呼称を呼びたかった。呼んでしまいたいと何かが叫んでいた。だが。
「今は、戦います。……それが私の生きる意味」
 ケルベロスとしての義務感が、そしてウィンテール家の四代目当主と言う矜持が、それを赦さない。
「イピナ……」
 仲間の誰かが呟いた言葉にすら、痛みを覚える。
 それが、彼女の選んだ戦いだった。

●私の胸で眠れ
「翼を焼きし辺獄の炎よ、我が右手に宿り、怨敵を燃やせ」
 紫色の地獄が輝く。りんごの手刀は絡みつくケーブルごと、アイラスの身体を切り裂き、深い裂傷を刻む。
 がくりと崩れた膝は、負傷と疲労の蓄積によるものだった。如何に強力なダモクレスであろうと、ケルベロス8人の猛攻を受け、無傷でいられる筈も無い。まして、8人を支える想いは敗北は許されないとの気概だった。
(「私達が倒れたら、後に続くみんなが大変な事になるにゃ」)
 小さな猛獣と化した雨音は、全身全霊の力を以って、アイラスに無数の獣爪を振るう。今、此処で砲台の占拠を失敗すると言う事は即ち、後に続く仲間達が乗るヘリオンを危険に晒す事と同義。それは看過出来なかった。
 その想いがケルベロス達に怒涛の攻撃を行わせる。
「修行の果てに得た、あたしの秘剣の煌き……受けるがいいっ!」
 神魔調伏。神であろうと魔であろうと断ち切る凛那の一撃は、機械天使の羽根を切り落とし、その機動力を奪う。
 そこに金色が煌いた。彩月とクリームヒルトによる電光石火の刺突は、動きを止めた機人に突き刺さり、電流をその身体に駆け巡らせる。
「いやぁ。機械に電気は良く効くんじゃないかな?」
 痛烈な重力波でアイラスを縛りながら、燦が嘲笑う。なお、ダモクレスが電撃に弱いと言う話は都市伝説並みに眉唾な物だったが、この場での言及は避ける事とした。
 続く桃色の風は、大量の弾丸を以てダモクレスの身体を穿つ。アニエスの構えるガトリングガンからの銃弾は、アイラスを梳り、その身体から血液代わりに、無数のグラビティ・チェインを零れさせていた。
 踏鞴踏むアイラスを終焉が包み込む。
「闘気を、力を乗せて……ぶつける!」
 イピナだった。一足の元、懐に飛び込んだ彼女は大きく沈み込み、拳に闘気を纏わせる。
 込めるは自身の全て。ダモクレスの、アイラス・ウィンテールの身体を穿つべく、闘気を練り上げた。
「アアアァァァ!!」
 それは、裂帛の気合と言うよりも、慟哭だった。
 拳は槌の如く、アイラスの胸へ叩き付けられる。衝撃が、そして力の奔流がダモクレスの機体を駆け巡った。
 一瞬だけ、呻き声が響く。
 それが、アイラス・ウィンテールを名乗ったダモクレスの、最期だった。

 心臓が熱い。熱を帯びた肺が空気を求めてぜいぜいと呼吸を要求する。
 見上げたイピナの頭に伸ばされたのは、アイラスの片腕だった。機械の指は、橙色の髪に触れるか触れないかの処で、消失に巻き込まれ、光の粒子へと化していく。次の瞬間、その身体は何処にも残されていなかった。
「……お父、様」
 決壊した彼女は、零れ落ちた仮面を抱きしめ、その名を呼んだ。それもゆるりと、無へと化していく。
(「イピナ……」)
 友の名を口にする凛那は、それ以上の言葉を紡ぐ事が出来なかった。彼の者が本当に彼女の実父だったのか、誰にも証明できない。騙るだけのダモクレスかもしれないし、もしかしたら、本当に、行方不明とされた彼が、ダモクレスに改造され、その先兵と化していたのかもしれない。
「……頑張った、ね」
 燦が浮かべた労いの言葉にこくりと頷く。
(「順当に考えれば」)
 アイラスの行った最期の足掻きは、イピナを黄泉路への道連れにすべく、頭部を狙ったもの。決して父親が我が子を愛しく思い、頭を撫でようとした……そんな行為ではないだろう。
 だが。
(「そんな優しい物語もあっていいよね」)
 その思いが、彼女を支えるのなら、それでいいと思った。

作者:秋月きり 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月14日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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