載霊機ドレッドノートの戦い~弩級の強襲作戦

作者:洗井落雲

●ドレッドノート強襲作戦
「集まってもらって感謝する。では、今回の作戦について説明しよう」
 アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)は、ふむん、と唸りつつ、今回の作戦の背景について説明を始めた。
 先日行われた弩級兵装回収作戦の結果、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』と『弩級外燃機関エンジン』が、ダモクレスに回収されてしまった。
 この回収された弩級兵装は、館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)ら、『載霊機ドレッドノート』を警戒していたケルベロス達によって、載霊機ドレッドノートへと転送されたことが判明。
「最近色々と動いていた指揮官型ダモクレス達だが、今回の件から想像するに、弩級兵装を載霊機ドレッドノートに組み込み、載霊機ドレッドノートを再起動させる事が目的であったと考えるのが妥当だな」
 その証拠に、現在指揮官型ダモクレス6体は、載霊機ドレッドノートを守護し、復活させようと動き出している。
 ドレッドノートが動き出せば、人類はケルベロス・ウォーを発動しなければ対抗できない。
「そこで、載霊機ドレッドノートへの強襲作戦を行うことになった。これは、ケルベロス・ウォーの前哨戦のようなものだ。ドレッドノートを守るダモクレス達にどれだけのダメージを与えられるか、それが今後の戦いの行方を占う事になるだろう」
 アーサーは一つ咳払いをした。
「今回の作戦は複雑、かつ非常に危険なものだ。少々説明が長いが、聞いてほしい。資料の方にもしっかり目を通してくれ。本作戦は、いくつかの段階に分けられる。君達には、それぞれの状況と作戦内容を確認し、どの作戦に参加するのかを決めてほしい」
 現在、載霊機ドレッドノートは、ダモクレス軍団によって制圧されている。
 ドレッドノートの周辺にはマザー・アイリスの量産型ダモクレスの軍勢が展開しており、ケルベロス・ウォーを発動しなければ攻め込む事は難しい。
 そのため、ヘリオンからの降下作戦を行う必要があるが、踏破王クビアラがドレッドノートの周囲に『ヘリオン撃破用の砲台』を設置している。
「まず第一に、このヘリオン撃破用の砲台を破壊する。このヘリオン撃破用の砲台は強力なダモクレスが操作・守備を行っているため、このダモクレスを撃破し、砲台を無力化してほしい。これが一つ目の作戦だ」
 砲台制圧作戦は、砲台直上まで突入したヘリオンからケルベロスを降下、ヘリオンはそのまま離脱するというプランになる。
 降下するケルベロスは、空中でヘリオンへの攻撃を防ぎつつ、砲台へ張り付き、ダモクレスを撃破、砲台を無力化する。
 砲台を無力化できれば、ヘリオンによる強襲降下作戦により、載霊機ドレッドノートへの潜入が可能になる。そこからさらに、四つの作戦が展開される。
「1つ目。ドレッドノートの歩行ユニットの修復を行っている、ジュモー・エレクトリシアンとその配下。この部隊を攻撃する」
 歩行ユニットの修復を行っているダモクレスを撃破する事で、ケルベロス・ウォーを仕掛けた時点の、載霊機ドレッドノートの移動速度を下げる事ができる。
 もし修復を許せば、ドレッドノートはケルベロス・ウォーの戦闘中に東京の都心部まで移動可能となるため、ここでその移動力を大きく削いでおきたい。
「2つ目。ディザスター・キングが守る『弩級外燃機関エンジン』を攻撃する」
 ディザスター・キングの軍団は、自らがエンジンの部品として連結する事で、エンジンの出力を確保しようと試みている。これを倒すことで、エンジンの出力を下げる事ができるというわけだ。
 起動した載霊機ドレッドノートは、このエンジンから生み出されたエネルギーを利用して、数多くの戦闘用ダモクレスを生み出していく。エンジンの出力は、ケルベロス・ウォー時の戦闘用ダモクレスの数と戦闘力に直結することとなる。
 『弩級外燃機関エンジン』を完全に止める事は出来ないが、可能な限り、多くのダモクレスを撃破し、その出力を低下させてほしい。
「3つ目。『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の修復を行っている、コマンダー・レジーナとその軍団を攻撃する」
 コマンダー・レジーナは、載霊機ドレッドノートの脊髄の部分に配下のダモクレスを護衛として、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の修復作業を行っている。
 ユニットの修復が成功した場合、ドレッドノートはその巨体を自由に動かし、攻撃を仕掛ける事が可能となってしまう。
 弩級ダモクレスであるドレッドノートである。腕を振り回して殴りつける、ただそれだけで、地面には直系数kmのクレーターが生まれることだろう。
 また、ドレッドノートには、このパンチで殺害した人間のグラビティを奪う能力があり、この能力をもったままドレッドノートが活動し続ければ、ドレッドノートはより強力な力を獲得しつつ、永久に破壊活動を行う事が可能となってしまう。
 そのため、このドレッドノートの攻撃頻度を下げるためにも、ユニットの修復作業を遅らせることは重要であるという事だ。
「そして4つ目。指揮官型ダモクレス、イマジネイターとその配下だ」
 どうやらイマジネイターは、ドレッドノートと一つとなるべく融合しようとしている。
 イマジネイターがドレッドノートと融合した場合、『イマジネイターの意思を持つドレッドノートというダモクレス』が誕生する。戦闘には直接関係はないだろうが、万が一ケルベロス・ウォーに敗北するような事があれば、自ら意志を持つ弩級ダモクレスが誕生し、自由に行動する、という事になる。阻止できるに越した事はない。
 だが、あくまで大きな影響があるのは、『ケルベロス・ウォーに敗北した場合』の話だ。ケルベロス・ウォーでの勝利を前提とするならば、無視するという戦略もあり得るだろう。
 イマジネイターを撃破するためには、イマジネイターを守る全てのダモクレスを撃破する必要がある。
 イマジネイター軍団は、個々の連携が取れないため、敵の数が多くても1体ずつ相手取って戦闘を仕掛ける事が可能だ。しかし、しかし、強敵のダモクレスを相手にして連戦で勝利するのは難しいだろう。イマジネイターの撃破を目指す場合は、相応の戦力を投入する必要がある。
「まとめると、だ。君達は、5つの戦場から、自分達が担当する戦場一つを選び、出撃してもらう。作戦内容について、改めて簡単に説明しよう。1、『クビアラ軍団と戦い、ヘリオン撃破用の砲台を無力化する』。2、『ジュモー・エレクトリシアン軍団と戦い、ドレッドノートの歩行ユニットの修復を阻害する』。3、『ディザスター・キング軍団と戦い、弩級外燃機関エンジンの稼働を阻害する』。4、『コマンダー・レジーナ軍団と戦い、弩級超頭脳神経伝達ユニットの修復を阻止、或いは阻害する』。5、『イマジネイター軍団と戦い、イマジネイターとドレッドノートの融合を阻止する』。この5つだ。これらの戦場から一つを選び、君たちに戦ってもらうことになる」
 アーサーは拳を握りしめた。
「難しく、危険な作戦だな……だが、君達ならば、この作戦を無事遂行し、続くケルベロス・ウォーへの勝利の布石を打てると信じている。君達の勝利と、無事を、祈っている」


参加者
ディバイド・エッジ(金剛破斬・e01263)
エイン・メア(ライトメア・e01402)
相馬・竜人(掟守・e01889)
ミリム・ウィアテスト(トルーパー・e07815)
鷹野・慶(業障・e08354)
アドルフ・ペルシュロン(緑の白馬・e18413)
鹿坂・エミリ(地球人のウィッチドクター・e35756)
津雲・しらべ(かおすにそまる・e35874)

■リプレイ

●ドレッドノート突入
 ケルベロス達を乗せたヘリオンは無事ドレッドノート直上へと到達した。ケルベロス達は速やかにヘリオンより降下。巨大な戦場と化したドレッドノートへと突入する。
 ケルベロス達の目標は、ドクターDをリーダーとする一派だ。目的は、ドレッドノートの歩行ユニットの修復の阻害。
 そのために、総勢32名、4チームのケルベロスが合流。目標を目指し、広大なダンジョンである巨大ダモクレスの体内を進む。
「ドクターD達がいる二足歩行システムはこっちの方向っすよ!」
 アドルフ・ペルシュロン(緑の白馬・e18413)が言う。
 確実に事を運ばなければならないときこそ、事前の準備がモノを言う。あらかじめ余念なく準備を整えていたアドルフは、用意していた自作のマップと周囲を照らし合わせながら進む。
「んむんむ、やっぱり通信機はだめですねーぇ♪」
 他班のメンバーとの通信の為に用意していた通信機器を手で弄びながら、エイン・メア(ライトメア・e01402)が笑った。
 流石は敵の体内、ジャミングが施されているのだろうか。とは言え、予想していた事態であるし、別の手段は講じてある。
「今の所、分断されるような事態にはなってねえし、通信機がダメでもなんとかなるだろ。しかし、雑魚に遭遇しないのは、向こうによほど自信があるのか、うまく斥候が敵を避けてくれてるのか……」
 鷹野・慶(業障・e08354)が言いながら、遥か前方を行く鹿坂・エミリ(地球人のウィッチドクター・e35756)を見やった。
 エミリはやや先行し、ルートの安全確認を行っている。傭兵まがいのことをしていた、と自称するエミリらしい仕事であった。
 ふと、エミリが手を挙げた。止まれ、の意を表すポーズだ。
 気づけば、他チームの斥候達も、同様にチームへ意思表示をしている。
「やはり『ここ』でしたか」
 エミリが小さく呟いた。
「本命かな?」
 ぴん、と尻尾を立たせ、ミリム・ウィアテスト(トルーパー・e07815)が尋ねた。エミリは頷くと、
「敵はまとまっているようですね。予定通り、敵を引き離しつつ攻撃を仕掛けましょう」
 答える。エミリの視線の先には、ドクターDを始めとした、歩行ユニットの修復を行う計4体のダモクレスの姿がある。
 本チームの目標は、その内の一体、ヴァルカロックと呼ばれるダモクレスだ。
「じゃあ、ドクターDから引き離すように動きつつ、ヴァルカロックを攻撃だね」
 ミリムが言う。
「了解……よ。援護は……任せて……」
 津雲・しらべ(かおすにそまる・e35874)が頷く。
「では、参ろうか。今後の戦いを占うこの一戦、負けるわけにはいかぬでござるなぁ!」
 呵々、と笑いつつ、ディバイド・エッジ(金剛破斬・e01263)が言う。
「んむんむーっ、他のチームの皆さんも、攻撃を始めるそうですーぅ! それでは、私達もいきますよーぉ♪」
 他チームのメンバーと言葉を交わしていたエインが、楽し気に、嬉し気に、突撃の声を上げる。
 ケルベロス達が一斉に戦場へと躍り出る。
 相馬・竜人(掟守・e01889)は、その際、すれ違ったドクターD担当チームのメンバーへ向けて、
「……殺せ。分かってるな?」
 一言だけ告げた。返答は聞かなかった。すぐさま仮面で己の顔を隠し、戦闘態勢に入る。
「金剛破斬のディバイド・エッジ、ここに見参! ヴァルカロックよ、いざ尋常に勝負で御座るよ!」
 ディバイドが大音声で啖呵を切る。
 既に他の2チームも接敵している。このまま護衛を引きはがし、ドクターDへの道を作る。
「貴様ら……ケルベロスか!」
 ヴァルカロックが声を上げる。すぐさま作業を切り上げ、ドクターDを庇うように立ちはだかる。
「他のものも戦闘に入ったか! ドクターDへ貴様らを近づけるわけにはいかん!」
 ヴァルカロックが、その腕に持つ武器を振るう。ヴァルカロックの意識は、完全に此方へと向いたようだ。
「ドクターDってのも気に入らねぇ顔してるが、てめぇも中々だな……よし、殺す!」
 仮面の下で笑みを浮かべ、竜人が言った。

●決戦、ヴァルカロック
「解体だけじゃ足りねえな、螺子の一本も残さず消してやる」
 言うと、慶のドラゴニックハンマーは砲撃形態へと変形。竜砲弾を射出。
 同時に、慶のウイングキャット『ユキ』は、尻尾のリングを発射。二者同時にヴァルカロックへと射撃を試みる。
 果たして二つの射撃が、ヴァルカロックの脚部と腕に着弾。損傷を与える。
「食らいやがれ、タンク野郎!」
 続いて、竜人が鋭い蹴りを叩き込んだ。ヴァルカロックはそれを機械腕で防御。しかしその衝撃は身体の奥深くへと浸透する。
「まずは守りを固めさせてもらうよ! やられたら元も子もないからね!」
 ミリムが前衛のケルベロスへヒールドローンを飛ばす。
「ミリム殿、かたじけない! 攻撃は任されよ、この金剛破斬に!」
 ディバイドが跳躍。上空から蹴りを叩き込む。
「ぬぅ!?」
 ヴァルカロックは再び機械腕で以て受ける体制に入る。直撃。蹴りの反動を利用して、ディバイドは距離をとる。
「ふん、言うだけのことはあるな、ケルベロス! だが……!」
 言うと、ヴァルカロックは手にした武器の一本、大剣を振りかざす。その鋭利な刃の前では、強固な防具すら切裂かれてしまうだろう。
 履帯を激しく回転させ、高速で竜人へと迫るヴァルカロック。勢い良く振り下ろされた大剣は、竜人の防具ごと彼を切り裂く。
「……ちっ! やってくれんじゃねえか、タンク野郎!」
 竜人が叫ぶ。
「魂の燈火よ 眠りし姿を呼び覚ませ 一時形成せ 戦士の姿」
 アドルフが言葉を紡ぐ。同時に、彼の背後に、エゾオオカミのような幻影が現れた。
 それは、咆哮を放つ。衝撃を伴う魂の咆哮。アドルフの『呼魂闘在・吠える神(ココントウザイ・オオセカムイ)』は、ヴァルカロックの注意を自身に引き付けるに十分な威力を発揮した。
 アドルフのライドキャリバー『カブリオレ』も負けてはいない。激しいスピンを以てヴァルカロックへ一撃をくらわす。
「うふふーぅ♪ いっぱい腕がありますねーぇ♪ 一本くらい貰っちゃってもいいですかーぁ?」
 エインもその勢いを逃がさず、砲撃形態へ変形したドラゴニックハンマーより、砲弾をぶっ放した。砲弾と爆発が相手の足を止める。
「しらべさん、私達がこのチームの生命線です。頑張りましょう」
 エミリが言いつつ、オウガメタルを活性化。オウガ粒子を放ち、味方への援護を行う。
「わかったわ……誰一人……倒れたりさせない……!」
 しらべが頷き、ヒールドローンを展開。中衛のケルベロス達への援護を行わせる。
 慶は炎の龍の幻影を召喚。ヴァルカロックへ向けて放つ。業火に包まれるヴァルカロック。ヴァルカロックは履帯をフル回転させ、脱出を図る。しかし、その身体が突如として爆発した。
「んむんむーっ、たかもん、こんな感じですーぅ?」
「ああ、上出来だ」
 エインの言葉に、少し微笑を浮かべつつ、慶は答えた。エインは慶の攻撃から敵が離脱するのを先読みし、見えない爆弾を投擲、ヴァルカロックへと貼り付け、起爆したのである。付き合いの長い二人ならではの、阿吽の呼吸でのコンビネーションと言った所か。
 慶との付き合いが長いのは『ユキ』も同等だ。エインに負けじと主の命に従い、翼で邪気を払い、味方の援護を行う。
「いいからさっさと死んどけや、なぁッッ!」
 竜人が叫びつつ、ドラゴニックハンマーを振り上げ加速。思い切りヴァルカロックへ叩きつける。
「次はボクの番っ!」
 その攻撃に、ミリムが続いた。鋭い蹴りを放ち、追撃を行う。
 ディバイドも追撃。ミリムの付けた傷跡をなぞるように斬りつける。
 怒涛の連続攻撃に、ヴァルカロックがうめき声をあげる。だが、この程度で倒れる程ヴァルカロックもやわではない。
 後衛のケルベロス達へ向けて、二つのガトリング砲が火を吹いた。このガトリング砲は、衝撃により行動阻害の効果を引き起こす特殊弾を射出する。
「ガブリオレ!」
 アドルフがサーヴァントの名を呼ぶ。2人は同時に、後衛のケルベロスの前を立ちはだかった。アドルフはエミリを、『ガブリオレ』はしらべを、二人のメディックをそれぞれカバーする形だ。
 ガトリング掃射が後衛のケルベロス達を襲う。慶とエインはダメージを負ったが、致命傷には遠い。エミリとしらべはカバーを受け、ダメージはゼロだ。
「アドルフさん……!」
 しらべが心配げに声をあげた。
「……弱きを助け強きをくじく――」
 アドルフが、言った。
「――最強の矛をも殴り飛ばす、最強の盾であれ――これ位、まだまだ大丈夫っすよ!」
 アドルフは言うと、お返しとばかりに、ガトリングガン『オベリスクガトリング』を構え、発射。爆炎の魔力を込めた大量の弾丸が、ヴァルカロックに襲い掛かる。
 『ガブリオレ』もまた、炎をまとい突撃。ヴァルカロックは二重の炎に包まれる。
「すぐに治療にあたります」
 エミリが再びオウガ粒子を活性化させ、後衛のケルベロスを治療。
 しらべもヒールドローンを展開し、前衛のケルベロスの治療にあたった。

 ケルベロスとヴァルカロックの戦いは続く。
 圧倒的な火力を誇るヴァルカロックに、少しずつ傷ついていくケルベロス達であったが、ディフェンダーとメディック達の奮戦により、戦線崩壊には遠く至らない。
 ヴァルカロックへのダメージは少しずつ、しかし確実に蓄積していき、戦闘開始より8分が経過した時、ついにその時は訪れたのである。

「そろそろ限界か? ヴァルカロックさんよ」
 慶の幾度目かの炎の龍の幻影による攻撃。飲みこまれ、幾度目かの脱出を図るヴァルカロックであったが、その動きには精彩が欠けていた。
「ボサっとしてる食っちまうぜ?」
 竜人が呟く。同時に、その両腕が黒龍の物へと変化した。竜人が駆ける。
 グラビティで強化された両腕。それを以て左右から同時に叩きのめす、竜人のオリジナルグラビティ。
 『古竜の咢(コリュウノアギト)』。それは、その名のままに、さながら竜にかみ砕かれたかのような傷跡を、ヴァルカロックへと残した。
「ちっ、まだ死なねえか。気に入らねえが、とどめは譲ってやるよ」
 舌打ちしつつ、竜人がヴァルカロックから離れた。
「覚悟はいいですか、ヴァルカロック!」
 ミリムが叫び、ヴァルカロックへ接近。その右拳を力強く握りしめる。
 それは光輝のエネルギーを集中してぶち込む、必殺の一撃。
 『ヘブンリィナックル(ヘブンリィナックル)』はヴァルカロックの装甲をぶち抜き、多大なダメージを与える。
「ディバイドさん!」
 ヴァルカロックは未だ倒れていない。それを悟ったミリムは、追撃を要請した。
「ヴァルカロックよ、受けるがいい。我が金剛破斬剣を!」
 ディバイドは跳躍。
「纏うは氷塊、成すは鋭刃、掲げて見せるは金剛破斬!」
 体内の冷却水を、刀身へと吹き付ける。グラビティで強化されたそれは、瞬く間に氷の刃を形成した。これこそ奥義。『金剛破斬剣・氷刃裂斬(コンゴウハザンケン・ヒョウジンレツザン)』。
「これにて、決着にござる!」
 斬りつけた。着地と同時に、氷によって形成された刃が砕け散る。
 それはさながら、ヴァルカロックより放たれた氷の血しぶきのようであった。
「ドクターDよ……申し訳……ありま……」
 その言葉を最後に、ヴァルカロックは全機能を停止。
 ケルベロス達の勝利の時が、訪れたのである。

●ひとまずの勝利
「こちらエインメアですーぅ♪ わたしたちは無事撃退完了、ですよーぉ♪」
 大きな声で、エインが言った。
 割り込みヴォイスによる、他班への連絡を試みているのだ。
 割り込みヴォイスの性質上、相手に声が届かなければそもそも連絡手段として使えないので、可能な限り、声を大にしなければならない。
「他の連中はどうなったかねえ」
 竜人が言った。
「皆無事だと良いんだけど……エインさんへの連絡待ちかな」
 ミリムが答える。
 数分ほどで、戦況の把握は完了した。
 他のチームもすべて、ダモクレスの撃退成功。ドクターDも見事打ち取った、との事だ。この4チームは大成功の結果を収めたと言ってもいいだろう。
「そう……よかったわ」
 しらべが、ほっと胸をなでおろした。
「無事、作戦が成功して何よりです。……それにしても不思議な感覚です。個のためではなくもっと大きな『全体』のための戦い。そこに私がいるというのは……」
 エミリが呟いた。
「これにて一件落着で御座るな、はっはっはぁ」
 ディバイドが笑う。
「無事に帰るまでが依頼だ、気ィ抜くんじゃねえぞ」
 慶が言う。しかし、言葉とは裏腹に、どこかほっとした表情をしているのは、気のせいではないだろう。
「たしかに、これから脱出しなければならないっすからね。もう一仕事残ってるっす」
 アドルフが言った。
 とは言え、帰り道に障害は残ってはいないだろう。
 他のチームメンバーの脱出に合わせ、ケルベロス達も脱出を開始しした。

 ケルベロス・ウォーへとつながる前哨戦、その戦いに、ケルベロス達は見事勝利を飾る事が出来たのであった。

作者:洗井落雲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月14日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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