弩級兵装回収作戦。
それは、本格的な侵攻に向けてダモクレスの戦力を高めるため、コマンダー・レジーナの指揮の下で行われた弩級兵装の回収作戦だった。
作戦を阻止するべく集ったケルベロスによる戦いの結果、4つの弩級兵装の内、弩級高機動飛行ウイングと弩級絶対防衛シールドを完全に破壊し、弩級外燃機関エンジンと弩級超頭脳 神経伝達ユニットに大きな損傷を与えることに成功した。
だが、破壊しきれなかったエンジンと神経伝達ユニットは転送され、ダモクレスの手に渡る。
損傷を受けながらもダモクレスが手にした2つの弩級兵装。それらがもたらすものは――。
「みなさん、弩級兵装回収作戦お疲れさまでした」
集まったケルベロス達に一礼すると、セリカは笑顔の中に緊張感を交えて言葉を紡ぐ。
「4つの弩級兵装の全てを破壊しきることは出来ませんでしたが、半数を破壊し、残る2つにも損傷を与えたことで、ダモクレスの動きは遅らせることができたと思われます。そして――ダモクレスの手に渡った2つの兵装。その転送先が判明しました」
「――!」
その言葉に、ケルベロス達に緊張が走る。
兵装の転送された先が判明したということは……つまり、指揮官型ダモクレスが目的としている『何か』がある場所が判明したということである。
「兵装の行き先、それは――載霊機ドレッドノート」
青森県黒石市に存在し、今も修復中である弩級ダモクレス『載霊機ドレッドノート』。
アルシェール・アリストクラット(自宅貴族・e00684)をはじめとするドレッドノートを警戒していたケルベロス達によって、回収された2つの兵装がドレッドノートへ運び込まれたことが確認されたのだ。
「この事から、指揮官型ダモクレスの目的は、弩級兵装を組み込むことによって載霊機ドレッドノートを再び起動させる事であると想定されます」
修復中の体ですらダンジョンとなっているドレッドノートが動き出せば、その脅威は計り知れない。
それに人類が対抗するためには、最終手段であるケルベロス・ウォーの発動を余儀なくされるだろう。
「幸い、回収された2つの弩級兵装は大きな損傷を受けているので、ドレッドノートがすぐに動き出す事はありません。ですが……兵装の1つ『神経伝達ユニット』を修復可能なコマンダー・レジーナが健在のため、時間を与えてしまえばドレッドノートは本来の力を取り戻すことになると思われます」
ですから、とセリカは今回の作戦の説明に入る。
行うのは、載霊機ドレッドノートへの強襲作戦。
この作戦で、ドレッドノートを護り復活させようと動いている6体の指揮官型ダモクレスとその配下にどれだけの打撃を与えることができるか。
それが、来たるべきケルベロス・ウォーによる決戦の趨勢を占うことになるだろう。
「現在、載霊機ドレッドノートはダモクレス軍団によって制圧されており、地上から攻め込むことはほぼ不可能となっています」
ドレッドノート周辺の地図に印をつけながら、セリカは現状を語る。
地上にはマザー・アイリスの量産型ダモクレスの軍勢が展開されて警戒を行っているために、それを突破してドレッドノートまでたどり着こうとするならば、ケルベロス・ウォーを発動した後でなければ難しいだろう。
そのため、強襲作戦はヘリオンから降下して行うことになるのだが……。
「ドレッドノートの周囲には、ダモクレス『踏破王クビアラ』が対空砲台を複数設置しているために、作戦を行うためには砲台を破壊する必要があります」
砲台によってヘリオンが撃墜されてしまえば目的を果たせ無い上に、『量産型ダモクレスの防御陣地を負傷したヘリオライダーを守って撤退する』困難な状況を切り抜けなければならなくなるだろう。
故に、降下作戦を行うためにも、作戦終了後にケルベロス達を回収するためにも、まずは砲台を破壊しなければならない。
「その上で、砲台が沈黙したならば、ヘリオンによる強襲降下作戦によってドレッドノートへ潜入が行われます」
潜入後の攻撃目標は4つ。
『歩行ユニット』、『弩級外燃機関エンジン』、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』、『中核システム』である。
「『歩行ユニット』では、修復作業を行っているジュモー・エレクトリシアンとその配下と戦うことになります」
『弩級高機動飛行ウィング』が完全破壊された為に、載霊機ドレッドノートは飛行能力を失った。
その代わりとして、歩行ユニットの修復を行うことでドレッドノートを移動できるようにしているのがこの軍勢である。
ここで作業を行っているダモクレスを撃破することができれば、ケルベロス・ウォーを仕掛けた際のドレッドノートの移動速度を下げる事ができるだろう。
「『弩級外燃機関エンジン』では、ディザスター・キングとその軍団が相手となります」
ディザスター・キングの軍団は、自らをエンジンの部品として連結する事で破損を補い、必要な出力を確保しようとしている。
このエンジンから生み出されるエネルギーを用いて、ドレッドノートは多くの戦闘用ダモクレスを生み出すことができるのだ。
そのため、エンジンとつながっている軍団を撃破することができれば、エンジンの出力が下がってケルベロス・ウォー時の戦闘用ダモクレスの数と戦闘力を低下させることができるだろう。
また、十分な戦力があれば、ここでディザスター・キングを討ち取ることもできるかもしれない。
中心部に近い区域で大量のエネルギーを供給しているディザスター・キングの周囲は、他のダモクレスから供給される強大なエネルギー流で囲まれているために、そのままでは近付くことができない。
だが、『10体以上のダモクレスを撃破』する事ができれば、エネルギーが枯渇してエネルギー流が消えるためにディザスター・キングを攻撃できるようになるだろう。
無論、多量のエネルギーを供給しているため弱体化しているとはいえど、ディザスター・キングの戦闘力は依然として高く、2チーム以上が連携して戦わなければ勝利は難しい。
そのため、撃破を狙うならば最低でも12チーム以上が必要になる。
それだけの戦力を割けば他の戦場が手薄になる恐れはあるが……ディザスター・キングを撃破できればエンジン出力は大きく低下することになるために、狙う意義は十分にあるだろう。
「『弩級超頭脳神経伝達ユニット』では、コマンダー・レジーナとその軍団が相手となります」
コマンダー・レジーナは、ドレッドノートの脊髄の部分で配下のダモクレスを護衛として、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の修復作業を行っている。
神経伝達ユニットが修復されれば、ドレッドノートは巨体を動かして攻撃を行うことが可能になる。
弩級ダモクレスであるドレッドノートであれば、腕を振り回すだけでも巨大なクレーターを生み出すこともできるために、その脅威を弱めることはケルベロス・ウォーに勝利するうえで重要な要素になるだろう。
「『中核システム』には、弩級兵装回収作戦で動きのなかった指揮官型ダモクレス『イマジネイター』が配下と共にいます」
イマジネイターは、自らがドレッドノートの意志となるべく中核システムとの融合を開始している。
このまま融合が完了すると、載霊機ドレッドノートはイマジネイターという意志を持つ弩級ダモクレスに生まれ変わることになる。
融合途中のイマジネイターを撃破する事は難しくないが、それを防ぐために多数のダモクレスが護衛についているために、その護衛全てを倒さないことにはイマジネイターに攻撃を加えることは出来ない。
幸い、イマジネイター軍団は、数は多いものの個々の連携が全くと言っていいほど取れていないために、一体ずつを相手取った戦闘を仕掛けることは難しくない。
だが、それでも強敵のダモクレスを相手に連戦で勝利するのは容易ではなく、イマジネイターを撃破して融合を阻止しようとするならば相応の戦力が必要になるだろう。
また、融合を阻止できなかったとしても、ケルベロス・ウォーに勝利することができれば問題はないために、手を出さないのも一つの手だろう。
――だが、『融合の阻止』と『戦争の勝利』のどちらも果たせなかった場合は、『イマジネイターの意志を持つ載霊機ドレッドノート』という意思を持った弩級ダモクレスが活動を始めてしまうことになるだろう。
「今回の作戦は、いくつものチームで連携をとって行動を行う必要のある、複雑なものになります」
厳しい表情を崩さぬままに、セリカはそう告げる。
目標の優先順位、戦力の分配、待ち受ける敵を含めた不測の事態への対応、考えるべきことはいくつもある。
それでも、
「載霊機ドレッドノートとの決戦となるケルベロス・ウォーを有利に進める為に、今回の作戦は成功させなければなりません」
弩級ダモクレスが戦力に加われば、ダモクレス勢力の力は飛躍的に高まることになる。
そうなってしまえば、人々に出る被害は甚大なものになるだろう。
「厳しい戦いになりますが……皆さんの力を合わせれば、道は開けるはず」
ぐっと拳を握って、セリカはケルベロス達を見つめる。
「全力で――勝ちましょう!」
参加者 | |
---|---|
藤守・景臣(ウィスタリア・e00069) |
ファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079) |
小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080) |
リーズレット・ヴィッセンシャフト(最後のワンダーランド・e02234) |
ククロイ・ファー(鋼鉄の襲撃者・e06955) |
コンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326) |
瑞澤・うずまき(ぐるぐるフールフール・e20031) |
リョウ・カリン(蓮華・e29534) |
遠くから、近くから、届いてくる戦闘の音。
止むことなく聞こえてくるその中を、アリアドネの糸を道しるべとして残しながらククロイ・ファー(鋼鉄の襲撃者・e06955)達はドレッドノートの中核へと続く通路を進む。
それは、人によっては幾度となく通った通路である。
だが、周囲を満たすのは、その時とは比べ物にならないほどに張りつめた空気。
壁の奥から聞こえてくる唸りが、ドレッドノートが動き出すための準備に入っていることを伝えてくる。
「ドレッドノートが遂に動き出したんスね!」
巨大ロボ、かっこいいっスと目を輝かせるコンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326)と並んで、リョウ・カリン(蓮華・e29534)はそっとため息をつく。
ドレッドノートが修復中の弩級ダモクレスであることは、知ってはいたが……。
「まさかダンジョンがそのまま巨大ダモクレスになっちゃうなんてね……」
実際に、そのまま動きだすことは想像の外にあった。
そうして――意識を切り替えて、リョウは表情を険しくする。
動き出すことが現実味を持って想像できないほどに巨大なダモクレス『ドレッドノート』。
これが暴れだせば、かつての『人馬宮ガイセリウム』に匹敵するほどの脅威になるだろう。
「……なんとしてもケルベロスウォーを準備する時間を勝ち取らないと」
「ダモクレスの好きになんかさせねっス。絶対にダモクレスを倒してファルケといちゃらぶするんス!」
ぐっと拳を握るコンスタンツァに、ファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)も小さく微笑みを返す。
この先にあるのはデウスエクスとの戦いで、それはケルベロスとしていつも通りのことではあるけれど。
その相手と因縁を持つ仲間がいる。
傍には張り切っている恋人もいる。
なら、
「僕も負けていられないよね。しっかり成功させて、気持ちよく帰ろう」
「ええ、皆で無事に帰りましょう」
得物を握って視線を通路の奥へ向けるファルケに、穏やかに頷きを返す藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)。
その後ろで、小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)と並んでリーズレット・ヴィッセンシャフト(最後のワンダーランド・e02234)は周囲に視線を走らせて。
「――見つけた」
それは『挑戦者求む!』と、何かのゲームをまねて書かれた落書き。
調査の中で把握した性格を表すような落書きに、リーズレットは相手がすぐ近くにいることを察して、
「気を付けて、骸は近くにいる」
その言葉に、隠密気流を纏って先行していた瑞澤・うずまき(ぐるぐるフールフール・e20031)は無言で小さく頷くと、視線を鋭くして周囲の気配を探る。
――直後、
「ハイスコアキャラ、みーつけた♪」
「――!」
頭上からの声、そして風切り音。
飛び降りてきた人影の振るう銀閃は、身をそらしたうずまきの目の前を掠めて走り抜けて。
追撃するように撃ち出された銀光は、飛来するエネルギーの矢によって撃ち落とされる。
「今のも避けるんだ……いいね」
飛び降りざまに攻撃を仕掛けてきた人影――身の丈ほどの大鎌を手にした少年型ダモクレスを、リーズレットは弓を構えて見据える。
実際に顔を合わせるのは今が初めて。
だが、間違えるはずも無い。
「やはりいたな、蒼井骸――アレは持っているか?」
「アレ? ……ああ、アレか! なら――オレを倒さないとアレは渡せないよ」
「ああ、お前ならそう言うだろうな」
しばし首を傾げた後に手を打つ骸に、リーズレットはどこか寂し気に笑みを浮かべる。
本当に何かを持っているのか、それともその場のノリで言っているだけなのか、それを確かめる術はない。
何より、彼を倒さなければ先へ進めない以上、取れる手段は一つだけなのだから。
「通してもらうぞ!」
「A Kerberos has penetrated our force field! さあ、行くよ!」
●
踊るように大鎌を振るう骸。
その動きに合わせて、大鎌の付け根に配置された無数の歯車が撃ち出されて周囲の存在を切り刻む。
だが、
「リズ姉の邪魔はさせないよ!」
「ケルベロス・ウォー成功の為にも因縁を断ち切る為にも、微力ながらお手伝い致しますよ」
うずまきの手にした槍が霞み、そこから放たれる稲妻を帯びた超高速の突きが彼女の周囲の歯車を打ち砕いて骸への道を開き。
なおも道を阻む歯車は、弱々しくも確かな熱を持った景臣の赤炎が焼き払う。
そうして作り出された間隙を縫って、走り込んだククロイは手にした刃を振り下ろす。
「ゲームは家でやれッ!」
「時代は体感型だよ、お兄さん!」
ククロイの握る赤い光のラインを輝かせるチェーンソー剣と、骸の大鎌。
二つの刃がぶつかり合い、周囲に騒音を響き渡らせる。
そのまま、押し返そうとする骸の動きに合わせて、ククロイは後ろへと飛んで距離を開ける。
ダモクレスである骸に個人の力で対抗するのは至難。
だから、使うのは別の力。
「やらせないよ」
追撃をかけようとする骸に、リーズレットのエネルギーの矢とファルケの竜砲弾が続けざまに撃ち込まれてその足を止める。
力では骸に譲っても、手数においては自分達ケルベロスが勝るのだ。
無論、その優位も絶対的なものではないが……。
「ああ、もう。邪魔だよ!」
「きゃ!?」
撃ち込まれる攻撃にわずかに苛立った声を上げて骸が大鎌を振りぬき、その軌跡が斬撃となって離れた場所にいたコンスタンツァの肩を切り裂く。
「スタン!?」
しぶいた血にファルケが声を上げる。
けれど、
「だいじょーぶアタシはケルベロス」
リョウの気力溜めとうずまきのウイングキャット『ねこさん』に傷を癒してもらうと、コンスタンツァはにっと笑みを返して。
一気に走り込んで、振るわれる鎌を前転して回避すると、
「女は度胸と愛嬌ス!」
「せやせや、女は愛嬌、坊主はお経、牧師は説教てな♪」
思い切りよく打ち込まれるコンスタンツァの達人の一撃と、真奈の釘バットと化したエクスカリバールのフルスイングが骸を捉えて吹き飛ばす。
そうして、途切れることなくケルベロスとダモクレスは刃を交える。
ファルケの援護射撃を受けて景臣とククロイが振るう刃を受け流し、続くコンスタンツァのグラビティブレイクを身を沈めて回避して。
身を起こしながら骸が真奈へと振るおうとする刃は、リーズレットの投げつけた鎌に邪魔されて空を切る。
リーズレットを狙って放たれる刃をうずまきの槍が受け止め、反撃で放った気弾を骸が切り払って。
受けた傷を、リョウが呼び出す炎の華と魔力の蝶が癒してゆく。
クラッシャーとして攻めを重視する骸と、半数近くをクラッシャーとするケルベロス達。
高火力で繰り広げられる戦いは、わずかな切欠で天秤を大きく傾けることになる。
「――ちっ」
目の前を掠めるうずまきの蹴りに、骸が舌打ちを漏らす。
攻撃の中で積み重ねてきた足止めが効果を現し始めたのだ。
そして、
「スタン、合わせて!」
「おっけーっス!」
勝負をかけるタイミングとみたファルケの言葉にコンスタンツァも応えて。
視線と笑みをかわして、二人並んで銃を構え。
「3つ同時に火を吹くぜ!」
「ゴー・トゥー・ヘヴン!」
言葉と同時に、ほぼ同時に撃ち出されるファルケの三連射。
それに一瞬遅れて撃ち出される、コンスタンツァの弾丸。
重なり合う銃声は、まるで怪物の咆哮のように響き渡り。
「がぁ!?」
肩、腕、足の三ヶ所に撃ち込まれた弾丸に骸の体勢が崩れ、続くコンスタンツァの銃弾が内に秘めた魔力を解き放つ。
そして生み出されるのは巨大な竜巻。
周囲すべてを巻き込み薙ぎ払うように荒れ狂う竜巻が骸の姿を飲み込んで、
「――こ、の――メガ、クラッシュ!」
声が響いた直後、竜巻が内側から切り裂かれる。
中から現れたのは、新たな竜巻。
コンスタンツァが生み出したものよりも小型でありながら、より強大な力を秘めた刃の竜巻。
「な、め、る、なぁ!」
「――くっ!?」
咄嗟にコンスタンツァを庇うも、その勢いを受け止めきれずに景臣はその場から弾き飛ばされて。
壁に叩き付けられる寸前で、回り込んだリョウに受け止められる。
「大丈夫!?」
「ええ……なんとか」
オーラを送り込んで傷を癒しつつ呼びかけるリョウに、小さく苦笑しながら景臣は応えを返す。
連続で振るわれる刃を受けた傷は決して浅くはない。
だが――ただやられたわけでもない。
「させないよ!」
「まだだ――なぁ!?」
景臣と入れ替わるようにして踏み込んだうずまきの、グラビティチェインを籠めた一撃。
それを受け止め、押し返そうと力を込めた瞬間――がくり、と骸の膝が崩れる。
見れば、そこには間接を断ち切るようにつけられた刀傷。
「そんな、いつ!?」
動揺の声を上げる骸を藤色に光る瞳で見つめて、景臣はリョウに支えられて身を起こす。
腱を断つ、急所を狙う。礼を尊び、義を重んじる事無く――唯屠る為にのみ振われる葬送の一太刀。
全力で放つ骸の攻撃を避けられないと見て、吹き飛ばされながらも景臣の振るった刃が骸の膝を断ち切っていたのだ。
無論、断ち切られた膝も内部の機構を組み替えれば動くことは出来る。
だが、
「その時間は、やらんよ――見えなき鎖よ、汝を束縛せよ」
「刃の錆は刃より出でて刃を腐らす!」
動きを取り戻すよりも早く、リーズレットが唱える束縛魔法『黒影縛鎖(シャドウチェイン)』が骸の体を縛り付け、喰らったグラビティを炎に変えた真奈の拳が突き刺さる。
その機を逃さず、走り込んだククロイが得物を握り、声を上げる。
「投影『地球人』!」
呼び出すのは自らが蓄え、記録してきた地球人のデータ。
武器に乗せるのは、極限まで集中して増幅させた己のグラビティ。
そして、放つのは卓越した技量からなる、達人の一撃。
「超力刃一閃ッ!! ここで燃え尽きろやァ!!!」
振りぬかれた一刀は、受け止めようとした鎌の柄ごと骸の胴を薙ぎ払い。
カツン、と地面に落ちる鎌の音が、戦いの終わりを告げた。
●
「あーあ、これでゲームオーバーか……あ、オレはアレを持ってないからね。残念でした」
「ああ。知ってたよ」
「ちぇ、つまらな……」
言葉を言い切ることなく動きを止めた骸を見つめて、リーズレットはそっと目を閉じる。
一時、戦場の中で厳粛な空気が流れて……。
「――いやぁ、お強い! わたくし感服しました!」
「!」
ふいに、通路の奥から拍手の音が響き渡る。
身構えるケルベロス達の前で、通路の奥から現れた影――橙と紫の燕尾服を着た蕪頭のダモクレスはシルクハットを取って仰々しく挨拶をする。
「わたくしハロウィンヘッドと申します。お見知りおきのほど、どうかよろしくお願いします」
現れた新たなダモクレス。
仲間たちに目配せをすると、ククロイは一歩前に出る。
「あー……ハロウィンヘッドだったか。サクラちゃん、サクラストライクってダモクレスを知らないか?」
「はて、サクラさん、ですか? そのような方は居られなかったかと思いますが」
彼の問いに首を傾げるハロウィンヘッドに、ククロイは内心で納得する。
ここまでくる間、痕跡が全くなかったのもそういうことなのだろう。
疑問は解けた。
だから後は、
「それで――そちらの準備はよろしいので?」
「別に殺したい理由もないが……生かす理由もないからなァ!!」
傷の深いものは後衛に、まだ余裕のある者は前衛に。
会話の間にポジションを変えた仲間たちの元へと飛び下がり、ククロイは武器を構える。
その様に、ハロウィンヘッドは大仰な身振りで怯えて、
「おお、怖い。わたくし、戦闘は苦手なのですが――」
「でも、弱いわけじゃないんでしょう?」
リョウの言葉に、軽く肩を竦めて首を傾げる。
危機感のかけらもない口調も、道化のような身のこなしも。
その全ては、骸にも劣ることの無い実力があるからこそ。
「それでは、始めさせていただきましょう。最期までどうぞお楽しみを!」
高らかに上がる声とともに、空から降り注ぐのは蕪の雨。
当たれば爆発を起こす蕪の中を、ケルベロス達は走る。
リョウの起こす色とりどりの爆発に勇気を奮わせて。
真奈の呼び出す幻影の竜は、同じく呼び出された幻影の蕪に潰されるも、その影から走り込んだククロイの刃がハロウィンヘッドの胴を掠めて降りぬかれる。
続けて放たれたリーズレットの黒影縛鎖を飛び退いてかわしたハロウィンヘッドを、着地点を狙うファルケの蹴撃が撃ち抜いて。
攻撃と共に刻まれた呪縛を、景臣の空の霊力を帯びた斬撃が倍加させて。
回避の足が鈍ったハロウィンヘッドの胴体をコンスタンツァのグラビティブレイクが撃ち抜き、突き出されるうずまきの槍が蕪の頭部を抉る。
「見さらせこれが地球人の本気っスよ!」
「では、お返ししましょう。これがわたくしの本気です。ハロウィンビーム!」
体勢を崩しながらも、顔の蕪から撃ち出される光線がコンスタンツァをかばったファルケに撃ち込まれる。
「くっ」
受けたダメージにファルケは膝をつきそうになるも、リョウからの回復を受けて再度立ち上がる。
ハロウィンヘッドが特別に強いわけではない。
単純な強さとしては骸と大きな差はないだろう。
だから、違うのはケルベロス側。
連戦によるダメージの積み重ねは、それだけ大きく戦いに影響を与えてくるのだ。
無論、ハロウィンヘッドにもダメージは積み重なっている。
限界が訪れる前に、速攻で攻撃を重ねられていたなら、あるいは――。
「……ごめん、後はお願い」
だが、先に限界を迎えたのはケルベロスだった。
積み重なった疲労が脚を鈍らせたところに頭上から降ってきた巨大蕪の幻影が止めとなって、ファルケの意識を奪い取る。
「あと一手、もう一太刀。たとえ、燃え尽きようと――」
その意思で刀を振るっていた景臣も、捌ききれずに光線を受けて倒れ込む。
続けて、蕪の雨にうたれてリーズレットと真奈もまた。
「……限界、だね」
退路に視線を走らせて、うずまきは苦しげに呟く。
半数が倒れて、相手はまだ戦える状態。
決めていた撤退条件はすでに満たしている。
後は、いかにして目の前の敵から退くか。
(「……誰かの為になれるなら……その方が……」)
倒れたリーズレットに視線を走らせ、うずまきが決意を定めた直後。
どくん、と迷宮が鼓動を打つ。
それは、載霊機ドレッドノートが意志をもって胎動を始めた証。
「おお、これは――」
「――退くぞ!」
その脈動にハロウィンヘッドが注意をそらした隙をついて、ケルベロス達は倒れた仲間を拾って走り出す。
融合を果たされたドレッドノート。
来たるべきケルベロス・ウォーの先にそれが何をもたらすのか。
それを知る者は、まだいない。
作者:椎名遥 |
重傷:藤守・景臣(ウィスタリア・e00069) ファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年4月14日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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