サクラ桜さくら

作者:あき缶

●花ほころびつつある春
 桜の木々が見事な、大阪府のとある公園は、少し早めの花見に来た大学生や家族連れでごった返していた。
 満開とはまだ言えないが、青空に映える淡いピンクの可憐な花を愛で、ある者は呑み、ある者は食べ、思い思いに時を過ごしている。
 そんな牧歌的な光景をつんざく、無慈悲なる流星牙。
 地面に突き立った巨大な牙は、騎士鎧に身を固めた竜牙兵となるやいなや、手当たり次第に人々を虐殺しはじめる。
 酔って足がもつれ、ころんだ青年の首を貫く槍。
 泣き喚く子供を必死に背負って走る父親を、子供ごと屠る鎌。
 腰が抜けて、抱き合って震える恋人たちを切り捨てる剣。
「ハハハハ、グラビティ・チェインだらけだ! イイゾイイゾ!」
 ゲタゲタと、下卑た笑いをあげながら、竜牙兵は逃げ惑う人間たちを物言わぬ肉塊へと変え続けるのだった。

●無情なる竜牙
 花見客のど真ん中に竜牙兵が落ちてくる――そんな悲しい展開を警戒していた宝来・凛(鳳蝶・e23534)の忠告により、事件は未然に香久山・いかる(天降り付くヘリオライダー・en0042)の手によって予知された。
「事前の避難勧告をすると、予知が狂ってしまうさかい、避難開始は皆の到着を待ってからってことになるんは、歯がゆいけど……」
 いかるは眉をしかめ、ままならんねぇと呟いた。
「避難誘導は警察がやってくれるけど、今回は酔っぱらいも多いから、避難完了まで時間かかりそうや。竜牙兵をケルベロスに集中させるような立ち回りが必要かもしれんね」
 竜牙兵の数は三体。ケルベロスが全力でかかれば、そう難敵ではなかろう。
 それぞれ武器は違っていて、ゲシュタルトグレイブ、簒奪者の鎌、チェーンソー剣を装備している。
「何にせよ、平和を乱すような輩は倒す。それでいいんだろう」
 と、アーヴィン・シュナイド(鉄火の誓い・en0016)は言う。
 あ、そうや。といかるは思いついたように言う。
「終わったら、花見っていうのもええかもしれんね。せっかく綺麗に咲いてるんやもん。シリアス一辺倒も疲れるやろ?」


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
シルフィリアス・セレナーデ(ごはんはポテチの魔王少女・e00583)
コーデリア・オルブライト(地球人の鹵獲術士・e00627)
五代・士(騎士甲冑に写る腕の色・e04333)
黒江・カルナ(黒猫輪舞・e04859)
高辻・玲(狂咲・e13363)
ヴラド・バラウル(業火の化身・e14144)
レピーダ・アタラクニフタ(窮鼠舌を噛む・e24744)

■リプレイ

●桜華蹂躙
 突き立った竜牙を確認し、ケルベロスは駆ける。
「キュッキュリーン☆ 飛んで火にいる春の骨! 骨折り損のくたびれ儲けです!」
 まばゆく光の翼をきらめかせ、レピーダ・アタラクニフタ(窮鼠舌を噛む・e24744)は地に降り立ちながら、花見客に逃げるよう勧告する。もちろん、レピーダは自称ヴァルキュリ星人の駆け出しアイドルなので、『ヴァルキュリ星の挨拶』も欠かさない。
 間髪を入れず、警察や神桜木・光理が避難誘導を開始し、のどかな花見風景はあっという間に緊迫した喧騒に変わった。
「魔法少女ウィスタリア☆シルフィ参上っす」
 キュートなライトニングロッドを一振りし、シルフィリアス・セレナーデ(ごはんはポテチの魔王少女・e00583)はプリンセス変身(と書いて、魔法少女変身と読みたい)して、ミニスカドレスの可憐なコスチュームに着替えると、くるんとスカートをたなびかせてポーズを決めてみせた。
「とんだ花嵐だね」
 肩をすくめる高辻・玲(狂咲・e13363)の隣で、黒江・カルナ(黒猫輪舞・e04859)は、
「恐怖齎す招かれざる客は、無へとお帰りなさい」
 歯をカタカタ鳴らす竜牙兵を厳しく冷たく睨めつける。
「ケルベロス……、言ってモ無駄だろうガ、ドケ」
「お断りね。デウスエクスにはこの桜の美しさが分からないのかしら」
 ため息混じりに、コーデリア・オルブライト(地球人の鹵獲術士・e00627)は頭上の桜を仰いで見せる。
「散る姿も美しいけど、それは自然に散るからよ。こんな殺戮の場で散らしてよいものではないわ」
 二丁のガトリングガンの銃口を、五代・士(騎士甲冑に写る腕の色・e04333)は、竜牙兵に油断なく向け続ける。背の花見客は、少しもたつきつつも安全圏へと逃げている。
 二振りの鉄塊剣を担いで、アーヴィン・シュナイド(鉄火の誓い・en0016)は片目から地獄を噴いて、
「……倒す」
 敵の打倒に気炎を上げる。
「あなたたちも恐怖の糧を得てー、骨身を休めたい所でしょうがー」
 おしとやかに微笑んで、フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)は前衛に立つ。
「花咲の昔話に習いー、骨の端散らしてみせましょうー」
 そう言いながら、鉄塊剣を構えた彼女は、先程までの優美な雰囲気はどこへやら、前頭葉の地獄を額の弾痕から噴き出しながら、爛々と獣のごとく目を光らせた。
「花見の前の景気付けだ、おっさんシケてんなとか言うんじゃねぇぞ!」
 宴の邪魔をさせじ――ヴラド・バラウル(業火の化身・e14144)は、燃えたぎる不屈の魂を仲間へと分け与えた。

●花片粉砕
 加護を受け、フラッタリーは鬼のように猛然と駆ける。
「AhあぁaghaアアAA!!!」
 ダンと足拍子のように足を力強く地面に叩きつけ、高く跳ねたフラッタリーの細腕から、豪ッと鉄塊剣がチェーンソー剣を所持している竜牙兵めがけ振り下ろされる。
 ガシャアアッと鎧と骨が擦れあって轟音。たたらを踏みながらも、さすがにデウスエクス、その程度では壊れない。ギャギャギャとチェーンソーががなりながら、フラッタリーの服を切り裂く。
 シルフィリアスは、彼女めがけて飛んできた鎌をするりと避けるなり、すかさず電撃を放つ。
「攻撃したときに隙ができるっす!」
「さー、花見の花に負けないぐらい、華々しく活躍とまいりましょー☆」
 ぴょんっとレピーダは空に舞い上がると、ゲシュタルトグレイブ持ちめがけて足を叩きつけた。竜牙兵が衝撃によろめいたところを玲の刀が貫く。バリバリと雷の霊力が竜牙兵の体をめぐる。
「おいで――」
 カルナの呼ぶ黒猫の幻が、鎌使いの竜牙兵を無邪気な動きで惑わせ足止めする。
 コーデリアの放つ鹵獲魔術によって、ゲシュタルトグレイブを持つ骨の腕が石へと変わっていく。
「桜の隣でモニュメントにでもなる? ……なんてね。ちっとも似合わないわ」
 とくすりとコーデリアが笑った瞬間、彼女のサーヴァントが竜牙兵にガジガジと齧りついた。
 ガシャンとアーヴィンの鉄塊剣が、竜牙兵の鎧を派手に鳴らす。
「桜の花びら以外に散らせるものなんざぁ……! がふっ」
 前進してくる士めがけ、竜牙兵がグレイブを突き出す。
「……っそ……!」
 突き刺されたまま、士は両手のガトリングの引き金を引きっぱなしにする。このグレイブが届く距離で外すはずもない。蜂の巣になる竜牙兵を睨み、士は血反吐と共に叫ぶ。
「お前等の命を置いて、他に無い!!」
 止まらぬ弾雨に為す術もなく晒され、ガシャガシャと砕け落ちる竜牙兵。
「おう、お疲れ。面白ぇモン見せてやらぁ。ちったぁ足しになるだろ」
 同時に膝を折る士を含めた前衛に、ヴラドのヒールドローンが飛び回る。

●花弁炎舞
 ギャンギャンと唸るチェーンソーを受けながら、フラッタリーは自身の損傷にも構わず、地獄をまとわせた得物で竜牙兵を苛んでいた。
「骨ノ白キヲ灰ノ白キへ。獄炎ニテ焼灼サレヨ」
 フラッタリーが狂気をはらみつつも冷静な顔で、豪炎に包まれた鉄塊剣を押し込んでいく。竜牙兵の骨がメキと軋み、ひび割れる。
 愛らしい魔法少女コスチュームがひらりふわりと広げ、シルフィリアスがポーズを決める。
「これでもくらえっすー。グリューエンシュトラール!」
 二人の攻防の隙をつくように、シルフィリアスはロッドに収束させた魔力を、エネルギー光線と変えて放った。
 続けて、レピーダが飛び込んでくる。
「よーっし、レピちゃんもいっきまーすよー! こっち向いてくださーい☆」
 星の輝きが彼女から放たれる、否、彼女の夢へと邁進する強い笑顔の光だ。
「キュッキュリーン☆ 共に行きましょう――レピちゃん達の、最高の舞台へ!!」
 えへへと笑うレピーダにへたり込みそうになる竜牙兵に、抵抗するなとばかりにコーデリアが猟犬縛鎖を絡みつかせて引き倒す。
「桜の木の下には死体が……って言葉もあったわね、貴方たちが埋まってみる?」
 散った桜の花弁の上に倒れた竜牙兵の上に、ミミックがバラバラザラザラと偽りの金貨をバラ撒いて覆い隠した。
「桜が無事に満開を迎えられるよう、無粋な連中には早々に消え去って頂こうか」
 花も人も、散らせはしない――骨の狂宴は是にて幕引としよう。
 竜牙兵の鎌が玲の首を狙うのを、なんとか玲は刀で払うも、彼の口元には微笑が浮かんでいる。
(「この瞬間こそ、何より自分の生と性分を満たす……」)
 刀剣士の玲のとって、刃と刃がぶつかり合う瞬間程、『生』を感じる時間はない。だが永久に続いて欲しいこの時間は、ケルベロスとして終わらせねばならない。
 ――全てを――。
 玲の全身全霊を賭した一太刀。それは瞬きよりも遥かに短い刹那、一瞬の閃きだったが、見事に鎌使いに浴びせられた。
 親友に続かんと、カルナが鹵獲魔術を詠唱する。
「徒花に実は生らぬ……と言います。花の季節と人の心を、これ以上踏み荒らす事は許しません。悉く砕け散っていただきます」
 突き出したカルナの掌から、剛龍の幻炎が飛び出していく。炎龍は、玲の与えた衝撃でひび割れた竜牙兵に絡みついて、炎柱に変えた。
「さっさとご退場いただくぜ! なんせ、この後花見しなきゃいけねぇんでなぁ……」
 ヴラドは地獄を炎弾と変え、ドラゴニアンの尾を振って放つ。
「おめぇらを肴になぁ!!」
 ダメ押しを受け、竜牙兵は炭化し崩壊を遂げた。
「全く骨が折れますよー☆ 実際折れてるのはそっちですけど!」
 レピーダは全ての竜牙兵が完全に沈黙したことを確認し、安堵の息を吐いた。

●さくらめでませ
 公園での交戦跡を、ヒールで修復し、花見客に平和が戻ったことを通達したケルベロスは、一息吐いて空を見上げた。
「綺麗なもんだな」
 綻ぶ淡い桃色の花たちを見て、アーヴィンが呟く。
 戻ってくる人々の楽しげな声が近づいてくるのを聞き、ヴラドは言う。
「花見か。花見って要はアレだろ? 日本人が日の高いうちから酒を飲む言い訳だろ? 俺も日の高いうちから酒を飲むのは……嫌いじゃないぜ」
 とヴラドはいつの間に購入してきたのか缶ビールのタブを景気良く開けた。
 そしてグイグイと一気に煽って、
「クァーッ!」
 と小気味の良い声と共に、口を拭った。
「日の高いうちから飲む酒のうめぇことよ、なぁ?!」
「い、いや、俺は未成年だから分からねえ……」
 ヴラドに同意を求められたアーヴィンがタジタジと返すのを聞いて、
「……アーヴィンさん、私より年下とはー……」
 フラッタリーが思わずといったように一言こぼした。
「お疲れ様ー!」
 戻ってくる花見客達に混じって、宝来・凛がウイングキャットの瑶を伴ってやってくる。
「玲ちゃん、カルちゃん、必ず成し遂げてくれると信じてたで!」
 笑顔で凛は親友たちの健闘をたたえながら、差し入れの団子を取り出した。
 凛の声に、人形のように動かなかった頬を緩めたカルナは、団子を受け取りながら頷く。
「こうして和やかな空気の中、皆様と桜を楽しむ事が叶い、何よりです」
「そうだね。さて、僕達も一息――花宴を楽しもうか」
 令嬢たちを見て、玲が呟く。
「頭上にも両手にも花とは役得だな」
「玲ちゃんは相変わらずやな!」
 凛がころころと笑う。
 楽しい穏やかな時間に、カルナは胸が暖かくなる思いがして、そっとスマホを取り出した。
「記念に写真を、残しても良いでしょうか?」
 カルナの申し出に、凛も玲も断る理由など全くない。
「喜んで」
 三人と一匹が、壮麗な桜の前でファインダーに収まる。
「桜きれいっすねー」
 シルフィリアスはベンチに腰掛け、足をぶらぶらさせながら、弁当代わりのポテトチップスを、まずは一袋開いた。
 暖かく優しい春風と抜けるような青空、そして桜という春らんまんを堪能しつつ、シルフィリアスは数枚つまんだポテトチップスを口に放り込んだ。
「でも、あちしは、花より団子っすー」
「花より団子と言いますけど、美味しいものがいっぱいあるんですね」
 商魂たくましく、すぐに営業再開した屋台の前で、レピーダは迷っている。いい香りを漂わせる焼きトウモロコシが彼女を誘っている。
「お、ケルベロスの姉ちゃんなら安くしとくよー。ありがとなー」
 と屋台の店主に元気よく声をかけられ、
「ケルベロス以前にアイドルですから、笑顔を護るのは当然です。あ、じゃあ、一つください」
 レピーダは弾けんばかりの笑顔で胸を張りつつ、財布を取り出した。
 戦闘を追い求める凶悪無比なる狂気を、穏やかな笑顔の奥に再び押し込めたフラッタリーは、花を愛でるならばせめて……と手に入れてきた三色団子を口に運ぶ。
「ふー……。骨の燃え割るる音にてー、多少の厄祓いも成せたでしょうかー?」
 ぴょんぴょんとミミックが鳥足に似た足で跳ねれば、散った花弁がふぅわり、ひらりひらり。
 遊んでいるミミックを横目に、桜の下に腰を下ろしたコーデリアは、甘味を食べようと口を開いた。
「疲れた体には甘いものよね。……桜を見ながら食べるのも、悪くないわね」
 コーデリアの向かい側にある桜の下には、
「こうやって飲む酒って、普段と比べてペースが遅くなる気がするなぁ……」
 と言いながらも、すでに空き瓶空き缶を周りに散らしているヴラド。
 そして、士がのんびりと団子をかじっている。
「ん。団子うめえなあ……。良ければ一緒に食う?」
 士はアーヴィンに、団子の包みを差し出した。

作者:あき缶 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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