載霊機ドレッドノートの戦い~ド級乱戦

作者:のずみりん

「回収された弩級兵装の行方が判明した。ダモクレスの狙いは、載霊機ドレッドノートだ」
 載霊機ドレッドノートを警戒していたラズェ・ストラング(青の迫撃・e25336)たちケルベロスからの報告をまとめ、リリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)は集まったケルベロスたちに告げた。
「回収された『弩級超頭脳神経伝達ユニット』と『弩級外燃機関エンジン』はドレッドノートへと転送されていた。これらはドレッドノートを再起動させるためのパーツとみて間違いない」
 幸い、先日の弩級兵装回収作戦でケルベロスたちは弩級兵装の二つを完全破壊し、回収された二つにもダメージを与えている。
 すぐにドレッドノートが再起動することはないだろうが、問題は指揮官型ダモクレスの一体『コマンダー・レジーナ』の存在だ。
「レジーナは『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の修復を行える……時間はダモクレス達の味方だ。このままでは遠からずドレッドノートは本来の力を取り戻すだろう」
 弩級ダモクレスの代名詞でもある『ドレッドノート』が動き出せば、人類はケルベロス・ウォーを発動しなければ対抗できない。まして本来の力を取り戻せば、それすらも怪しくなってくる。
「指揮官型ダモクレス六体は載霊機ドレッドノートの復活まで、なんとしても守ろうと陣を引いているが……座して待つわけにはいかない」
 強襲攻撃……危険だが、復活までにダモクレスの戦力を漸減しなければならない。どれだけを削れるかが来るべきケルベロス・ウォーにも影響してくるだろう。
「強襲作戦について説明する。今回の攻撃目標は五つ……何処に向かうかは突入する皆に一任されている。作戦を確認のうえ、目標を一つ定めてくれ」
 まず第一はクビアラ軍団……突入を阻止しようとする対空砲陣地。
「ドレッドノート周囲には、マザー・アイリスの量産型ダモクレス軍団が既に展開済みで、ケルベロス・ウォーでもないと突破は困難だ。つまり空挺強襲しかないわけだが……ヘリオン対策として踏破王クビアラは8基の砲台からなる対ヘリオン用の対空陣地を構えている。これを突破するための作戦だ」
 攻撃は砲台の直上から接近後、ヘリオンを守りつつ降下、砲台に取りついて守備隊のダモクレスと砲を破壊……と、いう流れになる。危険は大きいが、砲台が残ればドレッドノートに潜入する部隊にも被害が出かねない重要な位置でもある。
「残りの目標四つは占拠されたドレッドノート内部になる」
 歩行ユニットを修復中のエレクトリシアン軍団。
 弩級外燃機関エンジンと連結し、出力を確保しようとしているディザスター軍団。
 弩級超頭脳神経伝達ユニットを守備、修復中のレジーナ軍団。
 載霊機ドレッドノートの中核システムと融合を開始しているイマジネイターと、それを守る配下の軍団。
「それぞれの軍団を撃破すれば、ケルベロスウォーでぶつかるドレッドノートの性能は大きく下げられるはずだ」

 エレクトリシアン軍団なら進行速度を低下させられる。時速100km以上で侵攻し戦闘中に東京中心まで迫れるドレッドノートだが、配下を倒すごとに速度四分の一ずつ減らせ、軍団を全滅させられれば移動自体を封じられる。

 ディザスター軍団ならエンジン出力……ドレッドノートはエンジンが生み出すエネルギーで数多くの戦闘用ダモクレスを生み出してくるため、その出力はケルベロス・ウォー時の戦闘用ダモクレスの数と戦闘力に直結する。また十チーム以上が攻撃を成功させて出力を低下させられれば、機関中枢を守るエネルギー流が停止するため、指揮官のディザスター・キングに決戦を挑むこともできるだろう。

 レジーナ軍団の修復作業はドレッドノートの攻撃力に影響する。修復が完了すればドレッドノートは巨体を自由に動かして攻撃を行い、パンチ一つで直系数kmのクレーターが生みだす力がケルベロスを襲う事になる。
 コマンダー・レジーナを倒せば攻撃を完全に封じられる他、配下を倒す事でも攻撃の頻度を減らし、戦場の安全を確保できるだろう。

 最後のイマジネイターについては直近でケルベロス・ウォーでぶつかる際には影響はない。
 イマジネイターの融合が完了すると、載霊機ドレッドノートはイマジネイターという意志を持つ、弩級ダモクレスに生まれ変わる……それがダモクレス達の作戦のようだが、意志の有無にかかわらずドレッドノートの戦力は強大であり、戦場での行動で差がでることはない。
 ただし融合した状況でケルベロス・ウォーに敗北した場合、イマジネイターの意志を持つ載霊機ドレッドノートが活動を開始し、大きな被害が予想される。
 余裕があれば阻止しておくに越したことはないが、ケルベロス・ウォーの勝利を前提とするなら無視して他に注力するのも一つの手だろう。
 判断は皆に任せる……と言いつつも、注意して行動してほしいとリリエはいう。
「最初にも述べたとおり、今回の作戦は重要拠点を叩く強襲作戦だ。作戦終了後、素早く撤退しなければ敵の勢力圏に取り残されることになる。帰りの事も忘れず頭に入れておいてくれ」
 そこまでを述べて一呼吸。
「私とヘリオンの事は気にするな。いつも通り、行きたいところに送ってやる」
 頼むぞ、ケルベロス。リリエはそう、口元だけで薄く微笑んだ。


参加者
星詠・唯覇(星々が奏でる唄・e00828)
ユーリエル・レイマトゥス(知識求める無垢なるゼロ・e02403)
メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)
アーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)
空木・樒(病葉落とし・e19729)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)
祝部・桜(玉依姫・e26894)
アレイシア・アルフヘイム(成長期・e26995)

■リプレイ

●強襲、ドクターD
 信号弾が駆け上った空をケルベロスたちは一気に舞い降りた。
 信号弾は緑が八発、赤はゼロ。対空陣地は理想的に排除されている。
 邪魔をするものはなにもなく、作戦のバトンはユーリエル・レイマトゥス(知識求める無垢なるゼロ・e02403)たち突入班へと渡されたのだ。
「思い出すわ。この前ミスタ星詠と行った廃園の温室。綺麗なお花がたくさん咲いてたの」
 恐れるものはない。地に足をつけ、数々の戦いと日々を一緒にした星詠・唯覇(星々が奏でる唄・e00828)へと、メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)は甘ったるく謡う。
「メアリ達が負けてダモクレスが地球を支配したら、あのお花も機械になってしまうのかしら。ねぇ、ママ?」
「そんな事になどさせるものか……俺達で守り抜く!」
 唯覇は、メアリベルの頼れる騎士は、悲し気な少女へ生真面目に答え、並び歩みを踏み出していく。
 ケルベロスたちの向かうはドレッドノートの歩行ユニット。修復にあたるエレクトリシアン部隊。他の強襲班と分かれながら、ケルベロスたちはダモクレスの巨体を走る。
「弩級兵器……燃費悪そうな兵器ですね……いろんな意味で……」
「時にそれが許されるのが兵器というものですからね。蟻が像を倒すことがあるのも、ね」
 感心半分、呆れ半分なアレイシア・アルフヘイム(成長期・e26995)の帽子を支えてやりつつ、空木・樒(病葉落とし・e19729)は言う。さながら自分たちは心臓に向かう張り……いや、腱へと流れる一滴の毒か。
「毒、ですか……まぁ、致命でなくても、この先の戦いへの布石という点では……マークさん?」
 言い得て妙だ、と言いかけてアーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)は黒鋼の戦友にふと呼びかける。
 先を行くエイン・メアたちの後ろを守るマーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)の足は止まらない。止まらないが、その挙動にはどこか戸惑いがあった。
「……俺にもわからない。わからないが、何か懐かしいんだ。ここは……」
「不思議ですね。もっと調べて伺ってみたいです、けれど……!」
 応じようとした祝部・桜(玉依姫・e26894)の声が最後、鋭さを帯びる。通路が開けた先は歩行ユニット、修復と迎撃にあたるエレクトリシアンの軍団。

『指揮官を叩くには戦力が足りない』
『ならば一つでも多く部隊を減らす――』
 状況は想定内。ゆえに判断は一瞬、行動は即時。
 ケルベロスたちは三手に分かれ、更に四班、ダモクレス各自へ狙いをつける。
「SYSTEM COMBAT MODE――DATA LINK STAND BY」
 マークの兵装システムが叫び、仲間たちの情報を五感で共有する。自分たちの狙うは一つ、護衛を引きはがされた異形の部隊長。
「殺せ。分かってるな?」
「……」
 護衛を足止めする竜人が激励と呼びかける。だが、そのダモクレスの姿に、ユーリエルは硬い表情で頷くしかなかった。
「貴方までこの作戦に参加しているとは思いませんでした、ドクター……D」
「ふんっ……何をと思えば、レギオンの失敗作の残骸か」
 髑髏を前面に掲げた異形の破壊マシン、そのコクピットらしき部分に接続した科学者型デウスエクス『ドクターD』
 レプリカントとなった今も、ユーリエルは記憶している。
 全てのデウスエクスのグラビティや種族能力を吸収する『プロジェクト・レギオン』……悪魔の計画の一端で、自分を製造したのは彼だったと。

●ドクターのDは何のD?
 仲間たちが護衛を完全に抑えてくれた今、ドクターDに手駒はない。
「事情は察しましたが……ドレッドノート、完全復活させるわけにはまいりません。往きます!」
 必勝必生の決意を込め、双葉の指輪輝く桜の右手が、使い込まれたコートより黒塗りの鎌を抜く。
「おっと、危なっかしいわ」
 絵が描かれる軌道にドクターDが文字通り、飛んだ。実験室であり工作機械である外骨格……名をつけるなら『Dマシン』とでもなるのか、この奇怪な物体は。
「OPEN FIRE」
 マシンは見た目以上の速度で低空をひらひらとホバリングし、稲妻を帯びた怪光球を放ってくる。迎撃するマーク、ライフルの弾幕をすり抜けた子弾が『HW-13S』ショルダーシールドに爆ぜた。
「ドクターD……ミスタはマッドサイエンティストなのね? お仲間は忙しいようだけど、一体どんな素敵な発明を見せてくれるのかしら?」
 重く、鋭く。打ち合うレプリカントとダモクレスに対し、メアリベルはルーンアックスを振るって肉薄する。謡うような調子で振るわれた殺戮の刃は怪光球を切り裂き、そのままマシンの装甲へと。
「あら……ずいぶんお堅いのね」
 だが、切れない。高度さという壁はあるにしろ、この一打で傷一つつかないとは。
「装甲解析……この構造、材質、正面からの破壊は困難です。ですが、突破口は何処かあるはず……」
 異形の戦友『アンダー・メタル』が展開するオウガ粒子のなか、ユーリエルは幻影竜の炎を放ち、同時に分析する。敵を倒し、技術を吸収する。与えられた本質を牙に、与えたものへと喰らいつく。
「姿を消してなお変わらずか……ふん」
「私は……この地球で沢山の人と沢山の『心』を得ました。もう……貴方の下へ戻るつもりはありません!」
 灼熱の吐息が軽々と跳ねのけられる。らしからぬ荒げた声での宣戦布告は気負いか、焦りか。ドクターDはその彼女の決死を酷薄に言い捨てた。
「得たものは自惚れだけか、不良品の鉄クズめ。ワシという天才にとって、貴様など目障りな汚点だわ!」
「貴様ァ!」
 吐き出される言葉に唯覇が突っ込む。メアリベルを飛び越えるように入れ替わり、義憤と勢いを乗せた『スターゲイザー』。側方からの激しい衝撃が、繋がらぬ対話を強制中断させる。
「その戦力、削ぎ落させてもらう……ッ」
 飛び退く身体、それを追って放たれた『何か』を反射的にゾディアックソードで弾く。このダモクレスの知性、いやな予感がするのは何だ?
「できるものならの……ソッチの娘さんはああいうが、ワシは一人などではないぞ?」
 意味ありげにメアリベルへと笑うドクターD。咄嗟、身を投げた後の床をルーンアックスが叩き割った。
「あら、どうなされたの? 心、心強い、騎士……さま……?」
「TARGET、T、T……L、L、LOCK……」
 様子がおかしいのはメアリベルだけではない。ドクターDを包囲したマークの兵装から20mmガトリング砲がケルベロスたちを向く。かわしきれぬ唯覇を庇い、テレビウム『カラン』の身体が吹っ飛んだ。
「ほう、この量産機は『アタリ』じゃな。よう整備されておる……」
「ただの催眠です、惑わされないで……っ」
 斉射される焼夷徹甲弾から身を躱し、桜が長広舌を遮った。あくまで自分は攻撃に集中、『おにんぎょうあそび』の巨大な怨霊の手が、ドクターDを抑え込むようにつかみ取る。
 大丈夫だ、自分たちには心強い癒し手がいる。
「あれです! あの小さい何か……!」
「なるほど、手品のタネはこれですか」
 アレイシアの目ざとい指摘、相棒『ジェミニ』が彼女への攻撃を庇う隙に、樒は薬匙の雷杖『セミラミス』から雷の護りをを放つ。マークの追加装甲を輝きが走り、その表面で何かが爆ぜた。
「……CONDITION RECOVERY」
「ごめんなさいな……ミス……ミスタ……」
「気にしないでください、それより!」
 解放された二人を鼓舞し、アーニャはアームドフォートを大きく広げる。これ以上、この狂科学者に好き勝手をさせてはならない。
「こう簡単に落とされるとは、耐久性に改善の余地ありじゃな」
「あなたという人は……時よ、凍れっ!」
 平然と言うドクターDに、高ぶる声で力を叫ぶ。大量のグラビティと引き換えに、静止した時の世界に飛び込む彼女の力。
 彼女以外認知できぬ時間を駆け抜け、砲、銃撃、ミサイルの雨を叩き込む。時が動き出す瞬間、ドクターDには瞬間移動してきたがごとき超至近の弾幕だけが認識される、はずだが。
「時空間干渉! なかなかの完成度よ……っ」
 炸裂する一斉射撃。だが、ドクターDは叫ぶ。爆風の叫ぶわずかな時間をおかず、切り裂くドクターDのマシンは飛び出した。
「そんな……!」
「だがワシこそは天才科学者ドクターD! ダモクレスのDであり、デンジャラス、ダイナミック、ド級のD! 超ド級の天才にとって、そこは通り過ぎてきた道じゃわい!」

●守り、破り、その次は
「は……ハッタリ、ですよね?」
「当たり前です……!」
 マシンの吐き出す風に慌てたアレイシアの声に、思わずユーリエルは返してしまう。当たり前だ、サイズも脅威も本物のド級……今なかにいるドレッドートと比べるべくもない。
 だが、最後だけは否定できない……もっとも否定したいのに、できない。
 この超ド級の天才に有効な『力』は何だ? 何を、どう使えばいい? アーニャの身体を跳ね飛ばし、マシンは縦横無尽に暴れまわる。
「空間への支配は完璧に近いが、いかんせん燃費が悪すぎるわ。そんな一瞬の斉射で抜かれはせんよ」
「なら、火力アップです。ジェミニちゃん!」
 一つ、ケルベロスたちに共通する理解は、敵を好き勝手に暴れさせてはまずいということ。ジェミニの渡した属性が戦士たちにインストールされ、更に高速詠唱の『マイナーヒール』
「偉大なる恵みと癒しの力よ……もう洗脳はさせません、以下省略ッ!」
「生意気な娘っ子が……では黒焦げになるがいいわっ!」
 宣言と共に無数のアームが怪光球を次々と投げつける。守り手たちのグラビティと激突し、光が爆ぜる。
「ママ、ママ……お願い……アイツ、殺したいの」
 衝撃にも動じず、メアリベルは閃光の中を進む。背後に従い『ママ』のビハインドが願いに答え、散らばったガラクタを操り叩きつけていく。
「なんの、ならばDバリア!」
 低空を小刻みにかわし、かわしきれぬとみるや不可視の障壁。少女の殺意もドクターDに届かないのか。
「なら、もっとだ……美しく舞う桜の様を!」
 傷ついた身体を押しカランのモニタが唯覇を必死に応援する。それにあわせ、彼が謡うは桜を綴る演歌の音。旋風が竜巻となり、乱気流にドクターDを巻き込んでいく。
「ぬぁーんじゃとぉ!?」
「すごいわ、ミスタ、ママ……思いっきり殺せるわ」
 ドクターDに初めて焦りが見えた。最初は見下ろしていたメアリベルが見下ろす位置にいる。死神の処刑斧の如く、ルーンアックスを振り上げて。
「バ、バリアじゃ!」
「リジー・ボーデン斧を振り上げお母さんを40回滅多打ち! メアリは41回滅多打ち!」
 赤黒く不吉な怨念の刃がガンガンとマシンをぶったたく。バリアと風防ごしとはいえ、戦慄する光景だ。
「……見えました?」
 そのみなぎる殺意を対照的に見る瞳が二対。猛攻が生み出した隙に『王薬【elixir】』を次々処方していく樒が一人。そして彼女が見やったのが、もう一人。
「肯定……解析を完了しました。勝てます」
 ガントレットを纏った手を握り、ユーリエルは確信をもって答えた。

●離脱
「勝てる? その安穏と過ごした日々の知識でかの? ……えぇい!」
「あっ……」
 言う間もメアリベルの連打は続く。砕け散るバリアと引き換えにドクターDは少女の身体を振り払い、身構える。
「メアリさんの斧は当たり辛く、ドラゴンの炎やアーニャさんの一斉射は効果が薄い……」
 この二つの特性を含まない攻撃ならば。薙ぎ払うのでなく、鋭く一点を貫く一撃ならば。
「ROGER、IDENTIFER INPUT」
 マークの目が赤く燃えた。
「ぬ!? お主、まさか……!?」
「EX-GUNNER SYSTEM 『BETA』……STAND BY」
 怪光球を弾き、ウェポンラックから無人機が飛び出す。かつて桜たちと共に挑んだ強敵の制御システムが一糸乱れぬドローン編隊を作り出し、並び立つ。
「その節は大変お世話になりましたね……今になれば、頼もしいですが」
 無人機たちのレーザー光に導かれ、桜の『御業』が食らいつく。宙に固定されかけたマシンに、真下からの光線がもう一条。
「ドラゴンさんがダメで、大砲もダメ、だと……うん!」
「えぇい、勝手に納得するでない! ……ノズル排除!」
 アレイシアに突っ込みつつ、的確に被弾部位を切り捨てる。この思い切りもドクターD、天才たるところか。
「先に言わせてもらいますと、洗脳はもうムダですよ」
「本当に……厄介なヤツを連れてきおって」
 だが、その更に先を読む。アレイシアの護りへ雷の障壁を重ねた樒の無慈悲な微笑みに、悪辣なダモクレスから思わずといった声が漏れた。
 残るアームを切り裂き、唯覇が叫ぶ。既に分断された護衛達とも決着がつきつつある、残りは唯一人。
「止めを、ユーリエル!」
「最も効果的なグラビティを検索……起動」
 応えるユーリエルが現出させた力は雷をまとった雷電の猛獣。
「ヴァ、ヴァンガードレイン……!」
 ドクターDのうめきを、機械仕掛けのトナカイは嘶きで肯定する。ヴァンガードレイン回路、ユーリエルの能力が、かつて挑んだ強敵をこれ以上になく再現する。
「ま、待て……!」
「雷電の角よ……今こそ別れの一撃を。『L・スタンピード』……発動……!」
 うろたえた声を切り捨てるように、雷獣は駆けた。
 一切の慈悲なく、大角が風防をぶち抜き、ドレッドノート内壁へと叩きつける。防御も何もない零距離で、極大の雷撃は炸裂した。
 マシンを、ドクターを、雷の主自身を飲み込む爆発。
「そこまで……進化……エル……」
 ユーリエルが目を伏せたのは、眩しさからだけではないだろう。

 一時、しかし体感的にはずいぶんな時間にも感じる無言の瞬間。
「メアリは唄うわ機械の唄を……ラララ……ラララ」
 鎮魂歌のようにメアリベルの声が響く。ダモクレスが心を得たのがレプリカントなら、はたしてダモクレスは歌を理解するのだろうか。
「……さぁ、私たちも離脱しましょう。調査もしたかったですけど、時間はなさそうです」
 アーニャは気持ち、強い声で呼びかける。ダモクレス達のほとんどは倒しきったが、まだ指揮官ジュモー・エレクトリシアンと精鋭の護衛は生きている。満身創痍で長居は無用だ。
「私たちが最後になってしまいましたね、急ぎましょうか」
 まぁ精々数分の差だ。支援される側になってはしまったがと、樒は癒したサーヴァントたちと後退する。その判断にユーリエルも異存はなかった。
「博士……ありがとう」
 かすれ消えたダモクレスの声を記録し、彼女もまた歩み出す。
「退路はこじ開けます、テロス・クロノス!」
 置き土産と打ち込まれたアーニャの一斉射撃が通路の先を覆い隠す。
「そして……さようなら」
 振り返るのは一度だけ。そのすべてを記憶にしまい、ユーリエルは帰路を走った。

作者:のずみりん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月14日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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