載霊機ドレッドノートの戦い~その歯車を破壊せよ

作者:波多蜜花

「皆も知っての通り、弩級兵装回収作戦は参加してくれた皆のお陰で『弩級高機動飛行ウィング』と『弩級絶対防衛シールド』の2つを破壊する事ができたんよ」
 信濃・撫子(撫子繚乱のヘリオライダー・en0223)が集まったケルベロス達に向けて明るい表情を見せた。けれど、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』と『弩級外燃機関エンジン』には大打撃を与える事ができたものの、コマンダー・レジーナと共に回収されたのも記憶に新しい出来事だ。
「この回収された弩級兵装が、載霊機ドレッドノートに転送されとった事が載霊機ドレッドノートを警戒しとった黒住・舞彩(我竜拳士・e04871)と他5人のケルベロスによって判明したんや」
 これにより、指揮官型ダモクレスの目的が判明した。それは弩級兵装を載霊機ドレッドノートに組み込むことにより、載霊機ドレッドノートを再び起動させる事――。
「もし、この載霊機ドレッドノート……ドレッドノートって呼ぼか。これが動き出すような事があったら、ケルベロス・ウォーを発動せんと対抗する事はできへんやろね」
 撫子の密やかな声が、これから起こりえる出来事が如何に世界を揺るがしかねない物になるかを物語る。
 ドレッドノートがすぐに動き出す事はないだろう、しかし『弩級超頭脳神経伝達ユニット』及び、それを修復可能なコマンダー・レジーナを撃破できなかった為、敵に時間を与えてしまえば、ドレッドノートは本来の力を取り戻してしまうのは間違いない。
「せやからこそ、今このタイミングでドレッドノートへの強襲作戦を行う事が決まったんや」
 来るべきケルベロス・ウォーによる決戦の前に、ドレッドノートを守るダモクレス達にどれだけの打撃を与えられるか。それが今後の戦いの行末を決める事になるのは間違いないだろう。


「現在のドレッドノートなんやけど、ダモクレス軍団によって制圧されとるんよ」
 ドレッドノートの周辺にはマザー・アイリスの量産型ダモクレスによる軍勢が展開し、強固な防御陣地となっている為、ケルベロス・ウォーを発動しなければ攻め込む事は困難な状況だと撫子が手帳を捲る。
「ヘリオンからの降下作戦を予定しとるんやけどな、踏破王クビアラが対ケルベロス用の作戦として、ドレッドノートの周囲に『ヘリオン撃破用の砲台』を設置して構えとるみたいなんや。ご丁寧に強力なダモクレスがその守備と砲台の操作にあたっとる……つまり、この砲台を壊す必要があるんよ」
 この砲台がある限り、ドレッドノートに直接ヘリオンで降下する作戦は大きな危険にさらされるだろう。それどころか、作戦終了後に撤退するケルベロスを回収する事も難しくなる。砲台制圧の為には、砲台直上まで突入したヘリオンからケルベロスが降下し、ヘリオンはそのまま離脱する作戦を行う必要がある。
 降下するケルベロスは空中でヘリオンへの攻撃を防ぎながら砲台に取り付き、砲台を守るダモクレスを撃破し、砲台を破壊せねばならない。
 砲台を破壊できればヘリオンによる強襲降下作戦により、ドレッドノートへの潜入が可能になるのだ。
「潜入後の攻撃目標は4つや。1つ目はドレッドノートの歩行ユニットの修復を行っとるジュモー・エレクトリシアンとその配下やね。この部隊を攻撃する事でドレッドノートの動きを阻害する事ができはずや」
 ジュモー・エレクトリシアンは弩級高機動飛行ウィングが完全破壊された為、ドレッドノートの失われた飛行能力の代わりに、二足歩行システムの修復を行っている。
 この二足歩行システムの修復は広範囲にわたる為、ジュモー・エレクトリシアンの配下のダモクレス達が、昼夜を徹して修復にあたっているのだ。修復を行っているダモクレスを撃破する事で、ケルベロス・ウォーを仕掛けた時点のドレッドノートの移動速度を下げる事が可能となるだろう。推定されるドレッドノートの二足歩行時の最大速度は『時速200km』を超えるとされ、完全な状態まで修復する事は不可能でもジュモー・エレクトリシアン達の修復により、時速100km以上での移動は充分に可能な状況と言えるだろう。そうなればケルベロス・ウォーの戦闘中に東京の都心部まで移動可能な速度となる為、修復するダモクレスを破壊する事は重要な作戦となる。
 2つ目はディザスター・キングが守る『弩級外燃機関エンジン』で、ディザスター・キングの軍団は自らが『弩級外燃機関エンジン』の一部となる事によって、必要な出力を確保しようとしているのだ。彼らを撃破する事で、ドレッドノートの出力を引き下げる事ができるだろう。起動したドレッドノートは、このエンジンから生み出されたエネルギーを利用して数多くの戦闘用ダモクレスを生み出す事になる為『弩級外燃機関エンジン』の出力は、ケルベロス・ウォー時の戦闘用ダモクレスの数と戦闘力に直結する事になるのは間違いない。『弩級外燃機関エンジン』を完全に止める事はできないが、可能な限り多くのダモクレスを撃破し、その出力を弱めなくてはならない。
 3つ目の攻撃目標は、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の修復を行っている、コマンダー・レジーナとその軍団。『弩級超頭脳神経伝達ユニット』が修復されれば、ドレッドノート自身が巨体を制御してケルベロス達に攻撃できるようになるため、危険度は一掃大きくなってしまう。コマンダー・レジーナはドレッドノートの脊髄の部分に配下のダモクレスを護衛とし、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の修復作業を行っており、修復が成功した場合、ドレッドノートはその巨体を自由に動かし、攻撃を仕掛ける事が可能となるだろう。
 ドレッドノート級の攻撃は腕を振り回して殴りつけるだけで巨大なクレーターを作るほどの打撃になるばかりか、それによって殺害した人間のグラビティを奪う能力があるという。この能力を持ったままドレッドノートが活動し続ければ、ドレッドノートはより強力な力を獲得しつつ、永久に破壊活動を行う事が可能だろうと撫子が眉を顰めた。
「そして最後やけど、弩級兵装回収作戦で動きのなかった指揮官型ダモクレス、イマジネイターや。どうやらな、イマジネイターはドレッドノートと1つとなって、自らがドレッドノートの意志となるべく融合しようとしとるみたいなんよ」
 イマジネイターの融合が完了すれば、ドレッドノートはイマジネイターという意志を持つ、弩級ダモクレスに生まれ変わる事となり、阻止すればドレッドノートは、意志を持たない兵器となる。勿論、兵器としても弩級の能力がある為、危険度はあまり変わらないかもしれないが、ケルベロス・ウォーに敗北した場合でもドレッドノートが意志をもって動き出す事が無い為、被害は限定されると予測されている。
 イマジネイターを撃破するためには、イマジネイターを守る全てのダモクレスを撃破する必要があると撫子が言う。イマジネイターを守る全てのダモクレスを撃破する事ができれば、融合途中のイマジネイターを撃破する事は難しくはないだろう。
 イマジネイター軍団は個々の連携が取れないため、敵の数が多くても1体ずつ相手取って戦闘を仕掛ける事が可能なのだ。しかし、強敵のダモクレスを相手にして連戦で勝利するのはケルベロスと言えど困難であり、イマジネイターの撃破を目指す場合は相応の戦力を投入する必要がある。
 現時点では危険度は低いけれど、万が一ケルベロス・ウォーに敗北するような事になれば自ら意志を持つ弩級ダモクレスが出現する事になってしまう。どの行動も重要な作戦となる為、チーム毎でどの作戦を行うか相談をする必要があると撫子は言葉を切った。
「今回の作戦は、重要な拠点をピンポイントで攻撃する奇襲作戦になるよってな、作戦終了後は素早く撤退せんと、敵の勢力圏に取り残されてしまうよって注意せなあかんよ」
 危険な任務になるだろう、けれどこの任務をやり遂げる事ができるのはケルベロスしかいないのだ。撫子が手帳を閉じると、集まったケルベロス達を見つめる。
「皆やったら大丈夫やって、信じとるよってな!」


参加者
大義・秋櫻(スーパージャスティ・e00752)
レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)
志藤・巌(壊し屋・e10136)
一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)
ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)
シマツ・ロクドウ(ナイトバード・e24895)
ユアン・アーディヴォルフ(生粋のセレブリティニート・e34813)

■リプレイ

●ドレッドノートへの潜入
「上がったな」
 双眼鏡で上空を観測していた志藤・巌(壊し屋・e10136)がヘリオン撃破用の砲台破壊へと向かったチームが上げた信号弾を確認し、仲間へと伝える。
「全弾緑、成功したみたいです」
 上がった信号弾の色と数を見て、羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)がドレッドノートの入り口で待機していた他の2チームと顔を見合わせ頷くと、内部に向かって走り出した。
「他のチームの方々も頑張っているみたいです、私達も頑張りましょう」
 目的とする場所へ向かう途中、戦いの激しさを物語るような爆音が響き、大義・秋櫻(スーパージャスティ・e00752)がここ一番の大事な任務だと気を引き締めて進んでいく。暫くすると、機械神殿のようにも思える不思議な空間に出た。
「雰囲気が、変わったね」
 他チームである陽葉の声が響き、シマツ・ロクドウ(ナイトバード・e24895)が辺りを警戒するように見渡した。
「……どうやら我々の相手のお出ましのようだな」
 コロッサスの注意を促す声にユアン・アーディヴォルフ(生粋のセレブリティニート・e34813)が分かたれた部屋の1つを指で示す。
「こちらの敵はお任せください、私達が参ります」
「コロッサス様、ユアン様。では我々は、こちらの御仁を相手にいたしますが、大丈夫でしょうか?」
 ちらりと二人を見るラギッドに、巌がニヤリと笑ってみせた。
「おう、こっちは任せときな。さっさと倒して合流するから、やられんなよ」
 師団を同じくする仲間のそれは軽口に思えたけれど、その瞳は真剣でラギッドは了解したとばかりに頷いた。
「行くぜ、時間を無駄にはできないからね」
 シンプルな黒の革手袋を嵌め直したハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)が促すと、同チームの仲間が走り出す。後ろで聞こえた剣戟には振り返らない、他チームの仲間を信じて自分達が倒すべき敵の元へと駆けた。ピピピ、と響く電子音のその先に、彼らの目指す敵……トレジャー・ハンターが居た。
「ケルベロス、8体、確認。我らの作戦に不要と判断――、自己判断により、これを破壊する」
 のっぺりとした顔に1つだけ輝く赤い光りは目の役目をしているのだろうか。人型の、どこかスチームパンクめいたものを感じさせるダモクレスが、ケルベロス達を敵と認識しこちらに向かって巨大なガトリングガンを向けた。
「ここで手間取っている場合ではないです、こちらには3チームしかいないですから」
 同じ様に武器を構えたレベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)がそう言えば、一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)も後方からの支援体勢を取った。本来ならもう1チーム欲しかったところだが、そうは言っていられない。
「ない物ねだりをするよりも、わたし達に出来る事をいたしましょう」
 ね? と瑛華がハンナへ微笑み掛ければ、その艶のある笑みを受けてハンナが笑う。
「違いないね、それじゃ始めるとしようか」
 対照的な美人2人の笑みがトレジャー・ハンターを射抜く。それはまるで、戦いのゴングが鳴らされたかのようだった。

●回る歯車の先
 最初に動いたのはゲシュタルトグレイブに雷の霊力を纏わせた紺だ。怯む気持ちに蓋をし、このドレッドノートのどこかで同じ様に戦いを繰り広げている、大切な人を思う気持ちを力に変えてその鎌を振るう。
「あなた達の企みを見過ごすわけにはいきません!」
 この作戦の後に行われるであろうケルベロス・ウォーの為にも、とダメージを与えれば、続くように巌が炎を噴き上げる篭手を嵌めた拳を唸らせる。
「壊し甲斐のある奴は嫌いじゃねえぜ!」
 壊し屋の名を冠した彼の『磊落瀑布(ライラクバクフ)』が、トレジャー・ハンターを翻弄するように上下にコンビネーションを決めながら炸裂した。傷を負っている者はいないと判断した瑛華が、それならばと武器を構える。
「……捉えました」
 銃が持つ本来の有効射程を完全に無視した遠距離からの精密狙撃――『遠距離狙撃(ロングレンジ)』による弾丸がトレジャー・ハンターの勢いを挫く。
「ハンナ、あとは宜しく」
「任せときな」
 瑛華との短いやり取りの中、ハンナが如意棒をくるりと回しトレジャー・ハンターへと向ける。
「伸びろ」
 ハンナの言葉のままに、如意棒がぐんっと伸びて敵を真っ直ぐに突いた。ケルベロス達の攻撃を受け、踏み止まったトレジャー・ハンターが巨大なガトリングガンの引鉄を迷わずに引く。激しい音と共に、数え切れない弾丸が紺とハンナに向けられた。
「させません。敵性体確認。リミッター解除。戦闘モードへ移行します」
 瞬時に秋櫻がハンナを庇う。大鎌を盾のように振るう紺と秋櫻を襲う銃弾の嵐が止めば、反撃とばかりにレベッカが動いた。
「動かないでくださいね。……動いても撃ちますけれど」
 『折り畳み式のアームドフォート』を展開し、自身の身体に固定するとトレジャー・ハンターを狙って放つ。主砲から一斉に放たれた砲撃はまるで吸い込まれるように敵へと着弾する。
「近接高速格闘モード起動。ブースター出力最大値。腕部及び脚部のリミッター解除。対象補足……貴方は私から逃れられません」
 近接からの流れるような動きの打撃、そして美しさすら感じる蹴りを超高速で交互に織り交ぜて敵に浴びせ続ける、『スーパージャスティハイパーバレットラッシュ』を秋櫻がトレジャー・ハンターへ叩き込む。
「どうも、トレジャー・ハンターさん。シマツです」
 まるで世間話でも、と挨拶をするようにお辞儀をすると、
「では破壊しますね」
 と、笑顔で言うや否やシマツが光の翼を暴走させた。全身を光の粒子へと変化させ、敵を一閃の元に叩き伏せる『ハネキリ』が発動する。光の粒子となったシマツが敵に斬撃を浴びせる度に、何度も美しい光が弾けた。
「大義さんに傷を付けた報いは受けてもらいますからね。ヴィル!」
 ユアンに名を呼ばれたテレビウムのヴィルヘルムがぴょこっと手を上げて応えると、ユアンが頷いて握り締めたドラゴニックハンマーを砲撃形態に変形させ、竜砲弾をトレジャー・ハンターへと放つ。ひょこっと前へ出たヴィルヘルムが秋櫻の傷を癒す為に元気が出てくるような動画を流して応援した。
 受けた傷は少し痛んだけれど、これくらいならば平気だとばかりに紺が砲撃形態に変形させたドラゴニックハンマーを構えると、竜砲弾を放つ。通常であれば避けられたであろうその攻撃は、足止めされた事によりトレジャー・ハンターの足を掠める。動きが鈍くなっている敵に向け、巌が『灼炎の篭手』と『隕焔の篭手』を嵌めた拳を胸の前で合わせると口元を僅かに笑みの形に歪めて走る。振り被った拳は魂ごと喰らうような、破壊の一撃を放った。
 仲間が受けた傷を癒す為、今回の癒し手を請け負った瑛華がケルベロスチェインを地面へと走らせる。それは即座に紺と秋櫻を守護する魔法陣を描き出し、2人を守り癒す力となった。
「おっと、癒し手がよく似合ってるね」
「見た目だけは、ね」
 ハンナの軽口に瑛華が答えれば、ハンナが不敵な笑みを浮かべてトレジャー・ハンターへ白く煙るバトルオーラ『硝煙』を弾丸のように撃ち放つ。
「危険、ケルベロスは危険な存在と認識。速やかなる排除を要する」
 トレジャー・ハンターの赤い目が光ると、ガトリングガンをレベッカへと向けた。
「おっと、させる訳にはいかねえな」
 その銃口の先に微塵の恐れも抱かずに巌が立ち塞がる。連射されるそれを自らの武器と防具で受け止め、血が流れても呻き声1つ上げないのは盾として倒れないという、彼なりの矜持。
「ありがとうございます、助かりました」
 気にするな、と言う声を聞きながらレベッカが虹色の光線を発射する『レインボーバスターライフル』をトレジャー・ハンターへ向ける。
「お返しです」
 呟くようなその声と共に『レインボーバスターライフル』から発射された魔法光線が敵に発射された。続けて秋櫻が超攻撃力重視の三連式超大型ガトリング砲『SJ7・GC・J-Enforcer』から、敵に攻撃を見切られぬようにと爆炎の魔力を込めた大量の弾丸を連射するが、命中率が低くトレジャー・ハンターに軽く避けられてしまう。
「精度を上げねばなりませんか」
 目を細めてそう言った秋櫻の後ろから、シマツが巨大で禍々しい腕型の祭壇兼武器『断手』に空の霊力を帯びさせると、仲間達が攻撃した跡を狙いなぞるように傷を広げていく。それに続いてユアンが簒奪者の鎌を頭上で風を切るように回転させ、トレジャー・ハンター目掛けて投げると、ヴィルヘルムが応援動画で巌の傷を癒す。
 壁を隔てた向こうでは、他のチームが奮闘している。そう思うと早く目の前の敵を倒し援護に向かわなくては、という思いがケルベロス達を突き動かしていく。

●歯車を穿て
 数度の交戦を経て、ケルベロス達もダモクレスもお互いダメージを負っていた。けれど、ケルベロス側にはまだ余力があるように見えるのは間違いではないだろう。そして、ダモクレスであるトレジャー・ハンターがそれなりの深手を負っているのも。
「もう少し、と言ったところでしょうか」
 レベッカが無数の針を打ち出すタイプの『ニードルガトリングガン』から爆炎の魔力が込められた弾丸を大量にばら撒きながら言えば、
「油断は禁物ですが、その可能性は高いように思います」
 と、秋櫻が答えて自分用に調整され背面に装備された巨大なキャノン砲『SJ7・DRAGON-CANNON』の主砲をトレジャー・ハンターへ向け一斉に発射した。
「もうちょっと足止めしておきましょうか」
 深手を負っているであろう敵ではあるが、仲間の攻撃が掠る事を考えて、シマツが光の翼を暴走させる。
「斬らせていただきました」
 光の奔流のような『ハネキリ』により、光速の斬撃を与えたシマツが柔らかく微笑む。それはこの戦場にあって不釣合いのようにも思えたが、彼女からは違和感よりも日常を感じさせられた。
「そうですね、油断は禁物ですけれど……畳み掛けるならば今だと思います」
 ならば、とユアンが白く美しい竜の翼をふわりと揺らす。それは連続した衝撃波となってトレジャー・ハンターの足元に打ち出されていく『Dummkopf's Schritt(ドゥムコプフストゥ・シュリット)』だ。
「ダンスは得意かい?」
 その衝撃波を避けようとまるで下手なステップを踏んでいるように見える敵にユアンが問い掛ければ、ヴィルヘルムが紺に向かって応援動画を流した。
「いい加減、倒れてもらわなくちゃ困ります」
 他のチームと合流し、智の門番アゾートを倒さねばならないのだ。紺の足元から、黒い影が蠢いた。
「迂闊に踏み込んだ報いを受けなさい、私の世界は甘くないです」
 トレジャー・ハンターに向かって黒い影『貪欲な寓話(ドンヨクナグウワ)』が蔦のように絡み付くと、その力を奪い取る。
「全くだぜ、他のも壊さなきゃなんねえんだからな!」
 叫んだ巌の拳が再び上下のコンビネーションを生み出し、『磊落瀑布』による連続攻撃が放たれていく。
「地獄の底まで落ちていけ」
 止めとばかりに両の拳を握り締め渾身の力で叩き付けるが、トレジャー・ハンターはそれでもまだ倒れはしなかった。
「中々にしぶとい……そうでなければ、ここに配置されてはいないのでしょうけれど」
「そうだね、だけど」
「ええ」
 瑛華とハンナの視線が交錯すると、瑛華が『遠距離狙撃』によって敵の足元を貫く正確な射撃をみせた。
「やっぱりあんたはそっちの方が似合ってるぜ、相棒!」
「こちらの方が、得意なので。あなたもね、相棒」
 黒の革手袋を嵌めたハンナの拳が唸る。重く鋭い、鍛え抜かれた拳による一撃『鉄の拳(フィフティ・キャリバー)』がまるで黒い弾丸のようにトレジャー・ハンターを貫く。
「悪いな、あたしは素手の方が強い」
「グ、ガ、ガガガ、キケン、キケン。ハイジョセヨ、ハイジョセヨ!」
 壊れる寸前まで追い込まれたトレジャー・ハンターが巨大なガトリングガンを振り回し弾丸をばら撒くが、それは全て秋櫻と巌が防いでみせる。
「これで終わりです」
 レベッカが自身にセットした『折り畳み式アームドフォート』の主砲を敵に向ける。
「では、撃ちますよ」
 その言葉と同時に、主砲から一斉に放たれた砲弾がトレジャー・ハンターの壊れかけの身体を撃ち抜き、その活動を停止させたのだった。

●未来の為の選択
 トレジャー・ハンターを倒したケルベロス達は、来た道を走る。本来なら4チームで当たるところを3チームで来たのだ。ならばその皺寄せが他のチームにいっていたとしてもおかしくはない。
「どうか無事で……!」
 他チームに友人がいるユアンが祈りながら顔を上げたその瞬間、飛び込んできた景色は惨憺たるものだった。ユアンだけでなく、レベッカや瑛華も息を呑む。赤い鎧に幾つもの傷を作り倒れたコロッサスの姿、そして同じ様に倒れているジョーと流石、光の姿があった。特に盾役を担っていたのであろう2人は意識がないようで、彼らの仲間達が必死に智の門番アゾートに向けて牽制を掛けている。
「こっちにアゾートとブレイン・ハンターが来ちまったのか」
 何かしらフォローを入れる作戦を立てれば良かったのか、何が最善だったのか――苦虫を噛み潰したような表情で巌が仲間達へどうする、と視線を送る。このまま戦うか、撤退か――。
「……戦闘不能者を4名抱えて、アゾートとブレイン・ハンター2体との戦闘は得策とは言えません。誰一人死なせるわけにはいかない、そうでしょう?」
 紺が苦渋の、されど未来を見据えた撤退を進言する。ここで退いても恥ずべき事にはならない、ケルベロス・ウォーが彼らを待っているのだから。
 決断してからの動きは早かった。ユアンと秋櫻がロードスを、ハンナと瑛華がジョーを庇いながら撤退する為の道を開く。レベッカとシマツが遠距離攻撃でアゾートを牽制しながら下がっていく。
「必ずてめぇらをぶっ壊してやるからな」
 殿を務める巌がアゾートとブレイン・ハンターを強く睨み、紺がもう1度だけ振り返る。撤退する彼らよりも、修復作業のほうが優先事項なのだろう、追ってくる気配は無い。重い沈黙の中、ウェポン・ハンターと戦っていたチームが駆けて来るのが見えた。
「あちらは無事のようですね」
 感情の起伏が少なく、どんな時でも笑顔を崩さないシマツが僅かながら安堵の笑みを浮かべる。
「……ケルベロス・ウォーで」
 誰かがそう言った。その言葉は、走るケルベロス達の胸に広がる。
 ケルベロス・ウォーで必ず決着を。それは未来の為の選択に他ならなかった。

作者:波多蜜花 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月14日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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