●戦の前に
先日行われた、弩級兵装回収作戦。
その結果、コマンダー・レジーナ及び『弩級超頭脳神経伝達ユニット』と『弩級外燃機関エンジン』が回収されてしまった。
だが、載霊機ドレッドノートを警戒していたアルシェール・アリストクラット(自宅貴族・e00684)達によって弩級兵装が其処に転送されたと判明する。
「おそらくですが、指揮官型ダモクレスの目的は載霊機ドレッドノートを起動させることなのだと思われます」
雨森・リルリカ(花雫のヘリオライダー・en0030)は神妙な表情で語り、このままにしておくと大変なことになると話した。
弩級ダモクレスの代名詞でもあるドレッドノートが動き出すような事があれば、人類はケルベロス・ウォーを発動しなければ対抗できない。
幸いにも弩級兵装の二つは完全破壊し、残る二つにも大きなダメージを与えたので、載霊機がすぐに動き出すことはない。しかし、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』を修復可能なコマンダー・レジーナを撃破できなかった為、敵に時間を与えてしまえば載霊機は本来の力を取り戻してしまうだろう。
「指揮官型ダモクレス六体は全力で載霊機ドレッドノートを守護して、復活させようと動き出していますです。そこで皆さまには強襲作戦を行って頂きたいのです!」
来るべきケルベロス・ウォーによる決戦の前に、件のダモクレス達にどの程度の打撃を与えられるかが今後の戦いの趨勢を占う。
どうかお願いします、と頭を下げたリルリカは作戦概要の説明を始めた。
●攻撃目標
現在、載霊機ドレッドノートはダモクレス軍団によって制圧されている。
敵地の周辺にはマザー・アイリスの量産型ダモクレスの軍勢が展開しており、ケルベロス・ウォーを発動しなければ攻め込むことは難しい。
そこで今回は潜入作戦を行う必要がある。
潜入の突破口をひらく者。内部に控える四つの軍団と対峙する者。それぞれのチームに分かれての決行が望ましい。
順を追って解説すると話し、リルリカはその方法について語ってゆく。
「まずは『踏破王クビアラ』軍についてです」
敵地に潜入するには、ヘリオンからの降下作戦を行う必要がある。
だが、踏破王クビアラが対ケルベロスの作戦としてドレッドノートの周囲に『ヘリオン撃破用の砲台』を設置し、強力なダモクレスがその守備と砲台の操作を行っているため、まずは砲台撃破が必要になる。
この砲台がある限り、載霊機ドレッドノートに直接ヘリオンで降下する作戦は大きな危険にさらされるだけでなく、作戦終了後に撤退するケルベロスを回収する事も難しくなる為、必ず破壊する必要がある。
砲台直上まで突入したヘリオンからケルベロスが降下。そして、ヘリオンはそのまま離脱する作戦を行う。降下するケルベロスは空中でヘリオンへの攻撃を防ぎつつ、砲台に取り付き、砲台を守るダモクレスを撃破。それから砲台を破壊する流れとなる。
砲台は全部で八台。
その為、最低でも八班以上がこの戦場に向かわなければ、完全破壊は叶わない。
破壊できなかった砲台一台につき、クビアラ軍を越えた先の作戦に参加するケルベロスが搭乗するヘリオンが撃墜される可能性が発生するので、この戦いに赴く者達は特に重要な役目を背負うことになる。
そして、次に語られたのは潜入後のこと。
四つの軍団とそれぞれの攻撃目標についてだ。
「一つ目は『ジュモー・エレクトリシアン』とその配下の部隊となります」
弩級高機動飛行ウィングが完全破壊された為、載霊機ドレッドノートは飛行能力を失った。しかし、ジュモー・エレクトリシアンは失われた飛行能力の代わりに、二足歩行システムの修復を行っているようだ。
弩級の大きさを持つ載霊機の二足歩行システムの修復は広範囲にわたるので、配下のダモクレス達は昼夜を徹して修復作業にあたっている。
その主体となっているのは、ドクターD。智の門番アゾート。ネジクレス。ジュモー・エレクトリシアン。四体のダモクレスは護衛部隊を引き連れている為、すべての敵を撃破する為には、それぞれケルベロスチームが三、四班必要になる。
特にジュモー・エレクトリシアンは、腹心の三体の護衛の他に更に三体の護衛ダモクレスがいる為、他の三体の倍以上の戦力を投入する必要があるだろう。
この部隊を攻撃する事で、戦争時のドレッドノートの動きは阻害する事ができるはずだ。
「二つ目は、『ディザスター・キング』が守る弩級外燃機関エンジンです」
この軍団は自らが機関の一部となる事で、稼働に必要な出力を確保しようとしているらしい。そのため、弩級外燃機関と繋がっている敵を撃破することでエンジンの出力を下げる事ができる。
起動した載霊機ドレッドノートは、このエンジンから生み出されたエネルギーを利用して、数多くの戦闘用ダモクレスを生み出している。
この出力は、ケルベロス・ウォー時の戦闘用ダモクレスの数と戦闘力に直結する。相当な人員を割かなければ弩級外燃機関エンジンを完全に止めることは出来ないが、可能な限り多くのダモクレスを撃破して出力を弱めなければならない。
だが、もしもディザスター・キングを撃破する事が出来れば、『弩級外燃機関エンジン』を大きく減らす事ができるはずだ。
どれだけの戦力がこの戦場に向かうか。見極めは番犬達の判断に任される。
「三つ目は、『コマンダー・レジーナ』とその軍団となります」
此方の軍勢は弩級超頭脳神経伝達ユニットの修復を行っている。これが修復されれば、ドレッドノート自身が巨体を制御してケルベロス達に攻撃できるようになるため、危険度は大きくなる。
このシステムを破壊する為にはレジーナを撃破する必要がある。
首魁を撃破する為にはドレッドノート脊髄部への集中攻撃が必要だ。
敵はコマンダー・レジーナとその配下による防衛部隊となるため、十二チーム程度の戦力をぶつける必要があるだろう。万が一、レジーナを撃破できなかった場合でも、多くの配下を撃破する事で、攻撃の頻度を下げることもできる。
「最後、四つ目は『イマジネイター』です」
イマジネイターは弩級兵装回収作戦で動きのなかった指揮官型ダモクレスだ。
敵は載霊機とひとつとなり、自らがドレッドノートの意志となるべく融合しようとしている。現時点での危険度は低いが、万が一、ケルベロス・ウォーに敗北するような事があれば、自ら意志を持つ弩級ダモクレスが出現することになる。その為、融合を阻止できるならばしておきたい。
イマジネイターを撃破するためには、その守護につく全てのダモクレスを倒していく必要がある。配下の撃破さえ行えれば、融合途中のイマジネイターを撃破することも難しくないはずだ。
また、イマジネイター軍団は個々の連携が取れないため、敵の数が多くても一体ずつ相手取って戦闘を仕掛ける事が可能だ。
しかし強敵のダモクレスを相手にして連戦で勝利するのは難しいので、イマジネイターの撃破を目指す場合は、相応の戦力を投入する必要があるだろう。
だが、この融合の可否はケルベロス・ウォーには影響を与えない。戦争に敗北した場合にのみ関係するので、勝利を前提とするならば無視するという戦略もありだ。
以上となります、とリルリカは説明を締め括った。
「砲台の破壊、軍団の撃破、思惑の阻止……たくさんのことをしなくてはいけませんが、皆さまは一人じゃないです」
今回の作戦は全体で見れば多岐に渡る。
だが、それぞれが出来ることはひとつ。自分達が狙う目標さえ決めて挑めば、後は仲間を信じて戦うのみ。
「それぞれが出来ることを精一杯がんばれば、絶対に大丈夫です!」
自分もヘリオンの操縦を頑張ると語ったリルリカはぐっと掌を握り締めた。どんな危険があろうとも世界の危機が迫っているのならば怖気づいてなどいられない。
行きましょう、と告げた少女の瞳には真っ直ぐな信頼の気持ちが宿っていた。
参加者 | |
---|---|
ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813) |
エルナ・トゥエンド(主を得た失敗作・e01670) |
真木・梔子(勿忘蜘蛛・e05497) |
シーリン・マルヤマ(夢見た阿呆の忘れ形見・e07575) |
上里・もも(遍く照らせ・e08616) |
霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388) |
ノーフェイス・ユースティティア(それは無貌であるが故・e24398) |
喜連川・織子(ロストイグジット・e36028) |
●敵地へ
骸めいた外観をしたそれは、哂っているように見えた。
載霊機ドレッドノート。その入口を守る砲台が破壊され、ケルベロス達は其々の戦地へと向かっていく。
(「融合……よくわからないけどすごく嫌な予感……」)
止めないと、と拳を握ったウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)。彼等が目指すのはドレッドノートとの融合を行おうとしているイマジネイターの軍勢だ。
「ドレッドノートを復活させ大きな戦いの準備をしているダモクレスはなんとしても食い止めないといけませんわ」
霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)は何としても融合を阻止したいと考え、敵を探して駆けてゆく。するとノーフェイス・ユースティティア(それは無貌であるが故・e24398)が行く先に待ち構えている影を発見した。
「おや、早速ノお出迎えのようですネ」
「あれ、は……」
エルナ・トゥエンド(主を得た失敗作・e01670)は目の前に現れたものを見つめる。
立ち塞がったのは半透明の丸い球体の中に座り込む黒髪の少女。否、それは少女のように見えるが正真正銘のダモクレスだ。
其の名は――『エルナ・ワン』。
シーリン・マルヤマ(夢見た阿呆の忘れ形見・e07575)は仲間に似た雰囲気を持つダモクレスを見つめ、戦闘態勢を整える。
「ダモクレスの目的……撃ち砕いて、皆の命を護りませんとね!」
そして、機械巨腕を振り上げたシーリンはエルナ・ワンへと殴りかかった。対する敵は防御を固め、痛みを即座に癒したようだ。
その攻防を始まりの合図にして仲間達が動き出す。
「始めましょうか」
真木・梔子(勿忘蜘蛛・e05497)は縛霊手の掌から光の弾を具現化し、ひといきに解き放った。喜連川・織子(ロストイグジット・e36028)は煙草代わりに咥えていたキャンディを噛み締め、銃口を自らの頭に向け、引鉄をひく。
生を実感したその身に力が巡っていった。そして、織子は予兆で見たイマジネイターの姿と言葉を思う。
「……貴方達が慕う気持ちも、分からなくは無いわね」
仲間に続いた上里・もも(遍く照らせ・e08616)も熱き恋の歌を奏で、仲間達に力の加護を与えていった。そして、ももはふと問いかける。
「ねぇイレギュラーズ。きみたちはどうしてイマジネイターに従うの?」
「あ……う゛……」
だが、エルナ・ワンは意味のある言葉を発しなかった。発せないというのが正解なのかもしれない。何にせよ、戦いはもう始まっている。
ケルベロス達は全力を賭すことを決め、立ちはだかる敵をしかと見つめた。
●エルナ・ワン
球体の中の少女は無感情な様子のまま防御を固める。
それを見たエルナは降魔の力を拳に宿し、ひといきに敵との距離を詰めた。
「エルナは……絶対、負けない……」
同機種の宿敵であろうと、ただの敵として処理するのみ。エルナが果敢に向かっていく様を見つめ、ウォーレンも超鋼の拳で相手を穿ちに駆けた。
「僕達もついているからね。大丈夫だよ」
「そう、気負わないでいい。応援してるぜ!」
ウォーレンが仲間に声をかけると、ももが浮遊する光の盾を具現化して援護に回った。ちさもこくりと頷き、ウイングキャットのエクレアと共に補助につく。
「エクレア、私と一緒にみなさまを守って。お願いしますの」
爆破スイッチを押し、士気を高める爆発を起こしたちさ。其処に続き、翼猫が尻尾の輪を飛ばしていった。
その間に梔子が敵の背後に回り込み、解き放った鎖で敵を縛る。
だが、即座に察知したエルナ・ワンは反撃として光線を放った。鋭い衝撃が梔子を襲い、その力を削り取る。
「防御主体のようですが、攻撃も行うようですね」
痛みを堪えた梔子は冷静な判断で敵の出方を判断した。頷いたシーリンも注意を払い、地面を大きく蹴り上げる。
「でも、ワタクシ達の力だって甘く見て貰っては困りますわ!」
流星を思わせる蹴撃で敵を穿ち、シーリンは身を翻した。同時にもものオルトロス、スサノオが咥えた刃でエルナ・ワンを切り刻む。
ノーフェイスもアームドフォートを展開し、主砲を一斉に発射していった。それによって球体にひび割れが入ったが、敵は再び癒しの力を纏う。
「修復されルとしても、ひたすら壊スだけですヨ」
厄介だとは思ったがノーフェイスは怯まなかった。ええ、と答えた織子も銃口を差し向け、眼鏡の奥の半眼で敵を見据える。
「悪いけれど、容赦はしないわ」
「あ……あ……」
意味のない言葉を紡いだエルナ・ワンに向け、織子は銃撃を打ち込んだ。続けてウォーレンが花を散らす雨を起こし、敵に一撃を見舞ってゆく。その衝撃で散る雨粒は花弁のように戦場を彩った。
そして、戦いは巡っていく。
「皆、大丈夫?」
癒し手として戦線を支えるももは、黄金の果実をみのらせながら仲間を気遣う。エルナがこくりと頷き、ちさもまだ平気だと答えた。
防御と回復が主だが、敵は光線による反撃を続けている。それを受けたウォーレンの身体には鋭い痛みが巡っていた。
だが、ケルベロスの攻撃によって修復できぬ傷も増えている。
「押し負けはしませんわ!」
ちさは仲間を庇いながら自らも反撃に出た。其処に続いてエクレアとスサノオが其々の一閃を放ち、追撃を加える。
梔子はエルナ・ワンが弱り始めていると察し、魔鎖を強く握った。
「一気に攻め込みましょうか」
「ええ、ワタクシ達の連携をとくと見よ、ですわ!」
梔子の呼び掛けにシーリンが答え、二人は同時に駆け出ていく。蜘蛛の糸のように投げられた鎖が敵を絡め取った瞬間、シーリンの指天殺が敵を貫く。
対するエルナ・ワンも反撃の光線を放った。だが、織子に向けられたその一撃はノーフェイスが庇いに走る。
「その攻撃ハ既に見切りましタ」
光の翼を具現化したノーフェイスは身を翻し、光線を弾き飛ばした。痛みも生まれたが彼は何事もなかったように指を鳴らす。
途端に鼓舞の爆風が巻き起こり、仲間達に力を与えた。
それを受けた織子は銃を構えて即座に破鎧の衝撃を見舞う。そして、織子は仲間のエルナに目配せを送った。
次の一撃が止めになると感じたエルナは真っ直ぐに敵を見つめる。一瞬、エルナとエルナ・ワンの視線が交差したような気がした。
「……これで……終わらせる……」
刹那、エルナの繰り出した拳が球体を打ち砕く。
悲鳴すらあげずに内部の機械少女が崩れ落ち、その機能が停止した。エルナは素早くそのプログラムチップを抜き取り、立ち上がる。
これで一体。
敵を撃破した仲間達はすぐに身構え、次の敵に向かう事を決めた。
「うん、まだ大丈夫。行こう」
そうして、ウォーレンが口元の血を拭って微笑んだ、そのとき――。
虹色の光弾が戦場に走り、彼の身体を貫いた。
●エルナ・ゼロ
それは休憩や他班との連携を取る暇も与えられない、唐突な攻撃だった。
「見つけたよ! じゃまものは殺さなきゃね!」
無邪気な声が響き、戦場に白いワンピース姿の少女が現れる。虹色のオーラを纏う機械少女は――『エルナ・ゼロ』だ。
致命傷に近い痛みを受けたウォーレンは何とか耐えてみせる。その傷を癒しながら、ちさは敵を睨み付けた。
「現れましたわね。次も倒して差しあげますわ!」
だが、今の一撃を見るにその攻撃力は先程の敵よりもかなり強い。攻撃主体で来ると察したシーリンは機械腕を大きく振り上げ、敵に立ち向かった。
「まだまだ、いきますわよお!」
聖なる力と漆黒の闇を合わせたシーリンの一撃がエルナ・ゼロを穿つ。
更に織子がヘッドショットで敵の頭を撃ち抜かんとして向かった。しかし、少女はひらりと身を翻して躱す。
「あはは!」
「……っ、……――」
ゼロの笑い声にエルナは普段からは想像できないほど目に見えて怯えていた。その様子に気付いたももは、スサノオに攻撃を命じながら仲間の傍に続く。
「エルナさん、因縁の相手だとしても気圧されるな。一緒に頑張ろうぜ!」
ももは無機で冷たかった心が熱い電流に解され溶かされていく歌を紡ぎあげた。その力を受け、エルナは何とか震えを止める。
「……う……うん……」
「私達は負けられないわ。そうでしょ?」
織子も仲間を励まし、次々と銃撃を放っていった。
回復が主だった先程の相手とは違い、エルナ・ゼロは容赦のない攻撃ばかり行ってくる。梔子は気を引き締め、土蜘蛛の力を発現させてゆく。
「貴女も屠らせて貰いましょう」
背中から生えた蜘蛛脚めいたそれを蠢かせ、梔子は敵を貫いた。ノーフェイスも刃を振り上げ、鋭い斬撃を喰らわせていく。
だが、次の瞬間。ノーフェイスを擦り抜けた少女が腕を大きく振り被った。
「まずはあなたから。ねえ、死んで?」
その狙いはやっと体勢を立て直したウォーレンに向けられている。
「大丈夫、僕だってまだ……!」
ノーフェイスの呼び掛けに応えたウォーレンは落花雨の力を顕現させた。刹那、花と虹が交差する。眩い光が戦場を包み込み、視界が一瞬だけ奪われる。
そして――光が収まった後、立っていたのはエルナ・ゼロだけだった。やった、と無邪気に笑う敵にエルナは思わず後退る。しかしすぐに勇気を奮い立たせた。
ウォーレンは果敢に戦ったのだ。現に最後に与えた一撃は敵の体力を大きく奪っていた。大丈夫、と掌を握り締めたシーリンは仲間達を見遣る。
仲間が倒れたとて、まだ此方が優勢。
ちさは仲間を励ますように確りと立ち、これ以上の犠牲は生ませないと誓う。
「守ってみせますわ。たとえ、私が倒れたとしても……!」
それから戦いは激しく巡り、仲間を守っていたエクレアがやられてしまった。
ももとちさ、時にはノーフェイスが癒しに入ったが、敵の攻撃は止まない。僅かとはいえ一戦目の傷も後を引いていた。
「流石に厳しい状況になってきたわね。それでも――」
諦めはしない、と織子は銃撃を続ける。此方の体力も危うくなっているがこうしてダモクレスに与える攻撃もちゃんと効いている。
痛みを感じていないらしきエルナ・ゼロだが、橙色の髪から溢れる光の粒子と蒸気の出方が明らかに不規則になっていた。その流れが自分達でいう呼吸の乱れだと感じ、ももは敵の力の低下を悟る。
「このまま支えるからさ、もう少しだよ!」
ももは攻撃をスサノオに任せ、常に癒しの力を紡ぎ続けた。その間に梔子が、シーリンが、ノーフェイスが攻撃を重ねる。エルナも身体の震えを抑え、ウォーレンの分まで戦おうと決めた。
猟犬の縛鎖で敵を絡め取るエルナ。だが、鎖を引き千切ったゼロの反撃が彼女に向かう。その瞬間、狙われたエルナを庇う為にちさが飛び出した。
その一撃は猛威を振るい、受け止めたちさから悲鳴が上がる。そして、ちさはその場に崩れ落ちた。
「ごめんなさい、私も……もう……」
「後は任せてください。ご心配なく」
懸命に仲間を守ったちさを後方に庇い、梔子は機械少女の様子を窺う。くすくすと笑いながら戦いを楽しんでいるエルナ・ゼロだが、その動きは徐々に鈍くなっていた。
きっとこれもこれまでの積み重ねのお蔭。
ちさ達が必死に守ってくれたから、自分達の体力には未だ余裕がある。シーリンは勝機を感じ、豪腕に力を込めた。
「お返しですわ。ワタクシ、こう見えて手先が器用で――」
仲間の痛みの分だと告げた処女神の一撃は単純明快ながらも強力だ。その衝撃がエルナ・ゼロの小さな身体を吹き飛ばす。
少女はよろめきながら立ち上がり、自分の体力が残り少ないと悟る。
「なんだか調子、わるいかも。ううん……だったら、あの子だけでも!」
すると、エルナ・ゼロはエルナに照準を定めた。エルナ自身も敵が自分だけを狙っていると気付いてしまう。ノーフェイスが咄嗟に仲間を守ろうとしたが、ダモクレスの動きの方が僅かに速かった。
しかし、今のエルナは怯えてはいない。もし自分があの一撃で倒れようとも、その前に渾身の一閃を叩き込もうと決めていた。
片や虹色の光線。片やアームドフォートの一閃。
真正面から衝突した衝撃は拮抗しあい、そして――似た雰囲気を持つ二人の少女、番犬と殺戮機械が同時に膝を突く。だが、力尽きたのはエルナだけ。
「最期、は……お願い……」
ゼロが再び立ち上がった時、エルナは仲間に後を託す言葉を紡いだ。すぐにももがエルナを抱き留め、わかった、と深く頷く。
仲間の攻撃のお蔭でダモクレスもかなり疲弊していた。
後はもう、止めを刺すだけ。梔子と織子は視線を交わしあい、左右から敵を挟み込む形で其々の一撃を与える。きゃあ、と機械少女が悲鳴を上げた隙を狙い、ノーフェイスは自らの腕を黒く硬化させた。
「あ……う……もっと遊びたい、のに……」
「いけませんネ。御遊戯の時間ハ、モウ終わりですヨ!」
呻くエルナ・ゼロとの距離を零まで詰め、ノーフェイスは悪を許さぬ熾烈な覚悟を言の葉に乗せた。そして、一瞬後――翼は巨大な爪と成り、黒き衝撃が敵を斬り裂く。
その身に纏っていた白いワンピースが破れ、機械の身体も罅割れた。
そうして、激しかった戦いに終幕が訪れる。
●載霊機とイマジネイター
二体目の敵が倒れ、ケルベロス達は深い息を吐く。
仲間達が撃破できたのはエルナ・ワンとエルナ・ゼロの二体だ。
此方も未だ全員が倒れたわけではない。だが、既に自分達で決めた撤退条件を満たしてしまっていた。休憩を行う暇すらなく、次の敵がいつ襲ってくるやも分からない。
「仕方がないですわ、撤退しましょう」
シーリンは倒れたちさの肩を支え、決断を下した。
頭の中に過ぎるのは撤退条件さえなければもっと戦えたかもしれないということ。阻止の為に戦地に赴くならば、撤退を考えぬ覚悟も必要だったのだ。
何故か蟠る記憶の残滓は振り捨て、シーリンは仲間達と共に駆け出した。
「さあサア、戻りますヨ」
「長居は無用ですね」
ノーフェイスはウォーレンに肩を貸し、梔子はエルナを抱き上げて撤退の道を辿る。
結局、イマジネイターには対面する事すらできなかった。織子は後ろ髪を引かれるような思いを抱いていたが、これも決め事だからと己を律する。
「もう、融合は止められないのね……」
そんな中、一度だけ振り返ったももは遠き相手に向けた思いを言葉にした。
「イマジネイター……きみは、どんなひと? 疑似的な心ってなに?」
この声が届かないと知っている。それでも、問いかけずには居られなかった。
そうしてケルベロス達は戦地を後にした。
やがて、融合は果たされゆく。
それまで静かだった載霊機に命が宿ったが如く胎動を始めたのだ。脈打つように震えるその様は、まるで或る歌を奏でているかのように聞こえた。
――褪せてゆく、その輝きを看取るまで。
――決して朽ち果てはせず、君の理となろう。
そして、イマジネイターは載霊機ドレッドノートの意志となり、ひとつになった。
作者:犬塚ひなこ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年4月14日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 2/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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