人を捨て、人を見下す少女

■リプレイ

●完全に堕ちてしまう前に……
　ヘリオンから降下するケルベロス達。
　足元には、一行が目指す福島の街がある。
「人間をドラグナーに……神造デウスエウスみたいなものなのかな？」
　ヴィットリオ・ファルコニエーリ（残り火の戦場進行・e02033）は今回の話を聞いて、そんなことを考える。ドラグナーと成り果てた少女。それが今回も討伐対象だ。
「その子に何があったのか、何をされたのか、察するに余り有るって奴だね……」
　人を恨んで悪に堕ちた少女。その心中はいかなるものか。雨宮・利香（黒刀と黒雷の黒淫魔・e35140）はそれを量りかねてしまう。
「エピアル……エピアル……どっかで聞いたようなー……」
　そのドラグナーと化した少女と唯一、接点のありそうなミラン・アレイ（蒼竜・e01993）。ただ、マイペースな彼女は、その少女のことが思い出せずにいたようだった。
「でも、外道に堕ちる前に止めなくちゃ……ね！」
「彼女に何があったのかわからないですけど、他の人を傷つけさせる訳にはいきません」
　利香に続き、降下する中でくせっ毛と猫の耳を大きく揺らす、朱藤・環（飼い猫の爪・e22414）が両手をギュッと握って意気込む。
「凶夢たるエピアルの凶行は、ここで食い止めるよ！」
　天真爛漫なフェニックス・ホーク（炎の戦乙女・e28191）も気合を入れて叫ぶ。
　今回の依頼は所属旅団「ホテル53X」の団長、パトリシア・バラン（ヴァンプ不撓・e03793）が一緒ということで、フェニックスは張り切っていたようだ。
　ところで、しばらく思い出そうと唸っていたミラン。
「……ま、いっか！　とにかく、凶行を止めないとなんだよ！」
　思い出すのを諦めた彼女は一言叫び、アスファルトの上へと着地していた。
　次々に、福島の街に着地していくメンバー達は、各自散らばっていく。
「みんな！　今すぐ……ここから離れて！」
　真っ先に、華麗なる着地を披露して見せた利香は、早速避難を呼びかけ始める。難色を示す者にはラブフェロモンを使い、速やかな避難を心がける。
　事前に、現地の警察と連絡と取っていた、キーア・フラム（黒炎竜・e27514）。
　まだ十分ではないが、駆けつけていた警官隊が現場の立ち入り制限を行うのを彼女は確認していた。自らも翼飛行で現場へと急行し、プリンセスモードを使用してその周囲の避難誘導に当たり始める。
　パトリシアも警察の到着は確認していたものの、この近辺にいる人々はまだ多い彼女もラブフェロモンを振り撒き、人々の避難を行う。
「私達はケルベロスです！　落ち着いて橋から離れてください！！」
　環も大声で避難を呼びかける。アルティメットモードの発動もあり、人々はデウスエクスの出現に絶望することなく、この場から逃げ出し始めていたようだ。
　そして、現場となる橋。そこに立つ凶夢たるエピアル目掛けて、ヴィットリオは相棒のライドキャリバーのディートに跨り、街を疾走する。
（「あー……、目のやり場に困る敵だね……」）
　敵はかなり大胆なビキニアーマーで、スレンダーな体格を晒す。
　もっとも、ケルベロス側も、ミランやパトリシアなどはほぼ裸に近い格好であり、ヴィットリオにとっては非常に目の毒だったりするのだが、それはさておき。
　少女の背には翼。頭には角が生えており、ドラグナーになりかけていることを疑わせない。
「壊してあげるわ。何もかも……！」
　そのエピアルは簒奪者の鎌を手にし、駅を目指していた。大鎌を投げ飛ばし、周囲の建物を破壊していく。
「人をやめるなんて、許さなーい」
　大きな瞳を鋭くして街を壊すエピアル目掛け、飛行するフェニックスが飛び込んでいく。
　光の翼を暴走させたフェニックスはそのままエピアルへと突撃し、元の姿を取って彼女の前に立ちはだかる。
「穿て、フェイルノート――星の光より速く」
　さらに、一筋の炎が飛ぶ。それは、呉鐘・頼牙（永悠擬刃・e07656）が星の光を思わせる幻想的な弓から射た、地獄の炎で造られた槍だ。
　その槍に穿たれたエピアルはゆっくりと、その射手の方を振り返る。
「わたしの復讐の邪魔をするのは、誰かしら……？」
「どいつもこいつも、わかっちゃいない」
　頭を振る頼牙。フードを深く被っており、ぼさぼさの髪に紛れてその表情は見えない。
　――煮えたぎる憎悪を抑えきれない？
　――復讐の炎に身を焦がす？
「ああ、肯定しよう。その感情は人としてあるならば、当然のモノだ」
　エピアルが抱く感情を認めすらした頼牙だが、その復讐を自分に遺された力ではなく、得体の知れない物の力に頼って我が物顔で奮う事に関しては、彼は否定した。
「そんなものは、ただ利用される哀れな家畜だ」
　風に吹かれてフードが外れる。地獄化した左目で、頼牙は眼光鋭く敵を見据えた。
「……せめて、ここで討ち果たそう。それがせめてもの慈悲だ」
　そこに、全速力で駆けつけたミランがエピアルの姿を見て首を傾げていたが、
「……あ、思い出した！　あの時の胸のちっちゃい人！」
　混沌に魅入られたエピアルは、彼女を睨みつける。
「気に入らないわ……。あなたも……」
「凶夢たるエピアル……だっけ？」
　だが、ミランは意に介することなく、ゾディアックソードを抜く。
「わたし達が来たからには、これ以上の狼藉は許さないんだよー……」
　ミランは挑発交じりに眼前の敵へと言い放ち、自分達に注意を向けさせようとする。
　そこに、周囲の避難を終えたパトリシア、キーアも駆けつける。彼女は思うことがあるのか、エピアルをものすごい形相で睨みつけていた。
「……ここで、終わらせてもらいます」
　ドラゴニックハンマーを携えた環の呼びかけが口火となり、両者は激しくぶつかり始めるのだった。

●不死の力に頼ってまで……
　本格的に始まるドラグナーとの戦い。
　先に、ヴィットリオが仕掛ける。彼が接敵に合わせてジャンプすると、前に出るディートが激しいスピンでスピアルの足を潰す。
　その直後に、ヴィットリオは流星の煌きと共に敵の脳髄へと飛び蹴りを炸裂させる。
（「敵はキャスター、回避率が高いからね」）
　ともかく、攻撃を当てられないと意味がない。まずは足止めを狙い、ヴィットリオは攻め立てていく。
「破壊の邪魔、しないで……！」
　だが、エピアルは戦場を縦横無尽に動き回り、手にする大鎌を投げ飛ばしてくる。
　それを受け止めたのは、フェニックスだ。彼女は敵の斬撃を浴び、服を破かれながらも、自身の背後にカラフルな爆発を巻き起こし、自身の回復を行う。
「時間制限ないなら、無理せず守り重視でいけるね」
　焦らず、じっくりと敵を攻め、その体力を削る長期戦の構え。ウイングキャットのまろーだー先輩は翼を羽ばたかせ、フェニックスの要望に応えて頑張る姿を見せている。
「弱いヤツを蹂躙するだけジャア、つまんないワヨ？　折角のパワー、全力でぶちまけてごらんナサイ！」
　フェニックスが敵を抑える隙に、パトリシアが敵へと躍りかかる。
「48arts No 10！　カアアアァスド、ブライトネェス！」
　彼女は虹色に輝く「歪曲の右手」で敵を引き寄せ、暗闇に呑まれた「虚空の左手」で敵を抹消しようとする。
「お互い戦うコトしかできない身デース。余計なシンキングはナッシン！」
　乗ってくれさえすれば、人的被害の恐れも減る。パトリシアは挑発するように敵へと呼びかけた。
「挑発だけは乗ってあげるわ」
　だが、渦巻く感情を抱くエピアルには、何も考えずに戦うなど難しいこと。頼牙はそれを理解しながらも、正面から敵へと電光石火の蹴りを叩き込む。
（「復讐とは、全てを奪われた自分という存在に、それでも尚残されたモノで成し遂げるべきだ」）
　その一点のみ、頼牙はエピアルのあり方を許容できないでいたのだ。
　異質の力を手にしまったとはいえ、相手は守りたいと思っていた一般人だった存在。そんな相手に攻撃することに対し、環は悲哀と悔しさを覚える。
（「今の力では、全てを守ることはできません。だから、今は守れるものを確実に」）
　この街の人々を守る。その為に、エピアルの撃破を改めて決意した環は、構えた砲撃形態のドラゴニックハンマーから竜砲弾を叩き込んでいく。
「色々思い出したよー！　あの時、忌まわしいアベルビジを眺めてたコだよねっ？」
　交戦の中、ミランはエピアルについてはっきりと思い出していたようだ。
「その姿……、一体どうしちゃったっていうのー？！」
「うるさい、その胸から燃やしてあげるわ……」
　何かの力に魅入られたエピアルは彼女の呼びかけなど聞く耳持たず、竜語魔法を操り、地獄の炎を出現させる。
「地獄の炎、ね……、面白いじゃない」
　そうは言うものの、キーアの表情は険しい。
　一般人への恨み、そして、地獄の炎を操る相手。キーアはエピアルと自身に重ねてしまうが故に、ドラゴンに屈する形で殺意を振り撒く敵へと憤怒と苛立ちを覚えてしまうのだ。
　生まれつき持つ黒炎を浴びせたいところだが、まずは動きの速い敵を抑えるべく、キーアは攻性植物を蔓触手形態となして敵の体を縛りつけようとする。
　そこで、エピアルへの問いかけを諦めたのか、ミランがゾディアックソードの刀身に雷を纏わせて突きを繰り出す。
　足を縛られ、体に痺れを走らせるエピアルへ、全身から桃色の煙を舞い上がらせた利香がさらに仕掛ける。
「貴方の気持ちは苦しいほどにわかるし、同情はするけれども……。だからって、人を傷つけちゃいけないよ……」
　ならばせめて、何の苦しみもなく安らかに眠れるように。利香はその煙でエピアルを包み込み、惑わそうとする。
「うっとうしいのよ……！」
　しかし、エピアルは自身を強く持ち、地獄の炎を放つ。その一撃に、彼女は何の躊躇も抱いていなかった。

　エピアルの放つ地獄の炎によって前列メンバーが身を焦がす。
　盾となるフェニックスはジッと身構えて炎に耐えていたが、ヴィットリオは平然としながらも縛霊手で殴りかかり、網状の霊力を発して敵の捕縛を試みる。事前に対策して防具をセレクトしていたこともあって、ダメージを軽減させていたのだ。
「ほらほら、こっち！」
　炎を凌いだフェニックスは敵の気を引く為に、降魔の拳で殴りかかった。
　続けざまに、頼牙も攻め込む。
　このまま、ドラゴンの家畜として存在し続けるくらいなら。ここで撃ち果たすのが慈悲と信じて、頼牙はホワイトライガーの腕で敵の体へと素早くも重い一撃で殴りつける。
「私の黒炎とどちらが上か、見せてあげるわ……」
　続き、キーアが地獄の炎を燃え上がらせ、炎弾を放つ。
　それによって燃え上がるエピアルの肩。その炎を含め、仲間達が行う足止め、捕縛をより強めようと、利香は斬霊刀を握りしめる。
　相手は自身よりも幼く、可愛らしい女の子。その肌に刃を当てるなどと利香は刹那戸惑ったが、すぐに気を取り直して仲間の傷を斬り広げていく。
　仲間の足止めもあり、ヴィットリオは攻撃パターンを切り替え、燃え上がるディートの突撃に合わせて炎弾を発射する。
「ああ、もう、うっとうしいのよ……！」
　エピアルはその身を燃やしながらも、大鎌と地獄の炎を交互に繰り出す。それらを、前に立つフェニックスが主に受け止めていた。
「倒れない事がある意味お仕事だからね」
　攻撃は控え、彼女は自身の回復の為に宙へとルーン文字「ラド・ラグ・エオー」を描いた。勇者の再生と浄化を表す文字は、前に立つケルベロスの不浄を取り払い、傷を癒していく。
　その間に、中衛、後衛メンバーがエピアルを攻める。
　パトリシアは大胆に大きな胸とお尻を揺らして遊撃を行いつつ、同じく遊撃ポジションで動く敵を相手にしていた。
「培ったパワー、スピード、テクニック、マジック。全身全霊で叩き込んでヤる」
　両手にグラビティの力を込めて敵の抹消を図りつつも、ハイテンションなパトリシアは時に刺突や蹴りも織り交ぜる。
　こちらは、敵の行動阻害を行う環。彼女はグラビティを込めたドラゴニックハンマーを叩き付けていたが、回復役がウイングキャットのまろーだー先輩だけだと、回復も間に合わなくなってしまう。
「みんなに幸運をお届けです！」
　環は真っ白なドローン『白猫』を呼び出し、回復の薬液を霧状に散布する。
　そうして、前衛陣がなおもエピアルの飛ばす炎に耐えていると、キーアは一瞬脳裏に過去をフラッシュバックさせる。他の人々から気味悪がれ、『呪い子』と呼ばれていたあまりに苦い思い出。
「……ホント、ムカつく……まるで自分を見てる様……。見ていて不愉快……私が必ず焼き尽くしてやるわ……！！」
　見れば、エピアルの息も荒くなってきている。
　地獄となった翼を広げたキーアは両手に膨大なグラビティを込め、黒炎を放射する。それはエピアルへと呪いの様に絡み付いていき、その身を燃やし尽くそうとした。
「くぅぅっ」
「元の生活に戻って……って、もう遅いんだよね？」
　痛みに悶えるエピアルへ、ミランが問う。だが、エピアルから返事はない。
「なら……、せめて同じ竜の因子を持つわたしの手で、その魂を解放してあげるっ！」
　そこで、彼女は手にするゾディアックソード「スターメイカー」を構えて呼びかける。
「煌めいてっ！　星天創生っ！！」
　エピアルへと迫るミランは剣先へと巨大な光球を創り出し、無数の白い魔力光を解き放つ。
「ううっ……」
　それを、エピアルは必死になって受け止めていたのだが。次第に押されていき……。
「そ、そんなっ……！」
　光に呑まれたエピアルは次の瞬間、完全にその姿を消してしまったのだった。

●少女が消えた後で
　ドラグナーとなった少女の消えた跡を見つめる、ケルベロス一行。
「……もしかしたら、私がこうなっていたのかもしれないわね……」
　眠りに着いたエピアルを思い、キーアはしばし黒い炎を送り火としながらも瞑目する。
　利香もその消えた跡を見つめ、エピアルが安らかに眠れるようにと祈っていた。
「こんな結末になる前に助けてあげられたら、よかったんですけどね……」
　残念ながら、エピアルは何一つ残さず、この世を去ってしまった。それを確認した環はドローンを飛ばし、戦場となった橋の周辺にヒールを施す。
　ヴィットリオも溜めた気力で、周囲の破壊箇所を幻想で埋めていく。
　桃色の霧を発していたパトリシアも、不便のない程度に元に戻った街を見て、満足気に頷く。
「それジャ、グッバイデース」
「……そうだねー」
　パトリシアが仲間達に帰るよう促す。最後まで現場を見つめていたミランも、いつものマイペースな調子でこの場を去っていくのだった。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年4月7日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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