載霊機ドレッドノートの戦い~虎穴に入らずんば

作者:さわま


「ダモクレスが回収していった『弩級兵装』についてだが、アルシェール・アリストクラット(自宅貴族・e00684)殿らの調査によって、持ち運ばれた場所が判明した」
 集ったケルベロスたちに、山田・ゴロウ(ドワーフのヘリオライダー・en0072)が緊張した面持ちで告げる。
「その場所こそ青森県黒石市に存在する『載霊機ドレッドノート』だ。既にドレッドノートとその周辺は6体の指揮官型ダモクレスとその軍団によって制圧状態にある。彼らは、弩級兵装を使って、ドレッドノートを復活させようとしている」
 弩級ダモクレスの代名詞ともいえる載霊機ドレッドノートの復活。
 それが現実となれば人類側もケルベロス・ウォーを発動する以外に対抗する手立てが無い危機が訪れる事になる。
「幸いな事に貴殿らケルベロスの作戦によって、発掘中であったの4つの弩級兵装のうち2つは完全に破壊され、運び込まれた2つの弩級兵装も大きなダメージを負っている。4つの弩級兵装が万全の状態であったならば、ドレッドノートは既に復活していてもおかしく無かっただろう」
 ゴロウがケルベロスたちに信頼の目を向ける。そして表情を引き締めて言った。
「しかしダモクレスたちは今もドレッドノート復活の為の計画を進めている。指揮官級ダモクレス6体が総力を結集して防衛するドレッドノートの完全な破壊にはケルベロス・ウォーの発動が必要な状況であるが、人類が得た貴重な時間を無為に費やす訳にはいくまい。ドレッドノートへの強襲作戦……危険な任務であるがよろしく頼む!」

「まず現在、ドレッドノートの周辺にはマザー・アイリス指揮下の量産型ダモクレスの大軍団が布陣し目標への陸上からの進入が不可能な状態だ。そこでヘリオンによる降下強襲作戦で、敵の要所への攻撃を敢行する事になった」
 ゴロウが順を追って作戦の説明を始める。
「だが、踏破王グラビアが対ケルベロスを想定した『ヘリオン撃破用の砲台』を8つ、ドレッドノート周辺に設置している。これを撃破しないと、降下前にヘリオンが撃墜され作戦に支障を来たす可能性が出てくる」
 砲台破壊にはそれを試みる先行チームが必要だろう。このチームの攻撃の成否は後に続く仲間たちの作戦の成否に関わってくる事になる。
「敵の要所は4つある。それぞれに指揮官級ダモクレスが中心となりドレッドノート復活の計画を進めている。まず1つ目はドレッドノートの歩行ユニットの修復を行っている、ジュモー・エレクトリシアンとその配下だ」
 この部隊を攻撃する事で、来たるケルベロス・ウォーでのドレッドノートの動きを阻害する事ができる。
「2つ目は、ディザスター・キングが守る『弩級外燃機関エンジン』だ。ディザスター・キングの軍団は、自らが弩級外燃機関エンジンの一部となる事で、必要な出力を確保しようとしている。彼らを撃破する事で、ドレッドノートの出力を引き下げる事ができるだろう」
 復活したドレッドノートは弩級外熱機関エンジンのエネルギーで大量のダモクレスを生み出していく。その出力を引き下げる事はそのままケルベロス・ウォーにおける敵の戦力を削ぐ事に繋がるはずだ。
「3つ目は、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の修復を行っている、コマンダー・レジーナとその軍団だ。弩級超頭脳神経伝達ユニットが修復されれば、ドレッドノート自身が巨体を制御する事ができるようになってしまうだろう」
 ドレッドノートが自由にその巨体を動かせるようになれば、ただ腕を振り回すだけで周囲に甚大な被害を及ぼす事になる。その制御能力を削ぐ事が出来れば、ケルベロス・ウォー中にそういった被害が出る頻度を飛躍的に減らす事が可能になる。
「最後の目標は、弩級兵装回収作戦で動きのなかった指揮官型ダモクレス、イマジネイターだ。イマジネイターは、ドレッドノートと一つとなり、自らがドレッドノートの意志となるべく融合しようとしているようだ」
 ドレッドノートの意志がイマジネイターのものになった所で、ケルベロス・ウォーの戦況に大きな影響は無い。ケルベロス・ウォー中にドレッドノートを破壊できれば問題となる事は無いだろう。ただしケルベロス・ウォーに敗北した場合には、意思を持たず自律的な活動が出来ないはずのドレッドノートが意思を持った弩級ダモクレスとして行動を始める事になる。

「5つの目標のうち、貴殿らのチームがどの攻撃目標に向かうかは、みんなで話し合って決めていただきたい。どの攻撃目標へ向かうにしても強力なダモクレスとの戦いは避けられないだろうが貴殿らであれば大丈夫だと信じている……よろしくお願いしますだよ!」
 最後にゴロウはペコリと頭を下げた。


参加者
レカ・ビアバルナ(ソムニウム・e00931)
エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672)
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)
千歳緑・豊(喜懼・e09097)
日月・降夜(アキレス俊足・e18747)
ティ・ヌ(ウサギの狙撃手・e19467)
天変・地異(愛よ燃え上れ・e30226)
エナ・トクソティス(レディフォート・e31118)

■リプレイ

●邂逅
 無事、載霊機ドレッドノート内部へと進入した32人のケルベロスたちの部隊は一丸となり前進を続けていた。彼らの目指す先、それは――。
「僕の情報によればここら辺の筈なんだけど……あっ、あれだ、見つけたよ」
 何かに気づいたヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)が仲間たちへと目配せをし、そこを指さした。
 彼の示す先。そこに胴体から伸びる無数のマニュピレーターを用いて何やら作業を行うダモクレス――ドクターDと、その護衛である3機のダモクレスの姿があった。
 ヴィルフレッドの他にもそれに気付いた者がいたらしく瞬く間に部隊に緊張が走った。そのピリピリとした空気にレカ・ビアバルナ(ソムニウム・e00931)が表情を固くする。
(「ケルベロスウォーの戦況を左右する重要な作戦……失敗は許されません」)
 こういった大規模作戦は彼女にとって初めてのことだった。そんなプレッシャーに強張った彼女の肩に日月・降夜(アキレス俊足・e18747)の手がポンと置かれる。
「緊張するな、ってのは無理かもしれないが。だったら目を閉じて誰かの顔でも思い浮かべてみるといい」
 レカが振り向けば降夜と目が合う。
「友人、恋人、それに家族……とかな」
 降夜のどこか寂しげな瞳にレカは小さく瞬きをしたが、すぐに言われた通りに目を閉じる。瞼の裏に、故郷の家族、旅団の仲間、そして故郷を出て初めて名前で呼び合うようになった友人の優しい顔が浮かび、自然と頭の髪飾りに手が伸びた。
「ありがとうございます」
 降夜に丁寧に頭を下げるレカにもう気負いは見えなかった。
「ボクたちの相手はあれだね」
「ありゃ空中を泳ぐ……エイか?」
 エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672)と天変・地異(愛よ燃え上れ・e30226)が、流体金属の尾をひらひらとさせ空中を浮遊するダモクレス――ポボス・テトラの姿をとらえた。
「エイではなく板皮類、古代魚の一種だよ」
 千歳緑・豊(喜懼・e09097)が地異の疑問に答える。
「しかし僕の知るテトラは水棲型の機体だったはずだが、改修が施されたのか?」
 豊の脳裏に大建造期という言葉がよぎった。世界中のグラビティ・チェインが日本に一極化しておよそ20年。世界中の海からグラビティ・チェインは消え失せた。その影響はテトラにとって他人事では無かったのでは、と。
「20年、か」
 大海から戦場を変え空中を浮遊するテトラの姿が豊にはどこか窮屈そうに見えた。

●そして火蓋は切って落とされる
「では手筈通りに……ええ、お互い最善を尽くし完全勝利を」
 ティ・ヌ(ウサギの狙撃手・e19467)が他チームのメンバーと言葉を交わし、仲間へと向き直る。戦いを前に愛らしい兎少女の顔は歴戦の戦士のそれへと変わっていた。
「攻撃開始です!」
「そんじゃ一丁やってやるか! 俺が、俺たちが正義だ!」
 合図を受け、地異が勇猛果敢に前方へ飛び出していくと、その後に仲間たちも続いた。
「皆さん、お気をつけて!」
 突入する仲間たちの背中にレカが声をかける。
「標的は陥落させます。Analyze――」
 表情を引き締めたエナ・トクソティス(レディフォート・e31118)が巨大な兵装を具現化し、その砲門の狙いを敵へと定めた。
「Fire―――」
 砲撃が命中し爆発が起こる。その隙に仲間たちは標的へと接敵していった。
 するとすぐさまヴィルフレッドの目がキランと光った。
「情報屋の僕にかかれば、君の弱点なんて筒抜けなのさ!」
 『プレゼントウィーク』。ヴィルフレッドの貴重な情報が序盤の攻防を有利に運ぶべく、テトラを取り囲む仲間たちへと伝わっていった。
「前回みたいな無様を晒したりはしないよ……汚名返上といこうか!」
 突然の襲撃から距離を取ろうとする敵をエリシエルが取り逃がすまいと、次々と業物の日本刀から斬撃を繰り出す。刃と装甲が擦れ合う甲高い金属音が戦場に鳴り響いた。
「流石に固いね……じゃあ、これならどうだい?」
 息を吐かせぬ斬撃から突然エリシエルが半身を捻って回し蹴りを繰り出した。
 正統な剣術から外れた、いわゆる奇手であるが、それ故に予測の立てにくい一撃となり敵の動きが止まる。
 そして、その一瞬を逃すケルベロスでは無い。野生の獣の如くしなやかに跳躍した降夜が敵の上を取り、その拳を白い装甲板へと撃ち下ろした。
「凍りつけ――『凍』」
 拳が触れた所からテトラの表面が凍りついていった。
「無事あっちも突入できたみたい……」
 ティが相棒の小竜に語りかけるように呟く。少女の目はテトラと戦う仲間たちよりさらに前方、少女たちが護衛のテトラの動きを阻んでいる間に、本陣ともいえるドクターDへと攻撃を開始したチームへと向いていた。
 作戦は順調に進んでいるといってよい。ならば自分たちの役目は――。
「わたしたちも……行くよ、プリンケプス」
 意識を目の前の敵へと戻した少女は小竜と共にテトラへの攻撃を再開した。

●逆襲の雨
「さあ、旧交を温めよう。君には、わからないだろうが」
 テトラへと業火の獣をけしかける豊。彼の名の由来となった千歳緑の瞳は、同じ色をしたテトラのカメラアイをじっと見つめていた。
 千歳緑(せんざいみどり)。
 暗く灰みのある緑色の事で、千歳とは不死と不変の象徴である松の木を示す。
「皮肉なものだ」
 豊が拳銃のトリガーを引く。深い暗緑色の瞳は普段と変わらぬ色を湛えていた。
「Gravity Control ―――」
 エナの声。空中を浮遊していたテトラが突然姿勢を崩し、エナに向かい引き寄せられていく。見ればエナの拳の先に漆黒の重力球があった。
「Strike―――」
 そして眼前に迫った敵に重力球ごと拳を叩きつける。さらに、衝撃で細かく振動した敵の頭上に地異が姿を現した。
「スーパー天変地異キィイークッ!!」
 流星の如き跳び蹴りがテトラの背中を直撃する。
「こいつ、見た目通り大した事ないんじゃ――」
 頼もしい仲間たちの猛攻の目の当たりに、ヴィルフレッドが敵をチラリと見る。すると、小さな情報屋の背筋にゾクリと悪寒が走った。
 戦場での自分の直感。特に悪い方。
 それはヴィルフレッドにとって信頼に値する情報のひとつであった。
「みんな、気をつけるんだ!!」
 だから一切の逡巡無しに警告を発する。
 次の瞬間。テトラの身体から一斉に大量の何かが射出される音が――。
 そして、空を埋め尽くすかのようなミサイルの雨が戦場へと降り注いだ。

●昔日のままに
 盛大な爆発と轟音。そして、煙に包まれた静寂が戦場を覆った。
「皆さん、大丈夫ですか!!」
 レカが濃い硝煙の匂いにむせ返りそうになりながら大声を上げた。ヴィルフレッドの声のおかげでミサイル着弾の直前に仲間に防壁を張る事は出来ていた。
「何だよ、今まで本気を出して無かったっていうのかい!?」
 煙が晴れる。ヴィルフレッドを始め元気な仲間の姿にレカはほっと胸を撫で下ろした。流石に無傷とはいかないが致命的な状況は避けられたようだ。
 と、次なるミサイルの群れが、今度はレカに襲いかかった。
「させるかよっ!!」
 地異が自分からミサイルに飛び込み、身を挺してレカを守る。即座に地異のヒールに当たったレカであるが、ジリジリとした気持ちが胸を焦がした。
「オレはみんなの盾になる! だから頼む、オレを支えてくれ!!」
「……はいっ、お任せください!」
 真っ直ぐな地異の言葉に、レカは力強く頷く。
「ハハッ、ハハハハッ!」
 豊の口元から弾んだ笑い声が漏れる。彼の目には、ドクターDへの救援を諦め、その全機能を敵への殲滅へと傾ける強大なダモクレスの姿が映っていた。
「そうだ……それでこそ、ポボス・テトラだ!」
 心底嬉しそうに千歳緑の瞳が細まった。

●闘争の果て
「クッ……」
 降夜が苦悶の息を漏らす。戦闘が始まってどれだけの時間が経ったのか。その身体に蓄積されたダメージもかなりのものになっていた。
 再び飛来するミサイルにガードを固める。視界を爆炎が覆い、衝撃に意識が遠のく。
 朦朧とした脳裏に亡き妻の姿が浮かぶ。刹那、背中にズキリと痛みが走った。
「大丈夫かい?」
 駆け寄ってきたエリシエルの心配そうな声。
「なに……こんな所で、野たれ死ねるかってんだ」
 降夜が答える。胸の奥の恩讐の炎が降夜の意識をその場にギリギリで踏みとどまらせた。
「お二人とも、次が来ます!」
 ヒールをしつつ、レカが注意を促す。敵から間断なく放たれるミサイル群。空中へと飛び出したそれらは、続々とケルベロスたちに襲いかかる。
「ボクにも意地と矜持ってもんがあってね。……今度こそ、叩っ壊してやんないと」
 散開し、ミサイルを引き離すべくエリシエルは戦場を駆ける。
「……」
 狙撃銃のスコープを覗き込むティ。動き回る目標の最も装甲の薄い箇所を狙った一撃。しかし、全ての集中力を狙撃へと向けた少女のすぐそばに無数のミサイルが迫っていた。
 その時、少女の前を小竜が横切った。すると、小竜に狙いを向けたミサイルたちが一斉に方向を変え小竜を追いかけていく。
「目標補足」
 ティが引き金を引く。直後、装甲を粉砕した徹甲弾が敵の体内で鈍い爆発を起こした。
 衝撃で動きの止まったテトラにエナとエリシエルが迫る。
 だが先に、半壊した装甲の発射口から接近する2人に向かってミサイルが放たれ――。
「そうはさせない」
 豊の銃弾が吸い込まれるように発射口へと撃ち込まれた。ミサイルが暴発しテトラが爆炎に包まれる。
「Shot―――」
 エナが具現化したパイルバンカーから巨大なパイルが射出され、標的を串刺しにする。
「山辺が神宮石上、神武の御代に給はりし、武御雷の下したる、甕布都神と発したり――」
 颯爽と空中へと跳び出したエリシエルがテトラと交錯し、剣閃がきらめく。
「万理断ち切れ、御霊布津主」
 着地したエリシエルの背後。爆炎ごと真っ二つに、神速の斬撃がテトラを両断する。
「あの時のままの君に会えて、嬉しかったよ」
 光を失っていくテトラのカメラアイを、千歳緑の瞳が優しく見届けた。

●人の性
 フゥ、とエリシエルが満足そうに息を吐く。
「ポボス・テトラ……強力な相手だったぜ」
 地異が汗を拭いテトラの残骸へと目を向ける。そこにジッと佇む豊の姿があった。
「うーん、ちゃっちゃっと他の班の助っ人に行きたいんだけど……」
 少し声の掛けづらい雰囲気に、ヴィルフレッドが苦笑いを浮かべると、周囲の状況を確認していたティが首を横に振った。
「その必要はなさそうですね。私たちの完全勝利です」
 見れば他の戦場も決着がつき、ドクターDと護衛のダモクレスは全滅したようであった。
「良かったです」
 大きく息を吐いたエナが戦闘中とは打って変わった穏やかな笑顔を見せた。
「よし、目的は達したな。撤退は迅速に、だな」
「はい、全員で生きて帰りましょう」
 降夜の言葉にレカが頷く。
 前哨戦はケルベロスたちの勝利に終わった。
 だが来たるべきケルベロスウォーはすぐそこに迫っている。本当の決着をつけるのはこれからなのだ。

「水中だったら、そっちの勝利だったかもしれないな」
 豊が呟く。
 デカ、テトラ……。かつての仲間たちとの戦いに思う所が無い訳では無い。
 戦いに心躍る気持ち。胸を締め付ける哀愁、惜別の念。
 その全ては豊にとって極上の甘露であり、魔性の愉悦をもたらす麻薬のようなものだ。
 ――千歳緑は不死不変なれど、それでは『つまらない』ではないか。
 だから豊は人であり続け、ケルベロスとして戦い続けるのだ。

作者:さわま 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月14日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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