載霊機ドレッドノートの戦い~心持たぬ者に恐怖を刻め

作者:青葉桂都

●ドレッドノートを止めろ
 集まったケルベロスたちに向かって、ヘリオライダーは語り始めた。
「先日の弩級兵装回収作戦の結果、2つの弩級兵装を破壊することに成功しました」
 しかし『弩級超頭脳神経伝達ユニット』と『弩級外燃機関エンジン』は回収され、『コマンダー・レジーナ』も撃破することができなかった。
 石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は、バアルルゥルゥ・アンテルエリ(ヴィラン・e34832)ら数人の調査で弩級兵装の行方が分かったことを告げる。
「兵装は載霊機ドレッドノートに運び込まれました。ダモクレスは弩級兵装を組み込んでドレッドノートを再起動しようとしているものと考えられます」
 仮に再起動されれば人類にとって大きな脅威となる。
「すぐにドレッドノートが動き出すわけではありませんが、コマンダー・レジーナが『弩級超頭脳神経伝達ユニット』を修復可能なため、いずれは本来の力を取り戻すでしょう」
 6体の指揮官型ダモクレスたちは全力でドレッドノートを守護し、復活までの時間を稼ごうとしているという。
 そうなる前に、ドレッドノートへの強襲作戦が作戦が行われることになったのだ。
 現在、載霊機ドレッドノートはダモクレスの軍団に制圧されている。
 周囲は『マザー・アイリス』の量産型ダモクレスが展開しており、ケルベロス・ウォーを発動しなければ攻め込むことは難しいだろう。
「攻め込むにはヘリオンからの降下作戦を行う必要がありますが、さらに別の障害があります。『踏破王クビアラ』が対ケルベロス用に用意したヘリオン撃破用砲台です」
 8基ある砲台はクビアラ配下の強力なダモクレスによって守護されているが、まずはこのダモクレスを突破して破壊しなければならない。
 ヘリオンで砲台直上まで移動し、空中でヘリオンへの攻撃を阻止しつつ降下、ダモクレスと砲台の撃破を試みるという流れになる。
「破壊に成功すれば、降下作戦を行うことができるでしょう。ドレッドノートへの潜入して、残る4体の指揮官型ダモクレスによる修復作業の阻止を目指すことになります」
 まず『ジュモー・エレクトリシアン』とその配下はドレッドノートの歩行ユニットを修復している。撃破すればドレッドノートの動きを阻害することができる。
 弩級外燃機関エンジンを守っているのは『ディザスター・キング』だ。キングの軍団は自らをエンジンの一部として必要な出力を確保しようとしている。
 彼らを撃破できればドレッドノートの出力を引き下げることができる。
 先述のコマンダー・レジーナとその軍団は弩級超頭脳神経伝達ユニットの修復を行っている。修復されればドレッドノート自身が巨体を制御して戦えるようになる。
 ドレッドノート級の攻撃は、腕を振り回すだけで巨大なクレーターが作れるほどだ。
「最後に『イマジネイター』ですが、ドレッドノートに融合してその意志になろうとしているようです。現時点では大きな危険度はありませんが、できれば阻止したい行動です」
 万が一ケルベロス・ウォーで敗北した場合に、自らの意思を持つ弩級ダモクレスが出現してしまうことになるからだ。
 もっとも、あくまで敗北時の話なので、ケルベロス・ウォーで勝利できる自信があるなら無視するのも1つの戦略かもしれない。
「マザー・アイリスの量産型を今回の作戦で排除するのは不可能ですので、クビアラ軍団を排除するか、残る4体の指揮官型いずれかの行動を阻止していただくことになります」
 クビアラ軍団への対処は他の作戦の前提条件となる重要な作戦だし、潜入チームの数が十分にそろわなければ成果をあげられない。
 どの軍団を狙うかは話し合って決めて欲しいと芹架は言った。
「載霊機ドレッドノートとの戦いはケルベロス・ウォーを発動して行うことになります」
 今回の作戦は来るべき戦いを有利に進めるための前哨戦というところか。
「作戦終了後は、敵地に取り残されることがないように素早く撤退し、次なる戦いに備えていただけますようお願いします」
 芹架は静かに頭を下げた。


参加者
九石・纏(鉄屑人形・e00167)
日向・向日葵(向日葵のオラトリオ・e01744)
ジド・ケルン(レプリカントの鎧装騎兵・e03409)
ロイ・ベイロード(剣聖・e05377)
タクティ・ハーロット(重力を喰らう晶龍・e06699)
パトリシア・シランス(紅蓮地獄・e10443)
アト・タウィル(静寂に響く音色・e12058)
水無月・香織(地球人の鹵獲術士・e30250)

■リプレイ

●火星を求めて
 ヘリオンに乗ったケルベロスたちは、8つの信号弾が上がるのを見た。
「どうやら道中の安全は確保できたみたいね」
 鮮やかなルージュを塗った形の良い唇から、パトリシア・シランス(紅蓮地獄・e10443)の声が漏れた。
「この戦いが上手くいけば、後の戦争が楽になる。なら、死なない程度に頑張るとしようか」
 淡々と言ったのはダウナー系レプリカント,九石・纏(鉄屑人形・e00167)だ。
「どんなに相手が強大であろうとも私達は必ず勝ちますよ! 気合入れていきましょう」
 対照的に、力強く言ったのは水無月・香織(地球人の鹵獲術士・e30250)だった。
「放置とか出来ませんし、気を抜かずに確実に叩き潰してやりますかだぜ。俺たちが奴らの災厄(ディザスター)になってやるんだぜ」
 不敵な笑顔を見せるのはタクティ・ハーロット(重力を喰らう晶龍・e06699)。
 災厄の名を冠する指揮官、ディザスター・キングの軍団が彼らの目標だった。
 もっとも、狙おうとしている敵はキング本人ではなかったが。
「それでは乗り込みましょう。頑張りましょう、九石さん」
 眠たげな眼をしていたアト・タウィル(静寂に響く音色・e12058)が乗降口に近づき、ゆったりと仲間たちに、そして纏に声をかける。
「……ま、やるだけやってみるよ」
 答えはけだるげだった。ただ、他の者への言葉より少しだけ柔らかい音がした。
 妨害ももはやなく、ケルベロスたちは無事にドレッドノートに降り立った。
「ダンジョンとしてのドレッドノートにはいつかこようと考えていたよ。まさかこんな形で来ることになるなんてね」
 日向・向日葵(向日葵のオラトリオ・e01744)が周囲を見渡す。
 早々にエンジンに接続されたダモクレスを探して、撃破しなければならない。
 ほとんど隠れていない大きな胸を揺らして、向日葵は仲間たちと共に駆けだした。
 謎のパイプが張り巡らされ、円筒形を始めとする機械が並ぶドレッドノートの内部をケルベロスたちは探索する。
 巨大なハンマーと大剣を手にしたダモクレスを見つけたのはほどなくのこと。
 ケルベロスコートに身を包んだ青年が鋭い眼光を敵へ向けている。
「ロイ、あれが探していた相手か?」
 冷静な口調でジド・ケルン(レプリカントの鎧装騎兵・e03409)が青い鎧に身を包んだ青年に問いかけた。
「そうだ。ついに見つけた!!」
 鉄塊剣を抜き放ち、ロイ・ベイロード(剣聖・e05377)が叫んだ。
 迷うことなく敵前へと飛び出した彼を、ダモクレスの冷たい目が見すえる。
「プラネットフォース4番機『火星』もとい、『ザ・マーズ』!! ディザスター・キングの思い通りにもさせないし、お前らの好きにもさせない!!」
 叫ぶロイへと、ザ・マーズは両手の武器を静かに向ける。
「『地球』と『水星』、そして、『アステロイド』と同様に倒させてもらう!! 今までの付け、全て、ここで払ってもらうぞ!!」
「戯言につき合っている暇はない。私には弩級エンジンに力を送る使命があるのだ。ケルベロス、お前たちを粉砕する!」
 重たい音を立てて、ザ・マーズはケルベロスたちへと足を踏み出した。

●暴虐の火星
 2つの近接武器が目を引くが、敵の武装はそれだけではない。
 背面で八の字を描くように伸びた大砲が円弧を描き、ケルベロスたちに向いた。さらには脚や腕、ハンマーについた発射口が開く。
 ロイに向けられたそれらが一斉に火を吹いた。
 タクティはとっさに仲間の前へと立ちふさがった。
 ガントレットを装着した両腕を交差させて、襲いかかる無数の衝撃から自分を守ろうとする。守りを固めていても厳しい衝撃に、タクティは歯をくいしばって耐える。
「助かった。だが気をつけろ、奴は全身武器になっているんだ!」
 後ろにいるロイが、礼とともに忠告の言葉を投げかけてくる。
「ああ、今ので十分わかったんだぜ。ミミックも気を付けて、仲間を守ってくれだぜ」
 同じく前衛で守りを固めているサーヴァントにも、タクティは声をかけた。
「それじゃ、次はこっちが力を見せる番よね」
 タバコをくわえたパトリシアが赤い閃光のごとく痛烈な跳び蹴りを叩き込んだかと思うと、彼女のライドキャリバーも炎を吹き上げて突撃する。
「叩き割らせてもらうんだぜ!」
 動きが止まっているところに、タクティも拳を握って突進した。
 牽制とばかりに向けられたザ・マーズのハンマーにオーラを注ぎ込み、結晶化させる。
 結晶化しているのはわずかな時間。だが、そのわずかな時間を狙い、彼はハンマーに拳を叩き込んでひび割れさせた。
 ミミックも偽物の財宝をばらまいて敵を惑わせていた。
 タクティとパトリシアの攻撃に続いて、仲間たちもザ・マーズへと攻撃をしかける。
 ジドが仲間たちを守るべく展開したドローンの間から、赤いインラインスケートを履いた香織の体が宙を舞う。
「砕けろっ!」
 重力を操った蹴りがさらに敵の動きを鈍らせる。
(「気合十分って感じだな……」)
 纏は着地とともに離脱していく香織を見て、心の中で呟く。
 彼女はなんのために戦っているのだろう。興味はないが、理由はきっとそれぞれにあるはずだ。そして、纏が戦う理由は自分のためだった。
 戦わなければ自分自身の平穏が保てないから、彼は戦うのだ。
「私もせいぜい、できることをするよ」
 手にしていたスイッチにグラビティを込めて押す。
 色とりどりの派手な爆発が、前進する仲間たちの背を押す。
「支援、感謝する。奴は鈍重ゆえ、短期戦でつぶす!」
 ロイが精神を集中させて起こした爆発が、ザ・マーズの頑丈な体を揺らがせた。
 その間に、アトが傷ついたタクティに気を注いで回復し、向日葵は敵を狙いやすい位置へと移動していた。
 確かに敵は鈍重だったが、それでも攻撃を回避しやすいわけではない。
 重火力の一斉射だけでない。ハンマーの一撃が床を打つと、衝撃がケルベロスたちをまとめて吹き飛ばす。
 あるいはうなりをあげて薙ぎ払う大剣が、炎を帯びてケルベロスたちを焼き切った。
 だが、ケルベロスたちはひるまない。
 香織は手の中に弾丸を握った。
「打ち砕け! 渾身の一撃!!」
 ありったけの風の魔力を弾丸に込めていく。かつてデウスエクスから奪った精霊魔法をアレンジした技だ。
 後衛に立つ香織と敵との位置は遠い。魔力を込めながら接近の機会をうかがう。
 ザ・マーズの頑丈なボディと前衛の仲間たちが入り乱れている中へと、彼女は一気に突っ込んでいった。
「もらったぁぁーっ!」
 仲間たちの間に飛び込むと、香織は至近距離からリボルバーの引き金を引いた。
 爆風がダモクレスを揺らがせる。
 後方から向日葵の叫び声も聞こえてきた。
「奥の手行くよォッ! うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁああああぁぁっ!!!!」
 強力な力を発動させた彼女の翼から光が放たれ、さらには二丁の拳銃とアームドフォートも連続で畳みかける。
「喰らうがいい!!」
 ロイも力を込めて、鉄塊剣を逆袈裟に斬りあげた。
 ダメージをものともせずに、ザ・マーズはハンマーを振り上げた。機械の顔は激しい攻撃を受けても当然変わらないが、効いていないはずはない。
 ハンマーの起こす爆発からジドがパトリシアを、ライドキャリバーがロイをかばう。
「あなたがどんなに強くたって、私たちは負けないよっ!」
 爆炎に負けぬよう宣言し、香織はまた攻撃の機会を狙い始めた。
 ドローンの守りによって減衰し、それでもなお厳しい打撃を受けながら、ジドがガトリングガンを敵に向ける。
 爆炎の魔力を込めた弾丸は、装甲の表面でいくつもの爆発を起こした。
 アトは激しい攻撃にもくじけぬ仲間たちを、後方から支えていた。
 愛用のハーモニカを静かに吹き始める。機械倉庫の片隅でアトが吹いているハーモニカのことを、纏は知っているだろう。ただし、今聞かせようとしているのは彼ではない。
「皆さんが動きを止めぬよう、私から送る曲です。どうぞ……」
 低音から高音へ移行しながら、テンポの良い行進曲がドレッドノートの内部に響く。
 火星の名を冠する敵の攻撃は強力で、いつまでも耐えられるものではない。
 けれど聞く者の気分や体力を上向かせて本来の力を取り戻させる調べが、その時を先へと送ることができる。
 防衛役のジドやタクティ、打撃役のロイやパトリシア。さらにミミックやライドキャリバーも、まだしばらくは戦線を構築していられそうだ。
「残念だけど弱点はなさそうね」
 パトリシアが黒色の魔力弾を放ちながら仲間たちに告げた。
「それでも負けるわけにはいかない。これで決める!! 砕け散れ、災厄の星よ!!」
 ロイが再び、必殺の剣を繰り出した。

●赤き星が墜ちるとき
 戦いはなおも続き、ザ・マーズの鈍い色をした装甲にいくつもの傷が刻まれ、無数の歪みが起こっていた。
 だが、デウスエクスは負傷によって戦闘能力が落ちることがない。
 大剣の一撃から主をかばって、とうとうパトリシアのライドキャリバーが停止する。
「当たるかねぇ」
 雪の結晶を模した纏の手裏剣が、突き刺さって呪いを敵の体内に送り込み、敵の動きを阻害する効果を増幅する。
 負傷で弱ることはなくとも、グラビティによって敵の動きを縛ることはできるのだ。
「アトさん、私も回復手伝うからね!」
 向日葵は回復手を担うアトに声をかけた。
 回復できないダメージと、回復しきれないダメージはじょじょに積み重なり、1人では支えきれなくなってきていた。
「すみません、日向さん。よろしくお願いします」
 頭を下げると、アトの頭で跳ねているくせっ毛が揺れた。
「よーし、それじゃ私も! 頑張ろう! ここが正念場よ!」
 香織が赤いオーラを操り、気力を溜めていく。
 アトは罪を肯定する曲を歌い上げ、仲間たちを癒す。
 向日葵も叫び声を上げて失われたオラトリオの大いなる力を呼び覚ました。
(「ケルベロス・ウォーには参加できるかわからないからね」)
 ここで少しでもダモクレスを止めなくては。
 攻撃に幾度か使った技だが、仲間を守るためにも使える。向日葵は傷の大きなジドの時間を巻き戻して、なかったことにした。
 それでも、限界はいずれ訪れる。
 猛然と振り下ろされるダモクレスの大剣が炎を帯びた。
 ロイはとっさに自身の剣で受け止めようとするが、間に合わない。
「くっ……!」
 体が引き裂かれ、傷口が焼かれる。
 騎士鎧が重みを増したように思えたのは、ロイの体に限界が訪れたことの表れか。
 だが、倒れるわけにはいかない。
(「『地球』そして、レナが倒した『水星』に続き、『火星』をようやく見つけたんだからな……!」)
 まだ『金星』や『木星』以降の敵も残っているのだ。
「お前に倒されて、たまるものか!」
 決意を声に出して、ロイは剣を杖にして無理やり限界を迎えた体を起こす。
「探してた奴の1体なんだったら、倒れちゃダメなんだぜ、ベイロード!」
 タクティの声が聞こえた。
 仲間の攻撃がダモクレスを傷つけていっているのを認識し、ロイもまた剣を構え直す。
「ああ、俺は負けないぜ。これがっ!! 必殺の一撃だ!!」
 剣に心・技・体の全てを込めて、右下段から逆袈裟に斬りあげる。ベイロード家に伝わる奥義は確かにザ・マーズをとらえた。
 だが次の瞬間、ダモクレスの目が光った。
「戯言につき合う暇はないと言ったはずだ」
 ハンマーが振りあげられる。
 ジドはとっさにロイとザ・マーズの間に割り込んだ。
 火薬が炸裂する音が響いて、ハンマーがドレッドノートの床を打つ。そこから衝撃波が広がるのだ。範囲攻撃とはいえ2人分の衝撃を受ければ体がもたないかもしれない。
(「ここまでか……?」)
 だが、ひび割れていたハンマーは直撃の瞬間僅かに歪み、衝撃を十分に伝えきれなかった。さらには展開していたドローンもジドを守り、威力を減衰する。
「すまない、助かったぜ!」
「いや……助けられたのは私も同じだ」
 これもまた、可能性という概念によるものなのだろうか。
 ギリギリのところで持ちこたえたジドは、敵にアームドフォートを向ける。
 タクティやパトリシアも無事だった。
 オウガメタルの拳でパトリシアが敵を殴りつけ、タクティのハンマーガントレットが加速して追撃する。
 香織がオーラを注いでくれたおかげでジドの傷が治る。アトや向日葵も回復してくれるのを感じながら、彼が放った光線が敵を貫いた。
 ロイの鉄塊剣が地獄の炎を帯びて敵を切り裂いた。纏の自作チェーンソー剣もうなりをあげて装甲を削っていく。
 ぼろぼろになったザ・マーズが、それでも火砲とミサイルをジドに叩き込む。
 今度こそ、ジドが倒れた。
 けれどそれは最後のあがきに過ぎなかった。
 パトリシアは弾丸に焔の魔力を込める。
「地獄の焔に灼かれなさい」
 弾丸は傷ついた装甲の隙間から吸い込まれるように内部へ飛び込み、紅蓮の炎が敵の傷口から吹き出した。
「悪いわね、ロイ」
「いや……仕方ないぜ。これ以上は長引かせられなかったからな」
 炎をまき散らして崩れ落ちていく敵をながめながら、パトリシアはくわえていたタバコに火をつけた。

●撤退
 勝利の一服を吸いながら、パトリシアは周囲を見渡す。
「役に立ちそうなものがあったら回収したかったけど……」
 特に見当たるものはなかった。じっくり探せばなにかあるかもしれないが、残念ながらそれだけの時間はない。
「終わったんだぜ。これで敵の戦力が減ってくれるはずなんだぜ」
 1体の影響がどれだけかはわからないが、少なくともまったく倒さないのに比べれば大きな差があるはずだ。タクティは楽観的にそう考える。
「みんな、お疲れ。でも、他の班まで助けに行く余裕はなさそうね」
「そうだね、そのほうが楽でいいし。撤退しよう」
 香織の言葉に纏が頷く。苦戦する姿が見えたならそれでも向かっていったかもしれないが、他の班がどこで戦っているかもわからないのだ。
「ケルンさん、大丈夫ですか?」
「ああ、なんとか重傷は免れたようだ。回復してくれたおかげだな」
 アトの手を借りて、ジドも起き上がる。
 ケルベロスたちは足早に、ヘリオンと合流する予定の場所へと移動し始める。
「こりゃぁ数日後寝込み決定だわ……」
 体に負担のかかる技を使っていた向日葵が、ぼやきながら走り出した。
 ロイは最後までザ・マーズの姿を見つめていた。もう決して動くことはないと、確信が持てるまで。
「ともかくとして、『火星』は葬ったが、『太陽』が別の所にいるのに、手を出せないのは歯がゆいところだぜ……」
 誰かが葬ってくれたのか、それとも誰も戦っていないのか、確かめる術はない。
 もしケルベロス・ウォーであいまみえることができるならば……。
 だが、今は撤退するよりない。
 この戦いは、次の大きな戦いの前哨戦に過ぎないと、誰もがわかっていた。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月14日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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