載霊機ドレッドノートの戦い~起動迷宮ドレッドノート

作者:吉北遥人

●超頭脳と外燃機関の行方
 ヘリオン内。集まった面々にソファを勧めてから、ティトリート・コットン(ドワーフのヘリオライダー・en0245)はパソコンを操作した。
「先日行われた作戦の結果、弩級兵装のうち二つを破壊。二つがダモクレスに回収されてしまった」
 回収されたのは『弩級超頭脳神経伝達ユニット』。
 そして『弩級外燃機関エンジン』。
「実はそれらの転送先を、その地点を警戒してたケルベロスたちが突きとめたんだ」
 スクリーンに映し出されたのは、青森県黒石市に存在するダンジョンの遠景写真だ。
 それ自体が巨大ダモクレスでもある、髑髏にも似たそのダンジョン――載霊機ドレッドノートを指し示し、ティトリートは説明を続ける。
「こいつこそが、指揮官型ダモクレスの目的だ。弩級兵装を組み込んで、ドレッドノートを起動させるつもりなんだよ。もしそうなれば、この巨大さだ。ケルベロス・ウォーを発動しなきゃ対抗できないだろうね」
 ケルベロスたちの活躍により弩級兵装は大ダメージを被っているため、すぐに動き出すことはない。
 だがそれも時間の問題だ。向こうには『弩級超頭脳神経伝達ユニット』を修復可能な指揮官がいる。
「キミたちの任務はほかでもない」
 説明の内容が一同に充分浸透したのを確認してから、ティトリートは言った。
「載霊機ドレッドノートを強襲。ダモクレスの目論見を、できうるかぎり阻止してほしい」

●五つの撃破目標
 画面が切り替わった。次に映ったのは、載霊機ドレッドノート周辺を表す簡易的な図面だ。
「周辺にはマザー・アイリスの量産型軍勢が展開していて、地上からの侵攻経路は実質的に封鎖されてしまってる。だから、ヘリオンからの降下作戦をとる必要があるんだけど――」
 図面の一部に、大雑把ながら量産型の布陣を表す赤い斜線が引かれ、その後、別の箇所に赤い光点が生じる。
「空は空で、踏破王クビアラが『ヘリオン撃破用の砲台』を複数設置してるんだ。これがあるかぎり、降下作戦も難しい」
 ゆえに、最初に撃破する目標はこの砲台、ならびにそれを守護するクビアラ軍団のダモクレスとなる。
 それが成功すれば、強襲降下作戦によりドレッドノートへの潜入が可能となる。

 次はドレッドノート内に潜入した後の話だ。
「そこでの攻撃目標は四つある。順に言っていくね」

『ジュモー・エレクトリシアン軍団』
 この軍団は、飛行能力を失ったドレッドノートの、歩行ユニットの修復を行っている。
 完全状態のドレッドノートの最大歩行速度は、推定時速200km超――エレクトリシアンたちの修復がそこまで至らなかったとしても、その半分ほどの速度は出せるようになるだろう。時速100kmもあればその移動範囲は広大に過ぎる。
 この軍団をどれだけ撃破できるかで、ドレッドノートの移動速度が決まる。

『ディザスター・キング軍団(『弩級外燃機関エンジン』)』
 この軍団は、自分たちが『弩級外燃機関エンジン』の一部になることで、必要な出力を確保しようとしている。
 出力が高いほど、ドレッドノートは戦闘用ダモクレスを生み出すことができる。
 エンジンを完全に停止させることはできないが、この軍団を撃破すればそれだけ出力を低下させられる。

『コマンダー・レジーナ軍団(『弩級超頭脳神経伝達ユニット』)』
 この軍団は、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の修復作業に取り掛かっている。
 修復が完了してしまったら、ドレッドノート自身がその巨体を制御してケルベロスたちを攻撃できるようになるため、危険度は跳ね上がる。
 コマンダー・レジーナを撃破すればそれを阻止できる。

『イマジネイター軍団』
 この軍団の指揮官であるイマジネイターは、ドレッドノートと融合しようとしている。この融合による起動がダモクレスたちの作戦であるらしい。
 融合が完了すると、載霊機ドレッドノートはイマジネイターという意思を持つ、弩級ダモクレスに生まれ変わる。
 現時点での危険度は低いが、万が一、ケルベロス・ウォーに敗北してしまえば、自立する超巨大兵器となったドレッドノートが大きな被害をもたらすことは想像に難くない。できるならば阻止したいところだ。

「ケルベロス300名以上による大作戦……だけど敵戦力はそれ以上だ。もしかするとドレッドノートの起動は阻止できないのかもしれない。でもたとえそうだとしても、ここでキミたちが突き立てる牙は、後の決戦でダモクレスを倒す剣になるはずだ」
 作戦が成功したら素早く撤退し、また無事な姿を見せてほしい――そう締めくくって、ティトリートは席を立った。コックピットに向かう途中、顔だけわずかに振り返る。
「それじゃあ行こうか。準備はいいかな?」


参加者
八千沢・こはる(ローリングわんこ・e01105)
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)
フォン・エンペリウス(生粋の動物好き・e07703)
比嘉・アガサ(のらねこ・e16711)
伊・捌号(行九・e18390)
柚野・霞(瑠璃燕・e21406)
影渡・リナ(シャドウランナー・e22244)
天乃原・周(出来損ないの魔法使い・e35675)

■リプレイ

●脊髄へ駆ける
 三百二十人中の九十六人。
 これだけの人数が移動しているにもかかわらず、複雑に稼動する機械群と蒸気の音がほとんど足音を掻き消している。
「ひゃあ……」
 修復に伴い、様々な内部機構が活性化しているのだろう。八千沢・こはる(ローリングわんこ・e01105)が驚嘆の声を漏らした。このダンジョンには何回か潜ったが、こんな機構があったとは。
 そんな彼女の袖を、フォン・エンペリウス(生粋の動物好き・e07703)がくいと引っ張った。心配げに首を傾げるフォンに、こはるが笑顔を返す。
「はい、大丈夫ですよフォンさん。ダモクレスの目的は絶対に阻止しなきゃですね! がんばるぞー!」
「ん、がんばるの」
 気合いを入れ合いつつ、チームからはぐれぬようこはるとフォンが脚を速める。
「この身でどれだけ守れるかは分かりませんが……責任をもって、最善を尽くしましょう」
 緑の信号弾が八本打ち上がったのを確認したのが、つい先刻のこと。ヘリオンを庇うような展開こそ避けられたが、本番の戦いを前に、柚野・霞(瑠璃燕・e21406)の瞳は強い決意を宿していた――これ以上、ダモクレスの好きにはさせません。
「うん、危険も大きいけれど、企みを潰せるチャンスでもあるもんね」
 そしてその決意を抱くのは霞だけではない。頷いた影渡・リナ(シャドウランナー・e22244)が勇気を振り絞るように刀の柄を強く握る。
「相手がなんであろうとお仕事、しっかりさせてもらうっす」
 コイフをなびかせて走る伊・捌号(行九・e18390)が気合い充分に言えば、天乃原・周(出来損ないの魔法使い・e35675)も微笑んで頷いた。その間も周囲に異常がないか目を配るのを忘れない。
 その前方、比嘉・アガサ(のらねこ・e16711)の眉が険しく寄った。
「そろそろ目的地のはず……」
 体感距離、壁・床の変化、何よりチリつく空気がアガサに警戒を促す。そしてその感覚は正しかった。
 通路を駆け下りた先は、広大な空間だった。
 楕円形に伸びるホールのようなその空間の外壁には鋼板が張り巡らされ、ところどころギアやレバーが露出している。鋼の闘技場にも似たその一角にて『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の修復にあたっているのは、コマンダー・レジーナをはじめとする多数のダモクレス――。
 なだれ込んだケルベロスが得物を抜き放つのと、それに気付いたダモクレスが戦闘機動に移行するのはほぼ同時だった。
 剣戟と銃声が交錯し、反響する。一瞬にして戦乱の坩堝と化した空間の中で、玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)は冷静に砲口をもたげた。照準器の中央にペストマスクを装着した巨体が映る。

●系統樹の解体者
 撃ち出した轟竜砲は、瞬時に身を逸らしたペストマスクのダモクレスの黒衣と、下半身をかすめた。
『……なるほど』
 熱線を浴びていながら何の痛痒もないような呟きが仮面の奥から聞こえた直後、そのダモクレスは下半身――幾重ものメスと鋏で構成された、青白い蠍の身体をくねらせた。遠心力で射出された銀光は、数十を超える刃だ。
 あたかも壁のように迫るメスと鋏に、ボクスドラゴンのエイトと、シャーマンズゴーストのシラユキが飛び込んだ。全身を切り裂かれながらも刃を弾き返し、炎で撃墜する。その二体の後ろから突撃したのはアガサとこはるだ。蹴撃が風を巻き、刺突が雷電を帯びる。
『君たちが私の患者というわけか』
 蠍の尾が旋回した。メスの脚がこはるの“日車”と衝突、紫電を散らして弾き合う。
 同時に、アガサの蹴りは尾の先端が受け止めていた。唸りをあげて連続で突き込まれる銀の毒針を、アガサは左右にステップしてやり過ごすが、その途中、身代わりに貫かれた壁の鋼板がどす黒く変色するのを見て、頬を嫌な汗がつたう――くらえばただでは済むまい。
「退がってください!」
 鋭く飛んだ声は霞のものだ。アガサと入れ替わりに接敵するや、蠢く尾を軽やかに回避する。眩い雷光の宿る斧鎌“Mors Nigra”が、ダモクレスの腹部を突き穿った。
『ほう……!』
 自身を蝕む雷から逃れるようにダモクレスが後退する――包囲するように空間に波紋が生じたのはそのときだった。
「出でよ、レヴィアタン! その咆哮を聞かせたまえ!」
 周の召喚に呼応し、歪みは魔獣となって現出した。巨体を鱗で鎧った幻影の魔獣が牙を剥き、大気を震わせる。
 轟音に至近距離でさらされながらも、ダモクレスはメスを握りしめた。他のメスと違い、奇妙なほど捩じくれた刃のそれを、先ほど穿たれた損傷個所に突き入れる――拒絶するように激しいスパークが起こった。
『禁癒か。小癪な真似を』
 言葉と裏腹になぜか愉快げなダモクレスの、急速に塞がっていく損傷を陣内は苦々しく見やった。
 周が与えたアンチヒールは覿面に作用している。だが、それでも敵の回復が凄まじい。しかも、重ねたバッドステータスまで今のヒールでほとんど除去されてしまった。
 そこから導き出される答えは……。
「ポジションはメディック、みたいですねー」
「……だな」
 こはるの結論に陣内も頷いた。
『系統樹の解体者』――ケルベロスたちはチームごとに標的を定めていたが、その中でも彼らが引き受けたこのダモクレスは医者を思わせる特徴を持っていた。だからメディックというのは想定の範囲内ではあったし、その対策も充分効果的だ――残る問題は、単純な力量。
「早期撃破は厳しそうっすね」
 この調子では長丁場となるだろう。オウガ粒子を散布する捌号の声にも、やや苦みが混じっている。
「ん、でもやるしかないの」
「わたしが切り開くよ」
 鼓舞するフォンに応えるように、リナが進み出た。
「なんとか動きを封じてみるから、続けてよろしくね」
 言い残すや地を蹴ったリナの背に、陣内が続こうとする。アガサが笑いかけた。
「下手に近づいてぶっ刺されるなよ、陣」
「お前こそ、掩護をしくじるなよ」
 言い返して、陣内が飛び出す。その横を追い越したのはアガサが撃ち出した気咬弾だ。
 迫る複数のオーラ弾を、系統樹の解体者は巧みにかわし、射出した刃で迎撃した。中空で気咬弾が爆散し、閃光となって弾ける。その光を突き破ってリナがダモクレスに肉薄した。
「あなたたちの思い通りにはさせないよ!」
 抜き放たれた刀身に幻影の稲妻が宿った。瞬時に伸びた稲妻が狙い過たず敵の胸板を貫く。間髪容れず、陣内が敵の下半身に詰め寄った。右脚が強烈な回転を伴って蠍の脚を一本、薙ぎ払う。蠍を構成するメスや鋏が砕けて床を跳ねた。
『ハッ、いいぞケルベロス』
 胸を貫かれ、脚を蹴り飛ばされながらもダモクレスは余裕を崩さなかった。陣内に向けて下半身をくねらせ、刃物の脚を叩きつける――その寸前、両者の間を無数の紙片が遮った。
 キツネ、リス、ウサギ……様々な動物を模した紙兵は、フォンが一生懸命作った折り紙だ。治癒の心で回復力を増した動物紙兵が、陣内にまで届く刃を減少させる。
「ん、後衛はわたしが守るの」
「そんじゃ自分は前衛に飛ばすっすよ」
 捌号から再度、オウガ粒子が迸った。その先ではこはるがダモクレスの背後に回り込んでいる。エンチャントの重なった刀が、駆け抜けざまに敵の胴を薙いだ。
「弱点がわかった! 頑健、それと――」
 よろめいたダモクレスに追撃の蹴りをくれてやりつつ、周が叫んだ。判断材料は充分に整った、間違いない。
 霞がダモクレスの脚と斬り結んでいる。そしてその向こう、疾走するアガサの、掌に凝縮したグラビティを目視しつつ、周は続きを叫んだ。
「――魔法だ!」
 跳躍したアガサがダモクレスの顔面を鷲掴み、凝縮した悪しき風を解放した。

●救済
 癒しを遠ざける風を内包したアイアンクローに、ペストマスクの目元にヒビが生じた。さらに力を入れれば破壊できる――アガサがそれをできなかったのは、その瞬間、彼女の腹部に異常が連続したためだ。
「っ!」
「アギー……!」
 腹部に十数本のメスが突き刺さったアガサが血を吐きつつ床に跳ねるが、そこに駆けつける余裕は陣内にはなかった。射出されたメスが今度は後衛に降り注いだからだ。陣内と、再び幻影の魔獣を召喚していた周が全身を切り刻まれ、血煙が舞う。癒し手を庇ったエイトとシラユキが刃の雨に消えた。
『やれやれ……少し観察するつもりが、なかなか痛い目に遭った』
 捌号がサキュバスミストでアガサの傷を癒し、フォンの折り紙が後衛たちを包む。ウイングキャットの猫、ボクスドラゴンのクルルも回復に加わり、剥がされたBS耐性の加護を付与し直す。
 その間、ダモクレスもまた修復を終えていた。ペストマスクが元の輝きを取り戻している。その表面に、ダモクレスを睨むリナの顔が映った。
『では、今度はこちらの番だ』
 弾丸のごとき速度で突き込まれた捩じれ刃のメスを、リナはほぼ反射的に刀で弾いた。同じ速度の引き戻しからさらに刺突が繰り出されるが、今度は相手にしない。身を沈めて躱すとともに、斬り上げる――。
 だが絶空斬が敵の伸びきった腕を斬り飛ばすよりも、横殴りの衝撃がリナを吹き飛ばす方が速かった。ほとんど別の生き物のようにうねった蠍の下半身が彼女を打ち据えたのだ。
『ほう、今のを受けて五体満足か。実に強靭だな』
「……みんな、だいじょうぶ。わたしたちは勝てるよ」
 喘鳴まじりの言葉は、眼前のダモクレスに向けられたものではなかった。壁に寄りかかるリナの黒瞳は敵の、損傷がそのままの脚を捉えている。
「このダモクレス、余裕そうに喋ってるけど、けっこうダメージ重なってるみたい……どんどん押していこう」
『死の間際に鼓舞とは、泣かせるな』
 ダモクレスが嘲笑うように凶器を振りかぶる――その真後ろから、機を窺っていたこはるが斬りかかった。
「させませんよ!」
 完全に死角からの斬撃だったにもかかわらず、蠍の脚は正確にこはるを迎え撃った。邪魔な脚を二、三本破砕しながらこはるが突き進む。だが振るわれた尾を躱すのは不可能だった。背中から壁に叩きつけられ、呼吸が止まる。愛刀が手からこぼれ落ちた。
『壊れないか。骨と肉の塊にしては素晴らしい。さすがは我らを殺しうる存在、といったところか。だが……』
 ダモクレスの興味はこはるに移ったようだった。先端から黒い液体が滴る尾が大きくしなり、こはるに迫る。
『いかに強靭といえど、腕がもげれば痛かろう?』
 ――直後の爆発はダモクレスの背面で起こった。炎上する黒衣に頓着せずダモクレスが振り返り、癒し手二人の姿を捉える。
「こはる! いっぱい頑張るの!」
 炎の蹴りを飛ばした捌号の隣で、フォンがこはるにルナティックヒールを施した。光球がこはるの負傷を癒す。
 一方ダモクレスはもうそちらを見ていなかった。
『これはしたり。仕留める順番を違えていた――まずは癒し手からでなくては』
 軽い炸裂音が響いた。
 それがフォンに向けられた尾から、先端の毒針が射出された音と気付いたときには、肉を穿つ湿った音が重なっている。鮮血が噴き出した。
「霞さん!」
 捌号の叫びに応えることもできず、霞は膝をついた。チームの生命線たる二人を庇えたものの、体が痺れて言うことをきかない。
『外したか……まあいい、君からオペを始めるとしよう』
 蠍の脚が、動けぬ霞を器用に持ち上げた。そのまま背中の平坦な箇所――『手術台』に彼女を横たえる。
「オ……ペ……?」
『いかにも。君たちは手足や頭がちぎれたらすぐに死んでしまうだろう?』
 まだ動く唇をフル稼働する霞に、ダモクレスは嘆かわしげに答えた。大仰にメスを振りかざす。
『それではいかんのだよ! 小さな欠損で個体活動が失われるなどあってはならない!……だから私が救うのだ。脆弱な生命を、不死身のダモクレスと変えてな』
 それは治療の名を借りた改造。救済を騙る冒涜。
 あらゆる有機的生命種の未来を機械に塗り替える、進化の天敵――系統樹の解体者。
『大抵の者は「治療」に耐えきれないが、強靭な君たちならば死にはすまい。生まれ変わった暁には、我らが計画に加担してもらおう』
 捩じれ刃のメスが霞の胸元に突きつけられた。
『手術開始。まずは邪魔な衣服から剥ぎ取るとしようか』
 布の裂ける嫌な音が霞の耳を打った、次の瞬間。
 このうえない轟音が戦域に沸騰した。

●解体
 火炎、砲撃、雷光――離れた地点で、ケルベロスたちのグラビティがただ一箇所に集中する。
『バカな……』
 六チームによる一斉砲火に崩れ落ちた指揮官の姿に、人間で言えば動揺の感情が、系統樹の解体者の声に宿った。
『ありえん、コマンダー・レジーナ……ガッ!』
 声を上擦らせたダモクレスの喉に喰らいついたのは、猛犬の姿の悪魔だ。カニス・アーラー・アクィラエ――霞が召喚したグラシャ=ラボラスはダモクレスの喉を喰いちぎると虚空に消滅した。無視できぬダメージにダモクレスが全身を震わせ、霞が手術台から投げ出される。床に叩きつけられる寸前、アガサが霞をキャッチした。
「ダモクレスが不死身だか知らないが――」
 アガサと背中合わせの位置で、陣内が低く笑った。翠瞳に捉えるは今しがた施した、ダモクレスの足下に広がる氷だ。
「その状況、抜けられるものならやってみてくれ」
『おのれ……!』
 凍結に機動を縫われたダモクレスの正面には、フォンと周に支えられたこはるがいた。愛刀を拾い上げ、床を蹴る。
 迎撃に動きかけた蠍の尾を、雷の槍が貫通した。捌号の肩を借りてリナが撃ち出した幻影雷刃槍は動きを封じるのみならず、尾を金属片に崩壊させる。
「――――!!」
 こはるが刀を鞘に収めた――次の瞬間、裂帛の気合いとともに抜き放たれた“日車”は神速で月光を描いている。
 氷細工のように砕け散ったメス同様、ペストマスクにも亀裂が生じた。頭部ごと砕けるや下半身も踏み潰されたようにひしゃげる。断末魔の叫びはなかった。
 納刀したこはるが膝が折れたように跪いた。回復してもらったものの、ダメージはまだ体に残っている。
 勝ち鬨の輪に加わるにはもう少しだけ時間がいりそうだった。

作者:吉北遥人 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月14日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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