載霊機ドレッドノートの戦い~巨いなる機神

作者:朱乃天

 ヘリポートに集まったケルベロス達に玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)が声を掛け、弩級兵装回収作戦の労をねぎらった。
 作戦の結果、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』と『弩級外燃機関エンジン』は敵に回収されてしまったが、十分な戦果があったと言えよう。そしてそれらの弩級兵装が載霊機ドレッドノートに転送されたということが、ドレッドノートを警戒していたケルベロス達によって判明したようだ。
 この点から敵の目的が、載霊機ドレッドノートに弩級兵装を組み込み再び起動させることだと想定される。
 もし弩級ダモクレスの代名詞でもある『ドレッドノート』が動き出してしまえば、人類はケルベロス・ウォーを発動して対抗する以外に道はない。
「みんなの活躍によって2つの弩級兵装は完全破壊し、残る2つにも打撃を与えてるから、ドレッドノートがすぐに動き出すことはないよ」
 しかし、ユニットを修復可能なコマンダー・レジーナが生存している以上、敵に時間を与えるとドレッドノートは本来の力を取り戻してしまうだろう。更に敵の指揮官型ダモクレス6体は、全力でドレッドノートを守護して復活させようと既に動き出している。
「そこで、ドレッドノートへの大規模な強襲作戦が行われることになったんだ」
 来たるべきケルベロス・ウォーによる決戦に先駆けて、敵陣営にどれ程打撃を与えられるかが、今後の戦いの趨勢を占うことになる。

 シュリはここまでの説明を終えると一息ついて、続けて作戦の内容について伝え始める。
 現在、載霊機ドレッドノートはダモクレス軍団によって制圧されている。
 その周囲にはマザー・アイリス軍団の量産型ダモクレスによって封鎖されており、強固な防御陣地となっている。よってケルベロスウォーを発動しない限り、地上から侵攻するのは困難な状況だ。従って今回は、ヘリオンからの降下作戦を行うことになる。
 だが敵も用意周到で、踏破王クビアラが対ケルベロスに備えて『ヘリオン撃破用の砲台』を設置している。
 砲台は強力なダモクレスがその守備と操作を行なっており、降下作戦に及ぶ危険を排除する為にも、砲台は撃破しなければならない。
 この作戦に参加する者は、降下して空中でヘリオンへの攻撃を防ぎながら砲台に取り付いて、ダモクレスの撃破と砲台を破壊してもらうことになる。この作戦は後の全ての作戦に影響を及ぼす為に、最も重要な作戦だと言えよう。
 砲台を撃破すれば、降下作戦からドレッドノートへ潜入して攻撃を仕掛けることになる。潜入後の攻撃目標は以下の4つとなる。

 1つ目は、ドレッドノートの歩行ユニットを修復している、ジュモー・エレクトリシアンとその配下だ。この部隊を攻撃することで、ケルベロス・ウォーを発動させた時点での、ドレッドノートの移動速度が下げることができる。
 2つ目は、ディザスター・キングが守る『弩級外燃機関エンジン』だ。ディザスター・キングの軍団は、自らがエンジンの一部となって必要な出力を確保しようとしている。そこで彼等を撃破することで、ドレッドノートの出力を引き下げることが可能となるだろう。
 3つ目は、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』を修復している、コマンダー・レジーナとその軍団だ。弩級ダモクレスであるドレッドノートの攻撃は、腕を振り回して殴りつけるだけで、巨大なクレーターを生み出す程の破壊力を秘めている。
 ドレッドノートの攻撃は、殺害した人間のグラビティを奪う能力があるので、力を獲得しながら永久に破壊活動を繰り広げることになる。
 もしこのユニットが修復されてしまえば、ドレッドノートは巨体を制御しながらケルベロス達への攻撃をも可能にする為、危険度は一層増してしまう。
 そして最後は、弩級兵装回収作戦で動きのなかった指揮官型ダモクレス、イマジネイターとなる。
 イマジネイターはドレッドノートと一体化して、自らがドレッドノートの意志となるべく融合しようとするつもりらしい。現時点での危険度は低いが、もしケルベロス・ウォーに敗北すれば、自ら意志を持つ弩級ダモクレスとして動き出してしまうだろう。
「今回の作戦は、決戦となるケルベロス・ウォーにも大きく影響するからね。今後の戦いを優位に進める為にも、ここでダモクレスの目的を阻止してほしいんだ」
 ――来たるべき決戦の日は近付いている。
 ここまでダモクレスの目論見を阻止してきた彼等なら、今回も成し遂げてくれるだろう。
 ヘリオンに乗り込むケルベロス達の背中を見守りながら、シュリは静かに戦士達の武運を祈った。
 必ず、全員で生きて戻ってこられるように――。


参加者
七星・さくら(陽溜りの桜・e04235)
舞原・沙葉(生きることは戦うこと・e04841)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)
古牧・玉穂(残雪・e19990)
山蘭・辛夷(キセルナイト・e23513)
知井宮・信乃(特別保線係・e23899)
ルト・ファルーク(千一夜の紡ぎ手・e28924)

■リプレイ

●弩級ダモクレスへの強襲
 載霊機ドレッドノートの起動を目論むダモクレスの企みを阻止せんと、ケルベロス達はドレッドノートへの大規模な強襲作戦を決行する。
 ヘリオン上空から見下ろす、生けるダンジョン。不気味に佇む機械の巨神が復活すれば、どれ程の被害が齎されるのか。想像するだけでも恐ろしくなる。
 ドレッドノートの周囲には、ダモクレス軍が対ヘリオン砲台を配備していたのだが。先行したチームの活躍によって、砲台は全て無力化されていた。
 そして、今ここに一つのチームがヘリオンから降下して、ドレッドノートへの突入を開始した。
「この構造のフロアなら、確かこっちに階段がある筈だ」
 渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)はドレッドノートに何百回と足を運んで、内部の構造は熟知している。その彼が率先して仲間達を誘導して奥へと進む。
 だが内部を移動するケルベロス達の前に、一体の影が突如として現れ行く手を阻む。その姿は、全身に深紅の戦闘スーツを纏った女性であった。
「……どうやらお出ましみたいだな。それも、お目当ての相手だ」
 遭遇したダモクレスと正対し、ルト・ファルーク(千一夜の紡ぎ手・e28924)が警戒しながら身構える。しかも標的として狙っていた相手とあって、武器を持つ手に一層力が入る。
「母さん……漸くお逢いできましたね」
 深紅のダモクレスを前にして、フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)が険しい表情を浮かべながら呼び掛ける。
 ここに至るまで兄姉機を討ち倒してきた以上、『彼女』とも何れ対峙することは覚悟していた。だからもし会えたらココロの尊さを伝えたいと願っていたが、そうも言っていられる状況ではなさそうだ。
「一体何のことかしら。貴女が何者だろうと、ここから先へは行かせないわよ」
 レジーナ部隊の赤き軍略家――ルビー・タクトがバイザー越しにフローネを一瞥し、彼女の言葉を否定する。ダモクレスにとって心を持つということは、死を意味するも同然だ。故に彼等はレプリカントを拒むのだ。
「……どうやら聞き入れてもらえないようですね。それなら戦って勝ちましょう。フローネさんには私達が付いています」
 華やかな赤い制服に身を包んだ知井宮・信乃(特別保線係・e23899)が、愛用の斬霊刀に手を添えて戦闘態勢に移行する。
「その通りだ。勝利の為に、私達が全力を尽くして助力する」
 舞原・沙葉(生きることは戦うこと・e04841)が凛然と敵を見据えて、誰よりも先んじて攻撃を仕掛ける。沙葉は腕に巻き付けた攻性植物を自在に操り、蔓を触手のように伸ばしてルビーへ絡み付かせる。
「ごきげんよう。私達のココロの力、存分にお見せします」
 こちらは涼やかな雰囲気が印象的な古牧・玉穂(残雪・e19990)が、軽やかな身のこなしで太刀を振るい。切れ味鋭い妖刀が、弧を描きながらルビーの身体を斬り付ける。
 攻撃を受けたルビーは一歩後退り、戦闘スーツに装着しているドローンを飛来させると、ビームを自身に放ってダメージを修復させていく。
「やはりメディックのようね。そう簡単に回復なんてさせないわ」
 ケルベロス達は敵が癒し手であると想定して対策を練っていた。七星・さくら(陽溜りの桜・e04235)が狙い通りにウイルスカプセルを撃ち込んで、敵の回復行為を阻害する。
「遠隔操作の武器が得意なのは、そっちだけじゃないんだよ」
 煙管を咥えて粋に振る舞う山蘭・辛夷(キセルナイト・e23513)が、周囲に紙兵の群れを張り巡らせて、仲間を護る壁を構築させていく。
 来たるべき決戦に向けた前哨戦。だがその結果が及ぼす影響は計り知れない。両陣営の雌雄を決する戦いが、こうして幕を開いた。

●其の名は赤き軍略家
「邪魔立てするなら倒していくだけだ。そこを退け!」
 数汰が両脚に力を溜めて高く跳躍し、落下と共に重力を乗せた強烈な蹴りを炸裂させる。
「ああ。オレたちケルベロスがいる限り、お前達の思い通りにはさせないぜ!」
 ルトが気合を漲らせて振り下ろした鉄梃が、ルビーの鎧装に打ち付けられて亀裂が走る。
「余り図に乗らないことね。貴方達にはドレッドノート復活の礎になってもらうわよ」
 喰い込む鉄梃を振り払いながらルビーが反撃に出る。後方に飛び退ろうとするルトを逃すまいと、掌にエネルギーを集中させて突き出すと。赤く眩い閃光が放たれてルトを襲う。
「そうはさせません! この身に代えても、私が守り通します!」
 そこへフローネが咄嗟に割り込み、紫水晶の盾を用いてビームを受け止める。紫裾濃の戦装束に編み込まれた護符の力が、閃光の威力を弱めてこの攻撃を耐え凌ぎ。引き締まった真剣な顔付きで、母たるダモクレスを凝視する。
「油断は大敵ですよ。そこ、もらいます!」
 間隙を縫うようにして、信乃が駆け寄り刃を構える。腰に据えた刀は、匠の技により鍛えられた一振りだ。狙いを定めて抜刀し、磨き抜かれた信乃の一撃が、躱そうとするルビーの脇腹を抉るように裂く。
「フローネちゃん、すぐに治してあげるわよ! 人が持つココロの強さを、見せつけてやろうじゃない!」
 さくらが力強い口調で鼓舞しながら、癒しの力を行使する。傷口にさくらの手が触れて、魔力を注ぐと瞬く間に傷口が塞がっていく。
「こちらは任せろ。敵に回復させるような余裕は与えない」
 沙葉が眼光鋭くルビーを睨め付けて。闘気の籠手を腕に纏わせ繰り出す拳は、音速を超えて大気を突き破り、凄まじい衝撃音と共にルビーの腹部に叩き込まれる。
「そうですね。このまま手数を重ねて、押し通しましょう」
 ここは休まず攻め続けた方が良いと判断し、玉穂がすかさず追撃を掛ける。空に翳した刃が霊気を宿して煌めいて、玉穂の研ぎ澄まされた一撃が更なる傷を刻み込む。
「長引かせると厄介そうだしねえ。これでも喰らっときな」
 辛夷の身体から、青白く冷たい凍気が溢れ出す。練り上げた気は氷の螺旋となって放たれて、ダモクレスの機械の熱を奪って消耗させていく。
 敵への対抗心を露わにするように、不敵な笑みを覗かせる辛夷に対し。赤き軍師は表情一つ変えずにドローンを展開させて、即座に傷を治療する。
「すぐに修復されるのは面倒だな。こうなりゃ根気比べか」
 どれだけダメージを与えようと回復されてしまう。そうしたメディックとの戦いに数汰は焦れながら、それでも削っていくしかないと腹を括って果敢に攻める。
 惨殺ナイフを逆手に握り、数汰が間合いを詰めて懐に潜り込む。敵の損傷部位を瞬時に見極め、装甲の裂けた隙間に刃を捻じ込み、斬り広げるように稲妻状の刃を走らせる。
「後の戦いへ繋げる為にも、こんな所でしくじる訳にはいかないからな。ここは確実に攻めていこう」
 もしルビーを取り逃してしまえば、他のダモクレスを支援させることになる。それだけは絶対阻止しなければならないと、ルトが積極的に仕掛けて敵をこの場に留めようとする。
 竜の力を宿した巨大な槌を大きく振り上げ、渾身の力を込めて打ち据えて。侵食した冷気がルビーの機械の身体を蝕み、徐々に生命力を削いでいく。
「それにしても……この戦場にはレジーナもいる筈なのに、随分と作戦が無さ過ぎますね」
 余りに敵の動きがないことに、玉穂は疑念を抱きながら注意を払いつつ。攻撃の手を緩めることなく剣を振るう。
「この調子じゃ埒が明かないわ。本当に鬱陶しいわね、ケルベロスという連中は」
 戦いは互いに譲らず拮抗した状況だ。ならばこの均衡を崩そうと、ルビーが一転して攻勢に出る。背中のドローンをブースターのように噴射させ、加速しながらケルベロス達に突撃を掛けてくる。
 一人でも多くを纏めて薙ぎ倒そうと試みたルビーだったが、万全の態勢で臨んだ彼等の前では、決死の特攻すらも撥ね返されてしまう。
「わたし一人では無理でも、『わたし達』ならきっと大丈夫……広がれ、星翼!」
 さくらが白黒斑の翼を羽ばたかせると、淡い光が広がり仲間を優しく包み込む。それは星の光が降り注ぐかのように、闇を照らす標となって、困難を打破する力を齎していく。
 戦線を支える要としての役目を、さくらが十全に果たしていることで、戦況はケルベロス達に優位な展開となっていく。

●支え合うココロ
 ルビーと相対するケルベロス達の視線の更にその先で、レジーナ相手に激戦を繰り広げる仲間達の姿が目に映る。
「彼等がレジーナを抑えてくれている間に、私達は何としてもルビーを倒しましょう」
 信乃が闘志を奮い立たせてルビーに斬り掛かる。念を込めると刃が霞んで仄かに揺らぎ。振り抜かれた一閃は、敵の内部の動力のみを狙い澄ましたように斬り払う。
「おっと、脇が甘いよ!」
 辛夷が横に回り込みながら死角を突いて、縛霊手に魔力を乗せて叩き付けた特大の一撃は、ダモクレスの堅牢な赤い装甲を打ち砕く。
 受けた衝撃の重さにルビーは堪え切れずに、体勢を崩してよろめいた。その好機を番犬達は見逃さず、火力を集中させて一気呵成に攻め立てる。
「燃やし尽くす! お前の罪も、その体も!」
 ルトが腰に携えた魔法の短剣を虚空に突き刺して、鍵を回すように捻りを加える。すると空間に捩れが生じて、炎が激しく吹き荒れる。異世界から解き放たれた業火はルビーを呑み込み、異端を苛む火焔の墓穴が鋼の身体を灼き尽くす。
「冥府の最下層、陽の光届かぬ牢獄に汝を繋ぐ。全てが静止する永劫の無限獄にて――」
 数汰が内に眠る重力を呼び醒まし、掌からうねりを上げて湧き上がる無限の熱量が、白く冷たい炎と化していく。
「魂まで凍てつけ――『氷屍雪魄(コキュートス)』!」
 拳に炎を纏って打ち込むと。絶対零度を超越する負の力によって、ルビーを包む灼熱の煉獄は、無限の死へと誘う氷の檻と成す。
 ケルベロス達の畳み掛けるような怒涛の猛攻に、ルビーは回復も追い付かない程消耗し、いよいよ窮地に追い込まれてしまう。
 ひび割れた装甲からは赤い液体が滴り落ちて、歩く足取りすらも覚束ない。手負いの状態である彼女に対し、三人の少女が戦いに終止符を打たんと立ち向かう。
「私の持てる全てをお見せします――秘剣・霙切」
 柔らかく微笑みながら居合の構えを取る玉穂だが、敵を見つめる瞳の奥には殺意が宿る。音もなく、目にも止まらぬ速さで放たれた斬撃は、防ぐ時間すら与えずダモクレスの鋼の身体を斬り裂いた。
 更に間髪を入れずに沙葉が続き、玉穂と入れ替わるように素早く前に躍り出る。
「まだ、終わりではない……!」
 沙葉は自身に術を施し力を最大限まで引き出して、漆黒の巨大な鎌を振り翳し、有らん限りの力を込めて何度も敵を斬り刻む。
「他者を想い、守ることこそが、ココロの力。ダモクレスにはない、人の強さの源です」
 母と呼ぶダモクレスとの決着を付けるべく、フローネが翠石色の剣を握り締めながら、ルビーの傍に歩み寄る。
「全ての輝きと、ココロの力を、この剣に――!」
 眩く輝く剣に呼応するように、装備した全て武器の力が収束されていく。
 この世界に唯一残した兄姉達のココロを取り込んで、想いを届けるように斬り下ろした最大火力の一撃は――母たるダモクレスの機能を停止させ、力尽きたルビーの身体は光に包まれながら消滅していった。
「……さようなら、母さん。そして……ありがとう」
 ダモクレスの死を悼むように祈りを捧げるフローネを、少しでも励ますことができればと。沙葉は黙って紫髪の少女の肩に手を添えた。
 零れ落ちそうになる濡れたココロを、この手で拭って掬い上げ。肌を通して伝わる温もりを心の中で感じつつ、フローネはもう大丈夫と小さく頷きながら微笑んだ。

 斯くして一つの戦いは終わったが、まだ作戦は継続している最中である。何故なら彼等には、討つべき敵がもう一体いるからだ。
「……余り感傷に浸っている暇はなさそうだ。急いでレジーナ討伐の援護に回るとしよう」
 数汰が緊迫した様子で仲間に呼び掛ける。レジーナ討伐に向かったチームは、敵の手に掛かって落ちてしまう。ならば残った余力のあるチームで一斉攻撃し、仕留めるべきだと思索する。
 その意見に一同は同意して、即座に行動に移す。しかし距離を詰めるには時間を要する。そこで遠距離から仕掛けられる者が攻撃を行って、その間に残りは倒れた仲間の救出に向かうことにした。
 すぐに動けるのは彼等を含めて六チーム。それぞれが互いに目視で確認し合い、レジーナ襲撃のタイミングを図る。
 片や一つのチームを退けたレジーナは、次なる迎撃に備えて態勢を立て直そうとする。
「私は最後まで任務を遂行する。……私が私である限り」
 纏うマントは襤褸布に等しいが、コマンダーとしての威厳は色褪せず。敗北を悟りながらも、女王の名を誇示するように死力を尽くす。
「それじゃ最後の仕上げと行くよ! さぁ、ダンスの時間だッ!」
 辛夷が声を張り上げ指示を出し、仕掛けの合図をチームの仲間達に送る。と同時に、辛夷の掌から魔法陣が出現し、無数の光の矢がレジーナ目掛けて降り注ぐ。
「手加減はしないぜ! こいつで決めてやる!」
 肩に担いだ巨大な槌を大砲に変化させ、ルトが地獄の炎を砲身に注ぎ込む。炎は生命力を喰らう魔弾となって、砲撃が火を噴くように放たれる。
「この力こそ、私達のココロの強さです!」
 一連の戦いを通じて信乃が抱いた心の在り方。たった一人を大事に願い、想いを強く込めて信乃が念じると、心の力がレジーナの神経回路を狂わせ爆発を起こす。
 六チームによる集中砲火を浴びせられては、さしものレジーナであっても成す術は無く。彼女が死を感じた直後にそれは現実となり、瞳に映る世界はノイズがかかったように歪んで乱れ。彼女の全てを掻き消すかの如く、一斉掃射の雨が全身を容赦なく穿ち貫いていく。
「後はおねーさんに任せなさい! この一撃で、全てを終わらせる!」
 仲間が託した光の粒子を身に纏い、さくらが銀枝の杖を掲げると、蒼い冷気が渦を巻き。凝縮された冷気の塊が弾丸となって射出され、レジーナの胸を深く撃ち抜いて――彼女の命の刻を凍て付かせ、永きに渡る戦いに終止符が打たれる。
「……もはや、ここまで……か」
 嵐のような攻撃が止み、戦場に刹那の静寂が訪れて。女王の名を冠する指揮官は――誇らしく笑みを携えたまま崩れ落ち、その最期の時を迎えたのだった。

 ――ダモクレス軍団を率いた首魁の一体が、遂に墜つ。
 一瞬の空白の後、ケルベロス達の勝鬨の歓声が、戦場中に大きく轟いた。
 今回のコマンダー・レジーナの死は、敵陣営に大きな打撃を与えたことだろう。
 待ち受ける未来の結末は誰にも分からない。だが幾度も困難を乗り越えてきた彼等なら。
 勝利の余韻を心行くまで噛み締めて、ケルベロス達は戦場を後にする。
 来たるべき決戦の日に向けて、更なる決意を胸に秘めながら――。

作者:朱乃天 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月14日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 14/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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