載霊機ドレッドノートの戦い~永別のヴァルツァー

作者:柚烏

 弩級兵装回収作戦の結果、コマンダー・レジーナ及び『弩級超頭脳神経伝達ユニット』と『弩級外燃機関エンジン』が回収されてしまった。その後、警戒を行っていた館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)らによって、これらは載霊機ドレッドノートに転送されたことが明らかになったのだ。
「恐らく……指揮官型ダモクレスの目的は、弩級兵装を組み込んで、載霊機ドレッドノートを再び起動させること」
 厳しい表情でこれからについて語るエリオット・ワーズワース(白翠のヘリオライダー・en0051)は、もし載霊機が動き出せば、ケルベロス・ウォーを発動しないと対抗出来ないだろうと俯く。
「でも、皆のお陰で弩級兵装の2つは完全に破壊出来たし、残る2つにも大きな損傷を与えている。だから、ドレッドノートがすぐに動き出すことは無いんだけど……」
 しかし、ユニットを修復可能なコマンダー・レジーナを撃破出来なかった為、敵に時間を与えてしまえば本来の力を取り戻してしまう――その為、今回載霊機ドレッドノートへの強襲作戦が行われることになったのだ。
「指揮官型ダモクレス6体は、その全力をもって載霊機ドレッドノートを守護し、復活させようと動き出している。厳しい戦いになることは間違いない、それでも」
 ――来るべき決戦の前に、載霊機を守るダモクレス達に、どの程度の打撃を与えられるか。それが今後の戦いの趨勢を占うことになると、エリオットはきっぱりと告げて、作戦についての説明を開始した。

 先ず現在、載霊機ドレッドノートはダモクレス軍団によって制圧されている。その周辺には、マザー・アイリスの量産型ダモクレスの軍勢が展開しており、ケルベロス・ウォーを発動しなければ攻め込むのは難しい。
「その為、ヘリオンからの降下作戦を行う必要があるんだけど、踏破王クビアラが周囲にヘリオン撃破用の砲台を設置し、強力なダモクレスが砲台の守備と操作を行っているんだ」
 故に、最初にこの砲台を撃破しないと、ヘリオンによる強襲降下作戦は行えない。しかし、作戦が行われてドレッドノートへの潜入に成功した場合、目指す攻撃目標は4つある。
「1つ目は、ドレッドノートの歩行ユニットの修復を行っている、ジュモー・エレクトリシアンの部隊。これを攻撃することで、ドレッドノートの動きを阻害することが出来るんだ」
 2つ目、と指を立ててエリオットが続ける目標は、ディザスター・キングが守る『弩級外燃機関エンジン』。彼らは兵装の一部となることで、必要な出力を確保しようとしている――だからこれを撃破することで、ドレッドノートの出力を引き下げられるだろう。
 そして3つ目は、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の修復を行っているコマンダー・レジーナの軍団だ。これが修復されれば、ドレッドノート自身が巨体を制御してケルベロス達に攻撃出来るようになるため、危険度はより大きくなる。その一撃は、弩級の名に相応しいものになる筈だ。
「最後の目標は……弩級兵装回収作戦で動きの無かった指揮官型ダモクレス、イマジネイターになるよ。どうやら自らがドレッドノートの意志となるべく、融合しようとしているみたいだけど……」
 ――現時点での危険度は低いが、万が一ケルベロス・ウォーに敗北するようなことがあれば、自ら意志を持つ弩級ダモクレスが出現することになる。この融合も阻止出来るならばしておきたいと言って、エリオットは説明を終えた。

「今回の作戦は、重要な拠点をピンポイントで攻撃する奇襲作戦になるよ。今まで多くの配下を送り込んできた指揮官型ダモクレスだけど、彼らの目的が判明した今、それを阻止する機会が巡ってきたんだ」
 載霊機ドレッドノートと戦うには、ケルベロス・ウォーを発動する必要がある。この決戦を有利に進める為には、今回の作戦を成功させなければならない――エリオットは戦いに赴くケルベロス、ひとりひとりを確りと見つめ、背筋を正して敬礼をした。
「巡り巡る、機械の歯車……悲劇と破壊の円舞を、どうか皆の手で終わらせて。そしてさよならを、彼らに告げて欲しいんだ」


参加者
イェロ・カナン(赫・e00116)
ハンナ・リヒテンベルク(聖寵のカタリナ・e00447)
セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)
卯京・若雪(花雪・e01967)
ロマリオ・ベゴーニャ(水葬鮫・e04457)
雪積・桜紅楽(春を待つ優雪・e07370)
長船・影光(英雄惨禍・e14306)
アニー・ヘイズフォッグ(動物擬き・e14507)

■リプレイ

●歯車の前奏曲
 遂に、載霊機ドレッドノートへの強襲作戦が決行された。行く手を阻む対ヘリオン砲台は、撃破に向かった者たちの奮戦により、完全に沈黙したようで――信号弾の合図を確認したイェロ・カナン(赫・e00116)達は、無事ドレッドノート内部への潜入を果たしていた。
「目標は、脊髄部……コマンダー・レジーナの軍団だな」
 其処で彼女は配下の護衛を従え、ユニットの修復作業を行っていると言う。轟音をあげて軋む歯車の音――その重苦しい響きに追い立てられるようにして、イェロの心臓が早鐘を打つ。
(「この鼓動は、早鐘の名を持つ――きみのもの」)
 ――地獄と化した心臓の奥底から、確かに感じる力強い鼓動。それは彼が喰らって内におさめた、愛しい宿敵を思い起こさせた。確か彼女はレジーナの配下として暗躍していたようだったが、覚えているか――なんて言葉を上司に掛けるのは無粋だろう。
「うーん、通信機器はどれも使えないみたいだね」
 その隣ではアニー・ヘイズフォッグ(動物擬き・e14507)が、通路を進みながら他班と連絡が取れないか色々試していたようだが、結局無理と分かって諦めたらしい。しかしレジーナ軍団の元へ向かうのは、自分たちを含めて大勢居る――だから先ず自分たちの間で連携を強化し、齟齬が無いように努めなければならないと、卯京・若雪(花雪・e01967)は温和な笑みを浮かべて頷いてみせた。
(「……また戦争、か。この戦いに……終わりは、あるのだろうか」)
 圧倒的な戦力を投入してくるダモクレスに対し長船・影光(英雄惨禍・e14306)が想うのは、この後に待ち受ける筈のケルベロス・ウォーのことだ。全てを賭けた決戦に、例え勝利出来たとして――失うものも沢山あるだろう。
(「……いや。終わりが無くとも……俺のやるべき事は変わらない、か」)
 黒衣を靡かせ駆けていく影光に続き、ふわりと白翼を舞わせるのはハンナ・リヒテンベルク(聖寵のカタリナ・e00447)。軽やかな足取りと儚げな相貌の裡に、彼女は守護者としての確かな決意を秘めていた。
「この先、待ち構える戦で、すこしでも被害が減らせる、なら……」
 ――そう、これは前準備としての一つの正念場。だからハンナは、覚悟はできていると翠緑の瞳で未来を見据える。一方のセレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)は、強敵との戦いを前に緊張と高揚に包まれていたが、そんな中でも笑顔を絶やさぬように心がけていた。
「私は私として……騎士として、誇り高く戦うだけです」
「ええ。この後起きるであろう戦争を楽しむためにも、ここで手を抜くなんてありえませんからねぇ!」
 と、戦は全力で楽しむと決めているロマリオ・ベゴーニャ(水葬鮫・e04457)は、既に気分が高まってきたようで――仰々しく語尾を上げて喋る彼は、その口元に優美な笑みを浮かべている。
「……先の破壊作戦や、今共に挑む仲間の覚悟を無駄にせぬ為。後の決戦、引いては罪無き人々の不安を祓う為に、成し遂げましょう」
 若雪の髪を彩る白藤の花が、無機質な回廊で鮮やかに揺れる中、彼らは確かな決意と共にドレッドノート脊髄部へと足を踏み入れた。
「ようやく対面、ですね……」
 其処で待ち受けていたのは、コマンダー・レジーナを筆頭にしたダモクレスの軍団。他班の仲間たちが其々の目標とする敵に向かって行くのを見届けてから、雪積・桜紅楽(春を待つ優雪・e07370)は静かにレジーナと向き合う。
「……侵入者か。わざわざご苦労な事だ」
 しかし、突然の襲撃にも動揺する素振りを見せず、レジーナはユニットを修復する手を止めてマントを翻した。目元を覆うバイザー越しに、彼女の圧倒的な自信と威厳が伝わってくるが――怯むものか、と桜紅楽の心に炎が宿る。
「ここまでたどり着かせてくれた皆さんの為にも、私達は負ける訳にはいきませんから……!」
「ええ、我が名はセレナ・アデュラリア! 騎士として、貴殿に勝負を申し込みます!」
 そして剣を抜いたセレナも高らかに名乗りをあげると、眩い白銀の髪を靡かせて一気に斬り込んでいった。

●巡り巡る円舞
「騎士とはまた、前時代的な概念だが……人類の守護者ともなれば、その考えを改めねばなるまい」
 己に牙を突き立てようとする番犬たちを一瞥し、レジーナは淡々と排除を実行――彼女の両肩部装甲に備えられた無線式光学兵器が、高速演算によって自在に周囲へと展開される。
(「コマンダーと名乗っている位ですから、彼女は自ら戦うよりも、配下に指示を出して戦う方が得意な筈」)
 そう判断した桜紅楽であったが、開幕に放たれた広域照射は、恐るべき精密さで此方の動きを封じようと襲い掛かった。灼けつくような痛みに耐えつつ、それでも一行は怯む事無く反撃へと移り――後方から先駆けを試みた若雪が仲間たちの攻撃に繋げようと、先ず鋭い一太刀をレジーナに浴びせる。
「ひとつひとつは小さくとも、重ね合わせばきっと大きな力と成ります――」
 大地の霊力と御業の加護を乗せた刃は装甲を斬り裂き、其処から芽吹く花と蔦が、戒めの如く彼女の足取りを鈍らせていった。その隙を見逃さず、踊るように肉薄したイェロが振りかざしたのは、無骨な鉄塊剣――白銀の刀身に黄昏の色が滲むそれを、彼は力任せに叩きつける。
「……円舞もここまで。俺たちは、終わらせに来た」
 重厚な一撃と共にイェロは、何処か心をくすぐるような甘い声でレジーナの注意を自分に向けて。その間にもアニーは動物のように俊敏な仕草で、標的となったイェロを守ろうと光の盾を具現化させた。
「ダモクレス……レジーナ、君の事は話には聞いている」
 アニーの無垢な瞳が見つめるのは、全く温度を感じさせない指揮官の姿。心を得る前は、自分もこんな感じだったのだろうかと――彼女はかつて機械に囲まれていた日々をぼんやりと思い出す。しかし、ひとと出会い温もりを知ったことで、今は泣いたり笑ったり好きなものも出来たのだ。
「……会話に応じる気は無い、か」
 アニーの呼びかけに反応を見せないレジーナを一瞥してから、影光の刀が月の弧を描いて吸い込まれていく。その先に、救いなど無いと言うように――闇へ誘う刃は的確に急所を断ち、攻撃の手を緩める事無くセレナは精神を集中させて、標的を爆破しようと試みた。
「外しましたか……?」
「……速い。でも、」
 しかしセレナの一撃をレジーナは回避し、指揮官機の性能にハンナが僅かに目を瞠る。けれど――追いつけないことはない。一瞬の逡巡の後、彼女は鎌の刃に雷の霊力を纏わせ、神速の勢いで敵の装甲を削っていった。
 ――防御を削ぐか、氷によって攻撃の度にダメージを付加するか。どちらも早い方が望ましいと判断したハンナは、確実性を取って防御を削ぐ方を選ぶ。しかし、命中の底上げがもっと必要そうだと見て取ったロマリオは、纏う装甲から光の粒子を放出して、前線で戦う仲間たちの超感覚を覚醒させていった。
「一緒に頑張りますよぉ、くらげちゃん!」
 流体金属状態の時は、くらげっぽくぷるぷるしている様子のオウガメタルに声を掛け、ロマリオは引き続き皆の付与を担うべく行動する。更にイェロも粒子による命中精度向上に努める中、鋼の鬼と化した桜紅楽の拳がレジーナの装甲を砕いていった。
 ――しかし、レジーナの表情は微塵も揺らがず、彼女は光学兵器を一点集中させて、威力を高めた光線でイェロを狙う。そのまま命中するかに思われた一撃であったが、其処で咄嗟に割って入ったセレナが、身体を張って彼を庇った。
「貴殿の相手は私です!」
 ――翳した剣は、威力を軽減するまでには至らない。それに、仲間を庇いつつ耐えきれる体力を維持しようと心がけてはいたものの、レジーナの攻撃は盾であっても何度ももたないだろう。
(「そう……保守に回っても圧される以上、目標にすべきは攻勢重視の短期決戦」)
 後顧の憂いを断つ為、必ず皆で良い報告を持ち返るのだと気概を抱き――若雪は皆の攻撃が確りと届くようにするべく、月光の如き太刀でレジーナの動きを鈍らせていく。
(「強敵が相手なら、やられる前に、やりたい。……その為にも、わたしは、ここで沈むわけにはいかない、の」)
 ハンナの想いは只々、主火力を担う者として戦闘に少しでも貢献する故だった。長期戦とならぬよう、迅速な撃破を――それはレジーナが、指揮官として配下に指示を出す暇を与えない為でもある。
(「……自身は一手でも多く、攻撃に尽くす役目に専念を」)
 ――戦いで負った傷は、回復役の仲間が癒してくれる。彼らへの信頼と感謝を胸に、若雪が己の成すべきことを実行する中で、ロマリオとアニーは確りと頷き協力して戦線の維持に努めていった。
「念には念を……追い詰められて、追い詰めたい。ふふ、楽しいですねぇ!」

●定命の者の強さ
 ――その、一行の気迫がレジーナにも伝わったのだろう。相手は一気に此方を落とす気で仕掛けてきているのだと悟った彼女は、情報分析による照準補正を行った後、最適な戦法を素早く導き出す。
「しかし、この場合であれば防御を重視し、他のチームが合流するまで耐えるのが常套手段の筈だが……」
 客観的に分析しても、指揮官機相手に一チームで挑むのは、戦力不足と言わざるを得ない。だが――先の作戦で、一度守りに入れば攻め手が減ることを彼らは危惧したのだろう。それは定命化した者の弱みであり、死のリスクを回避する余り保守的な行動が増えるとは、レジーナ自身が告げたことだった。
「それも一つの手段ですが……私は分の悪い賭け、嫌いじゃないんですよ?」
 己の身を危機に晒していると言うのに、不思議と桜紅楽の表情は穏やかで――小柄な体躯に見合わぬ勢いで彼女が繰り出した高速の重拳撃は、レジーナの情報補正を一気に打ち消していく。
「其処に僅かでも勝機があるのなら、飛び込むまで」
 そして影光もまた、彼が追い続ける英雄に少しでも近づこうと、世界の意識に眠る英雄の記憶を展開――その力の一端を行使した。しかし、劣化の激しさが災いしたのか、精度の低い一撃はレジーナに回避されてしまう。
 ――それでも、まともに受けていたら無事では済まなかっただろうと、彼女は自戒の念をこめて光学兵器を集束させた。
「っ、間に合わない……!?」
 盾となるセレナが動こうとするも遅く、一点集中の攻撃に影光が晒される。眩い光の中で彼は何かを決意したのか、最後に虚空へ向かい手を伸ばしたように見えた。
(「……血に塗れた己の手では、目指す英雄に成り得ないのだと理解している。それでも」)
 自分は尚求め、手を伸ばし続けるのだろう――遠のいていく意識の中、影光にはそんな確信があって。先ずひとりを戦闘不能に追い込んだレジーナは、此方に生じた綻びを冷静に突いていく。
「あなたの思い通りにはさせません。絶対に皆で生還します……!」
 自身の負った傷は、最早癒しきれないまでに深かったが――それでも桜紅楽は、最後まで皆を守って生命を燃やし続けた。やがて限界を迎えた彼女の穴を埋める為、アニーが前線に出て新たに盾を務める。
「ガラクタだらけのこの身体は、絶対に崩れない! 壊れない!」
 道を開いてくれた皆にも、良い知らせを届けられるよう――彼女は腕部に仕込まれたモーターを作動させ、渾身の一撃を叩き込んだ。
「レジーナ殿……仮初とはいえ人の心を得ても、貴殿は何も感じなかったのですか?」
 対するセレナは、裂帛の気合と共に己を奮い立たせるが、合間に問いかけた言葉をレジーナは『くだらぬ』と一蹴する。既に初期化を終えた今、レプリカント化の記憶は失われている――心など持たぬ身で、一体何を感じろと言うのだ。
「ふ……余所見を咎められるのは、どうやら私の方では無いらしい」
「――……っ!」
 イェロの挑発を跳ねのけて、レジーナは真っ直ぐにセレナを狙う。――その一撃に耐えきれる程の体力を、既に彼女は維持出来なくなっていて。狙い澄ました一撃は想定以上の被害を一行にもたらし、セレナ達は広域照射に巻き込まれて、ただ苦痛によって歪む景色を捉えることしか出来なかった。
「例え、剣が折れ……鎧が砕けても……心は、屈しません……!」
 ――視界の隅ではセレナと、そしてアニーまでもが続けて倒れたのが分かる。その様子にイェロが撤退についての取り決めを思い出すが、このまま押し切れるかどうかの判断が付きかねた。
(「なら、この身に出来ることを、出来る限りで」)
 ――握りしめるのは、いつか誰かの鼓動を穿った剣。他の仲間たちも未だ戦いを諦めていない様子に、イェロの指先が刃をなぞる。凍える吐息と共に、霜に覆われた切っ先が翻り――喪失の哀しみを振り切って、ハンナの白き指先もまた蒼き炎を生み出し、それは一振りの鎌へとかたちを変えた。
「希望は、此処にある。だから……絶対に、諦めない、わ」
 皆の努力が、この好機へと繋がったのだ――その皆を護れるのなら、ハンナは暴走することすら躊躇わないだろう。それに、彼女は信じていた。そうなってもヘリオンの翼が、きっと自分を見つけてくれる筈だと――。
「……未だ、抗うか。既に倒れた同胞を背にして、なお」
 前へ前へ、戦闘不能となった者をレジーナから引き離すように、残った者たちは戦線を押し上げて彼女の元へと迫る。死を恐れることは、定命の者の弱み――それと同時に、強みにもなるのだとその時レジーナは知った。
 ――だが、そうであるならば。完膚なきまでに打ちのめして、彼らの意志を挫けばいい。彼女の指示に従う光学兵器は、集束と照射を巧みに駆使しながら、残る者たちの抵抗を封じて掃討を行っていった。
(「安寧乱す不協和音を奏でる歯車――その軸たる一人に、今日こそ終止符を」)
 杖を手に賦活の雷を操ろうとしたロマリオが撃ち抜かれ、最後に残った若雪もまた、レジーナの姿を若草の瞳に捉えたまま崩れ落ちる。
「――この星も、命も、これ以上踏み荒らす事は許さない」

●女王の覚悟
「定命の者と、侮っていた訳では無いが……」
 最後まで退くことをせず、己に立ち向かって来た者たち――彼らが完全に沈黙したことを確認したレジーナは、態勢を立て直すべく配下に命を下そうとした。
 ――しかし其処で彼女は、戦場の半数近くの護衛が既に撃破されていたことを知る。彼らを倒したケルベロス達が此方に向かってくるのを、ひび割れたバイザー越しに認めながら、レジーナはこれを迎撃しようと身構えた。
「私は最後まで任務を遂行する。……私が私である限り」
 纏うマントは既にぼろ布に等しいが、コマンダーとして――そして、最期まで女王の名に相応しく在れ。
 例え、己の高速演算能力が敗北を導き出しても。その皮肉な現実に彼女は、ほんの少し口角を上げたように見えた。

作者:柚烏 重傷:ロマリオ・ベゴーニャ(水葬鮫・e04457) 雪積・桜紅楽(春を待つ優雪・e07370) 長船・影光(英雄惨禍・e14306) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月14日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 15/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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