載霊機ドレッドノートの戦い~弩級の危機を打ち砕け

作者:ともしびともる

●迫りくる危機
「マイ・カスタム(重モビルクノイチ・e00399)さんらケルベロスの有志の調査によって、指揮官型ダモクレスの動向が判明しました! 回収された『弩級超頭脳神経伝達ユニット』と『弩級外燃機関エンジン』は、載霊機ドレッドノートへと転送されたようです」
 ミルティ・フランボワーズ(メイドさんヘリオライダー・en0246)が掌に立体映像を投影しながら、真剣な表情で状況説明を始める。
「ドレッドノートはまさに弩級ダモクレスの代名詞であり、これが動き出すとなれば、私達人類はケルベロス・ウォーを発動させて対抗するしかありません。先日の皆様の活躍により、ドレッドノートが今すぐ動き出しはしませんが、逃げ延びた『コマンダー・レジーナ』を含めた指揮官型ダモクレス達は、ドレッドノートの修復と完全復活を全力で目指しているものと思われます」
 つまり時間さえあれば、載霊機ドレッドノートは本来の力を取り戻してしまうのだ。弩級ダモクレスであるドレッドノートが腕を振り回してパンチを繰り出せば、それだけで直径数kmのクレーターが生まれるだろう。さらにドレッドノートは、殺害した人間のグラビティを直接奪う能力がある。本格的な破壊活動が始まってしまえば、ドレッドノートはより強力な力を獲得しつつ、永久に破壊活動を行う事が可能なのだ。
「彼らの思い通りに事を運ばせるわけにはいきません。来たる決戦、『ケルベロス・ウォー』に向けて、ドレッドノートへの強襲作戦を決行します。とても複雑な全体作戦です。長い説明になりますが、どうか最後までしっかり耳を傾けてくださいね」

●ドレッドノートに集え
「現在、載霊機ドレッドノートはダモクレス軍団によって制圧されています。周辺にはマザー・アイリスの量産型ダモクレスの大軍勢が展開しており、もはやケルベロスウォーを発動せずに地上侵攻することは困難です。そこで今回はヘリオンからの降下侵入作戦を行う必要がありますが、『踏破王クビアラ』は対ケルベロス用の作戦としてドレッドノートの周囲に『ヘリオン撃破用の砲台』とそれを守備、操作する強力なダモクレスが既に複数配備しているのです」
 砲台がある限り、ヘリオンの降下作戦は大きな危険にさらされ、作戦終了後に撤退するケルベロスを回収する事も難しくなる。そのため、まずは砲台撃破担当のチームが降下強襲攻撃を行い、ヘリオン撃墜の危険を排除する必要がある。
「砲台制圧の為には、砲台直上まで突入したヘリオンから攻撃チームが降下し、ヘリオンはそのまま離脱する作戦を行います。降下するケルベロスは、空中でヘリオンへの攻撃を防ぎつつ、砲台に取り付き、砲台を守るダモクレスを撃破の後、砲台を破壊して頂きます」
 空中の安全が確保できれば、ヘリオンによる強襲降下作戦により、載霊機ドレッドノートへの潜入が実行できるようになるだろう。
「潜入後の攻撃目標は全部で4つです。1つ目の目標は、ドレッドノートの歩行ユニットの修復を行っている『ジュモー・エレクトリシアン』とその配下です。弩級高機動飛行ウィングを破壊したことによりドレッドノートは飛行能力を失いましたが、その代替機能として、二足歩行システムの修復が昼夜を徹して行われているようです。ドレッドノートの二足歩行時の最大速度は『時速200km』を超えると推定され、彼女らの修復により、既に時速100km以上での移動が可能な状況です。 時速100kmは、ケルベロス・ウォーの戦闘中に東京の都心部まで移動可能な速度ですので、この性能を妨害、破壊することは重要な任務になるでしょう。この修復を担当しているダモクレスを撃破することで、ドレッドノートの歩行機能を弱体化させられるはずです」
 2つ目の目標は『弩級外燃機関エンジン』を守る『ディザスター・キング』の軍団だ。彼らは自らが『弩級外燃機関エンジン』の一部となる事で、必要な出力を確保しようとしている。このエンジンこそが敵軍団の核となるエネルギー源なので、彼らを撃破した数だけ、敵軍勢の総戦闘力を下げることが出来るだろう。
「3つ目の目標は、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の修復を行う、『コマンダー・レジーナ』の軍団です。コマンダー・レジーナは載霊機ドレッドノートの脊髄の部分にて、配下のダモクレスを護衛として『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の修復作業を行っています。この修復が成功した場合、ドレッドノートはその巨体を自由に動かし、攻撃を仕掛ける事が可能になってしまいます。彼女の護衛戦力をより多く撃破することで、ドレッドノートの攻撃頻度を減らすことが出来そうです。コマンダー・レジーナ本人を撃破出来れば、ドレッドノートは攻撃行動を完全に阻止できるでしょう。彼女を撃破する場合は、超弩級頭脳神経伝達ユニットの脊髄部への集中攻撃が必要です」
 4つ目の目標は、『イマジネイター』だ。イマジネイターは、ドレッドノートと融合し、ドレッドノートの『意志』そのものになろうとしている。この融合による危険は現時点では低いが、万が一ケルベロス・ウォーに敗北しまった場合、自ら意思を持つ弩級ダモクレスを地球に放つことになってしまう。
「そうなった場合、これがもたらす被害は想像を絶します。イマジネイターを守る23体のダモクレスをすべて撃破すれば、融合を試みているイマジネイターを破壊することは難しくないでしょう。……皆さんには、最初に説明した砲台破壊を含めた計5つの襲撃目標から、一つの目標を選んで作戦行動を行ってもらうことになります」 真剣な眼差しでそこまで説明し終えたミルティは、硬かった表情を和らげ、穏やかな笑顔を浮かべてケルベロスの方に向き直った。
「……たった6人の指揮官ぐらいで皆様ケルベロスを出し抜こうなんて、甘々、ですよね? 皆様の華麗な連携作戦を見せつけて、私達のほうが2枚も3枚もウワテだってこと、知らしめちゃいましょう! 私も、覚悟を決めました。みなさんも、どうかご無事で……いってらっしゃいませ!!」


参加者
ベルカント・ロンド(医者の不養生・e02171)
紫藤・大輔(機甲武術師範代・e03653)
板餅・えにか(萌え群れの頭目・e07179)
シエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)
マティアス・エルンスト(レプリフォース第二代団長・e18301)
リカルド・アーヴェント(彷徨いの絶風機人・e22893)
長谷川・わかな(笑顔花まる元気っ子・e31807)
天泣・雨弓(女子力は物理攻撃技・e32503)

■リプレイ


「おおっ! 信号弾が上がり始めましたよ! 色はもちろん、グリーン!」
 モノスコープを手に、砲台の観察を買って出た板餅・えにか(萌え群れの頭目・e07179)がしっぽを楽しげにパタつかせながら報告する。彼らのヘリオンはドレッドノートからやや離れた地点の上空で待機していた。
「凄まじい物量……、完全に制圧されているようだな。慣れ親しんだダンジョンも、あっという間に敵地ということか……」
 眼下に広がる量産型ダモクレスの大軍勢に、リカルド・アーヴェント(彷徨いの絶風機人・e22893)が感嘆じみたつぶやきを漏らす。
「(機械王ハザード……。奴がいるのか……この戦場に)」
 紫藤・大輔(機甲武術師範代・e03653)は口数少なく、宿敵の潜む機械の城を見下ろしている。
「ここでの頑張りが後に続くなら、負けてられないよね!」
 張りきった声を上げるシエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)をベルカント・ロンド(医者の不養生・e02171)が心配そうに見やる。
「無茶をしないで下さいよ? シェラ」
「大丈夫! 後ろにルカがいるんだもん、百人力だよ! でしょ?」
 にっこり笑ってそう言い返すシエラシセロ。恋人に口癖を引用されてしまい、ベルカントは困ったように笑い返した。
「緑、緑、緑……8発、全部、みどりでしたー!」
 えにかの報告に、皆から軽く歓声が上がる。
 当面の危機を脱したらしいことに長谷川・わかな(笑顔花まる元気っ子・e31807)は心底ホッとする。彼女は最近、デウスエクスによって人命が奪われた光景を始めて目にしたばかりであり、誰かの命が掛る状況というのにどうしても過敏になっているのだ。
「ドレッドノートには大輔の宿敵もいる……きっと、しかと倒そう。皆で」
 マティアス・エルンスト(レプリフォース第二代団長・e18301)の言葉に、部隊員からの頷きが返る。
「ええ。ケルベロス・ウォーの前哨戦に当たる大切な戦い…。絶対に成功させましょう! だいふく、行きますよ!」
 天泣・雨弓(女子力は物理攻撃技・e32503)の言葉に、だいふくが気合を入れるようにその場でくるくると周り、彼女の胸に飛びついた。
「負けるわけにはいかない。この任務、全力で確実に成功させて見せる!!」
 決意を込めて大輔が呟き、ケルベロスたちは意を決して、遥か下方のドレッドノートへと飛び降りた。


 ドレッドノートに無事降り立った彼らは、速やかに内部に侵入して機械迷宮の中を駆けていた。
「さてさて敵さんはどこかしら? 曲がり角でばったり遭遇とかには注意しないとですね」
「……やはり通信はだめらしい。スーパーGPSは問題なさそうだ」
 えにかがきょろきょろと辺りを観察し、片目を閉じたリカルドが報告する。
 入り組んだ空間を縫うように移動し続け、程なくしてケルベロス達はエンジンルームらしい場所にたどり着く。部屋のように分かれた空間を一つ一つ確認し、ついに部屋の一つから『機械王ハザード』が自らの全身とドレッドノートを無数のケーブルで接続している姿を発見した。
「おおっと電気屋の旦那! こんなところで呑気にコーヒーブレイクかーい?」
 電子ロックのドアを乱暴に蹴り破り、えにかがぞんざいに言い放つ。
「機械王ハザード……!」
 大輔の呟き。侵入者に気づいて、ハザードの赤い眼光がこちらを見据えた。ハザードの全身は2mほどだったが、重圧な装甲を纏ったその身からは、軽巡級ダモクレスにも劣らないような存在感が放たれている。
「……お邪魔しています。あなたを倒しに来ました、機械王ハザードさん」
 大真面目に雨弓が言い、ハザードが鼻で笑うような声を出す。
「確かに、邪魔立てされているようだ。……ケルベロスの奇襲は起こらないと聞いていたが、流石というべきか」
 ハザードは接続していたケーブルをすべて外し、体内に収納しながら腰に備えた剣を手にする。
「わが身を『ドレッドノート』の礎とする使命、邪魔されるわけにはいかぬ。……早速だが、死んでもらうぞ」
 ハザードが剣を掲げると、ブゥーンという起動音とともに、敵の剣の刀身が赤熱しだした。
「戦闘モード起動、敵分析を開始する」
 敵が剣を抜いた瞬間、ケルベロス達も素早く戦闘配置についた。マティアスがいち早くインフェルノファクターを起動し、戦闘態勢を整える。
 剣を構えたハザードの背部ユニットから高出力のジェットブーストが起動し、ハザードの屈強な体が宙に浮いた。ハザードはブーストを噴かせたまま低空飛行でわかなへ向けて突撃を始め、その軌道上にマティアスが飛び込んで、身を挺してハザードの激突を受け止める。
「被ダメージ、想定内。問題ない」
「あの図体で飛行もするのか。中々に厄介そうだな」
 吹き飛ばされたマティアスが受け身をとる横で、リカルドがナイフを抜く。ターンしようとする敵の動きに合わせて踏み込み、敵装甲の接合部を狙って素早くナイフを滑り込ませた。ナイフによって斬裂されたケーブルが火花を放つ。
「情報の少ない敵です、焦って攻めず、一手ずつ行きましょう」
 ベルカントの声掛けに、皆から了の返事が集まる。予知での事前情報が無い敵に対し、ケルベロス達は防御重視の戦略を取った。各員がヒール手段を用いることで高ポテンシャルを維持しつつ、敵の挙動や弱点などを注意深く観察する。
 ハザードが左手を振りかぶったのを見て、大輔が皆の前へ庇い出た。振るわれた左腕からケーブルが次々と伸びてきて、ジョイント部が彼の体に突き刺されていく。
「心を持った機械など、哀れなものよ。お前は機械の一部になっている方がお似合いだろう?」
 バザードは見透かすようにそう言い、刺したケーブルからエネルギーを吸い出し始めた。
「……くっ、離せ!」
 大輔は身を捩り、全身のケーブルを振り払って後方へと飛び退いた。
「気をつけろ、あのケーブルを接続させて、エネルギーの簒奪を狙ってくるぞ!」
 大輔の警告。赤熱の剣撃と、ブーストを使った突撃攻撃、そしてケーブルによるドレイン攻撃が敵の主な攻撃手段のようだった。 機動力を発揮する敵に対し、ケルベロスたちは足止め系の技を集めて対抗していく。
「徒党を組み、密な連携で実力以上の相手を下すか。力なき者達の常套手段だが、なかなかに達者なものよ。……ならばその連携を崩すのみ」
 ハザードはそう呟くと、シエラシセロを狙って剣撃を繰り出した。シエラシセロはすれ違いざまの斬撃を冷静に避けたが、敵は剣を握った腕ケーブルを伸ばして拳部を方向転換させ、彼女の後姿へと追撃の一閃を放ってきた。
「シェラ!!」
 ベルカントの鋭い呼び声にシエラシセロがギリギリで反応し、なんとか身を捩った彼女の二の腕を灼熱の剣撃が掠めた。
「痛った……!!」
 必死に痛みを噛み殺すシエラシセロ。飛び込んできた雨弓の戦術超鋼拳に牽制されてハザードは立ち位置を下げたが、腕を戻したハザードは、なおも彼女を標的に据えていた。
「心あるものは、仲間が倒れるとひどく動揺するだろう。ならば一人でも殺せれば、勝負は決まったようなもの」
 仲間へと向けられた明確な殺意に、わかながびくりと体を震わせる。
「……!!」
 ベルカントが怒りを押し殺した表情で放ったフレイムグリードを、ハザードが高速移動しながら躱す。 その後もハザードは、シエラシセロの隙を突いては執拗に彼女だけを狙い続けた。
「……これが最適解、とでも言いたいのか」
 リカルドらディフェンダー陣がフォローに回るが、すべての攻撃を庇いきるのは難しい。
 足が止まりかけるシエラシセロへと、 灼熱の剣が握られた腕が伸ばされた。
「終わりだ」
 思わず目をつぶったシエラシセロへと刃が届く前に、差し迫っていた敵の腕が突然止まる。その腕には、えにかが放ったケルベロスチェインががっちりと巻き付いていた。
「馬鹿ですねー、そんな思い通りにさせるわけないのが連携なんじゃないですか」
 えにかが全力で鎖を引き、敵の腕を自分の方へと引き寄せる。危機を脱したシエラシセロへと、わかなの歌声が癒やしの光となって降り注いだ。
「大丈夫、絶対に守り切るから、心配しないで……!」
 誰も失わせないというわかなの誓いに呼応するように、シエラシセロの傷が一気に癒えていく。
「……ありがとっ! 皆、大丈夫、ボクはまだまだ戦えるから……!」
 シエラシセロは怯むことなく、強気な笑顔を浮かべた。後ろを振り向いて頷いた彼女にベルカントは笑みを作って返し、すぐに表情を引き締める。
「……そろそろ、そちらの手の内も知れました。勝負はここからですよ」
 ベルカントが魔曲『天花演舞曲』を奏で始めた。戦場に美しい旋律と花弁が舞い、ケルベロス達の士気と集中力が研ぎ澄まされていく。


 彼らの歌声を皮切りとして、部隊は徐々に攻撃中心へと戦法をシフトしていく。敵の行動観察と支援効果によってかなり敵の動きを捉えられるようになってきてはいたが、ハザードの方もなかなか消耗した様子を見せない。
「止まりやがれっ!」
 駆け込んだ大輔の飛び蹴りをハザードは寸でで躱し、なおもシエラシセロへと腕と剣を伸ばす。
「敵行動、計算完了」
 予測通りの挙動に、マティアスが攻撃軌道上に立ちはだかってケーブルにより伸ばされた剣をその身に受ける。身を焼く灼熱にも眉一つ動かさず、彼は敵の腕部を両腕でがっちりと抱え込んだ。
「捕らえた。今だ」
「オッケーですよ-!!」
 えにかはマティアスが捕らえている敵の腕ケーブルに飛び乗り、その上を身軽に駆けた。予想外の行動に敵が反応するより早く、えにかはハザードの肩を踏みしめ、雷光の蹴りを敵顔面に思い切り放った。その衝撃に、ハザードのレンズが割られて飛び散る。
「何だと……!?」
 ハザードは呻きながらマティアスに戒められた腕を無理矢理に振りほどいたが、その拳部にはひっそりとだいふくがしがみついていた。収縮される腕ケーブルの勢いにのせてだいふくが敵の頭に飛びかかる。敵がたじろいだ隙に雨弓が一対の鉄塊剣を掲げ、目にも止まらぬ回転乱舞を繰り出して敵の装甲を地面ごと深く抉り裂く。斬撃に傾いだ敵の体を、飛び込んだベルカントが乱暴に蹴り倒し、胸部装甲を踏みつけた。
「下劣な作戦を選んでくれたようですが、この程度ですか。所詮はガラクタの王ですね」
 蔑みと怒りを隠しもせずに敵を冷たく見下ろし、ベルカントはチェーンソー剣を敵の頚部へと突き刺した。チェーンソーの刃がケーブル束を容赦なく刈り切り、弾けたケーブルからバチバチと火花が散る。
「守りたいものは自分の手で守る。もう守れなくて泣くのは嫌だから」
 消耗し、肩で息をしながらも、シエラシセロは飛翔する。ベルカントが敵から飛びのいた瞬間に彼女は呼び出した光鳥を剣に変え、恐れずに敵の懐へと飛び込んだ。光の剣を敵の懐に突き立てて素早く飛びのくと、剣は光の大爆発を起こして敵を巻き込み、煌めく星屑があたりに舞い散る。
「私も、もうあんな思いは嫌……! 私の力で、誰かの大切な人を守れるなら……!」
 わかなは雷杖『秋桜』を握りしめ、迸る雷撃を敵へと放つ。全身を雷に打たれながらもハザードは立ち上がり、突撃を繰り出そうとブーストを起動させる。敵が加速を始めた瞬間、リカルドが体勢を低めて敵懐へと潜り込み、差し出した左手で敵の突撃をいなしてバランスを崩させた。
「起動時の初速が甘い。そろそろ、ガタが来ているようだな。――渦巻け叡智、示し導き、風よ絶て。吼えよ、絶風の『咎凪』よ」
 リカルドは静かに言いながらリボルバーを構え、その銃口を中心に魔法陣を創り出す。魔力により集約された『咎凪』が敵の傷ついた頚部へと放たれ、着弾の瞬間に解放された風が鋭く爆ぜて、残されていたケーブルがさらに吹き飛んだ。


「もう終わりだ、機械王ハザード! お前に勝ち目はない!」
 全身から火花と電流を散らせ、フラフラと立つハザードの姿に、大輔が叫ぶ。
「……この程度、資源さえあれば、何とでも修復できる」
 ハザードはいうや否や、大輔の右腕に素早くケーブル束を巻き付けた。急速にエネルギーが吸収され、大輔の全身からも電流が散りだす。
「……大輔!」
 マティアスが叫ぶ。苦し気に呻く大輔を、ハザードは鼻で笑った。
「受け入れよ。貴様は心ある『個』より、我ら大いなる存在の『ただの部品』であるべきなのだと」
「………お断りだッ!!!」
 大輔は心に宿った怒り決意を原動力に、右腕に絡んだケーブルを力任せに引きちぎった。
「馬鹿な……!」
「機甲武術師範代として……そしてケルベロスとして……全力でお前をぶっ飛ばす!!」
 バランスを崩して前方へと倒れかける敵にむけ、大輔が瞬間的に正拳突きの構えを取った。
「機甲拳、奥義! 超絶・覇王紅蓮拳!!」
 大輔は吼え、彼の力と闘気、すべてを乗せた右拳を、倒れこむハザードの胸部へと全身全霊で叩き込んだ。摩擦の炎が舞うほどの爆発的なスピードと威力に、敵の胸部はハザードマークもろとも貫かれて背部まで吹き飛ぶ。漏れ出したオイルに摩擦熱の炎が着火して、ハザードの全身が瞬く間に炎に包まれた。
 唸り声をあげながら、炎上するハザードの体がうつ伏せに倒れ伏す。
「何故だ…!? 侮りを捨て、我が全力を以て戦ったのに、何故……!?」
「……それが最期まで解らなかったのが、きっと貴方の敗因です……!」
 雨弓が厳しい口調で言い放つ。ハザードの赤い眼光が何かを探る様にケルベロス達を見渡し、しかし何も見つけることのないままに、機械王の眼光は永久に光を失った。
「ふぅ……」
 膝の力が抜け、その場に座り込みそうになったシエラシセロの身体を、駆け寄ったベルカントが素早く支えに入った。
「シェラ……!」
「あはは……みんなが守ってくれたから、大丈夫。ホッとして力が抜けちゃっただけみたい」
 苦笑いを浮かべながらも、しっかりと自分の足で立つシエラシセロの様子に、ベルカントもようやく少しだけ笑みを取り戻した。わかなもその様子にほっとしながら、撤退の準備を進める。
「よし、カメラおっけー! ほかの敵に見つかる前にささっと撤退しなくちゃね」
「後は少しでも情報を持ち帰ろう。ここの全てが戦争のための貴重な情報源だ」
 マティアスもそう言って、アイズフォンの追加用撮影デバイスを起動する。
「皆! ……みんなのお陰であいつを倒せた。心から感謝する」
 大輔が師範代らしい、堂々とした所作で頭を下げる。リカルドはリボルバーを収めながら少し笑った。
「戦争に勝つまでがミッションだぞ。……だが、ひとまずお疲れだ、大輔」
「……閉店お疲れ、電気屋の旦那ー。そんでドレッドノートは、近いうちにまたー!」
 えにかが小さく手を振り、部隊は速やかに現場を後にする。彼らの瞳は既に、次なる戦い『ケルベロス・ウォー』へと向いていた。

作者:ともしびともる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月14日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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