「指揮官型ダモクレスが先日、弩級兵装の一部を回収して行った件について、あなた達の力を借りたいの」
篠前・仁那(オラトリオのヘリオライダー・en0053)が言った。
先の作戦を生き延びた『コマンダー・レジーナ』は、ケルベロス達が破壊し得なかった弩級兵装を『載霊機ドレッドノート』へ転送したのだという。この事から、彼女達の目的は弩級兵装を組み込みドレッドノートを再起動させる事にあると考えられる。これを許せば、此方はケルベロス・ウォーを発動し対抗するほかに手は無くなるだろう。
とはいえ、敵が回収出来た弩級兵装は四つのうち二つ。その二つも損傷が激しく、敵はすぐには行動を起こせない。
だがレジーナは『弩級超頭脳神経伝達ユニット』を修復出来る。また、指揮官型六体全てが現在ドレッドノートの警護にあたっている。ケルベロス達にはこれに立ち向かい、敵に猶予を与える事なくその目論見を阻止して貰いたい。
「現在、ドレッドノート全域がダモクレスに制圧されているわ。周辺には『マザー・アイリス』の量産型がたくさん配備されていて、まともに攻め込むのは今は無茶。なので、わたし達がヘリオンで上空まで送って、あなた達に直接突入して貰う事になるのだけれど」
走り書き且つ箇条書きのメモを指で辿りながら仁那は眉をひそめていた。
「『踏破王クビアラ』がドレッドノート周囲に、ヘリオンを撃ち落とせる砲台、を設置したようなの。それで、彼の配下達がその警護と操作を行う。まずは、このダモクレスの撃破と砲台の破壊をして貰わないと、ドレッドノート内部へ入るのを邪魔されかねない」
指を一本立てて言い終えた彼女は、次、と一度手を開き、指を一本だけ折り曲げた。立てた四本を一本ずつ曲げながら、彼女は続ける。
「中に入った後の話ね。まず、『ジュモー・エレクトリシアン』達がドレッドノート自体を修復している」
ドレッドノートには修復すべき『歩行ユニット』がある。その為、ジュモーとその配下を撃破する事で、ドレッドノートの起動を許したとて満足に移動出来なくさせ、被害の範囲を狭める事が出来るだろう。
「中の二つ目、『ディザスター・キング』達は『弩級外燃機関エンジン』を補強しようとしている」
彼らは自らをエンジンに組み込む事で出力を確保するつもりのようだ。その為、彼とその配下を撃破する事で、ドレッドノートの出力そのものを抑える事が出来るだろう。
「三つ目、『コマンダー・レジーナ』の修復作業を阻止する。これでドレッドノート自体が……的確に行動する事、を阻める」
ドレッドノート級のダモクレスにまともな自律駆動を許せば、地形すらあっさり変えられてしまう。効率良く殺戮を為し自力でグラビティ・チェインを補給する事を許せば、ドレッドノートは半永久的に活動し得る脅威そのものとなろう。
「最後。『イマジネイター』は、ドレッドノートと融合するつもりのようよ。これを許せばドレッドノートは、指揮官型ダモクレスの目的に沿って動き続けるものになる」
ドレッドノート自体が意志を持つ事で、自発的に破壊の方向を定め得る。ケルベロス達が現状対処し辛い敵戦力が増えるという事でもある。
「もっとも、イマジネイターの件が響くのは、ケルベロス・ウォーの後もドレッドノートが生き残った場合だけ、と考えて良さそうよ。
……ただ、そういう事なので今回は、アイリス以外の指揮官型達の作戦を阻止して欲しい。どれに対処するかは、あなた達の判断に頼らせてちょうだい」
他のチームの攻撃目標とも併せ、効率良く動いて貰えるとなお良い。
「最善を尽くして貰えたとしても、ドレッドノートが起動する可能性はある、のでしょうね。今のところそう考えられている。
その場合、ケルベロス・ウォーに持ち込む事になるのだけれど……今回どれだけ敵の行動を阻めるかで、戦い易さも、被害の抑え易さも変わってくるわ」
メモを片付けつつヘリオライダーは、ゆえに敵の作戦を確実に潰して来て欲しい、と言い。
「だけど、あなた達に向かって貰う場所は敵地の只中よ。敵の全員を倒す事はまず出来ない……今回、アイリス軍は放置の予定でもあるし。
だから、敵に囲まれる前に素早く作戦を済ませて、急いで無事に帰って来てくれると、嬉しいわ」
強張った少女の手が、扱う紙に皺を刻んだ。彼女は一度手元へ視線を向けたものの、引き剥がしてケルベロス達を見つめ。願いを紡ぎ、唇をきつく結んだ。
参加者 | |
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リヴィ・アスダロス(魔瘴の金髪巨乳な露出狂拳士・e03130) |
罪咎・憂女(捧げる者・e03355) |
羽丘・結衣菜(魔法少女やめます・e04954) |
ピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564) |
ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205) |
アニマリア・スノーフレーク(疑惑の十一歳児・e16108) |
エヴェリーナ・パルシネン(蒼天に翔ける・e24675) |
キャロライン・アイスドール(スティールメイデン・e27717) |
●颶風と砂塵と鉄の色
髪を風に嬲られながらピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564)は、ヘリオン周囲に展開したドローンの制御を続けていた。
地上を埋めるアイリス軍の影に彼女達が溜息を吐いたのが少し前。機体外壁へ這い出て来た羽丘・結衣菜(魔法少女やめます・e04954)は伏すようにして壁の凹凸に掴まった。高速移動がもたらす強風は、壁をも地とする加護があれども、ただその足で立つ事すら困難にする。今は周囲へ目を光らせるのがせいぜいだろう。
初めに警告を発したのは、彼女とは逆側を警戒していた罪咎・憂女(捧げる者・e03355)。だが風音が声を阻む。翼を広げる事もままならぬ風圧の中、彼女は機体に掴まる片手で体を支えつつ虚空へ脚を蹴り抜くようにして炎を放った。
迎撃には不足、だが仲間達へは敵の砲撃開始を一足早く報せ得た。援護にと外へ投げられた槍が弧を描くが、それが届くより先に着弾の衝撃がヘリオンを襲った。機体が揺れて傾ぎ、ややの後立て直す。心構え程度なれど間に合わせた甲斐はあったろう。
「皆さん怪我はありませんか? 外の方々も落ちてませんね!?」
「問題無い! だが機体の損傷は酷いぞ、あと二、三発も喰らえば墜ちかねん!」
外へ顔を出したジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)が声を張り上げる。機体へ掛けた鎖を伝いリヴィ・アスダロス(魔瘴の金髪巨乳な露出狂拳士・e03130)が確認を手伝い返答した。
「──立ち上がる勇気を、思いやるやさしさと、戦い続ける意思を──!♪」
周囲に音響ユニットを展開したキャロライン・アイスドール(スティールメイデン・e27717)はギターの弦を弾き鼓舞の歌を紡ぐ。手分けしてヘリオンへヒールを施し、飛行を安定させる。
敵の射程内に入った事は判ったが、ケルベロス達が応戦するには未だ遠い。近付けば砲撃精度は更に上がるだろう。分析したアニマリア・スノーフレーク(疑惑の十一歳児・e16108)は床の縁に掴まり慎重に外を覗いた。
「連射は難しいのでしょうか。でしたら二発目が来る前に対応出来たら良いのですが」
砲台周りは精鋭のみで防衛にあたっている様子が見えた。有象無象の相手を強いられず済むならば面倒が無いが、手間取れば判らないとの懸念もあった。
「まだ行けるな? 外の者達は引き続き警戒を頼む! 射程に捉え次第こちらからも攻撃を仕掛けようぞ!
──このまま突き進み、我らの手でダモクレス達に死の鉄槌を!」
彼女の言に頷いたエヴェリーナ・パルシネン(蒼天に翔ける・e24675)が空へ槍を掲げ声をあげた。
そしてやがて、砲台の直上付近へ到達する。
「では行きましょうか」
至極あっさりと言ってジュリアスが空へ跳ぶ。遅れるわけには行かぬと、鎖を巻き取ったリヴィが急ぎ続いた。再度の砲撃は未だ、されどいつ来てもおかしく無いと地上の様子を警戒しつつ結衣菜がそれを追う。皆で一緒に、且つ速やかに動くのが最善と、いつでも攻撃を撃てるよう態勢を整えつつピコとアニマリアも宙へ。
「来たわ!」
「引き受ける」
それとほぼ同時、目標の砲台が再度火を噴いた。間近を過ぎった警告に憂女が応じる。彼女は一度、そっとヘリオンの胴部に掌を当てて、それから外壁を蹴り砲撃へ突っ込むように跳んだ。
(「『仲間』を、護ってみせよう」)
変わらず速度を緩めぬヘリオンが巻き起こす風が、彼女の背を押す。もの言わぬ彼とその駆り手の信頼の徴を受けて彼女は直後、身を灼く痛みに歯を食い縛る。
宙で爆ぜた熱風に煽られたキャロラインの体を、下から伸び来た鎖が巻き付き留める。はぐれる心配が無くなり安堵した彼女は、深手を負って墜ち行く仲間の為に再度歌う。ヒトの身で受けるには過ぎた痛みが和らいで、ようやく翼を広げ得た憂女が礼を告げた。自分以外は皆無事と確認出来て安堵する。喉が焼けついたが、ほどなく癒えた。
速度維持と速やかな離脱をヘリオン内へ指示し終えたエヴェリーナが最後に降りる。その頃には、先を往く者達が地上へ攻撃を開始していた。
「撃てなくだけでも出来ませんかね」
「届いて!」
光が、影が、鎖が放たれる。轟音を伴う砲撃がそれを追い、敵もまたこちらを捕捉したろうと推測するには十分だった。砲台の陰、白銀に光を弾く巨体が動く様を見てピコが目を瞠る。
「何故、彼女が此処に」
声は平静を保っていた。動揺というよりは、己が認識との相違を確認し計算を修正せざるを得ない事への困惑を表すような色。仲間に問われ彼女は、母です、とだけ答えた。追加で出せる情報は無い──そもそも彼女の知る『母』は、単独で前線へ出る事を好むタイプでは無かった筈だ。
(「どれほどアップデートを重ねたのでしょうか」)
断定した根拠たる銀のヒトガタだけは、彼女が知る姿そのままだった。
敵が操る砲身が向きを変える。着地していた面々が振り落とされる。狙いは上空を遠ざかる機体を外れ、直接の脅威たるヒトへと向く。
「まずい!」
威力は既に知った。地を蹴ったリヴィが、先程竜砲を撃ったアニマリアの前へ。爆音が聴覚を侵す。
「ヒールをお願いします」
煙の中を駆け抜けたアニマリアが仲間へ依頼する。背後にはふらつきながらも何とか自力で体を支えるリヴィの姿。キャロラインがそちらへ足を向け、他は前へ──四発目を許すわけにはいかない。
「やはり、簡単には行かせて貰えませんね」
攻撃を打ち込みながらケルベロス達は砲台を駆け上る。その硬い手応えは、操作する者を急ぎ止めねば、砲台より先に自分達が壊滅するだろうと悟るに足りた。やがて白い敵の姿を捉える。宙を滑るようにして防衛に動いた彼女は言葉より早く電撃を放射した。前衛達が堪える後方で、やはり、とピコが口を引き結ぶ。敵中央部にある人の形、その背後部が変形し、外付けの兵器が露出していた。
●彼女は冷たく銀色で
「退いてくれませんか」
敵を見つめてピコが口を開いた。
「貴女にとって、此処で戦う事はリスクしか無いと推測します」
「貴女は私を『知っているかのよう』に話すのですね」
「私は貴女を、……母と」
平坦な声音の反応を受け、吐いた息が微かに震えた。ケルベロス達に応戦しながら敵は束の間、彼女へ目を向けた。
「確かに、外観『だけ』ならばよく似ています」
切って捨てる声。例えピコの言が真実であったとしても、そう主張する彼女はしかし既に己が生み出した『PIC-02』では無いとばかり。反駁にかピコが口を開いたが、声は言葉とはならず。
「──先の質問に関しては、答えはノーです。私には私の目的がありますので」
(「果たさせるわけには行かないやつよね、やっぱり」)
それ以上を語る気は無いらしき敵を見、結衣菜が改めて気を引き締める。自他を護り抜くべく、鼓舞を歌い続けるキャロラインを手伝い彼女は今一度、掌に癒しの緑葉を集めた。
「敵の装甲はそう厚いものでも無いようだな」
翼を使い縦横に動きながら、敵の隙を狙い殴る。何度か繰り返して、エヴェリーナがそう推察した。
「しかし生憎こちらもそう変わり無いんですよねえ」
広範囲を焼く炎弾に焦げた毛皮を叩いているジュリアスのぼやきは、自陣というよりは彼個人に関する評価らしい。敵は攻撃特化型のようだった。
(「攻撃を見極める事は容易いが」)
敵頭上の環が回っている。彼女が日輪を背負えば無数の光線が放たれた。憂女が傍で術を詠唱していた仲間を護る。敵兵器は内蔵型では無い分挙動も判り易いが、問題は、ここまで見た限りはそれら全てが広範囲を害するものであるという事だ。多少、砲台も巻き込むが、敵にとっては些末な事なのだろう。参るのはケルベロス達の方──盾役達が護りきれない事も多々あった。
「やはり、急いだ方が良さそうですね」
アニマリアが炎を放つ。加速は彼女達攻撃役の仕事だ。敵を灼く幻竜を追うようエヴェリーナが光を纏う。
「お願いね」
顔馴染み達の頼もしさに、護りを引き受ける結衣菜が微笑む。油断は禁物なれど、状況は悪いばかりでも無かった。
リヴィが操る骨竜めいた鎖は、敵に幾重にも絡みつきその動きを制限して行った。アニマリアの砲撃は重心を制御する機構を損傷させたのだろうか、初めは細やか且つ機敏に飛び回っていた敵の挙動は徐々に乱れつつあった。銀白の機体は傷にくすみ、向けられる攻撃を避けきれず、間合いを調節すれば止まりきれず、急停止には姿勢も傾ぐ。
無数の立体映像と銀に輝く粒子がケルベロス達を支えている事もあり、敵を狙い撃つ事は既に困難では無い。ただそれでも、本来の役目を果たせぬほど壊されたコンテナを最早不要と切り離す彼女は、加速性能は維持しており、未だ脅威たり得た。被害の範囲は縮小し得ない。
「どこまで壊せば良いのやら」
だが、見て行くうちに傾向は読める。敵の攻撃は、より多数を巻き込むように仕掛けられる事が多かった。
(「一人で多くの敵を相手取る為に範囲兵器を備え、分散に依る損失は火力を上げる事で補い、機動性の為に装甲は減らし──」)
『母』から与えられた力で冷気を紡ぎながらピコは敵を分析し続けていた。電撃と光線の影響により、攻め手が満足に応戦出来なくなる事も増え出して、キャロラインはひたすらに生への肯定と癒しを歌い続けていた。
(「敵の火力を減じ動きを阻害する攻撃を繰り返し……」)
敵機体下部のアームは畳まれたまま動かない。彼女は遠距離兵器ばかりを用いていた。
「──皆さん、どうか無理はしないで下さい」
思索の末、ピコは仲間達へ向けて口を開いた。
「彼女は私達を無力化し捕らえるつもりでいると、私は推測します。仮にそれが叶わなくとも、彼女は生還さえすれば何らかのデータを得られるのではと」
「データ?」
「私の知る母は、研究者でした」
敵は『私の目的』と言った。彼女が前線に出る理由が同胞やクビアラの為では無いと仮定すれば。
「成程。逃がすなという事ですね」
「任せておけ、最悪飛んで追ってみせよう」
気負った風無くジュリアスが頷く。決して軽傷では無い身なれどリヴィが不敵に笑んだ。例え敵が高く飛ぼうとも、この場の半数は追跡が可能だ。
「そうなる前に終わらせてみせますから」
アニマリアは小刻みに首を振る。対応が可能とはいえ、増援の危険がつきまとう場で分断を強いられる事自体は痛手だ。敵の攻撃が散る分、盾役達には未だ余裕があるが、だからこそ彼女達が動けなくなっては総崩れだろうとも。
やがて、まんごうちゃんの爪撃が敵の意識に作用し始めた。敵が彼女なりの効率を無視して炎弾をばらまく。回避は、容易くは無いが不可能とも言い切れない──まんごうちゃん自身に限れば。
「そうだわ! ごめん、大丈夫?」
「機能に問題は……」
「髪! 髪焼けてるから!」
神霊に指示を出した結衣菜が巻き込まれたピコを顧みる。答えの途中で言葉を途切れさせたレプリカントへ即座に癒しの矢が放たれた。金の巻き毛にも艶が戻る。
敵が自己修復を使う様子が無い為もあり、自陣全体の支えはキャロラインに一任される事となった。
(「罪咎様はご自身でも請け負って下さる。アスダロス様も護りを敷いて下さる。お二方には御苦労をお掛けしてしまいますが……」)
声はただ歌を。凪いだ色をしたキャロラインの目はしかし代わりにとばかり強い意思にきらめいた。
「あなたはどうか、他の皆を」
憂女の緋瞳が応えた。盾役達はもう初めに声援を受け取った。今は自分達が皆の為にと、彼女は直刃を構え敵へと踏み込む。護ると誓った想いそのままに、刃は逆巻く風を伴い敵を圧す。
風は、リヴィが御する力の具現でもある。装甲を抉り裂かれた敵へと彼女の脚が翻り、暴風がコンテナをまた一つ潰した。その流れはアニマリアの獄炎を燃え盛らせ、彼女が振るう銀十字を熱に彩る。
「叩き落としてあげましょう──!」
鈍器の重さが敵の姿勢を崩したところをジュリアスが掴み、投げ技に繋げる。行く先の地面であるものは未だ健在である砲台だ。衝撃に金属が軋み音を立て、敵が立て直す前にエヴェリーナが全体重を乗せた拳を叩き込む。吹っ飛ばし直して、布陣がほぼ元に戻る。
戦況は悪く無い。威力重視で大技を入れる事も容易くなっていた。見渡す限りでは増援の心配は未だ先で良さそうで、赤い信号弾も今のところ無い──他七台に関しても、順調と見て良いだろう。
懸念があるとするならば。
「損傷……甚大」
敵が放つ電撃が、一人と一体を薙ぎ払う。治癒の限界が見えて来ていた。ピコの体がぐらりと傾ぐ。敵のアームが展開する。他の面々が護りに動いた為に敵はその腕を伸ばせずに居たが、各人疲労も溜まっており、時間の問題と思われた。
「──しかし、機能に問題はありません」
その間に、ピコは傷だらけの体で踏み留まった。倒れる事を拒んだ彼女を突き動かしたものが何であったのか、この時知る者は居なかったけれど。
彼女は淡々と携行砲台を制御する。回る環が光線を撃つまでには間があると知っていた。それより早く、と彼女は動き。
撃ち放つ寸前に、ふと操作する手がぎこちなく鈍った。
「……ピコ、さん」
気付いて憂女が目を瞬いた。アニマリアもまた顧みる。
「相手が母親となれば、無理もないかと。……ですが」
「……問題、ありません」
猶予は無い。ゆえにと応えた少女の声は、しかし微かに揺れた。
敵を滅ぼす事こそ、彼女達がこの場に居る意義。
(「ですが……母は私を生んでくれました」)
最早娘と呼ばれずとも、敵として憎みきれるものでも無い。
けれどそれら全ての想い──そう、想いを、感情を、心を、今は胸中に押し込めて。少女はその砲撃で、母と呼んだダモクレスを撃ち抜いた。
●空を染めるは緑色
「ひとまず本来の目的を果たしませんとね」
疲労に息吐く仲間達を置いて、上って行ったジュリアスは足元の砲口にまず蹴りを入れた。端から順番に鉄屑にまで変えれば、流石に修復もままならぬだろうとの判断だ。
「そんな、カールスバーグ様も傷が深うございますのに」
キャロラインが慌てて彼を追う。ばらけたところに増援でも来たらひとたまりもない。
「手伝おう。私は比較的軽傷だからな」
射手を務めたエヴェリーナが加勢する。他の面々も落ち着けば同様に動けるだろう。ヒールを扱える者達で手分けすれば、そう時間も掛からない。
「他所も問題は無さそうだな」
リヴィが空を仰ぐ。作戦成功を告げる報せが上り始めていた。
「ああ、そうですねえ。ウチもお願いします」
「解りました」
ジュリアスの依頼に、信号弾を預かっていたアニマリアが頷く。彼女は一度、静かに目を伏せて。
「──続く皆に、聖女王の加持を」
強く。澄んだ祈りを空へと撃ち上げた。
作者:ヒサ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年4月14日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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