載霊機ドレッドノートの戦い~弩級再起動

作者:柊透胡

「……定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
 集まったケルベロス達に対する、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は、表情も口調もいつもと同じ。粛々と口を開く。
「先の『弩級兵装回収作戦』の結果、ダモクレス側に『弩級超頭脳神経伝達ユニット』及び『弩級外燃機関エンジン』が渡っていますが……その転送先が、判明しました」
 黒住・舞彩(我竜拳士・e04871)ら6名の調査によって、割り出された弩級兵装の転送先は――載霊機ドレッドノート。
「指揮官型ダモクレスの目的は、載霊機ドレッドノートに弩級兵装を組み込み、再起動させる事であろうと思われます」
 弩級ダモクレスの代名詞とも言える『ドレッドノート』が動き出す事態となれば、ケルベロス・ウォーを発動せざるを得ないだろう。
「現在、指揮官型ダモクレス6体は、載霊機ドレッドノートの防衛と再起動に全力を注いでいます。そこで、載霊機ドレッドノートへの強襲作戦が行われる事となりました」
 来るべきケルベロス・ウォーによる決戦を前に、ダモクレスへどれ程の打撃を与えられるか。今後の戦いの趨勢を占う事になるだろう。
「現在、載霊機ドレッドノートは、ダモクレス軍団に制圧されています。ドレッドノート周辺は、マザー・アイリスの量産型ダモクレスの軍勢が展開しており、ケルベロス・ウォーの戦時下でなければ攻め込むのも難しいでしょう」
 故に、強襲にはヘリオンからの直截降下を要するが、先んじて踏破王クビアラが対ケルベロスの策を講じている。
「ドレッドノートの周囲には、『ヘリオン撃破用の砲台』が設置され、強力なダモクレスが砲台の守備と操作を担っています」
 まずは、この砲台の撃破が手始めとなる。首尾よく砲台撃破が叶えば、ヘリオンによる強襲降下により、載霊機ドレッドノートへの潜入が可能となるだろう。
「潜入後の攻撃目標は、4つです」
 1つ目は、ジュモー・エレクトリシアン軍団。ドレッドノートの歩行ユニットの修復を行っている。
「歩行ユニットの修復を阻止する事で、ドレッドノートの機動性を阻害出来るでしょう」
 2つ目は、ディザスター・キング軍団。『弩級外燃機関エンジン』と接続する事で、必要な出力を確保しようとしている。
「彼らの撃破は、ドレッドノートの出力低下に直結しています」
 3つ目は、コマンダー・レジーナ軍団。『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の修復を行っている。
「『弩級超頭脳神経伝達ユニット』が修復されれば、ドレッドノートは巨体を自律制御して、迎撃可能となってしまいます」
 ドレッドノート級の攻撃は、腕を振り回して殴りつけるだけで巨大なクレーターを作る程の威力だ。その危険度は一気に跳ね上がる事になるだろう。
「……そして、最後の目標は、イマジネイターです」
 弩級兵装回収作戦では動きのなかったイマジネイターだが、現在、自らがドレッドノートの意志となるべく融合しようとしているようだ。
「万が一、ケルベロス・ウォーに敗北すれば、自ら意志を持つ弩級ダモクレスが野に放たれる事になります。融合の阻止も、出来るに越した事はありませんね」
 そうして、創にしては珍しく、紙資料をケルベロス達に配布した。
「資料には各軍団の攻略に要する戦力など、詳細が書いてあります。必ず目を通した上で行動を決定して下さい」
 このまま放置すれば、修復されたドレッドノートは手がつけられない強さになってしまう。
「載霊機ドレッドノートと戦うには、ケルベロス・ウォーの発動が必要です。決戦を優位に進める為にも、今回の強襲作戦は何としても成功させなければなりません」
 敵の重要拠点をピンポイントで攻撃する作戦である為、作戦終了後は速やかに撤退しなければ、敵の勢力圏に取り残される事になる。引き際の見極めも重要だろう。
「ですが、年明けから大攻勢を仕掛けてきた、指揮官型ダモクレスの目的が漸く判明した訳です。後は、阻止するのみ……皆さんの健闘を祈ります」

●資料―載霊機ドレッドノート強襲作戦(攻撃目標詳細)
 0「マザー・アイリス」
 載霊機ドレッドノートの周囲は量産型ダモクレスによって封鎖、強固な防御陣地となっている。対応するにはケルベロス・ウォーに匹敵する大規模作戦が必要であり、地上からの侵攻は不可能。

 1「クビアラ軍団」
 載霊機ドレッドノートの周囲に『ヘリオン撃破用の砲台』を設置し、強力なダモクレスが砲台の守備と操作を行っている。
 ヘリオン直接降下作戦及び撤退時のリスクが高まる為、砲台の破壊必須。
 砲台制圧には、砲台直上まで突入したヘリオンからケルベロスを降下、ヘリオンはそのまま離脱。降下するケルベロスは、空中でヘリオンへの攻撃を防ぎつつ砲台に取り付き、担当のダモクレスを撃破の上、砲台を破壊する事。

 2「エレクトリシアン軍団」
 完全破壊された『弩級高機動飛行ウィング』に代わり、二足歩行システムを修復中。
 載霊機ドレッドノートの二足歩行時の最大速度は推定『時速200km超』。ジュモー・エレクトリシアン軍団の修復により、時速100km(ケルベロス・ウォーの戦闘中に東京の都心部まで移動可能な速度)以上の出力可能となると予想されている。
 修復を担うダモクレスを撃破する事で、ケルベロス・ウォー時のドレッドノートの移動速度低下が可能となる。

 3「ディザスター軍団」
 ダモクレスがエンジンの部品として連結する事で、『弩級外燃機関エンジン』の出力確保を講じている。
 起動した載霊機ドレッドノートは、エンジンから生み出されたエネルギーを使って戦闘用ダモクレスを生産する為、『弩級外燃機関エンジン』の出力はケルベロス・ウォー時のダモクレスの戦力に直結している。
 『弩級外燃機関エンジン』と繋がっているダモクレスを撃破する事で、『弩級外燃機関エンジン』の出力低下が見込める。

 4「レジーナ軍団」
 載霊機ドレッドノートの脊髄部に配下のダモクレスを護衛として配置。コマンダー・レジーナ自らが『弩級超頭脳神経伝達ユニット』を修復中。
 コマンダー・レジーナの修復が成功した場合、ドレッドノートはその巨体を制御し、ケルベロスに迎撃可能となる。
 弩級ダモクレスの攻撃力は、パンチだけで直径数kmのクレーターを作る程。更にこのパンチで殺害した人間のグラビティを奪う能力を持つ。つまり、より強力な力を獲得しつつ、永久に破壊活動を行えるようになってしまう。
 このシステムの破壊には、コマンダー・レジーナを撃破しなければならない。撃破出来なくとも、多くの配下を撃破すればドレッドノートの攻撃頻度を下げる事は可能。

 5「イマジネイター軍団」
 イマジネイターは、既に載霊機ドレッドノートの中核システムとの融合を開始している。
 融合が完了すれば、載霊機ドレッドノートは『イマジネイター』という意志を持つ、弩級ダモクレスに生まれ変わり、融合が果たされなかった場合、意志を持たない兵器となる。
 イマジネイターを撃破する事で、載霊機ドレッドノートとの融合を阻止出来る。
 何れにしろ、弩級の戦力の危険度は余り変わらないが、融合を阻止した場合、ケルベロス・ウォーに敗北した場合でも、載霊機ドレッドノートが意志をもって動き出す事が無い為、被害は限定されるだろう。


参加者
メリッサ・ニュートン(眼鏡の真理に導く眼鏡真教教主・e01007)
白雪・まゆ(月のように太陽のように・e01987)
ケルン・ヒルデガント(スターダストは灯らない・e02427)
紫藤・リューズベルト(メカフェチ娘・e03796)
四辻・樒(黒の背反・e03880)
月篠・灯音(犬好きの新妻・e04557)
パティ・ポップ(溝鼠行進曲・e11320)
鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)

■リプレイ

●再起動阻止
 青森県黒石市上空――弩級ダモクレス、載霊機ドレッドノートを巡る戦いは、踏破王クビアラ擁する対ヘリオン砲台攻略から始まった。その成否の報せとなる信号弾を、ヘリオンにて待機中のメリッサ・ニュートン(眼鏡の真理に導く眼鏡真教教主・e01007)はハラハラした面持ちで待つ。
「私達の担当は……『弩級超頭脳神経伝達ユニット』か、起動は阻止しなければな」
 四辻・樒(黒の背反・e03880)の呟きに、寄り添う月篠・灯音(犬好きの新妻・e04557)も大きく頷く。
「必ず勝つし、仲間の背中は必ず守りきるのだっ」
 メディックとして、回復を一手に引き受ける算段の灯音は、碧眼を輝かせてやる気一杯の面持ち。ふと、樒の袖を引く。
「樒、奏過兄さまなのだ」
「灯の義兄か、改めて宜しく頼む」
「こちらこそ。今回はかなり大規模な作戦ですね」
 樒の会釈に会釈を返す鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)。義妹とそのパートナーの仲睦まじげな様子に、眼鏡越しの双眸を優しく細める――ディフェンダーとして、守るという決意を胸に。その共通する思いは、血は繋がらずとも兄妹らしい。
「信号弾を確認しました。皆さん、降下準備を」
 程なく――ヘリオライダーのアナウンスに、俄かに張り詰める空気。開かれたハッチからビョウと風が吹き込む。
「マークザイン、行くのです」
 相棒には簡潔に声を掛け、紫藤・リューズベルト(メカフェチ娘・e03796)は何時でも飛び出せるよう、ライドキャリバーに乗り込みエンジンを吹かせる。
「いわゆる前哨戦というやつじゃな! この後の大規模作戦を有利にする為にも頑張らねばの!」
「あとついでに、レジーナも倒ちゅでち!!」
 ブーゲンビリアの花を揺らして腕捲りするケルン・ヒルデガント(スターダストは灯らない・e02427)の言葉に、パティ・ポップ(溝鼠行進曲・e11320)も元気よくエイエイオー!
「よっさこーい♪」
 華奢に違う膂力で、白雪・まゆ(月のように太陽のように・e01987)は愛用のハンマー「Feldwebel des Stahles」を担ぐ。治すのは苦手だけど、壊すなら得意だから。
「レジーナ軍団、叩き潰してあげますのですよー!」

「やはり、アイズフォンは使えませんね」
 他チームと連絡を取ろうとして溜息を吐くメリッサ。現状、載霊機ドレッドノートはダモクレスの制圧下だ。敵の拠点で通信機器が使用不可能なのもやむを得ないだろう。
 マッピングを試みる樒を中心に、目指すは『弩級超頭脳神経伝達ユニット』。ドレッドノートが自律制御出来るようになれば、その危険度は一気に跳ね上がる。故に、ケルベロスも本作戦で最大戦力が投入された。
 果たして、ユニット修復中のコマンダー・レジーナを護るように、麾下のダモクレスが布陣している。
「私達は防衛部隊の排除を……」
「ああ、こんなデカブツの好きにさせる訳にはいかないからな、一気に蹴散らすぞ」
「あ、ついに見つけたでち!!」
 奏過と樒のやり取りに、パティの叫びが重なる。精一杯背伸びする小柄が指差す先に――ウェアライダーを改造したようなダモクレス。鋭利に絞られた体躯を将官級の軍服で包む人影は、頭はドーベルマン。身構える四肢は機械化が装甲めいて露となっている。
 パティ曰く、通称「ザ・スカウター」。屈強な人間を攫ってダモクレスに改造しているとか。
「こっち的に逃がちゃないでち!!」
 パティの勢いからして、思い入れのあるダモクレスのようだ。
「じゃあ、お手伝いするのです……やるですの」
 好奇心旺盛にドレッドノートを見回していたリューズベルトは、おっとりした雰囲気が一転、凜と表情を引き締めライドキャリバーに声を掛ける。ロボとかメカとか、関心は尽きないが……今回は再起動阻止が優先だ。
「一撃必砕! 全・力・全・開っ!」
 ターゲットは決まった。ブンッとバトルハンマーを振るまゆ。先手必勝! 全力ダッシュから一回転の遠心力を乗せた一撃を叩き込まんと――。
「……うむ、流石に厳しいようじゃ」
 僅か1歩の後退で、先制攻撃をかわしてのけるダモクレスを見て取り、ケルンは軽やかに地を蹴る。流星の如き蹴撃が奔った。

●ザ・スカウター
「これから行くでち!! 喰らうでちゅ!」
 パティのショックドライヴは、ザ・スカウターの手甲に阻まれた。
「あんたのおかげで、色々と対応が大変だったでちからね!!」
「知らんな」
 少女の文句にも、ダモクレスはにべもない。仲間を攫われた彼女にしてみれば憤懣やる方無しだが、敵にとっては戦力増強の一環でしかなかったのだろう。
 ――――!!
 互いに名乗りも上げぬのは、双方、敵と判っているから。戦いの火蓋は切って落とされ、裂帛の気合が空気を裂く。ザ・スカウターより迸る衝撃波が、ケルベロス達の体幹を激しく揺さぶった。
「どんな攻撃も、眼鏡が無いなら恐るるに足らず!」
 ザ・スカウターの初撃は前衛4人総てを巻き込んだが、範囲攻撃の分、ダメージはまだ低めだろうか。防御の体勢で凌ぎ、メリッサは降魔真拳の構えを取る。続いて、雷気纏う樒の惨殺ナイフが神速を以て閃く。
「くっ!?」
 本来なら、それぞれに命中を見込めるグラビティ。まさか、何れも回避されようとは。
「さて、降り立て白癒よ。汝の霧で、我が仲間らを深く隠して守っておくれ」
 距離感を量り損ねたか、小さく頭を振る樒を見て取り、灯音は癒しの白霧を降ろす。元より、白癒は防御力も上げる技。そして更に、メディックのヒールはキュアを齎す。
「っく……ごめん、洗いきれない。奏過兄さまっ! 頼みますっ」
 そのメディックのヒールをして厄を払い切れぬならば、敵のポジションは1つ。
「ジャマーじゃのう」
 ケルンが厄介そうに顔を顰めれば、奏過はハッとした表情で頷き返す。
「月ちゃん! わかりました……ここは私がっ! 暁光輪!」
 白き虹は天より輝き降りて包み込む――装甲から白金のオウガ粒子を放出し、味方の穢れと不浄を祓い清めんと。
 前衛を圧するプレッシャーを2人掛かりで緩和させる。既にケルンがその足を刈っている。とは言え、格上のデウスエクス相手にそう易々と攻撃は届かない。
「行くのです」
 ブロォォォッ!
 リューズベルトの一声に、マークザインはエンジン音で応える。同時に飛び出した。少女のアクティブシューズは流星の軌跡を描き、ライドキャリバーは轢き潰さんと激しくスピンする。
「……っ」
 後方よりよく狙ったが故に、相次いで敵影を捕えるも……リューズベルトは眉根を寄せる。魂を分け合うが故に、サーヴァントとその主は厄を積むのは比較的不得手だ。それが範囲攻撃なら尚の事。
「次なのです」
 だからこそ、リューズベルトはドラゴニックハンマーを砲撃形態に変形させる。序盤は兎に角、敵の足止めに専念する心算。厄を刻むまで、何度でも。
 勿論、他のケルベロス達も、この程度では引き下がらない。
 メリッサがシャウトで完全にプレッシャーを振り切れば、大型のクロスボウからハートクエイクアロウを発射するケルン。すかさず、空の霊力を帯びた樒の刃が、正確に矢の軌跡をなぞる。
「ふっ、眼鏡が無事で助かりました……」
 ザ・スカウターの電光石火の蹴りを、辛うじてメリッサが遮った。本来の標的はパティだったが……恐らくは、攻撃が届く範囲で最も打たれ弱いから。実戦経験の程は、眼力で知り得た命中率からもある程度判断出来よう。効率最優先が如何にもダモクレスらしい。
「おかえちでち!」
 メリッサの肩越しに、パティの気咬弾が孤を描く。奏過は命中を優先させ、全身を「光の粒子」に変えて突撃する。
 見切り故に、次の手に迷うまゆ。キャバリアランページかサイコフォースか……前者は足止めの技だが、命中率も危うければ、単体の敵に範囲攻撃も相当分が悪い。それで、驚異的な集中の末に爆破を敢行した。尤も、正攻法を好む素直さ故か、まだザ・スカウターに届くには至らない。
 前衛に掛かる重圧は灯音と奏過が2人で掃い、急所を抉られる痺れをパティ自らシャウトで退ける。時にディフェンダー2人も自らを盾と為す。
 どうやら、ザ・スカウターの得意は近接戦。前線が崩壊しない限り、後衛に攻撃が届かないのは幸いであったが、スナイパーの一角たるケルンは足止めに重きを置かず、リューズベルト&マークザインの攻撃は使役修正が枷となる――暫時、思うように命中しない、もどかしい戦況が続いた。
「……ちぃっ」
 惨殺ナイフと拳が交錯する。ドーベルマンの頭越しに、弩級ユニットが否が応にも目に入る。思わず舌打ちする樒。
「あんなものを起こす必要は無い、永遠に眠っていればいい。お前達もドレッドノートと共に夢に沈め」
 無言の応酬に視界が揺れた。たたらを踏む最愛の人へ(ついでに前衛にも)メディカルレインを降らせながら、灯音はダモクレスと見やる。
「仲間を思う心があるのに、我々は歩み寄れないのだ?」
「笑止」
 その反応も又、冷ややか。
「ユニット修復の『最大効率』と『心』なる致命的バグを同等に語るなど」
 確かに、弩級超頭脳神経伝達ユニットを修復出来るのはコマンダー・レジーナのみ。故に、ダモクレス達は彼女を護るのだ。勝利の為に。
「……これも選択か」
 根本的に相容れないと実感して、灯音は刹那瞑目した。

●一気呵成
 ジリジリとした耐戦を経て――戦況の変化は、正に手数の多さあってこそ。
 厄を払うライトニングウォールが行き渡れば、前衛が重圧に冒される危機も減じる。徐々に敵の動きが鈍れば、強力な攻撃も届くようになる。
「今週の山場なのです」
 小型無人機の群隊を操るリューズベルト。自作型四脚式支援ドローン(プチメカ)は、味方の妨害能力をアップさせる。同時に、マークザインに騎乗するや、突撃した。
 これまでも着実に攻撃を重ねてきたケルンは時空凍結弾で追い撃つ。その弾道を追う樒の絶空斬。まゆのサイコフォースが爆ぜ、パティの気咬弾が幾重にも穿てば、その度にダモクレスの身体は時空ごと凍り付いていった。奏過のチェーンソー剣が、更にダモクレスをズタズタに切り裂く。
「眼鏡割れない限り、大体の攻撃はノーカンなのです」
 既に眼鏡の魔人と化しているメリッサは、ブリレ・ゼンゼを振るってダモクレスのエネルギーを簒奪する。
 このまま、畳み掛けんとケルベロス達が身構えた次の瞬間。
「か……は……!」
 パティの息が詰まる。脅威の速度で抉り込まれた拳が引かれると同時に、身体から大事が引きずり出されるような。
「回復して……!?」
 思わず紅眼を見開いたまゆの言う通り、ザ・スカウターに穿たれた傷は消えつつあった。
「もしかして、降魔真拳ですか?」
「まあ、似たようなドレイン技じゃろうな」
 息を呑むメリッサに、溜息を吐くケルン。奏過はうんざりと眉を顰めている。
 単体技の威力は侮れぬ上に、ジャマーによるドレイン技の回復量は、クラッシャーに勝る。幾許かの武器封じの技が通っていたのは幸いだった。
 敵に回復の術があったとして、灯音が全力でヒールに専念してきたお陰で、まだ誰も倒れていない。このまま、一気に押し切る――いつでも庇わんと、改めて身構えるメリッサ。奏過も斉天截拳撃――敵の動向に注視、捌きながら渾身の一撃を繰り出す。
「樒、一片も残さず壊して差し上げるのだっ」
「ん、灯の言う通り徹底的にやろう」
 パティにウィッチオペレーションを施す灯音の激励は、樒へ。大いに頷き返し、彼女は黒髪を翻すや得物を振るう。
 ただ、全てを切り裂くのみ――夜風の如き斬撃は、求道の末、樒が辿り着いた1つのカタチ。
「復活なんて、させないのですよっ」
 まゆが大上段に構えるバトルハンマーは、親友から受け継いだ大事なもの。
「今度こそ……一撃必砕! 全・力・全・開っ!」
 力一杯に振り抜いたその一撃は、シンプル故に威力は絶大。腕甲を交差させた防御体勢ごと、正面から叩き潰す。
「そういえばこの姉様をしっかりと使うのは初めてやもしれぬの」
 リューズベルトのサイコフォースに続き、ポツリと呟いたケルンは、掌中に短剣を作り出した。
「上の姉様直伝、受けてみよ!」
 その一刺しは、あくまでも軽い。よもや、ザ・スカウターが身を捩じらせて膝を突こうとは。
「この短剣は敗北の具現。油断した其方の負けじゃぞ」
「ば、馬鹿な……!」
 ギリッと歯噛みしたダモクレスの身体が不自然に強張る。その隙を逃さず、パティはタンッと飛び上がる。
「ともかくとちて、こっち的に落ちるでちー!!」
 少女の惨殺ナイフが、ドーベルマンの首筋目掛けて、吸い込まれるように振り下ろされた。

●『女王』の最期
「世界に眼鏡を。眼鏡に光を」
 メリッサが癒し魅せるのは神々しいまでの理想郷……主に眼鏡的に。
「降り立て、白癒」
 続いて灯音の呼び声に癒しの霧が立ち込めれば、激戦の傷もじんわりと消えていく。
「お疲れ。大丈夫か?」
「ん? 平気だぞ。まだ、忙しくなりそうなのだ」
 樒の労いに笑みを浮かべた灯音の視線は、コマンダー・レジーナの方へ向けられる。緒戦から指揮官を抑え続けたチームは奮戦の末に膝を突いているが、配下の戦闘が終わったチームから引導を渡すべく馳せ参じているようだ。
「わたし達も、レジーナ班への援護に向かいたいと思いますです」
「ここはまだ敵地……無事に脱出するまで気を抜かず!」
 まゆの言葉にも、奏過の掛け声にも否やはなく、急ぎ駆け出すケルベロス達。ザ・スカウターとの決着に些か時間は掛かったものの、幸いまだ余力はある。
「……ブチ抜けぇええッ!」
 豪快なる黒狼の一吼えに、迸るグラビティ。間に合ったのは見た所、6チーム程か。
 超集中の果て、爆ぜるまゆのサイコフォース。ケルンの掌から炎の竜影が奔れば、リューズベルトの鎚砲が火を噴き竜砲弾が轟く。パティのバトルオーラが弾丸を象り孤を描いた。
「プラネットフォースってのと戦ってた時の邪魔者も片付けられたでちから、あとはなんとでもなるでちね」
 敵の体力が温存されていれば、或いは、近接戦も在り得ただろうが……数多に集中砲火を浴びせられては、さしものコマンダー・レジーナも成す術無い。彼女の全てを掻き消すかの如く、一斉掃射の雨が容赦なく穿ち貫いていく。
「さあ、最後の一押しですの!」
 薄紫の髪の少女より放出されたオウガ粒子が、ケルベロスらの感覚を更に研ぎ澄まし――トドメの射手は、桜花のオラトリオ。
「後はおねーさんに任せなさい! この一撃で、全てを終わらせる!」
 銀枝の杖に蒼い冷気が渦巻き、弾丸となってダモクレスの胸を撃ち抜いた。
「……もはや、ここまで……か」
 刹那の静寂に、その呟きはよく聞こえて。女王の名を冠する指揮官は、誇らかに笑んで崩れ落ちる。
 ――――!!
 一拍を置いて、ケルベロス達の勝鬨と歓声が、爆発するように轟いた。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月14日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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