載霊機ドレッドノートの戦い~機械軍団を強襲せよ

作者:天枷由良

●ヘリポートにて
 ミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)は、資料の紙束を手に語る。
「まずは、お疲れさま。皆の奮戦で各地に現れたダモクレスたちは撃退され、発掘されていた弩級兵装のうち二つも破壊することが出来たわ」
 しかし、指揮を執っていたコマンダー・レジーナは撤退を果たし、残る二つの兵装『弩級超頭脳神経伝達ユニット』と『弩級外燃機関エンジン』も回収・転送されてしまった。
 転送先はバアルルゥルゥ・アンテルエリ(ヴィラン・e34832)など六人のケルベロスによって『載霊機ドレッドノート』だと判明している。恐らく弩級兵装の発掘は、ドレッドノートを再起動させるためだったのだろう。
 弩級ダモクレスの代名詞ともいうべきドレッドノートが動き出してしまえば、人類もケルベロス・ウォーの発動で以って対抗するしかない。まだ再起動する気配は見られないが、弩級超頭脳神経伝達ユニットを修復できるコマンダー・レジーナがいる限り、ドレッドノートは時間さえあれば本来の力を取り戻してしまう。それを見越してか、六体の指揮官型ダモクレスも全力でドレッドノート護衛に当たっているようだ。
「彼らの目論見を阻止するべく、ドレッドノートへの強襲作戦が行われる事になったわ。いずれケルベロス・ウォーによる決戦を行うとしても、ドレッドノートとダモクレス軍団にどれくらいダメージを与えられるかは、今後の趨勢を左右するはずよ。大規模な作戦になるから、説明をよく聞いてちょうだいね」

●状況確認
 ドレッドノートを制圧したダモクレス軍団は、周辺にマザー・アイリスの量産型ダモクレスを展開している。
 そのため、強襲にはヘリオンからの降下作戦を行う必要があるが、踏破王クビアラがケルベロス対策に『ヘリオン撃破用砲台』を八つ設置して、強力なダモクレスに守備と操作を行わせている。まず全ての砲台を破壊しなければ、強襲降下と作戦終了後の撤退、どちらもままならないだろう。
「降下作戦が行えるようになったらドレッドノートに潜入してもらうのだけれど、潜入後の目標は四つあるわ」
 第一に、失われた弩級高機動飛行ウィングに代わる移動手段を得るため、昼夜を徹して巨大な二足歩行ユニットを修復しているジュモー・エレクトリシアンと、その配下たち。この部隊に損害を与えれば、ドレッドノートの移動速度に影響が出るだろう。
 第二に、ディザスター・キングとその軍団が守る『弩級外燃機関エンジン』だ。このエンジンから生み出されるエネルギーは戦闘用ダモクレスの生産に利用されるが、ディザスター・キングの軍団は自らを弩級外燃機関エンジンの一部とすることで、必要とされる出力を確保しようとしている。エンジンを完全に止めることは出来ないが、彼らの撃破はドレッドノートの出力低下、ひいてはケルベロス・ウォーでの敵戦力減少に繋がるはずだ。
「それから第三に『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の脊椎部分で修復を行っているコマンダー・レジーナと護衛たちよ。ユニットが修復されると、ドレッドノートは自身で巨体を制御して攻撃してくるとみられるわ」
 その力は、腕の一振りで大地に数kmサイズのクレーターを作り出すほどだと予測される。さらには攻撃で殺した相手からグラビティ・チェインを奪う機能も備えているため、ユニット及びコマンダー・レジーナが健在な限り、ドレッドノートは破壊活動を永久に続けることが出来るという。これはケルベロス・ウォーでの大きな障害となりえる。
 しかし、攻撃能力という重要部分を担っているのだから、完全破壊は簡単でない。多くの部隊を投入した上で、コマンダー・レジーナを撃破するためにユニット脊椎部への集中攻撃が必要となるだろう。
「そして最後は、弩級兵装回収作戦で動きのなかったイマジネイターと、その軍団よ」
 イマジネイターは、自らとドレッドノートの融合を試みているらしい。融合が完了すれば、ドレッドノートは『イマジネイターという意志を持った弩級ダモクレス』になると予測されている。もしも後のケルベロス・ウォーに敗北した場合は、意志持つ弩級ダモクレスによって破壊活動が行われ、甚大な被害が発生するはずだ。
 だが、イマジネイターを撃破して融合を阻止するためには、護衛のイマジネイター軍団全てを撃破しなければならない。連携に難のあるイマジネイター軍団なら一体ずつ相手取って戦えるだろうが、強敵相手に連戦で勝利するのは難しい。イマジネイターの撃破を目指す場合にも、相応の戦力を投入する必要があるだろう。
「此方が投入できる戦力を考えれば、ある程度の取捨選択は必要になるでしょうけれど、この作戦を成功させてドレッドノートの能力、ひいてはダモクレスの戦力を低下させれば、後のケルベロス・ウォーも有利に進められるはずよ。ダモクレスたちの攻勢を止める足がかりとするためにも、頑張りましょうね!」


参加者
水守・蒼月(四ツ辻ノ黒猫・e00393)
テレサ・コール(ジャイロフラフーパー・e04242)
刑部・鶴来(狐月・e04656)
佐々木・照彦(レプリカントの住所不定無職・e08003)
レクト・ジゼル(色糸結び・e21023)
レミ・ライード(氷獄騎兵・e25675)
スライ・カナタ(彷徨う魔眼・e25682)
ラグナシセロ・リズ(レストインピース・e28503)

■リプレイ

●強襲降下
 弩級ダモクレス・ドレッドノート。
 ちょっとカッコイイかもしれないが、あれはダモクレスの軍団に囲まれて修復途上。
 今のうちに、叩けるだけ叩いておかなければならない。
 水守・蒼月(四ツ辻ノ黒猫・e00393)は面倒臭さからか、僅かに顔をしかめた。
 他の者たちも緊迫した表情だ。
 それもそのはず。多くのケルベロスが動員される一大作戦のなかで先陣を切る彼らは、対ヘリオン砲台なるものを操作・守備するダモクレスの撃破と、砲台の破壊を任されている。
「後に続くチームの為にも、砲台破壊、失敗できない、です」
 レミ・ライード(氷獄騎兵・e25675)がたどたどしくも決意を口にすれば、レクト・ジゼル(色糸結び・e21023)や、金色のボクスドラゴン・ヘルを伴うラグナシセロ・リズ(レストインピース・e28503)が頷いて見せた。敵陣の真っ只中へと墜とされる危険すらある戦いに、臨む覚悟は十分といったところであろう。
 しかしただ一人、テレサ・コール(ジャイロフラフーパー・e04242) は浮かない顔。
 元から物憂げで、表情の乏しい娘ではあるらしいのだが。
「今日はなんだか胸騒ぎがします……」
 ぽつりと溢した言葉を、テレビウムのテレ坊を従える佐々木・照彦(レプリカントの住所不定無職・e08003)が耳に留める。
 そう言えば、砲台を守備するダモクレスにはテレサと縁があるらしい者もいるのではなかったか。
 戦いにあたって、その辺りを詳しく聞いておいたほうがよいのかもしれない。
 降下地点も近づいていることだし……と、照彦が声をかけようとした、その時。
「っ、どわあっ!!」
 ヘリオンを激しい揺れが襲い、照彦のみならずケルベロスたちはのきなみ、もんどり打って転げた。
 端に括り付けた縄を頼りになんとか堪えたスライ・カナタ(彷徨う魔眼・e25682)がヘリオンの外を覗くも、ぐんぐんと迫る砲台はまだ、此方からの反撃が届きそうにないところにある。
「この距離で当ててくるのか……」
 ヘリオンの飛行に問題はなさそうだが、何度も喰らっては耐えられないだろう。
 スライは鋭い眼差しを彼方に向け、次弾に備える。その間に仲間たちも態勢を立て直し、各々武器を手にして降下準備を整えた。
 予断を許さない状況。一秒がうんと長く感じる。
 それでも幸いなことに、ヘリオンは次の砲撃が来るよりも先に降下地点へと辿り着いた。
 まずは盾役から。テレサが真っ先に飛び出し、連れて蒼月、照彦が降りていく。
 一拍置いて、続くはヴァルキュリアたち三人。
「……行こう」
「へリオン、落とさせは、しない、です!」
「ではレクト様、お先に」
 スライは夜空のような、レミは青く燃ゆる地獄、ラグナシセロは星色の。
 それぞれ翼を翻して、ヘリオンから躍り出る。
 残るは刑部・鶴来(狐月・e04656)にレクト、ヘルとテレ坊。
(「ここからが肝心だが……刀を持っていないとどうにも、落ち着かないな」)
 今日の武器として選んだ長銃と巨鎚の感触を確かめつつ、先に鶴来が飛ぶ。
 最後の一人となったレクトは何かに呼びかけようと振り向き――それがいないことを思い出した。
 なぜ、いつ、そうなったのか。事情はあろうが、語るべき時は今でない。
「……さぁ、ヘルさん。それと、テレ坊さんでしたか。行きましょう」
 代わりに他人のサーヴァントたちを呼んで、レクトは宙に身を投げた。
 重力を感じて間もなく、仲間の持つ発煙筒の煙が出迎えに訪れる。
 もう一つ考えられていた手段――バイオガスは展開されていない。あれは戦場全体を外から見えないように覆うものであって、一部分を隠す煙幕代わりにはならない。
 そしてどちらにしろ……そのような細工で誤魔化せるほど甘くないらしい。
 薄く濁る視界の先で此方に向く砲口は、ヘリオンを射線に収めたまま何かを撃ち出そうとしていた。
「――!」
 反射的に、蒼月が空を泳ぐ。
 間もなく砲台は火を噴いて、黒猫ウェアライダーの少年を軽々と吹き飛ばした。
「水守くん!」
 照彦が呼ぶのも束の間、蒼月の身体は落ち続ける盾役二人を割っていく。
 だがしかし、そのまま空に還ることは避けられた。翼をはためかせるヴァルキュリアたち――いわゆる飛行のポジションではなく、遅れて滑空してきた彼らが、蒼月を三人がかりで受け止めたのだ。
「蒼月様、ご無事でございますか?」
「いたた……大丈夫、助かったよ。でもこれ二、三発貰ったらダメそうだね」
 尋ねてきたラグナシセロに礼を返しつつ、蒼月は言葉を継ぐ。
「……あぁもう、ほんまに一番槍っちゅーやつぁ、最高やないか!」
 分かってはいたことだが、とんでもない役目を担ったものだ。
 照彦は武者震いのようにして、全身に闘気を漲らせた。
 砲台との距離も随分と狭まっている。此処からなら相殺までは困難でも、遠距離用のグラビティで反撃を試みることは出来よう。
 闘気は収束し、弾となって撃ち出された。それを皮切りに氷結の螺旋や、テレサ専用の円形アームドフォート『ジャイロフラフープ』からの弾丸、どこから来たのか金ダライなどが次々と炸裂していく。
 最後にバスタービームが浴びせられたあと、砲台は当然のように健在だった。
 しかし、降りてくるケルベロスにある程度の脅威は感じたのかもしれない。
 砲口が微妙にズレる。その先には、バスターライフルを握った鶴来。クラッシャーゆえの破壊力が、真っ先に排除すべき対象と思われたのだろうか。
「ほんならオッサンが、ええとこ見せたるわ!」
 暴力の嵐が噴き出す寸前、未だ空中にも関わらず照彦は器用な動きで鶴来を庇った。
 中年レプリカントは直前の出来事を繰り返すように減速して、ヴァルキュリアたちの安全網にかかる。全身を襲う痛みは、なるほど確かに蒼月の言う通り、三度も重なれば昇天してしまいそうなものだった。

●相対す
 けれども、ケルベロスたちに迫ったのは天でなく地。
 荷を下ろしたヘリオンの撤退を見送れば、砲台に取り付いた彼らの前には守備兵であろうダモクレスが一体、立ち尽くしていた。
 その姿は、まるでテレサを裏返したよう。
 目の当たりにしたものにケルベロスたちは言葉を失い、静寂が空間を支配する。
「……貴女、は……」
 あまりにも似すぎている、見知らぬ敵に対して。
 選ぶことの出来る数少ない感情からテレサが選んだのは、困惑。
 だが、それは相手――テレーゼ・ザ・ジャイロフラフープリバーシも同じであった。ダモクレスである彼女から見て不倶戴天の存在たるレプリカントは、どれほど姿形が似ていても、たとえ深い縁があろうと、今はただ『自身と違うもの』でしかない。
 それでも次第に、テレーゼの困惑は変質して、強い敵意となっていく。
 自身と最も対極にあるはずのレプリカントが、双子の如く瓜二つの姿でいるのだ。
 許せるはずはない。
「お前は……お前は、何だ!」
「っ!」
 問いかけというには荒い声で、我に返ったテレサがジャイロフラフープから弾丸を放つ。
 しかしテレーゼは舞うように躱してから、弾丸を撃ち返した。
 円形の特徴的な装備までもが似通った二人の間で、種族とともに絶対的な違いのあるもの。それは力量。
 極めて正確かつ苛烈な一射が、斬撃に備えた青白のメイド服を食い破り、破壊の力を惜しみなく注ぎ込む。守りに重きを置いているとはいえ、テレサは受け身をとることもままならずに転がった。
「――! 回復を!」
 鶴来の声で、仲間たちの止まっていた針が動き出す。レクトから魔法の木の葉を纏わされたラグナシセロがテレサの前に分厚い雷の壁を張り巡らせ、蒼月は紙兵を折り重ねる。癒やしと共に、まずまずの加護を前衛陣へ齎したそれらの合間を縫って、照彦の気咬弾とテレ坊、レミが飛んだ。
 テレーゼは赤黒のメイド服にも見える装甲を翻し、後方へ軽やかにステップを踏む。だが、闘気の弾丸には根比べで一枚上を行かれたらしい。執拗に喰らいつく気弾から僅かな衝撃を貰うと、直後にテレビウムの凶器とレミの跳び蹴り、どちらも正確な技を喰らって足を止めた。
 その隙を逃さず襲いかかるのは、攻めの両翼を担う二人。
「……見えた」
 己しか見ることの出来ない、敵の身体に走る緑色の線。
 死へと繋がる標を頼りにして、まずはヘルから属性注入を受けたスライが、深紅の刃揺らめく剣を振るう。
 力一杯、威力重視の剣戟。そんなものは本来、個の力で上回るテレーゼにそうそう当たりはしない。
 されど生命を磨り減らす戦いの極限において、ほんの一瞬ばかり奪われた自由は彼我の力量差を大きく縮める要因となる。
 紅く波打つ刃が線に沿ってテレーゼを裂けば、逃れようとするのを追って巨鎚のドラゴニック・パワーを噴射した鶴来も、斬り合いが望めないことを惜しみつつ得物を叩きつけた。
 手応えは並だが、敵には大きなダメージが残されたはず。
(「あれが、ジャイロフラフープであるとしたら――」)
 立ち直り、仲間とテレーゼの応酬に加わる機を窺っていたテレサが、接近戦を挑むために地を蹴る。
 間合いを詰め、砲撃の適正距離さえ抜けてしまえば。そんな目論見で打たれた電光石火の蹴りは、しかし急所どころか髪の一本をも捉えられないまま空を薙いだ。
 そして再び、襲い来る衝撃。
「舐めるな!」
 鏡で写したような――それでいて敏捷性も威力も段違いの足技がテレサを吹き飛ばす。
(「……このままじゃ、絶対に持たないね」)
 たとえ守りに徹しても、格上のデウスエクスから集中的に攻撃されては、数分と耐えられないだろう。
 レクトが撒くオウガ粒子の下で反撃の超高温レーザーやバスタービームが放たれるなか、蒼月は少しでも攻撃を逸らそうと敵の視線を遮る形で立って、氷結の螺旋を解き放った。

●二つの環
 それでもなお、テレーゼの猛撃はただ一人を狙い続ける。
 紅刃と巨鎚、アームドフォートの斉射を受けて身体に幾つもの傷を残し、凍てつく波と熱線で侵されながらも、庇いに入った蒼月を蹴り飛ばしてテレサに向かっていく。腕に込められた殺意が、唸りを上げる。
 だが、それは獲物を捉える寸前で止められた。
「目標、捕捉。罠設置、完了。行動、開始」
 機械的に言葉を継いで、レミが降らせるのは――金ダライ。
 原理は不明だが、確かに。ごわん、と金属の弛む大きな音がして、場の空気を一変させるような小道具がテレーゼの頭を叩いた。
 戦いにおける技というより、もはや『些細な悪戯』だ。
 けれど現出させた当人は至極真面目に、今が使い所だと断じて放った。
「やらせは、しない、です!」
 作戦成功のため。敵と浅からぬ繋がりがありそうな仲間のため。
 控えめながらも決意を込めた一撃は、思惑通りにテレーゼを怒らせる。
 ひたすらにテレサを追っていた目が、殺意はそのままにレミを睨めつけた。
「ラグナさん、今のうちに!」
「お任せ下さいませ! ……豊穣を司りし神々よ、我らに慈悲を与え給え!」
 狙いが逸れた間に、魔法の木の葉を生むレクトと息を合わせてラグナシセロが祈りを捧げる。新緑を撫でるように穏やかな風が吹き、テレサから消し飛ばされた不浄の代わりにヘルが力を注ぎ込む。
 精一杯の治癒だ。それ以上にどれほど癒やしを重ねたところで、残った傷は消えない。
(「それだけの攻撃力ということ……ですが、後に続く方々のためにも、必ず道を開かなければ――」)
「邪魔を、するなッ!!」
 レクトの思案はテレーゼの叫びで断ち切られ、眼前を金の髪が過ぎていく。
 僅かに遅れてきた弾丸が追撃の一射であると察したときには、もう為す術もなかった。
 攻撃を通してしまったことを悔やむ蒼月の声をかき消すように、続けざまもう一発。黒い円状兵器が吐き出した殺意、怒らせた代償をまともに喰らって、彼方に追いやられたレミが崩れ落ちる。
 守勢のテレサですら耐えかねる攻撃の、とりわけ強力な砲撃を僅かな間に――それも渾身のものとして叩き込まれれば、破壊に抵抗のない身体で立ち上がることは難しい。
(「これ以上は……」)
 己から強く望んだことではなくとも、己のために倒れた仲間を無下には出来まい。
 残る力を振り絞り、テレサは果敢にもまた接近戦を挑む。
 自身が厳しい状態にあることは確か。だが、敵の動きに衰えが見えることも確か。
 その証拠に、繰り出した蹴りはテレーゼの脇腹をしっかりと捉えた。
「っ……! 次こそ、お前を!」
「そうはいきませんよ」
 殺意の矛先を戻そうとする敵へ詰め寄って、今度は鶴来の巨鎚がしなる。
 静かに、しかし激しく、けれども的確に。寸前でまた加速する超鋼金属の塊がテレーゼを押し潰す。
 それを力づくで押しのければ、襲い来るのは降魔の力を宿した深紅の刃。
 仲間が一人倒れた事実と、強敵に相対する喜びが綯い交ぜになって、複雑な表情を浮かべたまま、スライは剣を振るって敵を裂く。
「小賢しい奴らめッ!」
 余裕がなくなってきたのか、苛立ちを露わにするテレーゼ。
 その醜態をあざ笑うように光ったテレビウムの顔が、燻っていた怒りに火をつけた。
 黒い環が狙いを定め、また幾つもの弾を撃ち出す。
「……あんまし、はしゃいだらあかんで」
 いつになく真剣な眼差しの髭面が、相棒の代わりに全てを受け止めて呟いた。
 合成音声が響き、反撃のレーザーがテレーゼを灼く。撃つたびに記憶の一欠片を失う技のせいで、最後の食事が昨日か一昨日かも定かではなくなっていたが、そんなことは些事。
 一挙に畳み掛けるべく、照彦は光線を熱から冷気に基づくものへと変える。戦いの中で幾度か放たれたそれはテレーゼの装甲を蝕み、一撃が一撃で済まなくなるほどにしていた。
「もう一息でございます!」
 ラグナシセロが声を張り、ヘルのブレスに合わせて雷を迸らせる。
 間髪入れずにレクトが空の霊力を帯びた槍で突き抜ければ、スライは線から黒点へと変わった死の標を穿ち、鶴来が冷静に引き金を引いて長銃から魔法光線を撃ち出す。
「私が、お前たち如きに!」
「はしゃいだらダメって、言われたのに」
 威勢を保ち続けた敵の芯を折るように囁いて、蒼月は氷結の螺旋を浴びせた。
「しまっ――」
 凍結したメイド服を、テレサの拳が貫く。
 操り手を失った黒い環が力なく垂れて、戦いの終わりを示した。

 テレーゼを退けたケルベロスたちは、休む間もなく砲台に攻撃を浴びせる。
 守るものがなければ置物だ。程なく破壊を終えて、レクトは信号弾を撃った。
 成功を示す緑の印。それが空に、幾つも上がっている。
 誰とはなしに深い息が漏れて、安堵の空気が広がった。
「さ、何か嫌な予感もするし帰ろう!」
 レミを起こしつつ蒼月が言えば、彼らの耳にはヘリオンの迎えに来る音が聞こえた。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月14日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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