載霊機ドレッドノートの戦い~道は手中に

作者:こーや

 口を開きかけた河内・山河(唐傘のヘリオライダー・en0106)は、風によって暴れる髪にそれを遮られた。
 ふぅと溜息を吐き、髪を抑えて仕切り直す。
「『弩級超頭脳神経伝達ユニット』と『弩級外燃機関エンジン』が回収されてもうたんは、皆さんご存知やと思いますけども」
 それらが載霊機ドレッドノートに転送されたということが、アルシェール・アリストクラット(自宅貴族・e00684)らの調査で判明したのだ。
 弩級兵装を載霊機ドレッドノートに組み込み、載霊機ドレッドノートを再び起動させる事が指揮官型ダモクレスの目的ではないかと山河は言う。
「『ドレッドノート』は弩級ダモクレスの代名詞です。それが動き出してしまえば、ケルベロス・ウォーの発動でしか対抗でけへんでしょう」
 弩級兵装の2つは完全に破壊、残る2つも大打撃を与えている。載霊機ドレッドノートがすぐに動き出すことは無いはず。
 だが――。
「コマンダー・レジーナは『弩級超頭脳神経伝達ユニット』を修復することができます。敵に時間を与えてしもうたら、ドレッドノートは本来の力を取り戻してしまいます」
 その為、載霊機ドレッドノートへの強襲作戦を行う。
 この作戦でどれだけダモクレス側へ打撃を与えられるかが、今後の戦いの趨勢を占うことになるだろう。
「今、ドレッドノートはダモクレスの軍団に制圧されています」
 ドレッドノートの周辺にはマザー・アイリスの量産型ダモクレスの軍勢が展開しており、ケルベロス・ウォーを発動でもしなければ攻め込むことは難しい。
 その為、ヘリオンからの降下作戦を行う必要があるのだが、敵もその対策を取ってきている。『ヘリオン撃破用の砲台』を設置してるのだ。
 この砲台を撃破すれば、ヘリオンによる強襲降下作戦で、ドレッドノートへの潜入が可能となる。
 潜入後の攻撃目標は4つ。
 ドレッドノートの歩行ユニットの修復を行っている、ジュモー・エレクトリシアンとその配下。この部隊を攻撃すれば、ドレッドノートの動きを阻害することに繋がる。
 2つ目は、『弩級外燃機関エンジン』。正確に言えば、自らを弩級外燃機関エンジンの一部とすることで必要な出力を確保しようとしている、ディザスター・キングの軍団。
 3つ目。『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の修復を行っている、コマンダー・レジーナとその軍団。
 最後の目標は、弩級兵装回収作戦で動きのなかった指揮官型ダモクレス。イマジネイター。ドレッドノートと融合しようとしているようだ。
 これについては、現時点での危険度は低い。
 しかし、ケルベロス・ウォーに敗北するようなことがあれば、自ら意志を持つ弩級ダモクレスが出現することになる。
 その可能性を考慮するのであれば、融合を阻止しておいた方がいいだろう。
「ややこしいですけど……5つの中から、選んでもらいたいんです。作戦成功の命運を握る、『ヘリオン撃破用砲台の破壊』か、4つの攻撃目標へ向かうか」
 それと、と山河は言い添える。
 作戦終了後、素早く撤退しなければ、敵の勢力圏に取り残されることになるので注意が必要だと。
 するり、山河は赤い唐傘を閉じた。
「今回の作戦は、ケルベロス・ウォーの大事な土台になる思うてください。……皆さん、どうかご武運を」


参加者
アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)
真暗・抱(究極寝具マクライダー・e00809)
萃・楼芳(枯れ井戸・e01298)
国津・寂燕(好酔酒徒・e01589)
伏見・万(万獣の檻・e02075)
百丸・千助(刃己合研・e05330)
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)
砂星・イノリ(ヤマイヌ・e16912)

■リプレイ

●駆ける
 ヘリオンから降下した、ケルベロス達はドレッドノートの中を直走る。
 機械仕掛けの内部は全体的に硬質で、足が床を蹴るごとに高い靴音を伴う。
「ドレッドノートさんの中……すごく広いです」
 アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)が呟けば、ハッと伏見・万(万獣の檻・e02075)が笑う。
「準備運動にャ丁度いいだろうよ」
「違いない」
 飄々とした態度を崩さず国津・寂燕(好酔酒徒・e01589)が軽口に応じる。
 そんな男達のやり取りに肩を竦めると、氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)はちらと視線を天井に向けた。
「こんなのが自由に動き回ってたなんて、ちょっと信じられないわね……」
 この巨大さだからこそ、外から見ても、内部を駆けている今もイマイチ実感がわかない。
 真暗・抱(究極寝具マクライダー・e00809)もぼそり。
「特撮モノの、領域ですね」
 次第に、周囲にネジが増えてきた。
 壁や天井など、そこら中にネジがささっており、何かの残骸まで転がっている。
 そして、奥に複数の意志持つ機械。
 背負っていた銃を手に移し、萃・楼芳(枯れ井戸・e01298)は足を止めることなく銃口を目標に定めた。
「機械仕掛けというのがいかにもダモクレスらしいが――竜退治といこうか」
「へへっ、燃えてくるぜ!」
 楼芳が放った凍結光線を追うように、百丸・千助(刃己合研・e05330)は床を滑る。
 ケルベロス・ウォーの土台ともいえる責任重大な作戦。その戦場で、強敵と戦えるというだけで千助の心は踊り、幼さの残る緑の目が爛々と輝く。
 光線の着弾と同時に。千助は天井すれすれまで跳びあがった。煌きを宿した脚が、ダモクレス――ドラゴン・クイーンの脳天に叩き込まれる。
 ドラゴン・クイーンは苛立たし気に首をもたげた。キュルルル、甲高い駆動音が響き渡る。
「侵入を許すナど……砲台は何をやっテいるのでスか」
「あなた達が対策してくるなら、わたし達もそうするだけよ」
 サッとかぐらが手を振れば、小型治療無人機が群れを成し、前衛めがけて飛ぶ。
 砂星・イノリ(ヤマイヌ・e16912)がドローンを見たのは一瞬。すぐに目を閉じ、喉を震わせた。
「繋いで、繋げて」
 降魔の技をもって、ダモクレスの魂の一部を喰らう。
 覚悟を秘めたイノリの青い瞳が強く煌いた。
 アリスはふっと短く息を吐くと、虹の花々で彩った三日月の弓を握る手をドラゴン・クイーンへ向けた。
 遂に動き出そうとするドレッドノート。その歩行ユニットを、少しでも多く破壊しなくては。
「貴方達を撃破して……ドレッドノートさんを止めます。必ず……!」
 半透明の『御業』がダモクレスの喉を掴む。
 ドラゴン・クイーンはそれをふるい落とすべく全身を震わせた。
「汝、輝かぬ瞳よ、我に従え。三つ首の魔犬に光を捧げよ」
 自身の持つ抱き枕カバーから資格情報を得た抱は、その抱き枕を上半身に纏う。ライダースーツのお陰で、抱き枕に穴を開けずに腕を動かせるとかなんとか。
 それはさておいて。
 ドラゴン・クイーンと相対する八人同様、残りの二体の護衛にも他の班が戦闘を仕掛けている。
 すなわち、ネジクレスを守る盤上の駒が抑えられたということ。
 ネジクレスを目指す班に向け、抱が叫ぶ。
「行け!」
「承知!」
 得物を構えたネジクレス班が駆けていく。
 それを横目で見送った万は獰猛な笑みを浮かべた。
「さっさとスクラップにしてやるとするかァ!」

●掛ける
「分断されタ……? こレはいけまセんね。一刻モ早く、貴方々を壊さナくては」
「その言葉、そっくりそのままお前さんに返すよ」
 寂燕の刃が弧を描いた。鬼の哭き声めいた風切り音が響く。
 飄々とした態度は僅かに崩れ、片眉が吊り上がっている。
 ケルベロス・ウォーの前哨戦だ。片せる敵は片しておきたいところだ。
 ぐおっと、質量の大きさを感じさせる音と共にドラゴン・クイーンの尻尾が持ち上がった。
 それを見たミミック『ガジガジ』は即座に床を蹴り、抱の前に割って入る。
 重々しい、熱を持たない尾が振るわれ、前衛が薙ぎ払われた。
 イノリはくるり、宙で姿勢を整えるとネジの上に降り立つ。
 青い瞳が片時もダモクレスから離されることは無い。静かに、相手を探るように見据えられている。
 そのポケットの中にはカメラ。これが役に立つかどうかは分からない。
 少しでも情報を手に入れれば、仲間の助けになるかもしれない。その思いで、彼女は動く。
 何故ならば。
「……ボクは犬だから、群のために出来ることをしたいんだ」
 ともすれば機械音にかき消されそうな呟きを拾い上げたのは、かぐらただ一人。
 そのかぐらは長い黒髪をなびかせ、くすりと笑った。
「ワンフォーオール、オールフォーワンって言うじゃない」
 最前に立つ仲間に加護を与えるべく、かぐらは再びヒールドローンを飛ばす。
 ただでさえ複数を対象としたものは加護を与えにくいというのに、前衛は四人と二体。なかなか『盾』を与えることが出来ないでいるが、それも承知の上だ。
「まァアレだ、回復は任せとけ。やるッつッた仕事はキッチリやるさァ」
 万の精悍な体を流体金属が覆い、粒子を飛ばす。
 それと共に、鼻を刺す香りが。抱は眉を顰めた。
「……この匂い、酒か?」
「あァ? 消毒だ消毒!」
 万の言葉にやれやれと息を吐く抱。体内のグラビティ・チェインをガントレットに乗せ、ダモクレスの体に叩きつけた。
 ギィィィン! 金属と金属がぶつかったことにより、耳障りな音が鳴る。
 ぐらついた体を立て直すと、ダモクレスは黙れとばかりに前足で床を叩いた。
「ごちゃごちャと喧しいこトこの上ナい。少シはオ黙りなサい」
「五月蠅いのはどっちだ」
 楼芳がぼやく。
 ドラゴン・クイーンは動くたびに、キュルルルと駆動音を立て、背中のネジをギリギリと鳴らしている。
 それもそうだとばかりに千助は快活に笑った。
 ひとしきり声を漏らした後、ニッと敵へ視線を向け、走る。
「機械のことはよく分かんねえけど、とにかくぶっ壊せばいいんだろ!」
「……そうだね。うん、壊そう。それが、今一番大事なことだよね」
 空の霊力を帯びた刃が、火花を散らす伝導体の間に差し込まれる。
 センスケが離れるやいなや、イノリの電光石火の蹴りが炸裂した。
 さらに大きな火花が上がる。
 ギィとドラゴン・クイーンが首を巡らした頃には、二人共距離を取っている。
「♪Flowery Princess Heart Style♪――チェンジ・ハートスタイル…!――♪Heart Strike♪」
 代わりに目にしたのは、魔法音声と共に変身したアリスの姿。
 攻撃的なスタイルから繰り出された一撃はダモクレスの顎を打ち、その体をのけ反らせた。
 タンッ、と着地したアリスは幼い容貌に見合わぬ毅然さで言う。
「貴方達ダモクレスさんに……侵攻はさせません!」

●駆ける
 ダモクレスの背中が割れた。露出したミサイルポッドから、バシュゥゥと音を立て無数のミサイルが飛び立つ。
 ライドキャリバー『黒雷』は激しいモーター音を立て、雨のように降りかからんとするミサイルから万を逃がすべく体当たりを仕掛けた。
 着弾したミサイルはダダダダダダダと床を響かる。一瞬だけ上がった白煙が晴れれば、床が焦げ、折れたネジが見えた。
 それらに一切構うことなく、楼芳はドラゴン・クイーンとの距離を詰める。
「どんなに強き者であっても、心淵に勝ることはできないのだ」
 後方から一足、二足と駆けるうちに『デウスエクス・ドラゴニア』を模した姿へと変わっていく。
 本来よりも大きな体で、圧し潰さんとばかりに楼芳はダモクレスに伸し掛かった。
 壁に叩きつけられ、強かに体を打ったドラゴン・クイーンは後ろ足と尾を駆使して楼芳を押し返す。
 ガアアアアッ、それまでになかった荒々しさでダモクレスは咆えた。
 その様子でかぐらは己の手を選びなおす。
 前衛全員どころか半数にも『盾』を与えるに至ってはいないが、ボクスドラゴン『ウル』と万により回復は充分に足りている。足りなくなったとしても、その時の備えをかぐらは抜かりなく整えている。
 このまま『盾』を与えるべく粘るよりも、攻撃に回るべきだ。
 瞬時に極限まで精神を研ぎ澄まし、見据えた敵を爆破する。
 爆発と共にばらばらと散る機械片の隙間を縫い、抱は気脈を絶つべく腕を伸ばす。
「小癪ナ」
 それをドラゴン・クイーンは尾で払いのけた。
 万が荒々しく突き出した拳から満月に似たエネルギー球が放たれる。飛び退く抱と入れ替わるようにエネルギー球は宙を駆けあがった。
 軽やかにネジから跳びあがったイノリがエネルギー球を受け、ぐるんと体を捩る。見る間にオウガメタルがその身を覆う。
「行くよ、クルーン!」
 腰を捻り、限界まで振り上げた拳が背中に叩き込まれた。
 金属片と共にいくつものネジが弾け飛び、バチバチとさらなる火花が上がる。
 千助は降り注ぐ熱をものともせず、霊力を帯びた刀にさらなる霊力を纏わせた。
 それによって長大な、光る透明な剣が生まれる。
「全開でいくぜ!! ――舞え、朱裂!!」
 胸に大きな一文字が刻まれた。
 ドラゴン・クイーンの体が傾ぐ。けれど、ダモクレスは床を握りつぶしながらも堪えて見せた。
 傷が刻まれた胸部を変形させ、発射口を出現させる。
 強力な光線が寂燕を狙うも、かぐらがそれを許さない。
 立ちはだかったかぐらが己の固定砲台で寂燕の体を薙いだ。光線に焼かれるかぐら。
 男は前へと進むその勢いを欠片も無駄にはしなかった。
「私ガ、壊れ……? 壊サ、れ……? あ、あアアアあああ!」
「所詮、お前さんは我楽多だったってことだ」
 嘲笑めいた言葉。
 寂燕の白刃を受け、数多の部品を撒き散らしながらドラゴン・クイーンは崩れ落ちた。
 ガラララ。ドシャアァ。パチチ。
 何種類もの音が混在する中、最後までキュルルルと回っていたネジがゆっくりと動きを止めた。
 アリスはさっと視線を巡らせる。
「他の班の皆さんは……」
 ヒューマン・ポーンが倒れるのは先ほど見えた。ビルディング・ルークはまさに今、沈もうとしている。
 一足先に戦闘を終えたヒューマン・ポーン班から声がかかる。
「それでは皆さん、私達が殿を務めますので、さっさとここからおさらばしちゃいましょう!」
 ネジクレスも、間もなく。
 それならば彼らの言葉に甘え速やかに撤退するべきだと判断した八人は走り出した。
 来た道を辿り、戻っていく。
 駆けながら、イノリは懐のカメラを握りしめた。
 手に入れた情報が有益な報告となるかどうかは分からないが――仲間の助けとなることを祈って、ドレッドノートの中を走るのであった。

作者:こーや 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月14日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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