載霊機ドレッドノートの戦い~強襲するは我にあり

作者:土師三良

●音々子かく語りき。
「弩級兵装回収作戦を阻止するために奮闘していただき、ありがとうございました。弩級高機動飛行ウィングと弩級絶対防衛シールドは完全破壊。弩級超頭脳神経伝達ユニットと弩級外燃機関エンジンは回収されてしまいましたが、ある程度のダメージを与えることはできました。第一ラウンドはこちらの勝ちですねー」
 ヘリポートに集まったケルベロスたちの前でヘリオライダーの根占・音々子がファイティングポーズを取り、空にパンチを放ってみせた。
「でも、敵はすぐにでも第二ラウンドを始めるつもりのようです」
 へっぴり腰のシャドーボクシングをやめて、音々子は本題に入った。
「黒住・舞彩(我竜拳士・e04871)さんたちの調査の結果、ユニットとエンジンの転送先が載霊機ドレッドノートであることが判明しました。おそらく……いえ、間違いなく、指揮官型ダモクレスたちの目的は、ドレッドノートに弩級兵装に組み込んで再起動させることでしょう」
 ユニットとエンジンがダメージを被っているため、ドレッドノートが今すぐに再起動することはない。
 しかし、あくまでも『今すぐ』の話だ。いずれは動き出すだろう。
 そうなったら、ケルベロス・ウォーを発動しない限り、人類は対抗できない。
「そういうわけなので、ドレッドノートへの強襲作戦がおこなわれることになりました。ケルベロス・ウォーは避けられないかもしれませんが、この強襲作戦の結果によっては、こちらに有利な状況で決戦を迎えることができるはずです」

 現在、ドレッドノートは六体の指揮官型ダモクレスとその軍団に修復/警備されている。ドレッドノートは巨大、指揮官型ダモクレスは強大。しかも、周辺には多数(それこそケルベロス・ウォーを発動しなければ対処できないほどの数だ)の量産型ダモクレスが展開している。闇雲に攻めても再起動を阻止することはできないだろう。
「そこで攻撃目標を五つに絞りました。その中から一つを選んでください。第一の目標は、踏破王クビアラが設置した八つの砲台です。それらの砲台は対ヘリオン用の厄介なものでして、最初に破壊しておかないと、後続チームのヘリオンが撃墜されちゃうかもしれないんですよー」
 砲台破壊の流れはこうだ。まず、砲台直上でヘリオンから降下。空中でヘリオンへの攻撃を防ぎつつ、砲台に取り付く。そして、砲台の操作と守護をしているクビアラ軍団のダモクレスを倒し、砲台を破壊する。

「第二の目標は、ジュモー・エレクトリシアンの軍団です。エレクトリシアンたちはドレッドノートの歩行ユニットの修復をおこなっているんですよ。ウィングが壊されて飛べなくなったもんだから、てくてく歩かせるつもりなんですね。現段階でのドレッドノートの歩行速度は時速100kmほどですが、エレクトリシアンたちを叩けば、もっと遅くすることができるでしょう。上手くいけば、時速ゼロ――つまり、歩行不能にできるかもしれません」
 エレクトリシアンの軍団は四つの部隊に分かれて修復作業をおこなっている。各部隊はリーダーのダモクレスと三体の護衛で構成されているため、ケルベロスは三つか四つのチームで対処することになるだろう。ただし、エレクトリシアン自身が率いる部隊は護衛の数が多いので、倍以上の戦力が必要だ。

「第三の目標は、弩級外燃機関エンジンを守るディザスター・キングの軍団。キングたちは自らを弩級外燃機関エンジンの部品として連結し、必要な出力を確保しようとしているようです。残念ながら、弩級外燃機関エンジンを完全に止めることはできません……でも、軍団員たちを倒せば、その分だけ出力を落とすことができます!」
 再起動したドレッドノートは弩級外燃機関エンジンから供給されるエネルギーを利用して、戦闘用ダモクレスを次々と生み出していく。つまり、弩級外燃機関エンジンの出力はケルベロス・ウォー時の戦闘用ダモクレスの数と戦闘力に直結するということだ。

「第四の目標は、ドレッドノートの脊髄部分に陣取っているコマンダー・レジーナの軍団です。レジーナたちがおこなっているのは弩級超頭脳神経伝達ユニットの修復作業。もし、その作業が完了してしまったら、ケルベロス・ウォーにおける危険度が大幅に上昇すると思われます。ドレッドノート自身がでっかい体を制御して、ものすごいパンチとかを繰り出してくるでしょうから」
『ものすごい』どころではない。ドレッドノート級の殴打ともなれば、直径数kmのクレーターができあがる。しかも、その殴打で殺害した人間たちのグラビティを奪うことでドレッドノートはより強い力を獲得し、更に殴打してまたグラビティを奪い……と、半永久的に破壊活動をおこなうことが可能なのだ。

「最後の目標は、弩級兵装回収作戦で動きのなかったイマジネイターの軍団です。イマジネイターは、自らがドレッドノートの意志となるべく、融合を試みようとしているようです。現時点での危険度は低いですが、万が一……」
 その先を言い淀む音々子であったが、ケルベロスたちは察した。
 万が一、ケルベロス・ウォーで人類側が敗北するようなことになったら、自らの意志を持つ弩級ダモクレスが出現するのだ、と。
「……いえいえ、万が一なんてことはありませんよね」
 音々子はかぶりを振り、自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
 そして、戦いに挑むケルベロスたちの顔を見回すと、またシャドーボクシングの真似事をしてみせた。先程よりも動きに切れがある。
「敵も必死でしょうが、負けるわけにはいきません。いえ、負けるはずがありません! 皆さんなら、絶対に勝てます!」


参加者
月隠・三日月(死塗れの守り人・e03347)
空鳴・無月(宵闇の蒼・e04245)
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
ピリカ・コルテット(くれいじーおれんじ・e08106)
レスター・ヴェルナッザ(凪の狂閃・e11206)
早乙女・スピカ(星屑協奏曲・e12638)
久保田・龍彦(無音の処断者・e19662)
バジル・サラザール(猛毒系女士・e24095)

■リプレイ

●土は土に
 載霊機ドレッドノートの構内を数十人のケルベロスが行く。
「対クビアラ班の皆さんが砲台を壊してくれおかげで、無事に侵入することができましたが――」
 足を止めることなく呟いたのはオラトリオの早乙女・スピカ(星屑協奏曲・e12638)。普段は穏やかな空気を漂わせている彼女ではあるが、今日は瞳に闘志を燃やしていた。
「――私たちにとっては、ここからが本番ですよね。気を引き締めてかからないと」
「はいっ!」
 同じように闘志の炎を瞳に宿して、ピリカ・コルテット(くれいじーおれんじ・e08106)が力強く頷いた。
「正直、今回の任務の内容はややこしくてよく判らないんですけど、ようは不法占拠している汚物どもを消毒すればいいんですよね!」
「不法占拠っていうのはちょっと違うんじゃないの? ここはダモクレスの縄張りなんだから」
 シャドウエルフのバジル・サラザール(猛毒系女士・e24095)が苦笑を浮かべて、『ダモクレスの縄張り』に視線を巡らせた。
「それにしても、あいかわらず大きくて広いところね」
「これだけ大きけりゃあ――」
 と、久保田・龍彦(無音の処断者・e19662)も周囲を見回した。
「――壊し甲斐があるってもんだ」
「そうね。内側から食い破ってやりましょう」
 やがて、一行は目的の場所に到着した。歩行ユニットの一画。大小様々なネジが天井や壁や床に突き刺さり、機械の残骸とも生物の死骸ともつかぬものがいくつも転がっている不気味なエリア。
 そこには異形のダモクレスたちがいた。
 ネジクレスと三体のネジクレスロイドだ。
 彼らが修復作業の手を止め、こちらに視線を向けてくると――、
「目標確認、討伐に当たります」
 ――鎧装騎兵の少女が言い放ち、チームの面々とともに攻撃を仕掛けた。標的はビルディング・ルーク。
「行け!」
 と、スピカたちに叫んだのは、ドラゴン・クイーンに狙いをつけたチームのメンバー。
 そして、第三のチームも既にヒューマン・ポーンに襲いかかっていた。
「そっちは任せたぞ。こちらは私たちに任せろ」
「承知!」
 喪服姿のヴァルキュリアの言葉に答え、月隠・三日月(死塗れの守り人・e03347)が得物を構えて走り出した。
 仲間たちとともに。
 ネジクレスに向かって。

●灰は灰に
「無駄にデカいこのガラクタが歩き出す前に――」
 人派ドラゴニアンのレスター・ヴェルナッザ(凪の狂閃・e11206)がケルベロスチェインを無造作に足下に垂らし、彼自身を含む前衛陣にサークリットチェインの恩恵を与えた。
「――巻かれたネジを引っこ抜いておくか」
「うむ。引っ抜いてやろうぞ。しかし、肝心のネジクレスはどこにおるのじゃー?」
 メタリックバーストで前衛陣の命中率を上昇させながら、ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)がきょろきょろと辺りを見回した。
「見えないの? ほら……あそこ……」
 ウィゼの言葉を真に受けた人派ドラゴニアンの空鳴・無月(宵闇の蒼・e04245)がゲシュタルトグレイブの『夜天鎗アザヤ』を突き出し、前方を指し示した。その主人の動作に合わせるかのように、ヒールドローンたちが前衛陣の守りを固めていく。
「おおう? そんなところにおったのか!」
 とっくの昔に視認していたネジクレスを改めて見やり、ウィゼはわざとらしく驚いてみせた。
「背景に紛れていたから、気付かなかったったのじゃー」
 紛れるほどではないにせよ、ネジクレスの姿はこの不気味な区画によく馴染んでいた。
 ネジマキのような形をしているのだから。
 もちろん、普通のネジマキではない。大きさは人間ほどもあり、宙に浮かび、歯車や鎖が組み込まれている。おまけに髑髏めいた顔まで付いていた。
「キシシシシシシッ!」
 髑髏の口元から耳障りな音が漏れた。笑い声のようにも聞こえるが、どうやら、歯ぎしりらしい。
「図に乗ルなよ、ケルベロス! このネジクレス様の邪魔立てヲして、たダで済むと思っ……」
 言葉の後半は爆発音にかき消された。
 ピリカが爆破スイッチ(カラフルな星形のシールにまみれていた)を押して、ブレイブマインを発動させたのだ。
 その爆発音が消えぬうちに二度の砲声が轟いた。龍彦と三日月の轟竜砲。前者のそれはブレイブマインで威力が上昇している。
 そして、三つの爆音に負けないほどの大音声を発して――、
「貴方こそ、ただでは済みませんよ!」
 ――スピカがゲシュタルトグレイブで稲妻突きを放った。
「キシシシシ!」
 歯ぎしりして後退するネジクレス。
 だが、ただ間合いを開けたわけではない。
 次の瞬間、ケルベロスの前衛陣は反撃を受けていた。
 全方位から無数の礫を浴びせられるという形で。
「くそっ! やりやがったな、ねじまき野郎!」
 龍彦が悪態をついた。咄嗟にスピカを庇ったため、他の者よりも多くのダメージを被っている。
「大丈夫?」
 バジルが声をかけ、ライトニングウォールで龍彦たちを癒すと同時に異常耐性を付与した。
「あんまり大丈夫じゃねえが……まあ、おかげで敵の攻撃法は判った」
 龍彦は傷口の一つから礫を抉り出した。その正体はネジ型の弾丸。いや、ネジそのもの。壁や床に突き刺さっていたネジが凄まじい勢いで噴出されたのだ。
「ここの悪趣味な装飾は武器を兼ねてたらしい。でも、奴さんが操れるネジは近距離にある物に限られるんじゃねえかな。でなけりゃ、この区画内のネジを一斉に撃ってるはずだ」
 ダメージを代価に得た情報を龍彦が仲間たちに伝えていると、頭上から雨が降ってきた。
「皆さんがどんなにネジネジされようとも、私がヒールしちゃいますよー!」
 ピリカのメディカルレインだ。
 一方、ネジクレスにも雨が降り注いでいた。ただし、こちらは槍の雨。スピカがゲイボルグ投擲法で攻撃したのである。
 二種の雨が止むや否や、無月がネジクレスに突き進んだ。体に張り付いていたメディカルレインの滴を飛び散らせて。
「……凍てつけ」
 静かな言葉とともに『夜天鎗アザヤ』から繰り出されたグラビティの名は『凍波槍(トウハソウ)』。満点の星空を思わせる色合いの刃が冷気を帯び、ネジクレスを抉り抜く。
 ほぼ同時にウィゼのエアシューズもネジクレスを抉っていた。ただの蹴りではなく、地裂撃だ。
 敵の横手に回り込んでいる者たちもいた。ボクスドラゴンのプリムとコラスィ。二匹は左右からボクスブレスを浴びせ、ジグザグ効果で状態異常を増加させた。
 そして、レスターが追撃を加えた。
「玩具の兵隊にしちゃ、凶悪だな」
 竜の骨で作られた鉄塊剣『骸』を力任せに叩きつける。
「鉄屑にバラしたほうがまだ可愛げがあるんじゃねえか」
「キシシシシ! 黙レ、虫ケラどモ!」
 歯ぎしりに怒声が続き、更に金属が軋む音が続いた。発生源はネジクレスの背中。そこに組み込まれていた歯車の一つが分離して宙を舞い、レスターに襲いかかった。
 しかし――、
「……」
 ――巨大な歯車に斬り裂かれながらも、レスターは無言。表情も変わらない。もとより、攻撃を受けることは覚悟していたのだ。先程の攻撃は、怒りを付与するデストロイブレイドだったのだから。
 その怒りのせいか、あるいはレスターの超然とした態度に刺激されたのか、ネジクレスはヒステリックに喚き散らした。
「キシシシシ! 許サん! もう許さンゾ! 貴様らのうチの何人かはネジクレスロイドの素体にしテやってモいいと思ッてイたが……こウなっタら、皆殺しだ!」
「そいつぁ、無理だな。おまえさんにゃあ、一人も殺せやしねえ。いや、殺させやしねえ。俺たちは、絶対、全員で、帰る!」
 龍彦がブラッドスターを歌い始めた。自分を含む前衛陣を癒すために。
「そうだ。死ぬ気で挑んで――」
 三日月がゲシュタルトグレイブの切っ先をネジクレスに向けた。すると、そこからなにかが放たれたわけでもないのに、ネジクレスの頭蓋骨の横で小さな爆発が起きた。サイコフォースだ。
「――生きて戻る!」
「死ぬ気で挑むのはいいけど、あまり無理はしないでね」
 三日月のポースを真似るかのようにバジルがライトニングロッドを構えた。その先端からエレキブーストが飛び、レスターに命中する。共鳴効果を有するウィッチオペレーションも用意してきたのだが、この段階ではまだ必要ないと判断し、攻撃力の上昇を伴うエレキブーストのほうを選んだのだ。
「キシシシシ!」
 ネジクレスの歯ぎしりが響き、またもやネジ弾の群れが飛んだ。
 だが、ケルベロスには一発も命中しなかった。それらはネジクレスのもとに飛び、彼の傷口を塞いだ上に装甲を強化したのだから。攻撃ではなく、ヒールにも使えるらしい。
「どうダ、ケルベロスども? コの鉄壁の守りガ破――」
「――ってみせる」
 無月がネジクレスの言葉に割り込み、稲妻突きで攻撃した。

●塵は塵に
 ケルベロスの猛攻に圧されるネジクレスロイドたち。
 そして、最初の戦闘開始から七分ほどが過ぎた頃――、
「これで終わりだ。あばよ」
 ――ポーンが討たれた。眼鏡をかけた剣士によって。
 その剣士の声は、ネジクレスとの戦いがおこなわれている場所にも届いていた。
「ええい、役立たズの木偶人形め! キシシシシ!」
「すぐに……貴方も……後を追う……ことになる」
 歯ぎしりするネジクレスに無表情で絶空斬を浴びせる無月。
 その後方で爆発が起きた。ピリカによる数度目のブレイブマインだ。
「カラフル爆発でテンションあげあげですっ!」
「では、テンションがあがったところで――」
 ヴィゼが攻性植物からカボチャをもぎとり、ネジクレスに向かって放り投げた。
「――季節はずれのハロウィンといくかのう!」
 今度はネジクレスの目の前で爆発が起きた。件のカボチャは『愛くるしい悪夢に満ちた南瓜爆弾(ハロウィンボム)』なる兵器だったのだ。しかも、ただ爆風でダメージを与えるだけではなく、トラウマの幻覚を呼び覚ます代物である。
「ビ、ビショップ? 貴様は死んダはず!?」
 ネジクレスの眼窩の奥の光が激しく点滅した。どうやら、弩級兵装回収作戦で死んだビルシャナ・ビショップの幻覚が見えているらしい。
 いや、ビショップだけでなく――、
「――ポーンまで! おのレぇ、迷っタか!」
 恐怖と動揺が混じった怒声を発して、ネジクレスはネジ弾を乱射した。自分にしか見えぬ幻影の攻撃を受けながら。
「なるほど。こいつにとっての恐怖は、飼い犬ならぬネジ犬たちに手を噛まれることか。情けない野郎だぜ」
 龍彦がヤドリギで空中に魔法陣を描き、『宿り木の守護』を発動させた。
「裏切られるのが怖いから、ネジクレスロイドにしたのか。ネジクレスロイドにしたから、裏切られるのが怖いのか……どちらにせよ、哀れな輩ですね」
 スピカがネジクレスに突進した。ネジ弾で被った傷の大半は消え、状態異常も消えている。『宿り木の守護』がもたらした効果だ。
「蒼き炎よ、かの者の罪を焼き払え」
 間合いを詰めたところで『火蒼(カソウ)』の呪文を詠唱するスピカ。その名のとおりの蒼い炎が燃え上がり、『哀れな輩』を包み込んだ。
「ギィィィィィーッ!?」
 ネジクレスの絶叫が構内に響き渡る。
 その後もケルベロスはネジクレスロイドたちに猛攻を加え続け――、
「ギ、ギギギ…………!!」
「私ガ、壊れ……? 壊サ、れ……? あ、あアアアあああ!」
 ――ルークとクイーンが立て続けに沈んだ。
 残るはネジクレスのみ。
「ほれ、おまえもさっさと退場しな。こちとら、いつまでも相手をしちゃいられないんだ」
 レスターの『骸』が唸りをあげ、デストロイブレイドが叩き込まれる。
「この後、どでかい戦いが待ってるんでな」
「キシシシシ!」
 聞き飽きた歯ぎしりの音とともにネジの群れがまた飛んだ。レスターたちではなく、ネジクレスに向かって。先程も披露した治癒(修復?)のグラビティだ。
「悪あがきはやめろ!」
 と、叫んだのは三日月。ネジ群が空中に刻んだ鈍色の残光の間を飛び跳ねるようにして死角に回り込み、突き技の『兎月(トツキ)』を繰り出す。
「キシッ……!?」
 ネジクレスの歯ぎしりが途切れ、体勢が崩れた。ネジで補強された装甲の幾つかが剥がれ落ちていく。『兎月』にブレイクされたのだ。
 そして、三日月が飛び退ると同時に――、
「どっかーん、ですっ!」
 ――ピリカがまた爆発を起こした。ただし、おなじみのブレイブマインではなく、ファイアーボールである。
 回復役から攻撃役に転じたのは彼女だけではない。
「錆びつかせてあげる」
 バジルがネジクレスの懐に飛び込み、手刀でシャドウリッパーを見舞った。
 数瞬の間も置かずに光の刃が逆袈裟に走る。龍彦がマインドソードで斬りつけたのだ。
 両者は攻撃の勢いを殺すことなく、左右に離脱した。
「とどめじゃ!」
 ウィゼがライトニングロッドを振り下ろした。
 その先端から電光が迸る。
 龍彦とバジルが描いたX字型の軌跡の中心に向けて。
 ネジクレスの顔面に向けて。
「ジュムォ……」
 ネジクレスが言葉らしきものを吐き出した。『らしきもの』にとどまったのは、開けた口の中に電光が飛び込み、裏側まで突き抜けたからだ。
 雷光が消えると、ネジクレスの顔面から亀裂が放射状に広がり始めた。その亀裂を追うようにして、体色も変化していく。錆のような赤茶色に。
 そして、全身が亀裂と赤茶色に覆われた瞬間、彼の体は砂のように崩れ落ちた。
「ネジクレス、討ち取ったりぃ!」
 ウィゼが勝ち鬨をあげた。
 ネジクレスのなれの果てである砂山を見据えて。

「それでは、皆さん。私たちが殿を務めますので、さっさとここからおさらばしちゃいましょう!」
 皆にそう告げたのは、紅い剣を携えた少女。ポーンを倒したチームの一員である。
 彼女の言葉に従い、ウィゼたちはその場を後にした。
「ネジクレス……弱くはなかったが、強敵というわけでもなかったな」
 走りながら、レスターが呟いた。
 その横を行くスピカが頷く。
「はい。もっと手こずるんじゃないかと思ってました」
「たぶん、一人で戦うことに慣れてなかったんでしょうね」
 と、バジルが言った。
「ネジクレスロイドを生み出して使役することには長けていたのかもしれないけど……」、
 もし、敵一体につき一チームという配分で臨むことができなければ、ケルベロスは苦戦を強いられていたはずだ。その場合、ネジクレスは後方に控え、ネジクレスロイドたちの指揮を取っていただろうから。
「なんにせよ、三日月さんが望んでいたように――」
 と、ピリカが三日月に話しかけた。
「――『死ぬ気で挑んで生きて帰る』ことができましたねっ」
「うむ。だが、これで終わりというわけではない」
 そう、まだ終わってはいない。
 レスターがネジクレスに言ったように『どでかい戦いが待って』いるのだ。
 ケルベロス・ウォーという名の戦いが……。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月14日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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