怪奇、激走する輪入道!

作者:なちゅい

●だんじりならぬ輪入道……?
 大阪府岸和田市。
 この地で有名なのは、だんじり祭り。例年9月の開催と言うこともあり、時期にはまだまだ遠い。
 そんな岸和田で、密かに囁かれる噂話がある。なんでも、郊外の府道で輪入道が疾走しているという、とんでもない話だ。
 輪入道といえば、古くから伝えられている妖怪の一種。馬車、牛車の車輪が大きくなったものに炎が纏い、その中心に男性の頭がついているというもの。こんなものが実際にいれば、噂話ではすまないのだろうが……。
「誰かが見たからこその噂話ちゃうんかい」
 そう主張するのは、地元の中学生、片桐・昴。彼は自転車で郊外の府道を走り、その存在を確かめようとしていた。
 だが、その日も見つけることはできなかった彼は自転車を止め、暮れ行く夕日を眺める。
「ま、そう簡単に見つかるわけないわな」
 探索を諦めて帰路に着こうと、ペダルに足を乗せた彼の後ろにいつの間にか、ボロボロの黒い衣装を纏い、ひどく病的な肌をした魔女が立っていた。
「あなたの『興味』、とても興味があります」
 魔女は大きな鍵で片桐の胸を穿つ。何が起こったのかすら分からず、彼はその場に崩れ落ちてしまう。
 そばに伸びる触手のような手は、淡いモザイクに包まれている。それを操る魔女はドリームイーター……第五の魔女・アウゲイアスだ。
「やはり、モザイクは晴れませんか」
 苦笑するアウゲイアス。ほぼ同時に、倒れる片桐のそばから、燃え上がる大きな車輪のようなものが現れた。
 それは、輻(や)……自転車のタイヤでいうスポーク部分がモザイクに覆われており、車輪の中心には大きな男性の頭が付いていた。
「誰か答えよ。我は何ぞ……?」
 そいつは、不気味な声を上げながら、道路を疾走していく。それを見届けたアウゲイアスもまた微笑みながらも、いずこともなく姿を消したのだった。

 少しずつ暖かくなってきた春の日。
 ひなたぼっこをしながら、ビルの屋上のベンチに座っていた、リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)。彼女はケルベロス達がやってきたのを足音で察し、そちらへ視線を送る。
「ようこそ、来てくれて嬉しいよ」
「大阪府道を、輪入道が……激走すると、聞きました」
 挨拶もそこそこに、唯織・雅(告死天使・e25132)がゆっくりとした口調で話を切り出す。
 リーゼリットは頷き、説明を始める。
「うん、でも、それは巷で出回っている、根も葉もない噂でしかないよ」
 そして、その存在の有無を確かめようとした男子中学生がドリームイーターに襲われ、その『興味』を奪われる事件が起こってしまう。
 奪われた『興味』を元にした怪物型のドリームイーターが実在化している。この夢喰いが事件を起こそうとしているようだ。
「『興味』を奪ったドリームイーターは姿を消しているよ。今は新たな被害が出る前に、現れた怪物形のドリームイーター討伐を優先したいね」
 このドリームイーターを倒す事ができれば、『興味』を奪われてしまった被害者も、目を覚ますはずだ。
 ドリームイーターに襲われるのは、地元の男子中学生で、名は片桐・昴という。
 夢喰いに襲われて『興味』を奪われた片桐は郊外の府道上で倒れており、昏睡状態にある。無事にドリームイーターを倒した後で介抱してあげたい。
「『興味』から生まれた怪物型ドリームイーターは、街の郊外、大阪府道230号線上を疾走していると言う話だね」
 現れる輪入道のドリームイーターは1体だけで、配下などはいない。
 元々が燃える馬車や牛車の車輪のようなものの中央に、大きな男性の頭が付いた化け物であり、さらに頭以外の車輪の内部がモザイクに包まれているので、すぐにドリームイーターだと分かるはずだ。
「ドリームイーターは、輪入道についての噂話についての発言があると、それを語る人の方へと引き寄せられる性質があるよ」
 これを利用することで相手を誘い出し、有利に戦うこともできそうだ。
 また、このドリームイーターは、人間を見つけると『自分が何者であるかを質問してくる』らしい。返答によっては、夢喰いは相手を殺そうとするようだ。
「このこともあるから、一般人にとっては危険な存在だね。でも、ケルベロスの皆としては、敵を引きつける手段ともなるかもしれないよ」
 戦いとなれば、ドリームイーターはその身での突撃、身を纏う炎で攻撃を行う。また、モザイクを飛ばして相手の『興味』を奪ったりして攻撃してくることもあるようだ。
 リーゼリットは説明を終えて、ゆっくりと立ち上がる。
「ごめんね。この事件の大本となるドリームイーターは、未だ所在がつかめていないよ」
 直接、その夢喰いを討伐したいのは山々だが、今は危機が迫っている少年の救出、そして、現れたドリームイーターの対処が先だ。
「では、行こうか。新たな被害が出てしまう前に」


参加者
安曇・柊(神の棘・e00166)
アイリス・フィリス(ガーディアンシールド・e02148)
久遠・征夫(静寂好きな喧嘩囃子・e07214)
暮葉・守人(狼影を纏う者・e12145)
唯織・雅(告死天使・e25132)
櫂・叔牙(鋼翼骸牙・e25222)
ザハク・ダハーカ(スカーレッド・e36065)

■リプレイ

●輪入道、出現!
 大阪府岸和田市。
 この地に降り立つケルベロス達は、すぐに動き出す。
「輪入道……やっぱり、それなりにはデカいんですかね?」
 久遠・征夫(静寂好きな喧嘩囃子・e07214)が今回の相手、ドリームイーターに関して首を傾げつつ、スマートフォンで警察に連絡を入れる。そして、彼は状況説明を行い、府道230号の封鎖、避難協力について依頼を行っていた。
「好奇心は敵を生む、ってことでしょうか。ドリームイーターにも困ったものです」
 今回のチーム最年少のアイリス・フィリス(ガーディアンシールド・e02148)。彼女はドリームイーターに襲われた片桐・昴少年の保護を先に行うと、敵の誘導を仲間に任せて1人この場を離れていく。
 メンバー達がドリームイーターを誘い出す場所として、この道に隣接している蜻蛉池公園を戦場として定めていた。
「私達は……ケルベロス、です。どうか、ご協力……お願い、します」
 素性を名乗った上で、おかっぱ頭の唯織・雅(告死天使・e25132)は公園に訪れていた人々へと避難を願う。
「ここに……デウスエクスが、現れます。皆さん、ご避難を!」
 重ねて、中世的な顔立ちの櫂・叔牙(鋼翼骸牙・e25222)が事情を説明すると、さすがにデウスエクスの襲来とあらば、人々も腰を上げてここから去っていく。その際、ケルベロスに対する激励の言葉もあったようだ。
「そろそろ、いいですかね……、守人さん」
「そうだね。ちょっと待ってて」
 この間、同じ釜の飯を食べた盟友、叔牙の頼みとあって、暮葉・守人(狼影を纏う者・e12145)は一般人の一時避難を目視で確認した後、殺界を展開していく。
 状況が整ったことで、メンバー達は公園に集まり、今回のドリームイーターが姿を取っている、輪入道についての噂話を始める。
「輪入道……確か、『今昔画図続百鬼』に描かれた妖怪だったかな?」
 まず、守人が口を開く。彼は神社の育ちということもあって、妖怪、怪異の類についてはかなり興味があるとのことだ。
 頭の中で絵巻物の絵を思い出しつつ、守人はその特徴を仲間達へと伝え聞かせる。燃え上がる大きな車輪。そして、その中央に中年男性の頭が付いているという。
「ほんと、とんでもない噂だよね。まぁハチャメチャ具合が大阪らしいけどさ」
 一通りその話を聞いたメンバー達は、口々に感想を語る。
「輪入道……牛車の様な物。想像して、ましたが。車輪だけ、らしいですね……」
「私は……『火車』と、混同……してました。全く違う……妖怪、なのですね」
 最初抱いていたものと全く違う輪入道の姿に、叔牙、雅は感嘆する。
「わ、輪入道って、その、あんまり知らない名前だったので、ちょっと調べてみたんです」
 少しおどおどとした態度の安曇・柊(神の棘・e00166)も、予め調べた知識を仲間達へと語る。輪入道は、自分の姿を見た者の魂を抜くことがあるとのことだ。
「元から、危険な妖怪なんでしょうね……」
「『ここは母勝の里』という張り紙を家の前に張っておけば、魂を奪われないと聞いたな」
「はい……、輪入道が近づけなくなるそうです」
 それまで無言だったフューリー・レッドライト(赤光・e33477)もぼそりと語ると、その話は柊も調べていたようで小さく頷く。
「とはいえ、伝承の存在ではないですし……。僕達が倒すしかないんです、けど」
「まあ、頑張って壊していかないと、ヘタうつと町が火の海になりそうですし」
 柊の話に、微笑を浮かべていた征夫が何かの気配を感じ、表情を引き締める。
「輪入道か……火を纏った車であるそうだが……。さて、実物はどんなものであろうかな?」
 少年の興味から生まれたドリームイーターの姿と強さ。それが如何なるものかと考える巨躯の竜派ドラゴン。胸、腹、そして、顔と傷だらけの赤い鱗を纏うザハク・ダハーカ(スカーレッド・e36065)は楽しみにしながら、敵の接近を待つ。
 そうして、道路を疾走し、公園へと現れた輪入道。
「こいつが輪入道? ……なんだろ……すげぇ惜しいというか、残念」
「妖怪と、言うには……少々、みすぼらしいですね……」
 守人、叔牙はその姿に唖然……というか、幻滅してしまう。やや粗末な木製の車輪。そして、厳つい顔の男性の顔だが、威圧するにはやや迫力が足りない。あげく、車輪と頭の間の輻(や)はモザイクに覆われている。
「ドリームイーター共通の、特徴ですが……モザイクが、素材を。台無しに、してますね……」
 雅もその姿に少しばかり落胆しているところで、夢喰いが顔をケルベロス達へと向けて声を出す。
「答えよ。我は何ぞ……?」
 そこで、皆、一斉に口をつぐむ。下手な返答は敵の的になると、皆察していたからだ。
「えぇと、その……ドリームイーター……ですか?」
 ただ、その答えは、夢喰いが望んだ答えではない。その身を燃え上がらせた輪入道は唸り声を上げ、一度後方に下がってからケルベロス達へと疾走してくる。
「公共の、広場ですから……。手早く、済ませて……しまいましょう」
 雅が仲間達へと告げ、爆破スイッチを取り出す。ドリームイーターをこの場で倒すべく、ケルベロス達はそれぞれ態勢を整えて攻撃を開始するのである。

●激走、輪入道!
 疾走してくるドリームイーター。輪入道の形を取り、突撃してくる敵を柊は身を投げ出すようにして受け止めつつ、冷静にその姿を見つめる。
「……自分であれだけ回転して、酔ったりしないんでしょうか……」
 とはいえ、車輪は回転しているものの、その中央にある頭が回転している様子はない。
 ともあれ、その足を止めようと柊は飛び上がり、流星の如き蹴りを浴びせかける。視界に入る繊細なリングブレスレット。彼女の為にもっと強くなりたい。そんな想いを込めて。
 柊に付き従う真っ白い長毛の雌猫、冬苺も、燃える敵の体に怯むことなく爪で引っかいていたようだ。
 しかしながら、こちらの足を引き潰してくる攻撃もそうだし、その身に纏う炎も発してくるのは容易に想像できる。
 そこで、愛用の帽子を手を押さえながら、アイリスも戦場へと駆けつけてきた。すでに交戦に入っていることを見て、彼女も戦列に加わる。
(「敵はジャマーですし、異常攻撃が怖いですからね」)
 そう考え、アイリスはまず、紙兵を前方の仲間へと散布していく。
「カーネル、あなたはディフェンダーで皆を守ってね」
 そのアイリスの指示に、テレビウムのカーネルは頷いて前方へと飛び出していき、手にする凶器で輪入道を殴りつけていく。
「回復と、キュアは。なるべく、こちらで……引き受けます」
 雅もまた、後方からカラフルな爆発を起こして士気を高めようと、仲間達を支援する。彼女のウイングキャットのセクメトは少し前に位置取り、翼を羽ばたかせることで炎、足止めといった敵の異常攻撃に備えていた。
 そんな雅ら回復役を請け負うメンバーを背に前衛メンバー達は敵へと攻め入るが、叔牙も初動は地面に守護星座を描くことで仲間の守護を行う。戦前とは違い、戦いに臨む彼は冷たい視線で敵を射抜く。
 仲間の援護を受け、フューリーは戦場を駆け回る敵と捕捉する。
「……時間をかけるつもりはない。手早く仕留めるとしよう」
 鉄塊剣『赤光』に地獄の焔を灯し、彼は同じく全身を燃え上がらせた輪入道へと一太刀浴びせる。その焔に焦がされた輪入道は呻いたが、多少の傷で止まるほど甘い相手ではない。
「さて、何が効くのか……」
 飛び込む征夫は竜の翼を広げ、相手へと滑空して突進していく。突進してくる敵を正面から受け止める形となる彼は、戸惑いながらも背の翼を大きく真横に振るう。それにより、車輪の一部に斬撃痕を残していた。
 守人も敵の車輪目掛け、愛用の銃、Fang 357マグナム【SWORD BREAKER】から弾丸を叩きこむ。
 続けざまに、ザハクが側面から燃え上がらせた蹴りを輪入道へと喰らわせた。着地する彼はなかなかに楽しめそうだと感じたのか、口元を吊り上げる。
 さらに仲間が攻め込む間に、叔牙がさらに後ろのメンバーへと紙兵を撒く。
「仕込みは、上々。後は……頼みます」
 元よりそのつもりのケルベロス達は、暴走する輪入道を止める為にグラビティを放つ。

 輪入道の形を取ってはいるが、敵の本質はドリームイーターだ。
 時にそいつは体を構成するモザイクを飛ばし、こちらの興味を奪おうとしてくる。
 それを、テレビウムのカーネルが受け止め、ケルベロスへの被害を防いで見せた。
「よくやったね、カーネル! 今、回復してあげるから」
 アイリスはそんなサーヴァントの姿が嬉しくて、思わず翼と尻尾をパタパタと動かしながらも、溜めた気力を撃ち出して癒していた。
 回復はアイリスも動いてくれている。空いた手を活かしてライフルを構えた雅は鋭い視線を向け、敵の頭を狙って光線を発射する。セクメトも尻尾の輪を飛ばし、雅の指示もあって攻撃を繰り返す。
「車輪、だけとは言え……火の車。では……氷結責めなど、如何でしょう?」
 叔牙は車輪目掛け、氷結の螺旋を放つ。グラビティの力もあって、命中箇所を炎ごと凍りつかしてしまう。
 逆側からは、フューリーが巻き起こす竜巻を輪入道へと浴びせかけた。
「迫る死に怯え、その中で朽ち果てろ……!」
 敵の車輪は破壊の暴風を浴び、みしみしと音を立てる。だが、フューリーはその破壊をただ待ってはいない。彼は振り上げた鉄塊剣を渾身の力で叩き斬る。
 それでも、まだドリームイーターは動く力を残しており、ただ叩き潰されはしない。
 轍を残して走る回る輪入道。ただ、大きな頭を持つ敵は、守人にとって格好の的。大きな頭を正確に射抜いていく。
「全呪解放……貪り喰らう」
 追い討ちをかけるべく、ザハクが自身の力を暴走させていく。これまで喰らった魂を纏うことで蠢く呪紋がザハクの全身を覆い、その力を持って彼は眼前の敵へと猛攻を始める。
 叩き、砕き、壊す。それはまさに蹂躙。攻撃を行うザハクは昂ぶり、狂気の笑みすら浮かべていた。

 数で押すケルベロスが比較的優勢に、戦いは進む。
「好きに、動かれると……厄介ですね。少し、縛らせて……頂きましょう」
 叔牙は時に、両手の掌から最大出力の放電を行う。
「端子展開、放電開始……Ready Impact!」
 戦いが始まってしばらく経つが、未だ動きを止めない輪入道へとその電流を纏わせた拳で殴り、電撃を一気に流し込む。
 それにより、しばし動きを止める敵へ、フューリーが側面から鉄塊剣を薙ぎ払い、征夫が大きく弧を描いて斬撃を浴びせる。徐々に戦いに熱を怯えていた彼だが、すでに敵に斬撃耐性がないことを見抜いていたようだ。
 仲間のサポートも万全、余裕を持って攻撃をしていたが、思わぬ輪入道の反撃が飛ぶ。遠方へと飛ばす炎に、柊は対処が間に合わない。
 炎を浴び、その身を燃やすザハクはテンション高く笑う。
「は、は、はっ! いいぞ、もっと高ぶらせろ!!」
 そして、ザハクは敵へと飛び掛り、降魔の拳を振り上げる。
「その魂……存分に喰らわせてもらおうか!!」
 殴ると同時に、敵の体力を喰らうザハク。輪入道の全身はもはやボロボロ。真っ直ぐに走ることすら出来ないほど車輪にガタがきていた。
 しかしながら、後衛へと飛ぶ攻撃に、柊は危険を感じていた。
「さぁ、行っておいで。…幸せは、僕達が作るものだから」
 広げる天使の翼。そこから溢れる光の雫は青い鳥となる。その鳴き声は仲間へと癒しをもたらし、揺らいで消える波紋だけを残す。
「願うは此の詩届く者に、月と夜との祝福を……」
 雅もまた、自身を含めた後衛陣の回復に動く。月光と夜とが司る『安らぎ』と『休息』とをもたらす静かで暖かな一編の詩。それに秘められた願いと力が、自身と仲間の不浄を取り払っていく。
 仲間のカバーが間に合ったようで、ほっと一息つく守人は素早く敵へと銃弾を叩き込む。もはやドリームイーターは虫の息だ。
 回復は万全と感じたアイリスがそこで仕掛ける。
「続きなさい、カーネル!」
 アイリスは敵の顔目掛けて拳を打ち込む。そして、カーネルが同じ場所を凶器で殴りつけた。
 ついに、その存在を維持できなくなったドリームイーターは、全身をモザイクに包み霧散する。その消滅を確認したケルベロス達は皆、一呼吸置いてクールダウンするのだった。

●下手な好奇心は……
 メンバー達は、公園の修復へと当たる。
 巫術は不得意とあって、守人はげんなりしながらも独特な歩き方で陣を築く。
「苦手なんだけどな……」
 ぶつぶつ言いながらも彼は拍手一拍手を地面につけ、地祇神霊との通り道を繋ぐことで力を借り、この地の不浄を払う。
 ドローンを展開し、征夫は荒れた芝生を幻想交じりにしていく。雅も詩を歌うことで周囲に力を与え、皆が再び集う広場を取り戻していった。
「これで、もう安心……ですね」
 ほっとした表情で、雅が呟いた。
 その間に、アイリスが被害者の少年、片桐・昴を連れてきていた。ザハクはそんな彼女の素早い保護に、舌を巻く。
 柊が片桐に上着を着せ、温かい飲み物を用意していると彼はゆっくりと目を開く。
 そこで、まずフューリーが経緯……夢喰いによる襲撃と、事件が解決済みだと説明する。
「お探しの、輪入道ですが……正体は、デウスエクス……でした。貴方が、出会わなかったのは。幸いでしたが……」
 叔牙は改めて片桐を介抱しつつ、彼を気遣う。
「……今回はなんとかなったが、次もうまく行くとは限らん」
「探すのダメって訳じゃないけど、せめて誰かと一緒に行ってください」
 そして、フューリーが厳しく諫め、征夫が嗜めると、片桐はうなだれてしまう。征夫が小声で、自身が1人で世界に修行へと出かけたと呟いたのは聞こえなかったようだ。
「はい、ご無事で、良かったですが……。好奇心、猫をも殺すと……申します」
 雅も1つ忠告するが、少年の身を案じてのこと。デウスエクスの襲来する現状では、危険なこともたくさんあるのだ。
「このご時勢、何があるか分かりませんから、好奇心は程ほどに、ね?」
 年端も行かぬアイリスだが、その背と尻尾をパタパタ動かしつつ、優しく年上の少年を諭す。
「……せやな」
 力を持たぬ少年にはこれが現実。危険に足を踏み込んだことを深く反省した片桐は、ケルベロス達に対して小さく言葉を返したのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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