載霊機ドレッドノートの戦い~機械軍団を討て!

作者:林雪

●載霊機ドレッドノート
「みんなももう弩級兵装回収作戦の結果は知ってるよね。まずはお疲れ様。戦果は上々だったと思うよ……でもダモクレスたちも黙ってない」
 戦果はあったが、楽観視も出来ないとケルベロスたちは知っている。
『弩級超頭脳神経伝達ユニット』と『弩級外燃機関エンジン』は回収され、更には『弩級超頭脳神経伝達ユニット』を修復可能な敵、コマンダー・レジーナが健在なのである。
「警戒に当たっていたバアルルゥルゥ・アンテルエリ(ヴィラン・e34832)さんたちが掴んだ情報によると、どうやら回収された弩級兵装の転送先は載霊機ドレッドノート。どう考えても、指揮官ダモクレスたちは弩級兵装をドレッドノートに組み込んで起動させようとしてる」
 このままドレッドノートが本来の力を取り戻せば、ケルベロス・ウォーは避けられない。
「敵に時間を与えるわけにはいかない、こちらから強襲をかけてやろう!」
 来るべき決戦の前に、どの程度の打撃を敵に与えられるか。ケルベロスたちの今後を占う大作戦となる。

●攻撃目標選択
「何はさておき潜入ルートを確保しなきゃならない。というのも今回、踏破王クビアラがケルベロスを警戒してドレッドノート周囲に『ヘリオン撃破用の砲台』を設置してるんだ。当然、各砲台には強力なダモクレスたちが待ち構えてる。奴らを倒して、砲台の破壊を。まずはここが成功しないと話にならない、大事な露払いだ」
 光弦が『クビアラ軍団』の名をモニターに表示する。
「潜入に成功したら、は4つの目標に分かれて攻撃を。1つずつ説明するからよく聞いてね」
 モニターには続けて『エレクトリシアン軍団』『ディザスター軍団』『レジーナ軍団』『イマジネイター軍団』の4つが表示された。
「まずジュモー・エレクトリシアン率いるエレクトリシアン軍団。奴らは君たちが破壊した『弩級高機動飛行ウィング』に変わる機動力をドレッドノートに与えようとしているんだ。具体的には飛行能力に代わって『二足歩行システム』で移動出来るよう、昼夜を徹して修復を行ってる。これを阻止したい。ケルベロス・ウォーでの守備に関わる重要作戦だ」
 東京が攻撃されるかされないか、ここに掛かっていると言っても過言ではない。
「次、ディザスター・キング率いるディザスター軍団。奴らは『弩級外燃機関エンジン』に、なんと自らをエンジンの部品として連結して出力を供給しているんだ。奴の周辺は10体以上ものダモクレスたちのエネルギー流に守られていて近づくことすら困難だけど、もしここでディザスター・キングを撃破することが出来れば、エンジンそのものの出力を大きく減らすことが出来るだろう。更に、ディザスター・キングはエネルギー供給中だから弱体化してる。2チーム以上で連携すればきっと勝てる」
 エンジンの破壊は無理でも、敵の中枢を砕くチャンスのある強襲である。
「それから、コマンダー・レジーナ率いるレジーナ軍団。彼らが回収した『弩級超頭脳神経伝達ユニット』こいつはドレッドノートの巨体そのものを動かし、攻撃させるためのものだ。もしドレッドノートが腕を振り回してパンチをすれば、それだけで直系数kmのクレーターが生まれる程の威力がある。コマンダー・レジーナを撃破すればシステムは破壊出来るけど、レジーナの撃破を狙うにはドレッドノートの脊髄部へ集中攻撃を仕掛けるしかない。レジーナとその配下を倒すには……少なくとも12チームは必要だろう」
 先の戦いでも圧倒的な強さを見せつけたコマンダー・レジーナを倒すのは、一筋縄ではいかない。
「そしてイマジネイター軍団。弩級兵装回収作戦で動きのなかった指揮官型ダモクレス、イマジネイター。こいつの狙いはドレッドノートと一つになり、自らが『ドレッドノートの意志』となるべく融合することらしい。意志なき兵器と意志のある兵器……どの程度違うのか、ちょっと未知数だね。正味な話、現時点での危険度は低いと思う。ただし万が一にもケルベロス・ウォーで敗北を喫したその時は恐ろしいことになる……自ら意志を持つダモクレス。そんなものは誕生させないに越したことはないね。イマジネイターを撃破するためには、周辺を守る全てのダモクレス23体を全部撃破しなけりゃだけどね」
 ここまで一気に説明してしまってから、光弦がふうと息をつく。
「……このままいけば、ケルベロス・ウォーでダモクレスと決戦するのは避けられない。わかっている限りの情報を駆使して、なるべく有利に戦えるように……なんとしてもこの作戦、成功させよう!」


参加者
秋草・零斗(螺旋執事・e00439)
ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)
ヴァーツラフ・ブルブリス(バンディートマールス・e03019)
ナギサト・スウォールド(ドラゴニアンの抜刀士・e03263)
奏真・一十(寒雷堂堂・e03433)
鳴神・命(気弱な特服娘・e07144)
ミーシャ・クライバーン(トリガーブレード・e24765)
皆川・隠岐乃(銃闘士・e31744)

■リプレイ

●貴婦人エルジェーベト
 あの微笑みを、優しいと思ったことは一度もなかった。
 秋草・零斗(螺旋執事・e00439)はそう己の記憶を振り返る。今、目の前にあるのと同じ笑み。貼り付けたような、心のない人形の笑み。
「お前がエルジェーベトか! お手合わせ願おう!」
 ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)のからんと明るい高下駄の音とその声で、零斗の意識は戦場へ戻る。
 赤い瞳、赤いドレス。機械化された禍々しき血濡れの左腕。血の貴婦人エルジェーベトは間違いなく、ケルベロスが倒すべき強敵なのである。
「……」
 鳴神・命(気弱な特服娘・e07144)が、そっと零斗の様子を窺う。これまで数度戦場を共にしたが、こうまで無口な彼は見た覚えがない。執事然としたいつもの余裕は感じられなかった。
 クビアラの砲台を仲間たちが封殺してくれたお陰で、載霊機ドレッドノートの脊髄部にケルベロスの大戦力が到達することが出来た。さすがに敵の懐中だけあり、通信機器は役に立たない。目視のみで互いを認識する。
「相変わらずピンからキリまで、数ばかりは豊かな連中であるな……向こうも始まったようだぞ」
 奏真・一十(寒雷堂堂・e03433)がちらりと視線を走らせる。文字通り敵軍の脊椎とも言えるだろうコマンダー・レジーナ、その守護に当たるダモクレスは情報通り11体。
「みんな抑えきれないんだろ、アタシもさ!」
 皆川・隠岐乃(銃闘士・e31744)の目は、戦いの緊張と高揚に熱を帯びる。同じ空間に沢山の仲間がいる。頼もしくもあり、裏を返せばそれだけ敵が強大だということだ。
「無茶すんじゃねえぞ。……じいさん、あんたもな」
 ヴァーツラフ・ブルブリス(バンディートマールス・e03019)が愛用のリボルバーを確かめつつそう言えば、釘を刺されたわ、と軽く笑ってからナギサト・スウォールド(ドラゴニアンの抜刀士・e03263)が口にするのは覚悟の一言。
「とことんやってみようぞ」
「……秋草、決着を」
 ミーシャ・クライバーン(トリガーブレード・e24765)が淡々と、だが力強い声で零斗の背を押す。彼女自身もまた、新たな故郷となったこの星をダモクレスの好きにさせる気はない。
『さあ、良い子たち……お食事の前にお祈りを』
 姿形は優雅な麗人、エルジェーベト。人の温かみはどこにもない。
 住む場所を失い行き暮れて、その自分に行き場をくれたのは誰だったか。零斗は忘れたことは一度もない。それでも。
「エルジェーベト、貴方を倒す……!」
「支援は任せてくれ! 手段は充分揃えている、精一杯やるとも」
 ボクスドラゴン・サキミと共に戦場を見渡す位置に移動しながらチェインを防御の型に展開する一十、逆に敵の懐に向かってソロが突っ込んだ。
「大地に縛られし哀れな魂に告ぐ。不浄なる血と贓物を贄とし、其の穢れの贖いとせよ。――磁界支配!」
 ソロの大技で戦闘が始まった。磁力の結界がエルジェーベトの白い肌を引き裂かんとするところへ、ミーシャが半透明の御業を放った。が、血の貴婦人は顔色も変えず、優雅な所作で身を屈める。
『お行儀よく……出来ない子にはお仕置きを。いい子には、ご褒美を』
 次の瞬間赤いドレスが翻り、無数のミサイルがケルベロスたちに襲いかかる! だが構えていた零斗が、時戻しの陣で即座に攻撃を叩き落していく。
「……逆巻く時の渦よ、顕現せよ。この地を覆いつくし、あるべきものをあるべき所へ返したまえ! カタナ、走れ!」
「足止めします!」
 指示を得たライドキャリバー・カタナのエンジン音が唸り、同時に命が轟竜砲を放った。噴煙の中低く構えたナギサトの声が、爆音に重なる。
「剣凪一刀流抜刀術が使い手、ナギサト……推して参る」
 己の言葉の終わりすら待たずに足裏に力を籠め、エルジェーベトの眼前で身を捻った。
「こっちじゃ―――!」
 抜刀術がその身を斬ったはずが、エルジェーベトに出血の様子は見られない。ただ、その赤い瞳はドロリと澱み、口元には冷たい微笑。
『わたくしの血が見たいのですか……羽虫の分際で』
「虫じゃのうて燕と言って欲しいのぉ。ま、竜人じゃがな!」
 言葉で煽ることも忘れずに、ナギサトが一瞬で距離を取る。
「ジジイが一番無茶しやがるぜ……」
「嫌いじゃないよ、そういうの」
 呆れた風なヴァーツラフを追い越して、笑いながら隠岐乃が蹴りつける。全員が腹を決めてこの場に挑んでいるのだ。傷、怒り、そして悲しみを撃ち抜くために、ケルベロスたちは熾烈に戦う。
「今まで吸い取られた人々の分を思い知れ!」
 ソロが結界を解き、今度はマインド・サイズで刈り取りにかかる。仲間たちの被弾具合を見極めていた一十は、先のミサイルに何か妙なものが仕込まれていたことに気づく。赤黒いガスのようなものがカタナやナギサト、そして彼のボクスドラゴン・スーに纏わりついている。暗殺以外では、こうした妨害工作で徐々に力を奪っていくのがエルジェーベトの好みであるようだ。
「……なかなか厄介なご婦人であるな」
「……ええ」
 零斗が静かに応じた。

●激闘
「……妙じゃろ」
 刀の柄に手をかけ、敵を見据えつつもナギサトはこの戦場に違和感を覚える。
「単調過ぎる、と?」
 一十も薄々感じていたらしく、即答した。
 数合交えただけでエルジェーベトが嗜虐を好み、つかず離れずの位置から体の自由を奪う戦法を使うことはわかった。
 しかし敵の指揮官はコマンダー・レジーナのはず。彼女であれば、11体をより効率的に動かす戦術を取ってもおかしくはない。
 ヴァーツラフが目を眇めてレジーナの動きを確認し、腑に落ちたとばかり頷いた。
「あれじゃあな。敵さんにも余裕はねえってこった」
 皆、エルジェーベトを牽制しつつ、交互にレジーナ班のケルベロスたちの様子を窺う。どうやら彼らは、自分たちの手でレジーナを葬るつもりで苛烈な攻めを繰り返しているようだった。そのお陰でレジーナは配下に作戦を下知する暇も隙もない。
「守りの戦法はとらない、ってこと……だね」
 命が彼らの決意を見て取る。同時に、己のするべきことが明確になった。
「面白いこと考えるねえ、どいつもこいつも!」
 隠岐乃も同じことを思ったらしい。これはチャンスだ。仲間が体を張って与えてくれたチャンス。エルジェーベトを一刻も早く撃破する! とソロも奮起する。
 ミーシャが跳び、集めた重力の奔流でエルジェーベトを包み込む。
「……ダインスレイブを食らって倒れんとはな」
 グラビティの威力はかなりのもの、手応えもあるが赤い貴婦人は不気味に微笑み続け、エルジェーベトの高笑いと共に、ナギサトの腹に機械化したアームが突き刺さる!
『ホホ……、生き物の血は温かくて好き』
「ぐ……はッ」
「ナギサト様!」
 血の温度を味わうようにゆっくりと、左手を回す仕草。
(「いつもそうだった。笑いながら、あの人は」)
 零斗が表情を歪めつつ、ナギサトの前に光の盾を呼び出した。
「おっかないのぉ。だが、まだまだこれからじゃ……おおスー、すまんの」
 スッキリ爽やかミント風味をインストールされ、やにさがるナギサト。そんな彼はまだまだエルジェーベトの攻撃を引き受けるつもりなのだ。
「削り倒すしかなさそうだ!」
 隠岐乃が床を蹴り、敵の懐に潜り込む。
「悪くねえ判断だ」
 ほぼ同時に前後から、隠岐乃の拳が貴婦人の白い胸にめり込み、ヴァーツラフが機械化していない肩に右手を叩きつけ、千切り取るように捻った!
『……?!』
「綺麗なスクラップになれると思うな」
 返り血のみを浴びて微笑みだけを浮かべていたエルジェーベトの様相が、少しずつだが変化する。
「大丈夫、治る! わかってるサキミ、そう急かさないでくれ」
「……治してもらわんと、困るわい……」
 深手にも笑って見せるナギサトを、心配そうに命が横目で見遣る。だが、ここで退くわけもない。ナギサトが盾になってくれている間に少しでも多くのダメージを、と、命がロケットポッド換装型ドローンを射出した。
「行け、お前の力見せてやれ!」
 エルジェーベトに降り注ぐ冷凍弾が、氷の如き貴婦人を文字通り凍りつかせる。妨害工作で遅れは取らない、と命が改めて睨み付ける。
『さあ、誰が一番いい子かしら……ホホホ』
 エルジェーベトは笑っていた。笑いながら、怒りに狂っていたのだ。
「………ッ!」
 ザシュッ、と3度目のアームの直撃を受けたナギサトが声も立てずに崩れ落ちた。盾として一歩も退かぬその姿勢が故、負った傷は重い。
「……チィッ!」
『ほら温かいわ、とても温かい……』
 恍惚と、返り血を浴びて笑うエルジェーベトを、ヴァーツラフが威嚇射撃する。その隙にナギサトを戦場の外へ連れ出す一十を命が手伝った。
 攻撃に移ろうとするソロに、零斗が低く囁いた。
「……援護致しますソロ様。文字通り、私を盾に」
「その心意義、受け取ろう」
 仲間を犠牲にするのではなく、全員で前に進むその為に。ソロが狙いをつける間、零斗はエルジェーベトと、己の過去と真っ向から向き合っていた。
 自分だけが、逃げた。他に何も思いつけなかった。抗う、戦うという道があることすら知らなかった。だが今は違う、今の自分は。
「私は……ケルベロス。もう逃げることはしない!」
『悪い子だこと。躾が必要ね』
 冷酷な一言とともに、広げた貴婦人の白い手の掌には、砲塔がぱっくり口を開けていた。頭を掴まれかけるのを何とかかわし、そのブラスターの一撃は零斗の腹部に叩きこまれた。
「がッ、あ!」
 ぐらりと揺れる意識。駆け寄ってきた一十が傷に鍵を差し込みながら、叫んだ。
「……痛くないぞ!」
 確かに、と零斗は妙に静かな頭の中で考える。痛みは消える。たとえ身に傷が残ろうとも、痛みが去れば笑うことも出来るのだ。
「痛いけど我慢しなよ、すぐ楽になる!」
 これは隠岐乃の声だ。今日はやけに、仲間たちの言葉が耳に残る。これで自分は、楽になるのだろうか……零斗の意識は混濁する。
 ついに盾役がふたりとも倒されてしまったこの状況で、彼らが選んだ戦法はひとつ。
「押し切るぞ」
「いいだろう」
 頼もしき攻撃手であるソロとミーシャのふたりが同時に跳んだ。尚も高笑いしながらミサイルを放ってくるエルジェーベト。
「コイツを食らいな、アンタ等の為に用意した秘密兵器さ!」
 隠岐乃が愛器プラズマ・スパイクから電撃の弾丸を放ち、足元を狙う。
 激しい撃ち合いの中、エルジェーベトの左手は徐々に砕け、足元には遂に彼女自身の血溜まりが出来始め、そして。
「エルジェーベト! これで決着だ!」
『お行儀の、悪い、子たチ……』
 カラン、と明るい下駄の音。踏み込んだソロの拳がエルジェーベトの心臓を真直ぐに貫いた。赤いものが溢れだす。それが誰かから奪った血なのか、彼女自身のものであるかはわからない。元より赤いドレスは重たく染まる。
『ごきゲん、ヨウ……』
 関節の壊れた人形のようにエルジェーベトはその場に崩れ、やがて赤に飲まれて消えて行った。
「さて……最後の一仕事だ」
 ヴァーツラフが見遣った視線の先には。

●コマンダー・レジーナ、倒れる
 レジーナはまだ、立っていた。
「みんなっ……!」
 思わず命が声を上げた。
 果敢に彼女に挑み激しく戦い倒れた者たちを、レジーナは侮辱することも鞭打つこともしなかった。そして己の最期を悟って尚、動じることもない。
「大した女だぜ……」
 ヴァーツラフが心底感服し、そのままリボルバーを構える。
 いかなレジーナと言えど、激戦の痕は生々しい。だが破れたマントを羽織っていても、ひび割れたバイザーの奥の瞳は矜持を失っていなかった。場にいた全てのケルベロスたちの視線が、レジーナに集まる!
「……ブチ抜けぇええッ!」
 ヴァーツラフが吼えたと同時、斉射が始まった。
「レジーナぁあ!」
「行け……行けえッ!」
 ソロが放ったミサイルを追うように、命のロケットポッドがレジーナめがけて飛ぶ。
「凍っちまいな、永遠にさ!」
 隠岐乃も力を振り絞り、輪胴からレーザーを真直ぐに放った。
 ナギサトの処置に当たっていた一十がその手をミーシャに向けた。最後の一撃を放つ力を、とヒールグラビティを送り込む。
「これで行けるかミーシャくん!」
「……行く」
 ふらつく体を支え、気力で攻撃に参加するミーシャ。御業を操る手から力が抜けかけた、その時。
「さあ! あと一押しですの!」
 華の高い声が響き、オウガ粒子の輝きが視界に振り注ぐ。そうだ、とミーシャが奮い立つ。ひとりではここへ来ることすら出来なかった筈。大勢の仲間がいて、支えて支えられて、今立っている。レジーナ、お前の最期を見届ける!
「後はおねーさんに任せなさい!」
 さくらがそう叫び、蒼い冷気の弾丸がキラリと流れ星のようにレジーナの胸を撃ち抜く。
 ケルベロスたちの執念をその一身に全て受け止め、コマンダー・レジーナは静かに、実に静かに崩れ落ちた。
「……オぉおおッ!」
 全員が死地へと身を投げ出し、己を剣に、盾にして戦った。巻き起こる勝鬨はその誇り。倒れた仲間の分までもと声を上げるケルベロスたち。
「見えるかふたりとも、きみらの戦果だぞ! あっ、いかん」
 一十が、もはや身動きのままならぬ零斗と、未だ意識の戻らないナギサトに向かってそう叫んだが、もはや体力の限界と崩れるミーシャに気づくと慌ててそちらへ駆け寄った。治癒役として終始大活躍だった筈だが、サキミは相変わらずツンと横を向いている。
 一十に支えられ、表情をふっと緩めるミーシャ。
「や……ったか」
「ああ、やった」
「アタシたちの勝ちだァ!」
 隠岐乃が熱の冷めない瞳で天井を仰ぐ。ソロが真直ぐに拳を突きあげて、誇らしげに確信する。これが、これこそがダモクレスにはない心の力なのだ、と。
 感極まったのか、命の目元が潤む。いつになく優しい目でその様子を眺めるヴァーツラフの視線に気づいた命が、手の甲で雑にそれを拭った。
「……泣いてないですよ」
「何も言ってねえよ」
 やりきった。その満足感とともに銃を納めるヴァーツラフ。熾烈な攻め、鉄壁の護りと、中衛、後衛からの的確な支援。そして何より、全員が大きな流れの中で勝つことを考えて掴み取った勝利。
 強敵、コマンダー・レジーナを撃破出来たのは、12チーム全ての力が結集したが故である。
 真の強さを得たケルベロスたちは、更なる大きな戦いをも怖れることはないだろう。
 歓声の中、ゆっくりと身を起こした零斗が呟いた。
「私としたことが……肝心なところで意識を失い、ご挨拶も出来ないとは」
 その声は執事・秋草零斗のものだった。他の誰でもない、零斗自身が選んで生きて作ってきた、ケルベロスとしての自分自身。
「さようなら、エルジェーベト様」
 呟いた言葉は、歓喜の渦に飲み込まれていくのだった。

作者:林雪 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月14日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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