載霊機ドレッドノートの戦い~烽火、烈々たる

作者:西東西


「ダモクレスによる『弩級兵装回収作戦』の結果、コマンダー・レジーナ及び、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』と『弩級外燃機関エンジン』が敵方に回収されました」
 ヘリポートに集まったケルベロスたちを前に、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が説明を開始する。
 ――回収された兵装は、『載霊機ドレッドノート』に転送された。
 その一報をもたらしたのは、敵の動きを警戒していたマイ(e00399)、アルシェール(e00684)、詩月(e03451)、舞彩(e04871)、ラズェ(e25336)、バアルルゥルゥ(e34832)の6名。
 弩級兵装の2つは完全に破壊。
 残る2つにも、大きな損害を与えている。
「しかし、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』と、この装置を修復することができるコマンダー・レジーナが健在のため、指揮官型ダモクレスたちは全力をもって載霊機ドレッドノートを守護し、復活させようと動きだしています」
 ドレッドノートが本来の力を取り戻すのは、もはや時間の問題。
 そこで、先手を打つべく。
 載霊機ドレッドノートへの強襲作戦が決定した――。

 現在、『載霊機ドレッドノート』はダモクレス軍団によって制圧されている。
 周辺一帯はマザー・アイリスの量産型ダモクレスが封鎖。
 強固な防御陣を敷いており、地上からの侵攻は不可能な状態だ。

 この布陣にともない、踏破王クビアラがドレッドノート周辺に『ヘリオン撃破用の砲台』を設置。
 降下してくるケルベロスを、狙い撃ちにするべく控えている。
 破壊しきれなければ撤退時の脅威ともなるため、砲台はできる限り排除しておきたい。
 砲台制圧の手順は、砲台直上に突入したヘリオンからケルベロスが降下。
 離脱するヘリオンへの攻撃を空中で防ぎつつ、砲台に取りつき、警備ダモクレスと砲台を破壊することになる。
 砲台が排除されれば、ドレッドノートへの強襲&潜入が開始される。

 潜入後の攻撃目標は、4つだ。
 1つ目は、『歩行ユニット』修復担当のジュモー・エレクトリシアンと配下たち。
 彼らは失われた飛行能力の代わりに二足歩行システムの修復を行っており、対応個所は広範囲にわたる。
 二足歩行時、ドレッドノートが出せる最大速度は『時速200km』以上。
 最大修復がなされなかったとしても、時速100kmもあれば、ケルベロス・ウォーの戦闘中に東京の都心部まで移動されかねない。
 しかしこの部隊を攻撃しておけば、懸念されるドレッドノートの移動速度を下げることができる。

 2つ目は、ディザスター・キングの軍団が守る『弩級外燃機関エンジン』。
 彼らは、自らが『弩級外燃機関エンジン』の一部となることで、必要な出力を確保しようとしている。
 ドレッドノートが起動した場合、このエンジンから生み出されるエネルギーを利用して、多くの戦闘用ダモクレスを生みだすとみられている。
 よってこの軍団を叩くことは、ドレッドノートの総戦力の低下に繋がる。
 大幅な出力低下を狙う場合は相応の戦力を投入し、ディザスター・キングを撃破しなければならない。

 3つ目は、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』を修復するコマンダー・レジーナの軍団。
 ここが修復されればドレッドノート自身が巨体を制御するようになり、稼働時の危険度が跳ねあがる。
 腕を振り回して殴るだけで、直系数kmのクレーターが生まれるほどの威力だ。
 そのうえ、殴って殺害した人間のグラビティを奪う能力があるという。
 つまりこの能力がある限り、ドレッドノートは力を獲得しつつ、永久に破壊活動を行うことができるのだ。
 システムの破壊を狙う場合は相応の戦力を投入し、コマンダー・レジーナを撃破しなければならない。

 4つ目は、弩級兵装回収作戦で、唯一動きのなかった指揮官『イマジネイター』。
 イマジネイターは、ドレッドノートの中核システムとの融合を開始している。
 融合が失敗すれば『意志を持たないただの兵器』となるが、融合が成功すれば『意志を持つ弩級ダモクレス』が生まれることとなり、甚大な被害が予想される。
 もっとも、『ただの兵器』としても弩級の能力があるのは変わりないため、要は「意図的な破壊が行われるかどうか」の違いだ。
 イマジネイターを撃破するためには、イマジネイターを守る全てのダモクレスを撃破する必要があるため、相当数の戦力を投入する必要がある。

「今回の任務は、5つの重要拠点に絞った奇襲攻撃です。作戦終了後は敵の勢力圏に取り残されることのないよう、速やかに撤退をお願いします」
 いずれ、載霊機ドレッドノートと戦うことになる。
 その時には、ケルベロス・ウォーを発動しなければならない。
 決戦を有利に進めるためにも、今回の作戦は、できうる限り成功させておきたい。
「判断の難しい部分もあるとは思いますが、今後の趨勢が、この戦いにかかっています。どうか、みなさんのお力をかしてください」
 そう告げ、セリカは手持ちの資料を胸に抱き、深々と頭をさげた。


参加者
ノア・ノワール(黒から黒へ・e00225)
フェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)
筒路・茜(赤から黒へ・e00679)
マニフィカト・マクロー(ヒータヘーブ・e00820)
リコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164)
館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)
花露・梅(はなすい・e11172)
黒木・市邨(蔓に歯車・e13181)

■リプレイ


 ――載霊機ドレッドノート強襲作戦、開始。
 ケルベロスたちのゆく手には8つの砲台が待ち構え、対応にあたるチームのヘリオンが、次々と射程範囲内へ突き進んでいく。
 イマジネイター軍団へ襲撃をかける8人も、敵に捕捉されないよう上空で待機していた。
 出撃へ向け緊張が高まっていくなか、口を開いたのは黒木・市邨(蔓に歯車・e13181)だ。
「この戦場、どうやらアイズフォンが通じないみたいだね」
 同じくレプリカントであるリコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164)、館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)が試みるも、結果は同じで。
「私達は、言わば負け戦に赴く訳だ。しかしケルベロスたるもの、そういう状況に追い込まれる場合もあるのだろう」
 ふいにマニフィカト・マクロー(ヒータヘーブ・e00820)が呟いた言葉に、仲間たちが改めて作戦を確認しあう。
「もともと、使えたら使うって感じだったし」
「――、使えない場合の相談も、していたよね?」
 ノア・ノワール(黒から黒へ・e00225)と筒路・茜(赤から黒へ・e00679)の言葉に、詩月が頷く。
「他班の動きが把握できなくなるけれど。大きな支障にはならないはずだよ」
「それなら問題ないね!」
「わたくしたちのできることを、ここでやりましょう…!」
 フェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)と花露・梅(はなすい・e11172)が明るく告げて、場の空気が和らいだ、その時だ。
 砲台排除を担当するするチームのヘリオン8機が、発進するのが見えた。
 残るヘリオン32機も、ドレッドノートへの強襲&潜入を開始するべく続々と移動を開始する。
 8人は改めて気を引き締めると、それぞれ武器を構え、出撃に備えた。

●始まりに挑む
 上空からの突破口を開いたケルベロスたちは、『載霊機ドレッドノート』めがけヘリオンから次々と降下。
 各目標へ向けて、一気に戦場を駆けぬける。
 目指すのは、イマジネイター軍団がいると目されている中核システムだ。
 さらに先へ進むと、一体のダモクレスが待ち構えているのが見えた。
 ふいにリコリスが足を止め、金の瞳で睨めつける。
「お久しぶりと言えば宜しいでしょうか? それとも、棄てた物は記憶に残してはいませんか?」
 視線の先には、機械の矛を手に、中空に浮かびあぐらをかく男性型ダモクレスの姿。
 角髪に泰然とした姿など神話の神を模したかのような外見だが、割れた埴輪の仮面を被っており、無機質な様子とあいまってどこか滑稽に映る。
 鋼色の皮膚や、ケーブルで繋がった銅鐸型機械が赤や青に発光しているところは、いかにも機械といった様相だ。
 ――機械仕掛けの創造神『模造神ギィザァナ』。
 リコリスの宿敵たるダモクレスは問いには答えず一瞥すると、矛を掲げ攻撃態勢に入った。
『この先、通ることまかりならぬ』
 天をかき回す矛先から火炎が生じ、熱波の奔流が前衛陣へ向けはなたれる。
「ボクらに任せて!」
 ノアとボクスドラゴン『コレール』が身を挺して攻撃を防ぎ、受けた炎はすぐに薬液の雨を降らせ、癒した。
「私は、私教絶対唯一の神様、フェクト・シュローダー!」
 死角から敵前に飛びだしたのは、フェクトだ。
「神様の前で、悪事ができるとは思わないことだね!」
 手にしていた杖で空を薙ぎ、鋭い一撃を叩きこむ。
「――さあ、往こうか。出番だよ、蔓」
 己の身に絡みつく攻性植物――白の勿忘草を咲かせる乙女へ呼びかけ、市邨も力強く地を蹴った。
 跳躍し、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを仕掛けるも、銅鐸型の機械がそれを防ぐ。
「ハローワールド、君の物語にお邪魔するんだよ」
 バトルオーラを練りあげ、茜が敵に喰らいつく弾丸をはなつ。
 着弾すると同時に、梅の飛び蹴りが炸裂。
「マニフィカト様!」
「心得ている」
 呼び声に応えるより早く、羊のウェアライダーは攻撃態勢に入っていた。
 掲げた手の掌からドラゴンの幻影を出現させ、偽りの神を焼き捨てる。
「さあ、往っておいで」
 間をおかず、詩月の召喚した【氷結の槍騎兵】が凍てつく槍を振りかざした。
 ケルベロスたちの連携攻撃を受け、ダモクレスの周囲を浮遊していた銅鐸型の機械1つが、爆発。
 足元に生じた渾沌を矛先でかき回し、ギィザァナは命じた。
『滄海より産まれし者たちよ。彼の者たちを道連れに、亡(ほろ)ぼせ』
 すると渾沌からいくつもの機械人形が現れ、ケルベロスたちの脚に組み付きはじめた。
 ヒトガタをしてはいるものの、四肢を使い移動するさまは獣じみており、自我を持たず命令されるままに動いているようだ。
 すかさず市邨がアームドフォートの主砲を撃ちはなち、後衛位置から仲間たちを援護する。
 人形たちは構成部品をまき散らしながら、簡単に崩壊し、蹴散らされていった。
 ボクスドラゴンも箱ごとタックルを仕掛け、一部の人形を破壊する。
「大量の模倣機を生み出して、その目的は何? 愉しいの?」
 あらかじめ聞いてはいたが、眼前で使い捨てのように機械を生み出す様を見せつけられて、いい気はしない。
 しかし、この問いにも返す言葉はなく、
「悪魔らしいやり方で…愛してあげるよ?」
 敵の治癒を阻害するべく、ノアが対デウスエクス用のウイルスカプセルを投射。
 敵に対抗するべく、フェクトが周囲に光、闇、水、地、星―――世界を満たすありとあらゆる概念を生成する。
「世界を創るのに、7日もいらないよ!」
 小規模な概念魔術による、超々限定的な天地創造。
 はなたれた光球はやはり銅鐸に阻まれたが、追従する攻撃を受け止めきれず、2つめの銅鐸も爆発する。
 切断されたケーブルがバチバチと火花を散らすと同時に、ギィザァナの動きも鈍ったように見える。
 その隙を逃さず、茜は武器を持ち替えた。
「機械なら、『叩けば壊れる。シンプルだよね?』」
 物語から引用したセリフを告げ。
 ドラゴニック・パワーを得て加速した『ユリウスの戦錨』で、偽の神を叩き潰す。
 できうる限り最速でカタをつけようと、梅も紅の花弁に紛れ、背後から急所を狙った。
「忍法・春日紅!」
 首筋を狙った刃が、ダモクレスの顔を覆っていた埴輪を突いた。
 割れた仮面の下から、冷たい機械の顔が現れる。
 その金の瞳を見やりながら、同じく金の瞳を持つリコリスが、揶揄するように嗤った。
「あなたの捨てた廃棄品が、こうして地獄や心を持って稼働している事を、どう思いますか」
 かつての残骸の、自己再生の成れの果て。
 『心』を手に入れた時、リコリスの虚ろな動力炉に地獄が生まれた。
 地獄の炎に砕かれた胸部外装からは、地獄と歯車が覗いている。
 錆び落としの欠かせない身体。
 ――それでも。己はいま、『生きて』いる。
 巨大な鉄塊剣を細腕で御し、単純かつ重厚無比の一撃で『産みの親』を叩き潰し、問いかける。
「過去の失敗作を、許せるのですか?」
 しかし、模造神は答えない。
 眼前の『それ』がかつて己の造りだした失敗作であろうと、なかろうと。
 ギィザァナにしてみれば、レプリカントに成り果てた『それ』は、もはや我が子でもなんでもない。全くの別存在なのだろう。
『「心」という病理に囚われた、哀れな我楽多(がらくた)よ。その身、滄海へと還すが良い』
 銅鐸からはなたれた稲妻が、リコリスを撃つべく空をはしる。
 とっさに攻撃線上に身を投げたノアの身が焼かれ、痛みに赤の眼をそばめた。
 ――仲間が身を削り生み出した瞬間を、無駄にはするまい。
「もとより、覚悟はできている」
 惨殺ナイフを手にしたマニフィカトが、変形させた刃でダモクレスの身体を斬り刻む。
 一撃、二撃。
 引き裂いた皮膚の奥からは、ヒトらしからぬ電子回路がこぼれ落ち、
「――式の早打ちは得意でね」
 詩月が簡易的な符を即席で織りあげ、仲間を癒し、守護する御業を召喚する。
 やがて、3つめ、4つめの銅鐸が破壊され。
 遂に本体だけになった時には、間断なく続くケルベロスたちの連携攻撃を前に、焦りが見えはじめた。
『もろとも、塵芥と化せ』
 何度、ギィザァナが矛先で天をかき混ぜ、炎の奔流を叩きつけても。
 何度、機械人形を生み出し、足止めを命じても。
 ケルベロスたちは果敢に攻撃を仕掛け、手厚い回復で互いを支え続けた。
 がらがらと崩れゆく機械人形たちを見やり、
「――悪趣味だね」
 言葉とともに、市邨が仕掛ける。
 眼前に広がる、夢幻の四季。
 躯を囲う円の虹が爆ぜたなら、煌めきとともに世界が変わる。
 春に夏、秋に冬。
「春夏秋冬、七のいろ。ようこそ、彩る夢幻へ。現を離れ、――良い旅を」
 想い出の欠片と、未来への希望。
 偽りの神を呪縛から解きはなとうと、いくつもの世界が廻りゆく。
「茜!」
「了解」
 濃紺のオウガメタルをまとった主の呼びかけに、茜が即座に応えて。
 ――3、2、1!
 装甲を砕く鋼拳の一撃に続き、超硬化した爪が閃く。
 体勢を崩したところへ、二本のライトニングロッドを手にしたフェクトが飛びかかる。
「懺悔しても、もう許さないから!」
 渾身の力で殴りつけると同時に莫大な雷を流し込めば、ギィザァナの動きは目に見えて悪化した。
 怒りの付与は十全。
 敵の威勢は見る影もなく、意を決したリコリスが『終わり』の結界を招く。
「疾走れ! 遙か終焉に向かって! 堕ちろ! 深き極点に向かって!」
 結界内には、黄昏時の空。
 錆びた歯車の塔が無数に立ちならび、朽ちた彼岸花の造花に覆われた廃棄物集積場が広がっている。
 そこは、何時か来る終わりの世界。
 万象万物、一切平等に廃棄物と成り果てる処。
「この世全ては廃され棄てられ…唯の一つと成り果てよ!!」
 結界が取りこんだ時間は、一瞬。
 それでも、ギィザァナの身体は見る間に錆びつき、内側から劣化していく。
『おのれ、我楽多ごときが…!』
 無機質な表情のまま、偽の神が苦悶の声をあげる。
「お別れです」
 中空に浮かんでいた身体が、ごとりと落下。
 やがて動きさえままならなくなった神はコギトエルゴスムと化し。
 次の瞬間、粉々に砕け散った。
 終焉を見送る市邨の眼に、微かな情が滲む。
「さようなら、こころなき機械。こころより、尊いものはないんだ。――こころには、何物も勝てない、よ」

●多腕多脚のダモクレス
 先の戦いで仲間たちをかばい続けたサーヴァントは、すでに消滅している。
 市邨とノアが回復役をかってでるも、マニフィカトが警戒を続けたまま、告げる。
「どうやら、次の客人が来たのではないかね」
 傷を癒そうとした矢先、奥から新手のダモクレスが現れた。
 ――六本の腕と四本の脚を持つ、機械仕掛けの仏神『十界天魔』。
 無貌の顔に光る六つの目がケルベロスたちを見つけるやいなや、六本の腕を振りかぶった。
 手足を奪い、己が身に換装せんと伸びる、腕、また腕。
 三本の脚で座禅し、一本足で器用に立ちまわる姿は異様としか言いようがない。
 回避しきれず、薙ぎ払われる。
 ケルベロスたちは立ちあがり、隊列を入れ替えるのがやっとだった。
 壁役に移った詩月と市邨が、次々と繰りだされる攻撃を果敢に受け止めていく。
「ボクは後ろへ」
 癒し手へと移ったノアが、サキュバスミストを展開。
「私も、支援に集中します」
 先の戦闘で同じく壁役を担っていたリコリスが光輝くオウガ粒子を放出し、味方の超感覚を覚醒させる。
 先のダモクレスが偽りの神なら、こちらは偽りの仏神とでもいおうか。
 背にした挙身光(きょうしんこう)を輝かせ、黄金のオーラが前衛陣を圧倒する。
 間をおかずの連戦は、ケルベロスたちに苦戦を強いた。
 先の疲労は想像以上に重く、詩月が気力溜めを。
 市邨がヒールドローンを警護にまわすも、回復の手が追いつかない。
「意地汚く…、且つ勇敢に戦ってやろうではないかね」
 全体火力を保つべく、攻撃手へと移ったマニフィカトが一閃。
 惨殺ナイフは仏の身を裂くも、致命傷にはまだ遠い。
 ――負け戦。
 先ほど口にした言葉が、脳裏をよぎる。
 8人は傷を癒す間もなく連戦を続けており、どの顔にも疲労の色が濃い。
 サーヴァントの姿も、すでに無く。
 一方のダモクレスは負傷こそあれ、余裕が見える。
 どちらが優勢かは、明らかだ。
「私がしんがりを務めます」
 覚悟を決め、仲間を行かせようとするリコリスへ、マニフィカトが落ちついた声音で制止する。
「敵地深く踏みこみ、一矢報いたのだ。十分ではないかね」
 その言葉に、梅も同意する。
「次に繋げるためにも、しっかりと、この場での役目を果たしとうございます」
 ――今回の任務は、奇襲攻撃。作戦終了後は速やかに撤退を。
 ヘリオライダーの言葉の通り、今回の戦いは、前哨戦ともいうべきものだ。
 次の戦いは、もっと大きなものになる。
 今度こそ、勝たねばならない。
 だからこそ、ここで倒れるわけにはいかない。
「さあ、走るんだよ!」
 茜の声に背を押され、撤退すると決まってからの行動は早かった。
 仲間たちが駆けだすと同時に、茜が翼を巨大な時計盤へと変化。
 時刻は、十一ノ刻を指し示し。
 敵座標の時間軸に、強烈な歪みを発生させる。
「――、…期待した? 今時、呪文は詠唱破棄で撃つものだよ?」
「神様は祈るもんじゃない! なるもんだよ!」
 痛烈な破壊ダメージを受けた敵の死角から、フェクトも二本の杖で殴打し、雷を叩きこむ。
「今は、やれることを…!」
 エアシューズに煌めきと重力を宿し、梅は想いと信念を乗せ、蹴りに託した。
 仲間たちがひとり、またひとりと背を向けるのを、詩月と市邨がかばい受けながら、自身らも後を追う。
 なによりこの時、行きに用意していた『アリアドネの糸』が役に立った。
 糸をたどり迷いなく進むことで、もと来た道を一気に駆けぬける。
 多腕多脚のダモクレスは最初こそケルベロスたちを追撃していたが、受けたダメージの影響もあったのだろう。途中で諦めたらしい。
 やがて、廊下の奥に見えなくなった。


「通信は」
「やっぱり使えないね」
 マニフィカトの問いに市邨が応え、周囲を警戒する。
 通信網が使えれば他班と合流して撤退を進める手はずだったが、ここは8人で進むしかなさそうだ。
 仲間たちとともに廊下を駆けながら、梅は違和感を感じていた。
 居並ぶ廊下の歯車は、先ほどまでは機械らしい整然とした動きをしていた。
 それが。
(「今はまるで、胎動しているような…」)
 『ダモクレスと中核システムの融合』という事象に思いあたり、思わず唇を引き結ぶ。
 本来であれば、ドレッドノートは弩級の能力をもったただの兵器――だった。
 しかし、今。
 『ただの兵器』であったそれが、イマジネイターと同化することで『意思』を得たのだ。

 この事態が戦争にどう影響するかは、現時点ではわからない。
 8人は戦果と情報を届けるべく、ただ、出口を目指して走り続けた。

作者:西東西 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月14日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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