挫折を知らない男

作者:麻香水娜

●ドラグナーとしての目覚め
 薄暗い部屋で目を覚ました男は周りを確認する。
「喜びなさい、我が息子」
 声を確認すると、仮面をつけた男の口元が満足げな笑みを形作っていた。
「お前は、ドラゴン因子を植えつけられた事でドラグナーの力を得た」
 今はドラグナーとしては不完全な状態でこのままでは死亡するだろうと静かに話し出す。
 それを回避する為には、多くの人間を殺してグラビティ・チェインを奪い取り、完全なドラグナーになるしかないようだ。
「どうせ受験も失敗、彼女にはあっさり振られる、生きてたってしょうがないんだ。俺を蹴落として大学に受かった奴等に復讐してやる」
 男は軽々と手術台から飛び降りると、その部屋を出て行く。
「さて……あの男はドラグナーとして完成されるか……」
 一人残った部屋で、男の口元がにやりと歪んだ。

●何故ドラグナーに
「ドラグナー『竜技師アウル』によってドラゴン因子を移植され、新たなドラグナーとなった人が、事件を起こそうとしています」
 祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が口を開く。
 このドラグナーは、まだ未完成とでも言うべき状態で、完全なドラグナーとなるためには大量のグラビティ・チェインが必要になるのだ。
 そして完全なドラグナーとなる為、自分が謳歌できない春を謳歌する憎らしい人間を無差別に殺戮しようとしている。
「この男性、頭脳明晰で容姿も良く、今まで挫折というものを知らなかったようで……1つの失敗が相当堪えたようでして…」
 更には恋人に別れを告げられたのが決定打になって、アウルの手術に乗ってしまったようだ。
「このドラグナーは、第一志望の大学の周辺に出没します」
 時刻は午後14時頃。周辺は学生街らしく、定食屋やファミレス、カラオケにゲームセンターなどで栄えている。大学が春休みといえど、それなりに人は多い。
「事前に避難勧告をしたら予知が変わっちまうよね……」
 ファラン・ルイ(ドラゴニアンの降魔拳士・en0152)が難しい顔で漏らした。
「はい。まず、皆さんには周囲の人々の安全に配慮して頂いた上での、撃破をお願いしたいのです」
 続いてこのドラグナーは簒奪者の鎌を装備し、恐ろしく攻撃力が高いから注意して欲しいと続ける。
「ドラグナーとなってしまった人を救うことはできませんが、理不尽で無差別な復讐を行わせないためにも、どうか、事件を防いで下さい」


参加者
月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)
花道・リリ(合成の誤謬・e00200)
サフィーナ・ファイアワークス(菊牡丹の双華・e00913)
小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)
九重・伽耶(駄狐剣士・e19510)
白石・明日香(愛に飢え愛に狂い愛を貪る・e19516)
比良坂・陸也(化け狸・e28489)

■リプレイ

●被害を最小限に
「確か、あちらの方向から来るという事でしたね」
 ドラグナーの現れる方向を見据えた白石・明日香(愛に飢え愛に狂い愛を貪る・e19516)が口を開く。
「その筈だね。じゃあ、アタシは反対側からこっちに来ないように呼びかけるから、加那は明日香の声で来る人の誘導をお願いするよ」
 明日香と共に避難誘導を担当するファラン・ルイ(ドラゴニアンの降魔拳士・en0152)が、小山内・加那に声をかけた。
「よし、避難誘導は頼むで」
 最終確認をしている3人に小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)が明るく笑いかける。
「1回や2回の失敗で挫折とか……引き篭もりニート街道まっしぐらじゃねぇか……」
「挫折を知らんとか……どんだけ甘やかされてんじゃっちゅう話じゃよな~」
 月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)がうんざりしたように呟くと、九重・伽耶(駄狐剣士・e19510)は呆れたように眉を顰めた。
「誰も死んじゃあいないし、消えてもいない。全部やり直しのきくことでしょうに」
 2人の声が耳に入った花道・リリ(合成の誤謬・e00200)がひとりごちる。己も挫折を繰り返してきたが、それを周囲に当り散らすような少年の気持ちが理解できないらしい。
(「……挫折の苦しさが分からないわけじゃないけど」)
「今まで順調にきてたところで失敗してずるずるいっちゃう気持ちも分かるけど……」
 リリの複雑な胸の内を引き継ぐかのように、サフィーナ・ファイアワークス(菊牡丹の双華・e00913)が悲しげに目を伏せた。
「手前ぇに善性が足りなかったのも事実だろーけど、ドラグナーに関わらにゃいずれ立ち直ったんだろーに……」
「自棄で不幸を増やさせる訳にはいきません」
 比良坂・陸也(化け狸・e28489)が、やれやれと頭を掻くと、アリエータ・イルオート(戦藤・e00199)はドラグナーが来る方向を見据える。

 ――その時!

『皆絶望すればいいんだー!!』
 簒奪者の鎌を振り回しながらドラグナーが走ってきた。

●それぞれの役割
「な、何だあれ!!」
 1人の青年がドラグナーに気付き、周囲の者達もそちらを見る。
「う、うわぁ!!」
「きゃー!!」
 突然の事に周囲はパニックになりかけた。
「皆さ~ん! ここは危ないから、あちらに避難して下さ~い! でも慌てて他の人を押したりしちゃダメですよ~!」
 明日香がラブフェロモンを使いながら明るく呼びかける。
 周囲の人々は明日香に魅了され、その声に従って走り出した。
「こっちです。ケルベロスのみなさんがくいとめてますから、焦らないで冷静に逃げてください」
 加那が右手を上げて誘導する。
「こっから先は危険だよ! 引き返して!」
 ドラグナーの来た反対側ではファランが引き返すように声を張り上げた。
「聞けば、まだ機会のあるものでしたのにめげて情けない。そんなに不満ならかかって来なさい」
 逃げる一般人を背に庇うように前に出たアリエータが挑発するように真っ直ぐ見据えて声を上げる。
『お前も絶望を味わえ!!』
 ドラグナーはアリエータに思い切り鎌を振り下ろした。
「……く……っ」
 咄嗟に額の前に右腕をかざすと、鎌はその腕をザックリ斬り裂く。
「外にいると危険だ。近くの店や建物の中へ避難しろ!」
 避難後は窓には近寄るな、とドラグナーに向かう朔耶が周囲の一般人に声をかけながら走り、光の盾を具現化させてアリエータの周囲を浮遊させた。
「有難うございます」
 柔らかな光に傷を癒されながら朔耶に微笑む。
 軽く左手を顔の横に上げてアリエータに応えた咲耶の横をオルトロスのリキが走り抜け、口に咥えた神器の剣でドラグナーを斬りつけた。
「18歳で諦めるってなんなのよ」
 不快そうに眉根を寄せたリリは、符から数多の青い蝶や鳥を召喚した。その青達は愉しげにリリの周囲を飛び回る。
「ドラグナーにそそのかされたことがアンタの本当の挫折。せめて綺麗に飾ってあげる」
 その一言で、蝶や鳥は集まり、青い雷でできた虎のような形になって、ドラグナーに襲いかかった。
「あなたを救えないのは残念だけど……放置して傷つく人がいるのなら、見逃す訳にはいかないんだ」
 悲しげなサフィーナの声と共に、雷の虎に思い切り噛み付かれて動きを止めたドラグナーに時空凍結弾が撃ち込まれる。更にビハインドのカミヒメが金縛りにした。
『……!! くそっ!!』
 ドラグナーは苦しげに呻くと体勢を立て直して鎌を構えた。
「こっちにもおるで!」
 真奈がエクスカリバールに釘を生やし、小さな体で身軽に飛び上がると思い切り振りかぶる。
『!!』
 しかし、ドラグナーは瞬時に後退しながら頭を仰け反らせ、その強打をギリギリで回避してしまった。
「カミサマカミサマオイノリモウシアゲマス オレラノメセンマデオリテクレ」
 すかさず陸也の祈りが響き、ふわりと漂う霧はドラグナーの体に纏わりつき、鎌の刃を侵食する。
「……やはり守りを固めないときついですね」
 覚悟はしていたが、攻撃を受けてその重さを実感したアリエータがドローンの群れを操って前衛を警護させながら己の傷も回復させた。
「甘ちゃんドラグナーには早々にご退場願おうか」
 伽耶はドラグナーの右肩を目掛けて目にも止まらぬ速さで弾丸を撃ち出す。
『……ッ! お前に何がわかる!!』
 ドラグナーは左手で撃ち抜かれた右肩を抑えながら叫んだ。

●合流
「危ない!」
 真奈に鎌が振り下ろされると、サフィーナが立ち塞がり、肩に深々と刃を突き立てられる。
 陸也の霧や伽耶の弾丸で弱らせたといっても、その重い攻撃に生命力を奪われたサフィーナが片膝をついた。
「散りゆく菊華よ、どうか、大いなる癒やしを――」
 サフィーナが髪に咲く菊の花をふわりと咲かせて散華させる。細い菊の花弁は羽のように降り注ぎ、自らの傷を癒す。そこへ咲耶がマインドシールドを使い、光の盾に防護させながら更に回復させた。
 リリは、ちらりとサフィーナを見てこれなら自分が回復をしなくても大丈夫だろうと信じ、自分の役目を果たすべく思い切り気咬弾を放つ。
 リキとカミヒメは主人が回復している間にそれぞれ攻撃をしかけてダメージを蓄積させた。
「おおきに! その分お返ししたるからな!」
 真奈は庇ってくれたサフィーナに笑顔を向け、すぐにドラグナーを見据えると掌からドラゴンの幻影を放ち、炎に包む。
「運が悪ぃな」
 陸也がぽつりと漏らした。いずれ立ち直ったかもしれないがドラグナーに関わってしまったという事を痛ましそうに。
「けどよ、だからと言って好きにさせるわけにゃいかねーんだわ」
 しかし、顔を上げると一気に走り出す。その助走の勢いを乗せてスターゲイザーを放った。
『ぅ……』
 思い切り飛び蹴りを受けた腰に錘をつけられたような感覚。ドラグナーの口から呻き声が漏れる。
「お待たせしました!」
 明日香の声が響いた。こちらに向かって走りながら全身からオウガ粒子を放出させて、前衛の超感覚を覚醒させる。
「幽冥より此方へ」
 感覚を研ぎ澄まされたアリエータが魔力を餌に周囲に霊的存在を召喚。荒ぶる霊の波を一気に襲いかからせた。
『くそ……!』
 新たな敵が現れたと思った瞬間には霊の波が迫り、後ろに飛び退こうとしたが、腰が重くていう事をきかない。
「ただ努力が他者より足らんかっただけじゃろ? そのくせ、妬んで逆恨みとか三流以下、駄目駄目ちゃんじゃな」
 アリエータの放った霊の後ろから伽耶が絶空斬で傷口を広げる。
「遅くなっちまってすまないね!」
 ファランの声が後方から響くとケルベロスチェインで描かれた魔法陣が前衛を守護した。
『ゴチャゴチャうるせぇんだよ!!』
 ドラグナーは、次々増えるケルベロスと伽耶の言葉で頭に血を上らせ、ヤケクソになったかのように鎌を思い切り投げつける。その鎌は回転しながら伽耶に向かった。
「さがって下さい」
 さっと伽耶の前に飛び出したアリエータの肩を斬り裂いた鎌はドラグナーの手元に戻る。
「ここからは全力で畳み掛けるわ」
「よっしゃ! 痛いのいくで!」
 明日香とファランが合流し、回復は任せられるとリリが符を構えると、真奈が拳に炎を纏わした。
 2人が走り出すと、陸也が符を構えて詠唱を始める。
 リリの雷の虎が襲いかかり、真奈の炎を纏った拳は鳩尾に抉りこまれた。
「――急急如律令」
「挫折も失敗も成功の近道って言葉知ってるかい?」
 リリと真奈の重い攻撃が決まった直後、陸也の符から槍騎兵の式神が召還されて一気に槍を突き立て、咲耶から放たれた背に翼の生えた巨大な獣のような半透明の御業が雷撃でドラグナーの頭上から垂直に貫く。
『ギヤアアアアアアアアアア!!!!!』
 一気に連携攻撃を受けたドラグナーは回避を考える間もなく断末魔の叫びを上げて背中から倒れた。

●悲劇は防がれた!
「お疲れさん。大丈夫だったかい?」
 陸也が、攻撃を惹きつけたり、庇ったりしていたアリエータとサフィーナに声をかける。この2人やサーヴァント2体が体を張ってくれたお陰で自分は状態異常付与に専念する事ができたのだ。
「大丈夫よ」
「私も平気です」
 サフィーナもアリエータも気遣ってくれた心遣いに、嬉しそうに微笑む。
「一般人は怪我してないかしら」
 周辺の状況をざっと確認したリリが小さく呟いてヒールを始めた。
「じゃあ、もう安全だって言いながら私が様子を見てきますよ~」
「んじゃアタシも行こう。2人で手分けした方が早いだろ」
 リリの呟きに明日香が微笑むと、ファランもその後ろをついていく。

「とんだ甘ちゃんじゃったのう」
 伽耶が動かなくなったドラグナーを見下ろし、深い溜め息を吐いた。
「貴方には貴方の悲しみがあるでしょうけれど、それでも次へ進めた、筈なんですよ」
 アリエータがぽつりと悲しげに呟く。
「一番悪いのは、気持ちが落ち込んでるところにつけ込んだドラグナーだよ。早く事件を解決しなきゃね」
 隣にいたサフィーナが怒りの矛先を因子を移植した竜技師アウルへと向けた。
「ほんま、弱ってるとこにつけこむなんて、せこいやつもいたもんやな」
 その言葉に真奈も渋い顔をする。
「ほんっと! ドラグナーって変!!」
 何か手がかりはないだろうかと、ドラグナーの体を色々調べていた朔耶が声を上げた。
 手がかりらしきものは見つからなかったらしい。
「はは、せやな。飴ちゃんいるか?」
 そんな朔耶に真奈が笑いかける。
「貰う」
「他に飴ちゃん欲しい子おるか~?」
 不機嫌そうな顔を浮べた朔耶が顔を上げると、真奈は他の仲間たちにも笑顔で問いかけた。

作者:麻香水娜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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