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「皆さんご存じの通り、弩級兵装回収作戦の結果、コマンダー・レジーナ、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』と『弩級外燃機関エンジン』が、回収されてしまいました」
無論、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)に、その事を責めるつもりは毛頭ない。ケルベロス達は一人の例外もなく、懸命に任務をこなしてくれた。
「ですが、このまま放っておく訳にもいきません。マイ・カスタム(重モビルクノイチ・e00399)さん達が、載霊機ドレッドノートを警戒してくれていたおかげで、弩級兵装は今、載霊機ドレッドノートに転送されていることが分かったのです!」
集まった情報を統合すると、指揮官型ダモクレスの目的が、弩級兵装を載霊機ドレッドノートに組み込み、再起動を目論んでいたと推察される。
「もし、『ドレッドノート』が動き出すような事態になれば、私達はケルベロス・ウォーを発動することでしか、対抗が不可能になってしまいます!」
幸い、ケルベロス達の活躍により、シールドとウィングは破壊され、残る二つにもダメージが。ゆえに、載霊機ドレッドノートがすぐに動き出す事はないだろう。
「ですが、コマンダー・レジーナが健在な以上、いずれ載霊機ドレッドノートは本来の力を取り戻してしまうでしょう。それを証明するかのように、ダモクレス側にも動きがあります」
指揮官型ダモクレス6体が、載霊機ドレッドノートを守護しようと行動を始めているのだ。
「猶予を与えてはいけません。そこで、皆さんに載霊機ドレッドノートへの強襲作戦をお願いしたいのです」
来るべき、ケルベロス・ウォーによる決戦……その前哨戦の幕開けだ。今回ダモクレス側に与えられる損害が、未来の決戦にも大きく関わってくるであろう。
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「載霊機ドレッドノートは、今現在ダモクレス軍団によって制圧されています。その周辺には、マザー・アイリスの量産型ダモクレス軍団が展開されており、ケルベロスウォーを発動しなければ……」
攻め込むのは難しいと言わざる得ない。
「そのため、皆さんにはヘリオンから強襲降下作戦を行ってもらう必要があります。ですが、ダモクレス軍団も、当然対策をしているようです。その対策を主導しているのが、踏破王クビアラ。ドレッドノートの周囲に『ヘリオン撃破用の砲台』を設置し、強力なダモクレスが守備と砲台の操作を行っています」
当然、まずは砲台の撃破が必須だ。
「砲台さえ撃破できれば、ヘリオンによる降下作戦も容易になり、載霊機ドレッドノートへの潜入もできるはずです。では、次に潜入後の攻撃目標ですが、お手元の資料をご覧ください」
ケルベロス達は、セリカに手渡された資料に目を通す。
そこに記されていた内容を要約すると、以下のようになる。
1……ドレッドノートの歩行ユニット修復を行っている、ジュモー・エレクトリシアンとその配下。
ドレッドノートの動きを阻害する事が可能になると思われる。ジュモー・エレクトリシアンの目的は、完全破壊されたウィングの変わりとなるシステムの修復。載霊機ドレッドノートは飛行能力を失っている。だが二足歩行でも、完全な状態だと時速200㎞、不完全でも100㎞を越えるようだ。
移動速度は、ドクターD、智の門番アゾート、ネジクレス、ジュモー・エレクトリシアンの4体の中から1体撃破するごとに25%減少する。4体すべて破壊で、移動を封じることができるだろう。ケルベロス・ウォーを発動した後の事を考えると、たとえ時速100㎞でも、非常に厄介だ。
ただ、ドクターD、智の門番アゾート、ネジクレスは、それぞれ護衛を引き連れており、ジュモー・エレクトリシアンに至っては、さらに抱える戦力が大きいので注意を。
2……ディザスター・キングが守る『弩級外燃機関エンジン』。
ディザスター・キングの軍団は、自らが『弩級外燃機関エンジン』の一部となる事で、必要な出力を確保しようとしている。彼らを撃破する事で、ドレッドノートの出力を引き下げる事ができるだろう。
載霊機ドレッドノートが起動すれば、そのエネルギーを利用して、数多くの戦闘用ダモクレスが生み出される事になる。その結果は、ケルベロス・ウォー時のダモクレス側の戦力に直結することになるだろう。
『弩級外燃機関エンジン』は、完全に停止させる事はできない。できる限り多くのダモクレスを撃破し、出力を弱めたい。
3……『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の修復を行っている、コマンダー・レジーナとその軍団。
『弩級超頭脳神経伝達ユニット』が修復されれば、ドレッドノートが再起動し、巨体を制御して攻撃してくるようになる。その際の危険性は、相当なものが見込まれる。たとえば、ドレッドノートが攻撃したならば、単純なパンチで地面にクレーターを生み出すことも不可能ではないだろう。戦場自体にも、甚大な被害が及ぶことになる。
ドレッドノートは、パンチで殺害した人間のグラビティを奪う能力があり、この能力をもったままドレッドノートが活動を始めれば、永久的に活動し続ける事になってしまう。
システム破壊のために、コマンダー・レジーナの撃破を。そして、超弩級頭脳神経伝達ユニットの脊髄への集中攻撃を!
仮に、コマンダー・レジーナを撃破できずとも、ダメージを与えることで攻撃の頻度を抑えることができるだろう。
4……弩級兵装回収作戦で動きのなかった指揮官型ダモクレス、イマジネイター。
イマジネイターは、ドレッドノートの中核システムと融合する事での再起動を目論んでいる。
仮に融合が成功すれば、載霊機ドレッドノートは今の意思を持たない兵器から、イマジネイターという意思を持つ弩級ダモクレスに生まれ変わってしまう。
現時点での危険度は低いが、ケルベロス・ウォーに敗北するような事があれば、自ら意志を持つ弩級ダモクレスが出現する事になる為、危険度は飛躍的に増す事になるだろう。
イマジネイター撃破のためには、イマジネイターを守る全てのダモクレスを撃破しなければならない。それさえ成功すれば、融合途中のイマジネイターを撃破する事は難しい事ではない。
彼らは、個々の連携がとれていない。ゆえに、各個撃破が有効だ。しかし、連戦に次ぐ連戦はさすがに難しく、ある程度の戦力の投入は必要だろう。
「以上のような内容になっております。作戦成功のためには、まずは砲台の撃破。そしてヘリオンからの強襲降下作戦で、それぞれの攻撃目標の元に向かう形となります」
セリカが、顔を上げる。
「危険な奇襲、強襲作戦です。素早く任務を果たし、素早く撤退してください。来たるべき決戦を有利に進めるためにも、どうか皆さんのお力をお貸しください! この作戦で得られた戦果が、未来を左右するかもしれないのです!」
参加者 | |
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江田島・武蔵(人修羅・e01739) |
ミツキ・キサラギ(ウェアフォックススペクター・e02213) |
山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918) |
天音・迅(無銘の拳士・e11143) |
南條・夢姫(朱雀炎舞・e11831) |
御巫・神夜(地球人の刀剣士・e16442) |
ファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308) |
篠村・鈴音(緋色の刃・e28705) |
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「合図だ。では、ゲーム開始と行きましょうか」
蒼穹に打ち上がる8つの信号団の行く末を最後まで確かめることなく、江田島・武蔵(人修羅・e01739)はヘリオンから強襲降下作戦を実行する。
「赤の信号弾は……ないか。クビアラ部隊は上手くやってくれたみたいだ」
「そのようだな。それに……静かな空だ」
その信号弾の中に、危険領域を示す赤は存在しない。また、耳を澄ますまでもなく、砲撃の轟音が止んだ空は、数刻前と比べて静謐そのものであった。戦車型鎧装モードのミツキ・キサラギ(ウェアフォックススペクター・e02213)が、仲間の奮闘を讃えるように口端を吊り上げて笑うと、ファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)は落ち着いた瞳をスッと細め、静かな空へと飛び出した。
「ここでの頑張りが次に繋がるんだよねっ……絶対に成功させないと!」
載霊機ドレッドノート内部。ネジクレス部隊を筆頭に、他部隊と共に敵の元へ向かう道中で、山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918)は気負ったように拳を握りしめていた。
「アンタ達は私が責任を持って家に帰してあげるから、そう力まないの」
涼子を落ち着かせるため、その背中をバシリと叩くのは、御巫・神夜(地球人の刀剣士・e16442)。彼女とて、今回の作戦の重要性は承知している。だが、最年長として、若者達を引っ張っていかないという意識があるのだろう。
「そうですよ、山之内さん。私達に出来るだけのことをすればいいんです……っ!」
緊張という意味では、南條・夢姫(朱雀炎舞・e11831)も、涼子と大差はない。だからこそ、自分も心を落ち着けるという意味でも、そう声に出して告げる。
「……う、うん!」
すると涼子は、一旦大きく深呼吸を繰り返して、頷きを返してくれた。
「さあて。皆で立ち向かい、欠ける事無く還ろう」
「ええ、正直状況は厳しいですが、全力で!」
為せば成る……そう楽観視できる戦況ではないが、気持ちで負けていれば勝てる戦も勝てはしない。
とにかく前へ! 天音・迅(無銘の拳士・e11143)の言葉に、篠村・鈴音(緋色の刃・e28705)は、眼鏡の奥の瞳に希望と熱意を輝かせるのであった。
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そこは、まるで墓場のような空間であった。足元には無数のネジが突き刺さり、そこかしこには、機械化に失敗した多種多様な種族の残骸、亡骸が散乱している。
「彼女で間違いないよね?! よし……いくよ!」
そんな死が満ちる空間で、背中からゼンマイネジを生やし、左手に凶器を手にした若い女の姿を涼子が捕捉する。ケルベロス達の存在に気付いたのか、他の敵3体と共に作業を中断して警戒を露わにする彼女――ヒューマン・ポーンに向け、涼子は疾走する。
そして、ガントレットを纏った拳から繰り出される匠の技が、ポーンの顔面を打ち抜いた!
「ガァッ……ア、貴方達ハ!?」
周囲のネジを吹き飛ばし、ネジクレスから遠ざかるように派手に転がるポーン。生身の声に、奇妙な機械音声じみた雑音を混じらせた叫びを上げるポーンだが、その声には隠しきれない焦りの色が滲んでいる。
「クぅ!」
「おっと! どこに行くおつもりですか?」
慌てて立ち上がり、ケルベロス達に背を向けようとするポーンの正面に立ち塞がったのは、鈴音。鋭い凶器の切っ先を紙一重で躱しながら、鈴音の重力を帯びた飛び蹴りがポーンの腹部へと叩き込まれた。
「もう遅いですよ!」
「観念するんだなッ!」
夢姫が巻き起こした、カラフルな爆風。景気づけに上がったその爆風の勢いのままに、ドラゴニック・パワーを噴出するミツキのハンマーが、超速でポーンを追撃する。
「……ネジくレす様……!」
タイミングをほぼ同じくして、ドラゴン・クイーンとビルディング・ルークの元にも、それぞれ別のケルベロス部隊が強襲を仕掛けていた。ポーンの視界の先にあるのは、無防備な姿を晒した彼女らのBOSS――ネジクレス。
「そこをドけエえエエッっ!!」
「そういう訳にもいかん。何故なら、アンタらの好き勝手を許す訳にもイカンのでな。覚悟して貰おうか」
ケルベロス達の包囲を突破し、ネジクレスの護衛に向かうため、ポーンは奮闘する。振るわれる凶器を武蔵は斬霊刀で捌きつつ、一旦距離をとってから跳弾でポーンの動きを牽制。
それでもなお、ポーンは強引にケルベロス達の間を割ろうと突っこんでくる。まるで、ダンスでも踊っているかのような、規則的で、機械的な突進。前衛、中衛全体に向け、なぎ倒すようなそれに対し、
「……行かせない」
ファルゼンとフレイヤが、文字通りの壁となって押し返す。たとえ動きを鈍らされ、回避率がダウンしようとも、一切考慮に入れないその献身。
(さぁ、早く追撃を頼んだぞ)
――と、いう訳でもないのかもしれないが、結果的にチームの役に立っているのなら何も問題はない。
「はいよ!」
ファルゼンの急かすような視線を向けられた迅が、苦笑を浮かべながらアウトレンジから衝撃波の嵐を放つ。
さあ、どう捌くんだ? 捌いてみせる? 不敵な迅の笑みは、ポーンを挑発するように、だが笑みに僅かも劣らないだけの連撃に次ぐ連撃。
「こ、コノ程度デぇ!」
ポーンはそう強がってみせるが、ナイフによるガードが次第に間に合わなくなっているのは一目瞭然だ。
「そこよッ!」
そして、迅への対応に気を取られているポーンの一瞬の隙をついて、神夜の卓越した技量からなる斬霊刀の一閃が、ポーンの肩から袈裟懸けに刻まれた。
その時、状況がさらに動き出す!
「邪魔ヲしないデ貰いたワ!」
「生憎、これが私達の仕事だ」
3部隊による、護衛の分断。作戦が見事成功しようといている今、仕上げとばかりにネジクレスに向け、ネジクレス部隊がついに強襲を仕掛けようと、行動を開始していた。
「そっちは任せたぞ。こちらは私達に任せろ」
ファルゼンは、ポーンに向かって炎を纏った蹴りを浴びせると、その眼前でヌケヌケとネジクレス部隊に対して声をかけた。刻一刻と互いの距離が遠ざかっているため、相手の返答はファルゼンの耳には届かなかったが、目元に十字傷のある螺旋忍者の口の動きから、『承知!』そういったニュアンスであることは分かった。
ネジクレスの危機を知りながら、足止めされて動けない現状に、ポーンは歯軋りと共に、桃色の髪を苛立たしげに振り乱している。
「ソッチがそういウつもリナラ!」
だが同時に、ポーンもネジクレスの救援を一旦諦めたのか、ケルベロス達に向き直った。彼女は、歩兵。ただ、眼前の敵に刃を振り下ろすことのみを求められた存在。
ポーンが刃を振るう。すると、放たれた無色透明の斬撃がミツキの肩口を切り裂き、金色の毛髪が一房、二房巻き込まれて宙を舞う。
「……ッ! そんなもんでッ!」
対するミツキは、攻撃に怯む様子も見せない。どころか、むしろポーンへと飛びかかると、その細い首筋に噛みつき、金属混じりの肉を噛み千切る。
「ミツキくん、大丈夫ですか!?」
「……大丈夫だ、問題ない」
血を滴らせながらも強がるミツキに、夢姫がヒールを施す。
「さぁ――癒してあげなさい」
無数のピンク色の蝶をミツキに飛ばしたのだ。プリンも翼を羽ばたかせ邪気を払おうとするが、減衰の効果もあり、些か付与に時間がかかっているようだ。
「先に殺らせてもらウわ!」
だが、その際もポーンの攻撃が止むことは無い。痛覚がないのか、抉られた首を気にする様子もなく、ポーンが次に狙うのは、主にジャマーの2人。
「はいはーい! ここから先は行き止まりですよー?」
襲い掛かる歪に変型した凶器を寸前で食い止めたのは、鈴音であった。
空の霊力を帯びた鈴音の緋焔。そしてポーンの禍禍しい凶器が幾度も激突し、皮膚を削り合いながら火花を散らす。互いに付与されたBSを増殖させながらの攻防。
(ポーンのポジションはクラッシャーか。なら……)
仲間を庇いつつ戦況を見つめるファルゼンの決断は、守備と回復に専念する事。
「落ち着け。合わせろ。呼吸を。意識を」
シャウトの応用技を駆使して、ファルゼンは鈴音、そして自身のダメージを順に癒やしていく。
「鈴音! こっちからも援護するぜ!」
「ええ、一旦下がって態勢を立て直しましょう!」
「了解です!」
歩兵といえども、さすがはネジクレスの護衛だ。ポジション効果も上乗せされ、相当な攻撃力を有している。
迅と神夜の声に従い、鈴音が下がる。
「ボクに任せて!」
変わりに、牽制のため鈴音と入れ替わるように前に出たのは涼子。
「ファルゼンが回復に専念してくれている以上は――」
「ああ、回復不能ダメージを与えるのは俺達ジャマーの仕事だ!」
涼子の援護のため、神夜の達人の一撃と、迅の炎を纏った激しい蹴りがポーンの身を凍らし、焦がす。
「これでも喰らえーッ!」
そして、ジェットエンジンで加速した涼子の重拳撃が、ポーンの華奢な身体を軽々と吹き飛ばし、
「悪巧みをするような輩の末路は常に一つだ。……分かるか?」
「イ゛ああアア゛!」
雷を帯びた武蔵の斬霊刀が、ポーンの白い肌に突き立てられた。
●
「おら、どうした!」
「クッ、小賢しイワねッ!」
翼、そしてエアシューズの機動性を生かし、迅は絶えず移動を続けポーンを攪乱する。
「ほぅ、余所見している暇があるとはな」
だが、ケルベロス達は8人で一つのチーム。誰かに気を引きつけられたが最後、ポーンは武蔵がばらまく無数の銃弾を浴びることにでしか、ツケを清算する事ができない。
そして、一度リズムを崩せば、後は連鎖的。焦った所に、いつの間にか死角に回っていた迅の時空凍結弾がポーンに打ち込まれる。
戦闘開始から、およそ6分少々。ケルベロス達は、徐々に戦況を有利な方へと引き寄せようとしていた。
(まだ、他のチームも絶賛戦闘中のようね)
神夜が刀身に雷を纏わせながら、周囲の状況に目を配る。彼女が見た限りでは、どこの戦況も、そう悪いものではないようだ。
「走れ、鳴神!」
そして、神夜が数度放った中で、ようやく神速の斬撃がポーンに命中した事により、敵の消耗が疑惑から確信へと変わる。
「皆さんの攻撃は、ちゃんと効果が出ていますよ!」
同じくポーンの状況を察した夢姫が場を盛り上げつつ、厄介な存在として狙われているジャマー2人を中心に、薬液の雨を降らせている。
(正直、私一人だと、ヒール量としては物足りないのですが……!)
仲間にもそれぞれ回復手段があるとはいえ、そっちに気を取られると攻めが疎かになる。ポーンの攻撃力は、やはり並ではない。だからその点で、夢姫はファルゼンが黒子に徹してくれていることに感謝していた。
「……ん?」
夢姫の視線に気付いたのか、傷ついた身体に気合いを入れるファルゼンが、チラリと後方を振り返る。夢姫が目配せをすると、何でも無いとばかりにファルゼンは肩を竦めてみせた。
「イイ加減にィッ――!」
「鈴音、出番だぞ!」
「もうっ、ミツキさん人使いが荒いですよ! 私は殴られるようりも、ぶん殴る方が好きなんですから!」
「いや、それもどうかと思うが……」
殺意を剥き出しにするポーンを前に、ミツキと鈴音は軽口を叩き合いながら、見事な連携を見せる。ミツキに振り下ろされる変型した凶器を鈴音が受け止め、拮抗している所にミツキが降魔の一撃を放ったのだ。
「……ッ、ア゛」
その瞬間、ポーンに今までに見られない変化が起こる。バチバチと、傷口から放電を始めたのだ。だが、それはポーンの攻撃という訳ではなく……!
「悪いけど、一気に決めさせてもらうからねー!」
あと一歩、もう一押しだと踏んだ涼子の達人の一撃が、ポーンに突き刺さる。
だが――!
硬直状態から一転して、ポーンが凶器から無色の斬撃を放つと、その一撃は神夜に直撃。
「くぅっ……!?」
ディフェンダーに次いで、最も消耗度の激しいポジションに位置していた彼女は、その一撃を受け、思わず膝をついてしまう。
「プリン!」
「フレイヤ、彼女を守るぞ!」
慌てて、夢姫の指示を受けたプリンがヒールを、ファルゼンとフレイヤが最悪の事態を想定して動き出す。
「神夜!? よくもやりやがったな!」
隣で非常事態に陥る神夜の姿に迅は口端を噛みつつ、虫の息のポーンにトドメを刺すべく、重力を宿す飛び蹴りでアシストを。
「一刀必殺。意地の一撃受けてもらおうか」
迅が元の立ち位置に戻ろうとすると、斬霊刀を手に、独特の上段構えをとる武蔵とすれ違う。
その際に迅は、その一刀に賭けられた念を感じ取る。そして恐らくは迅以上に、ポーンはその強烈な威圧を感じていただろう。
「これで終わりだ。あばよ」
二の太刀はいらない。ゆえに、一の太刀!
武蔵は一瞬でポーンとの間合いを詰めると、瞬く間にポーンの肉体を両断! 血と共に機械化の部品を撒き散らしながら、ポーンはネジの海へと沈んでいくのであった。
●
「他のチームの援護に行こうよ!」
配下の相手をする3チームの中で、いの一番にポーンとの戦闘を終えたケルベロス達。
涼子が意気揚々と、未だ戦闘中であるはずの他のチームへと視線を向ける。
だが、その必要はないとばかりに――。
ポーンの撃破からほとんど間を置かず、ドラゴン・クイーン、ビルディング・ルークと、他の部隊も順々に敵の撃破に成功したようだ。
必然的に、残るはネジクレスただ一体。
しかし、それも……。
「ネジクレス、討ち取ったりぃ!」
自信に満ちた髭っ娘ドワーフ少女の勝ち鬨が、ネジ空間を華やかに彩った。
その彩りに、さらに華を上乗せするように、ケルベロス達の歓声が轟くのであった。
「少しばかり、肩すかし気味だったな」
命を賭ける……とまではいかないが、ある程度の困難を想定していたミツキが言う。だが、決して不満げな様子ではなく、その表情には笑顔。
「ミツキくんも、そういう所は男の子ですね~! 割り振りがバッチリ決まって、各個撃破できたこそですよ!」
勝利の余韻で高揚しているのだろう。夢姫は悪戯っぽい笑みを浮かべながら、「おい、やめろ!」と暴れるミツキの頭をよしよしと撫でた。
「それでは皆さん、私達が殿を務めますので、さっさとここからおさらばしちゃいましょう!」
と、遊んでいる訳にもいかない。鈴音が、全体へと撤退開始の合図を出す。
「よし、最後もきっちり締めようぜ!」
迅も気合い十分に、行動を始める。
「これで少しはこちらに有利になればいいのだがな」
一悶着あったビルディング・ルーク部隊の話し合いが一段落した後、殿を務めながら、武蔵がポツリと呟いた。
「そうね。でも、まずは私達の勝利を喜びましょう」
何よりも、無事だったこと。たとえダモクレスとの決戦が避けられないにしても、今だけは……。神夜は仲間へ慈しむような視線を向けながら、ホッと胸を撫で下ろすのだった。
作者:ハル |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年4月14日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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