載霊機ドレッドノートの戦い~砲台が守るモノ

作者:質種剰


「弩級兵装回収作戦の結果、コマンダー・レジーナ及び、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』と『弩級外燃機関エンジン』が回収されてしまったであります」
 小檻・かけら(藍宝石ヘリオライダー・en0031)が説明を始める。
 この回収された弩級兵装は、どうやら載霊機ドレッドノートへ転送されたようだと、載霊機ドレッドノートを警戒していたラズェ・ストラング(青の迫撃・e25336)達によって判明した。
「指揮官型ダモクレスの目的は、弩級兵装を載霊機ドレッドノートに組み込んで、載霊機ドレッドノートを再び起動させる事だろうと想定されます」
 弩級ダモクレスの代名詞でもある『ドレッドノート』が動き出すような事があれば、人類はケルベロス・ウォーを発動しなければ到底対抗できない。
「皆さんのご活躍により、弩級兵装の2つは完全破壊、残る2つにも大きなダメージを与えられた為、載霊機ドレッドノートがすぐに動き出す事はありますまい」
 しかし、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』を修復可能なコマンダー・レジーナを撃破できなかった故に、敵へ時間を与えてしまえば、載霊機ドレッドノートは本来の力を取り戻してしまう。
「現在、指揮官型ダモクレス6体は、その全力をもって載霊機ドレッドノートを守護し、復活させようと動き出してるであります」
 そこで、載霊機ドレッドノートへの強襲作戦を行う。
「来るべきケルベロス・ウォーの決戦の前に、載霊機ドレッドノートを守るダモクレス達へどの程度の打撃を与えられるかが、今後の戦いの趨勢を占うことになりましょう」
 そうかけらは断言した。
「現在、載霊機ドレッドノートは、ダモクレス軍団によって制圧されてるであります」
 ドレッドノートの周辺には、マザー・アイリスの量産型ダモクレスの軍勢が展開している。
 その為、ヘリオンからの降下作戦を行うのだが、踏破王クビアラが対ケルベロス作戦として、ドレッドノートの周囲に『ヘリオン撃破用の砲台』を設置し、強力なダモクレスがその守備と砲台の操作を行っているので、この砲台の撃破が必要になる。
「砲台を撃破できれば、ヘリオンによる強襲降下作戦で載霊機ドレッドノートへの潜入が可能となるであります」
 潜入後の攻撃目標は4つ。
 1つ目は、ドレッドノートの歩行ユニットの修復を行っている、ジュモー・エレクトリシアンとその配下だ。この部隊を攻撃する事で、ドレッドノートの動きを阻害する事ができるだろう。
 2つ目は、ディザスター・キングが守る『弩級外燃機関エンジン』。
 ディザスター・キングの軍団は、自ら『弩級外燃機関エンジン』の一部となる事で、必要な出力を確保せんとしている。彼らを撃破する事で、ドレッドノートの出力を引き下げる事ができるだろう。
 3つ目が『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の修復を行っている、コマンダー・レジーナとその軍団。
 載霊機ドレッドノートの脊髄にあたる部分に配下のダモクレスを護衛として配置、その上で『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の修復作業を行っているという。
「『弩級超頭脳神経伝達ユニット』が修復されてしまうと、ドレッドノート自身が巨体を制御してケルベロス達に攻撃できるようになる為、一層危険になるであります」
 そして最後の目標は、弩級兵装回収作戦で動きのなかった指揮官型ダモクレス、イマジネイター。
 イマジネイターは、自身がドレッドノートの意志となるべく融合を画策している。
「現時点での危険度は低いでありますが、万が一、ケルベロス・ウォーに敗北するような事があれば、自ら意志を持つ弩級ダモクレスが出現してしまいます故、この融合を阻止できるならばしておきたいでありますね」
 かけらはそう告げると、
「今回の作戦は、重要な拠点をピンポイントで攻撃する奇襲作戦になります。作戦終了後は、素早く撤退しなければ敵の勢力圏に取り残されますのでご注意くださいませね」
 と皆を激励したのだった。


参加者
久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)
ヴォイド・フェイス(ミスタースポイラー・e05857)
ドットール・ムジカ(変態紳士・e12238)
妹島・宴(交じり合う咎と無垢・e16219)
舞阪・瑠奈(サキュバスのウィッチドクター・e17956)
富士野・白亜(白猫遊戯・e18883)
マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)
二階堂・燐(鬼火振るい・e33243)

■リプレイ


 ドレッドノートの上空に信号弾が8度、緑の光を放ってから数分。
 脊髄部を望む宙域へ差し掛かったヘリオンから、8人は降下した。
「この戦いでは皆、思う事があるかも知れないけど無理はしないでね」
 舞阪・瑠奈(サキュバスのウィッチドクター・e17956)は、広大なダンジョンと化した弩級兵器の中を他の11班と共に進みながら、仲間へ暖かい声をかける。
 綺麗に切り揃えた黒髪と煌めく青い瞳が印象的なサキュバスの女性。
 温和で優しい性格だが、戦闘ともなれば意外と好戦的で敵に対して容赦が無くなる一面も持つ。
 料理上手で将来良い奥さんになりそうな、ひたむきに愛に生きるヤンデレ美人である。
「帰りを待ってる人もいると思うから……」
 そう呟く瑠奈自身が、常日頃一途に想っている同棲相手の男性を残して、危険極まりない戦場へ赴いている身だ。
 なればこそ、ここへ来るまでの相談中に仲間の様々な人間関係を垣間見た彼女は、生来の思い遣りの深さから気遣わずにいられなかったのだろう。
「だいじょーぶだいじょーぶ、俺様は死ぬまで不死身だから!」
 ヴォイド・フェイス(ミスタースポイラー・e05857)は、瑠奈へやたら軽いノリで答えると、キョロキョロと辺りを見渡して防衛隊がいないか警戒する。
 顔が地獄化したのをきっかけに、常に髑髏を模した覆面を被っているブレイズキャリバー。
 敵を倒すよりも命の凌ぎ合いをしている瞬間が楽しいらしく、戦闘狂のきらいがある。
 普段から適当な事ばかり言っているが、それはそれでヴォイドの精神の均衡——つまりは余裕の有無を測る指標ともなるようだ。
 その生き様は正義の味方でも悪の使者でもない、敢えて言うならアンチヒーローだとか。
「オーライ、全員笑って無事にかえってこようゼ! どいつもこいつも纏めて安全最優先!」
 あくまで高いテンションを崩そうとせず、騒がしくも飄々とした風情で進むヴォイドだ。
「確かに無茶は出来んが……私もこの戦いが終わったらいよいよ結婚……これアカンヤツや……」
 ドットール・ムジカ(変態紳士・e12238)は、自らフラグを立てる発言に1人ツッコミをしている。
 生来の目つきの悪さを子どもに怖がられてしまった為、オーダーメイドの特注マスクで素顔を隠したウィッチドクター。
 口調は丁寧かつ低姿勢ながら饒舌家、仮面やスリーピーススーツの上からでも判る痩身と相まって、ドットールをより胡散臭く見せている。
「とりあえずは、終わったら勝利の美酒かな?」
 とはいえ、彼の多弁には仲間を気遣った言葉も多く、今回の作戦成功へ向けて様々な情報整理をするなど、その内面は見た目に反して気配りに長けた努力家だったりする。
「今回の作戦を成功させることが大事な人達を守ることに繋がる……何があっても。全力で挑んで、そして無事に全員で帰りたい!」
 マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)も、つい最近大切な人の中に恋人が増えたばかりである為か、強い決意を胸に前を見据える。
 長く柔らかな髪と褐色の肌、夜明け色の瞳が神秘的なオラトリオの美少女。
 大きな羽は常に仕舞っているものの、黒髪に咲いた赤いハイビスカスの花が、生来の異国情緒を更に高めていた。
 よくも悪くも素直で純真な性格で、海と夕焼けと夜、パンケーキが好きだそうな。
 彼女の連れたシャーマンズゴーストのアロアロは、主とお揃いなのか、黄色いハイビスカスの花冠とレイを着けている。
「大丈夫、きっと上手くいく……ってワタシ信じてるから」
 敵地に乗り込んだただならぬ緊張感の中でびくびく物怖じするアロアロを、マヒナは努めて明るく元気づけた。
「弩級超頭脳神経伝達ユニットの完全破壊ができなかった分のリベンジだ」
 一方、富士野・白亜(白猫遊戯・e18883)は、記録参謀『マスター』ジェネシスとの戦いを思い出し、悔しそうに唇を噛んだ。
 絹のような白い髪と真っ赤な猫目が可愛らしい白猫の人型ウェアライダー。
 常々無表情ではあるが、代わりに感情を表すかのように猫耳が動く。
 また、何かあると言葉より先に手が出る過激な一面も持ち合わせている白亜。
「ここでやりきれなかったことやりぬいてやる……例え私がどうなっても、だ」
 実際、あの時の白亜達は自チームの担当するユニットを完膚なきまでに叩きのめし機能停止させたのだが、全体的な成果に悔恨が残るらしく、悲壮な決意を固めた声は重かった。
 他方。
「これが狙いだったんだな……弩級ダモクレス、載霊機ドレッドノート! まったく、面白くなってきたじゃないか」
 二階堂・燐(鬼火振るい・e33243)は、元より好戦的な性格故かやる気満々らしく、大きな戦いを前にワクワクしているのが伝わってくる。
 黒目黒髪美形を誇るも、言動に残念さを漂わせる青年刀剣士の燐。
 その明るさから場を盛り上げるムードメーカーとしての振る舞いに長け、自覚か無自覚かは判らないが他人の心の機微を読むのも上手い。
「ケルベロス・ウォー前哨戦、いっちょド派手にキメてやろうぜ!」
 ヘリオン内でも『ぶっちゃけ、斬れば何とかなる』と豪語した燐だけに、皆を鼓舞する姿は、戦いの場数を踏んだ自信と仲間への信頼に溢れて、非常に頼もしかった。
「ええ、来るべきケルベロス・ウォーでの被害をできるだけ抑えるために、ぼくたちが敵の戦力を削らなければ」
 妹島・宴(交じり合う咎と無垢・e16219)が、いつもの無表情ながら気合い充分といった風情で燐へ頷いた。
 日頃はメディックを担当する事の多いサキュバスのウィッチドクターだが、この日は不測の事態へも対応できるよう考えてか、ディフェンダーとして出陣。
 尤も、既にヘリオン撃破砲台の全てが機能停止、レジーナ配下の防衛部隊が待ち受ける宙域まで石英へ乗って無事に移動した為、宴の懸念の一つは解消できた。
(「無事に戻れるよう、全力を尽くしましょう」)
 慎重に前進する宴の薄紫の眼には、強い意志が宿っていた。
「レジーナ絡みのダモクレスの騒動も、もうすぐ一段落つくかね」
 久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)も、仲間の緊張を解そうと、気負わない風情で爽やかに呟く。
 短く整えた黒髪と、クールな雰囲気の中にも温かな光を湛えた赤い瞳が魅力的な、地球人の少年だ。
 白いコートと青いタートルネックのニットが、航の生来持つ落ち着きや清潔そうな空気を更に高めている。
 童顔にコンプレックスがあるらしく、却って見た目通りの振る舞いを心がけているが、素の口調はなかなかに乱暴、隠している本性も大雑把で面倒臭がりだそうな。
「……ま、俺はレジーナとも配下とも面識もなけりゃ因縁もないんだが、どうやら因縁ありそうな人もいるしな」
 せいぜい手伝わせてもらって、さっさとこの騒動にも決着を付けようか。
 この日の航は、そんなしがらみの無さ故か、いつも以上に自然体の趣で、床を駆け降りる所作も大層身軽に見えた。


 載霊機ドレッドノートの脊髄部へ辿り着く為、12班が密に連携を取り、それぞれの目標へ攻撃を仕掛ける様は圧巻であった。
「お前は俺達が相手だ!」
 航が早速、日本刀を引き抜くと同時に敵の懐へ飛び込む。
「やれやれ、こうも容易くネズミが入り込むとは……対ケルベロス作戦はどうなったのかね」
 8人が対峙するのは、コマンダー・レジーナ旗下の防衛部隊が1人、ヴァリッド・フォールスだ。
「そう易々とやられてたまるかってーの!」
 雷の霊力帯びし白刃による突きを、神速で浴びせる航。
「グっ……!」
 ヴァリッドの筋骨隆々とした黒い腹部を貫いて、硬そうな守りを物理的に崩した。
「苦しいのは、最初だけですから……我慢、してくださいね?」
 宴は、自ら精製した様々な毒や呪いに効く抗体を、魔術回路を通して前衛陣へ投与、彼らの異常耐性を高めた。
「さあ、避けられるものなら避けてみて」
 と、ライトニングロッドを振り翳すのは瑠奈だ。
「あぢィッ!?」
 先端から眩く迸る雷がヴァリッドの頭部を直撃、全身を強い衝撃が駆け巡った。
「まるで特撮ヒーローのようだな」
 何でも思った事を率直に言う白亜は、エクスカリバールを思い切り振りかぶって。
 ガスッ!
「ウギャアアア!」
 先端の曲がった部分を突き刺すようにヴァリッドの胸へ叩きつけ、その硬い筋肉を一気に引き裂いた。
(「大事な人が言ってた、『生きていれば勝てる』って」)
 恋人がいつか語った言葉を胸に、縛霊手の祭壇から紙兵を取り出すのはマヒナ。
 絶対無事に皆で帰ろうという強い決心を込めて霊力の宿った紙兵を降らせ、後衛陣の異常耐性を上昇させた。
 アロアロは、マヒナの陰に隠れつつも原始の炎を召喚、ヴァリッドへ火傷を負わせてライダースーツが少しずつ燃えるのを狙っている。
「あんたらが撃ち墜とそうとしたのは、僕らの未来を照らす光だ。……そう簡単に、消されてたまるかよ!」
 燐は想いを込めて断言するや、青い炎揺らめく鬼門大通天の一太刀を見舞う。
 ザンッ!
 もはや達人の域に到った剣技は余計な動きの一切が削ぎ落とされ、流れるような斬撃でヴァリッドの肩口を斬り裂き、凍りつかせた。
「Hey,随分イケメンになったナ? いやぁ、生きてくれててアリガトウ!」
 と、ヴァリッドの事を知っているのか、やたら親しげに声をかけるヴォイド。
「俺様が狙った首が知らネェ間に掻っ攫われたなんてことになってたら、Doしよーかと!」
 軽口を叩きつつ引いたのは、Vacant Flashの銃爪。
 ババババババッ!
 その瞬間、銃口の向く先——ヴァリッドの脇腹に貼りついた見えない爆弾が次々爆発、ヴァリッドに畏れと威圧感を植えつけた。
「レジーナ様の邪魔はさせん……」
 しかし、ヴァリッドはヴォイドを無視して、右腕の肘から先に内蔵されたジェットエンジンを起動。
 急加速を乗せたバトルガントレットによる重拳撃を放つ。
「どこにいたって私が庇ってやる」
 間一髪のところでヴァリッドと瑠奈の間へ割り込んだのは白亜。
 瑠奈の代わりに巨大な金属の籠手を我が身で受け止め、体力を削られると同時に高まった異常耐性を消されてしまった。
「いやぁ……かわいこちゃんが多いですね? ケガなんてさせられんな!」
 すかさずドットールが医療用伝弦『癒』を地面へ伸ばして展開。
 前衛陣を守護する魔法陣を描いて、白亜の怪我を治療した。


 ヴァリッド・フォールスは、まるでゾンビのようにしぶとかった。
 右腕によるブーストナックルの合間、放電した棍を握った左手で殴りかかる度に、その焼け焦げた傷口から生命力を奪い、自分のものにしていた。
「おぅふ!? ……やるじゃネェか。けっど俺様の我侭で決めたよーな戦場だ、誰一人倒れさせやしネェっつの」
 何度目かの電撃棍をマヒナの代わりに喰らったヴォイドが、肩を抑えながらニヤリと嘯く。
「そう言うヴォイドさんも志半ばで倒れないでくださいね? 洒落にもならないですから」
 ドットールが、ヴォイドへ強引なショック打撃を施し、失った体力を大幅に回復させた。
「もう二度と戻って来られない彼方までぶっ飛ばしてやる。おやすみよ!」
 鬼の霊力を極限まで集約させた鬼門大通天を全力でフルスイングするのは燐。
 ゴキィッ!
 鉄槌が金床を叩くかの如き鋭く硬質な轟音に混じり、奴の肋骨の砕ける怪音が、刀の柄から燐の手に伝わってくる。
 それでも躊躇わずに刀身を振り抜き、宣言通りヴァリッドをぶっ飛ばした。
「そろそろバテてきましたか? 後何発耐えられるでしょうね」
 宙を舞う一瞬の無防備さを狙って、宴もまた、ドラゴニックハンマーを振り上げる。
 超重の一撃が深緑のボディーを襲い、生命の『進化可能性』を奪われて凍てついたヴァリッドは、再び空中へ投げ出された。
「貫け! 流星牙!」
 その隙を逃さずに、次は航が日本刀を構えて神速の突きを見舞った。
 エンブレムミーティアからヒントを得たという、紋章の力を借りた一撃が、ヴァリッドの胸部を深々と刺し貫く。
 ズブシュッ!
 流星牙の凄まじい破壊力に加えて、早速アイスエイジインパクトによる凍傷もヴァリッドの身体を蝕んだ。3人の息の合った連携である。
「生成完了。これを見切れるかしら」
 瑠奈は、『透明な硝子状のメス』をグラビティで生成する。
 その名の通り、透明な硝子を模したグラビティ故に視認し難く、初見でこれを防ぐのは至難だという。
 現に、ヴァリッドも腹に焼けるような痛みが疾って初めて、不可視のメスに斬り裂かれたと気づいたぐらいだ。
 しかも、自覚した際の驚愕もあってか、今のヴァリッドは攻撃を避ける事にまで神経が回らなくなっているようだ。
「頭上注意、だよ?」
 マヒナはグラビティによって大きなヤシの木の幻影を作り出す。抜けるような青空が目に浮かび、遠くから波の音まで聴こえてきそうな南国の風情だ。
 そして、ヴァリッドの頭上を狙い澄まして、ココナッツをゴツンと落下させた。
「ぐゥッ……!」
 景気良く複数落っことした為に、見た目にもかなり痛そうである。
 アロアロも、物言わぬ祈りを捧げて、棍を身体で受け止めた宴の傷を癒すと同時に異常耐性を高めた。
「ん、すぐに従うといい」
 ボス猫の如き威厳に満ちた態度を示して、一瞬ヴァリッドを怯ませるのは白亜。
 その刹那、白亜は優雅かつ軽やかな挙動で飛びかかると、グラビティを込めた足先で思いっきり、奴の顔面を容赦なく踏みつけた。
「盾で殴られたら痛いんだゼ? 攻めDfとは俺様のこと!」
 ヴォイドはそう言い放つや、ヴァリッドの頭を掴んで地面へ引き摺り倒し、正面から馬乗りになる。
「最後のとっておきを見せてやる。お前だけにしか使えない、スペシャルだぜ? ……多分」
 ——ザクッ!
 そのまま、両手で握り締めたナイフをヴァリッドの顔目掛けて振り下ろした。
 ——ドスッ!
 振り下ろした。
 ——ガキッ!
 振り下ろした。
 何度も何度も、ヴァリッドの顔面が血泡に塗れて原型を留めなくなるまで、ヴォイドは奴を刺し続けた。
「……申し訳、ありませ……レジーナ様……」
 姿形が人間に近いとはいえ、やはりダモクレスであるヴァリッド・フォールスは、ケルベロス達によって心臓に重力の楔を打ち込まれ、死を迎えた刹那、
 ドゴォォォン!
 己が身体を木っ端微塵に吹き飛ばす大爆発を起こして、完全に消滅した。
「もう大丈夫だよ、アロアロ」
 恐がる相棒をマヒナが宥める。
「万事上手くいったら後はヤれるとこまでヤる! 男の子だもの!」
 息巻くヴォイドを始め、レジーナ戦の援護へ向かう8人だが、既に他班がレジーナを撃破したと知るや、撤退行動へ移る。
「ムジカくん、行くよ?」
「スチパンファンとして歯車の一個ぐらいは持って帰らねば……!」
 ドットールは去り際、手頃な歯車をまるで木に生った果実のように、ぶちりと捥いでいった。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月14日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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