執念だけは天才的ドラグナー、復活

作者:秋津透

 愛知県岡崎市、岡崎公園。深夜。
 昼間は市民の憩いの場として賑わい、歴史史跡を訪ねる観光客も大勢見受けられる場所だが、さすがにこの時刻には人の気配がない。ところが、その一角、岡崎城復元天守の正面に、いったいどこからやってきたのか、奇怪な集団が姿を現わした。
「あら、この場所でケルベロスとデウスエクスが戦いという縁を結んでいたのね。ケルベロスに殺される瞬間、彼は何を思っていたのかしら」
 修道女のような姿の女性が、背後に従えた空中を浮遊する三体の怪魚に向かって告げる。白い翼をもち、一見、オラトリオのシスターかと思えるこの清楚そうな女性は、実は『因縁を喰らうネクロム』という禍々しい名を持つ死神なのである。
「高慢、激怒、妄執……そして詐術、裏切……ふふふふふ。折角だから、あなたたち、彼を回収してくださらない? 何だか素敵なことになりそうですもの」
 にっこり笑って、配下の怪魚型死神に告げると、ネクロムはそのまま姿を消す。
 そして三体の怪魚型死神は、青白く発光しながら、空中を泳ぎ回る。その軌跡が魔法陣のように浮かび上がると、その中心に、数日前にケルベロスとの戦闘で斃された、自称天才の未完成ドラグナーが出現する。
 しかし復活した未完成ドラグナーは、天才どころか、自分が天才であると主張する知性すら失っていた。そこにいるのは、誰に対するものかも認識できない怨恨と激しい生への執着に凝り固まった、狂った異形にすぎない。
「ヨハ、タオレヌ……ヨハ、テンサイ……ヨハ、フメツ……」
 復活した未完成ドラグナーは、焼け焦げた鱗に覆われた顔面の中で両眼だけを異様に光らせ、掠れた声で呻いた。

「先日、岡崎で倒した未完成ドラグナー、性根や能力はともかく執念と思い込みだけは並々ならなかったなと思っていたら……なんと、死神が目を付けて復活させるようです。しかも、知性がなくなった状態で」
 フィオナ・オブライエン(アガートラーム・e27935)がうんざりしたような表情で告げ、ヘリオライダーの高御倉・康が、溜息混じりに続ける。
「愛知県岡崎市の岡崎公園で、先日フィオナさんたちに斃された、自称天才の未完成ドラグナーが、アギト・ディアブロッサ(終極因子・e00269)さんの宿敵、悪名高い女性型死神『因縁を喰らうネクロム』の指示により、復活、回収されるという予知がありました。彼女は、配下の怪魚型死神に『ケルベロスによって殺されたデウスエクスの残滓を集め、その残滓に死神の力を注いで変異強化した上でサルベージし、戦力として持ち帰る』よう命じており、このまま放置しておいたら、復活させられた未完成ドラグナーが死神の戦力としてサルベージされてしまいます」
 ちなみに『ネクロム』は、例によって既に姿を消しており、急行しても接触することはできません、と、告げながら、康はプロジェクターに地図と画像を出す。
「今更ではありますが、現場はここ、岡崎城復元天守正面です。急行すると、三体の怪魚型死神がビルシャナを復活させた直後に到着することになります。深夜の公園なので人気はなく、通りかかる人もいません。念のため、警察や公園の駐車場を管理している会社には連絡しておきます。ただ、相手は神出鬼没の死神なので、あまり時間がかかると、魔空回廊などを使って逃げてしまうかもしれません」
 そう言って、康は顔をしかめる。
「未完成ドラグナーは知性を失った状態ですが、怨念と執念だけは残っているようです。特に生への執念が激しいようなので、不利と感じたらなりふり構わず逃げようとするかもしれません。怪魚型死神も、戦闘より回収を優先するよう『ネクロム』から命じられていますから、まず逃げられないよう対策を考えておくべきでしょう」
 しかし、斃した相手と何度も戦わされるというのは、正直、うんざりしますね、と、康は溜息をつく。
「未完成ドラグナーが死神の陣営に入った後、万一にも完成でもしようものなら一大事になります。どうか、きっちりと阻止してください」


参加者
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)
弘前・仁王(魂のざわめき・e02120)
シィ・ブラントネール(アイルビーバック・e03575)
円谷・円(デッドリバイバル・e07301)
西院・織櫻(櫻鬼・e18663)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)
八点鐘・あこ(ウェアライダーのミュージックファイター・e36004)

■リプレイ

●再生されし者の無残
「……あれね」
 愛知県岡崎市、岡崎公園。深夜。
 岡崎城復元天守の正面に、ぼんやりと青白い光を放つ魔法陣と、その上に浮かぶ奇怪な一団……怪魚型死神三体と再生された未完成ドラグナーを見つけ、シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)は表情を引き締めて呟いた。
「自称天才様……とはいっても、元はちょっとおかしなタダの人だったんだよね。それが改造されて、倒されて、またサルベージされて……結局、利用されるだけ利用されて」
 可哀想だから、ここでその流れを断ち切ってあげるよ、と、憐みを籠めて呟き、シルはいきなりオリジナル必殺技『精霊収束砲(エレメンタルブラスト)』を発動させる。
「火よ、水よ、風よ、大地よ……。混じりて力となり、目の前の障害を撃ち砕けっ!!」
 背に一対の魔力翼を発現した少女が撃ち放った、強烈無比の精霊魔力砲は、怪魚型死神の一体を直撃し、カケラも残さず粉砕する。
「うわ、やるねぇ……」
 シルの猛撃を見やり、蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)が、驚愕と讃嘆が半々に混じったような口調で呟く。
「これで早くも、魔空回廊で逃げられる怖れはなくなった、と……すると警戒すべきは、普通の逃走だな」
 素早く状況を判断すると、真琴は魔法陣を迂回し、敵の背後、岡崎城復元天守側へ回り込む。再生未完成ドラグナーも怪魚型死神も、さほど敏捷でもなく高速移動するわけでもないが、比較的図体が小さいので、建物の中に潜り込まれて隠れられてしまうと厄介だ。
「こちら側への突破はさせん……何なら、試してみるか?」
 微かに嗤って、真琴は士気上げの爆発を起こし、自分とシルの攻撃力を上げる。
 続いて戦場に走り込んだ弘前・仁王(魂のざわめき・e02120)は、従える名無しのボクスドラゴンに指示を飛ばす。
「左側へ。私は右側を塞ぎます」
 心得た、とばかりに、ボクスドラゴンは魔法陣の左側へ回り込み、未完成ドラグナーへブレスを放ったが、これは怪魚型死神が盾になって庇う。
 仁王は右に回り込みながら、未完成ドラグナーの頭部へ刃のような回し蹴りを叩き込む。これは妨害されず、呆然と突っ立っていたドラグナーの頭をまともに蹴り飛ばす。
「グ、グオゥ……ヨクモ、ヨノカオヲ、足蹴ニ……」
 蹴られた顔を抑えて未完成ドラグナーは呻いたが、不意に、全身をぶるぶると震わせる。
「足蹴……足蹴ニサレテ……犬コロ……狼……ダレカ、ヨヲ助ケヨ……」
「ふーん、倒された時の、みじめで思い出したくない敗北の記憶が戻ってきたのかな?」
 シィ・ブラントネール(アイルビーバック・e03575)が左側奥へ飛び込み、からかうような口調で言い放つ。
「ま、すぐにまた倒してあげる! 今度は、二度と思い出さないようにね!」
 そう言うと、シィはオリジナル必殺技『Bete Impulsion(ベート・アンピュルシオン)』を発動させる。
「今のワタシは、凶暴よ! アオーン!」
「ギエッ! 犬コロ、狼、コワイ! 殺サレル!」
 それは、時空の調停者たるオラトリオの力を発動して、自分自身を平行世界の向こうに居る「ウェアライダーとして生まれ育った自分」と同期・同調させ、肉食獣の四肢で暴れ狂うという、天使種族オラトリオにふさわしいのか似つかわしくないのか良くわからない不思議技だが、とにかく威力は凄まじい。
 しかも未完成ドラグナーは、前に倒された戦闘でウェアライダーのケルベロスたちに散々痛い目に遭わされたことを思い出してしまったらしく、情ない泣き声をあげながら頭を抱える。
「逃げることすら……できないんだね? 可哀想に……」
 考えてみれば、身体はドラグナーに改造されても、精神は脆弱な一般人だものね。一回殺されて、自信も何も粉々に砕かれて、更に頼みもしないのに再生されて、また殺されそうになったら、それは泣きたくもなるね、と、円谷・円(デッドリバイバル・e07301)が溜息をつく。
「早めに倒してあげるしか……ないね」
 呟いて、円は日本刀を振りかざし、頭を抱えるドラグナーの背後から容赦なく斬りかかる。背を深々と裂かれ、ドラグナーが絶叫する。
「ギエエエエエエエエ!」
 そこへシィのサーヴァント、シャーマンズゴーストの『レトラ』が爪での一撃を叩きつけ、円のサーヴァント、ウイングキャットの『蓬莱』がリングを飛ばす。
 そして西院・織櫻(櫻鬼・e18663)が、佩刀『瑠璃丸』で稲妻を伴う突きを見舞うと、深い傷を負った未完成ドラグナーは這いつくばって呻く。
「死ヌ……死ンデシマウ……死ニタクナイ……死ヌノハ嫌ダ……」
「まあ、誰だって死にたくありませんよね。でも、貴方を逃がせばもっと酷い事が起こるのでしょう?」
 アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)が抱えた少女人形が、憐れむような口調で告げる。
「だから逃がしません。ここで、もう一度死んでくださいね」
 そしてアンセルム本人が、静かな口調で告げる。
「其は、幾世彷徨う無銘の刃。流離いし汝に微睡を与えよう」
「ギャアアアアアアアアアッ!」
 ドラグナーが絶叫した。鱗に覆われた皮膚を破り、その体内から大量の血液、肉片、骨片、内臓片とともに水晶の剣が飛び出す。
 アンセルムのオリジナル必殺技『白鞘の供犠(シロサヤノクギ)』は、対象の体内に次元の門を開き、異次元を彷徨う水晶の剣を召喚して内側から破壊するというえげつない技だが、更に恐ろしいことに、剣は次元門に戻ろうとして、門に収まるまで何度も何度も鞘……体内に門を開けられた犠牲者を貫き斬るのだ。
「ギャア! ギャアア! グエェ! 死ヌ! 死ヌ! 死ニタクナイ……ギエエエッ!」
「……逃げようとするなら、酷く罵倒して足止めするつもりだったけど。その必要はなさそうだね」
 穏やかな表情で、アンセルムは瀕死のドラグナーを見据える。
「生きたいと願う相手にキツイ言葉を浴びせるのは心が痛いからね。やらずに済んで、よかった」
(「……生きたいと願う相手を殺すこと自体は、心が痛まないのか?」)
 真琴が内心突っ込んだが、彼自身、この相手を殺すことに全然心が痛まないので、特に口に出すことはしなかった。
 そして、未完成ドラグナーは自分の血だまりの中に突っ伏して動かなくなり、残った二体の怪魚型死神は、おたおたと回遊して自分の傷を癒やす。
 そこへ八点鐘・あこ(ウェアライダーのミュージックファイター・e36004)のサーヴァント、ウイングキャットの『ベル』が、怪魚型死神に飛びかかり、爪を立てて引き裂こうとするが、死神は身を躱し浅手に留まる。
 そしてあこは、ちょっと首をかしげて考えていたが、列攻撃効果を持つオリジナル必殺技『にゃ』を発動させる。
「にゃーにゃにゃにゃー♪ にゃにゃにゃにゃにゃー♪」
「……ええと、これ、音楽魔法攻撃、よね?」
 シィが、傍らに陣取る真琴に、確認するような口調で訊ねる。
 すると真琴は、ごく真面目に応じる。
「そうだな。ドラグナーは潰れたと判断して、死神二体を同時捕捉する狙いか……むっ!?」
 一瞬、真琴の目が大きく見開かれる。あこが放ったエレクトロニックですこし不思議なダンスメロディは、怪魚型死神二体をじわじわと蝕んでいたかと思いきや、倒れていたドラグナーの頭部が、いきなりばこん、と破裂したのである。
「にゃ!?」
 これには仕掛けたあこの方が驚き、目を丸くして傍らのシルに訊ねる。
「あの倒れてたのは、生きてたですか? あ、でも、あこの『にゃ』攻撃で死んだですか? あ、でも、もともと死んでたのが死んだふりですか? わけがわからないのです!」
「えーと、わざと死んだふりするほどの知恵はないと思うから、たぶん死にかけてたんだと思う」
 シルも首を傾げながら、真面目な口調で応じる。
「でも、死んだと思いこんで油断してたら、反撃はされなくても最悪逃げられたかもね。あこちゃんの攻撃は、偶然当たった感じだけど、結果見事にとどめ刺したから大手柄よ」
「お手柄ですか? それは、えっへんなのです!」
 褒められて、あこは無邪気に喜ぶ。それを微笑ましく思いながらも、シルは内心、錯乱しながら殺されるためだけに再生されたような未完成ドラグナーに、哀悼の呟きを手向ける。
(「あまりといえば、あまりにひどい運命だったね……でも、もうお休みなさい。いくら死神でも、同じ人を二度再生することはできない……らしいから」)
 言葉には出さずに呟くと、シルは表情を引き締め、残った二体の怪魚型死神を睨み据える。
「よーするに、死神、お前たちが悪い!」

●死して屍拾うべからず
「うりゃ!」
 怒りを籠めてシルが突撃し、怪魚型死神に強烈な重力蹴りを見舞う。一方、真琴はごくクールに、冷凍光線を撃ち放つ。
(「油断するわけにはいかんが……この状況で万一雑魚に逃げられたりしたら、究極無能と嗤われても文句は言えんな」)
 言葉には出さずに呟き、真琴は小さく肩をすくめる。
 そして仁王が、オリジナル必殺技『無手幻葬・尸咲(ムテゲンソウ・カバネザキ』を放つ。
「お前たち如きに使う技ではないのですが、出し惜しみをしても仕方ないですしね」
 苦笑混じりに言い放つと、仁王は怪魚型死神の一体を見据える。視線を介して注ぎ込まれた降魔の力により、下級死神は完全掌握され、粉々に砕かれる。
「耐えることができれば、トラウマとして『虚構の敵』を見せてあげることができるのですが、残念です」
 本気で残念そうに、仁王は呟く。
 その間にも、最後に残った一体の死神に、サーヴァントたちがよってたかって連続攻撃をくわえ、あわや倒してしまいそうになる。
 死神は、必死になって自己治癒を行い何とか耐えるが、そこへ円が容赦なくオリジナル必殺技『幻影術・痺(デバフワザ・シビレ)』を仕掛ける。
「地獄を見せて……あげよう、か? それとも……見るだけなら、見慣れてるのか、な?」
 雑魚とは言え死神だしね、と呟きながら、円は試作品の強烈な痺れ薬を投擲する。
「骨も微塵に砕けるよ……これに耐えたら、褒めてあげる」
「キシャアッ!」
 円特製の劇薬を全身に浴びた怪魚型死神は、全身を震わせて耐える。鱗がぼろぼろと盛大に剥げ落ちるが、砕け散るには至らない。
「おお、耐えた。褒める」
 円が告げ、続いて織櫻が言い放つ。
「しかし、そこまでです」
 同時に織櫻は、二本の斬霊刀『瑠璃丸』と『櫻鬼』を振るい、強烈な衝撃波を放つ。逃げも躱しもできずに直撃され、怪魚型死神は粉々に砕け散った。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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