さいわいの夢 さそりの火

作者:西東西


 深夜。
 ある町の、時計塔広場にて。
 翼を生やした、シスター姿の女が歩いている。
 その後ろを、ふわりと浮かび泳ぐのは体長2mほどの怪魚3体。
 女はふいに足をとめ、眼を細めた。
「あら、この場所でケルベロスとデウスエクスが戦いという縁を結んでいたのね。それにしても……フフフ。なんておだやかな、それでいて灼けつくような感情かしら」
 うつくしく敷き詰められた石畳を見やり、うっとりと呟く。
 やがてほうと吐息を零すと、肩越しに怪魚を見やって。
「折角だから、あなたたち、彼を回収してくださらない? 何だか素敵なことになりそうですもの」
 女の命を受け、怪魚たちは青白い光をはなちながら、中空に魔法陣を描きはじめた。
 やがて陣の真中に現れたのは、赤のオウガメタルに身を包んだローカスト。
 冴え冴えとひかる月を映す鎧は、まるで刃のごとき鋭利な印象で。
 その虚ろな眼には、知性の欠片も、浮かんではいなかった。


「以前撃破したローカストが、死神によってサルベージされることがわかった」
 ヘリポートに集まったケルベロスたちを見やり、ディディエ・ジケル(緋の誓約・e00121)が重たげに口をひらく。
「阿修羅クワガタさんとともに戦っていた、ローカストの戦士です」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)がそう言い添え、説明を引継ぐ。
 死神の名は、『因縁を喰らうネクロム』。
 シスター風の姿をした女性型で、アギト・ディアブロッサ(終極因子・e00269)の宿敵だ。
 連れ歩いている怪魚型の死神たちに、『ケルベロスによって殺されたデウスエクスの残滓を集め、戦力として持ち帰る』よう命じ、死神の力を注ぎ変異強化させた上でサルベージするという。
「この作戦を防ぐため、みなさんには急ぎ、出現ポイントに向かっていただきたいのです」

 戦場となるのは、町の時計塔広場だ。
 高低差のないレンガ造りの一角で、十分な広さがあり、戦闘の支障となるものは存在しない。
 周辺の一般人避難も完了しているため、心おきなく戦闘に専念することができる。
 ケルベロスを待つのは、変異強化された『蠍火(さそりび)のバルドラ』。
 もとは阿修羅クワガタさんの考えに賛同する、仲間想いで、実直・誠実な性格のローカストだった。
 だが、サルベージされた彼に知性はなく、今や戦うだけの存在と成り果てている。
 戦闘には、『オウガメタル』や『稲妻突き』に似たグラビティを使用。
 強靭な肉体からはなたれる一撃は以前にも増して驚異的な威力をもち、ヒールできないダメージが蓄積しやすい。
 そして、バルドラを守るように怪魚型の死神も3体同行しているため、こちらも注意が必要となるだろう。

 ディディエは告げる。
「かつてまみえた時、バルドラは最期まで、『同胞たちのさいわい』を願っていた」
 立場は違えど、正々堂々と戦い、散ったのだ。
 仲間や故郷への想いこそあれ、こうして使役され、戦うことを、ローカストの戦士は決して望みはしないだろう。
「死者の眠りを妨げる行いは、断じて許されるものではありません。彼の魂を解放するためにも。どうか、みなさんの力をかしてください」
 セリカはそう告げ、一同へ向けて深く頭をさげた。


参加者
朽葉・斑鳩(太陽に拒されし翼・e00081)
ディディエ・ジケル(緋の誓約・e00121)
平坂・サヤ(こととい・e01301)
小鳥遊・優雨(優しい雨・e01598)
ツヴァイ・バーデ(アンデッドライン・e01661)
浦葉・響花(未完の歌姫・e03196)
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)
九十九折・かだん(殉食・e18614)

■リプレイ

●消えた蠍火
 時計塔の針が定刻を指し、荘厳な鐘の音が一帯に響きわたる。
 残響の余韻がのこる空にヘリオンが飛来し、
「ゆめをみるには、佳い夜ですねえ」
 星游ぐ濃紺のエアシューズでトンと石畳を叩き、平坂・サヤ(こととい・e01301)が一番に着地。
 クロサギの翼を羽ばたかせ舞い降りたのは、今回の調査を依頼したディディエ・ジケル(緋の誓約・e00121)だ。
 事前に聞いていたとはいえ、実際にその様子を目の当たりにして眉根を寄せる。
「……やはり復活したか、バルドラ。彼のためにも、この戦、必ずや制するとしよう」
 ケルベロスとローカストが戦った縁を利用されていること。
 実直な戦士が、今やただ空虚な、戦うだけの存在と成り果ててしまったこと。
「死神のやることは、何度関わっても、気分が良いものじゃないね」
 隣に降りたった朽葉・斑鳩(太陽に拒されし翼・e00081)も、純白の翼で空を打ちながら、険しい表情を浮かべる。
 小鳥遊・優雨(優しい雨・e01598)も竜の翼をはためかせ、腕に抱いたボクスドラゴン『イチイ』とともに降下。
「彼らは、故郷や同胞のために命をかけたのです。こんな形で利用されることは、望んではいないはずです」
 死神たちはすでにケルベロスたちを認識していたが、出方をうかがっているのだろう。
 すぐにこちらを攻撃するつもりはないようだ。
「生前がどんなローカストでも、死神が蘇らせた時点で凶暴な敵に変わりはないわよ」
 仲間たちの言葉を聞き、警戒をしつつ告げたのは浦葉・響花(未完の歌姫・e03196)だ。
「っは、『同胞のさいわい』、ねえ」
 ローカストのかつての言葉をくり返し、ツヴァイ・バーデ(アンデッドライン・e01661)も飄々と告げる。
「いやいや良い奴じゃーないっすかあ、聖人もかくやっすね、えぇ? そんなもん願ったって、満たされるのは心だけっしょうけど」
 思想は理解できる。けれど、同調はしない。
 彼らは最初から地球を侵略する敵であり、殺すか殺されるかの関係であることに、変わりはない。
 やるべきことは、変わらない。
「お前たちが、ひとを殺すからじゃなく。お前の魂――誇りのためにも戦うのは、少し、妙な気分だな」
 ぼんやりした眼差しを向け、九十九折・かだん(殉食・e18614)が呟く。
「戦争を嫌っていたキミが、死神に選ばれるなんて。……そうだよね、きっと、仲間のことが心配だよね」
 シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)は続けて仲間たちへ目くばせすると、一歩踏み出し、声を張りあげた。
「ボクも君たちと友達になりたいって頑張ってるけど、まだお話もできてないんだ。きっと、そう簡単なことじゃないんだよね。でも――」
 どんな時も。
 シルディは、『平和への祈り』を諦めない。
「くじけたりしないっていうところを、今日は見せてあげるよ!」
 言葉は届かない。
 かつての記憶もない。
 それでも、
 ――想いよ、届け。
 ケルベロスたちはそれぞれに想いを抱き、戦闘を開始する。

●誘う魚
 かのローカストとは二度めの戦闘。
 とはいえ、前回とはいくつか違う点がある。
 バルドラの自我喪失。
 バルドラの能力強化。
 そして、同行する怪魚3体。
 3体を蹴散らさねば、バルドラの撃破が困難を極めるであろうことは明らか。
 ケルベロスの進撃に気付き、動きだそうとした怪魚たちを真っ先に襲ったのは、
「――ヴゥルルォおオオアアァ!!!」
 腹の底から喉、脳天、空気、そして敵の意志をも貫く、かだんの『咆哮』だった。
 ひるんだ怪魚たちへ向け、臆することなく身体ごと突進していく。
「ちょっと、ひんやりしますよ!」
 続くサヤが氷河期の精霊を召喚し、3体まとめて凍りつかせて。
「俺からは、地獄の炎をお見舞いするっすよ!」
 炎熱の脈を刻んだ刃を振りかぶり、ツヴァイが牙を突きたてるがごとく、猛然と炎を叩きつける。
 すぐさま怪魚の1体が回復を施しいくつかの枷を払われてしまうが、それも想定の内だ。
 怪魚の数を減らすまでは、根気強く攻撃を重ねていくしかない。
 仲間たちが怪魚を相手取る一方、優雨は敵の合間を縫い、バルドラへと狙いを定めた。
 ローラーダッシュの摩擦を利用して炎を纏うと、激しい蹴りを撃ちはなつ。
 気付いた怪魚が回復にまわり、すぐに炎が消し止められた。
「狙い通りにはいきませんね」
 怪魚の毒弾が後衛めがけ撃ちはなたれ、ボクスドラゴン『イチイ』、シルディがかばい受けている間に、攻撃の届かぬ位置へと退避する。
 続けて、イチイが攻撃手を中心に、属性インストールを発動していく。
「……あの時と同じ様、正々堂々と戦おう」
 死を司る神めがけ、ディディエが簒奪者の鎌を一閃。
 『虚』の力をまとった刃が生命力を簒奪し、1体が消滅する。
「死神さん、こっち、こっち!」
「逃がさないわよ」
 入れ替わるようにシルディが礫(つぶて)を浴びせかけ、たて続けに黒豹の獣人たる響花が咆哮を響かせることで、残る2体の進行を食い止める。
 視界の端には、赤い鎧を身にまとったバルドラの姿。
「悪いけど、邪魔しないで欲しいんだ」
 インラインスケートで怪魚の死角へと回りこみ、斑鳩が流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを炸裂させる。
 次の瞬間、バルドラが掲げた両手の先に、惑星レギオンレイドを照らす『黒太陽』を具現化。
 周囲へ向け、絶望の黒光を照射する。
(「私の仕事は、壁である事」)
 攻撃線上に躍りでたかだんが、腕で顔をかばいながらも接近。
 その時、傷を負った仲間たちを一望できる位置まで飛翔し、優雨が爆破スイッチに手をかけた。
「回復、請け負いますね」
 ――ドン! ドドン!
 色とりどりの爆発が巻き起こり、爆風を背にした前衛陣の士気が高まる。
「沈め」
 血をまき散らしながら放ったかだんの鋭い蹴りが、手負いの怪魚を深く抉った。
 サヤはファミリアロッドを掲げ、燃え盛る火の玉をはなち、さらに傷を焼くべく爆破する。
「ツヴァイ!」
 呼びかけが終わるより早く、ドラゴニアンの青年は手負いの怪魚に迫っている。
 赤眼は煌めき、口元には笑みが浮かんで。
「これで終わりっすよ!」
 電光石火の蹴りが怪魚を穿ち、ぼろぼろの身を石畳に叩きつけた。
 最後に残った怪魚が牙を剥くも、噛みついたのはボクスドラゴンの小さな身体だ。
「……退いてもらおう」
 その隙にディディエが死角へ回りこみ、惨殺ナイフで八つ裂きに斬り伏せる。
 どす黒い血しぶきが舞う。
「往生際が悪いわね」
 その真中を撃ち抜いたのは、響花のはなったエネルギー光弾。
 グラビティが中和され、弱体化しながらも、怪魚は最後のあがきとでもいうように、黒い弾丸を一斉に放射する。
 かだん、イチイがふたたび壁となり、仲間たちの前にその身をさらして。
 己が身にオウガメタルをまといながら、シルディが叫んだ。
「さあ、受けとって!」
 光輝くオウガ粒子が、地を蹴る斑鳩の超感覚を研ぎ澄ましていく。
 困難を切り裂く刃『Perseus』を手に、純白の翼で羽ばたく。
「彼を、連れて行かせはしないよ……!」
 急降下とともに降魔の一撃をはなてば、最後の怪魚は真っ二つになって消滅。
 8人のケルベロスを前に、虚ろな眼をしたローカストが、月に向かって大きく吠えた。

●亡念の鬼火
 ――ォオォォォオオ!!
 言語を話すことのできないもどかしさ故か。
 力強くも、憂いを秘めた叫び。
 赤き鋼の鬼と成ったバルドラの拳を、踏みこんだかだんが同じく拳で受け止めた。
「ッ……ぐ!」
 すさまじい威力に、手首や肘、肩が悲鳴をあげる。
 撃ちあわせた皮膚は裂け、血が腕を伝い、ぼたぼたと落ちていく。
 そして、想い出す。
「私、バルドラとは初対面だけど。同胞とは戦ったな」
 拳とともにヘラジカの大角をぎちぎちと突きあわせながら、飢えた眼で睨めつける。
 両足を踏みしめる。
 裂けた拳を、固め直す。
「気高かった。きっとお前も、そうだった」
 ――クワセロ。
 血まみれの腕をオウガメタルが覆い、受けた技を返すように、痛烈な降魔の一撃を叩きこむ。
 衝撃に両者の身体が吹き飛び、
「無茶をしますね」
 優雨がとっさに、かだんの身を回収に走る。
 すぐに『憂いの雨』――薬にも毒にもなる薬品が入った試験管を与えるも、かだんの体力はぎりぎり持ちこたえた状態だ。
「サヤ、まえにでます!」
「んじゃ、俺が下がるっすよ」
 怪魚戦の疲労もあるため、ツヴァイもここで無理をするのは得策ではない。
 2人が入れ替わる間はシルディがバルドラを警戒し、いつでもかばえるようにと位置どる。
 もっとも、バルドラの手が空くようなことは他の仲間とて許しはしない。
「……やはり、血が逸るな。あの時と同じく」
 ディディエは好敵手との戦いに心躍らせながら、伝承物語を諳んじる。
「……現し世へと至れ、是れ偉大なる妖精の女王。汝の恩寵を、此処へ」
 言葉は魔音となり、バルドラを包み、身の内から苛んでいき、
「真っ直ぐに堂々と戦うの、俺は好きだよ。君に逢うのは、これが最初で最後だろうけどさ――」
 エアシューズに炎をまとわせ、斑鳩が悶えるバルドラへ激しい蹴りを叩きこむ。
 響花はその合間に側面に回りこみ、敵から十分に距離をとった。
「ここなら、反撃も届かないでしょう」
 バスターライフルで十分に狙いを定めた後に、凍結光線を発射。
 バルドラの身体が、見る間に凍りついていく。
 ままならない身体を引きずるようにして、それでも、ケルベロスたちへ絶望の黒光を照射する。
「終わりにしましょう」
 仲間をかばったイチイが消滅するのを見送り、優雨が薬液の雨を降らせる。
 サヤは攻撃手をかばいながら、間近からバルドラへ呼びかけた。
「あなたのねがいは、サヤにもわかるのですよ」
 だれかの願いを叶えることが、ここに在る己の存在意義。
 かの童話を想起させる戦士の在り様には、少しだけ身に覚えがある。
 ――ひとになりきれない、願望機。
 しかし、やはり。
 バルドラの表情には虚ろがあるばかり。
 反撃の猶予を与えるまいと、ツヴァイは姿なき『煉獄』により区切られた領域を展開。
「さあ、その外面が文字通り剥がれるまでひれ伏し願え。全ての祈りが無駄になるまで。――なんっつって?」
 熱を喰らう白炎の雨を降らせ、さらに身体から熱を奪っていく。
 許しを請うように地に伏していくローカストを眼下に、斑鳩も大きく翼を打った。
「高貴なる天空よりの力よ、無比なる炎と雷撃にて、全てを焼き尽せ……!」
 炎と雷を宿し、火花散る拳を叩きつける。
 高温の炎と電撃は凍結を一瞬で蒸発させ、強固な赤のオウガメタルを熔解させた。
「……すぐに、お前の魂を解放しよう」
「あと少しで、終わるからね!」
 ディディエは鎌の一撃へ、シルディは星型鉄球へと想いを乗せ、さらにローカストの体力を削っていく。
 トンと地を蹴り、サヤが死者のそばへ走る。
 オウガメタルを腕にまとい、一閃。
「さいわいをねがうこころ。――そのねがいも、見失ってしまいました?」
 鋭い一撃が、傷口を凍らせて。
「――……」
 その一瞬。
 サヤは、バルドラが己を見たように思った。
 眼を見開き手を伸べようとするも、響花が己のグラビティから破壊球体を生成し、
「射出!」
 ポンと蹴り飛ばした球がバルドラの身体に着弾。
 オウガメタルの護りを打ち砕く。
 そして、石畳に倒れたローカストを見おろすように、かだんが立っていた。
 一度死んだ者の身体が、端から崩壊してゆくのを見やる。
 指先から、あるいはつま先から、傷口から、ぼろぼろと存在が崩れていく。
 ――いのちがきえていく。
「あんまこうゆう言い方、好きじゃねえけど」
 オウガメタルの護りと血にまみれ、赤黒く染まった己の手。
 その感覚を確かめるように、開いて、握ってを繰りかえす。
 うなだれるように頭をさげて。
「あいつの同胞である、バルドラ。お前の誇りの為にも。――殺してやろう」
 臓腑の地獄が燃える。
 全身の血がたぎる。
 固く握った拳で、魂を喰らう降魔の一撃を撃ちはなつ。
 ――クライツクセ。
 かだんが、どさり、倒れ伏した後には。
 今度こそ、ローカストの証は、なにひとつ遺らなかった。

●因縁喰らい
 すべてが終わり、傷の手当てを終えた後。
 ケルベロスたちは静寂の戻った時計塔広場に佇み、星空を見あげていた。
「どうだったかな? キミが、少しでも安心できたのならいいのだけど……」
 どうか安らかにと続けるシルディの問いに、答える声はなく、
「お願いだから、二度と出て来ないでね。蘇っても殺されると思うから」
 こんな出会いは二度と繰り返すべきではないと、響花も死者を悼む。
「……眠れ。今度こそ、高く冥府へと」
 二度の手合わせを経験したディディエも冥福を祈り、バルドラへ想いを手向ける。
「本当はこんな形じゃなくてさ……。直接、『君』と拳を交えてみたかったね」
 今度こそおやすみと呟く斑鳩の言葉からも、悔しさがにじむ。
「さすがに、残らなかった死体さえ無理やり再生されて利用されるってのは、多少哀れっすね」
 敵は敵という認識をもつツヴァイにとっても、後味の悪さが残る。
「それにしても、依然として当事者である死神の姿は確認できませんね」
 優雨が周囲を見渡しながら、事件の根深さに眉根を寄せる。
 一連のサルベージは、死神『因縁を喰らうネクロム』によるものと判明している。
 だが、暗躍が長期化するばかりで、まだ具体的な調査・解決策には至っていない。
 このまま事態が進展しなければ、引き続き理不尽な死を繰りかえす犠牲者が出続け、死神の行動が別の段階へ移る可能性が出てくるかもしれない。
 できれば、後手となる前になんらかの手を打っておきたいが――。

 仲間たちが思案するなか、サヤが夜空に向かって声をかける。
「ねえ、バルドラ。サヤにどうしてほしいです? あなたに同情はいたしませんが、ねがいをきいてあげたい程度には」
 そこで一度、唇を引き結んで。
 届けかけた言葉を、のみこむ。
 そして、かだんも。
 まるで埋まらない空腹と痛む傷をさすりながら、「そうか」と、ひとり呟いていた。
 戦闘前に連ねた、語りの続き。
 『妙な気分』を言い表す言葉が、ようやくわかったのだ。
「まるで戦友だ」
 思わずフッと、息が漏れる。
 戦うしか能のない己がなにを言うのかと、自嘲ひとつ。
 けれど、敬意を向けるに値する戦士と共存ができたなら、どんなに良かったか――。

 夜があけ、鳥が啼いたら、夢はさめる時間だ。
 ひとり、またひとりとその場を後にする仲間たちの背を見送り、サヤはもう一度、夜空を仰いだ。
 己の身を焼き尽くしてでも、夜闇を照らし続けた赤い蠍。
 底抜けの青目に流星を映す。
 ――あなたがそれを、のぞむなら。
 想いの続きは、やはり胸の内に秘めて。
 魔法使いはふわり髪を揺らすと、石畳の街を後にした。

作者:西東西 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 0
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