狂える野心の果て

作者:柊透胡

「……ここが、地球か」
 高層ビルの屋上に現れた人影は、地球人にしては規格外の大きさ。巨躯にフィットした青い装甲に身を包み、鋭利な三対の鋼翼が取巻く。腰には鉈のような長剣を左右に佩いている。
「なるほど、グラビティ・チェインが充ち充ちている」
 スキンヘッドから顔の右半分に竜の刺青を施したその男は、ガッシリと筋肉質の体躯ながら、重々しい声音といい、目元と頬に寄る皺といい、中年の域の様相か。
 尤も、デウスエクスの外見など、当人の嗜好でしかなかろうが。
 彼の名は、ヘルガルト――かつては、反逆者を断罪してきた処刑者。
「この私に、侵略の尖兵となれと? ふん、若造共が抜け抜けと……まあ、良い。この地に満ちた力を足掛りに、私は必ず返り咲いてみせる」
 そして、今度こそ王の座を我が手に――1度はそれなりの地位にも就きながら偽りの忠誠を暴かれ、永久コギトエルゴスム化の刑に処されたエインヘリアルは、尚も滾る野心を嘯く。
 徐に、屋上より飛び降りる青き影――程なく、駅前広場に爆発音が轟き、悲鳴が幾重にも響き渡った。

「……定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
 ヘリポートに集まったケルベロス達を、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は静かに見回した。
「兵庫県神戸市、三宮駅のロータリーに於いて、エインヘリアルの虐殺事件が予知されました」
 エインヘリアルの名は、ヘルガルト。処刑者という役を担いながら、反逆を企てた重罪人で、放置すれば多くの人々の命とグラビティ・チェインが無惨にも奪われる事になるだろう。
「のみならず、人々の恐怖と憎悪によって、地球で活動するエインヘリアルの定命化を遅らせる狙いもあるようです。急ぎ現場に向かい、ヘルガルトを倒してください」
 ヘルガルトは、見た目50~60代くらいの男性。スキンヘッドで、顔の右半分に竜の刺青を施している。ザイフリート王子より少し大きいくらいで、エインヘリアルにしては小柄だが、筋肉質でガッシリとした体格。強固な青い装甲を着込んでいる。
「主に肉厚の長剣二刀流で戦いますが、見た目からして派手な三対の鋼の翼は衝撃が加わると爆発するようです」
 戦場となる駅前のロータリーは、客待ちのタクシーも多く、人も多いが、戦闘が始まれば、警察が周辺を封鎖してくれる。
「序盤から派手な立ち回りでヘルガルトの注意を引いて頂ければ、一般人の避難誘導もスムーズに行われると思います」
 ヘルガルトの本性は傲慢な野心家だ。その性質に突け入る隙があるかもしれない。
「出現するのは、ヘルガルトのみです。プライドの高さから、敵に背を向けて撤退する事も無いでしょう」
「だったら、『余所見』させないように、頑張らないといけないわね。でも、私は一般の人の避難誘導に専念かしら……三宮の駅前って、結構ゴチャゴチャしているし」
「アスガルドに反逆を企てるような危険なエインヘリアルを、野放しにする訳にはいきません。どうぞ宜しくお願いします」
 慇懃に一礼する創に、強気の笑みを浮かべてみせる結城・美緒(ドワっこ降魔巫術士・en0015)。
「まあ、何が来ても皆と一緒なら大丈夫ね。こうなったら、パーフェクトな勝利を目指しましょ!」


参加者
清水・光(地球人のブレイズキャリバー・e01264)
霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)
如月・シノブ(蒼の稲妻・e02809)
タンザナイト・ディープブルー(流れ落ち星・e03342)
樒・レン(夜鳴鶯・e05621)
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)
ティスキィ・イェル(ひとひら・e17392)

■リプレイ

●白昼の来襲
 平日・休日を問わず、人と車で混雑する神戸市中央区、三宮駅前。
 ズゥゥンッ!
 数多のタクシーが客待ちするロータリーに地響きが轟く。白昼堂々、アスファルトに降り立ったのは――禿頭のエインヘリアル。巨躯を青い装甲で包み、鋭利な三対の鋼翼を誇示するように広げる。
「地に這いずる愚民共よ。さあ、我が再起の礎となれ」
 ギョッと息を呑む人々を睥睨し、エインヘリアルが長剣2本を構えたその時。
「よう、初めましてだな。デカいの」
 いっそ不敵な声音と共に、気だるげに現れたのは如月・シノブ(蒼の稲妻・e02809)。
「俺はずっとお前を探してたんだ、ようやく見つけたぜ……」
 ルーンアックス二刀流のシノブに続き、駆け付けたケルベロスらは次々と巨躯を包囲する。
(「このエインヘリアルに縁のある、ケルベロスがおるようやな……何ぞあるんやろうか?」)
 とまれ、清水・光(地球人のブレイズキャリバー・e01264)はいつもの通り。妖精弓の弦を引く。
「この道を修羅道と知り、推して参る」
「夜鳴鶯、只今推参。まさか、我らケルベロスの牙に恐れをなして逃げるとは言うまいな?」
 光に続き、樒・レン(夜鳴鶯・e05621)も冷ややかに言い放つ。
「いや、反逆者とは名ばかり。尖兵として唯々諾々と尻尾を振る輩なれば、それも判らんか」
「ほぉ、定命の分を弁えず、キャンキャン吠えるか。番犬共よ」
 シノブのルーンディバイトはかわされ、光が放ったハートクエイクアローは一閃で叩き落とされた。エインヘリアルの顔に施された刺青の竜尾が揺れる。唇を歪めたのだ。
「その不遜、このヘルガルトが断罪してやろう」
(「すっごい偉そうだけど……反逆罪で捕まってるんだよな、こいつ」)
 居丈高な言葉に、思わず苦笑を浮かべる霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)。
(「偉そうな奴って、大抵自分が1番偉いって態度だよなぁ。だからバレるんだって思うんだけど、実際どーなんだよ?」)
 敵も色々だが、ケルベロスのやるべきは1つ。バイザーを下ろしたカイトは、思い切りよく爆破スイッチを押す。肩を並べるボクスドラゴンのたいやきは、もちもちとファイティングポーズだ。
「Heyオッサン! ちまちまグラビティ・チェイン回収するより、俺らの首でも持って帰った方がよっぽど評価上がるぜ?」
 モフモフ(当社比3倍)の尻尾を悠然と揺らし、ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)はおどけた仕草で肩を竦める。
「そうね、私達を倒したら、強さの証明にもなるんじゃないかな……?」
 カラフルな爆風を背景に、ドラゴニックハンマーを大砲のように構えるティスキィ・イェル(ひとひら・e17392)。ともすれば、小さくなりそうな声を張る。
(「みんなを、まもらなきゃ。苦しむ人は1人だって、出したくないもの」)
 誰かの役に、たてるなら――その一心で奮い立つも、人見知り故に常なる笑顔も強張っている。
「ま、出来たらだけどなぁ!!」
「ふん……この若造が!」
 重ねて煽るランドルフが銃を構えるより早く、鉈の如き刃が奔る。重厚なる一撃が狼のガンスリンガーを袈裟懸けに抉り斬った。
 ――――!!
 派手な血飛沫に、周囲から悲鳴が上がる。その凄惨から視線を逸らさせるべく、豪快に黒鉄の大槌を振るうカルナ・アッシュファイア(炎迅・e26657)。
「ガッツがあんのは認めるが、こっちも殺されるのを黙って見てる訳には行かねぇなァ」
 コギトエルゴスムとなって尚も再起を誓う、敵の不屈には呆れを通り越して感心さえするが……その伸びた天狗の鼻を叩き折り、腐った野望に引導を渡すべく。進化の可能性さえ凍結する、超重の一撃を放つ。
「タンザ達はケルベロスです! もう大丈夫ですから、皆さんは慌てず騒がず移動して下さい!」
 仲間がヘルガルトの気を引く間に。最終決戦モードのバトルクロスも華々しく、タンザナイト・ディープブルー(流れ落ち星・e03342)は周囲に避難を促して回る。
「念の為、殺界を形成しておくか」
「待って」
 だが、レンの挙動を、結城・美緒(ドワっこ降魔巫術士・en0015)が制止した。地図上のロータリーを中心に、赤丸を描いて見せる。
「一般人の避難は、私と警察に任せてくれる?」
 殺界形成の範囲は、半径300m。JR三ノ宮駅のロータリーを中心に、東西は区役所から生田神社、南北は百貨店から駅北の繁華街まで収まってしまう。
 人々は粛々と殺界から遠ざかろうとするが……元より三宮はビルが密集しており、交通量も多い。範囲内の一般人全てが一斉に移動しようとすれば、渋滞や混雑は必至だ。
 殺界形成は人避けに非常に有効だが、範囲の融通は利かない。今回ならば、駅周辺の避難で十分だ。ケルベロスが敗北しない限りは……その点は、美緒も仲間を信じている。
 種族・防具特徴は便利だが、効果的な運用に気を付けたい所。
「承知。この忍務、必ず成し遂げよう」
 美緒に肯いたレンが印を結ぶや、木の葉の竜巻が巻き起こる。
「一般人の安全第一でお願いするんよ」
「うん、そっちも気を付けて」
 すれ違い様に言葉を交わす。駆け出した美緒を一瞥した光は、鉄塊剣の切先をヘルガルトへ向けた。

●鋼翼爆破
 斯くて、戦いの火蓋は切って落とされる――魔法の木の葉に癒され、レンに感謝の視線を投げたランドルフは、改めてリボルバー銃を構える。
「痛っ……まさか、フレンドリーファイアやないやろね?」
「大丈夫、痛みは一瞬だ……多分」
 実弾の如き気弾の雨あられに、思わず呻く光。ランドルフ曰く、グラビティ・チェインと気で練成した治癒弾らしい。確かにダメージは無く、寧ろ加護が齎される。
「天地を……繋げっ!」
 美緒と入れ違いで戦線に立ったタンザナイトは、噴き上がる光芒を叩き付けんとするが……僅か、一歩の後退でかわされた。
 敵は、ケルベロス8人+αで漸く対等のデウスエクス。初撃から全ての攻撃を命中させるのは、中々難しい。そして、ヘルガルトの斬撃を浴びたランドルフは、確信する。斬撃に耐える防具越しにも重い威力となれば。
「クラッシャー、だな」
(「急いで、皆の攻撃が、当てられるようにしないと」)
 表情を引き締め、ティスキィは地を蹴る。流星の如き軌跡を描けば、巨躯の向こうに交通整理に奮闘する美緒や警察官が見えた。あの避難が終わるまで一般人に手出しはさせない、その為にも攻め続けなければ!
「ヘイヘイ、雑魚ばっか狙ってチマチマ得点稼いでる奴が、王サマになるなんて笑わせるぜ! どうせら大物狙うのが漢ってもんだろ?」
「貴様こそ、仲間に庇われながら粋がるなど笑止千万」
 やはりスターゲイザー付きのカルナの挑発を、鼻であしらうヘルガルト。確かに、スナイパーの位置までヘルガルトの刃は届かない。
 ――――!!
 だが、三対の鋼翼を展開するや、ヘルガルトは一気に加速。翼が前衛らに接触した衝撃に、轟音立てて爆ぜる。
「無限に使える爆発反応装甲か……厄介だな」
 爆発のショックで視界が揺れた。小さく頭を振るシノブ。鋼翼の爆発を以て、敵の攻撃精度も封じる「攻性防御」。爆発は翼表層に留まり、幾度でも発動出来るようだ。その機動力は、ヘルガルトがその気になれば後衛の懐にも容易く入り込むだろう。
 辛うじて、タンザナイトを庇ったカイトにはたいやきが粒餡、もとい属性を注入する。今回のディフェンダーは、カイト&たいやきコンビのみ。ディフェンダーとて全てを庇える訳ではない。厄は早々に齎された耐性で凌げようが、範囲攻撃さえも侮れぬ重火力の集中攻撃に押し切られても厄介だ。
「よっしゃ、こい!」
 カイト自身、大事を取ってシャウトする。脳裏に過った『過去』を押し遣り、今は護る事に専念する。
 戦の音が白昼に幾重にも響く。ヘルガルトの一撃の重さは、気を抜けばそのまま押し切られてしまいそうな程。
(「流石は戦闘に長けた種族。定命化の阻止と罪人始末、どちらにしても己の利になる策とは……奸計を弄したものよ」)
 だからこそ、ここできっちり片を付ける。刹那、怪魚マカラが仲間を守護するように跳ねた――磨羯宮の聖域を描くレン。眼力で命中率は知れても、ダメージの程は正確に量れない。故に、的確に動けるよう、仲間から目を離さない。
「ほな、ぼちぼち暖めていこか」
 光の応酬はグラビティブレイク。力強い一撃はまたヘルガルトに届かぬも、彼女の唇がは微かに綻ぶ。
(「もうじき、いけそうやね」)
 スナイパー2人が重ねる足止めの効果だろう。弛まぬ攻撃は、着実に積み上がっている。
「ゴールデンウィークももうすぐなのにお友達がいないのですか。新生活デビュー失敗おじさんなのです」
 だが、挑発しながら敢行するタンザナイトのキャバリアランページは、その命中率自体が相当に危うい。厄付けに於いても単体の敵に範囲攻撃は相当分が悪ければ、クラッシャーの武威が活かされるにはまだ暫く掛かりそうか。
 ガキィッ!
 ランドルフの惨殺ナイフが、巨躯の肉を抉らんとジグザグに閃く。続いて、達人を髣髴とさせる一撃を上回る速さで翳されたヘルガルトの剣刃が、シノブの斧刃と火花を散らす。
「……聞きたい事がある」
 燃え立つバトルオーラ。ジリジリと競合い、シノブは交差させたルーンアックスを押し返す。
「ベルナデットって名前の、尖った耳の女性……知らないか?」

●懺悔の刃
 ――ケルベロスになる前の、1番の親友だった。だが、今はその行方も知れない。
「お前の噂もそいつから聞いたんだ、だから何か知ってると思ってな」
 シノブを見下ろし、エインヘリアルは酷薄に目を細める。
「なるほど、捨てられた女への未練か。矮小にして見苦しい」
「そんなんじゃねェよ。アイツが黙って居なくなるわけがねェ!」
 息巻く青年の言葉にも、侮るように唇を歪めるヘルガルト。
「なれば……己が心に直截問うが良い!」
 力任せに間合いを取られた。ディフェンダーが阻む隙も与えず、十字の斬撃がシノブに刻まれる!
「く……あ……」
 視界が滲む――霞の向こうにしなやかな人影。振り返らずとも、彼女と判る。遠のく彼女に、言葉を掛けようとしても声が出ない。言葉が、思い浮かばない。
(「俺はまた、親友に別れを言えないのか……」)
「光盾よ、金剛力士を映せ」
 すかさず梵字輝くレンの盾が癒しを注ぐも、唇を震わせるシノブ。耐性に守られた心がトラウマに抉られる事はなくとも、見せられた幻影に少なからずの傷みを覚える。
 それは、シノブのみならず。ヘルガルトが懺悔の刃を振るう度、ケルベロス達は己が心に沈めた影に、否応もなく向き合わされる。
「やめろおッ! 俺をその名で……トゥエルヴと呼ぶんじゃねえッ!!」
 絶叫するランドルフの目に映るのは、耳に聞こえるのは何か。
「……っ!」
 盾として庇い受けた刃が、カイトにダモクレス時代の『過去』を暴く。1度は押し遣った、人を殺めてしまったという記憶を。
「たいやき……大丈夫、だからな」
 キュルルゥ……。
 それは、心配そうに見上げてくるボクスドラゴンの鳴き声、ではなくて。
(「やらん後悔よりはやってしまう方やからな……」)
 基本、食べる事優先のはらぺこ乙女なら、ご馳走の幻にもお腹の虫が鳴る。
「……体重がトラウマですか」
「あ、手が滑ってもうたわ、うふふっ」
 クラッシャー同士、肩を並べて戦う近さ故、察してしまったタンザナイトに『偶然』光の鉄塊剣が掠め飛んだ。
「ア、アハハ。暖かでいいお天気なのです~……ッ!?」
 当のタンザナイトには過去の記憶が無い。だからトラウマも無いと思いきや……誤魔化すようなこれ見よがしの大欠伸が、ハッと強張る。
(「タンザは、ケルベロスなのです! 誰かの願いを叶えるケルベロス、の筈……」)
 その思いと裏腹の強烈な違和感。心で叫べば叫ぶ程、空々しさが全身を包む。
「このっ……程度の攻撃でよく処刑者がっ、務まるですね! 本当はリストラされたんでしょう?」
 タンザナイトの闇雲の攻撃を易々と弾き、ヘルガルトは嘲笑を浮かべる。
「そう、私は処刑者。罪を懺悔し、贖いを求める罪人の速やかなる断罪が役割であった。我が刃が見せる偽らざる本性、貴様らには過ぎた贖罪であろう?」
「ああ……トラウマ振り撒くなんざ、趣味悪ぃぞオッサン!」
 吼えたランドルフが惨殺ナイフを翳す。硝子状の刀身が映すのは、惨劇の鏡像。
「まあコッチも、やらせてもらうけどなッ!!」
「人様の黒歴史に、土足でズカズカと踏み込んできやがって」
 後衛故に難を逃れたカルナとて、(主に賭博で)思い出したくも無い惨事はある。
「後悔ってのはソイツだけの大切なモンだ。それを汚した報い、身を以て知りやがれ」
「何を……っ!」
 カルナの斉天截拳撃を捌き、鋼翼を広げようとしたヘルガルトは、刹那たじろぐように息を呑む。
「おのれ、若造共がっ!」
 その言葉は、ケルベロスに向けられたようでいて――彼の視線は、ランドルフのナイフを凝視する。フロストレーザーの標準を合わせながら、紅緋の双眸を眇めるティスキィ。
(「このエインヘリアルが叛逆を企てたのは何故なんだろう……上に行きたかったのは、やりたい事があったのかな?」)
 本人に問うたとして、返答は無いだろうけれど。

●狂える野心の果て
「目の前にある今がいちばん大事なのです、きっと」
 乱舞する光は風に舞う桜花の如く――レンがメタリックバーストを振り撒く間に、大きく深呼吸。ついでに気力も溜めて、タンザナイトは体勢を整える。
 既に、周囲に一般人の姿は無い。美緒達の奮闘に応える為にも。シノブは静かに斧を構え直す。
「ベルナデッドを知らないなら別にいい。だが俺は、ここでお前を倒す」
 結局、ヘルガルトはシノブの質問に答えなかった。敵には一切の情報を与えぬ、それは戦闘種族の冷徹かつ傲慢の証。だから、これ以上、シノブは振り返らない。高々と跳び上がり、ルーンアックスをエインヘリアルの頭上から振り下ろす。
「お前を乗り越えて先へ進む!」
「世迷言を!」
 刃が交錯し、シノブのスカルブレイカーがヘルガルトを捕えた――不得手の技の命中こそ、怒涛なる反撃の始まり。
「距離を縮めておくんが1番の手やな」
 ここまで来れば、乱打戦。包囲の綻びを突かれぬよう、光は更に肉迫して鉄塊剣を振るう。
「全力で行くぜ! ま、始めっからフルスロットルだけどな!」
 カルナのハンマーが唸れば、叩き付けた部位から更に凍り付き、エインヘリアルを氷結に冒していく。
(「それにしても、処刑する側がされる側に堕ちるとはな、コイツは笑えねえJokeだ」)
 ランドルフの戦術超鋼拳が蒼き装甲を打てば、細かな皹が全身に走る。相次ぐ衝撃に、蹈鞴を踏んだヘルガルトは片膝を突く。
「……私は、今度こそ、王の座を……!」
「自分の野望の為に、人を犠牲にするなんてダメ。どんな夢でも他人を傷つけて手に入れたものなんて、すぐに奪われてしまうよ」
 ティスキィの控えめな言葉(+轟竜砲)にも、憎悪の眼差しが返るのみ。
「結局さ、エインヘリアルって王子とか居るんだから、成り上がっても限度がどこかしらで出るよな?」
 とうとう実も蓋も無い事を言ってしまったカイトに、憤怒の形相を浮かべるヘルガルト。
「貴様ぁっ!」
 袈裟懸けの断罪の刃からカイトを庇い、たいやきは甘い匂いのボクスブレスを吐く。
 その冷静さを欠いた一撃こそが、致命的な隙。
「人は己に相応しくないものを、持ったり望んだりすると不幸になる。野心に囚われたままでは、身を亡ぼすと知れ」
 諭すような口調も束の間。レンはすぐ憐憫を浮かべる。
「……いや、最早言っても詮無き事か。哀れな」
 何処からともなく桜の若葉と花弁が舞う。屈辱の表情のヘルガルトへ、レンの数多の分身が次々と攻撃を放つ。
「今、俺達が呪縛から解き放つ!」
「『氷獄刃:破軍』、我が下に現れよ!」
 凍気を練り上げ、精製した氷の刃は星の加護にも似た力を宿す。蒼き氷刃はカイトの意のままに、ヘルガルドを斬り裂く。
「遠慮はいらねぇぜ。鱈腹喰らっていきな!」
 その名も、Deadman's fire.――異空間から召喚した大型ガトリング砲とミサイルポッドを装着。ありったけの弾幕を、これでもかと浴びせ掛けていくカルナ。
「そう、終わりを告げる鐘の音を聴いて。檻の寝台で――おやすみ」
 ティスキィが生み出した魔力が檻を象り、巨躯を圧し潰す。永遠の夢へと誘うように鳴り響くのは、檻を飾る鐘の音。
「ヘルガルドはん、殺してすまんなぁ」
 後悔の欠片も無い懺悔を嘯きながら、光の緋色芙蓉の如き激しい連撃が、余す所無く蒼き巨躯を刻んでいく。
「ほな、さいならや」
「シノブ! やっちまうです!」
 光芒の中、轟く絶叫――肉迫したタンザナイトのアセンションブレイズが、とうとうエインヘリアルを呑み込む。
「コイツは俺の奢りだ! とっととあのハゲに喰らわせな!」
 ランドルフのルナティックヒールが、シノブに弾けた次の瞬間。
(「頼む、ベルナデット! どうか俺にこいつを倒させてくれ!」)
 せめて今だけは共に――祈りめいた想いと共に、シノブはグラビティ・チェインを集中させる。
 シャァァァッ!
 重力の鎖は絡み合う大蛇へ形を変える。禍々しき蛇共はヘルガルトに飛び掛るや、その肉体を貪り、忽ち喰らい尽くした。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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