灼熱の死期迫りて

作者:柊透胡

 春分の日を過ぎて、徐々に日没も遅くなっていく。
 もうすぐ桜も咲くだろう。春先の黄昏時は、家路に急ぐ人々の足取りも心なしか軽やかだ。
「……うん?」
 不意に陽が翳る。首を傾げ、空を見上げた次の瞬間。
 シュゴォォォォッ!
 灼熱が、町並みを舐める。直撃を受けた建物は高熱の余り硝子化し、生き物は炭化して瓦解した。
 黄土の大翼は天を覆い、鋭き牙は万物を噛み砕く。轟く咆哮は、新たなる破壊の調べ。
 ――間もなく、我は逝く。
 禍々しき黄竜だ。頭には、山羊の如き真っ直ぐで太く長い2本の角。厳つい口からは2本の長い牙が覗く。血のように赤い眼は、突然の災厄に逃げ惑う人々を傲然と見下ろしていた。
 ――忌々しきは、重グラビティ起因型神性不全症。だが、このまま果てはせぬぞ。
 灼熱に炙られ、街路樹が燃え上がる。長大な松明並ぶ中、熱風に煽られ悲痛を叫ぶ人々を眺め、暴竜は哂う。
 ――さあ、灼熱の嵐に踊れ躍れ。劫火の海に溺れ狂え。その恐怖、憎悪、総て我らに奉げ尽くして燃え尽きよ。
 ドラゴンの名は、烙龍。かつて自然溢れる大地を劫火で焼き尽くした破壊の権化。
 ――この紅蓮、同胞を生かす贄とせん。

「ふん、てめぇ勝手に燃え尽きりゃいいものを」
 不機嫌そうに吐き捨て、兎耳のウェアライダーは剣呑に目を眇める。
 左目から蒼炎棚引く青年、ローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)を一瞥して、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は静かに口を開いた。
「……定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
 重グラビティ起因型神性不全症、つまりは定命化が始まってから時間が経過し、死を迎えようとしているドラゴンが、千葉県の港町に来襲するという。
「クレメインスさんの懸念が、私の案件にヒットしましたので、皆さんに集まって戴いた次第です」
 放置すれば、港町の人々のグラビティ・チェインが奪われるだけでなく、その恐怖と憎悪によって竜十字島のドラゴン勢力の定命化に猶予を与えてしまう。
「人々を守り、ドラゴン勢力に時間を与えない為にも、このドラゴンの撃破をお願い致します」
 小さな漁港のあるこの町の人々には既に勧告が出され、桜の蕾綻び出した小学校に避難している。
「仮に別の町に避難させようとした場合、避難中の所をドラゴンに襲われる可能性が高く、却って危険です。ですから、皆さんは小学校に避難した一般人を守るように、町外れの漁港でドラゴンを迎撃して頂く事になります」
 これならば、ケルベロスが敗北するか、或いは、撤退しない限り、一般人に被害は出ない。存分に戦う事が出来るだろう。
「万が一にも負ければ、洒落にならんけどな」
「そこは、皆さんを信頼していますので」
 ドラゴンの名は、烙龍。禍々しき劫火を放つ黄龍だ。
「劫火の息だけでなく、大翼の羽ばたきは高熱の嵐を巻き起こし、鋭い牙は堅き装甲も構わず噛み砕きます。その威力は正に破壊の権化と呼ぶに相応しいでしょう」
 烙龍は定命化によって死に瀕している。放っておけば、日が変わる前に命の灯火は消えるだろう。
「ですが、多大なる死出の道連れは、何としても阻止しなくてはなりません。幸い、烙龍の体力はかなり低下していますので、ケルベロス8人でも撃破は可能です」
 尚、烙龍は死ぬまで戦い続け、少しでも恐怖と憎悪を齎そうとする為、逃走の心配は無さそうだ。
「死の間際にも拘らず、人々を蹂躙しようとするドラゴンは見過ごせません。どうかご武運を。皆さんの闘志は、ドラゴンの劫火にも勝ると信じています」


参加者
目面・真(たてよみマジメちゃん・e01011)
ガナッシュ・ランカース(マスター番長・e02563)
ロウガ・ジェラフィード(戦天使・e04854)
鈴木・犬太郎(超人・e05685)
エフイー・ジーグ(森羅万象身使いし機人・e08173)
翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)
フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)
ローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)

■リプレイ

●黄昏の来襲
 春の太平洋は波静か――港湾の内なら尚の事。黄昏の斜陽が照り映えた水面は、キラキラ瞬くよう。
「小学校は、こっち。で、ドラゴンはあっちからやって来る、だよな?」
 ナノナノの煎兵衛と並んで指差し確認する目面・真(たてよみマジメちゃん・e01011)。
「その筈だ……時間も、そろそろか」
 応じたローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)は、腕時計を一瞥する。
 港の向こうの桜は、もうすぐ開花するだろう。だが、ケルベロス達は桜の方に背を向け待ち構える――命の灯が消えつつあるドラゴンは、程なく太平洋から襲来する。
「やれやれ、そんなに死ぬのが嫌なら、地球から出て行けば良いのにのう」
 春分の日も過ぎて日没も遅くなる一方だが、備えはしておくに越した事はない。灯りを準備するガナッシュ・ランカース(マスター番長・e02563)は、いっそ呆れた面持ちだ。
(「それとも、最早それすら出来ん状況なのかのう?」)
 少なくとも、これから襲来するドラゴンは後数時間の命。永劫を生きてきたデウスエクスにとって、その命が尽きる迄の時間は恐怖そのものだろう。
「でも、命を懸けて同胞の為に戦うその心、嫌いではないわ」
 ヘリオライダーから得た情報を頭の中で反芻しながら、フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)が呟けば、翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)は暫し瞑目する。
「ドラゴン達も生きる為に必死なのでしょうけれど……それは私達とて同じ事」
 ドラゴンに多少通じる思いはあろうと殺戮は許せないし、森を護る一族として自然溢れる大地を焼き尽くした事には怒りも覚える。小学校に避難する人々も仲間も絶対に護ってみせる――風音の決意に、ボクスドラゴンのシャティレも同意の鳴き声を上げた。
 徐々に張り詰めていく空気。自然と口を噤み、ケルベロス達は黄昏の空を見上げる。
 ――――!!
 轟く咆哮。果たして、禍々しき黄竜は太平洋を翔け迫る。その姿は正に炎の災厄。
「ようやく……ようやく見つけたぞ! 『烙龍』!」
 雄叫びにも負けぬ大音声が黄昏の空に響き渡る。黄色のドラゴン――烙龍を見上げるエフイー・ジーグ(森羅万象身使いし機人・e08173)の赤い瞳は、憤怒を帯びて炯炯と。
「オイラ達の大切な自然達を焼き尽くした罪、償ってもらうよ!」
 ――木っ端風情が何を……貴様ら、ケルベロスか!
 地の底から響くような烙龍の声音。確かに、個体最強と謳われるドラゴンに堂々と対峙する人間など、ケルベロスしかいやしない。
「牙を向ける心算ならば、何があろうと食い止めてやる」
 『時空の調停者』たる先達が、かつて地球を護ったように――ゾディアックソードの切先で、地面に蛇使い座を描くロウガ・ジェラフィード(戦天使・e04854)。
(「この力は、力無き民を護る為に振るえと『母』より授けられた力」)
「アウトナンバーオピュクス!!」
 勇ましい叫びに、烙龍はギロリと睨め付ける。
「さぁ、烙龍よ!! 思い残す事はないか? 俺の獄炎は、簡単には焦げないぜ」
 鉄塊剣・英雄殺しの牙を構え、鈴木・犬太郎(超人・e05685)は挑発を言い放つ。
(「ドラゴンとの闘いってのは、かなり久しぶりだ。ここで逃せば被害者が出る。敗北は許されない闘いという訳か……」)
 ダンッと地を蹴る。急降下してくる烙龍と交錯して、達人の一撃を叩き付けた。

●劫火の黄竜
 烙龍の腹にうっすらと霜が浮く。1番槍を成し遂げ、不敵な笑みを浮かべる犬太郎。
「皆の力を合わせれば楽勝だな!」
 ――おのれ! 小癪な!
 大翼が羽ばたくや高熱の嵐を吹き荒れる。前衛に立つ4人と1体が等しく灼熱に巻かれた。ロウガのスターサンクチュアリが間に合ったお陰で、身を苛む炎はある程度凌げようが、範囲攻撃をしてその威力は侮れぬ。
 少しの逡巡の後、ケルベロスチェインで守護の魔法陣を描く風音。シャティレは属性インストールをロウガに、煎兵衛はナノナノばりあをフレックに施す。
 ヒールの間にも、弾丸のように飛び出すエフイー。
「超々近距離! 一気に畳み掛けるぞ!!」
 その名も、超級地勁銀牙――烙龍の懐へ踏み込み、至近距離から拳を連打。掌底から大地のエネルギーを炸裂させる。エフイーの超級シリーズ・五の拳は、スナイパーならば尚の事、敵に回避するのを許さない。
「初めまして、烙龍」
 スナイパーの連撃に続くべく、フレックは愛刀を構える。
(「安らかな死よりも同胞の為にその命を捧ぐ。それはきっと尊いのだろう」)
「だが……それでも、尊き犠牲で失う命を見過ごすわけにはいかないの」
 鋭く踏み出し、雷気纏う神速の突きを繰り出す。
「わしがマスター番長、ガナッシュ・ランカースじゃ!」
 高らかに名乗りを上げるガナッシュのスターゲイザーが奔る。
「どっちが先に燃え尽きるかのチキンレースってか? 上等、そう簡単に灼き尽くせると思うなよ」
 青き炎を棚引かせ、剣呑に藍の双眸を細めるローデッド。エクスカリバール「疾吼」が唸りを上げる。
「破ッ!」
 迫り来るドラゴン目掛けて、刃の如き蹴撃を叩き込まんとする真。
 本来なら、それぞれに命中を見込めるグラビティの連続攻撃。まさか、その尽くが竜躯を掠める程度に留まろうとは。明らかに、回避されている。
 ――――!!
 劫火の息が前衛を越えてシャティレを襲う。咄嗟に射線を遮ったローデッドのライダースーツは、灼熱によく耐えた。
「帰らねェと泣く煩ェのがいるんだ。テメェ如きが易易と灰に出来ると思うんじゃねェ」
 強気を口にするも、兎耳の青年は厄介そうな面持ち。ケルベロスの攻撃は回避する一方、自身は正確に当ててくる。攻防共に優位なポジションは1つしかない。
「キャスター、ですね」
「ええ」
 風音の言葉に、やはり烙龍の動向を注視していたフレックも頷く。
「うーむ」
 ドラゴンの弱点を探りたいガナッシュだが、まず攻撃を命中させなければ検証しようもない。
「前衛には、先に風音くんがサークリットチェインをくれたから……よし。しもべ達よ、皆を守れ!」
 ともあれ、戦闘体勢を整えるのが先。後衛の3人と1体に真がヒールドローンを展開させれば、お返しのように風音のメタリックバーストが前衛へ振り撒かれた。続いて、サーヴァント達のヒールはローデッドへ。
「流石はドラゴン、最強に相応しいか」
「だけど、今度こそ、この拳で!」
 先を競うように、犬太郎のサイコフォースが爆ぜ、エフイーのドラゴニックスマッシュが唸る。
「煌めけ!! 勇気を宿した調停の光!!」
 ――御託だけは大層に!
 だが、ロウガのゼログラビトンは、真っ向からドラゴンの牙に噛み砕かれた。
 ――その憎悪、ケルベロスであろうと心地好きものよ。さあ、貴様らを焼き尽くす我が紅蓮、同胞を生かす贄とせん!

●連携の意味
「チャフを撒いてやろうか」
 真が撒いた紙兵が、炎厄を肩代わりして次々と燃え尽きた。グラビティが交錯し、黄昏の空を炎が更に赤く染める――戦いは長引いた。敵はドラゴンと言えど死の間際。サーヴァントも含めれば10と手数は圧倒的優位であったにも拘らず。
(「スナイパーは攻撃の要だからな!」)
 犬太郎の考えは、ある意味正しい。どんな高火力も、どんなに強力なバッドステータスも、命中しなければ無為となる。だが、肝心なのは、如何に全員の攻撃が命中出来るように図るか――犬太郎に、足止めや捕縛の準備はない。
「このぉっ!」
 一方、エフイーは時に轟竜砲は放つも、基本はホーミング技を主軸としている。よくよく狙いを付けるポジションに在って、更に痛撃を狙う体勢であろうが、単独でクリティカルを出したとして全体の火力UPには繋がらないのだ。
 ケルベロス全員の戦力が活かしきれない、そんなもどかしい状況が続く。烙龍の弱点を探り続けるガナッシュも、思うように見極められずにいた。
(「だが、撤退はせん! 向こうが死出の道連れ欲しさなら、尚更逃げる訳にはいかんしの」)
「数多なる生命よ、どうか我等に力を……」
 仲間の命中精度を上げんとオウガ粒子を振り撒こうとする風音だが、ドラゴンのブレスが、牙が、炎の嵐が仲間を抉れば、その回復が優先となる。厄の付与と同様に仲間の強化もジャマーの得手ならば、風音はヒール、ロウガはエンチャントと役割分担しておくべきだったか。
「シャティレ!」
 思わぬ耐戦を強いられる中――最初に倒れたのは、緑のボクスドラゴン。真も一度ならず庇ったが、ディフェンダーとて、総ての攻撃を遮る事は叶わない。ヒールを挟ませぬダブルのブレス攻撃に一溜りもなく。
「く……」
 静かに消えた愛し子の跡を一瞥する、風音の横顔は沈着のまま。だが、唇を強く噛み締める。怒りを内に呑み込み、風音はヒールに専念する。癒し手の一角が潰えれば、その負担は大きくなる。これ以上、倒れさせはしない――決意も新たに、仲間を注視する。
 だが、メディックの意気を嘲うように、烙龍のグラビティは猛威を振るう。
 ギリと歯噛みするローデッド。奪うモノは嫌いだ。過去に奪われたから――獣化した手足に重力を集中させて一気に跳躍、重撃を放つもまだ届かない。
(「けど、アイツより先に膝を折ってなんざいられねェからな」)
「圧倒的な格上なれば、其の勢いを削ぎ続けなければ」
 強き意志を以て、ロウガはフロストレーザーを発射する。長大なる咽喉が氷結に白く染まるが、追撃も侭ならぬ現状では、「氷」の厄も中々発揮し難い。
 次なるドラゴンの標的は、フレック。魔剣の秘儀は未だ竜躯を捉えるのは叶わぬも、雷刃突やヴァルキュリアブラストを駆使し、逸早く、スナイパー達に続いてその攻撃を刻み始めていた。
(「流石の戦術眼、と言ってあげるわ」)
 まず癒し手の一角を潰し、続いて脅威を速やかに滅する。敵も死に物狂いであろうに、その戦い方は効率に則っている。冷徹な紅眼と視線が合った瞬間、凶暴な牙に半身を抉られる。
 ドラゴンとて生き物だ。長い戦いの間に、技の前兆と言える『癖』は幾つか見出していた。だが、圧倒的に速い。敏捷に長けたフレックとて、『癖』を判断してから反応するのは難しい。
 風音のマインドシールドと煎兵衛はナノナノばりあに癒されながら、フレックは微かに唇を歪める。
(「これで、風音が狙われれば」)
 回復の要は、魂を分け合う風音とシャティレ。既に片割れは倒れている。ディフェンダーの真&煎兵衛に比べてもずっと打たれ弱いだろう。もどかしいながらも、仲間が攻撃し続けていられるのは、メディックの存在が大きい。
「ソラナキ……唯一あたしを認めあたしが認めた魔剣よ」
 オラトリオが残したとされる愛刀を、フレックは派手な立ち回りで構え直す。
「今こそその力を解放し、我が敵に示せ。時さえ刻むその刃を……!」
 魔剣とグラビティを共鳴させ、敵の時空間「ごと」切り裂く。時を刻む如く、その斬撃から一拍置いて、噴き上がる血潮はマグマにも似て。
 ――オラトリオの真似事とは、小娘がぁっ!
 怒れる咆哮に、フレックは微笑する。これで少しは風音から気を逸らせたか。ディフェンダーに庇われるなら重畳。最後まで、穿ち続ける!
(「出来る限り……もたせて見せる!」)
 迫るドラゴン目掛けて、戦乙女は突進した。

●灼熱の死期迫りて
「フレックくん!」
 ボクスドラゴンが倒れて更に数合――今しも、眼の前で、銀の戦乙女が灼熱に呑まれた。様々な加護を受けて尚、ドラゴンの暴威を凌ぎ尽くす事は叶わない。声もなく倒れたフレックを庇うように、真は立ち塞がる。
「動作封殺だ、食らえ!」
 縛霊手で殴りつけると同時に、網状の霊力が放射する。その投網が巨躯を雁字搦めに緊縛した瞬間、真は声を張り上げる。
「今だ!」
 漸く、漸く捕えた――ジワジワと厄を積み続けた根気が、やっと実を結ぼうとしている。
「時の秩序、生命の調和――乱し刻む我が剣戟、時流の妖!!」
 すかさず、ゾディアックソードに正常な気脈の流れを乱す妖気を纏わせるロウガ。
「受けよ!! 時を断ち切る活殺の剱!!」
 一気に肉迫するや、超高速の峰打ちを叩き付ける。その衝撃と妖気に蝕まれ、烙龍は声もなく身を震わせる。
「一撃だ、俺のたった一撃を全力で完璧にお前にブチ込む」
 己の拳に獄炎と降魔力を纏わせる。地道に穿ち続けてきた末に探し当てた敵の急所に、犬太郎は渾身の一撃を叩き込む。
 グガァァァァッ!
 ケルベロスの攻撃に晒され続けても、苦鳴1つ発しなかった烙龍。だが、ガナッシュの破鎧衝が初めて竜躯を穿った時、これまでにない絶叫が轟いた。
「どうやら、奴は魔法力が弱点のようじゃぞい」
 地道にダメージが積み上がった末に、クラッシャーの弱点攻撃が覿面の効果を顕したのだろう。
 ――おのれおのれおのれおのれぇぇっ!
 開かれる大顎。ガナッシュを食らい尽くさんとした牙を、ローデッドが身を挺して遮った。
「ハッ、今更1つ2つ増えようが変わりねェってな! 男なら独りで死ぬのが華ってもんだぜ」
 牙に抉られ、全身を朱に染めながら、ローデッドはニィと笑って見せる。
「寂しがりのお坊ちゃんよォ、あの世まで道案内が必要か?」
 なれば、地獄の炎を先触れに。口腔へ魔弾を叩き付ける。反動でふらつく青年を、風音のマインドシールドが最後まで癒した。
「忘れはしないぞ! あの日、オイラはお前に負けた……」
 かつて、エフイーが住んでいた自然は、烙龍に焼き払われた。ドラゴンには数多の獲物の1つでしかなかったとしても、大事を奪われたエフイーにとって、烙龍は不倶戴天の敵。
「でも、今度は……オイラが、皆と一緒にお前を倒す!」
 スナイパーとして参戦した今回。だが、死を目前としたドラゴンであっても、その心臓に重力の鎖を穿つのは、1人では不可能だった。
 この拳は――仲間との尽力の末に、勝ち取った一撃。
「覚悟ーっ!」
 両腕を合わせた掌底から、これでもかと集めた大地の気を炸裂させる。瞬間的なエネルギーの放出が、刹那白く黄昏の空気を染める。
 ――――!!
 それは、同胞の贄となれずに逝く慟哭か。空気をビリビリと震わせた叫びは唐突に失せ、黄竜の身体は尾からサラサラと崩れていく。
 カラン、と乾いた音を立て、山羊の如き2本の竜角が落ちる。万感を堪えた表情で、エフイーは烙龍の角を握り締めた。

 薄暮の中、ケルベロス達は息を吐く。誰からともなくその場にへたり込んだ。
「オツカレサマ」
「残るは後片付けって所じゃな」
 重傷者もいるし、小学校に避難している人々にも無事を伝えたいが、流石に長期戦の後に即座はきつい。のろのろと動き出せるようになったのは、日没から暫くして。
「敵ではありましたが、覚えておきます。仲間の為に燃え尽きた貴方の事を」
「せめて戦の中で逝けた事、冥府で誇るが良い……」
 小さな祈りの声を、海風が散らしていった。

作者:柊透胡 重傷:フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月8日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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