●廃校の噂
卒業の季節もそろそろ終わりを告げる。
この春に大学を卒業した青年はふと数年前に廃校になった母校の事を思う。
取り壊し予定が立ったという小学校には今、妙な噂が流れていた。
『――病気で亡くなり、卒業できなかった生徒の霊が今も校内を彷徨っている』
そんな怪談話が流れるのも老朽化した校舎の見た目の所為だろう。根も葉もないただの噂だと誰もが一笑に付す中、彼だけは噂を信じていた。
「アイツの霊なんだろうな。一緒に卒業しようって約束、守れなかったからな……」
青年が思い浮かべたのは小学校の時の親友のこと。
一番の親友だった少年は卒業の一年前に病気に罹り、そのまま還らぬ人となる。最後に見舞いに行ったときにふたりで交わした約束は果たせなかった。
噂によると、その霊は卒業した者に逆恨みのような感情を抱いているらしく、出会う者に問答無用で襲い掛かってくるらしい。
「幽霊でもいい。襲われてもいい。アイツに逢えたら、俺は……」
何を伝えたいのかは自分でも分かっていないのだが、青年はその噂の正体を確かめる為に廃小学校に訪れていた。
しかし、噂は噂。彼の前に親友はおろか、霊らしきものすら現れない。
そんなときだった。青年の目の前に魔女が現れたのは。
驚いた彼が何かを口にする前に、その胸に魔鍵が突き立てられる。鍵の力で青年の心を覗いた魔女・アウゲイアスは薄く笑った。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
そう言い残した魔女は踵を返し、気を失った青年を置いて何処かへ去る。そして――彼の『興味』は、ドリームイーターとしての実体を伴いはじめた。
●思い出の少年
取り壊し予定の廃校に幽霊型の夢喰いが現れた。
ヘリオライダーによって予知された事件について告げた百鬼・澪(癒しの御手・e03871)は、それがドリームイーターの仕業なのだと語る。
「狙われたのは不思議な物事に強い『興味』を持った人……今回は件の彼の思いが具現化されてしまったようです」
興味を奪った魔女は既に姿を消しているが、新たな夢喰いは廃校内を彷徨っている。
黒い靄のような外見の敵は少年めいた姿かたちをしているらしい。放っておけば夢喰いは廃校を飛び出して誰かを襲ってしまう。被害が出る前に手を打たなければならないと話し、澪は仲間に協力を願った。
「被害者さんは二階の廊下で眠っています。現場に到着した時点で私達が出来ることはありませんが、敵を倒すことができれば彼も目を覚ましてくれるみたいですね」
だが、現時点では敵の位置が判明していない。
そこで自分達が誘き寄せる必要があると語り、澪は待ち伏せの場所を示す。
「廃校内で戦い易い場所は体育館です。そこで全員で固まって『廃校の幽霊』の噂をすると、敵が引き寄せられるとのことです」
この夢喰いは自分の事を信じていたり噂している人が居ると近寄ってくる性質があるらしい。それを利用してうまく誘き出せば有利に戦えるだろう。
後は協力しあって敵を倒せば事件は解決となる。
戦いに関しては心配はしていないと告げた澪は、それでも油断しないように、と自分の中で決意を抱いた。そして、澪はふと件の青年のことを思う。
「嘗ての母校……大切な思い出の場所が取り壊される前に、何かをしたい。彼はきっとそんな風に思って噂に興味を抱いたのだと思います」
結局、噂は噂に過ぎず幽霊話も本当のことではなかった。
しかし、その思いを歪めて怪物にしてしまうなどということは許せない。澪が掌を握ると、傍らに控えていたボクスドラゴンの花嵐が主をそっと見上げた。その仕草に気付いた澪は、大丈夫だと告げるように淡く微笑む。
そして、行きましょう、と仲間を誘った澪は向かう先に凛とした眼差しを向けた。
参加者 | |
---|---|
蛇荷・カイリ(あの星に届くまで・e00608) |
クロコ・ダイナスト(牙の折れし龍王・e00651) |
ベルノルト・アンカー(傾灰の器・e01944) |
ヴェルセア・エイムハーツ(ブージャム・e03134) |
罪咎・憂女(捧げる者・e03355) |
百鬼・澪(癒しの御手・e03871) |
アイヴォリー・ロム(ミケ・e07918) |
マール・モア(ミンネの薔薇・e14040) |
●昏き夜の底
夜の廃校には物悲しい静けさが満ちていた。
願いが叶わなかった口惜しさ、羨みや妬み。もし本当に幽霊が出るのだとしたら、彼は何を思い、人々を襲うのだろうか。
百鬼・澪(癒しの御手・e03871)は古びた校内を見渡し、ふと思った。
進む先は体育館。
姿の見えぬ夢喰いを誘き寄せる為、ベルノルト・アンカー(傾灰の器・e01944)達は重い扉を開いた。そして、噂話がはじまる。
「病気で亡くなり、卒業出来なかった生徒とは実在した生徒の話でしょうか」
ともすれば、さぞかし無念だっただろう。しかし他者を恨むのは逆恨みというもの。ベルノルトが口元に手を当て考え込むと、ヴェルセア・エイムハーツ(ブージャム・e03134)が笑い声をあげた。
「シシシッ、なんだか降霊術みたいでワクワクするじゃねぇカ」
辺りを見回す彼は怪物の話をしようとした。だが、今はこの学校についての噂を語るべきだと仲間に制される。
件の噂について考え、罪咎・憂女(捧げる者・e03355)は緩やかに首を振る。もし噂の元が件の少年のことであっても死者を勝手に語り、騙るなんて許せるはずがない。
「噂も彼の心情も歪められていいものではありませんね」
「彼の無念は十分理解出来るし、願いが届かなかった悔しさも分かるわ」
蛇荷・カイリ(あの星に届くまで・e00608)も頷き、自分は学校にあまりいい思い出がなかったと話す。それでも、学校は忘れられない思い出の場所だ。
澪も自分が病で学校へ通えなかった時期を思い、小さく掌を握った。
「私も少しだけ、わかるような気もいたしますけれど」
ボクスドラゴンの花嵐はそれ以上言葉を続けなかった主人をそっと見上げた。
すると其処にナノナノが現れてぴこっと首を傾げる。邪魔しては駄目よ、と相棒を呼んだマール・モア(ミンネの薔薇・e14040)は鬼火めいた青白のカンテラを揺らした。
「死して尚離れぬ想いの核は何なのかしら」
今も忘れえぬ思いがあるのならば、哀れ乍らも素敵なことだ。そう感じたマールの傍ら、クロコ・ダイナスト(牙の折れし龍王・e00651)は幽かに震えていた。
「それにしても……うぅ、現実で見ず知らずの人に話しかけると死にそうになるのに幽霊のしかも、敵意を持ったのにコミュニケーションを図ろうなんてすごいです……」
クロコが思うのは件の青年のこと。
アイヴォリー・ロム(ミケ・e07918)も彼らの事を考える。叶わぬ望みが魂を現世に縛るのなら、苦しみが永劫に終わらないのなら、それは何て残酷で怖いことだろう。
「幽霊はもう何処にも行けないのかしら、ずっと、この学校に、今も……」
静かに呟いた彼女は途中で言葉を止める。そうして、アイヴォリーが視線で示した先には夢喰いの姿があった。
「そろそろ本物のお出ましかしら?」
「そのようですね。皆さん、警戒を」
少年霊を見つめたベルノルトは得物に手をかける。カイリと澪も敵が先手を取ると感じて身構えた。同じくして憂女とマールも敵を瞳に映す。
「始めましょうか」
「――ええ、存分に愉しみましょう」
そして、夢を喰らう存在との戦いの火蓋が落とされた。
●後悔と自責
少年の姿をした夢喰いの身体は透けていた。
その所為か、顔立ちや表情を上手く読み取ることが出来ない。影縛の一閃がカイリを狙ったことに気付き、クロコが庇いに駆ける。
うぅ、と痛みに耐える声がクロコから零れ落ちたが、幸いにして痺れは振り払えた。カイリは仲間に礼を告げ、魔法の木の葉を纏う。
即座に反応したベルノルトも、仲間の癒しと援護の一手に移っていった。
「自らが彼岸へ向かおうと、魂の欠片であったとしても……」
何かを言い掛け、言葉を途中で区切ったベルノルトは幻想化された刀身を振るい、アイヴォリーに力を与える。
「ありがとう、とっても目が冴えた気がします」
アイヴォリーは微笑み、鋼の鬼をその身に纏わせる。そして思いきり敵を殴り抜いた彼女は、標的の動きを僅かに傾がせた。
「二度と交わせない約束を破ってしまった後悔をわかるとは言えませんが、亡くなった彼が恨みと共に死んだとは思いたくありませんね」
憂女も敵の隙を狙い、緋龍の咆哮を響かせる。その途端に憂女の眼差しが凛とした雰囲気を纏った。
重力鎖を操り、自分達の有利に巡るように塗り替えた憂女は敵を見据える。
「本物の幽霊なら倒しがいもあっただろうニ」
ヴェルセアも竜語魔法を唱え、幻影竜の炎を浴びせかけていく。其処にボクスドラゴンの花嵐による体当たりが加わり、少年霊の体が少し揺らいだ。
「それでも逢いたい。そう願う彼の気持ちは、彼だけのものです」
軋む床を蹴った澪は花嵐が作った一瞬の隙に敵の頭上まで跳躍した。空中で回転を入れ、勢いをつけた流星の蹴りが夢喰いを穿つ。
「そう、会いたいって気持ちは本当だもの。噂が本当でなくともその気持ちを弄ぶ行為は見捨ててはおけない。……止めてみせるわ」
カイリは澪の思いに同意を示し、炎の蹴りを喰らわせるために戦場を駆け抜ける。更にナノナノがめろめろハートを飛ばした後、マールも駆動剣を振り上げた。
「心を玩弄する様な夢喰いの振舞いは目に余るの」
目の前の存在は少年でありながら少年ではない。ただの噂から生まれたまやかしの存在だ。甘い声で言い放ったマールは振るった刃で敵の負荷を増やしてゆく。
クロコも体勢を立て直し、先程の痛みを堪えながら夢主のことを考える。
「死者を忘れずにいようと思う心は何よりも尊いともいますし、それが一番の供養なんでしょうね……」
しっかりと床を踏み締めたクロコは地獄の炎を武器に纏わせ、ひといきに敵との距離を詰めた。盾として皆を守る決意を胸に、クロコは刃を叩きつける。
しかし、対する敵も夢現の力を解き放った。
ヴェルセアを貫いた魔力は封じの一手となり、その身を蝕む。されど癒し手として動くベルノルトがすぐに力を紡いだ。
生命を賦活する電流が迸り、仲間を包み込んでいく。そのとき、ベルノルトは一度は止めた言葉の続きを口にした。
「月日が経てど喪った人を追い求める……死とはまるで呪いのようですね」
「どうかしらね。其れは呪いでもあって、或いは――」
すると大理石めいた翼を広げたマールが否定でも肯定でもない言葉を返す。そして、マールは手製の軍服を翻すナノナノに更なる攻撃を願った。それに合わせたマールは銃口を敵に差し向け、凍り付くような一閃を撃ち放つ。
同じくヴェルセアも確実に敵に攻撃を当てるべく、刃に虚の力を纏った一撃で敵に襲い掛かっていった。
戦いは続き、敵は休むことなく厄介な力を振るってくる。
クロコとマールは仲間に向かう攻撃を受け止め、いなして躱す。傷付けられた分は憂女がドローン達を飛ばし、クロコが気力で己を癒した。
カイリは仲間達に頼もしさを覚え、改めて敵を強く見つめる。攻め込む隙を見極めたカイリは電光石火の一撃を与え、素早く身を翻した。
「今よ、澪ちゃんっ!」
「任せてください。歪んだ紛い物には、消えていただきましょう」
カイリの声を受け、澪は花嵐を伴って夢喰いの背後に回り込む。花舞う竜の吐息が迸る中、澪の振るう竜槌から弾丸が解き放たれた。
敵の力は徐々に削り取られている。そう感じた憂女は味方に宿る加護を更に強固にするべく、全身の装甲から光輝くオウガ粒子を迸らせた。
「創られたことに非はなく恨みもないが護りたいもののために、すまないが、ここで終わっていただこう」
終わりへの序曲を紡ぐように、憂女は凛々しい聲で言い放つ。
憂女が援護に回るならば自分は敵の阻害を、と考えたアイヴォリーは駆動音を立てる刃を振りかざした。
魂の終りの先は無いのだと己に言い聞かせても、指先が震える。死の先を思えば思うほどに恐怖が胸の奥に滲むが、今は躊躇は許されない。
「物語の頁を捲れるのは、生きている人間だけです。わたくしは一度きりの今を――」
精一杯、生きたい。
それゆえに先ずは目の前の偽りの死者は退ければならない。それが未来を拓く道だと信じ、アイヴォリーは刃を振り下ろした。
●いつかの思い
暗い体育館が大きく軋み、戦いの音が反響する。
夢喰いからの攻撃は尚も続き、仲間達は果敢に応戦していった。飛び交う攻撃の最中、揺らめく魔力は憂女の記憶から心的外傷を誘発する。
「なんて、力だ……」
敵は一人ずつにしか攻撃を行ってはこないが、その分だけ一撃が重かった。憂女はふらつきそうになる身体を押さえ、その間にベルノルトが回復を行う。
「心配は無用です。支えますから」
ベルノルトが放った賦活が憂女の不利益を取り払い、足りぬ癒しはクロコが補った。
少年霊は感情を出さぬまま、更なる攻撃を仕掛けようと身構えていた。其処へヴェルセアが飛び出し、再び幻影竜の焔を浴びせかけていく。
「くだらない自責の念ごと祓ってやるヨ」
おそらく夢喰いを形作っているのは夢主となった青年の思いだ。要らぬ思いは残らずともいいと考え、ヴェルセアは次の一手に備えた。
それから暫し攻防が巡る。
徐々にではあるが敵は弱りはじめていた。カイリは逸早くそのことに気付き、全力で畳みかけようと心に決める。そして、霊力を籠めた斬撃が一瞬にして放たれた。
「巻き上がれ……記憶と共に、無間の氷獄に凍てつき、砕けろォッ!」
凛としたカイリの声と共に放たれる真空破。それによって竜巻の檻が生まれ、捕えた獲物を凍てつかせる監獄となる。
蓮獄の氷枷となった一閃は敵の力を一気に削った。カイリの攻撃に力強さを感じ、澪も花嵐を伴って連撃に入った。
揺らぐ霊が心なしか悲しげな雰囲気を纏っている。そんな気がして、アイヴォリーは唇をきゅっと噛み締めた。
「わたくし、哀しい結末は苦手なんです。偽物でも成仏させてあげますね!」
明るく言い放った少女が放つのは渾身の重力鎖。
其処にマールが続き、アイヴォリーの力に自分の魔力を重ねた。
「想い出を悲劇と成さぬよう厳然たる幕引きを」
――全てを蕩かす蜜の味、憶えていて頂戴ね。優雅に微笑んだマールが黄金の林檎を爪裂けば、アイヴォリーが蜂蜜と黄金の魔力を紡ぐ。
かたや蜜繞。かたや后の林檎。
甘く熟れた香りを漂わせたふたつの蜜は交じり合い、蕩けるような衝撃を夢喰いに与えていった。それによって敵が傾ぎ、憂女とクロコは好機を見出す。
クロコの眼差しが武人然としたものに変わり、地獄化した右腕が闘気に包まれた。
「喰らえ、その身で味わうがいい!」
渦となった力を叩きつけるようにしてクロコの龍王烈震撃は敵を大きく穿った。続いて動いた憂女も真剣な視線を敵に向ける。
相容れない存在であろうとも、今このとき、牙を交えるその瞬間は余事などなくお互いこそがすべてでありたい。
寡黙さを貫いたまま、憂女は刃を振り上げる。刹那、煌めきを宿しながら下ろされたナイフは幾重もの斬撃となって敵の身を斬り裂いた。
更にヴェルセアが血襖斬りを重ね、マールのナノナノが敵をちっくんと突き刺す。そして、ベルノルトも最後の一手を攻撃に変える。
「貴方の怨恨も存在も、最初から無かったものなんです」
物言わぬ少年霊にそっと告げ、ベルノルトは気咬の弾を撃ち放った。美しい鬣をなびかせた花嵐がブレスを吐き、夢喰いはその場に膝を突く。
澪は自分が終わりを齎すべきだと感じ、真っ直ぐに敵を見つめた。
季節は流れゆくもの。
「思い出を歪め、止めようとする貴方にも流れて移ろい、消えるべき時が来たのです」
世界は怖くて、美しくて、羨ましかった。
きっと噂の元になった少年も病院の窓から外を眺め、卒業に焦がれたのだろう。
けれどそれはすべて過去のこと。神解け、と澪が口にした瞬間。四季の花々を映した電流が迸り、一条の雷となって敵を穿つ。
ふわりと舞った魔力の残滓はまるで、ひとひらの桜の花弁のように見えた。
●想い出は遠く
夢喰いは倒れ、まるで霧が晴れるように消失していく。
こうして噂と興味から生まれた存在はケルベロス達の手によって倒された。カイリは皆を誘い、廊下に倒れている青年の元へと向かう。
カイリ達が到着した頃には、彼は目を覚まして起き上がっていた。
簡単に事情を説明した澪の話に頷き、青年は俯く。するとおずおずと近寄ったクロコは夢喰いではない、『噂の幽霊』について語った。
「あ、あの……幽霊さんはいませんでしたよ。死んだ後も誰かに思ってもらっている幽霊さんが……人に逆恨みをするなんてことやっぱなかったんですよ……きっと……」
クロコの懸命な思いを聞いた青年は少し寂しそうに笑った。青年の様子を心配したアイヴォリーはそっと首を振り、その手を握る。
「喪ったものは帰って来ません。それは淋しくて、だけど、」
「でも、さ……恨まれていても良いから会いたかったんだ」
悲しげな顔をした青年は少女の言葉を遮った。そんな彼に対して憂女は、不快な思いをさせたらすまない、と前置きをして問いかける。
「もしも、逆の立場としたら貴方は彼を恨むだろうか?」
その言葉に青年がはっとした。噂はただの噂に過ぎず、彼の親友はきっとそんなことを思うような子ではなかったはずだ。青年の反応を見た憂女は、彼が過去と共に前を向いて進んでもらえるように願う。
「随分と友人には恵まれてたようだナ」
敢えて青年に声を掛けなかったヴェルセアはその様子を眺めていた。
ベルノルトも幽霊はいないのだと青年に告げ、根も葉もない噂話だと断じる。少年は誰も恨んでなどいない。それに――。
「約束を違えたのは、貴方の方ではありません」
「果たせぬ約束は枷ではなくて、絆なの」
マールも自分が感じた思いを告げ、青年の瞳をじっと見つめる。
親友は今も貴方の心の中にいる。ならば貴方の歩みこそ彼の希望ではないか。そう語るマールに続き、ベルノルトは願う。
「手向けとして、貴方の記憶の中で生き続ける事を赦して差し上げてください」
「……ああ」
如何か、と軽く頭を下げたベルノルトに青年は頷きを返した。
その姿を見ていた澪は、彼はもう大丈夫だろうと確信する。
「この場所で共に過ごした日々の思い出は、貴方の言葉を届けてくれますよ」
澪は淡く笑み、優しい思いを伝えた。
アイヴォリーは自分が先ほど紡ぎかけた言葉の続きを告げようと決める。
悲しみと寂しい気持ちは消せない。けれど大きな哀しみが生まれるのはそれ以上に楽しい事や幸せな事があったから。
「だから、人生は――いとおしいのですよ」
そういってアイヴォリーは微笑む。
この場所は壊されてしまうけれど、想い出まで壊されるわけではない。
この先も続く日々を支えるのはきっと大切な記憶のはず。
番犬達の言葉を聞いた青年は遠い目をして校舎内を眺める。その目は何処か優しく、瞳の奥には仄かな希望が映っているように見えた。
作者:犬塚ひなこ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年3月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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