血で染まった青春

作者:ハル


「先輩……目は覚めましたか?」
「……風子……お前、なんで……」
「…………なんで? ……ふふ、変な先輩。本当は分かってるくせに」
 放課後。誰も居ない学校の校舎の中で、少年と……風子と呼ばれ、羽毛を生やし変わり果てた姿になった少女は向かい合っていた。
 闇夜の中で、風子の手に握られたナイフが煌めく。その切っ先が、ふいに少年の腹部にブスリと埋まった。
「い゛っ! うう、あああっっ!!」
 呻く少年。だが、後ろ手に拘束された身体は微動だにせず、傷口からは血がドクドクと流れ出す。
「先輩が別れるなんて言わなかったら、こんな事にはならなかったんですよ?」
「……っ、それは、違っ! お、俺は、卒業して、留学して……風子に相応しい男になろうって!」
「だったら、別れる必要なんてないじゃないですか!!」
 風子の怒号と共に、ナイフは再び少年の胸元を抉る。
「ああ゛、ああああっ!!」
 再び漏れる、少年の絶叫。
 そして急速に、少年の意識が薄れていく。
「安心してください、先輩。先輩を一人にはしません。私達は永遠に一緒……私も、すぐに先輩の所へ行きますから……」
 少年が最後に見たのは、少年が大好きだった花が咲くような風子の笑みではなく……。
 羽毛に覆われ、少年が大嫌いだった風子の泣き顔であった……。


「ミルディア・ディスティン(猪突猛進暴走娘・e04328)さんの調査の結果、とある高校の教室にて、ビルシャナを召還した少女――風子さんが事件を起こそうとしているのが分かりました」
 悲しい事件の予感に、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は唇を噛んでいる。
「風子さんと被害者の少年……タカシさんは、恋人同士の関係だったようです。ですが、今年の春、風子さんの一学年先輩であるタカシさんが学校を卒業後、留学することが分かりました」
 留学は数年間に及ぶようだ。その関係で、タカシさんは風子さんの傍にいてあげられない自分に縛り付けていいのかと悩み、別れを切り出したという。
「風子さんは、学校でも男女問わず非常に人気のある少女であり、それほど目立つ事のないタカシさんは、人知れず陰口を叩かれていました。留学も、自分に自信を持つために決めたことのようです」
 タカシは、離れていても風子をずっと好きでいる事を約束した。風子も同じ気持ちを持ち続けられていたなら、その時に改めて付き合おうと提案したそうだ。
「……ですが、留学もそうですが、別れることはそれ以上に、風子さんには理解しがたい事でした。互いに今も好き同士なのに、何故一時的だとしても別れる必要があるのか……と」
 女性として、セリカは風子の気持ちも理解できるとした上で、タカシの葛藤も伝わってくる。
 だが、このまま願いが叶えば、風子は心身共にビルシャナになってしまい、もちろんタカシも殺されてしまう。
「校門の施錠に関しては、こちらの方で手配しておきましたので、後で鍵を受け取ってください」
 戦闘になった場合、ビルシャナと融合した人間は、復讐の邪魔をしたケルベロスの排除を行おうとする。
 苦しめて復讐したいと考えているので、復讐途中の人間を攻撃することはない。
 だが、自分が敗北して死にそうになった場合に限り、道連れで殺そうとする場合もあるので、注意が必要だ。
「……残念ですが、ビルシャナと融合した風子さんは、基本的にはビルシャナと一緒に死んでしまいます。ですが、可能性は低いものの、風子さんに『復讐を諦め契約を解除する』と宣言させれば、助ける事も可能です」
 契約解除は心から行わなければならない。
 風子の命を盾にするなど、利己的な説得では救出は不可能だろう。
「タカシさんも簡単な気持ちで留学を決めた訳ではないはずです。風子さんもそれは薄々分かっているでしょうが、納得はできないのでしょう。風子さんが死んでしまえば、タカシさんは……」
 幸せな結末を期待したい。


参加者
西条・霧華(幻想のリナリア・e00311)
槙野・清登(惰眠ライダー・e03074)
喜多・きらら(単純きらきら物理姫・e03533)
ミルディア・ディスティン(猪突猛進暴走娘・e04328)
メルーナ・ワードレン(小さな爆炎竜・e09280)
フォトナ・オリヴィエ(マイスター・e14368)
植田・碧(スマイルヴァルキュア・e27093)
龍造寺・隆也(邪神の器・e34017)

■リプレイ


「何やってんのよ、馬鹿ッ! 早まってんじゃないわよ!」
「ッ、だ、誰っ!?」
 薄暗い教室内で、不気味に煌めくナイフ。その切っ先がタカシの腹部へと吸い込まれようとした瞬間、メルーナ・ワードレン(小さな爆炎竜・e09280)の怒声と共に、風子の腕はガッチリと掴まれていた。
「……じゃ、邪魔をしに来たって訳ですか?」
 突然の闖入者に驚いた風子は、その場から一旦飛び退いてから、ケルベロス達を一瞥した。羽毛に覆われたその姿は、元の可憐な少女の姿を穢すには十分で……。
「恋する女には、心中や後追いは浪漫かもだけど……端から見れば只の殺人と自殺だからね」
 フォトナ・オリヴィエ(マイスター・e14368)の冷静な声も、様々な感情の坩堝の中にある風子には、なかなか届かないだろう事を予感させた。
「タカシくんの言い方は悪いかもだけど、でも風子ちゃんのために、ふさわしい男になるからって言ってるのに、なんでそこまでいっちゃうの!? 男の子って子供っぽいから、時には待ってあげることも必要なんじゃないかな?」
「ああ、その通りだ。好きな相手と離れたくない気持ちは分かる。けど、君が好きだからこそ、今より強くなろうとする彼の心を否定していいのか?」
 続けて、ミルディア・ディスティン(猪突猛進暴走娘・e04328)と槙野・清登(惰眠ライダー・e03074)の言葉が、この間を逃してなるものかと、3-Aの教室内を飛び交う。
 対する風子は、悲しげに眉を寄せていた。風子は、スカートの裾を握りしめながら、言う。
「だからって……何年間も待っていられないですっ……! 私は、毎日だって先輩と一緒にいたいのに!」
 風子としては、登下校で、タカシと別れる瞬間が何よりも嫌いであった。だが、それでも明日になれば会えると分かっているから、我慢していられたのだ。留学してしまえば、長期休暇でたまに返ってくるとしても、今からは想像もつかない程離れてしまう。まして、一時的にでも恋人同士でなくなってしまうかもしれないと考えれば――。
「無理っ! 絶対無理ですっ!」
 想像するだに恐ろしいと、羽毛と髪を振り乱し、風子は狂乱する。
「タカシさんはな、他の誰でもなく風子さんのために頑張ろうとしてんだぜ! 風子さんの気持ちも分かるが、じっくり話し合ってみるべきだ!」
 少なくとも、ただ否定していい気持ちではないだろう。
「距離なんて関係なく、応援して支える事、信じ続ける事が出来るってことが、好きの証明なんじゃねぇのか? それとも、二人の気持ちは一時の別れで諦める程度の好きだったのかよ!?」
「そんなはず……ないじゃないですか! でも、でもぉっ!」
 喜多・きらら(単純きらきら物理姫・e03533)も、自分が酷な事を言っている自覚はあった。もっと恋愛経験があったなら、違う言葉をかけられたのでは? そう思う部分もある。だが、先の言葉が、今のきららの精一杯。足りない部分は、熱意でどうにかするしかない!


「風子は今、召還したビルシャナに乗っ取られようとしている。それを避けるには、風子を説得しなければならない。そして、それが出来る可能性が一番高いのはお前だ」
「……そ、そんな……」
 龍造寺・隆也(邪神の器・e34017)が状況を端的にタカシに告げると、タカシは戦くように頭を抱えた。
「何故、一時的にせよ別れるという選択肢を選んだのか、正直に話せ。彼女はそれが一番納得できていない」
 だが隆也は、タカシの協力なくして、風子を救う事はできないと考えていた。ケルベロス達の万の言葉よりも、タカシに一言の方が、風子にとっては重いはずだと……。
「自信がないのは良いが、惚れた女を信じられないのは駄目だ。男を見せろ。風子がこれまでに見せたお前への好意が、軽いものであったなどとは思ってはいないだろ?」
「……はい」
 皮肉にも、今この状況こそが、風子のタカシへの強い思慕を証明している。タカシは、今更ながらに自分がこれだけ愛された事を実感しているはずだが、残念ながらそれを喜ぶことができない。恋人という関係にある彼らにとって、それはなんと悲しい事だろうか……。

「っ……!? 貴女は彼が周囲の人達から、色々と陰口を言われていた事を知っていたかしら? それもあって、彼は貴女に相応しい自分になろうと思って留学を決めたのよ!?」
 風子が放った孔雀型の炎が、植田・碧(スマイルヴァルキュア・e27093)の肌を焦がす。
「碧さん、大丈夫!?」
「援護する、だから、少しだけ堪えるぞ! 準備はいいな、熾輝!」
 続けて、前衛を薙ぎはらうように、風子が閃光を発射する。
 それに対応するため、フォトナの張った雷の壁が光線の威力を減衰させ、熾輝の黒いオウガ粒子が味方の周囲に散布された。
「お互いに、一番大事な事を見逃していませんか? 言葉にしないと伝わらない事だってあります! 二人の行く末は、二人で決めるべき事ですよ!」
「うる……さいっ! もうやめて! 何も言わないで!」
「くっ!?」
 風子の負の念が籠もった経文が、西条・霧華(幻想のリナリア・e00311)の心身へと侵略する。それでも霧華は斬霊刀を鞘から抜かず、説得を続けながら唇を噛み、じっと堪え忍んだ。
 風子を助けたいという思いは、ケルベロス全員が共通する想いだ。だから、風子が攻撃を仕掛けてきたからと、簡単にこちらも剣を抜く訳にはいかない。
「風子ちゃんは、タカシくんを待ってあげる事は本当にできないの!?」
 傷ついた仲間に、満月にも似たエネルギー光球をぶつけつつ、ミルディアは改めて言った。
「……そんなの、寂しいじゃないですか……でも……」
 すると、風子の攻勢が一瞬だけ沈静化する。
「別れを告げたのは、留学の間彼女を自分に縛り付けるのが良くないと思ったのよね?」
 その隙をついて、碧がタカシに問いかける。問われたタカシは、傷つくケルベロス達に苦渋の表情を見せながらも、確かに頷いてみせた。
「彼は貴女を嫌いになった訳じゃない! むしろ、好きだからこそ、そう想ったのよ! 彼を思い続けて居れば、また付き合えるのよ!?」
「そんな、数年後の話はもういいです!」
 再び閃光が迸る。
「タカシ、しゃがめ!」
「ひっ!?」
 清登の合図と共に、タカシの背中に赤黒い液体が飛び散った。それは、紛れもなく清登のもの。
「そこのアンタも! 男だったらハッキリ言ってやんなさいよ! 全部風子の為だって! 風子の事が好きなんだって! 本当はずっと一緒に居たいんだって!!」
 同じく仲間を庇いに入りながら、メルーナは我慢しきれずタカシに告げた。
(ああクソ……! 痛いわね……ったく……!)
 反撃できないストレスは、苦痛となってメルーナ達を苛んでいる。だが、ミカンも、そして仲間も耐えている以上、メルーナが先に音を上げる訳にはいかなかった。
(絶対助けて幸せにしてやるわ! じゃないと許さない!)
 結末はハッピーエンド。むしろそれ以外は許さないと、メルーナは気力を溜めた。


「風子さんに誰が相応しいかは、風子さんが決めるんです! 風子さんを笑顔にできるのは、タカシさんだけなんですよ! それって、凄い事だと思いませんか?!」
 霧華の言葉が、夜闇を切り裂く。
 曇天から月が覗くように、希望の光……浮かんだ風子の笑顔が、タカシに力を与える。
「例え自分に自信が持てなくても、彼女の心が離れるだろう……なんて勝手に思い込むな。彼女が好きなのは、今ここに居る君自身だろう?」
 タカシを守りつつ、一番その変化を感じていた清登の言葉が、その活力をさらに確かなものとする。
「言ってやれ、お前にしか伝えられない言葉をな!」
 孔雀型の炎を電光石火の蹴りで掻き消しながら、隆也もタカシの背中を押した。
「はい!」
 頷き返すタカシの顔は、男の顔。
「その分だと、彼女いない歴イコール年齢の俺みたいにはなっちまわないようで、少しだけ残念だ」
 その背中をいつでも庇えるような立ち位置を取りつつ、清登は笑った。

「ああ、もう! そんなに悩んでいるなら、どうしてこんなになってしまう前に、互いの思いを膝詰めて話し合わなかったのよ!」
 それが若さというものなのだろうか。フォトナが深々と溜息を吐く。
 そして、フォトナがタカシにも、彼女の気持ちを無視した自己満足だと、一言文句を言ってやろうと振り返った瞬間――。
「風子、俺は風子が好きだ!」
「……先輩」
 タカシの素直な気持ちが教室に響き、嘘のように風子の攻撃が止んだ。
「……待ってたわよ」
 碧もホッと肩の力を抜きながら、タカシの背中を軽く叩いて、気力を溜めた。
「俺は、馬鹿だから……風子がこんなに俺のことを想ってくれているなんて気付かなかった! 自分に自信が持てなくて、留学しようとした。だけど、絶対に風子の事を嫌いになった訳じゃないんだ!」
 それは、むしろ逆。置いて行かれたくなくて、少しでも近づきたくて決断した事。
「馬鹿です、先輩は」
「……うん」
「でも、私も、馬鹿……。先輩が陰口を言われて、傷ついているのを気付いてあげられなかった……」
 風子の頰を、ポツリと涙の雫が伝う。いつの間にか、その表情は、憑きものがとれたかのように穏やかで……。
「風子さん、一昔前ならともかく……今の時代、待てないなら女性の方から追いかけたって良いんですよ? もちろん、私が言っているのは死後の世界じゃありません。分かりますよね?」
 死後の世界ではなく、現実の世界。どれだけ離れていても、世界は繋がっている。霧華の言うように、会いたいと思えばすぐにだって会えるのが、現代のいい所。
「今の二人で留まる為でなく、二人で未来に進む為に、君自身の心で彼に応えろ」
 鳥野郎の力を借りるのではなく、自分の力で。それは、二人ならば本当に、呆気ない程に簡単に手に入るものなのだ。
 清登の言葉に、風子はゆっくりと頷いた。
 そして――。
「……契約を解除します」
 待ち望んだ一言が、風子の口から紡がれる。
「手間のかかる二人だぜ」
「まったくね」
 そう言うきららとメルーナの口元には、隠しきれぬ笑みが浮かんでおり、
「……あはは。もう、正直じゃないんだから」
 ミルディアは苦笑を浮かべながら、最後の仕上げに取りかかるのであった。


「さあ、もう貴方の出番は終わったわ。早々に退散なさい、ビルシャナ!」
 全身にオウガメタルを纏わせたフォトナが告げると、風子に変化が起こり始める。風子に拒絶されたビルシャナの集合無意識が、風子から分離して姿を現したのだ。
 形勢が圧倒的に不利な事を察したビルシャナは、その場から逃走を図ろうとするが!
「あら、逃がすと思っているのかしら?」
 碧が放つ属性グラビティーの弾丸に、魂の一部を削られ、その場に縫い止められた。
「お前の出番は終わりだ。速やかに舞台を降りろ」
 次は、自分が男を見せる番だと、黄金のオーラを纏った隆也が、ビルシャナとの距離を流れるように詰めると、その魂をさらに細分化してしまう。
「さぁ、あと少し! 気を緩めずにいくよ!」
「ええ! 若者の恋路を邪魔する鶏は、馬に蹴られて地獄行きよ……!」
 ミルディアが、傷ついた前衛にの前に、ドローンを展開。
 フォトナも援護のために、「鋼の鬼」と化した拳をビルシャナに叩き込んだ。
「ミカン、よくやったわ!」
 観念したのか、はたまた逆襲を狙っているのか。ビルシャナが孔雀型の炎を飛翔させる。それをミカンが受け止め、メルーナが褒めた。
「さて、アンタには痛い思いをさせられたからね、100倍にして返してあげるわ!」
 ビルシャナに、文字通りの返礼を! 紅蓮を纏ったメルーナのルーンアックスが、ビルシャナに豪快に叩き込まれる。
「――――ッッ!!」
 教室内に、ビルシャナの声なき悲鳴が轟いた。
「風子さんとタカシさんを利用した貴方には、その程度の苦痛でさえ生温いです」
 悶絶するビルシャナの背後には、霧華の影。眼鏡を外し、無表情となった霧華の眼光がビルシャナをただ射貫いていた。
 次いで、一閃。ついに解き放たれた霧華の斬霊刀が、類い希な技量を持ってビルシャナを音もなく両断する!
「いくぞ、相棒!」
 陽炎のように揺れる、心許ないビルシャナの魂。そこに、炎を纏った雷火に搭乗した清登が襲い掛かる。炎は、清登の誓いによって生み出された溶岩の熱を上乗せして、ビルシャナを燃焼させる。
「喜多さん、そっちに行ったわよ!」
「オーケー、我が撃ち漏らす訳がないだろ?」
 だが、間一髪でビルシャナには息があった。碧が警戒を促すと、すでにその姿を捉え、手裏剣を構えていたきららの自身に満ちた声が応じる。花をあしらったスカートと、三色のグラデーションが美しい髪が揺れた次の瞬間!
 螺旋の力を帯びた手裏剣はビルシャナを撃ち抜き、完全に消滅に至らしめるのであった……。

「まっ、最初はどうなる事かと思ったけど、最終的には良い感じに収まって良かったわ」
 良い経験になったと、周辺のヒールを負えた碧は安堵の息を吐いた。
 その間……。
「いーい? 男の子っていうのは、基本的に我が儘なんだよ! 風子ちゃんは、その我が儘を許してあげる覚悟がないと。もちろん、何でもかんでも許すんじゃなくて、締めるべき所は――」
 無事にビルシャナから卒業できた風子は、ミルディアに異性に関するレクチャーを受けていた。我が儘な男として例に出されるタカシも、年下にレクチャーを受ける風子も、二人共が実に恥ずかしそうである。最も、こうして恥ずかしがれるという幸福を、実感もしているようだ。
「ミルディア、そろそろその辺にしておいてやれ」
「そうだな、これからは、二人が話し合って決める事だ」
 言葉に熱の籠もるミルディアに対し、隆也と清登が、ドウドウと諫めに入る。すると、ミルディアは未だ何か良い足りなさげであったが、彼女もやはり二人の時間も必要だと思い、「ファイトだよっ!」……最後にそう笑顔を残した。
「これから、あの二人はどんな選択をするのでしょうか?」
 タカシと風子から、ケルベロス達が少し距離をとってから、ふいに霧華が呟いた。復讐に囚われる身としては、何かを乗り越えたように晴れやかな二人に、何か思う所があるのだろう。
「さぁ、興味ないわね」
 メルーナはそう素っ気なく答えるものの、二人をチラチラと振り返っている。
「花の命は短いけれど。……だからこそ力の限り咲き誇ろうとするから、美しいものよ。困難を乗り越えた二人の『恋』という花は、きっと今まで以上に美しく咲くわ」
 フォトナがそう言うと、ふわっと、一際強い風が吹いた。
「そうある事を願うぜ」
 窓際で呟くきららの視界には、校庭の満面に咲き誇る桜が、自らの美しさを誇示するように背伸びをしていた。まるで、二人の新たな門出を祝福するかのように……。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。