甲冑の内

作者:雨乃香

 ふと気づくと少年はそこにいた。
 赤い絨毯の敷かれた先の見えない洋館の広大な廊下。点々と存在するドアはどれも固く閉ざされ開くことはできない。
 少年はその変化の乏しい廊下を歩いていき、やがて一つの扉の前でとある変化に気づいた。
 その扉の前には剣を携えた鎧が飾られていた。
「わぁ……」
 その精巧な造りと男心をくすぐるそれに思わず少年は手を伸ばす。指先がひんやりとしてそれに触れた瞬間、音を立てて鎧はバラバラに崩れ落ちる。
「うっ、わぁ!?」
 驚いた少年は後ずさり、怒られるのを恐れてか辺りをしきりに見回したあと、立ち上がり廊下を駆け始める。息が切れるまで走り続け、彼が足を止め顔を上げた先には、崩れた鎧の兜が少年のほうを向いて、先ほどと同じように転がっていた。
「そんな……なんで!?」
 少年が戸惑う間に、さらにその目の前で不思議なことが起こる。
 バラバラに崩れ去った鎧の端々から奇妙な触手が伸び、部位同士を繋ぎあわせ、部元の形を成し、剣を振り上げる。

「ぅ、あああ!?」
 布団を跳ね除け、目覚めた少年が目にしたのは、いつもと変わらぬ自分の部屋。
「なんだ、夢、か……」
 しばらく呆然とした後ようやくそう呟いた少年は、寝なおそうと再びベッドに横になろうとして、
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 その声を聞いた。
 背筋に走る悪寒、同時に体から力が抜けていく感触。
 少年の体は鍵に貫かれ、力なくベッドに横たわった。

「時として夢とは自身のおかれた状況や、未来を表すといわれます。所謂、夢占いというやつですね」
 そこまで説明する必要はないかもしれませんが、と、ニア・シャッテン(サキュバスのヘリオライダー・en0089)は呟きつつ、さらに話を続ける。
「ループする廊下等は、自身が困難におかれていることを示すのだとか。さらに鎧が出てくる夢は、自身に危機が迫る事を表すんだとか……」
 ニアは笑みを浮かべつつ、そんな世間話から本題へを舵を切る。
「そんな夢の中ドリームイーターに驚きを奪われてしまった少年がいることがロフィ・クレイドル(ペインフィリア・e29500)さんの情報提供によって発覚しました。
 なかなかどうして、夢占いというのも馬鹿にできないものですね?」
 ニア達ヘリオライダーの力とどっちが便利でしょうか? などと冗談を交え、彼女はそのドリームイーターと少年について語る。
「驚きを奪われてしまった少年は、現在も眠りについたまま……。彼の目を覚ましてあげるためにも、奪われた驚きから実体化したドリームイーターを倒してしまわねばなりません」
 言葉とともにニアは携帯端末を操作しドリームイーターが出現すると思われる地域の地図情報を呼び出し状況を説明する。
 ドリームイーターは被害者の少年の住んでいる住宅街に出没し、周辺住民を驚かせて回るという習性を持つらしく、もしも驚かないものがいれば、その者に襲いかかるのだとか。
「夜の住宅街で動く鎧と出会って驚くな、などといっても無理な話かもしれませんが、ま、腰が抜けたり、驚いたせいで不注意から怪我する人が出るかもしれません、速やかに現場に向かってこのドリームイーターを倒してしまいましょう」
 敵の詳細については後ほどデータで送っておきますのでまずは現場へ、とニアはケルベロス達を促し、席を立つ。
「ゲームなんかでも動く鎧ってよくいますけど、大体そこそこ強いんですよね、不思議と。このドリームイーターがどうかはわかりませんが、一応気を引き締めていきましょうか?」


参加者
月織・宿利(ツクヨミ・e01366)
月見里・一太(咬殺・e02692)
香坂・雪斗(スノードロップ・e04791)
蓮水・志苑(六出花・e14436)
デニス・ドレヴァンツ(月護・e26865)
ロフィ・クレイドル(ペインフィリア・e29500)
苑上・葬(葬送詩・e32545)
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)

■リプレイ


 日が沈み数時間が経てど、時刻はまだまだ宵の口。
 小学生低学年の子供であれば既に寝入る頃合とはいえ、普通の人々にとってはむしろようやく落ち着ける時間。しかしデウスエクスのもたらす被害というものはそんな人々の事情など一切合切考慮などせず、ただ理不尽に襲い来る。
「ケルベロスだ。済まねぇがこの辺にデウスエクスが現れるらしい、避難を頼む」
 住宅街の中程に建つ一軒の家屋の玄関の前で、月見里・一太(咬殺・e02692)は不安げな表情を浮かべる住民にそう事情を説明し、避難を促していた。
 既にそうした地道な避難誘導を始め、それなりに時間が経過していたこともあってか、その一家は既に避難の準備を終えており、デニスの説明を聞くとすぐに一家揃って家を出て、ケルベロス達に頭を下げてから、指定された経路を通り、避難所へと向かっていく。
 途中振り返った子供が、不思議そうに首を傾げ足を止めたかと思うと、父親の服の裾を引きつつ、ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)の燃え盛る頭を指し示していた。
 すぐに父親は、頭を下げ、隣の息子にも頭を下げさせたが、ラーヴァのほうは気にした様子もなく、去っていくその一家の背中に軽やかに手を振ってその後姿を見送った。
「これで一帯の避難は完了ですね」
 くるりと振り返り、つぶやくラーヴァの兜から微かな炎が漏れ、ゆらりと揺れる。
「だな。他ももう終わる頃だ、一応その辺ほっつき歩いてるやつがいないか気を配りながらいくか」
 先ほどの家族とラーヴァの一幕に特に感慨もない一太は特に気にした様子もなく頭一つ分低い彼を促し、すっかりと人気のなくなった蛻の住宅街を歩いていく。
 驚きの感情を奪うドリームイーターの手によって生み出された、動く鎧。それの出現が予想されるこの一帯の避難を手分けして速やかに行った後合流、周囲の探索から的の討伐がケルベロス達の立案した作戦であった。
 二人が合流地点に指定された通りへと到着すると、既にその場で待っていた仲間と、ちょうど通りの反対側からやってきたらしい仲間が、言葉を交わしている所のようだった。
「道中変わった事はなかったかな?」
「これといって、逃げ遅れた人もいなければ、それらしい目標の姿もなかったな」
 デニス・ドレヴァンツ(月護・e26865)の問いかけに、苑上・葬(葬送詩・e32545)が首を横に振って異常がなかったことを告げると、報告に耳を傾けていたロフィ・クレイドル(ペインフィリア・e29500)は真剣な表情で口元を引き結びつつ、ポツリと声を漏らす。
「既にこちらに狙いを定めているのでしょうか……?」
「それなら話は早いんやけど……と、そっちはどやった?」
 香坂・雪斗(スノードロップ・e04791)はロフィとの会話の途中、一太達がやってきたことに気づくと顔を上げ、そう問いかける。
「こちらも特に問題はございませんでした」
 ラーヴァの報告を耳にするとケルベロス達は一旦安堵の溜息を吐く。緊急時に連絡を取る手筈であったとはいえ、無事合流し、避難も手早く被害の出ることなく終わらせられた事をこうして確認できたのだから、今の所作戦に支障はない。
 的の足取りがつかめない事が気がかりではあるものの、元より今回の敵はケルベロスを驚かせる為に行動するという習性があるのだから、必要以上に心配をする必要もない。
「それじゃあ早速目標を探しにいこうか。探すというよりも見つけてもらう、といったほうが正しいかもしれないがね」
 言いながらデニスが軽く地図を広げると、それを元に、それぞれの地域の担当が避難時に見つけていた広めの通りや公園、あるいは空き地といった戦闘に少しでも向いた場所の情報整理を始める。
「それにしても動く鎧とは、それだけであれば特に害はないように思いますが」
「夜の住宅街にいきなり西洋甲冑が現れたら……さすがに私も驚いちゃう、かな?」
 地図を前に言葉を交わす数人を尻目に、必要以上の人数が口を出しても非効率的と離れていた蓮水・志苑(六出花・e14436)と月織・宿利(ツクヨミ・e01366)の二人は今回の討伐目標である動く鎧の姿をしたドリームイーターについて話していた。
 宿利の言葉に志苑はその情景を想像してみるものの、彼女にとってそれは驚くに値しないことなのか、不思議そうにきょとんとした表情を宿利へと返す。
「志苑ちゃんは平気そうだね、とっても心強いな」
「そう、ですか? 私も宿利さんがご一緒で頼もしい限りです」
 友人を心強いと思うのはケルベロスであれ同じこと、むしろこのような戦いの場であれば、信用できるものとの絆というのは、下手な武器よりも余程頼りになる。
 少しだけ言葉につまり、目線を伏せた志苑はその視界の先、自分の足元で何かを訴えかけるように飛び掛る宿利の相棒たるオルトロス、成親の存在へと気付いて、表情を和らげた。
「ええ、成親さんも頼りにしていますよ」
 志苑がそういって頭をやさしく撫でると成親は任せておけとでも言わんばかりに尻尾を振り、鳴き声をあげる。
「俺等も負けてられんな」
「街の安全のためにも甲冑の評判のためにも負けられぬ戦いでございますね」
 雪斗の呟きにラーヴァが返した、冗談とも本気とも取れる言葉にケルベロス達は微かに笑みを漏らしつつ目標をおびき出す為に歩き始めた。


 明かりの落ちた家々の並ぶ住宅地の雰囲気というのは、独特で異質なものだ。
 長く人の訪れることのない廃墟とは違う、人の生活している気配を残しながら、その人だけが抜け落ちた様はまるで夢の中の世界を歩いているような錯覚を覚える。
 そんな町並みをケルベロス達は大きな通りを中心に歩きつつ、公園や空き地といった場所を中継しつつ目標の出方を伺っていた。
 人気のない街をあるく八人のケルベロス達は果たしてドリームイーターの目にはどのように映るのか。
 群れ為す獲物か、はたまた、油断ならぬ狩人なのか。
 どちらにせよ、ドリームイーターはその習性上、ケルベロス達の前に姿を現さざるを得ない。
 ケルベロス達が大きな通りの交差する路地を曲がろうとしていたところに、ついにそれは現れた。
 街頭の光を受けて鈍く輝く銀色の装甲。それは確かに重厚な質感を持つにも関わらず、音もなく、家屋の屋根より現れ出でた。
 その在り様はまさに夢。
 振り上げるのは鎧と同じ光沢を持つ銀の両手剣。大上段から振り下ろされたそれは、ロフィのすぐ横を掠め、その赤毛を軽く切り飛ばし、地に長く深い溝を刻む。
「わ……! めっちゃ強そうな鎧……!」
 思わず漏れた雪斗のその呟きには少なからず本音がこめられていた。
 突如現れ、その一撃を見舞った鎧、当てる意思すらない奇襲であったとはいえその接近に気づけなかったことに宿利は息を呑み、胸元で組んだ手をぎゅっと握り締める。
 一時そうして本気で驚いていた彼女は成親の鳴き声にすぐに気を取り直し、ほかの仲間達へと視線を送る。
 彼らの反応は様々であった。
 志苑は驚くような素振りを見せつつもその瞳は好奇の色に輝き、その鎧をみつめ、葬は目を軽く開きながらも、口の端を吊り上げ、愉しんでいるようにさえ見える。
 ケルベロス達の反応に気をよくしたのか、鎧は地に突きたった剣を引き抜くと、その鎧の隙間より君の悪い、粘液に濡れる触手を覗かせ、虚空へと剣を消す。
「中身は……あれか?」
「見ていてあまり気分の良いものではないな……」
 僅かばかりからの驚きから立ち直った一太は注意深くその鎧を観察しつつ、同じようにそれを注視していたデニスはその気味の悪い姿に眉を顰める。
 そんな中、奇しくも敵と同様に鎧の姿を持つラーヴァは一切動じることなくただ静かに敵を見据え兜の炎を揺らめかせ、直接的な襲撃をを受けたロフィはしばしの間、体をかき抱き黙りこくり、顔を伏せていた。
 やがて顔を上げた彼女は、怯え驚愕する瞳ではなく、蕩けきった表情を鎧へと向け、熱く湿った吐息を吐いた。
 その反応はさすがのドリームイーターも予想だにしなかったのだろうか、驚くでもなく、恍惚とした表情を向ける彼女を警戒するように半歩足を退く。
 戸惑うのは何も敵だけではなかったが、仕切りなおすように一太は鎧を見据え、口を開く。
「ぁー。番犬様の御成りだ、覚悟しろ鎧野ろ――」
 そこで一瞬だけラーヴァの方へと視線を向け、彼は言い直す。
「いや、夢食い」
 その仕草に愉快げにラーヴァは炎を揺らし、他のケルベロス達も今一度気を引き締め、戦いの火蓋を切って落とした。


 街灯だけが照らす夜の住宅街に絶え間なく響き続ける戦いの音。
 互いの武器が翻り、火花を散らし、音を立て周囲の地形すら歪めていく。
 連携をとり絶えず攻撃を繰り出すケルベロス達に対し、鎧の行動は最小限だ、繰り出される攻撃を武器で受け、いなし、時にその分厚い装甲で受け、僅かな隙を見つけ、反撃の重々しい一撃を繰り出す。
 その標的はラーヴァとロフィの二人が中心であった。よほど、驚かなかった二人を敵視しているようであった。
 その分他のケルベロス達の動きに制約はなく、一太は敵の意識が二人に向かっている間に、その死角から身を屈め獣の如く襲い掛かる。
 熱を喰らい取り、受けたものを凍てつかせるその一撃を腕部に受けようとも、鎧はしかし動じない。
「表情も感情も読めないというのは、なかなかに厄介だな」
 攻撃を重ねても、重ねても揺るぐことのない敵の様子に葬はポツリと呟く。
 これまでの攻防でつけた傷やいまだ燻る炎はあるものの、中身の不確定なそれにいったいどれ程の効果が出ているのか。わからずとも、ケルベロス達はただ、できる事をするだけだ。
「期待には応えないと、だね」
 敵と交戦する志苑の背を見つめつつ宿利は呟き、鎧へと掌を向ける。
 ゆっくりとそれを握り締めると同時、鎧の体が爆発し、次いで成親の起こした炎がその体を包み込む。
 瞬間、志苑が仕掛けようと、一歩踏み込む。迎え撃つように後ろへと流すように戦斧を構える鎧。攻撃を受けてもその動きには一切の淀みはなく、周囲のケルベロス達を纏めてなぎ払う豪快な一撃が振るわれる。
 他のケルベロス達が咄嗟にその攻撃を防御し、交代する中志苑は足を止めずさらに踏み出す。
 彼女は視界の端、自分よりも一歩早く踏み込み、その攻撃を受け止めているラーヴァの姿を捉えていたからだ。
「頼りにさせていただきます」
 金属と金属が打ち合わせられる、激しい轟音。
 同時に志苑の意思を汲むように、舞い散る無数の花びらが凍てつき刃となり、鎧に無数の傷を刻んでいく。
「なかなかどうして面白いねぇ」
 仲間の攻撃を通すために身を張り、大きく吹き飛ばされたラーヴァは誰にともなく呟きながら立ち上がる。
 攻撃を受け止めたそのわき腹の装甲は大きく裂けていたが、彼にとってそれは些細なことのようであった。
「かっこよかったし、強いのはようわかったけど、あんま無茶せんといてな」
 そんな彼の元に雪斗は急いでかけよりつつ電気ショックによるヒールを行っていく。
「おっと、お手間を取らせて申し訳ございません」
「このくらい手間でもないよ、前に出ない分しっかり援護はせなな」
 なんでもない、と雪斗はポンとラーヴァ硬い背を叩きつつ、視線は戦場より離すことはない。彼の見据える先ではちょうどデニスの縛霊手から伸びる霊力の投網が、鎧の体を絡めとったところだった。
 すかさず距離を詰めた葬は不敵な笑みを浮かべ、敵の横に回りこむ。足を止めた鎧、そのわき腹を目掛け痛打を放つ。奇しくもそれは、ラーヴァの負傷したのと同じ位置。そこに拳ひとつ分程度の穴が開く。
 内から溢れ出す、得体のしれない触手が寄り集まりその穴を塞ぐ様は、なかなかにグロテスクだ。
 しかしその程度の事で怯む様なケルベロスではない。一太の振り上げたチェーンソーは葬の開けた穴を目掛け容赦なく振り抜かれる。鎧が防御しようと掲げた腕は二の腕から切り落とされ、激しく回転する刃が触手を切り飛ばし、粘液を散らし、火花とともに鎧に開いた穴を大きく広げる。
 たまらず後退を試みる鎧、その足に突き立つラーヴァの放った漆黒の太矢。地に足を縫いとめられた鎧に出来るのは迫り来る敵を迎撃することだけだ。
 宿利の放つ蹴り頭部を狙う蹴り、避けることなく受ける代わりに、その頭は勢いよく飛んでいき、民家の外壁へとめり込む。思いもよらない唐突なサプライズに宿利は一瞬動きを止める。
 そこに襲い来る、首から伸びる無数の触手。しかし、その狙いは宿利ではなかった。少なくない時間を戦った鎧はそこへ、ロフィが飛び込んでくるのを予期していた。
 伸ばされた触手は彼女の体、いたるところに巻きつき、絞るように体を軋ませ拘束すると、腹部に肉の槍を突き立て無理やりに貫き、肩口に牙の生えた触手が噛み付く。
 流れ出る血にすぐさま彼女のサーヴァントであるテレビウムのクーが必死にヒールを行う。
「大丈夫ですよクー」
 そんなクーに対しロフィは優しく声をかけると敵から伸ばされる触手を掴みとり、そこから魂を喰らう。
「本当はもっと味わっていたいところなんですが」
 口を戦慄かせ、もれるその言葉はいったいどちらの意味なのか。鎧にはそんなことを考える時間はもうなかった。彼女の潤む瞳の奥、そこに宿る光に鎧が気づいたときには既に手遅れ。
 彼女の背後には、銀の毛並みを持つ獣を使役するデニスの姿。
 触手を納めようにもそれらロフィによって逆に絡めとられ、いくら暴れ傷口を広げようとも離されることはない。
「誰のとはいわないが……トラウマになりかねん。これで終わらせよう」
 異様な敵を前に彼は、それに恐怖するであろう愛しき者の事を想い、獣を走らせる。その牙は硬い鎧の装甲を避け、仲間たちが開けた風穴に、牙を突き立てる。
 鎧の中の何かに喰らいつき、貪る度に、モザイクが散り、砂嵐にかき消されるかの様に鎧の姿はモザイクに飲まれ、そして跡形もなく消えていった。
 残されたのは、触手も消え去りほんの少しだけ残念そうにしているロフィの血痕と、沢山の戦いの痕。


 思いの外派手に残された戦闘の痕を前にケルベロス達は苦笑を浮かべつつ、ふっと視線をロフィのほうへと向けた。
 クーの治療により既にその傷も大方癒えてはいえるものの、彼女の周りに飛び散った血痕は残されたままであり、こっちも派手にやったものだと、やはり皆が小さく笑いを漏らす。
「ええ夢が見られる様に、不安にならんようにちゃんと戻しとかんとな」
 戦いの前、不安げに避難して言った人々の事を思い出しながら雪斗が作業を開始すると、他のケルベロス達も手分けして復旧へと取り掛かる。
 灯り始めた家々の明かりを見る事もなく、彼らは引き上げていく。
 悪夢の片鱗も残さず、人々が直ぐに日常へと戻れるように。

作者:雨乃香 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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