春の風、岩の下に潜る影

作者:幾夜緋琉

●春の風、岩の下に潜る影
「はぁ、はぁ……」
 汗だくになり……顔を何度も何度も洗っている青年。
 その顔は……今さっき経験したことに対する、嫌悪。
 ……仕事で、廃ビルの中へと足を踏み入れた彼が、足元に転がる瓦礫を片付けようと、どかしたその瞬間。
 瓦礫の下に居たのは……沢山の、黒い虫達。
 自分へと襲いかかってきたのを、悲鳴を上げてその場から逃げ去っていく彼は……部屋へと逃げ帰ったのだ。
 ……そして、先ほどの悪夢を振り払うかの様に、顔を洗い続ける彼。
 そんな彼に、そっと背後から迫り来るは、第六の魔女・ステュムパロス。
 手に持ったその鍵で、彼の心臓を一突きする……鍵は、心臓を穿つ。
「あははは。私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『嫌悪』する気持ちも解らなくはないね」
 鍵を突かれた男は意識を失い崩れ墜ち……ステュムパロスは笑うと共に、彼女の横に姿を現わすは……巨大な節足動物。
 そして節足動物は、町へとうぞぞぞ、と蠢き出すのであった。

「皆さん、集まりましたね。では、早速ですが、説明を始めさせて頂きますね」
 と、セリカ・リュミエールは、集まったケルベロスらに一礼すると。
「皆さん、苦手な物は色々とありますよね?」
 と眺めながら。
「ゴキブリとかはやはり嫌いな人が多いと思いますがそんな苦手なものへの『嫌悪』を奪い、事件を起こすドリームイーターがいる様なんです」
「この『嫌悪』を奪ったドリームイーターは既に姿を消している様ですが、奪われた『嫌悪』を元にして、現実化した怪物型ドリームイーターにより、事件を起こそうとしている様なのです」
「皆さんには、この怪物型ドリームイーターによる被害が出てしまう前に、このドリームイーターの撃破をしてきて頂きたいのです。このドリームイーターを倒す事が出来れば『嫌悪』を奪われてしまった被害者も、目を覚ましてくれるでしょう」
 と、そこまで言うと、更にセリカが。
「先ほども説明した通ですが、今回現れるのは、巨大化したゴキブリの様です。幸い数は一体のみですが……その動き方とかは、正しく恐怖の象徴とも言えるでしょう」
「当然その動きも、地面を這いずるような動き方が主です。そして、その口から特殊な消化液を噴射して服を溶かす、服破りの効果を持っています」
「又、足を掬う攻撃、足をターゲットにしてのタックル攻撃があり、特に背中の部分は厚く硬い装甲の様なものなので、脛を叩かれるような痛みになるかと思います」
「つまり、背中に対する攻撃はかなり防御力が高い為、ダメージが通りづらいです。対し胸側の方は防御力が低いので、そちらを狙う様にした方が良いと思います」
 そしてセリカは。
「何にせよ、この様な生理的に嫌な物は誰にでもあると思います。それを奪い、ドリームイーターにするのは決して許せません」
「大変気持ち悪い敵だと思いますが……どうにかやっつけてきて頂きたいのです。宜しくお願いします」
 と、頭を下げた。


参加者
ルリナ・アルファーン(銀髪クール系・e00350)
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
八岐・叢雲(静かな闘志・e06781)
ユーカリプタス・グランディス(神宮寺家毒舌戦闘侍女・e06876)
古牧・玉穂(残雪・e19990)
ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)
アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)
如月・環(プライドバウト・e29408)

■リプレイ

●悪の根源は岩の下に
 廃ビルにおける、悪夢のような体験……あの、不快で、嫌な黒い虫が、不意打ちするかの様に、突然襲いかかってくるという実体験。
 その悪夢に目を付けたのが、第六の魔女・ステュムパロス。
「うーむ……」
 と、アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)が腕組み、考えて居る。
 それにシィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)が。
「ううう……流石に、デカイゴキブリは、あんまり見たくないデース」
 と肩を落とす。
 そんな彼女の言葉を聞いて、更にアデレードが。
「ふむぅ……皆が黒い悪魔とよんでる虫はあまり見た事がないが、これはローカストの様なものなのかの?」
 と首を傾げる。
「そうデス!」
「ふむ。ならば、硬い甲殻としぶとさで嫌われてもやむを得ぬのう」
「いや、それが嫌われている理由じゃないッスよ」
 如月・環(プライドバウト・e29408)がそれに口を挟むと。
「む、そういうわけではないのかの?」
「そうッスよ。ゴキって不潔なところに良くいて、その不気味な動き方で嫌われているッス」
 と、そんな環に、ルリナ・アルファーン(銀髪クール系・e00350)とユーカリプタス・グランディス(神宮寺家毒舌戦闘侍女・e06876)も。
「不気味……ですか。それを不愉快に思う人が多いみたいですが、何故でしょうね? 人間と生物的な構造が違いすぎるからでしょうか……?」
「まぁ構造は大幅に違いますね。哺乳類と節足動物ですから。まぁ私は別に好きでも嫌いでもありません、ただの虫です。不衛生なのでいたらまぁ、普通に駆除します。というか、こんなのを怖がってたり気味悪がってたら仕事になりませんとも。神宮寺家の侍女として、きっちりと仕事を果たす……以上でございます。ほら、トラッシュボックス。ゴミ箱らしく、きっちりと処理しなさい」
 己のミミックを軽く足蹴にしながら言い放つユーカリプタス。
 そしてノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)が。
「まぁ気持ちの良いもんではないよな。できれば出会いたくないし。でも嫌悪を奪われるなんて、どういう感覚なんだろな」
 と言うと、環がそれに。
「ゴキブリに対する嫌悪、ッスからねぇ……単純にゴキブリに対する嫌悪感が無くなるなら、それはそれで良いのかもしれないッスけど、嫌悪という感情全部引っこ抜かれたんなら、何にも嫌悪感抱かなくなるんッすかね?」
「……それはそれで嫌だな。まぁ何にせよ、しっかりゴキブリを仕留めないとな」
「そうッスね。オレも別に虫は苦手ってわけじゃねえッスけど、流石にこりゃあ刺激がつえーわ。皆が安心できるように、ここで俺らが止めるっきゃねーな!」
 拳を振り上げる環。
 それを冷静に見つめながら、ルリナが。
「まぁ、不快であろうが無かろうが、殲滅するだけなんですけどね」
 というと、古牧・玉穂(残雪・e19990)と八岐・叢雲(静かな闘志・e06781)も。
「そうですね。ゴキブリを倒せば被害者の方も目を覚ますと言うのなら、気持ち悪いなんて言ってられませんね。虫もそんなに苦手ではありませんし、頑張って行きましょう」
「うん。巨大なゴキブリ……あまり見たいモノではないけど、被害が出る前に退治しないと、ね」
 そしてケルベロス達は頷き合い、そして、ステュムパロスの産み出した巨大化ゴキブリを倒す為、急ぎ町へと向かうのであった。

●黒き悪魔襲来
 そしてケルベロス達は、町へと辿り着く。
 ……特に変哲も無い、深夜の街角なのは間違い無い。
 しかしながら、人気も無い、声もしない……そんな不気味な雰囲気が漂うこの空間は……余り長居したく無いと思わせるには十分。
 と、そんなケルベロス達が歩いていると……。
『……シィィィ……』
 と、甲高い鳴き声が聞こえる。
 そしてその鳴き声と共に、ガサガサガサッ、という、地面を這いずる音も……。
「……!」
 と、その音に目を見開くシィカ。
 暗闇の中に、ヤツはいる。そして……そんなゴキブリの出現に対し、居並ぶケルベロス達。
 そして……闇の中からガサガサッ、と姿を現わすヤツ。
 黒光りし、背中が甲殻に覆われた巨大ゴキブリは、見るだけで嫌悪感を覚える姿。
「あばばばば、ロロロロロックなソウルで乗り切るデェェェス!!」
 と、若干テンパってしまうシィカ。
 ケルベロスだとしても、年頃の女の子な訳で……テンパってしまうのも仕方ない。
 そんなシィカへ環が。
「ほら、落ち着けって!!」
 と声を掛け、軽く肩を叩く環……そして、何とか正気に戻ったシィカに微笑みつつ。
「流石に長くやりあうんは俺にとっても、皆にとってもきちぃぜこれは! 気張れよシハンッ! さっさと終わらせて、この戦いを終わらせてやんぞ!」
 と環の言葉に、彼のウイングキャット、シハアンはにゃー、と鳴いて答える。
「んー……シハン。あんま乗り気じゃねーみてーッスけど、今日くらいはしっかり働いて貰うぜシハン!」
『にゃー』
 やっぱり、あんまり乗り気じゃないらしい。ともあれ。
 そして、叢雲、ノチユ、アデレードらは。
「戦闘中に相手から目を離す事はしないけど……できれば余り見たくはないかも」
「そうだな。だが……放っておく訳にもいかないだろう」
「うむ。そこまでじゃ! 人々に恐怖と不衛生を撒き散らす邪悪な悪夢の化身よ! 愛と正義の告死天使たる我が、そなたに終焉をもたらしに来たぞ! 我が地獄の業火でそなたの罪ごと灼き祓ってくれようぞ!」
「そうだ。何かを嫌う感情も、ヒトが持っていていいものなんだ。さっさと返して貰う」
 と宣戦布告。
 対しゴキブリは、シシィ、と不気味な鳴き声を上げてくるがのみ。
 頭部の触手をふらりふらりと揺らすゴキブリに対峙した玉穂、ユーカリプタスも。
「ごきげんよう。殺虫剤はありませんので、物理的にお相手致しますね」
「神宮寺家筆頭戦闘侍女、ユーカリ参ります」
 ……スカートの裾を摘み折り目正しく一礼したかと思うと……流れる様にゴキブリへ接近。
「吹き飛びなさい」
 と、不意打ち気味のレガリアスサイクロンを叩き込む。
 が、流石にそれで簡単にひっくり返るゴキブリではない。
「中々足腰強いのでしょうかね? なら」
 くすっ、と微笑むと、玉穂は。
「はーい、戦場をぼっこぼこにしましょうねー」
 と言うと共に、地面に向けて月光斬を穿つ。
 地面のアスファルトを断ち切るようにして、地面にコブを生じさせていく。
 ……勿論不安定なコブが並ぶ足元は、ゴキブリといえども通りたくは無いだろう。
 が、ゴキブリ自身全くそれを気にしている様ではなく、ただただ突撃、攻撃をしてくる。
「はぁはぁ……し、仕掛けるデス!!」
 そして正気に戻ったシィカがメタリックバーストで仲間達へ狙アップを付与すると、ジャマーの環も。
「ほら、さぁ派手に行くぜ! ボンバーッ!!」
 とブレイブマインで仲間の強化。
 そして環は更にシハンへ。
「いいか、猫なんだから虫獲りファイトだ。帰ったら寿司食わしてやんぞ! スーパーのだけど!」
『にゃ!』
 寿司、にちょっとだけやる気が出たらしいシハンは、とててて、とゴキブリに接近、引っ掻き攻撃。
 更にノチユが、それにタイミングを合わせて、敵足元を狙い澄ましての降魔真拳で掬い上げ攻撃。
 流石に、力尽くの掬い上げ攻撃を耐える事は出来ず、ゴキブリはひっくり返る。
「……腹ばいの姿も、気色悪い……本当、さっさと倒さないと……」
 とその姿に叢雲は溜息を吐きつつ、メタリックバーストで仲間を補助。
 そして、アデレードが腹部に向けて。
「喰らうのじゃ!!」
 と、ブレイズクラッシュを叩き込むと、ジャマーのルリナもフォートレスキャノン。
 装甲が薄い所に叩きつけられた強烈な一撃は、一気にその体力を削り去っていく。
 そして、次の刻。
 ゴキブリは横にジタバタと蠢くことで……どうにかその身体を元に戻す。
 しかし、そんなゴキブリに、更に。
「ひっくり返します」
 と、ユーカリプタスのグラインドファイアで、又ひっくり返す。
 おきあがっても、ひっくり返される……何度も何度も繰り返し、ゴキブリに行動の隙を与えない。
 そして、剥き出しになった腹に対し、シィカが戦術超鋼拳、シハンが引っ掻き攻撃、アデレードのヴァルキュリアブラストに、玉穂が。
「これが私のただ一つの秘剣です!」
 と、『秘剣・霙切』でスパッと一閃。
 その一閃に、体躯から噴出する緑色の液体。
「や、やっぱり気持ち悪いデス!!」
 とシィカが叫ぶ。
 ……ともあれ、その一閃は、かなりの大ダメージであるのは間違い無い。
 そして、起き上がる前に、ルリナのスターゲイザーに、環の【悪戯猫の召喚】、そしてノチユが。
「でかい癖に素早い様だな。さっさと仕留めて済ませた方が、皆の気分も楽になるか」
 とバリケードクラッシュを叩きつけていく。
 ……そして、そんなゴキブリと戦い、数分。
 喰らったダメージにより、かなり消耗し、中々起き上がれなくなる。
「……中々有効な手段だった様でございますね」
「そうね……」
 ユーカリプタスに頷くルリナ。そして叢雲が。
「……これ以上、のさばらせておく訳にはいかない……私達は……負けない。必ず、勝つ……ッ!」
 と自己列に『闘竜の息吹』を壊アップを付与する事で、攻撃力を高めた上で、更に猛攻を加えると……。
『シィィィ……』
 と、苦悶の鳴き声を上げるゴキブリ。
 ……そして。
「そろそろ終わりにするのじゃ! 喰らえ!」
 とアデレードが、渾身のヴァルキュリアブラストを叩き込み……ゴキブリは断末魔の悲鳴と共に、消え失せて行った。

●愚足滅殺
 そして……どうにかゴキブリを倒したケルベロス達。
「……ふぅ。やっと倒れましたか。中々しぶとい相手でしたね」
 と、汗を拭いつつ、溜息を吐くユーカリプタス。
 そして、消え失せたゴキブリを一瞥しながら、玉穂、叢雲も。
「これは確かに嫌悪感を誘います。本当に複数いなくてよかったです」
「そうですね。こんな大きなゴキブリが大量に現れていたら……一体だけで良かったと思います」
「ええ……無事に終わってよかったです。でもしばらくは草むらとかには入りたくありませんね」
「全くです」
 と、肩を竦めて笑い合う。
 そして……。
「さて、と……さっさと帰って身体を洗いたいね。クリーニング持ってる人とかいる?」
 とノチユの言葉。
 でも……誰も持ってきてなかった訳で。
「残念ながら……ああ、私の刀もちゃんと拭っておきたいですし、さっさと片付けて帰りましょうか。デコボコにしてしまった道も修理していかないといけませんしね」
 と玉穂の言葉に頷き、そしてケルベロス達は、ゴキブリの足止めが為にボコボコにした道路をヒールグラビティを使い、修復……というか補修。
 そして一通りの補修を終わった所で……ケルベロス達は早々に、その場を後にするのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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