ボクは悪魔とお友達になりたいんだ

作者:沙羅衝

 薄暗い部屋で、一人の少年が二階の自室で分厚い本を読んでいた。電灯はあえて点けず、ろうそくの明かりだけが本を照らしていた。
「ふふふっ……。カッコいいなあ。この角なんか凄いよぉ」
 少年、松本・翔(まつもと・かける)は、小学六年生である。運動はあまり得意ではないが、本を読むことは大好きだった。友達は多くは無いが、少なくも無い。
 翔は最近、ある一つの事に興味を持っていた。それは、彼の読んでいる本に回答がある。
『悪魔召喚大辞典』
 背表紙には、そう書いてある。そう、彼は悪魔を呼び出したかったのだ。
 勿論、そんな生物は存在しないであろう。だが、その存在や形状に、大層惹かれてしまったのだ。
「もし、呼べたらどうしよう? やっぱりお友達になってほしいよね……」
 翔はそう言って、辞典に記載された魔方陣の絵を、白紙の紙に描いていった。その時、翔の背後に大きな鍵が柄の部分に施された鎌を持った女性が現れた。
 だが、翔は魔方陣を描くことに夢中で、彼女の出現に気付かない。
 その女性、第五の魔女・アウゲイアスは翔を椅子の背もたれごと、その鎌で貫いた。
「あ……え!?」
 鎌を素早く引き抜かれた翔は椅子から転げ落ち、そのまま意識を失ったのだった。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 アウゲイアスがそう言うと、翔の開いていたページに描かれている悪魔そっくりのドリームイーターが出現したのだった。

「皆さん、少しお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」
 ケルベロス達の前に、真夏月・牙羅(ドラゴニアンウィッチドクター・e04910)が丁寧な口調で話しかけていた。その後ろには、宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)が続いている。その声を聞いたケルベロス達が、どうした? と返事を返す。
「少し魔女について調査をしていたのですが、どうやら第五の魔女・アウゲイアスに狙われる少年が出るということが分かったのです」
 魔女という事は、依頼である。牙羅は絹に頷き、説明を願い出た。
「アウゲイアスは、不思議な物事に強い『興味』をもって、実際に自分で調査を行おうとしている人を襲って『興味』を奪うっちゅうドリームイーターやな。今回はこのアウゲイアスはもう姿を消してしもてるんやけど、『興味』を元にした怪物が既に現実化しとる。それを被害が出る前に倒して欲しいっちゅうのが依頼や。この怪物を倒せば、この被害者の少年も、目を覚ますやろ」
 少年? と、あるケルベロスが尋ねると、絹は頷く。
「せや、少年や。今回被害にあうのは。小学六年の松本・翔君。どうやら、悪魔召喚に関しての興味があったみたいやな。そこを、狙われたわけや。んで、状況なんやけど、その翔君のお母さんが、晩御飯の支度を1階でしとる。そこに、まずこの怪物が現れるらしい。この怪物は、青銅色をしていてな、ゴツゴツした体つきと、二本の大きな角。ほいで蝙蝠のような翼が特徴や。まんま、悪魔っちゅう格好やな。
敵はこの怪物1体だけや。
 怪物型のドリームイーターはな、人間を見つけると『自分が何者であるかを問う』ような行為をしてくる。正しく対応できなければ、殺してしまうっちゅう行動をすんねんな。そのお母さんは腰を抜かして、答える所やない。このままやったら、殺されてしまうから、その現場に踏み込んで欲しい」
 成る程、と相槌を返すケルベロス達。絹はその表情をみて、説明を続ける。
「このドリームイーターはな、自分の事を信じたり、噂している人がいたら、その人のほうに引き寄せられるっちゅう性質もあるから、上手いことやったら、このお母さんの方に行かずに、誘い出すこともできるかもしれん。その辺ふまえて、作戦考えてみてな」
 絹が一通り説明を終えると、牙羅が再び口を開く。
「このままでは、一般人に被害がでてしまいます。申し訳ないのですが、皆さんのお力を貸してください」
 牙羅の声に、ケルベロス達は力強く頷くのだった。


参加者
秋芳・結乃(栗色ハナミズキ・e01357)
辰・麟太郎(臥煙斎・e02039)
赤星・緋色(小学生ご当地ヒーロー・e03584)
真夏月・牙羅(ドラゴニアンウィッチドクター・e04910)
ルペッタ・ルーネル(花さがし・e11652)
橘・ほとり(千載一遇・e22291)
リィナ・アイリス(もふもふになりたいもふもふ・e28939)
葛之葉・咲耶(野に咲く藤の花のように・e32485)

■リプレイ

●噂話
「……あれが、翔くんの……お母さん」
 リィナ・アイリス(もふもふになりたいもふもふ・e28939)が、台所に続く廊下にある階段の下に潜り込み、そこから台所の様子をうかがっていた。彼女の横には、ファミリアがちょこんと待機している。
「ぜったい……ぜったいに守って、あげたい」
 リィナはそう言いながら、ファミリアの頭をそっと撫でた。

「リィナさんは、上手く潜入できたみたいだね」
 橘・ほとり(千載一遇・e22291)が『松本』と表札がかけられた玄関を見ながら、他のケルベロス達に声をかけていた。
「見た目ゆったりふわふわドキドキサキュバスなのに、やることは結構大胆だよね……」
 秋芳・結乃(栗色ハナミズキ・e01357)は、彼女の行動に、少し驚いていた。
「その行動力。見習わなくては、ですね」
 そんな事を思いながら、はルペッタ・ルーネル(花さがし・e11652)がウイングキャットの『リル』と、リィナと繋がっているガラケーを確かめる。
「おっと、どうやら来た見てぇだな」
 その時、ただならぬグラビティを感じた辰・麟太郎(臥煙斎・e02039)が、二階の窓を見る。
「では、作戦開始と行こう」
 真夏月・牙羅(ドラゴニアンウィッチドクター・e04910)の声を聞き、一同は頷く。
「なあなあ、悪魔って、信じるかい? アタイは……、正直興味、ある……ねえ」
 キヒヒと口角を上げて葛之葉・咲耶(野に咲く藤の花のように・e32485)が、歩きながら噂話を開始する。
「いろんな種族がいるんですし、本当に悪魔がいてもおかしくないような気がします……」
「ええっ!? ほんとに? ……ちょっと、こわいなあ」
 ルペッタの台詞に、本気で怖がっているような仕草をする結乃。いや、本気で怖がっているのかもしれない。
 ケルベロス達はそのまま、直ぐ近くにある、少し開けた場所に到着する。そして、話しながらキープアウトテープを張っていく。
「いやいや。いるいる……絶対にいるねぇ。キヒヒ」
 咲耶が怖がっている結乃に、本気で怖がらせにかかるように、不気味に話しかける。
「ちょ、ちょっとやめてよぉ!」
「確か、召喚とかいるんだよね」
 赤星・緋色(小学生ご当地ヒーロー・e03584)はわくわくした表情で、話をする。
「なんと言っても悪魔だからな、特殊な方法だったら、可能なのかもしれないぜ」
 牙羅も、その話に合わせて口を開く。シャーマンズゴーストの『アトラス』がふよふよとその隣に浮かぶ。
 結乃の顔は少し青ざめている。あ、本気だ。そう思った咲耶はついっと背中に人差し指を沿わせる。
 シュッ!
「っひ!!」
 そして結乃の横で、音がする。
「おや? 嬢ちゃん。どうした?」
「もう! びっくりさせないでよ!」
 何のことは無い、作業を終えた麟太郎が、近くにある大きな石に腰掛けながら、煙管に火を点けただけであった。
「でも、実際どんな姿なんだろうね。ボクは死神はあったことあるけど、悪魔ってどんな姿なんだろう?」
 ほとりが悪魔の姿を頭に浮かべて話を続ける。
「死神がいるなら悪魔も存在するのだろうか? こう、角が生えてて……」
 ほとりはそういって頭の上に指をつきたて、角に見立てる。
「牙がすごそう。……それに、黒い雰囲気、黒い翼」
「くんくん、話を聞いていたら、何か魔界のにおいがする! こう瘴気とか、魔力とか、この世にあらざる者の感じとか。悪魔とかそんな感じの何かが近くにいるよ!」
 すると、ケルベロス達の背後から、突然声が聞こえてきた。
『ほう……では、オレは何に見える?』

●問答
「ああっ! わっわたっ、わたしはもちろん、こーちゃんの恋人です!」
「結乃ちゃん、ちがいますよ。そっちじゃ無くて相手の話。って、こーちゃんって誰ですか?」
 慌てて答える結乃に、思わず突っ込みを入れるルペッタ。しかし、そのおかげか少し震えていた膝が止まった。すかさずガラケーを開き、後ろを向いて電話をする。
『あ、リィナちゃんですか? わたしです……』
 ルペッタはそう言いながら背を向けて歩いていく。
「なんだろう? ボクの想像していたような感じじゃないなあ」
 ほとりがそう言って、とぼける。
「出たね悪……じゃなくて、変なおじさん! 小江戸の緋色が退治してあげる」
 いつの間にか緋色が家の塀の上に乗り、ポーズを決める。緋色は慌てて答えをかえる。
「うーん、辞典に載るくらいなんだから有名なんだろうけどぉ、アタイ西洋魔法はぜーんぜん分からないんだよねぇ。誰か分かる人いるぅ?」
「さぁ?」
 咲耶の言葉に、牙羅が掌を上に上げて少し小馬鹿にしたように笑う。
「お前ぇさんが何者かなんざ、興味が無ぇな」
 麟太郎がそう言って、煙管からスパッと煙を吐き出し、ぽんと携帯用灰皿に火種を落として揉み消す。
「キ、キサマらあ! 許さん! 殺してやる!」
 まともに話を返さないケルベロス達に、業を煮やした悪魔の姿をしたドリームイーターが、とうとうその腕を振り上げ、麟太郎に向かって爪を立てて振り下ろす。
 ガツ!
 鈍い音を立て、ほとりがその爪を受ける。
「……大事なのは、俺にとってお前ぇさんが敵であることさ!」
 ほとりの後ろで、麟太郎が二体のファミリアを一時融合し、半透明の「幻影合成獣」に変換して放つ。
『……捉えるっ』
 バスターライフルの『KAL-XAMR50』を構えた結乃が、集中した一撃を、ドリームイーターに放つと、ドリームイーターの左肩を貫いた。
「ワンダー!」
 ほとりがミミックの『ワンダー』に、攻撃を指示し、自らは紙兵をばら撒いていく。
「みなさん! いきますよ! リルちゃんは攻撃です!」
 ルペッタがゾディアックソード使い、地面向かって牡羊座を描く。するとその星座が光り、緋色とほとり、咲耶へと降り注ぐ。
「じゃあリルも一緒に行こうか! そうれっ!」
 緋色がバトルオーラから魔法の一撃を放ち、リルがキャットリングを飛ばす。
『夜に聞こえる、不気味な声よ、恐怖を与え、具現化せよ、正体不明の怪物よ!』
 牙羅が顔は猿、胴体は狸、手足は虎、尻尾は蛇の怪物を召喚する。
「やれ! 正体不明」
 そしてその怪物が、ドリームイーターに雷を落とした。

●興味の力
「さあて、今回も頑張って成功させるよぉ」
 咲耶がグラビティ・チェインを叩きつける。だが、その攻撃は素早く避けられる。
 ケルベロス達の攻撃は徐々にドリームイーターにダメージを与えていっていた。だが、ドリームイーターはこちらを混乱させる攻撃を織り交ぜてくる。
 その都度、ルペッタとリルが回復を行うが、少し手が回っていない。
『燃えさかる炎の洗礼、紫炎方陣!』
 その回復を補おうと、ほとりが浄化の炎を巻き上げる。だが、直ぐにドリームイーターは攻撃を繰り出してくる。
「って、アタイに来たあ!」
 ドリームイーターがその青銅色の拳を、咲耶の頭に叩きつけ、その体を吹き飛ばす。
 ドゴン!
「あいててて……。あれ? アタイ何しようとしてたんだっけぇ?」
 壁に打ち付けられた咲耶が、ふらふらと立ち上がる。
「麟太郎さん! お願いできますか!?」
 ルペッタの声を聞いた麟太郎は、おうよと言いながら、咲耶に向かい鞘を向ける。
「……祓エ給イ、清メ給エ」
 すると、咲耶の周りに春風の如き風が巻き起こり始める。
『此花捧げ奉る』
 その風は、咲耶の頭の状態を元に戻していく。
「おお……、なんか、スッキリしたぜぇ。ありがとよぉ」
 スドォ!
 結乃の砲撃が、悪魔の腹部を射抜き、緋色の惨殺ナイフが切り裂く。
「これを食らえ!」
 続けて牙羅が爪を超硬化してその鎧の如き皮膚に爪を突き立てる。だが、致命傷には届かない。徐々に押されていくケルベロス達。
「ヘヘヘ。ドウシタ? さっきまでの勢いは? そうだ、オレが何者か。分かったか? 興味はあるかい? ゲハハハハ!」
「お前に興味など沸くものか……」
 そう言いながら牙羅が、ドリームイーターの攻撃を避ける。
 そう、ケルベロス達は一人足りないのだ。母親を守ろうとしていた、リィナだ。
「大丈夫……。わたしは、リィナちゃんを信じるよ」
 ルペッタはそう言い花々を描いてきたノートを開く。
『楽しい記憶は癒しの力。花よ舞い、どうかみんなに伝えて下さい―!』
 その花が具現化し、前へ行く者へと舞い散る。その花弁達は、前を行くケルベロス達に美しい記憶を思い起こさせる。
 そして、ルペッタが具現化させたその花の中から呼び出されたかのように、一人のケルベロスが現れた。
「みんな……。私も……信じてたよ」
 リィナはそう言って、ゆっくりと前へと進み出た。
「私のこと、攻撃したいなら、好きにしたら、いいの……。他の皆は、傷つかせないから……」

●少年の興味の果て
『…戦うの怖いけど…みんながいるから、頑張れる…。…頼りないかもしれない…戦いにも慣れてないよ…でも…みんなの力に、なりたいの…!』
 リィナから放たれたグラビティの香りが、ケルベロス達を包む。
 八人が揃ったケルベロス達は、一気に攻撃の攻勢を加速させる。
 もはや、ドリームイーターの状態異常を起こさせる攻撃は、ケルベロス達にその爪あとを残さなかった。
「銀の弾丸なら、なおよかったんだけど、ねっ」
 結乃が三度、収縮させたグラビティの砲撃で、ドリームイーターを射抜くと、その悪魔の翼が消失する。
「怪物ゴッコは充分楽しんだろ?」
 麟太郎がアームドフォートの主砲を一斉発射する。そこへ、ほとりが流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りをドリームイーターの膝へと直撃させた。
『いちげきひっさーつ!』
 さらに、緋色がグラビティチェインを武器に纏わせて大ジャンプし、惨殺ナイフを投げつける。
『PS-CC! ずどーん』
 ズドーン!
 緋色の声と共に起こる爆発。続けてルペッタがゾディアックソードで強烈な一撃を打ち込む。
『全て全て、時すら凍る冷気の中で鎮まり給え!』
 咲耶が御札に封じられた呪を解き放ち、そこから生じた冷気で、ドリームイーターを凍りつかせていく。
「さぁ、悪魔の偽物よ! 元の幻想に帰れ!」
 最期を悟った牙羅が、もう一度怪物を呼び出し、その尻尾の蛇を噛み付かせる。その蛇の牙がドリームイーターの悪魔の首を噛み砕ききる。
「グ……ガ……」
 すると、悪魔はうめき声を上げながら、消滅していったのであった。

「……という事なの、お母さん」
「そうだったの。みなさん、有難う御座いました」
 ベッドで横たわる翔の隣で、翔の母親がケルベロス達に頭を下げていた。ちょうど結乃が事のあらましを説明したところであった。
「う……う~ん」
「あ、気がつかれましたね」
 ルペッタが言うと、翔は目を覚ました。まだ寝ぼけ眼で合ったが、少年はそうだったのか、と少し納得した表情をした。
「悪魔に興味があるんだってねぇ……。まあ、あたいも興味はなくはないねぇ」
 少し落ち込んでいるかと思った咲耶が、少しフォローをする。
「ん~。まあ、カッコいいからね。やっぱり」
 どうやら少年の興味は、尽きていないようだ。だが、その割りには落ち着いて見える。
「利用されて悔しいとか、そういうのは無いの?」
 様子が気になったほとりが、少し尋ねる。
「ちょっとはね。でも、少し頭はスッキリしている感じがするんだ」
 その様子に、ケルベロス達は顔を見合わせる。
「しかし、厄介な敵だ。対処はしたい所だ」
 牙羅がそう言うと、緋色がそうだ、と顔を輝かせる。
「悪魔じゃなくてさ、サキュバスとかじゃダメなのかな? ほら、悪魔の角に羽にしっぽまであるし。それとも召喚の方が重要なのかなぁ……」
 そう言ってリィナを見る。
「……え?」
 すると、彼女は少し顔を赤らめ、何故か恥ずかしそうに俯く。すると、翔も赤くなる。
「成る程、サキュバスに興味など、ゴマンと居るものだ。そうそう利用されないかもだな」
 真面目な牙羅の言葉に笑い声が響く。
「はっはっは。まあ、興味があって夢中になれんなら、なんだっていいもんさ。今回はたまたま面倒な夢喰いに引っかかっちまっただけだ。また事件が起きても、俺たちケルベロスに、任せておきな!」
 麟太郎はそう言って、少年の背中をドンと叩く。再び起こる笑い声。

 こうして、ケルベロス達は一つの事件を解決した。
 春を告げる風が、窓を少し叩いた。だが、その音も笑い声がかき消していく。
 悪魔への興味は、少し薄らいだようだが、どうやら少年は自分と違う種族について興味を持ってしまったようだ。
 少年の行く末は、……はてさてどうなることやら。
 そんな事を思いながら、ケルベロス達は帰路に着いたのだった。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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