懐かしのVHS

作者:刑部

 おにぎりサイズのコギトエルゴスム。
 機械の足が生え蜘蛛の様になった其れが、山の中に不法投棄されたゴミの山を見つけ、その山の中に入り込む。
 暫くすると、その山が小刻みに揺れだし、ガラガラと崩れると、中からテレビウムの様なブラウン管テレビの顔、三段重ねのVHSビデオデッキを体にして、手足の生えたダモクレスがゴミを掻き分け現れた。
 キョロキョロと辺りを見回すダモクレス。
「マダ映せる。まだ映せるゾー!」
 咆え声と共に画面に砂嵐の画像を流したダモクレスは、DVDそしてブルーレイとなった世の流れへの不満を燻らせながら、街の光目指して歩き始めた。

「三重県と奈良県の県境にある山の中に不法投棄されていたVHSのビデオデッキが、ダモクレスになってまう事件が発生しよるみたいや」
 ケルベロス達を前に杠・千尋(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0044)がそう切り出す。
「幸いにもまだ廃棄物置き場から動いてへんから被害は出てへんけど、ほっとくと街に向って移動をはじめるやろうから、このまま放置しとく訳にはいけへんわな。
 奴さんが街に出てまう前に、このダモクレスを撃破したってや」
 と、千尋が説明を続ける。

「ダモクレスはVHSのビデオデッキや。ここらへんにあった不法投棄のゴミの山からこっちの街に向って移動し始めとる。ブラウン管テレビの頭にVHSのビデオデッキを三段に重ねたのを胴体にして、そこから手足を生やしたロボットみたいな姿をしとるわ。
 ヘリオンかっ飛ばすから、奴さんが街に着く前に補足できると思うし、街の方にはここに続く道を通行禁止にしてもらう様に要請しといたから、今頃警察の人が動いてくれとる筈やから、気にせんでえぇと思う。ついでに不法投棄の片付けと監視の強化も言うといたで。
 基礎になっとる部分がVHSやさかい、色んな映像を流して攻撃したり、カセットを飛ばしたりして攻撃してくるで」
「VHSですか、たしかかなり昔の記録装置ですよね?」
 千尋の話を聞きボクスドラゴン『ヴァイスリッター』を顔を見合わせた葛西・藤次郎(シュヴァルツシルト・e22212)が、記憶を手繰る様に小首を傾げる。

「せやせや。なんにしろ被害が出る前におんのが分かったのはめっけもんや。街に出て来る前にきっちり潰したってや」
 と、藤次郎に頷きつつ、千尋は説明を締め括ったのだった。


参加者
ノル・キサラギ(銀架・e01639)
ラティクス・クレスト(槍牙・e02204)
武田・克己(雷凰・e02613)
早乙女・スピカ(星屑協奏曲・e12638)
唯織・雅(告死天使・e25132)
フィオナ・オブライエン(アガートラーム・e27935)
鍋島・美沙緒(神斬り鋏の巫女・e28334)
安海・藤子(追放された禁術師・e36211)

■リプレイ


「VHSか、なんとしてでもカセットを回収して、中身を吸い出してPCに保存しなければな。いくぞノル、ついてこい!」
「VHSって俺使ったことないよ! ラティ使い方わかるの?」
 そう声を掛け、風靴で枝を蹴りいそいそと木を登るラティクス・クレスト(槍牙・e02204)を、少し遅れて呼ばれたノル・キサラギ(銀架・e01639)が追い掛ける。
「えらく気合いが入っているな」
「ほんと、なにに燃えてるんだか……ね、王様」
 オルトロスの『クロス』を抱きしめながらその2人を見上げた安海・藤子(追放された禁術師・e36211)が苦笑を浮かべると、2人と刃を研ぐ者達……Graind Edgeで親しいフィオナ・オブライエン(アガートラーム・e27935)が、傍らの王冠とマントを身につけたふてぶてしい顔をしたウイングキャットの『キアラ』に語り掛ける。
「しかしVHSか……懐かしいもんだが、ベータとの企画を争い勝ってわが世の春を謳歌したのも今や昔、ダモクレスになった以上見過ごすわけにはいかねぇ」
「VHSもですが、ブラウン管テレビも懐かしいです。昔おじいちゃんの家にありました」
 上る2人を見送った武田・克己(雷凰・e02613)が、ダモクレスが来るであろう方角を見つめ遠い眼をすると、早乙女・スピカ(星屑協奏曲・e12638)もピンク色の髪を揺らしてうんうんと頷く。
「よくわからないけど、DVDのとかのご先祖様みたいなものなんだよね?」
「VHSデッキ……うちでは、お爺様と、お婆様が。使いますので………現役……なのです」
 小首を傾げた鍋島・美沙緒(神斬り鋏の巫女・e28334)のおかっぱにした藍色の強い黒髪が揺れると、龍神の外套の裾を揺らした唯織・雅(告死天使・e25132)が、そう言って振り返る。
 一行は森の中に見つけた拓けた場所で、おびき寄せる意味合いもあり大き目の声で会話をしていた。
「あ、来ましたね」
 望遠鏡から目を離したスピカがクイッと顎を向けて方向を示すと、赤いランプが見え隠れしながら近づいて来るのが見てとれる。ケルベロス達は気づかない振りをしつつ、ダモクレスが2人の潜む樹の下を通る様に立ち位置を調整しながら、大きな声で会話し続けていると、
「ソコノ退屈ソウナレディースアンドじぇんとるめん。俺様がオモシロイものをミセてヤロウ!」
 低木を掻き分け現れたダモクレスが、嬉しそうに声を上げた。
 そのダモクレスに樹上から急襲を仕掛けるノルとラティクス。
「さて、ダモクレスを解体しますか」
 それを見て克己も地面を蹴る。ここに戦いの火蓋は切って落とされたのである。


「捨てられたビデオデッキの中にカセットが残っているとすれば……それは、エッチなヤツだと相場が決まっている! なぁ、そうだろ! そうなんだろ!?」
「なんという本音全開。そこに痺れる憧れるーだよ」
 樹上から奇襲を掛けたラティクスが、煩悩全開で震鎚を振り下ろすが、ぎりぎりのところでその一撃を躱すダモクレス。……だが、それを読んでいたのか、ラティクスに続いたノルが、回避したところを狙って重い蹴りを叩き込む。
「キサマッ、何故ソレヲ……」
 ラティクスの言葉を肯定するダモクレスに雅の冷凍光線が飛び、克己と美沙緒が一気に距離を詰める。
「其はフィル・ボルグの勇者スレンによりて奪われしもの。其はディーアン・キェーフトによりて齎されしもの。しろがねの右腕よ、癒やしの力を!」
 その間にフィオナが来寇の書に示された神話を再現する様に藤子にガントレットを嵌めた右腕を向けると、放たれた光を受けた藤子の回復力が増大し、スピカが切先で地面に乙女座の紋章を描いて美沙緒や彼女達を含めた後衛陣の耐性を増すと、マントを翻して翼を羽ばたかせたキアラもセクメトと一緒に前衛陣に邪気を払う風を送る。
「映サセロ映サセロ!」
 ダモクレスが顔に当たるブラウン管をフラッシュさせると、その眩しさに顔を覆い目を細める前衛陣達。キアラの起した清浄の風の影響もあり、踏み止まる前衛陣の中で、ラティクスだけは見た! フラッシュの中にサブミナル効果の様に一瞬映ったモザイクの掛った何かを!
「お前! モザイク掛ってたぞ! どういう事だ! ダモクレスならモザイク消し装置のダモクレスぐらい居るだろ、もしくはその技術力でなんとか、えぇ、なんとか言ったらどうだ!」
 謎の怒りをぶつける様にダモクレスに肉薄するラティクスに対し、
「ナニ……コノ人コワイ……」
 そのラティクス血走った瞳から目を逸らすダモクレス。
「何が映っていたと言うの……?」
「だーめー! フィオナにはまだ綺麗なままでいてほしいんだー!」
 その内容を知ろうとするフィオナに対し、ノルが手をぶんぶんと振って拒絶する様を見たキアラが、フッ……とふてぶてしく鼻で笑う。

 セクメトが翼を羽ばたかせ、満遍無く皆を癒しつつ邪気を払う中、
「見事に。飛んで、火に入る……何とやら、ですね……」
 早々にケルベロス達に包囲されたダモクレスをそう評した雅が、その体を光の粒子に変えて突っ込む。
「人に仇なす悪神を斬り裂け!」
 元に戻る雅の方に顔を向けるダモクレスに、横合いから猫耳をぴくぴくと動かした美沙緒が、陰陽の神斬り鋏を文字通り鋏の様に組み合わせて、ダモクレスを斬り跳び退く。
「……オノレ!」
 デッキの一部を裂かれたダモクレスが体を向けると、ガシュコーン! という音と共にビデオカセットが高速で撃ち出され美沙緒を狙うが、そのカセットはキアラの飛ばしたキャットリングに撃ち落され、撃ち出した隙を克己とノルに突かれて防戦に回るダモクレス。
「テレビとビデオ……なら、接続を断てば……」
 バスターライフルを構えた雅が片目を閉じて狙いをつける。スナイパーではないが、鎧装騎兵として高速演算で弱点を見出し、おかっぱ髪の揺れが止まったところで引き金を引くと、迸る魔法光線がダモクレスの体から伸びるコード類を撃ち抜いた。
「グオ……ハッ……レレレレレ……」
「構造的弱点、破壊。確認……」
 顔の画面が砂嵐になり、言葉がおかしくなるダモクレス。雅の声を掻き消す様にラティクスとスピカが畳み掛け、
「中はどうなってるのかな?」
 続いた美沙緒が一番下のビデオデッキに猫手を突っ込んでガシガシとかき回した。
「フンヌラバ!」
 怒りつつ顔の画面から砂嵐のビームを飛ばすダモクレス。そのビームが雅を狙い、跳んだクロスが庇いに入るが間に合わず、撃ち抜かれる雅。だが、直ぐに藤子とフィオナから回復が飛ばし、戦線を維持し続けていた。

「舞い集え氷結の華。その結晶は私の歌に……」
「くらえ雷刃突・壱式」
 スピカが詩を紡ぐと、氷の纏う花びらが現れ、舞い踊る様にダモクレスを斬り裂くと、その氷花をも裂く様に踏鳴を起こした克己が『直刀・覇龍』の切っ先を突き入れ、美沙緒とラティクスが続く。
「イタイイタイ!」
 デッキのカセット挿入口から伸びたテープを垂らし、声を上げて画面をフラッシュさせ、抵抗するダモクレスだったが、
「いくらフラッシュさせても無駄だ」
 直ぐに藤子が描いた守護星座が輝き仲間達を癒す。
 ダモクレスの体は既にボロボロで、一番下のビデオデッキはカセットの挿入口から、伸びたテープが幾本も垂れており、雅に撃ち抜かれたケーブルの端からは小さな火花が生じている。
「諦めたらどうだ? 楽にしてやるぞ」
 咥えた剣で裂くクロスに砂嵐ビームを飛ばしたが、ノルと雅に挟撃され蹈鞴を踏むダモクレスに、緑瞳を向け問い掛ける藤子。
「ナンノコレシキ!」
「そうか……我が言の葉に従い、この場に顕現せよ。其は恐れる焔の化身。全てを喰らい、貪り、噛み砕きて破滅へと誘え・その恨み、晴れるその時まで……」
 言い返しカセットを飛ばすダモクレスに瞳を細めた藤子が詠唱を紡ぐと、藤子の周りに顕現した幾つもの炎が、焔狼となってダモクレスに襲い掛かり、カセットの一撃を受けたノルにフィオナが回復を飛ばす。
「なんのこれしきですか、では、これならどうですか?」
 くるっと体を回転させたスピカが微笑むと、クロスに睨まれ纏う火勢を増し焔狼に齧られるダモクレスに時空凍結弾を撃ち放つ。それがダモクレスの2段目のデッキに爆ぜる瞬間、
「伊達や酔狂でこいつを持ってるわけじゃない……裂かせて貰うぜ!」
 龍玉を揺らして弧を描く克己の直刀が、ダモクレスの左腕を斬り落とした。


「ウゥ……コノママデハ……」
 ケルベロス達の波状攻撃に呻いたダモクレス。その体を形成する一番上のデッキがキュルキュルと音を立て始める。
「巻き戻して……ます。気を付けて……」
 その音を祖父に家で聞いた事のある雅が警告を発するが、それに皆が反応するより早く、
「お父サンノ至極のコレクションAVを見ルがイイ!」
「AV……アニマルビデオですか? 見たいです!」
 咆えるダモクレスにカマトトぶるスピカ。そのダモクレスのブラウン管に男女の姿が映し出される。
「奥さん……」
「先生……」
 うるんだ瞳で見つめ合う男女。背後の風景からどうやらベッドの上の様だ。
 何故かサムズアップするラティクスと、慌ててフィオナの視界を遮るノル。
「何で見せてくれないの、見えないと何なのかわからないよ」
 ぴょんぴょん飛んでそれを視ようとするフィオナ。
 だが映像は見つめ合う男女の顔が近づき、唇同士が触れようとした瞬間、でんでん太鼓を持つ童が龍に乗って空を飛ぶアニメ映像に切り替わった。
「ぼうや~♪」
「……」
「……」
「…………」
「……」
 流れ出す歌に、場を支配する沈黙。
「ナンジャコリャー!」
「ざっけんなー!」
 ダモクレスとラティクスがほぼ同時に咆えた。
「龍もある意味……アニマルビデオでしたね」
「……では、片付け……ましょうか」
 そう言うとスピカが時空凍結弾を放ち、雅が光の粒子となって突っ込むと、クロスが睨みキアラがリングを飛ばす。
「まだ遊び足りないけど、片付けなんだね」
 その攻撃に片膝をついたダモクレスを、美沙緒の巨大鋏が切裂いた。
「チックショオォォォォォォォー!!」
 叫んだダモクレスの画面が今までになく激しくフラッシュする。……が、
「だから無駄だといっただろう?」
「ほんとだよ」
 藤子とフィオナの描く守護星座が輝き、たちまちその傷を癒す。
「持ち主はツメを折っていなかったから、アニメを上書きされたんだな」
 ノルが思いっきり『壊星のガーベラ』を叩きつけ、
「あの世に行く前に言っとくぜ、次出て来る時はモザイク消去機能付きだ。わかったな!」
 クワッと目を見開いたラティクスの雷槍が、ダモクレスのブラウン管を貫いた。
「グギギギギ……レレレレレ……」
 変な声を出すダモクレスに上から克己。
「この一太刀で、神すら斬って見せる!」
 闘気を纏った乾坤一擲の一撃。脳天に叩き込まれたそれは、そのままブラウン管と三台のビデオデッキを文字通り両断し、切っ先が地面を穿つと、ダモクレスの体はテープを散乱させながら左右に倒れたのだった。
「風雅流千年。神名雷鳳。この名を継いだ者に、敗北は許されてないんだよ」
 そう言って克己が直刀を鞘に戻すと、一陣の風が吹き抜けたのだった。

作者:刑部 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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