再び、緑の中で

作者:つじ

●迷い出づる
 某日、深夜。海にほど近い林の中に、死神が姿を現す。
 浮遊する怪魚型のものが三体、そしてシスターのような姿をした者が一人。女の形を取ったその個体は、『因縁を喰らうネクロム』と呼ばれていた。
「この場所で、ケルベロスとデウスエクスが戦いという縁を結んでいたのね。ケルベロスに殺される瞬間、彼は何を思っていたのかしら」
 陶酔するように目じりを下げて、『因縁を喰らうネクロム』はそこに視線を送る。
 淡路島の海岸付近。そこはかつて、織りなされた植物迷宮において、バルドルを追うケルベロス達が戦いを繰り広げた場所である。
 彼等に立ち塞がったのは、『カンギ』を頭に据える、『カンギ戦士団』と呼ばれる者達だ。
「折角だから、あなたたち、彼を回収してくださらない? 何だか素敵なことになりそうですもの」
 その命を受け、怪魚達がその場をゆっくりと巡り始める。青白く光る軌跡は、やがて魔法陣を形作り――。

「――ガアアアアァッ!!!」
 一体の竜牙兵が、その身を起こした。それは、咆哮か、産声か。その身体は徐々に肥大化を遂げていく。戦いの中で割られた頭蓋が変異し、獣のような歪な形に変わる中、カンギ戦士団の一員、ガラドは喉を軋ませた。
「ワがメイユウよ、ドコだ! ワレはナニをツブせばヨイ!? ナニとタタカえばヨい!? コエがキコえぬ! カンギよ!!」
「そう、あなたにはそういう縁もあったのね。とても、素敵よ」
 残った理性の上げる最後の声が消えた後、その竜牙兵は死神のモノと成り果てた。

●再戦
「淡路島にて、死神の活動が確認されましたよ皆さん!!」
 集まったケルベロス達に、白鳥沢・慧斗(オラトリオのヘリオライダー・en0250)が高く声を張り上げる。淡路島と言えば、そう、数ヶ月前に『光明神域攻略戦』の舞台となった場所の一つである。
 そこで戦った相手と言えば、バルドル、そしてカンギ戦士団だが……。
「サルベージされたわけだね、アタシの戦ったヤツが」
「ご明察です!」
 タバコを吹かしながらの塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)の言葉に、慧斗が応える。
 動いた死神は、アギト・ディアブロッサ(終極因子・e00269)の宿敵である、『因縁を喰らうネクロム』だ。この死神は、ケルベロスの倒したデウスエクスの残滓を集め、死神の力で変異強化した上でサルベージし、戦力に加えるという行動を繰り返している。今回もそのケースの一つであると見て良いだろう。
「というわけで、カンギ戦士団、竜牙兵のガラドがターゲットにされました! 翔子さんの『嫌な予感』が的中した形ですね! ツいてない、でもどんまいです!!」
 このまま死神の戦力増強を見逃すわけにはいかない。出現ポイントに駆け付け、死神勢力に合流する前にガラドを撃破するのが今回の目的となる。
「敵戦力は変異強化されたガラド、そして怪魚型の死神が三体です!」
 戦いの舞台となるのは、淡路島。既に消え去った植物迷宮の跡地でもある、海岸付近の林の中だ。周辺への避難勧告は既に行われており、ケルベロス達の到着時点で避難は完了しているはずである。
「ガラドは、強化された体を生かした単純な格闘攻撃を仕掛けてきます! 記録によると、以前はハンマーをメインに使っていたようですが、死神による変異強化で理性が失われた影響でしょうか、それは使ってきません!
 それと、おともの怪魚型は噛み付きがメインのようですね!」
 一度戦った相手とはいえ、今回は死神の手が加わっている。能力としては前回よりも上がっていると見るべきだろう。
「戦士の誇りとかはよく分かりませんが、一度散った者を再利用する方策はあんまりよろしくないと思います! 是非、この企みを阻止してください!!」
 元気の良い声で激励の言葉を投げて、慧斗は一同を送り出した。


参加者
メイア・ヤレアッハ(空色・e00218)
カロン・カロン(フォーリング・e00628)
ルードヴィヒ・フォントルロイ(キングフィッシャー・e03455)
シド・ノート(墓掘・e11166)
アニー・ヘイズフォッグ(動物擬き・e14507)
三廻部・螢(掃除屋・e24245)
塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)
ルカ・フルミネ(レプリカントの刀剣士・e29392)

■リプレイ

●獣としての再誕
「植物迷宮、か。自分が行ったのは琵琶湖の方だったけど……」
 淡路島、かつて植物迷宮の片割れが在った場所に降り立ち、アニー・ヘイズフォッグ(動物擬き・e14507)が口を開く。きっと、彼女の持つ魔女との記憶と同じような戦いが、ここでも繰り広げられたのだろう。それに思いを馳せながら、アニーは暗闇の向こうへ目を凝らした。
 月は隠れ、街灯の明かりも届かぬ木々の中、青白い光が三つ、ゆっくりと宙を泳いでいる。
「死は在るべきモノよ。どんな形であれ、ゴールは必要だもの。それを、無理矢理起こして引き延ばすなんて……」
 溜息の代わりに一つ鳴き、カロン・カロン(フォーリング・e00628)は青く光る死神からその後ろへと視線を移した。
「無粋ね……嫌いだわ」
 歪な巨躯と、白くくすんだ頭部。ルードヴィヒ・フォントルロイ(キングフィッシャー・e03455)の投げかけた光の中に、サルベージされた竜牙兵の姿が照らし出される。
「やだあの腕できつく抱きしめられたら死んじゃう。しかも顔コワイ!」
「大きな頭、考える事も出来ないのに、何のための頭なのかしら」
 額に着けたライトを点灯させつつシド・ノート(墓掘・e11166)が軽口を叩き、メイア・ヤレアッハ(空色・e00218)もランプを置いて視界を確保する。
「塩谷さん達、あんな厳ついのと戦って勝ったの?」
「でしたっけ」
「いや、前はあそこまでじゃなかったよ」
 シドの問いに、煙草を咥えたままの三廻部・螢(掃除屋・e24245)と、苦笑交じりの塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)がそれぞれ答える。
「因縁も死もソイツだけのモンだってのに。こうホイホイ利用されるのは気に食わないねえ」
「……まあ、嫌なリサイクルですね」
 翔子がライトニングロッドを手に取り、螢もまたデッキブラシ型の武器に紫電を纏わせる。情報が確かならば、この竜牙兵は以前に翔子と螢、そして居合わせた仲間の手で葬られたはずの存在だ。
 我が名はガラド、と、そう名乗ったはずの竜牙兵は、ケルベロス達を認めて咆哮を上げる。そこに、理性の色など残っているはずもなく。
「よし、かかっておいで。これでもこども相撲で優勝したことあるんだぜ」
 腰を落としたシドの前方で、竜牙兵もまた姿勢を下げる。敵の極端なまでの前傾姿勢に、メイアは先程の問いの答えを見出した。

「……あっ、もしかして、突撃用」
 ご明察。敵の腕、もしくは前足が地面を掴み、後ろ足が土を蹴立てる。ズン、という腹に響く音と共に、竜牙兵が迫りくる。

●踊る影
 地面に置いたランプと、ケルベロス達の持つ明かりで、林の一角が光に満ちる。多数の木々に複数の光源、それらによる影が複雑な模様で戦場を彩った。
「はっけよーい、のこっゴブァッ!」
 ぶちかましでシドを吹き飛ばし、そのまま駆け抜けた竜牙兵が木々の影に紛れる。とはいえ、響く音からして居所は明らかだ。このまま切り返して再度突進に来る構えだろう。
 それを追おうとしたルカ・フルミネ(レプリカントの刀剣士・e29392)の前に、しかし三体の怪魚が立ち塞がる。
「っと、私はあっちと遊びたいんだけど?」
「お掃除はこっちの魚からですかね。ガラドとやらの抑えはどうします?」
 続く螢の視線はテレビウムのるんば、そしていそいそと立ち上がるシドへ。
「大丈夫、次はちゃんと止めて見せるから!」
「任せたわよ。それじゃこっちは景気付けの一曲を――」
 それを受けて応える声に、カロンが堕ち往く先に捧ぐ唄で返す。その往き先に災い在れと、呪いの歌が怪魚を蝕んでいく。
「合わせるよ。針じゃなくて弾なのが残念だけどね」
 そこにルードヴィヒが時空凍結弾で追い打ちを試みる。集中攻撃こそが彼の狙いだが、それは庇うように泳ぐ別の個体に受け止められた。
「うーん、水辺じゃないと勝手が違うなぁ」
「魚釣りのお話? でも変なお顔だし美味しくなさそうよ」
 牙を剥いた怪魚達が前衛に食いつくのを見て、メイアが眉根を寄せる。
 星の聖域でその傷を癒すと共に防御を固め、ボクスドラゴンのコハブに指示。それを受け、コハブは螢に対して属性インストールを行った。
 ケルベロス達の布陣は、やや守りに寄ってはいるがバランスを重視したもの。敵の攻撃を耐えつつ、頭数を減らしていく構えだ。
「そぉれ、シビれろっ!」
 連携攻撃の鎖とは外れた位置から、ルカと螢がそれぞれ探るように仕掛けた攻撃は、やはり竜牙兵に届く前に、怪魚に阻まれてしまう。
「まだ、邪魔が多いですね」
 抑えに回るディフェンダーに手を貸そうにも、まずは突破口を作らなければ話にならない。
「オオオオオオッ!!」
 響く雄叫びと共に再度の突進が来る。手近な所を狙った単純なそれに、翔子が立ち塞がって味方のダメージを肩代わりする。
「ツレないね。って、もう覚えちゃないだろうがね」
 衝突時の竜牙兵の目。そこに何の色も見出せず、翔子が呟く。理性を失ったという情報は、やはり確かなようだ。
 そこに続けて三匹連続で食らいつきにかかる怪魚に、翔子はシドとるんばの手を借りつつ一歩下がる。
「シロ!」
 呼び掛けに応じ、彼女の腕に絡みついたボクスドラゴンが主を援護する。それに合わせて、翔子も怪魚の側頭部にライトニングボルトの一撃を叩き込んだ。
「痺れるだろ?」
 ケルベロス達の狙いは自然と個体能力の低い怪魚達に集中していく。だが互いに庇い合う怪魚達の頭数を減らすのはそう容易ではない。突破口の鍵になり得るのは、やはり――。
「まとめて相手するよ!」
 ジャマーに位置するアニーが兵装を展開、敵の全てに向けてミサイルを放つ。こうして鈍らせた動きが、いずれ実を結ぶはずだ。

「神鳴りの夜も、きらいじゃないの」
 神鳴雷絲。メイアの呼び声に応じた雷獣が暗闇を切り裂き、生じた光の糸が怪魚達を絡め取る。そこに、先程まで魚に噛まれていたシドがウイルスカプセルを捻じ込んだ。
「こっちはウィッチドクター流の嫌がらせってやつです」
 だが刻み込んだ回復阻害の効果を確認する前に、彼の側面に影が生まれる。
「っと!?」
 逆光に照らされながら振られたのは竜牙兵の巨大な腕。鋭い爪の一撃に、庇いに入ったるんばが吹き飛んだ。
「ガアアッ!」
 威嚇するように叫び、そのまま連撃に移ろうとする竜牙兵。獣性を露にしたその姿に、怪魚を相手取りながらルードヴィヒが顔を顰める。
「戦士の誇りってのは僕も良くわからないけど、理性を失って生前とは違う形でってのは望むところじゃないと思うんだよなぁ」
「戦士の誇りですか。確かに、ああまでなると示せそうにもありませんね」
 惨劇の鏡像で怪魚を苛む彼に並んで、螢は傷ついた前衛に慈雨を降らせた。
「まあ、お仕事なので、僕は特に感慨とかはないんですが……」
 興味なさげに、新たなタバコを取り出す彼を他所に、ルカもまた別の怪魚へと斬りかかっている。
「私も戦士の誇りだなんての掲げるタイプじゃないけどさ。敵でも何でも、死んだやつが無理矢理生き返ってんのは良い気しないよね」
「そうだね。自分も、一度死んだ者が甦るって良い事だとは思えない」
 アニーがそれに頷いて見せる。四方に伸びた猟犬の鎖が敵を貫き、毒を伝わせその身を蝕む。
「起こされちゃったのは眠らせるし、起こしたやつも眠らせる。今回はそれで終わり!」
 そして、ルカの刃が円月を描いた。
 ケルベロス達の攻撃に、怪魚は徐々に追い詰められていく。死神の行動は、体力回復効果のある噛み付きがメインであるため、それだけで攻防一体の手になっているのが少々手間、と言えるだろうか。
「全く、魚に噛まれるよりも喰らってやる方が得意なんだっての」
「気が合うね、俺もだよ」
 ルードヴィヒの声に、実際に噛まれまくっているシドが答える。回復されながらも重ねられたバッドステータス、そしてヌンチャク型に分かれた如意棒での迎撃で、その状況は多少マシになってはいるか。
「お魚は猫の好物、というでしょ? 貴方は私を楽しませてくれる良い魚かしら?」
 そこに切り込んだカロンが、魂を喰らう拳を見舞う。刹那の一撃と、咀嚼するような一瞬。
「ん、活きのよくない子は嫌いよ」
 そのまま敵の動きを目で追い、カロンが言う。言葉通りに捉えるならただの好き嫌いの表明だが、実際の中身は明らかだ。「弱っている、逃がすな」、そんな彼女の目配せにルードヴィヒが応じる。
「それなら僕が貰おう、一本釣りだ!」
 狙い澄ました一撃。時をも凍らせる弾丸がその個体を射抜き、地へと叩き落した。
「……コハブ、明日は焼き魚にしようね」
 そんなやり取りに謎の欲求を滲み出させつつ、メイアがアイスエイジで残った個体を氷に晒す。ボクスドラゴンもそれに一声応えて、ブレスを吐きかけていった。

●遺志とは
 前衛の根競べはケルベロスの側に軍配が上がった。残った怪魚も体力を戻すよう回遊を始めるが、一度崩れ始めればそこからは早いもの。
 柔らかな光を翼から放ち、メイアがシャイニングレイで敵を包み込む。そこにアニーが再度鎖を展開。毒に追い詰められていた死神の一体は、仲間を庇って鎖に巻かれ、引きずり降ろされる事となる。
 そうしてアニーがとどめを刺した直後、反対側からルカが走り込んだ。
「こういうのも得意でさ」
 いつものからかうような声音ではなく、冷たい調子でそう言って、ルカは月光斬を放つ。緩やかな弧の軌跡をなぞり、最後の怪魚が両断された。

 怪魚は全て力尽き、最後に残される形となった竜牙兵が咆哮を上げる。衝撃波となったそれがケルベロス達を襲うが――。
「はいよ、お医者さんですよ」
「死の足音は聞こえてきましたか?」
 翔子の翠雨、そして螢の放つ霧がその影響を和らげていく。
「よし、こっからはガチンコだ。俺の拳でアンタを止めてみせるよ」
「あなたの在り方、とても可哀想なの。楽に、してあげるね」
 稲妻を纏わせるシドの後ろで、メイアが跳び上がる。ライトニングボルト、そしてスターゲイザー。
「立派な腕だねー。そんじゃ力比べといこうか!」
 ルカの腕から隆起したオウガメタルが拳を作り、竜牙兵の爪とぶつかりあった。

 敵を残り一体とした状態で戦闘は続く。さすがに怪魚に比べれば、攻防共に強力ではあるが……。
 オーラの弾丸で牽制しながら、カロンがダンスの相手を呼ぶ。
「やっと貴方の番ね。荒っぽくて平気?」
 誘い出したそこは、闇を照らす光源の中心。満身創痍の姿を晒した敵に、翠の魔法陣が乱舞する。
「隅から隅まで、塵芥も残さずに――骨の髄まで、綺麗にしますよ」
 閃光、火焔、氷結、稲妻、螢の発動した幾つもの魔術が竜牙兵を穿った。
「……!」
「行くよ!」
 苦鳴を漏らす敵の目前に、低い姿勢で駆け込んだアニーがナイフを閃かせる。煌めく刀身は切り裂くのではなく、敵のトラウマを映し出した。
「……アァ、コレは……」
 衝撃が走ったように敵の頭蓋が揺れる。喉が擦れて、懐かしむような音が漏れる。
 鏡像が何を見せているのかは確認できない。しかし、例えば『自分を殺した一撃』があるのなら、それを見てしまう可能性は高いのではないだろうか。
 一瞬、思考の色がその眼に浮かぶ。けれどそれはすぐに憎しみに塗れて、仲間に回復を施している螢へと向けられた。
「ガアアアッ!!」
「……何ですか、急に」
 とはいえ螢にとっては『一度消した汚れ』だ。それらが噛み合う事は無いだろう。
「以前はアンタをアタシ達が仕留めた。命の尊厳を奪った」
 攻撃にかかろうとした機先を制し、翔子が敵の頭を抑える。降り来るのは翠の雨。癒やしの力を持つそれが、彼女の髪を濡らしていく。
「今度は、最低限のアンタの尊厳を守りに来たよ」
 返ってくる言葉は無い。理性を失った獣を見下ろす翔子の目は、その長い髪に隠れていた。

「電気食らえばまた眠くなるとかないかな?」
 ルカの掌から特殊兵装が覗き、放たれた電撃が敵を撃つ。
 吼え猛る獣との攻防は既に佳境。盾となる怪魚を失い、攻撃を受け続けた竜牙兵の動きは明らかに鈍っていた。
 躓きながら、何とか繰り出した突進の動きも精彩を欠いており――。
「――歯ァ食いしばれや」
 迎え撃つのは固めた拳。単純明快なシドの一撃が、敵の頭蓋に突き刺さる。
 がくりと敵の上体が崩れ、地を舐めるように頭が落ちる。唸るような声を上げ、もがいてはみるが、重ねられた麻痺の効果もあるのだろう、走り出すには至らない。
「もう一度、地球の土に還ってもらうよ」
「楽に、してあげるね」
 ルードヴィヒとメイアがそう告げて、それぞれに殺神ウイルスとスターゲイザーで追い打ちをかける。憐憫に似た情を抱こうとも、その使命から、彼等が手を抜くことはありえなかった。
「さ、もう一回、おやすみなさい」
 二人に続き、軽やかに舞うカロンの足が、空中で弧を描く。鋭い刃と化したそれが閃き、竜牙兵の首を刈り取った。
「今度こそ、貴方が良き終焉の果てで眠れますように」
 重い地響きと共に、二つに分かたれた竜牙兵が地に伏した。

●再びの平穏
「掃除完了、ですね」
「どうせなら、起こした奴もまとめて倒しておきたかったな」
 敵の撃破を確認した螢に続き、ルカがこの件に絡んでいるであろう死神に言及する。今は気配程度しか残っていないが、いずれ相対する日も来るだろう。
 ひとまずの決着。仲間から少し離れ、螢が咥えたまま放っていた煙草に火をつける。
「ああ、ようやく一息つける」
「火、こっちにももらえる?」
 それを察した二人、大げさな溜息をついたシドと、翔子も即席の喫煙スペースに寄り、それぞれに懐からよれた箱を取り出した。

「ガラド、あんたはもう戦わなくていいんだよ。盟友のとこへ逝きな」
「おやすみなさい。今度は起こされないように、ゆっくり休んでね」
 ルードヴィヒの隣で、メイアが倒れた竜牙兵に手を合わせる。それを見て、カロンがその肩に手を置いた。
「大丈夫、きっとゆっくり眠れるわ。私達が送ってあげたのだもの」
「これで、良かった?」
 同じアニーは、確かめるように胸に手をやる。心の事はまだよくわからないが……。
「弔いってもんはさ、死んだもののためじゃない。今を生きてるもののためにあるもんさ」
 それを察したか、煙を吐き出して、シドが口を開く。
「何が言いたいかって言うと、簡単に死んじゃダメってこと! 俺が泣くからね! ガチ泣きするよ!」
 おどけるようなセリフではあるが、言いたいことはアニーにも伝わった事だろう。
(「これも、自己満足かも知れないけどね」)
 そんな事を考えながら、翔子は細く、長く息を吐き出す。昇った紫煙は揺らめいて、ゆっくりと空に溶けていく。
 タバコの煙を線香の代わりに、というのもよくある話ではあるが。
「ま、それを望むタイプでもないか」
 視線で煙を追いかけて、彼女はそう呟いた。

作者:つじ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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