嘆きのローカスト、望まぬ目覚め

作者:ともしびともる

●望まぬ目覚め
 深夜の岡山県。とある山村の北端を、シスターの姿に翼を生やした女性が、数体の浮かぶ怪魚を連れて訪れていた。
「……ここ。ここで数体の飢えた哀れなローカストと、ケルベロスが戦いの縁を結んでいたのね」
 民家の裏手でシスター姿の死神、『因縁を喰らうネクロム』が立ち止まって地面を触る。
「……そうね、一番痛そうなあの子をお願い。彼の想いを回収してあげて」
 青白く光る怪魚が円を描くようにその場を泳ぎ、その軌跡が浮かぶ魔法陣を創り上げていく。その中心から、全身に引き裂かれたような傷を残すコオロギ型のローカストが現れた。
「何を想いながらこの子は死んだのかしら? 飢え、痛み、失意、絶望……フフッ」
 ネクロムは笑い声を残して姿を消す。呼び出されたローカストは全身の傷口から白色の炎を吹き上げ、悲鳴じみた咆哮を深夜の山村に響かせた。

●死を弄ぶもの
「岡山県の山村部にて、アギト・ディアブロッサ(終極因子・e00269)さんの宿敵、『因縁を喰らうネクロム』の活動が確認されました。彼女はケルベロスによって殺されたデウスエクスの残滓を集め、その残滓に死神の力を注いで変異強化した上でサルベージし、戦力として持ち帰ろうとしているのです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、新たな事件の発生をケルベロス達に伝える。
「今回サルベージの標的にされたのは、ミレイ・シュバルツ(風姫・e09359)さんが危惧していた、『飢餓ローカスト』の一体です。アポロンの統率の元でグラビティを涸渇させられ、理性を失って村を襲撃しようとしていた個体の一つですね」
 そう言いながらセリカは険しい顔で僅かに俯く。彼らが現れた当時、敵の境遇に僅かな哀れみを覚えながらも、敢えて冷徹に『容赦する必要はありません』とケルベロスに言い渡したことを、彼女は覚えていた。
「皆さんにはネクロムのサルベージ作戦を防ぐため、急いで彼らの出現ポイントに向かって頂きたいのです。彼らがデウスエクスの回収を完了してしまう前に、変異強化された飢餓ローカストと怪魚型死神を討伐してください」

●蘇ったローカスト
 現場は深夜の山村の端、民家と樹木が点在する地点での戦闘となる。現地の住人には既に避難勧告を出しているので、住人の避難をケルベロスが行う必要はないだろう。
「敵の数は4体。怪魚型死神3体と強化飢餓ローカスト1体です。サルベージされたローカストは一体のみですが、全身の傷から地獄化に似た炎を吹き上げ、元の個体よりも変異強化されているようです。元々知性を失っていた個体ですが、それに加えて苦しみからか獰猛さも増しており、その攻撃力の高さには十分注意を払うべきでしょう。一方で痛みに苛まれている影響か、耐久力はさほど高くなさそうです、ですが、3体の怪魚型死神はサルベージしたローカストを守るかのように立ち回るので、一筋縄では行かないかもしれません」
 複数の敵との戦闘になるため、敵をどのような順番で倒すのか少し戦略を練っておくといいかもしれない。
「それから……サルベージされたローカストは、あまりの痛みと苦しみからなのか、こちらがヒールを施すとその安らぎに縋ってほんの少しだけ動きを止めるようです。一種の賭けに近いですが、その性質は戦術に組み込む余地があるかもしれません」
 ただし、ヒールによって動きを止めるてくれるのはせいぜい3回に留まるだろう。それ以降は暴れることに没頭し、とどめを刺すまで動きを止めることはない。
 そこまで説明したセリカは小さくため息を吐き、改めてケルベロスたちに向き直る。
「死した者の苦しみまでも利用する死神の策略は許せませんが……。とにかく、今は蘇ってしまった新たな脅威を、死神に連れ去られる前にどうか鎮めてあげてください。……よろしくお願いします!」


参加者
アギト・ディアブロッサ(終極因子・e00269)
二羽・葵(地球人もどきの降魔拳士・e00282)
ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544)
ノーザンライト・ゴーストセイン(ヤンデレ魔女・e05320)
リューデ・ロストワード(鷽憑き・e06168)
高橋・月子(春風駘蕩たる砲手・e08879)
ミレイ・シュバルツ(風姫・e09359)
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)

■リプレイ


 深夜の山村。青白い光を放って漂う不気味な3体の怪魚の、その中心に全身から白炎を上げるローカストは居た。ローカストは燃え上がる傷を掻きむしりながら、悲痛なうめき声を上げている。
「……何故、死者をこれ以上苦しめる」
 リューデ・ロストワード(鷽憑き・e06168)は不快さ露わに眉を寄せた。彼は敵に対して冷徹を貫く質だったが、今回ばかりは複雑な思いも抱いている。視線の先の敵がかつて自分たちが殺した相手でもあり、炎を纏い、死にきれずに藻掻く敵の姿が、心臓を地獄化して生を保つ自分にどこか重なってしまうからでもあった。
「生は苦しみに満ちているというけれど……。それでもこれは、あんまりだわ」
 高橋・月子(春風駘蕩たる砲手・e08879)の表情にも憂いが浮かぶ。その隣で、無言で敵を睨みつけるミレイ・シュバルツ(風姫・e09359)と、リューデ、月子の3人がこの地に来るのは既に二度目だった。飢え、理性を失って村を襲ったローカストに、死の引導を渡したのは彼女たちが参加した部隊だったのだ。
「いくら動こうが死体は死体、モノはモノ、だ。流石に哀れには思うがね」
 アギト・ディアブロッサ(終極因子・e00269)はそう言いきって煙草の煙を燻らす。
「ああ、哀れなモンだ。もうアポロンも阿修羅のオッサンも、いねえってのによ……」
 ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)は深い溜め息をつきながら、硝子細工のように美しく刀身が透けた短刀、『優曇華』を手にする。この刀身は、使命と覚悟に若き命を散らしていった蜉蝣のローカストの、遺された翅を素材に作られたものだ。
「……早く、解放してあげましょう。やっぱりこんなの酷すぎます……!」
 二羽・葵(地球人もどきの降魔拳士・e00282)は哀れみに急かされるように、斧剣ロギホーンの柄に手をかける。『ロギホーン』もまた、哀れな末路を辿って散ったローカスト戦士の名だった。過酷な運命をたどるローカスト達の姿に、葵はやるせなさを感じずにはいられない。
「死神ってこういうことするから大嫌い。あいつらを二度殺すのは、気分悪いな」
 ノーザンライト・ゴーストセイン(ヤンデレ魔女・e05320)も、僅かに眉根を寄せて呟く。彼女も、略奪の駒にされ使い捨てられたローカストと何度も対峙してきた。哀れな魂を笑って蘇らせる死神のやり方には、ケルベロスへの含みすら感じている。
「アイツはお前と同じだ、優曇華……。終わらせてやろうぜ」
 ランドルフは優曇華を眼前に掲げ、その刀身の向こうに哀れなローカストの姿を映し見た。
「飢えた上に死まで利用されるとはな……、これ以上哀れな姿を晒し続ける前に、哀れな戦士を弔おう」
「飢餓状態にさせられ命を散らしたものをさらに利用しようとする死神。……必ず倒す。そして、苦しむものに安息を与える。それがわたし達の使命」
 ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544)は緻密な紋様の爪を持つ右手を胸の前に構え、ミレイもその手に握った鋼の糸を両手の中でシュルリ、と言わせた。


 亡者を連れ帰ろうとする敵軍を強襲するため、ケルベロス達は一斉に駆け出す。標的と距離を詰めながら、アギトが独り言を呟いた。
「相手は死神。俺達は『死を与えるもの』。そして俺達がやってんのはごっこ遊びじゃなく殺し合いだろ? それにケルベロスにも……死者を呼び戻す手段が無いわけじゃない」
 アギトは死神のやり口にも、手放しで非難を加える気にはなれなかった。彼はケルベロスに侍る死した魂、『ビハインド』の姿を脳裏に浮かべる。
「ーーーそれと死神の所業となにが違う?」
 死者の復活。その行為の是非を善悪などで単純に線引する気には、彼にはなれなかった。
「使える手札は全て使って殺し合う。当然だろうぜ。……こちらも当然、そうするだけだ」
 アギトは加速し、死神たちの間に割って入らんばかりに一気に詰め寄って、ローカストへとヒールを放った。全身の白炎は癒やしの力によって勢いが弱まり、ローカストはその安息に身を委ねるようにしゃがみ込む。ケルベロスの襲撃に、死神達が彼らの方を振り向いた。
「情報通りだな。今のうちに死神を潰そう」
 リューデが守護の魔法陣を展開し、光の軌跡が地面を照らした。
 ケルベロス達は苦しみのあまりヒールで動きを止めるという敵の性質を、初端から一気に発動させる作戦を取った。これによって、彼らは戦闘の序盤を実質敵将不在の状態で展開することが出来る。
「邪魔だ魚共! 速攻で片づけてやらあッ!」
 ランドルフは阿修羅のオウガメタルを全身に纏わせ、手近な死神へと殴りかかる。
「コイツは痛えぞ! なにしろ鬼を超えた阿修羅の拳だからなッ!」
 ランドルフは吠え、唸る拳を怪魚の顔面へとぶち込んだ。ぐみぃ、と死神から奇妙なうめき声が上がる。
「死者を利用し冒涜する死神。許すわけには行かない」
 ミレイは冷たい視線で死神をにらみながら言い放ち、顔面が陥没した死神へと駆ける。
「貫け、旋刃脚」
 螺旋力を込めた駿足の蹴りが死神の凹んだ顔面に放たれ、死神が地面を跳ねながら吹き飛んだ。
 敵将が動く前に頭数を減らそうと、部隊は各個撃破の方針で連携攻撃を加えていく。
 ディークスが凍てつく鎚をふらつく死神へと叩きつけ、衝撃部から氷の晶樹が生み出される。
「死神でも進化の可能性は在るらしい……命ある死神、と云うのも不思議な物だ」
 ディークスが独りごちながら飛び退いた所に、月子が『19インチ砲』を腰だめに構えて飛び込んだ。その砲身の全力スイングの射程上に、無傷の死神が割り込んでその打撃を受け止める。
「魚類ども、邪魔……庇い合うな。そういうのは正義の味方のすること」
 ノーザンライトが底冷えする声で言いながら、召喚した氷槍兵に弱った死神を襲わせた。体をくねらせ、傷を癒そうとした死神の死角に、ミレイが既に気配もなく回り込んでいた。
「遅い……烈風、鎌鼬」
 言い終わるが早いか、死神の眼前に巨大な鎌を振り下ろしきったミレイが突然現れる。ミレイが鎌の柄を握り直して振り返る頃に、彼女によって瞬間的に両断されていた死神の体が、2つに分かれてべたりと地に落ちた。
 ケルベロス達が速やかに標的を変えて攻撃を継続していると、ヒールを確実に当てるべくあえて危険な敵陣の中に位置取っていたアギトの隣で、ローカストが唸りながら立ち上がった。
「……ヒールの効果は終了だ。4分持って、一匹仕留めて、一匹も……もう落ちんだろ」
 アギトはそう宣言しながら、軽く跳んで敵陣ど真ん中から味方の矢面へと立ち位置を変える。
「了解です、抑え役ありがとうございました!」
 葵は礼をいいながら、牙をむき出して迫る死神をバックステップで躱した。着地した右足で地面を踏みしめ、体勢を低めて敵の目前へと飛び込む。そのまま巨大な斧剣で、死神の腹部へと逆袈裟の斬撃を繰り出した。
「仕留めます……!」
 中空に投げ出された敵へと葵は更に追いすがり、跳躍しながら振り上げたロギホーンで、死神の背中を力任せに叩き割った。背骨の折れる音とともに死神は地面へと叩きつけられ、弾んで木の幹にぶつかった後は、だらしなく地面に転がって動かなくなった。
 残された死神は、ローカストを背後に庇うようにして威嚇の唸りを上げている。
「邪魔をするな」
 低く言い放つリューデ。心臓の炎が怒りに疼くのを感じながら、精製した零度の弾丸を死神へと放った。暴れだしたローカストの刃攻撃はアギトの二本の剣によって受け止められ、最後の死神へと集中攻撃が注がれていく。集められた氷結とジグザクの効果で、凍りついた死神の体が端々から脆く崩れだした。
「腐った冷凍鮪だ……砕けろ」
 ノーザンライトが秘めたる獣の力をその足に込め、死神の顔面を力の限りに踏み抜いた。死神の頭部は霜柱を砕くような小気味よい感触を残し、見る影もなく轢き潰されて砕けた。


 残るは、獣のような咆哮を上げるローカストの亡者のみ。
「あなたとは、一度会ってるわよね? 覚えていないと思うけれど」
 傷だらけで、頭を抱えて唸る敵へと、月子が声をかける。返事は返らず、月子は寂しげに首を振った後、バスターライフルを静かに構えた。
「……ごめんなさいね、殺すことしかできなくて」
 懺悔と共に月子は引き金を引き、ウイルスの弾丸を狂いなく敵の胸部へと打ち込んだ。その攻撃に一切の手心は加えずとも、二度目の苦しみを味わう彼の姿に心苦しさを覚えずにはいられない。
 ローカストは胸部に埋め込まれた弾丸を掻き出そうと藻掻きながら、ミレイへ向けて牙をむき出しに飛びかかる。防御の構えを取ったミレイの前に、斬鉄剣で身を庇った葵が寸前で割り込んだ。金属音が響き、邪魔立てした葵の体をローカストが腕で乱暴になぎ払って、小柄な葵の身体が地面に転ばされた。
「くっ……、ミレイさん、大丈夫でしたか!」
 出血する脇腹を抑えながら、葵はミレイを振り返る。ミレイは礼を込めて頷き、葵の小脇を駆けてワイヤーを走らせ、敵の外殻を切り刻んだ。
 敵の攻撃力の高さに、部隊は自然と攻撃手、回復手の役割分担を行う体制になる。攻撃手が着実に敵体力を削る中、飛び退いたローカストは羽状の器官を震わせ、怪音波を発生させ始めた。
「ぐっ……!」
 リューデと月子が催眠音波に脳を揺さぶられてふらつく。メディックが催眠にかかったことで、部隊員に僅かな緊張が走った。
「待ってろ、今……」
 ディークスは振り返り、おもむろにリューデに殴りかかろうと拳を振りかぶった。
「ちょちょちょ!? どうしたんですかディークスさん!?」
 葵は仰天して叫び、必死に背伸びしてディークスの拳をなんとか止める。
「ディークスお前、いつ催眠にかかった?」
 正気にしか見えないディークスを、ランドルフが訝しげに見る。騒然としてしまった仲間の様子に、ディークスがはっとした様子で顔を上げた。
「……ひょっとしてグラビティでなければ駄目か」
 どうも咄嗟に物理攻撃で催眠を解こうとしたらしい。仲間の天然砲炸裂に、冷静に状況観察していたミレイも思わず両目を瞬かせる。
「……次やったら今度はわたしが殴る」
 ノーザンライトがジト目でディークスを睨み、
「悪かった。二度目はないから安心していい」
 ディークスは真顔のままでそんなことを答えた。
 ともあれアギトのキュアによってリューデの催眠は速やかに解かれ、部隊は問題なく体制を立て直す。高火力の攻撃が続くが、痛みに蝕まれた敵の耐久もみるみる消耗していっるようだった。
「好都合だな。……そろそろ詰めにかかるか」
 アギトの呟き。敵が痺れに足を止めた隙をつき、部隊は一気に攻勢に転じる。
「……眠れ。お前は、死者なんだ」
 リューデは未だ出せぬ自らの生死への答えを、せめて彼には与えようと物質凍結の弾を浴びせて敵の時間を凍らせる。アギトの右腕から間髪入れずに気咬弾が撃ち出され、白く凍りついた外殻全体に細かなヒビが広がった。寒さに震えてふらつく敵の眼前にディークスは立ちはだかり、掌上で作り出した光球からペトリフィケイションの光線を放つ。ローカストは力を振り絞るように上空へ跳んで光線を躱したが、彼の操る『蛇眼煌』の光線は蛇のように鎌首をもたげ、そのまま上空に逃れた敵へと真っ直ぐに追いすがって敵の胴を灼き貫いた。その衝撃に敵の身体が一瞬痙攣し、口部から体液が吐き吹かれる。
「解き放ってあげる。……だから、全力で斬らせて」
 詠唱の後、ノーザンライトは掌から生み出された聖剣『極光剣』の柄を握り、それを一気に引き抜いて、体制を崩して落下する敵へと駆け出した。死神との戦いとは違い、その一閃に敬意を乗せて、容赦のない全力の一撃を、七色の光と共にローカストの胴へと深く刻んだ。ローカストは極光を放つ傷口を両手で抑え、しかしなおも倒れずに、上空を仰いで耳をつんざく悲鳴の咆哮をあげた。
 ランドルフは優曇華を掲げて精神を集中し、その刀身にグラビティと気を纏わせて、煌めく白銀の刃を形成する。
「終りにしようや! コレが俺と優曇華の刃だッ!」
 叫ぶランドルフに、ローカストも破れかぶれで突撃してくる。ランドルフの気合の咆哮に共鳴して優曇華の刀身も強く光輝き、敵のシックルが届くよりも早く、覚悟を宿したグラビティの銀刃がローカストの喉笛を深く深く切り裂いた。


 もはや悲鳴もなく、ローカストはその場に膝を折る。指先からボロボロと崩れて行くローカストの体に、ノーザンライトはそっと、ルナティックヒールを施した。
「眠って。誰にも起こされないで、安らかに」
 彼女なりの精一杯の優しさがこもった声。淡い癒やしの月光を浴びて、傷の残り火が完全に消えていく。崩れ行く体は光の粒子に変わって、上空へと登り始めた。
「もう、終わったんです、貴方は、苦しまなくて良いんですよ……!」
 葵は消え行くローカストの前に膝をつき、切なげな表情で語りかける。最期にローカストの口元が何を言いかけるように僅かに動き、彼が仰向けに倒れると同時にその全身が一瞬で光の粒へと変わった。
「ココはもう……お前がいていい所じゃねえんだ。還りな、仲間の所へ……あばよ」
 ランドルフは優曇華を納刀し、天へと昇る光を見送る。
「……還ったのか。それなら、それでいい」
 リューデもまた小さくつぶやき、その横顔に月子が話しかける。
「野草で、花束でも作りましょうか。大したことはしてあげられないけれど」
 ミレイが振り返り、コクリと頷く。月子たちは付近の野花を集めてささやかな花束を作り、ローカストが消えた辺りに添えた。
「自分で考える知恵も心もあったはずなのに、一度ならず二度までも……本当に気の毒。今度こそ、もう辛い思いをしなくて済むと良いわね。あなたも、あなたの仲間も」
 月子が祈るようにそう言い添え、ミレイがその側で目を伏せる。
「……死の安息を」
 ミレイが呟き、皆の黙祷がローカストへと捧げられた。
 黙祷を終えたミレイは、本件に対しずっとクレバーな姿勢だったアギトが、最も長く黙祷をしていることに気が付いて彼の方を見上げる。
「……飢えて壊れて殺されて、身体は再度利用され……ろくなもんじゃないな。せめて良き死を、次があれば良き生を」
 生者の生と、骸の生。二人分の黙祷を捧げ終えたアギトは、誰とも目を合わせずにそう呟き、新しい煙草に火を点けた。
「ネクロム…そろそろ地獄に叩き落したいな」
 静寂を取り戻した山村の、闇に包まれた景色の向こうをノーザンライトは睨むように見渡す。ディークスの影から這い上がり、肩に乗って周囲を睥睨していた闇蜥蜴が、不意に周囲の森の一方を振り向いた。ディークスも思わず同じ方角を振り返ったが、視線の先には暗い沈黙と闇が残るだけだった。

作者:ともしびともる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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