買い物客でにぎわうショッピングモールの中心地点に、突如巨大な牙が突き刺さった。
その牙が、鎧兜を纏った竜牙兵へと姿を変える。
「オマエたちの、グラビティ・チェインをヨコセ」
買い物帰りの家族連れに、容赦なく大鎌が振り下ろされた。
「オマエたちがワレらにムケタ、ゾウオとキョゼツは、ドラゴンサマのカテとナル」
竜牙兵は止まらない。
次々に、手当たり次第、目に写る人間を殺戮し始めたのだ。
「ハハ、ハハハッ」
竜牙兵の咆哮が響き渡る。
マスコットキャラクターから受け取った風船を持った少女も。
記念のジュエリーを買いに来たカップルも。
フードコートで一休みしていた老人も。
すべて切り裂かれ、ショッピングモールは飛び散った血しぶきで真っ赤に染まっていた。
●依頼
「みなさん、集まっていただいてありがとうございます。早速ですが、ショッピングモールに竜牙兵が現れ、人々を殺戮する事件が予知されました」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はケルベロスたちを順に見て、話を始めた。
竜牙兵の凶行を阻止するのが目的だと言うことだ。
「竜牙兵が出現する前に周囲に避難勧告をすると、竜牙兵は他の場所に出現してしまいます。そうすると、事件を阻止することができずに、被害が大きくなってしまいます。どうか、その点を注意してください」
また、ケルベロスたちが戦場に到着した後は、避難誘導などは警察に任せられる。
皆には、竜牙兵を撃破することに集中して欲しいとセリカは語った。
「出現する竜牙兵は3体です。3体とも、簒奪者の鎌を装備しているようですね。前衛2体に後衛1体の、攻撃主体の布陣のようです。それと、皆さんとの戦いが始まれば、竜牙兵が撤退することはありません」
最後にと、セリカが皆を見る。
「竜牙兵による虐殺を見過ごす訳には行きません。どうか、討伐をお願いします」
そう言って、説明を終えた。
参加者 | |
---|---|
アシュヴィン・シュトゥルムフート(月夜に嗤う鬼・e00535) |
風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989) |
スウ・ティー(爆弾魔・e01099) |
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125) |
修月・雫(秋空から落ちる蒼き涙・e01754) |
ジェノバイド・ドラグロア(覇龍の称を求める狂紫焔龍・e06599) |
ヒルメル・ビョルク(夢見し楽土にて・e14096) |
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130) |
●01
その日、ショッピングモールは買い物客でにぎわっていた。
「懲りないわねー、ドラゴン勢も。こんな平和そうなショッピングモールを襲うなんて」
モールの中心点を見下ろしていた橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)が、手すりの縁に足をかける。テレビウムの九十九もそれに従うように準備した。仲間たちもすぐに飛び出せるように構えているはずだ。
確かにこの場所は平和だった。
しかし、それもここまでの話。
突如、モールの中心点に巨大な牙が突き刺さった。その牙が鎧兜を纏った竜牙兵へと姿を変える。
「オマエたちの、グラビティ・チェインをヨコセ」
竜牙兵が大鎌を振り上げた。
その動きに合わせるように、ケルベロスたちが飛び込んでくる。
「指示に従って、慌てず逃げて!」
二階部分から飛び降りて、客と竜牙兵の間に割って入った芍薬が大声を上げた。
買い物客は、三体もの竜牙兵の出現に、動くこともできず立ち尽くしている。
「警察の指示に従って、落ち着いて避難して下さい!」
修月・雫(秋空から落ちる蒼き涙・e01754)も、一般人に声をかけた。
複数ある通路付近で警備員が誘導を始めている。
ようやく周囲の一般人が動き出した。
こんな大勢の人々が楽しむ場所での殺戮なんて、絶対に見過ごすわけにはいかないと、雫は思う。何としても、阻止しなければとも。
「恐怖の増幅とグラビティチェインの収集。何時見ても怒りを覚える光景ですね」
風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989)は武器である日本刀『煌翼』に手を添え、側面から竜牙兵に近づく。
「速やかに敵を討ってその光景を終わらせましょうか」
仲間たちも敵を囲むように位置を取っているようだ。
こうなれば、竜牙兵とて不用意に武器を振り回すこともできない様子。一般人は、徐々にモールの中心から離れていっている。
「はいはーい、慌てず急いで逃げて下さいなーっと」
逃げる一般人とすれ違いながら、スウ・ティー(爆弾魔・e01099)も前に出てきた。
「こっちの仕事も抜かりなく働きますかね」
エインヘリアルやシャイターンで忙しいってのに……と、言いながらアシュヴィン・シュトゥルムフート(月夜に嗤う鬼・e00535)やヒルメル・ビョルク(夢見し楽土にて・e14096)を見る。
ケルベロスたちの掛け声と、現場の警備員などの誘導により、一般人は早々に逃げていった。
「まったく、こんな所で暴れてくれるとは、本当に迷惑な奴らだな」
アシュヴィンは頷き、殺気を放つ。
これで、さらに一般人はここから遠ざかるだろう。
「これ以上被害が大きくなる前にこいつらには消えてもらおう」
「同感です、目的を見失った我らがゲストには、早々にお引き取り願いましょうか」
同様に、ヒルメルも殺気を放った。
あれほどにぎわっていたショッピングモールは、今は竜牙兵とケルベロスたちが睨み合っているだけになってしまった。
「あいつらぶち壊せばいいんだな?」
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)が拳を握り締め、笑顔を浮かべる。
「まあ、そういう事だな」
そう言って、ジェノバイド・ドラグロア(覇龍の称を求める狂紫焔龍・e06599)は武器を竜牙兵に向けた。
「ずいぶんとしゃらくせぇ事してくれんじゃねーか?」
「ケルベロス!」
「人の憎悪を糧とするドラゴンなんざ、てめぇら纏めて消し飛ばしてやらぁ!」
ジェノバイドが地面を蹴り、仲間たちもそれに続く。
対する竜牙兵も武器を構え、戦いが始まった。
●02
アシュヴィンはマインドリングから光の戦輪を具現化し、後衛の竜牙兵へ向けて放った。
ショッピングを楽しむ人々を恐怖させ、虐殺を楽しむ目の前の敵を、アシュヴィンは許さない。
「今度はお前たちが、オレ達に虐殺される番だ。覚悟してもらおうか」
光の戦輪が飛び、竜牙兵の守りを切り裂いてゆく。
それを振り払おうとしている竜牙兵の足元から突如溶岩が噴出した。
「まずはスナイパーから狙いましょう」
恵が念じたニートヴォルケイノの溶岩は勢いを増し、逃れようと体をひねる竜牙兵を押しつぶす。
「段々芸がなく感じてきたなぁ。潰し方に慣れるのも困るがね」
続けてスウが牽制するようにクイックドロウで敵スナイパーの武器を狙った。
竜牙兵の武器を持つ腕が反り、バランスを崩すのが見える。
さらに攻撃を続けようと走るケルベロスたちの前に、しかし残る二体の竜牙兵が立ちふさがった。
「ワレらと、タタカウと、イウのか!」
一体の竜牙兵は手元で鎌を操り、回転させてアシュヴィンに投げつけてきた。すかさず九十九が庇いに入る。九十九の体を斬り刻んだ鎌が、くるくると回転しながら竜牙兵の手元に戻っていった。
「助かった、それにしても、やっぱり手強いな」
「まあね。形振り構ってられ無いんだろうけど、私達も黙って見過ごすわけにはいかないのよね」
庇った九十九の様子を確認しながら芍薬が回復の準備をする。
「んじゃ、いっちょお仕事と行くわ」
芍薬がオーラを溜めて九十九を治癒した。
「ナラバ、ホロビルがイイ、ケルベロス」
続けて、もう一体の竜牙兵がおおきく振りかぶった鎌を恵の首筋を狙って振り下ろす。
「下がれ!」
「はい」
広喜の声を聞き、恵はとっさにステップを踏んで後ろへ下がった。
代わりに庇うように前へ出た広喜が鎌を受ける。
刃で斬ると言うよりは、叩き潰すと言った方が良いかもしれない。強い衝撃を受けながら、広喜は恵が敵の攻撃の間合いから飛び退くのを楽しげに見ていた。
「やはり、クラッシャーは抑えが必要ですね」
まだ攻撃の姿勢を崩さない前衛の竜牙兵に向かい、ヒルメルは冷たい笑顔を向ける。それから、手のひらをくるりと返し爆破スイッチを押下した。
狙った一体の竜牙兵の体の一部が爆発する。
竜牙兵が慌ててケルベロスたちと距離をとった。
「さあ、回復をお願いします」
今のうちにとヒルメルが雫に声をかける。
「はい。今、回復します」
「頼むぜ!」
雫は傷を負った広喜を見た。急ぎ全身の装甲から光輝くオウガ粒子を放出する。
オウガ粒子が前衛の仲間に降り注ぎ、傷を癒し超感覚を覚醒させた。
皆が安心して戦えるようにするのが今の自分の務めだと雫は思う。だからこそ、全力で行うのだ。
「いくら破壊や殺戮をして憎悪や拒絶を産み出そうとしても、僕達ケルベロスが食い止めてみせます!」
そう言って、竜牙兵を正面に見据えた。
「その通りだぜ!」
それを聞いていたジェノバイドが頷く。
そして、紫焔を立ち上らせた。紫焔は渦を巻き、やがて巨大な龍の頭を形成する。
「逃さねぇぞ! かわせるかぁ!?」
前衛の竜牙兵に隠れるようにしていた竜牙兵へ狙いを定め、龍の頭を飛ばした。
「ナンダ、コレは」
逃げる竜牙兵をどこまでも追い、ついに龍の頭が敵を捕らえる。そして爆発し、竜牙兵に傷を負わせた。
「それじゃあ、ぶち壊すぜ」
傷が回復した広喜が、追い討ちをかけるように拳を突き出す。撃ち出されたオーラの弾丸が竜牙兵に喰らい付き、吹き飛ばした。
「マダ、タオレない。タテナオセ!」
地面を転がった竜牙兵が立ち上がり、まだ戦う意志を見せる。
竜牙兵三体は大鎌を構え、それぞれの背を合わせるようにして陣形を取った。
「まったく、健気だねえ」
その様子を見てスウが肩をすくめた。
ケルベロスたちも、再び攻撃を繰り出す。
戦いは続いた。
●03
仲間たちが敵スナイパーを狙っている間、スウとヒルメルは前衛の二体を抑えるように動いていた。
なるべく動きを封じるよう、行動を妨害するように攻撃を繰り出す。
「掻き回してみようかねぇ」
徐々に動きの鈍ってきた相手に対し、スウが詠唱を開始した。
透明化する機雷を浮かべ、前衛の位置で鎌を振るう竜牙兵を見る。
「お前さん等の相手は俺だよ」
見えない機雷は浮遊し、竜牙兵たちへ向かっていった。
「ナニを――?」
竜牙兵が戸惑いながらあてずっぽうで鎌を振り回す。
スウは口元に笑みを浮かべ、敵の様をただ見ているようだった。
やがて十分引き付けたところを爆破する。
二体の竜牙兵を巻き込んで、爆発が広がっていった。衝撃と爆音が敵を襲う。竜牙兵たちは妨害を嫌うように鎌を振るったが、派手な噴煙をさらに拡散させるだけだった。
それでも、敵は武器を手に向かってくる。
「……やはり、ここで朽ち果てる方がお好みの様子」
引く気などないのだろう。
ヒルメルは痺れの出始めている前衛の敵を相手に、シャドウリッパーを繰り出した。素早い斬撃で敵の急所を斬り開きながらダメージを与える。
「……迷惑なほどの忠誠心には敬意を表します」
ヒルメルにも、すべてを敵にしても仕える主がいるのだ。けれど、彼らには冷たいほど共感は無い。
傷口が開き、竜牙兵が動き辛そうに距離を取った。
「九十九さんの傷は僕が回復します。そちらはお任せしてもいいですか?」
「いいわよ。まとめて回復させるわ」
雫と芍薬は確認を取り合いながら仲間の回復に務めている。
雫が浮遊する光の盾を具現化し、九十九を守るように飛ばして傷を回復させた。
芍薬は前衛の仲間の背後にカラフルな爆発を起こし、爆風を背に士気を高め回復を行う。
こうして、深い傷を負った仲間は手厚く癒し、複数人の怪我にも気を配り、二人は仲間の戦いを支えていた。
おかげで、動きの鈍る敵に対し、ケルベロスたちは軽やかに体を動かすことができている。
「そろそろ終わりだ」
そう言って、アシュヴィンは攻性植物を捕食形態に変形させた。敵スナイパーのを狙い、ぐんと植物を伸ばす。
攻性植物は竜牙兵に喰らいつき、毒を流し込んだ。
敵が苦しげに呻く。
ついに武器の大鎌が地面に落ちた。
「ク……」
もはや言葉にならない。敵スナイパーの竜牙兵が崩れ落ち、消滅した。
「片付いたようですね」
「ああ」
確認するように恵が言うと、アシュヴィンが小さく頷く。
「では、次です」
仲間たちも了解し、残る二体へと向かっていった。
恵は日本刀に雷の霊力を這わせ地面を蹴る。
一気に距離を詰め、そのまま神速の突きを繰り出した。
勢いで竜牙兵がたたらを踏む。
すぐに仲間たちが攻撃を重ねた。
仲間が抑えていた前衛の竜牙兵たちは、それぞれ動きが鈍っていると思う。
「ほら、その傷どんどん増やすぜ」
ジェノバイドは空の霊力を帯びた武器で、敵の傷口をさらに斬り広げた。
「グ、オマエタチも、ムキズでは、アルマイ」
竜牙兵は苦しげに毒づいた。
「悪いな、俺は旧式だから痛覚センサー鈍いんだよ」
それに対し、広喜は楽しそうに戦場を駆ける。
「どっちが先に壊れるか、勝負しようぜ」
そう言って、開放した腕部パーツから青い地獄の炎を噴出させ、爆発的な推力を拳に与える。見ると、先ほどから鮮やかな水色の回路が頬に光っている。
広喜は笑った。
勢いをつけて拳を突き出し、何度も敵の体を打つ。
「……」
最後に拳を振りぬくと、完全に竜牙兵の体を崩し去ったと気づいた。
●04
残る一体の竜牙兵を、さらにケルベロスたちが追い詰めていく。
竜牙兵はそれでも逃げることなく、もう何度目かのデスサイズシュートを放った。狙われたジェノバイドの前に芍薬が立ち庇う。
「助かったぜ、平気か?」
「ええ、大丈夫よ。これくらいの傷、治癒できるわ」
芍薬はジェノバイドに笑って見せた。
それから九十九を呼び、自らの傷を回復させる。
「まだ動けますか? 回復が足りないようなら、僕も」
心配そうに覗き込む雫には、手を振って大丈夫だと伝えた。確かに癒せない傷は積み重なっているけれども、まだ動けないほどではない。
「分かりました。それでは、僕は皆さんを回復させます」
雫は頷いて光輝くオウガ粒子を放出し、前衛の仲間を回復させた。
「さーて、それじゃあ最後の仕上げだぜ」
仲間の無事を確認し、ジェノバイドが敵を見据えた。
勢いをつけて高々と飛び上がったと思えば、ルーンアックスを空中で振り上げ急降下する。
「俺がいつか覇龍になった時、後悔しとけ『従える主を間違えた』ってな」
言いながら、竜牙兵の頭を勝ち割る勢いでスカルブレイカーを振るった。
言葉も無く敵が地面を転がる。
「逃がさんぞ」
アシュヴィンが転がる敵を追い、螺旋掌を放った。
いよいよ竜牙兵の体力の底が見え始める。
仲間たちが次々に攻撃を繰り出した。
「ここです」
「ほら、あと一息だぜ」
恵が月光斬で斬りつけ、広喜が旋刃脚で蹴り貫く。
「そろそろ幕に致しましょう」
そう言って、ヒルメルが爆破のスイッチを押した。抵抗するだけの力が無いのか、竜牙兵は地に伏している、
「そういう事で、いいかねぇ」
スウが仲間たちの顔を見回して意見を求めた。
誰も何も異論は無い。
分かっていたよと両手を広げ、女型の蒸気機械兵を召喚する。
「掻き回しな、ヘル」
スウが命じると、暴走ロボットは勢い良く竜牙兵に飛び掛り、すべてを斬り裂いた。
敵三体の消滅を確認し、ケルベロスたちは現場のヒールに当たる。
ふと、ヒルメルは竜牙兵の言葉を思い出す。
「……憎悪と拒絶、ですか」
永遠の命を保てたとしてこの不毛な活動の数々、それでも彼らは疑問を持つこともないのだろう。ヒルメルはそう考える。……王とはそうして狂うものであり、それ故自分は『人』に仕えているのだから、と。
さて、一般人の被害も無く事件は終わった。
ケルベロスたちはそれを確認し、それぞれの帰路に着いた。
作者:陵かなめ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年4月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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