ミッション破壊作戦～英雄の魂

■リプレイ

●降下
　宮﨑県飫肥城上空。
　頷き合ったケルベロス達が、千尋の駆るヘリオンから次々と飛び出し降下してゆく。
「自分達こそが至高の神など妄言の類を吐かれるのは、鳥頭風情だけで十分ですよ。貴方達に不滅などありはしない、それを私達が証明して差し上げましょう」
「だが、そろそろ大河に島津が来てもいい頃です。その為にもこれ以上観光地に居座られると、経済活動が差し障るだろうが……俺の儲けが減る！」
　礼服の裾をはためかせたダリル・チェスロック（傍観者・e28788）の構えたグラディウスの切先が叩き伏せる様に『それ』に接触し、眼鏡の縁を光らせた火岬・律（幽蝶・e05593）が、天障院をやったし西郷も控えているので、なかなかに難しいとは思いつつ、地域活性化の願いを込めてグラディウスを叩き付ける。
　接触した切先がスパークし、内部に稲妻が迸って木々や建物を撃ち、白煙が広がる。
「シャルルマーニュが天使から授かったと言われる『デュランダル』なんて名前は、不相応にも程があります！」
「地球は貴方達の遊び場ではありませんっ！　ボクたちの手で悪しき神からこの地を開放するであります！」
　特に聖遺物と同じ名と言う部分がシスターであるヴァルリシア・ゲルズ（シャドウエルフのウィッチドクター・e11864）の琴線に触れる様で、その怒りも込めた切先が続き、ボクスドラゴン『甲竜タングステン』の入った箱を小脇に抱えた空中要塞の如きクリームヒルト・フィムブルヴェト（輝盾の空中要塞騎士・e24545）が、それに続いてグラディウスをぶつける。
「デウスエクス、おまえたちにわたすグラビティ・チェインはない。おれに、力をかして、グラディウス……！」
「ったく、ヒトの恋人の国で勝手ばっかしてんじゃねーってんだよ、アイツが安心して眠れねェだろうが！」
　願いを込めてぶん回したグラディウスを握るエドワウ・ユールルウェン（夢路の此方・e22765）の手に、ボクスドラゴンの『メル』が手を添えると、その隣で赤み掛った金髪を揺らして叫んだウィリアム・シャーウッド（君の青い鳥・e17596）も同じ様にグラディウスを叩き付ける。
　新たなグラディウスが叩き付けられる度に迸る雷撃、その内の１発が飫肥城を撃ち、一際大きな音が響き渡る。
「……邪魔を、するな――！」
「三度目か……今度こそ決める！　貴様らは結局地球人を材料としか見ていない！　そんな物許せるかぁぁああ！」
　Fortitudoを押えたジゼル・クラウン（ルチルクォーツ・e01651）と、三度目の正直と決意を新たにする皇・絶華（影月・e04491）の持つグラディウスの切先が『それ』に触れる。
　閃光と轟音が響き、轟雷が乱れ飛び建物や木々を穿つ！　……が、割れない。
「まだ……だと言うのか……」
　白煙によって露わになるその境界を見上げ、悔しそうに唇を噛む絶華の体は、仲間を追い掛ける様に白煙の中へと降下してゆくのだった。

●遭遇
「……ここの観光復興はもう少し掛ってしまうな」
「割れませんでしたか……ですがこれも次への糧。今は疾くと退くとしましょう」
　空を見上げて吾亦紅を少し緩めた律と同じ様に、グラディウスを体に固定し、懐に忍ばせた懐中時計を確認したダリルが、シルクハットの鍔を上げると、白煙の向こうからアルテミスコートを翻したヴァルリシアが合流してくる。
「破壊できなかったのは残念ですが、白煙が晴れない内に撤退しましょう」
　２人を見つけてそう声を掛けるヴァルリシアの後ろから、
「無念であります」
　大きな盾を携えたクリームヒルトも合流してくる。先に参加した別の場所の破壊作戦でも破壊に至っておらず、続けての破壊失敗に無念さを滲ませており、箱から出た甲竜タングステンがその頭を撫でている。
「あとはエドワウくん達が……」
　ダリルがそう口を開いた時、白煙の向こうから剣戟の音が響き始めた。

「神を名乗った愚か者供め！」
　踏鳴を起こし踏み込んだ絶華の『三重臨界』が、白煙を払いながら現れたデュランダル騎士に突き入れられる。三度目となる絶華は嬉しくはないが一番対応に『慣れて』おり、現れたデュランダル騎士の機先を制したのだ。
「！　……ウィルか、畳み掛けるぞ、開け――"The Silver Key"」
　その絶華に続いたジゼルは、横合いの白煙を突っ切って現れた人影に、警戒の目を向けるが、現れたのがウィリアムと知りやや表情を緩め、
「遅れるなよ」
　緑の瞳でジゼルを一瞥したウィリアムは、耳元にCIELOを揺らしてそう微笑むと、舞い上がってデュランダル騎士に重い飛び蹴りを見舞い、その下をジゼルが召喚した銀光を発する鍵状の武器を振るって斬り抜ける。
「小賢しきケルベロス供、何度域を犯そうと崩す事叶わぬぞ！」
　そう咆え、ウィリアム目掛け剣を振り被ったデュランダル騎士の顔に、白煙の向こうから浴びせられたマシュマロホイップの様なブレス。それを追う様にオウガ粒子が放出され、ジゼルらの感覚が研ぎ澄まされる。
「人が笑ってすごせる世界をまもるのが、おれの使命、ちかい……」
　ブレスによって払われた白煙の向こうから、そのブレスを吐いたメルとくせっ毛を揺らしたエドワウが現れ、それを追う様に律やクリームヒルト者達が得物を手に合流してくる。

●争覇
「貴方達にはもう誰も虐げさせたりしません！」
　ヴァルシリアが掲げた杖から雷撃が拡散し、前衛陣の前にスパークする雷壁として展開すると、
「こっちは急いでるんでね、とっとと終わらせようぜ？」
　デュランダル騎士の振るう剣がその雷壁に阻まれた隙を突き、ウィリアムが放つ凍結光線がデュランダル騎士の脇腹を凍らせ、そこに気咬弾が爆ぜきらきらと氷の結晶が舞い散る。
「後続が来ると厄介だ。さぁ、ウィルに続いて畳み掛けるんだ」
　その気咬弾を放ったジゼルが味方を鼓舞し、呼応する様に絶華とクリームヒルトが突っ込んでゆく。
「おのれケルベロス！」
　敵意と共に不滅の刃を湛えたデュランダル騎士が、その剣を振るって律の飛ばした気咬弾を弾き、返す刀でダリルを押し返すと、その剣をフェイントに、不滅の刃を打ち消すべく拳を繰り出すウィリアムに何処からか出した黒い細槍を叩き込んだ。
「ちぃっ……やってくれる……」
　貫かれた右太腿は汚染され赤紫に変色し、その色を隠す様に鮮血が溢れてくるのを見て、舌打ちするウィリアム。
「回復を！　押すぞ、クリームヒルト！」
　後衛に声を掛けたジゼルはくるくるっとドラゴニックハンマーを回し、クリームヒルトらと共にウィリアムを庇う様に攻勢に出た。
「主よ、この矢に祝福を。御身のご加護を彼の者に……」
　その間にヴァルリシアがウィリアムに祝福の矢を放つと、エドワウも突っ込んでいくジゼルに光の盾を飛ばす。

　白煙は未だ晴れず、デュランダル騎士の後続も現れてはいないが、後続が来るのは時間の問題だった。
「からだのなかの、ちからを……ここに」
「死ねィ！」
　エドワウが詠唱を結ぶと、天に顕現した星の川から色鮮やかな小さな星が雨の如く降り注いで味方を鼓舞するが、怒声と共にデュランダル騎士の薙ぐ剛剣がヴァルリシアの構築した雷壁を砕き、クリームヒルトが構えた大盾にぶつかり大きな衝突音を響かせる。
「どうした？　大振りで隙だらけだぞ」
　その盾に止められた剛剣の側面の上を、履いた『斬狼』で滑った絶華が滑る摩擦で炎を起こしてデュランダル騎士を蹴り上げ、仰け反る様な形になったデュランダル騎士に、ウィリアムとジゼルが一撃を見舞い、箱に入ったメルがぶつかってゆく。
「ちょこまかと……」
　剣を持って無い方の腕を腰に溜めたデュランダル騎士が掌を繰り出すと、黒い細槍が、剣の上から跳び退こうとした絶華を狙って伸びる。
「くっ……」
　空中にあり回避できず、思わず両手を交差させた絶華の前で伸びて来た槍は、現れた光の盾にぶつかり、矛盾の故事が如く共に霧散してキラキラと星の瞬きを煌めかせた。
「ぎりぎりでした。次からはもうすこし、早くしないと……」
　そのマインドシールドを飛ばしたエドワウが反省を口にすると、隣で宙を舞うメルが、律の放った氷の螺旋に合わせ、ダリルの鋼の鬼の拳を剣で受けるデュランダル騎士にブレスを吐く。

　甲竜タングステンがその属性を次々とインストールして戦線を支える中、
「神に人を気遣う道理がないのと同じく、ただ神というだけで、人に神を気遣う道理もない。……大体、滅んだ神々の一族に成り代わった処で、どうなるというのだ？」
「然り然り、虚構を求め偶像を奉るのとなんら変りません。まだ己の力を頼みに成すがまま力を振るう獣の方がマシでしょう」
　理解に苦しむと眼鏡の奥から紫瞳を向けた律と、その律に頷きタイミングを合わせて跳躍したダリルが、剣を振るおうと踏み込んだデュランダル騎士に重い飛び蹴りを見舞い、眼鏡と黄硝子サングラスを押し上げながら跳び退くその下を、盾を構えて突っ込むクリームヒルト。
「これ以上、誰も傷つけさせないのであります」
　『六華氷晶ノ護リ』を纏い狙い澄ました槍の一撃が鎧の結合部を穿ち、デュランダル騎士の纏う星霊甲冑の一部が剥がれ落ち、ウィリアムとジゼル、絶華が波状攻撃を仕掛ける。
「小癪なっ……」
　それらの攻撃を受けながらも、果敢に剣を振るうデュランダル騎士。その一閃がジゼルの体を吹っ飛ばした。
「ジゼル様……」
　甲竜タングステンの属性インストールを受け、銀灰色になったクリームヒルトは、兜を上げてそちらを見るが、直ぐにヴァルリシアとエドワウの回復が飛ぶのを見て、回復は不要と判断すると、再び兜を下ろして地面を蹴る。
「……聖剣の名を持つ相手に、エクスカリバールで鉄槌という因果」
　その手に握る釘を生やしたエクスカリバールを見て、そう微笑したダリルが光の翼を広げ、そのままフルスイングでデュランダル騎士の頭に叩き付ける。
「ガハッ……これは……」
「おっと、どうかしましたか？　なるほど動けない様ですね。火岬君処方箋を差し上げて」
　ジクザグの効果が覿面に決まり、自由を阻害されるデュランダル騎士に、にこやかな笑みを浮かべ一礼したダリルがそう振り返ると、
「生憎とお金を持って無い人に差し上げる処方箋はないんだよ。代わりにこれを見るといい」
「うおっ……なぜ！」
　振られた律が見せる刀身が何かを映し出すと、急に虚空に向かって剣を振るうデュランダル騎士。
　蓄積されたダメージがある上、各種バッドステータスにその身を縛られ、見せられたトラウマを追って虚空に剣を振るうとあっては、いかなデュランダル騎士とて最早ケルベロス達の敵ではなかった。
「貴方が犯した罪に相対する時が来ました！　自分の過去に向き合ってください！」
「――Fiat lux.」
　ヴァルリシアが癒す者にして邪視の始祖たるサリエルの名の許に呼び出した鏡により、さらなるトラウマを見せ、ウィリアムの詠唱の呼応し、幾つもの白い女の腕がデュランダル騎士を捕える。
「中々に苦戦させてくれたが……之で終わりだ。我が身……唯一つの凶獣なり……四凶門……『窮奇』……開門……！　……ぐ……ガァアアアアアア！」
　狂戦士化した絶華の神速の斬撃を受け、デュランダル騎士は未だ消えぬトラウマの幻に剣を振るいながら、仰向けに倒れたのだった。

「ふぅ……手こずらせてくれたな」
「あしおとが、ちかづいてきます」
　ジゼルが大きく息を吐き額の汗を拭うが、エドワウの声に解けかけた緊張が再び走る。
「追加公演の予定はないでしょう。アンコールは無視して退きましょう」
「賛成であります」
　シルクハットを被り直したダリルの言葉に、クリームヒルトが頷く。
「野心は評価するが、くたびれ儲けだったな」
　倒れたデュランダル騎士に掛けた律の声を最後に、ケルベロス達は撤退を開始する。
　途中、３体のデュランダル騎士に追い縋られるも、最初の相手程強い個体ではなかったのか、ケルベロス達はディフェンダー陣を盾に逆撃を敢行し、怯んだ隙を突いて追撃を振り切ったのだった。

作者：刑部	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年3月31日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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