スーパー銭湯絶対にゆるさない!

作者:狐路ユッカ

●なーにがスーパーじゃい
「スーパー銭湯などと、邪道なものをぉおお!」
 うぃーん。自動ドアから律儀に入りながらも、ビルシャナは叫んだ。その背後には5人のめんどくさそうなおっさんを従えている。
「そうだそうだ! 温泉の元入れて温泉の湯とか作ってんじゃねえよ!」
「ジャグジーなんて不要! 源泉かけ流しじゃないと風呂じゃねぇ!」
 主張がまったくもって意味不明である。
「うわぁ! なんだこいつらぁあ!」
 一般人は驚き戸惑い逃げていく。残されたのはカウンターで仕事をする青年。
「ちょ、お客様、え、営業妨害ですっ……」
 震えながらカウンターの陰に隠れる青年に、ビルシャナは大声を張り上げた。
「即刻営業停止だ! 破壊してくれる!!」
「ひ、ヒイィ!」


「……スーパー銭湯許さない明王……」
 秦・祈里(豊饒祈るヘリオライダー・en0082)は、うーんと首をかしげた。
「あ、八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)さんに頼まれて調べていたんだけどね、そういうビルシャナが現れて、スーパー銭湯を襲うってわかったんだよ」
 しかし、どうしてスーパー銭湯がいけないんだろうねえ、と祈里は唸った。
「信者は5人ついててね、それぞれ、温泉が最高とか、スーパー銭湯は客に媚びすぎとか、なんかよくわかんないことをゴチャゴチャ言ってるんだよね」
 だんだん祈里も辛辣になってきたぞ。
「で、スーパー銭湯に突撃してくるところをみんなに向かってほしいんだ。到着はビルシャナたちとほぼ同時になると思うよ」
 ロビーにいる客はみんな逃げだしているから、心配なのはカウンターで働いている男性従業員二人だけだ。あとは、信者をうまいこと説得してご退場いただき、ビルシャナをやっつけてほしい、と祈里は頭を下げる。
「ええと、ビルシャナはスーパー銭湯ディスり念仏と、源泉かけ流しビームを打ってくるよ! あとは温泉に浸かる妄想をして自分を癒そうとするみたいだね」
 ロビーは売店などもついてはいるが、比較的広い休憩所になっているので戦闘に支障はなさそうだ。おかしな奴だけど、油断はしないでね、と念を押し、祈里は立ち上がった。
「それにしても、スーパー銭湯……いいなあ、僕も広いお風呂でのんびりしたいな」
 そういう憩いの場を守るのも大事だよね、と付け加えて。


参加者
藤・小梢丸(カレーの人・e02656)
ソラネ・ハクアサウロ(暴竜突撃・e03737)
エフイー・ジーグ(森羅万象身使いし機人・e08173)
スミコ・メンドーサ(グラビティ兵器技術研究所・e09975)
霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)
卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)
ヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518)
峰雪・六花(チェインドクレイン・e33170)

■リプレイ


「スーパー銭湯など滅ぼしてくれる! 皆の者! かかれぇえい!」
 ビルシャナが高らかに信者たちに命令する。おう、と彼らの声が合わさったとき、その背後の自動ドアがういーん、と開いた。
「銭湯と温泉でどちらかを認めないとか、心が狭いにもほどがあるね!」
「ぬ、ぬぁにぃ!?」
 ビルシャナが振り返った先には、エフイー・ジーグ(森羅万象身使いし機人・e08173)。やれやれ、と言うように首を振り、エフイーは続ける。
「銭湯とスーパー銭湯を比べるなら意味は通るけど、温泉と比べるなんて言語道断だね!」
 そもそもおかしくないか? 銭湯に源泉かけ流しを求めてどうするんだよ、と。
「温泉の方が良いんだもん!」
 既にビルシャナは語彙力がぶっ飛び、温泉を讃える事しかしない。信者達もそうだそうだと口々に賛同するばかり。これは、銭湯の良いところを知っていただくほかない。
「それに、スーパー銭湯も良い所は沢山あるんだよ!」
「良い所だと?」
 こくり、頷いたのは藤・小梢丸(カレーの人・e02656)だ。
「温泉が素晴らしいのは、まあわかる」
「そうだろうそうだろう」
 ビルシャナは満足げに微笑む。そのビルシャナの希望の光を、小梢丸はサラッと消した。
「でも温泉て、得てして遠い所にしかないじゃん!」
「ンンン!」
「忙しい人とかがっつり休み取らないと行けないってば」
「……わかる」
 信者の1人が顔を曇らせた。むむ、これは。
「その点、スーパー銭湯はいいよね。お手軽気軽にすぐ来れる。温泉の素いれるくらいただの営業努力だよね。それにサウナとかジャグジーとかいろんな設備が揃ってて便利じゃん。あとカレーライスが美味しいよね」
 よどみなく、小梢丸は言い切る。最後にめっちゃ力が入ってた。
「最後の関係なくね」
「カレーライスが美味しいよね」
 信者のツッコミを勢いよく遮る。大事な事だから二回言った。しかもいつのまにやらその手にはカレーを携えている。
「確かに美味しいよね」
「えっ」
 うんうん、信者は頷きながらその場を後にした。カレーの香りに絆されたか。
「おいっ、騙されるな何がいろんな施設だ!」
 源泉をかけ流していればそれでいいのだ。ビルシャナは右腕を突き上げる。霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)は屈託のない笑顔で言った。
「お風呂をいろいろな楽しみ方で楽しめるようにするのはいい事だと思いますわっ」
「よくないっ」
「もちろん温泉の良さは否定しませんの。同じようにスーパー銭湯にも良さがあるという事ですわっ」
 むむ、と信者が考え込む。良さとは何か?
「いろいろな種類があるという事は一日中違うものを楽しむという事も可能ですわね。もちろん目的のものを堪能し続けるのもありですわっ」
「む……」
 信者の1人が、やっと静かになる。ちさはそれを見て、もう一押し。
「普通の温泉と合わせて利用し続ければ一年中お風呂を楽しみそれも毎回違う楽しみが出来ますの。温泉にいろいろな種類があるように深いものになっていくと思いますわっ」
 バラエティなどいらない。そう言っていた信者の根幹から揺るがす。――温泉にだって、様々な泉質があるではないか――!
「そっかぁ、それもありかぁ」
「えっ、なしだよ!? なしじゃない!?」
 ビルシャナの声も空しく、信者は去っていく。


 そんなことをやっている間に、ヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518)は震えてる従業員を避難させる。
「家の風呂ではない広い湯船につかりたいが遠出が出来ない。そういう時に気軽に足を運べるのがスーパー銭湯の魅力だ」
 スーパー銭湯を求めている層は、温泉を求めている層と少し違うか、温泉まで行けない者なのではないか。ヒエルはビルシャナへ問う。
「知ったことか!」
 やはりビルシャナは己の主張を通そうとする。ヒエルは頭が痛くなる気がした。本当に、ビルシャナというのは何故一つのものに拘るだけでなく、それ以外のものを排除しようとするのか。
「天然温泉に比べれば割と近場にあり、家では味わえない様々な風呂に入る事が出来る」
 それこそが魅力なのではないか? そういうヒエルの言葉など、聞かぬとビルシャナは首をブンブン横に振った。スミコ・メンドーサ(グラビティ兵器技術研究所・e09975)は、腰に手を当てていつのまにやら購入していたコーヒー牛乳をぐびぐびと飲み干し、叫んだ。
「ぷはぁ! 生き返った!!」
「ぶぁ!? なんだいきなり!?」
「……お前らの間違いが今、わかったぜ。ここは温泉じゃねぇ! 銭湯さ。スーパー銭湯だからな!」
「うん!? そうだよ!?」
 動揺する信者をよそに、スミコは今度はフルーツ牛乳の蓋を引っ剥がし、再度腰に手を当てて飲み干す。
「銭湯に温泉要素を求めてんじゃねぇよ!」
 びしり、突き付けられた人差し指。
「お前らは牛丼屋でステーキがねえと駄々をこねるのか?」
 めっちゃ正論。しかし、ぶっちゃけこいつら信者今ならそれをやりかねない。後押しするようにソラネ・ハクアサウロ(暴竜突撃・e03737)は、手のひらにホログラムを展開し、事前に調べておいた資料を信者達へ見せる。
「そもそも温泉と銭湯は別物です」
「知っておる!」
 ビルシャナの叫びをスルーし、ソラネは眼鏡をくい、とあげた。
「温泉は自然から湧き出る天然のお湯、対して銭湯は公衆浴場、言ってしまえば普通のお風呂です。そして貴方たちが否定する『スーパー銭湯』は、銭湯の派生型であって温泉とは離れたもの」
 うんうん、といつのまにか信者達は頷いていた。ビルシャナは心配そうにその様子を見つめている。
「あなたたちが風情を求めるのは温泉であって、スーパー銭湯に求めるのは筋違いとも言えます。ご理解、頂けたでしょうか?」
 微笑んで小首をかしげると、
「なるほど~」
 信者の1人がふかーく頷いた。
「えっ、何がなるほどなの!? 風情求めてよくない!?」
 ビルシャナが引き止めるのもきかず、俺が間違っていたとか言いながら男は去っていく。残った信者達がなんやらぎゃいぎゃい言うのを、峰雪・六花(チェインドクレイン・e33170)は、じいっと見つめて口を開いた。
「温泉、たしかに効能色々で、いいですが、ふるいアパートだと、お風呂ないとこ、ありますし足伸ばしてゆっくり入りたいとき、あります。そういう時に……家の傍に、銭湯があるのは、大事なんじゃ……ない、でしょうか」
「源泉かけ流し以外は風呂じゃねェ!」
 そもそもの銭湯の良さを説く。それでも聞かぬ信者達に、トドメの一言を。
「源泉かけ流しじゃないと風呂じゃない……なら……家のお風呂、入れないですね」
 あ! と何かに気付いた顔をする信者。
「そもそも今の家に付いているお風呂が普及される前は、銭湯みたいな大衆浴場が主だったんだぞ~! 云わば、コレ無くして今のお風呂は無いって言っても過言じゃないね! そんな大事な歴史を蔑ろにするなんて、もうお風呂に入れなくても良いって言ってるようなものだと思うんだけど、皆はそれでも良いのかな?」
 エフイーがそう言うと、信者の女が折れた。
「やだー、お風呂は入るぅ」
 やめたやめた! 女はビルシャナの元を去って行った。それでも頑固そうなオヤジは、退かない。
「絶対! 源泉かけ流し!」
 あとはこいつだけだ。もう我慢ならんとばかりに、卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)は己の左腕を突き付けた。
「源泉かけ流ししか認めない、だと? ふざけるな、オレたちレプリカントが楽しもうと思ったら錆びるじゃねーか!!」
 ガシャ、と彼の廃材で組み上げられた左腕が音を立てる。別に温泉に入ったから錆びたわけではないのだが、確かに泉質によっては悪化することが目に見えている。
「ひょっ!?」
「何故、わざわざ錆びて苦痛を受ける設備だけの温泉を認められようか!」
 別にレプリカント皆が錆びる訳ではないが、廃品パーツがある方は確かに危ないかもわからない。
「万人に向けて開放せず、一部の連中だけを対象にした温泉がどうなったかみてみろ! 経営困難で維持費も出せず、結局温泉そのものが使用不可能になっちまって誰も得しねぇ。スーパー銭湯は客に媚びてるんじゃねぇ、本当は施設を維持していつでも楽しめるように準備してるだけなんだよ」
 ぐっと拳を握りしめた泰孝。親父は気圧され、その場を後にした。残るはビルシャナただ一人。


「貴様らぁあああ!」
 ビルシャナは半分涙目である。エフイーはそんなビルシャナへ駆け寄ると、鮮やかな回転蹴りを喰らわせた。
「さあ、一気に戦闘を片づけて、銭湯タイムと行こうかね!」
 スミコはぐん、と踏み込むと、仲間たちの攻撃の嵐の中へと紛れ込む。泰孝は、ドラゴニックハンマーを構えると、轟竜砲を撃ちだした。
「うごぁ!」
 ビルシャナは、衝撃に耐えながら、スッと指先を泰孝へ向ける。
「源泉かけ流しビィイイム!」
「錆びるってんだろうが!」
 泰孝が冷や汗をかきながらそれを避けた。
「おしおきが必要そうですわねっ!」
 彼を庇うべく前に出たちさは、なんだか硫黄臭いビームを受けてそのまま踏込み、ぐるり、と身を捻って旋刃脚を繰り出す。
「んぎゃん!」
「もらったぁあ!!!」
 隙をついて、スミコが仲間たちの陰から躍り出る。
「うわああぁ!?」
 繰り出されるは、バックスタブ。完全に死角をつかれたビルシャナは、泣きながらもんどりをうつ。
「ふ、ふおおおお!」
 精神統一。ビルシャナは手拭いを頭に乗せて、ぱぁっと光り輝いた。だが、それを黙って見過ごすケルベロス達ではない。
「ギルティラ!」
 ソラネの声に反応するように、ギルティラはビルシャナへ突っ込んでいく。直後、ソラネの胸部の発射口から強烈なエネルギー光線が放たれた。
「んんんんん!!!」
 ビルシャナはぐっと耐えきると、両手を合わせて念じはじめる。
「スーパー銭湯ぜつゆる温泉しゅきしゅき至高源泉……」
「この体はなんやかんやでカレーで出来ている」
 小梢丸の声が、ビルシャナの念仏にかぶさる。真っ向からぶつかり合う全く混じりあうことの無い世界線の謎の主張。とても激しい。カレーの香りと共に、ビルシャナはがくりと膝をついた。同じく、小梢丸も頭を抱えて蹲る。完全に主張のクロスカウンター。ヒエルが促すと、魂現拳がそのタイヤを走らせてビルシャナの足を轢き潰した。
「無事か」
 気力溜めを施しつつ、ヒエルは小梢丸に問う。カレー皿を片手に小梢丸は笑顔でその答えを返した。安心したように、ヒエルは頷く。六花は足を轢き潰されて悶絶するビルシャナの前に歩み出ると、簒奪者の鎌を勢いよく振り降ろした。
「うぐあぁぁあ!」
 スノーノイズも主の動きに呼応するように、凶器でビルシャナを殴りつける。続くようにして、エクレアが尾のリングを飛ばした。倒れ込んだビルシャナがふらりと立ち上がろうとした瞬間を、スミコが迎え撃つ。
「へ! 焼き鳥にしてやるぜ!」
 デモニックグレイブに雷を纏わせ、目にもとまらぬ速さでビルシャナを貫く。温泉への想いを馳せながら、ビルシャナはおほしさまになるのであった。


「ひゃっほーー!!」
 ヴァッシャーン。スミコが豪快に湯船へ飛び込む。すっかりヒールを終えたホール。無傷だった銭湯に是非入って行ってくださいと促され、ケルベロス達は絶賛くつろぎ中である。
「きゃっ」
 ちさは水しぶきに思わず小さな悲鳴をあげた。スミコのあれは色々マナー違反である。が、係員の視線に悪びれることもなくぱしゃぱしゃと水しぶきをたててはしゃぎ始めた。
「今日は貸し切りだしいいじゃーん!」
 広いスーパー銭湯、スミコがいる湯船には、今他のケルベロスも入っていない。ギリギリ許容範囲といったところか。ちさは柚子湯につかると、深く息を吐き出した。
「……なかなかおうちのお風呂以外は入る機会がありませんでしたけど……」
 これは気持ちいいですわねえ……。深呼吸をすれば、疲れが芯からほぐれていくようだ。
「ゆっくり、暖かいお湯に沈むと、戦いの疲れも、とれていきます……」
 六花は薬湯へ肩までつかると、目を細めた。見回せば、打たせ湯やジャグジーなども用意されており、次はどれに入ろうかと目移りしてしまう。のぼせないように、気を付けねば。そんな皆の様子を微笑ましく遠目に見て、ソラネは手拭いで頬を伝う汗を拭った。

 一方男湯でも。
「げっ、また錆が!?」
 ゆったりと湯船につかっていた泰孝がザバッと立ち上がり左腕を確認する。
(「錆び落としが大体幾らで……」)
 ブツブツ呟き、自分の腕にかかる費用を考えてがくりと肩を落とした。こっちの腕は水につけるのが怖い……。
 ヒエルは戦闘でかいた汗をシャワーで洗い流すと、薬湯へ足を浸ける。独特のヒリヒリ感が、傷口にやや染みる。効いている、気がする。
「んん~! 気持ちいい!」
 広いお風呂は最高だなぁ。エフイーは湯船の中で軽く伸びをした。
「!?」
 なんとなく、カレーの匂いがしたような? 振り返った先には小梢丸。しかしその手にカレーはない。なんかお口をもぐもぐさせているような気はするが、その真実を問うのは空恐ろしかった。
「……?」
「スーパー銭湯、良いよね」
 小梢丸はにっこりと笑んだ。風呂上りには食堂に美味しいカレーも待っている。至高の文化、スーパー銭湯を守り抜けたことに確かな手ごたえを感じながら、ケルベロス達は各々戦いの疲れを癒すのであった。

作者:狐路ユッカ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 5
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