ミッション破壊作戦～植物の蝕む地へ……

■リプレイ

●攻性植物の繁茂を阻め！
　空を行くヘリオン内には、今回の作戦に臨むケルベロス達の姿がある。
「さて、今回で壊せますかね」
「今回は、今回こそは……」
　中性的な顔立ちの鏡月・空（蒼い三日月・e04902）がクールに語ったのに対し、前回のこのミッション破壊作戦に参加していた湯島・美緒（サキュバスのミュージックファイター・e06659）が小声で意気込んでいる。
　目指すは、山形県と宮城県に跨る蔵王連峰だ。
「俺、御釜とか不動の滝とか樹氷とか、調べてきたんスよ」
　窓の外、自分達の真下に蔵王の山々が連なっているのを、上里・藤（レッドデータ・e27726）は眺める。
　藤は幼少から病弱で、ほとんど旅行などしたことがなかった。写真やテレビで目にはすれど、雄大な自然を実際に目の当たりにして圧倒されてしまったのだろう。彼は本心からこう言葉を漏らす。
「すごいところですね、蔵王」
「……まだ、結構雪も残ってる。攻性植物に季節は関係無いって事ですかね」
　筐・恭志郎（白鞘・e19690）も山々を見下ろし、所々に白いものを確認して呟く。
「スキーいけなくなるのは辛いんだよねぇ。ボク個人だけじゃなくてスキー好きの皆さんが」
　こちらも中性的な顔立ちをした、日影野・燦（這い寄るコールタール・e32883）。微笑を浮かべる彼はキツネも好きなのだと語った。
「……雪が溶けて春らしくなる前に、此処を解放したいです」
　暖かくなれば、桃の花に、あたり一面に水仙の花が咲くと恭志郎は言う。
「……蔵王の春の景色は、とても綺麗だそうですから」
「そッスか……」
　話を聞いた燦は、それもまた自身の目で見てみたいと語る。
　だが、この一点を包むバリアの中にある魔空回廊、そして、その付近にいる攻性植物を倒さねば、叶わぬ話だ。
「攻性植物さんがないてるにゃ……」
　ミルディア・ディスティン（猪突猛進暴走娘・e04328）はダブルで装備するほどに攻性植物が大好きなのだが、それだけに何か感じるものがあるのかもしれない。
「意思があるのかさえ、わからない強敵ですけれど」
　芥川・辰乃（終われない物語・e00816）がそう言いかけたタイミング。現場上空到着のアナウンスがあり、皆、出発の準備を整える。
「此方には押し通したい意思があります。行きましょう」
　辰乃はそう告げ、仲間と共にヘリオンから降下していく……。

●想いを込めて……！
　降下するケルベロス達の真下には、魔空回廊を包むバリアが展開されている。
「砕けろ！！　魔空回廊！！」
　そこへ真っ先に飛び込んだのは、空だ。
「生憎、攻性植物の糧になるだけなどというお人好しさは持ってない！！」
　叫ぶ空がバリアにグラディウスを突き立てた後、柄の先端へと彼は拳を打ち込む。
　その一撃で、バリアに亀裂が走り、ガラスが割れるような音と共に消滅した。
　ただ、空のグラディウスはなおも進み、その先にある魔空回廊へと突き刺さる。
　そこに、美緒が降下してきた。
「前回はダメだった、だけど」
　１回でダメなら２回。１０回でダメなら１１回。１００でダメなら１０１回やるだけのこと。ケルベロスは皆、やると決めたならそう考えるはずだ。
「だから、この回廊もみんなで必ず壊します！」
　美緒の手にするグラディウスも突き刺さるが、未だ魔空回廊に変化は見られない。
　ケルベロスの攻撃は続く。恭志郎とミルディアがグラディウスを振り上げる。
「攻性植物の事件には、多く関わってきました」
　恭志郎がこれまで見てきた事件。それは……。
　丹精込めた畑を奪われた人達。
　大切に育てた花に襲われてしまった人。
　家族と年月を共にした思い出の木に囚われてしまった人。
　そして……寄生され、存在すら奪われてしまった人。
　自然に囲まれた田舎の農家で育った恭志郎は、いくつもの悲しい事件を目の当たりにしてきた。ここで攻性植物をのさばらせておけば、犠牲は増える一方だ。
「だから、この地を取り戻します！」
　少しでも、この先の犠牲を減らす為、犠牲になった人に報いる為、恭志郎は刃を振り下ろす。
「植物さん達をそんなことに使うにゃ！」
　一方で、攻性植物を愛らしさすら覚えるミルディア。あまり関連事件に参加しないのは、攻性植物を敵に回したくないという願望があるからかもしれない。
「触手なんて可愛らしいし。こんなきもちい……いや愛らしい子を侵攻に使うって、なんか可愛そうだよ」
　ミルディアは自らの哀れみの念をグラディウスに込め、魔空回廊を突き刺した。
　そして、この蔵王連峰の光景について、３人が率直な気持ちをぶつけていく。
「貴方達も一つの命なのでしょう」
　普段は、古書の店主をしている辰乃。彼女はこの場の攻性植物達に呼びかける。……この星に生きる命を、限りある命を使って、花を咲かせる姿を守りたいと。
　降下中に見た、美しい山嶺。それらを維持すべく尽力してきた人々の営みを、決して無為にはしない。
「現実に、こんな景色があるなんて思わなかった」
　藤は実際にこの蔵王連峰を目の当たりにするまで、絶景なんていわれても全然ピンと来なかった。
　しかし、こうして実際に見ると、確かに絶景以外の言葉では言い表せない。藤は本当にそう思った。
「でも、この景色、もうケルベロスしか見れないんですね」
　なぜなら、この地は攻性植物によって侵略されており、一般人が近づくことすら出来ないから。……そのままで良い訳がない。
「この辺に連なる山の頂上から見る景色は、素晴らしいって登山客にも有名みたい」
　降下する東名阪・綿菓子（怨憎会苦・e00417）は、聞いた話をクールに語る。
　山道を汗水流して頑張って登って……なんとか辿り着いた山頂からは、晴れた日なら緑に覆われた地平線まで拝める。それは、疲れすら一瞬で吹き飛ぶほどの体験なのだとか。
　そんな素敵な眺めを、デウスエクスが独り占めってのは、癪に障ると綿菓子は感じている。
「だからこそ……、魔空回廊はぶっ壊す！」
　徐々に、素に戻る彼女は、感情を込めて叫び出していた。
　次の瞬間、辰乃と藤、綿菓子が同時に叫ぶ。
「ケルベロスだからではなく、先人が抱きしその原風景を前に、一つの命、一人の読者として……！」
「蔵王連峰を返してもらうぞ、攻性植物。ここから、退けッ！」
「蔵王連峰の美しい眺望を、攻性植物から取り戻すわよ！！」
　３人のグラディウスが同時に魔空回廊へと突き刺さる。
　魔空回廊が小刻みに震えているようにも見えるのは、気のせいではないだろう。その存在が不安定になりつつあるのかもしれない。
　そこに、燦もまた飛び込んでくる。
「ずかずか入ってきて環境を破壊して、それで自分たちの良いように再構築か」
　環境を守るなんて、大それたことは言わない。ただ、攻性植物は人どころか動物とも、植物とも共存できないような連中だ。
　目の前のミッションを破壊するのに、感情をむき出すのがよいのであれば、躊躇などする必要がないと燦は考える。
「お前らからこの地を守る為だったら、この力、全部くれてやる！！」
　その場の環境すらもなかったかのように、攻性植物が全てを食らいつくしていくのを、彼は幾度も目にしてきている。
「ここをあそこの様になんかさせない！！　お前らの思う通りになんかさせて……たまるか！！」
　ここを、大阪城のようにはさせない。燦は想いをグラディウスへと込め、魔空回廊へと深く、深く、突き出す……！
　ケルベロス達の想いは強い力となって。メンバー達の突き立てたグラディウスが一層眩い光を放ち、七色の光と共に大きな爆炎を起こす。
　この魔空回廊は、大阪城地下に繋がっていたはず。しかし、今の衝撃で魔空回廊にヒビが入り始め、そして……弾けた。
　それを目にするケルベロス達の反応は様々だが、皆、喜んでいたのには間違いない。
「ほら、敵が来るわよ」
　そっけなく仲間に告げる綿菓子。涼しげな表情をする彼女も、内心では万歳三唱すらしたい気分だったりする。
　確かに、目的は達成したが、ここで敵にグラディウスを奪われては喜びも半減しようというもの。綿菓子はすぐに、ミッションに挑むケルベロスの集まる方角を確認する。
　この後の敵に備え、前に立つメンバー達は手にするグラディウスを、回復役となる辰乃へと渡す。彼女はすぐ、それらをアイテムポケットへと仕舞っていたようだ。
　立ち込めるスモークの中、現れた巨大攻性植物は禍々しい花を咲かせ、たくさんの蔓触手が集まっていた。
　ヒドラプラント。蔵王連峰に居つくこのデウスエクスは、攻性植物に都合の良い環境を作り出そうと活動している。
　シャアアアアァァァッ……。
　魔空回廊を失ったことで、そいつは明らかに怒り狂っていた。
「命を前に山に芝刈りとは、少々冗談が過ぎるところですが」
　現れる敵に対するべくメンバー達が前に出る中、辰乃はボクスドラゴンの棗を前線へと送り出し、後方で身構える。
「刈らせていただきます……！」
　ケルベロス達は障害となる攻性植物の討伐に、当たり始めるのだった。

●合成植獣ヒドラプラント
　禍々しい花を咲かせる攻性植物、ヒドラプラント。
　そいつに向けて、最初に地面に降り立った空が跳躍し、燃え上がる魔靴「エンドオブアルカディア」で蹴りかかる。
　さらに美緒が呼び出す御業の力で敵の体を鷲掴みにするが、ヒドラプラントは上部の花から怪しげな花粉を飛ばす。
　広範囲に飛ぶ花粉。仲間の前に飛び出した恭志郎がそれを受け止めた。体を侵す毒が体力を奪い去っていくものの、彼はぐっと堪える。
「これは、前に進む為の――」
　そして、恭志郎は体内部の地獄を燃え上がらせ、それを同列に立つ仲間達の武器へと与える。
「相手が植物なら、おあつらえ向きね！　この死神のクワで……耕してあげるわ！！」
　同じく、前に出ていた綿菓子。彼女が投げ飛ばすのは、死神農夫から奪った鍬だ。恭志郎の力で陽炎のような揺らめきを宿した大鍬は狙い違わず敵に命中し、触手を幾本か切り払った。
「生きる力を、生きる希望を、蝕ませはしません」
　仲間が倒れぬように、凛々しく構えを取る辰乃は指輪を光らせて光の盾を展開させていく。
「あたしは打撃系が得意なんだけど、植物さん相手だとそれじゃ厳しいかな？」
　ミルディアも相手を敵と割り切ったのか、斬撃でなくても大丈夫かと考えつつも、近づく敵を自慢の触手１号くんの体を縛り付けていく。
　そこで、真上から、藤が流星の蹴りを食わせる。その衝撃で動きを刹那鈍らせた攻性植物へ、燦が呼びかけた。
「ま、キミという個体に全部あたっても仕方ないけどさ、『土下座してよ』」
　詠唱により発動するグラビティ。それは、攻性植物の上部、花に対して強烈な重力をかける。
　キシャアアアアァァッ！
　頭をもたげそうになる圧力に耐える、ヒドラプラント。
　だが、敵の活動は止まらない。ケルベロス達に迫る攻性植物はなおも、牙触手を伸ばして襲い来るのである。

　ケルベロス達の布陣は、かなり前のめりな形だ。
　それだけに攻勢を強めてヒドラプラントを撃破しようというものだが、敵も魔空回廊を失ったことで、なりふり舞わず攻撃を行う。
　今だ残るスモークの中で毒花粉を放出し、弱った敵を牙触手で被りつき、養分を吸い取るのがこいつの戦法。それぞれの攻撃は単純にも見えるが、威力はそこらで戦う攻性植物とは桁違いだ。
　それを、綿菓子、恭志郎がカバーし、仲間への被害を食い止める。恭志郎は時折深く呼吸を整え、仲間の与えた傷を重ねるように淡く柔らかな光を纏う護身刀「白綴」の刃を滑らせた。
　なおも動きの鈍らぬ敵へ、燦が砲撃形態とした金槌から竜砲弾を放つ。
（「諦めるものか」）
　いくら敵が攻めてこようとも、燦はしつこくグラビティを繰り出す。
「この距離なら……いきますよ！」
　普段、歌うことも多い美緒だが、今回は御業をメインに戦っていた。歌っていない分、敵に迫った美緒はバイオレンスギターを速弾きしてみせ、巻き起こる衝撃波を攻性植物へと浴びせかけていく。
　見れば、ヒドラプラントの体の端々が枯れかけてきている。体内のグラビティ・チェインが不足してきているのだろう。
　敵は自身の足元の土壌を自らに適したものとすることで養分を得て、体力の急速な回復を図っていた。
「おいたする子は……わかってるよね？」
　問いかけるミルディアが攻め入る。全力全開で彼女が発する獣のオーラ。それが攻性植物のトラウマを引き起こす。
　回復に回っていた辰乃も、ここぞと攻勢に出る。
「生命の輝きとは、奪うものではなく……畢竟、自分達で磨いていく他ないものですから」
　なおも地面から養分を奪おうとする敵へ、彼女は重力を宿す蹴りをもって自らの言葉を叩き込む。
　藤もまた敵の攻撃は一旦来ないと察し、強く踏み込む。体力の回復も兼ねて藤は大鎌を操り、虚の力を纏った刃で生命力を奪い去る。
　シャアアァァッ……。
　明らかに弱まる敵の鳴き声。トドメと空が回転しながら切り込む。
「捉えて離さない！！」
　空は竜巻を巻き起こし、錐揉み上昇しながら斬霊蒼刀「鬼炎」で攻性植物の体をズタズタに引き裂く。
　ある程度斬りつけた空は刀を真下に振り下ろしつつ、敵と共に地面へと落下し、敵の体を地面へと叩きつける。
　それでも、しぶとく触手を動かすヒドラプラントへ、綿菓子がテンション高く躍りかかって行く。
「五蘊盛苦！」
　それは、邪剣の名を冠した闘技の一種。敵の懐に潜り込んだ彼女は、手にする大鍬で連撃を叩き込んでいく。
　シャァ……ァ……。
　体液やグラビティ・チェインを撒き散らすヒドラプラント。
　ついに力を使い果たしたのかそいつは急速に枯れ果て、風に吹かれていずこかに飛んで行ったのだった。

●歓喜の中の離脱
　ヒドラプラントを倒した一行。
　このまま、蔵王連峰の美しい山々を眺めていたいところだが、今はまだその時ではない。
　周囲のスモークが徐々に晴れ、周りの攻性植物が活動を再開し始めていたからだ。
　辰乃は皆から預かったグラディウスを抱え、綿菓子の確認していた場所へと走り出す。
　そこには、ミッションに臨むケルベロス達の姿がいた。恭志郎、美緒は彼らに助力を求めつつ、この場から離脱していく。
　スモークはかなり薄れ、視界がくっきりとしてきた。
「あまり長居すると危険だし……！」
　ミルディアは大事なグラディウスを抱えたままだ。迫り来る植物へと魔力を込めた咆哮を発し、彼女はすぐにそこから背を向けた。
　メンバー達はそこで、魔空回廊の破壊を伝える。しばしの間、ケルベロス達の中から、歓喜の声が上がっていたのだった。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年3月27日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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