長野県飯田市にある、信州の奥座敷とも言われる秘境・遠山郷。
夜も更け、闇に閉ざされ静寂に包まれているこの場所も、数ヶ月前は戦場と化していた。
「……戦いの残り香を感じるわ。ケルベロスとデウスエクスが結んだ縁。彼女は死の間際、何を想って殺されたのかしら」
真夜中に誰も訪れる筈のないこの場所に、白い翼を生やしたシスター服の女性が、忽然と姿を現した。
そして彼女の背後には、半透明の怪魚達が付き従うように虚空を漂っている。
人に寄生した攻性植物が、復讐心を取り込み利用する。ならばそれを更に利用するのも、また一興だと――女性の口元が僅かに吊り上がり、愉悦を孕んだ笑みを零した。
「……折角だから、彼女を回収して下さらない? 何だか素敵なことになりそうですもの」
呟くように言葉を紡ぎ、従えたる怪魚達にそれだけ命じると、シスター服の死神は再び闇の中へと消えて行く。
彼女のいた場所には白い羽根だけが空に舞い、その後をなぞるように怪魚達が浮遊する。
闇夜に描かれた蒼の魔法陣から生まれ出づるモノ。脈打つように地上へ堕とされた異形。
それは――白磁の肌に、毒香漂う魔性の花を咲かせた女性の姿。
人に寄生し、人間社会への侵略を試みた攻性植物の成れの果て。
『彼女』は今ここに新たな生を授かり、再び人々に恐怖を齎さんと動き出したのだ――。
長野県の山中において、女性型の死神の活動が確認される。
修道女姿のその死神こそが、今も尚暗躍を続ける『因縁を喰らうネクロム』に相違ない。
ヘリポートに集まったケルベロス達に向かって、玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)が予知した事件について説明をする。
「ネクロムは以前に倒した攻性植物をサルベージして、戦力に加えるつもりらしいんだ」
今回ネクロムが現れたという場所は、寄生型攻性植物による事件が発生した地でもある。
「……死神のヤロー。アイツにまで手を出すたァ……絶対に許せねーゼ」
そこで戦った攻性植物には因縁がある。除・神月(猛拳・e16846)は怒りに震えながら、拳を強く握り締めていた。
彼女が憤慨するのは尤もだと、シュリは意を汲み取るように小さく頷く。
攻性植物に命を弄ばれた、モンクスフードと呼ばれた女性。漸く安らかな死を迎えられた筈なのに。このような形で、今度は死神にその魂を利用されてしまう。
彼女が死神の戦力として増強されるのを、黙って見過ごすわけにはいかない。その為急いで現場に向かい、敵の作戦を阻止する必要がある。
「死神の力を注がれて変異強化したモンクスフードは、知性を失っている状態で、意思の疎通を図るのは無理だと思った方がいいよ」
どのような言葉で会話を試みようと、彼女の心にその声は届かない。何とも遣り切れない思いだが、彼女を倒して死神達の思惑から解放することが、一番の救いとなるだろう。
敵の戦闘能力は、全てにおいて攻撃を受けた者に毒を齎す。宿る食虫植物が牙を剥いて喰らい付き、時には彼女自身が鋭利な爪を伸ばして斬り裂こうとする。更には生やしたトリカブトの花から、身体を蝕む花粉を振り撒いてくる。
後は彼女に付き従う三体の怪魚型死神もまた、積極的に攻撃を仕掛けてくる。
一度目は攻性植物に取り込まれ、死した後も死神に望まぬ生を与えられ、魂なき空虚な器として利用されてしまう。
「……死者がデウスエクスの都合で弄ばれるのは、命を踏み躙る行為に他なりません」
一通りの説明を聞き終えて、マリステラ・セレーネ(蒼星のヴァルキュリア・en0180)が語気を強めて憤りを滲ませる。
命落とした者への魂の尊厳など微塵もなくて、物同然のように扱う彼等の価値観が、ヴァルキュリアの少女には堪らなく許せなかった。
――再び決着を付けるべく、ヘリオンが因縁の地である戦場へと飛び立っていく。
どうか今度こそ、彼女の魂を安らかに眠らせてあげてほしい――そう願いを込めながら、シュリはケルベロス達に全てを託した。
参加者 | |
---|---|
エンリ・ヴァージュラ(スカイアイズ・e00571) |
月海・汐音(紅心サクシード・e01276) |
アイリス・フィリス(ガーディアンシールド・e02148) |
リコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164) |
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983) |
ジルカ・ゼルカ(ショコラブルース・e14673) |
除・神月(猛拳・e16846) |
マシャ・アゲインスト(鎖焔の風・e18986) |
●望まぬ邂逅
深い闇に閉ざされた遠山郷の奥深く。この地に訪れるのも、今回で何度目になるだろう。
嘗て寄生型攻性植物が侵略を目論み事件を起こすも、ケルベロス達の活躍によって一通り解決した筈だった。
一度は死を迎え、深い眠りに落ちた異形の存在が、死神の手により再びこの地に蘇る。
「死神というのは本当に……倒しても、こう何度もサルベージされちゃ切りがないですね」
使者を復活させて戦力に加える死神達のやり方に、アイリス・フィリス(ガーディアンシールド・e02148)はいい加減食傷気味だと、半ば呆れるように吐き捨てる。
「詳細については分からないけれど……作戦に参加する以上、私は私の仕事をするだけよ」
相手にどのような謂れがあろうとも、あくまで一人のケルベロスとして対処するだけと。月海・汐音(紅心サクシード・e01276)が発する言葉は淡々としながらも、因縁ある者への助力になろうと、強い決意を滲ませる。
「死神も色々サルベージしているらしいが、今回はまた厄介な奴を蘇らせちまったもんだ」
山道に生い茂る草木を掻き分けながら、マシャ・アゲインスト(鎖焔の風・e18986)が嘆息混じりに呟きを漏らす。
進む道行きを、空から月の光が煌々と照らし出す。その先に蠢くモノを視界に捉えると、彼等はそれぞれに武器を手にして身構える。
「久しぶりじゃねーカ。しかしお前もよくよく利用されちまうよナ。……今あたしの目の前にいるのは『お前』なのカ? それとも……」
除・神月(猛拳・e16846)の双眸に映り込む影は、彼女がよく見知った姿であった。それは白磁の肌を露わにした女性。その身に紫色の毒花を纏い、溢れんばかりの殺意を全身から漲らせている。
モンクスフード――トリカブトの攻性植物と同化した彼女のことを、ケルベロス達はそう呼んだ。
一度倒した時に彼女が吐いた最後の言葉を思い出し、神月の口元が僅かに上擦った。
「また、ここに来ることになりましたか。それに……サルベージされたとはいえ、こうして再び戦うことになるとは」
リコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164)は神月と共に以前もこの地で戦った。その彼女にとってもここは懐かしき場所だが、決して望ましい形での再訪ではない。
仲間を求めて人々を取り込んでいた攻性植物が、漸く巡り会えた仲間というのが死神だった。現実は余りに非情で滑稽で、思わず憐憫の眼差しを向けてしまう程だ。
「眠りに就く者を無理やり引き起こし、望まぬ戦いを強いる……死神の所業、許せません」
常世に落ちた魂すらも弄ぶ。死神達の非道な所業に、フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)が敵への憤りを口にして。蒼玉色の槍を握り締める手に力を込める。
フローネが見つめる視線の先には、青白い光が虚空に揺らめく。そこに浮かぶのは半透明の怪魚達。『彼女』を冥府の底から呼び醒ました死神が、生者の気配を嗅ぎ付け牙を剥く。
「もう、誰の声もきこえない、何も感じない、か……ソレって、寂しいね」
理性も感情もなく、死神達に操られるだけの傀儡と化した哀れな存在。ジルカ・ゼルカ(ショコラブルース・e14673)の中性的な容姿が憂いを帯びて、華奢な体躯が闇夜に溶け込むようにふわりと跳ねる。
「寂しいって――痛いんだよね。ああ、でも……ソレすらも、感じられないんだっけ」
宙に舞うジルカの身体は月に照らされ煌めいて、閃光の如き飛び蹴りを怪魚型死神に炸裂させる。この一撃が開戦の合図となって、戦いの幕が切って落とされる。
「さぁ……行くよ、クルル」
エンリ・ヴァージュラ(スカイアイズ・e00571)が赤い翼を翻し、従えたるボクスドラゴンと共に行動に出る。
風を受けながら大地を蹴って疾走し、炎を纏った脚で撓るような蹴りを死神に放つ。更にクルルがエンリに続いて追撃し、滑空するかのように突撃して両脚で蹴り飛ばす。
モンクスフードはケルベロス達の様子を、生気のない虚ろな瞳で凝視する。命ある者を、自分と同じ死の世界へ引き摺り込もうと――渇望を満たさんとすべく襲い掛かってくる。
●生を貪るモノ達
モンクスフードの身体に絡み付く食虫植物が、口を開いて涎を滴らせて迫り来る。その禍々しい色の唾液は毒である。敵は喰らい付いた対象を、毒塗れにするつもりのようだ。
「ふん、上等じゃねえか。あんたの相手は、俺がしてやるぜ」
そこに一つの影が躍り出る。マシャが威勢よく啖呵を切りながら、盾役として食虫植物の毒牙を一身に受ける。唾液を浴びたマシャの身体は、毒に冒され生命力を奪われてしまう。
敵の一番の脅威は毒にある。徐々に体力を削られてしまう展開になれば、やがて回復が追い付かなくなって不利になる。だからこそ、この戦いは回復を担う者達の支えが特に重要になってくる。
「カーネル! マシャさんを回復させて!」
自身に仕えるテレビウムに向かって、アイリスが指示を出す。するとテレビウムの顔から光が放たれ、マシャの体内に侵食した毒を浄化させていく。
片やアイリスは、黒き竜の翼を大きく広げて、疾風の如く特攻して敵の動きを掻き乱す。
「あの毒は危険ですからね。早めに治しましょう」
敵の毒攻撃に対しては、癒し手に回ったマリステラ・セレーネ(蒼星のヴァルキュリア・en0180)も、治癒術を用いて対応に当たる。
「ええ、後手に回ることになっては大変ですからね。紙兵達よ、みんなを守って……!」
毒に対抗する為に、フローネが紙兵の群れを飛ばして壁を構築していく。この技は、恩人から受け継いだものの一つである巫術。フローネは中衛から仲間を支える盾として、持てる力を駆使するのであった。
「アレは所詮、心を亡くした入れ物にしか過ぎませんから。でも何よりも許すまじきは、この死神共ですけれど」
意思を持たない屍を都合のいいように操る死神に、リコリスは平静を装ってはいるものの、胸に灯る炎は大きく揺らめいている。その思いを発散するかのように、リコリスの全身から光の粒子が散布され、仲間の闘争心を奮い立たせる。
ケルベロス達はモンクスフードへの対策に備える一方で、死神への対処も怠らない。
「その力……頂いていくわ」
汐音が手にした巨大な魔鎌が、包帯で隠した両腕の魔術回路と共鳴するように唸り出す。汐音は鎌を大きく振り被り、死神目掛けて投擲すると。旋回する刃は死神を容赦なく斬り刻み、歓喜の声を上げるように血肉を啜り喰らう。
衰弱状態にある死神に、ジルカが不意に手を差し伸べる。しかしその手には、朧気に霞んで見える幻影の大鎌が握られていた。
「俺の毒も――綺麗だから、食べてみて」
ベニトアイトの煌き宿した刃を掲げて、鼓動を止めんとジルカが力を込めて振り下ろす。蒼く煌めく一閃は、視る者を夢の世界に誘うように美しく。しかし次の瞬間、それは忌むべき死の悪夢へと変貌し――死神の息の根を止め、命の刻を終わらせる。
まずは最初の一体を撃破して、ケルベロス達の士気が一層高まる。生じた僅かな綻びを見逃さず、番犬達はこの機に乗じて余勢を駆って攻め立てる。
「あたしらの因縁ハ、あたしらだけのもんダ。横から死神なんかに手出しされんも、癪じゃねーカ」
こちらはモンクスフードの注意を引き付けるべく、神月が足止め役を買って出る。月明かりを浴びる彼女の心は高揚し、抑え切れない程の衝動に駆り立てられていた。
獣の如く素早い動作から繰り出す蹴りは、目にも止まらぬ速さで刃の如く大気を裂いて、モンクスフードの脾腹を鋭く抉る。
肉体を傷付けられても、モンクスフードは痛がる素振りを見せることなく。お返しとでも言わんばかりに、鋭利な毒の爪を伸ばして神月に斬りかかろうとする。
「そうはさせないよ!」
その時――咄嗟にエンリが割り込んで、身を挺してモンクスフードの毒爪を受け止める。しかし爪はエンリの身体に深く食い込み、毒が彼女を蝕んでいく。
苦悶の表情を浮かべるエンリ。クルルは主たる少女を救うべく、自身の魔力を注いで毒を中和し取り除く。
死神達もただ黙ってやられるわけではない。生者の命を喰らうべく、獰猛な顎門で番犬達を噛み砕こうとする。
「おっと、こいつは俺に任せな」
今度はマシャが守りに入って、身体を張って死神の攻撃を防ぐ。敵が命を吸い取るのなら、こちらも奪うだけだと惨殺ナイフを携えて。返す刀で怪魚を斬り裂き、闇夜に鮮やかな血飛沫が舞う。
「黒き決別、死を齎す槍と為れ――貫きなさい、黒槍!」
汐音の全身から魔力が溢れ、羽織った外套が霊圧で靡く。集束された魔力が漆黒の槍を生成し、汐音は刃を怪魚の脳天目掛けて突き立てる。真一文字に貫く槍は――死神の生を葬り墓標の如く死を刻み込む。
残った最後の死神も一気に倒そうと、ケルベロス達が火力を集中させる。
アイリスが脚に力を込めて高く跳躍し、加速を増して重力を乗せた蹴りを死神に捻じ込み、動きを鈍らせる。
「リコリスさん、今だよ!」
死神の体勢を崩して隙は作った。後は勝手知ったる仲間に託すだけだと、アイリスは声を送って最後の仕上げを促した。
「――原初の悪夢を此処に。塵よ、屑よ、夢見て妬みて、果てを目指せ」
呪文を唱えるリコリスに呼び寄せられるかのように、この地に放置された廃棄物が集まってくる。それらはやがて九つ頭の鋼鉄龍と成り、のた打ち回る怪魚に狙いを定める。
「群れ成せ、型成せ、永劫なる夢見の果てに悪夢と成り果てよ――」
リコリスから紡がれる言霊の意のままに。鋼鉄龍の口から地獄の業火が噴射され、瀕死の死神を瞬く間に呑み込んで。魂までも灼き尽くし、跡形を微塵も残さず消し飛ばす。
これで全ての死神を撃破して、後はモンクスフードに――永遠の死を与えるのみだ。
●ただ還る場所へと
彼女を眠りから掘り起こしたモノ達はもはやいない。またもや孤独となった彼女の魂は、寄る辺もなく出口の見えない闇を彷徨い続ける。
「誰にも邪魔しちゃいけないことって、あると思うんだ。もう、誰のところにも戻れない生なんて……俺だって、欲しくないもん」
ジルカが切なく消え入りそうな声で呟いて。桃色の瞳に映る紫紺の花を摘み取るように、モンクスフードの身体を守るように巻き付く蔓草の群れを刈っていく。
妖艶に狂い咲く毒の花。その力の根源となる復讐心も、植え付けられただけの紛い物でしかなくて。今はただ生きとし生ける者を妬むかのように、手当たり次第に力を振り翳す。
この世で最も毒性が高いとされるトリカブトの花粉が、風に流れるように空気を漂い、霧のように番犬達の周囲に立ち込める。
彼女の執念すら感じさせる毒香がケルベロス達を苛ます。その苦しみから解放しようと、ウイングキャットのペコラが励ますように翼を羽ばたかせ、清浄なる風を送り届けて澱んだ瘴気を消し祓う。
「たまにはリラックスも必要だよ」
エンリが瞑目しながら念じると、どこからともなく優しい風が巻き起こる。まるで春の陽射しのように温かく、煌めくような風に運ばれて。薫る花の香が癒しの世界に導いていく。
そしてマリステラもまた、癒しの雨を降らせて仲間を穢す毒を浄化させていく。
「そろそろ終わらせてあげるわよ。あなたの、その偽りの歪んだ生を」
汐音が赤い瞳でモンクスフードの姿を見据え、魔術回路の紋様が刻まれた短剣を振るう。舞い踊るように刃を走らせ、汐音の華麗な剣技が軌跡を描き、首筋狙って斬り付ける。
「鎖ってもんは自分のしがらみだ。あんたの魂を縛り付けるモノから、さっさと解き放ってやるぜ」
マシャがグラビティで創り上げた鎖をモンクスフードに絡み付かせて拘束し、大きな鍵で施錠することで敵の動きを抑え込む。
「生きるのはもう十分でしょう。一刻も早く、楽にしてあげますよ」
リコリスの手に握られているのは、歯車を連結させた刃のない剣だ。剣を振り上げると歯車が激しく回転し、けたたましく咆哮しながらモンクスフードの白い体躯を斬り抉る。
「雪原を縦横無尽に奔る皇帝よ! 我が声に応え顕れ給へ!」
仰々しく召喚術を詠唱するアイリスの下に顕れたのは、冷気を纏った可愛らしいペンギンだった。ペンギンはアイリスの願いに応じるように、二門の砲台へと変化して。氷の波動が轟音と共に発射され、孤毒の花を凍り付かせる。
「二度と利用などされぬように眠りなさい! 炎を一点に込めて……燃え盛れ『灼熱』!」
半透明の『御業』が炎に変わり、フローネの腕に纏って渦を巻く。『盾』に頼るだけでなく、ココロと絆によって生み出された新たなる力。
フローネの想いを込めた熱く焼け付くような掌底が、モンクスフードの胸元に叩き込まれると。アイリスの氷とは対照的な紅蓮の炎が敵を包んで、逃れられない死の淵へと追い詰めていく。
ケルベロス達の畳み掛けるような猛攻によって、モンクスフードは手負いの状態だ。この一連の戦いに、彼女との因縁に決着を付けようと――神月が残った全ての力を注ぎ込む。
「……未練があるってんなら、何度でも相手になってやるからヨ。だが今日のところは、こいつでお終いダ」
全身から滾る闘気を練り上げ、極限まで凝縮させた蜜色の光球が両手の中で輝いている。神月は掌を翳して、満月にも似た気の塊を撃ち込むと。モンクスフードの存在を形成している肉体が、まるで花が萎れるように朽ちていく。
偽りの生の終わりを告げるかのように、紫色の花弁が舞って散り。モンクスフードの姿は幻のように掻き消えて、永久の眠りの中に堕ちていく。
――もう二度と呼び醒まされることのない、深淵の闇の底へと。
戦いを終えて静けさを取り戻した戦場で、ジルカは物思いに耽りながら佇んでいた。
もう咲かなくていいんだよ――そう心の中で囁いて、死を悼むように冥福を祈った。
今度こそ安らかに眠れるように。フローネも両手を組みながら、永遠の安寧を願う。
エンリが空を見上げると、この地に訪れた時よりも、月は高く昇っていた。
暫し見惚れるように月を眺めていると、穏やかな春の風が吹き抜けて、三つ編みに結った赤い髪を優しく撫でていく。
少女は瞳を閉じながら、風を感じて想いを乗せて。魂が迷わぬように祈りを捧げる。
唇から小さく零れる手向けの言葉。
こうしてお別れを告げられるのは、2回目になるのだろうか。
でもこれで、誰からも眠りを妨げられることはない。だから――。
おやすみなさい、そして――さよなら。
作者:朱乃天 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年3月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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