甘き誘惑・チョコレートベア

作者:白鳥美鳥

●甘き誘惑・チョコレートベア
「やっぱり、可愛いチョコレートってなると動物の形のチョコレートだけど……やっぱり定番は熊だよね。そんなチョコレートの熊が現れるってどういう感じなんだろう?」
 美和子は、わくわくしながら森の中を歩いていた。
「えっと、方向は合っているよね? うん、北、こっちで合ってる。この森を抜けた先に、大きなチョコレートの熊が現れるって話なんだけど……楽しみ!」
 楽しそうに歩みを進める美和子の前に、第五の魔女・アウゲイアスが現れた。そして、その手に持った鍵を使って、美和子の心臓を一突きする。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 崩れ落ちていく美和子。そして、彼女の傍からミルクチョコレートの色をした熊が現れたのだった。

●ヘリオライダーより
「ねえ、みんなは甘いものって好きかな? 俺は割と好きな方なんだけど」
 そう切り出すと、デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)は、ケルベロス達に話を始める。
「あのね、不思議な物事に強い『興味』を持って、それを自ら調査しようとしている人が、ドリームイーターに襲われて『興味』を奪われてしまう事件が起こってしまったみたいなんだ。『興味』を奪ったドリームイーターは姿を消してしまってるんだけど、奪われた『興味』を元にして現実化したドリームイーターが事件を起こそうとしているみたいなんだよ。みんなには、このドリームイーターを倒して欲しいんだ。このドリームイーターを倒せば、『興味』を奪われてしまった人も目を覚ましてくれると思うよ」
 デュアルは続ける。
「今回現れるのは、ミルクチョコレート色をした熊の形のドリームイーター。大きさは……2メートル位、かな。色だけじゃなく、容姿も熊の形のチョコレートと酷似している。それで、このドリームイーターなんだけど、人間を見かけると『自分は何者?』みたいな問いかけをしてくるんだ。そして、正しい対応が出来なければ殺してしまう。でもね、このドリームイーターは、自分のことを信じてくれていたり、噂をしてくれる人がいると、その人の方に引き寄せられる性質があるんだ。これを上手く使えば有利に戦えるんじゃないかな?」
 デュアルの話を聞いていたミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)は、目をきらきらさせている。
「……チョコレートの熊さんのドリームイーター……何だか美味しそう……じゃなくて、お菓子が悪い事するのは、お菓子を愛するミーミアとしては許せないの! みんなも、一緒に、このドリームイーターを倒すのよ!」


参加者
花道・リリ(合成の誤謬・e00200)
ロイ・リーィング(見兔放犬・e00970)
御伽・姫桜(悲哀の傷痕を抱え物語を紡ぐ姫・e02600)
フィオネア・ディスクード(箱庭の鍵花・e03557)
イーリィ・ファーヴェル(クロノステイシス・e05910)
モニカ・カーソン(木漏れ日に佇む天使・e17843)
ウェンディ・ジェローム(輝盾の策者・e24549)

■リプレイ

●甘き誘惑・チョコレートベア
 場所は森の中。作戦としては、御伽・姫桜(悲哀の傷痕を抱え物語を紡ぐ姫・e02600)とウェンディ・ジェローム(輝盾の策者・e24549)が噂話をしてドリームイーターを呼び寄せ、他のメンバーは隠れて奇襲を狙う、というものだ。
(「凄く美味しそうな敵だねぇ。でも実際の熊って強いし、こっちの熊も強そうだ。楽しみだよ」)
 身を潜めながら、ロイ・リーィング(見兔放犬・e00970)は、ドリームイーターの出現を楽しみにしている。
(「女の子の甘い好奇心を利用した罠だ! ずるい! 熊チョコとか絶対甘くて美味しい!!」)
 そう思っているのは、イーリィ・ファーヴェル(クロノステイシス・e05910)。彼女はチョコレートが大好き、その中でもラズベリーチョコレートは人生! と、本当にチョコレートが大好きなのだ。そんな彼女の保護者的存在のテレビウム、シュルスは噂話の応援に出かけている。二人に危険があれば守る役目も持って。だが、もしもシュルスがここにいたら熊チョコを美味しいと思っている所を知られて、怒られていたかもしれない。
 しかし、相手はドリームイーターとはいえ熊のチョコレート。
(「おっきいチョコレートのくまさん……!」)
 フリューゲル・ロスチャイルド(猛虎添翼・e14892)は、チョコレートというだけで美味しそうで仕方が無い。
 そして、無類のお菓子好きであるミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)も同様の顔をしていた。
 少し違う事を考えているのは、モニカ・カーソン(木漏れ日に佇む天使・e17843)。彼女は動物が好きなので、このドリームイーターを倒したいと思っているのだ。
 姫桜とウェンディが噂話を始める。
「ねぇ、知っていますか? ジェロームちゃん。愛らしいチョコレート型の熊さんが現れる噂があるの」
「チョコレートの大きい熊さん……。おっきくなければ食べれそうですが、物騒ですよねー。気をつけないとー……」
 姫桜の言葉に、ウェンディはそう答える。そんな二人の傍では、テレビウムのシュルスがチョコレートベアの映像を流して、『こんな感じかな?』と二人に伝えるように。
「森の中で熊に出逢うなんて御伽噺の中にいるみたいで期待をしてしまうわ」
 姫桜は、うっとりとした顔をする。本当に、御伽噺の様だから。
 そんな二人の傍に、ふわりと甘い香りがする。チョコレートの香り。でも、甘ったるい訳でも無く、チョコレートの美味しさを思い起こす、そんな香りだ。そして、とことこと軽快な足音。
「綺麗なお姉さん、可愛いお嬢さん、こんにちは♪」
 可愛らしい声に、頬に手を当てて照れたような仕草のチョコレートの熊が居た。その姿は本当にお菓子売り場の熊のチョコレートがそのまま大きくなったようで……。
(「すごいすごい、かわいいしおいしそう……!」)
 ドリームイーターを見て、フリューゲルは尻尾をぱたぱたさせている。
(「んん、可愛い……それに良い匂い、だわ。でも見た目に騙されちゃ駄目なのよ、ね。美和子さんの為にも、倒さなきゃ」)
 フィオネア・ディスクード(箱庭の鍵花・e03557)も、ドリームイーターの可愛らしさを感じながらも、打倒する決意を新たにする。
「まあ……本当に愛らしい……」
 一方、姫桜も実物を見て、ほうっと息をつく。相手は2メートルなので見上げる形だが、それなりに離れているので、仕草も表情もよく分かる。
「素敵なお姉さんに、お嬢さん♪ ボクが誰か分かるかな?」
 首を傾げて、笑顔で尋ねてくるチョコレートベア。
 それにウェンディは答える。
「チョコレートの……猫さん、ですかねー……?」
「ボクは熊なんだよ? 熊さんなんだよ! 猫さんなんかじゃないもーん!!」
 悲しみに泣きだすチョコレートベアのドリームイーター。
 今、ここに戦いの幕が開けたのだった。

●チョコレートベア型ドリームイーター
 チョコレートベアが動き出す前に、隠れていた花道・リリ(合成の誤謬・e00200)が飛び出す。
「私のユリと同じくらいあまい香り。容姿も愛らしいけれど……少々デカすぎね。削ってあげる」
 そう言って、リリが繰り出すのは癇癪玉のカムクァット。生まれだす熱がドリームイーターへと叩き込まれた。
(「……かじったらダメかなぁ? おいしそう……」)
 大きなチョコレートベアを見つめるフリューゲルの金の瞳は輝いていて、隙あらばかじってみよう、そんな気持ちがにじみ出ている表情をしている。そして、地面を蹴ると弱点を狙って蹴りつけた。
 恐ろしい視線に気が付いたのか、チョコレートベアはフリューゲルに視線を向ける。ウェアライダーの少年に向けるその表情は、どこか怯えているようで……。
「ボクを食べないでー!!」
 フリューゲルに向かって思いっきり突っ込んでくるドリームイーター。
「さぁ、愛らしい熊さん、私がその攻撃を受け止めて差し上げますわ」
 姫桜がフリューゲルを庇い、その攻撃を受け止める。流石に大きさもあり強い当たりだが、何とか持ちこたえた。
「皆さん、頑張って下さいねー」
 ウェンディのゾディアックソードで描く守護星座がロイ達を光で包んで護っていく。
「――どうか護って、私の大切な仲間たちを」
 姫桜はフィオネア達に、雷の壁を作り上げて護りを固める。また、姫桜のボクスドラゴン、シオンはフリューゲルに属性インストールを施した。
 イーリィはチョコレートベアを見上げる。美味しそうだ。だが、シュルスの視線に気が付き、直ぐに気持ちを切り替える。それから、弱点を狙ってドリームイーターに向かって攻撃を与え、シュルスの方は傷を負っている姫桜の回復の為に飛んで行った。
(「ただのチョコだったらよかったのに……」)
 ロイは内心、そう思いながらドラゴニックハンマーをチョコレートベアに向かって振るう。しかし、当たりはしたものの、しっかりと入らなかった。少々当たり難いらしい。もっと確実性を狙った方が良さそうだ。
「バレンタインもホワイトデーも終わってるんだから、貴方の出番も、もう終わり」
 フィオネアもドラゴニックハンマーを使って凍結の一撃を振り下ろす。
 モニカはケルベロスチェインで魔法陣を描き、ミーミアは戦いの状況を判断してオウガ粒子を放ち、ロイ達の守りと命中率を高めていく。シフォンも清らかな風を送って護りを高めた。
「ボクは美味しいチョコレートなんだよ♪」
 チョコレートベアのドリームイーターは、可愛らしいステップを踏みながら、くるくると踊り出す。すると、元々、ほんのり香っていた甘い香りが幸せな気持ちになる香りに変化していく。
 甘い香りがイーリィを包んでいく。ほんわか幸せな気分になっていった。
「チョコレート……チョコレート……」
「イーリィ?」
 夢の世界に引きずり込まれていくイーリィにリリが声をかけるが、彼女は既に夢の中。幸せらしい。
「全く……」
 早々に倒さないと。そう思い、リリはガトリングガンを構える。そして、ドリームイーターに向かって弾丸を叩き込んだ。
(「ボクも気を付けないといけなさそう……」)
 イーリィの様子を見て、フリューゲルはドリームイーターに向かって気脈を断つ。
「目を覚まして下さいねー」
 ウェンディはオーラを放って、イーリィの意識を夢の中から引きもどした。その間に、姫桜はドリームイーターへウイルスカプセルを放つ。
「あまーいチョコレートは女の子のかわいい気持ちなんだよ!」
 甘い夢から戻ってきたイーリィは、感じた幸せと怒りの混ざった感情と共にドリームイーターに向かって、重たい蹴りを放った。シュルスも優しく彼女を癒していく。
「これならどうかな?」
 先程の攻撃が厳しかったロイはドラゴニックハンマーを変形させて、ドリームイーターへと砲弾を撃ち込んだ。
「貴方の運命に、終焉を結びましょう」
 フィオネアの焔の白詰草はチョコレートベアの腕を絡め取り燃え上がらせる。しかし、チョコレートと言い張っている割にはドリームイーターなので溶けたりはしてくれないようだ。
 モニカはケルベロスチェインを放ってフィオネア達の守備を高めていく。ミーミアは雷の力で、シオン、クリスチーナは属性インストールで共にイーリィの傷を癒し、シフォンは護りの風を送り込んで行った。
 くにゃり。先程、炎でも溶けなかったチョコレートベアは溶けていく。それは、チョコレートの丸い塊になると、そこから再びチョコレートベアのドリームイーターが復活した。
「よーし、元気になったよ♪」
「食えぬのならば意味は無いわ」
 元気そうになったドリームイーターにリリは容赦なくオーラの弾丸を撃ち込む。不思議そうに見ていたフリューゲルもリリの攻撃を見て、直ぐに気持ちを切り替えた。
「光れ、奔れ、降り注げ。言葉なき声を、響かせ歌え」
 フリューゲルの歌声は雷を呼び、ドリームイーターに向かって電撃を落とす。続き、ウェンディは紅蓮の炎を蹴り放ち、燃え上がらせた。
 姫桜は七色の花が巻きついた白いドラゴニックハンマーを変形させると、そこから砲弾をドリームイーターへと撃ち放つ。更にイーリィの放つ炎が渦巻いていった。
 ロイは慎重に斬霊刀を構える。当てるには少々厳しいのだが、他の手段に比べるとずっと安全だ。精神を研ぎ澄ませ、毒を纏わせた斬撃をドリームイーターへと与える。そこに追撃でフィオネアの漆黒の槍が貫いた。
 モニカはケルベロスチェインで、ロイ達を護り、シオン、クリスチーナ、シュルスは、姫桜とイーリィの傷を癒しに飛び回る。
「リリちゃん、お願いするの!」
 ミーミアがリリの雷の力を使って攻撃力を上げていった。
「僕は負けないんだからー!!」
 チョコレートベアが、ステップを踏みながらくるくると踊る。それに合わせて甘くて幸せな気持ちになる香りが漂ってきた。それが、気を付けないといけないと思っていたフリューゲルを包みそうになる。しかし、それを姫桜が庇いに入った。
 力を受けたリリはドラゴニックハンマーを強く握り締める。そしてドラゴニック・パワーで加速させた巨大なハンマーをドリームイーターに叩きつけた。
 その一撃を受けたドリームイーターはふらりと揺らめき、パンッと弾ける。辺りには甘い香りが漂っていた。

●戦いの後で
 戦いで荒れた周辺のヒールをし、ロイはドリームイーターに対して祈りを捧げる。
(「次は美味しいチョコ……いや、熊? になってね」)
 そんな思いを込めて。
「美和子ちゃん、みつけたよ!」
「大丈夫でしょうか?」
 フリューゲルが美和子を見つけ、モニカが駆けつけて癒していく。それで美和子は目を覚ましてくれた。
「良かった、目を覚ましてくれました」
 安心した表情を見せるモニカ。そして、美和子の前にミーミアがにゅっと顔を出した。
「大きな熊さんのチョコレートはいなかったけど、ミーミアが持って来たチョコレートの熊さんも美味しいのよ? 美和子ちゃんだけじゃなく、みんなにも持って来たの!」
「わぁ、ミーミア、チョコレートのくまさん持ってきてくれたの!? ね、ね、みんなも一緒に食べよー?」
「みんなー、チョコレートだよー!」
 フリューゲルとイーリィが喜びながら皆を呼んできて、美和子を含めた、ちょっとしたお茶会を開く。
 チョコレートと飲み物を配り終わったミーミアは胸を張った。
「みんな、お疲れ様なの。やっぱり、本物のお菓子は正義なの!」
「お菓子は正義……至言、だわ」
 フィオネアがそう零すと、ミーミアが両手をぎゅっと握ってくる。
「そうなの! フィオネアちゃんは分かってるの!」
 余りに満面の笑顔で言ってくるミーミアに、フィオネアは少し小首を傾げて、ふわりと微笑み返した。
「ありがとうございます。いただきますね」
「わぁー、可愛い熊さんですのね……食べちゃうのが勿体ないですわね」
 モニカは笑顔で受け取り、姫桜はチョコレートベアの可愛さに微笑む。それにフィオネアも頷く。
「チョコレートベア……食べるのが勿体無くなる可愛さ、よね。でも食べないともっと勿体無くなっちゃう、から、いただきます、よ」
「そうですわね」
 お互いにふわりと微笑み合う。可愛いし、美味しいチョコレートベア。見た目も味も楽しませてくれるものだからこそ、美味しく戴きたい。
「くまさん、可愛い!」
「ええ。でも、本物の熊さんも素敵ですよ?」
「うん、くまさん、大好き!」
 チョコレートベアに喜ぶ美和子にモニカは微笑む。
「さっきまで戦ってたヤツのミニチュアを食べるってなんだか複雑だわ」
 ブラックの珈琲と共にリリはチョコレートベアを一口で戴く。だけど、本当はとても嬉しい。そういえば、ミーミアにお礼を言い損ねてしまったと気が付いたリリはミーミアの方を見る。その視線に気が付いたミーミアはにっこりと笑って返した。持って来たチョコレートを食べてくれてありがとう、そんな笑顔で。
 ちょっと照れながらリリはイーリィに、残りのチョコレートを渡す。
「私は少しで良いわ」
 そう伝えるけれど、本当はお疲れ様の意味を込めて。
「わー、ありがとう!」
 憧れのお姉さんからチョコレートを分けて貰ったイーリィは満面の笑みを浮かべた。
「紅茶にチョコレートベア……、美味しいですねー」
「温かい珈琲とチョコの組み合わせは、どうしてこんなに美味しいのかしら?」
「うん、こうしてのんびりするのは良いね」
 ほんわかとウェンディ、フィオネア、ロイの顔が綻ぶ。
「えへへ、皆でお菓子食べるのはおいしいし楽しいね」
 フリューゲルも嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。戦いが終わって、楽しく過ごせる……優しい時間。
 それに同意するように、皆も微笑んだ。
 甘いチョコレートのドリームイーターの戦いの後の、甘くのんびりとしたお茶会。そんな時間を嬉しく思う、そんなひと時だった。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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