ミッション破壊作戦～光刃のライデンシャフト

■リプレイ

●神と仙人が住まう沼
　今回、作戦に挑むケルベロス達が向かったのは北海道――北の大地に広がる神仙沼周辺こそが、ビルシャナに支配された地域だった。
（「神と仙人がすまう沼、ゆえに神仙沼とよばれる場所」）
　ヘリオンの硝子越しに眼下を見つめる、オペレッタ・アルマ（オイド・e01617）の爪先が揺れているのは、幻想的な光景に知らず魅入られているからだろうか。
（「ココロはまだわからなくても、綺麗であることは『これ』にもわかります」）
　――けれど、彼の地に繁茂する植物の群れは明らかに異常で、それこそが侵略の証なのだ。帽子を目深に被って俯く周防・碧生（ハーミット・e02227）だが、今は恐れも不安も全て隠し、強く在ろうと誓って背伸びをする。
「……そろそろ、現場上空に到着しますね」
「うん、頑張って行こう。ラーシュ、頼んだよ」
　碧生に応えるマイヤ・マルヴァレフ（オラトリオのブレイズキャリバー・e18289）は、傍らに立つ相棒――ボクスドラゴンのラーシュが、力強く頷くのに勇気を貰って。まるで主人を見守る兄のようだと、碧生は己のボクスドラゴンであるリアンと顔を見合わせ、自分たちも全力を尽くすことを誓ったのだった。
「まぁ変に気負わずに、派手に行っちゃおうか。岩を穿つ涓滴の如く、ってね」
　一方でエトヴィン・コール（徒波・e23900）は、ふさふさの狼耳を揺らしながら緩やかに伸びをしていて――その平常心は見習わなければと大成・朝希（朝露の一滴・e06698）は思うが、やはりどうしても肩に力が入ってしまう。
「いつもの調子でいこう、朝希君」
　飄々としたいつもの様子で声を掛けてくれるゼレフ・スティガル（雲・e00179）――彼こそ朝希が一番信頼する人で、して欲しい人でもあるけれど。普段より少しだけ肩に力が入るのは、隣に彼が居るからなのだ。
（「格好いいと何か悔しい、なんて……言えないですが」）
　――そうして一行が作戦に向けて気持ちを高めていく中、遂に作戦開始の時が訪れる。深呼吸をひとつして、お守りである星籠のヒンメリ――幸いと約束を守護する、光のモビールにそっと触れたのはエヴァンジェリン・エトワール（白きエウリュアレ・e00968）。
「準備は整ったか。ならば一斉に降下、光の刃を見舞うとしよう」
　其々の胸に宿る決意を感じ取った香良洲・鐶（行色・e26641）は、声掛けをしてタイミングを合わせながら澄み渡る空へと身を踊らせた。吹き付ける風に、纏った白衣がはためく中――眼下に広がる緑は余りにも眩しくて、知らず鐶の脳裏には、燃え尽きた故郷の森が映し出される。
（「否、今はデウスエクスに支配された地域を、解放することだけ考えればいい」）
　――その為に彼らは、ありったけの想いを込めてグラディウスを振るうのだ。

●想い背負う光刃
　どうせなら派手に、と先陣を切ったのはエトヴィンだった。飛び降りながらもくるりと、身軽に回転しつつ――ぐんぐん迫る神仙沼の水面には、鏡映しのように緑が広がっていて、空と大地の境目すら曖昧になっていくようだ。
「僕はモノ壊すぐらいしか能がないけど、回廊は壊していいものだから全力で！」
　軽佻浮薄を絵に描いたような能天気さを漂わせていたエトヴィンだったが、その瞳は破壊対象――回廊を覆う障壁を認めた途端に、鋭く細められる。
「さあ、危険植物は根こそぎ除草しちゃおうねー！」
　地球には地球らしい自然の風景があって欲しいと言うのが、紛れもない彼の願いであり。続く鐶もまた、地球を守護するのがケルベロスの役目であると、竜人の証をひた隠しにしつつ光の剣を構えた。
「侵攻するデウスエクスを一体でも多く退けて、平和な場所を取り戻すのも……今ここにいる自分たちにしか出来ないことだから」
　――だから邪魔する壁は、想い込めたこの一撃で取り払ってしまおう。そう、今まで番犬の皆が重ねてきた想いとダメージを引き継ぐんだと、翼を羽ばたかせるマイヤは強く言い聞かせる。思うと思わないのとでは全然違う――首を彩る炎の輪を燃え上がらせたマイヤは、ラーシュと一緒に魂の叫びを真っ直ぐ刃に乗せた。
「ここで全部壊してしまいたい、そしたら皆の力になる。合わされた力は明日を、未来を照らすから！」
　神仙沼――本来は美しく、静謐であった地。其処に神や仙人が住まうと、人々が尊び愛した地。その姿を銀の瞳に映した碧生は、微かに俯く素振りを見せたが、その心の裡には沸々とした想いが渦巻いているのだろう。
「……そんな地と人々の心を踏み躙り、不遜にも神を名乗る者達の勝手を赦す等、出来ません」
　翳り射す声は、表立って叫ぶものでは無いが――其処に込められた想いは強く、揺るぎない。
「人々や仲間の想いを無駄にせぬ為、此処に平穏を取り戻す為――必ず、打ち破ってみせる」
　尾を引いて空を切り裂いていく碧生の言葉を追いかけて、皆の想いに触れたオペレッタはふと、戦うべき相手について想いを巡らせる。ビルシャナ、デウスエクス・ガンダーラ――それは、誰かのココロより顕現するものだと言うけれど。
「教義はうばうためにありますか。信条はさつりくの種子ですか」
　彼女が訥々と問いかけるのは、彼らの至ったと言う悟りの境地について。世界と己を合一し、集合無意識の赴くまま全てを救済しようとする――その複雑怪奇なココロは、それが何かをようやく掴み始めたオペレッタにとって、余りにも難解なものだった。
　――しかし、これだけは確りと口に出来る。
「『これ』は、どちらでもないとかんがえます」
　幾ら救済を語ろうと、命もココロも――ささげるものは、なにも無い。手の中で光輝く剣は、魂の叫びにより力を放つと言うが、ならば自分のココロも確かに叫んでいるのだろう。己の拳を強く握りしめるオペレッタに続き、彷徨の意の二つ名を持つ娘は、過去の作戦を思い出しつつ空を舞う。
（「アタシは一度、ミッション地域を奪還してる」）
　彼女――エヴァンジェリンの胸を震わせるのは、復興を手伝いに行った時に見た、皆の笑顔と嬉しそうな雰囲気で。あの光景を、自分が忘れることはないだろう。
（「あんな場所を増やさなくちゃ、と思った。だから、アタシは、此処に居る」）
　花緑青の瞳が光を受けて鮮やかに煌めく中、エヴァンジェリンは――守る意味を見つけた娘は、己の存在意義を賭けて剣を振りかざした。
「此処もいい加減、返してもらう……っ」
（「うん、諦めのいい姿など見せたくないしね」）
　最後に飛び降りたゼレフは、吹きすさぶ風に身を踊らせて、自らの在り様に例える雲のように、流れ流れていくつもりだった――けれど。
（「僕も随分と欲張りになっちゃって」）
　――どうしても見たいものが出来ちゃったと、彼は笑う。ただ終わりまで役割を果たす様な生き方をするつもりが、最近は君の望む未来を共に見たいと望むようになったのだと。
（「その為に、望む己で」）
　大義よりも自身で、この手でと望んで。そうでなければ意味がないのだと頷くゼレフの髪は、春の陽光を受けて煌めいていて――水晶のような瞳には、眼下に広がる鮮やかな自然の彩が映し出されていた。
「退いて貰うよ！」
　戻らぬならば、立ち塞がる壁など邪魔なだけ。そんなゼレフの想いを感じ取った朝希は、仲間たちが三度繋いだ破壊への希望を背負って、グラディウスに力を注いでいく。
「僕達だけじゃない……彼らの熱も負って征くんだ」
　糧になる為の命なんて、一人も居るもんか――重く灼けるような思いを籠め、突き立てるのは光の刃。若枝のように伸び行く無限の可能性を秘めた少年は、この地を支配するビルシャナに向けて、ありったけの魂の叫びを響かせた。
「オンネウカムイ、その緑が星と人を侵すなら、全て――焼き尽くしてやります！」

●恩祢宇神異の襲来
　八つの光刃――そして、かつてこの地の解放を目指した者たちの想いが、魔空回廊を守る障壁を砕こうと一気に吸い込まれていく。グラディウスの刃は触れた瞬間に雷光と爆炎を発生させ、辺り一帯へ無差別に破壊をもたらしていった。
「……やっ、たか？」
　一瞬、真昼のような輝きに包まれた周囲を、瞬きしつつ見渡す鐶だったが、煙幕の切れ間から覗く障壁――そして回廊は、未だ其処に存在している。
（「失敗、ですか……」）
　破壊出来なかった悔しさに耐える朝希だが、魂の叫びを乗せた一撃は十分な手応えがあった筈。ならば次の仲間たちが、きっと繋いでくれる――今回やるべき事を果たした一行は、降下攻撃での混乱が続いている間に素早く撤退しようと駆け出した。
「その前に、グラディウスを預かっておきましょうか」
「うんうん、敵に見られないようこっそりね！」
　と、万が一の際にグラディウスが奪われないよう、碧生とエトヴィンが手分けして皆の剣を回収していく。アイテムポケットにも収納しつつ、撤退が困難な場合は彼らを優先的に逃がすことを皆で決意しながら。
「気を付けて、緑が……ざわめいてる」
　――そうして沼地を越えていくゼレフ達の行く手を、突如として群生していた植物が膨れ上がり阻んでいく。その緑が形作ったのは、威厳に満ちたビルシャナ――この地を支配する、偽体オンネウカムイの姿だった。
「愚昧なる定命の者共よ、草木の糧となれ……！」
　神仙沼に足を踏み入れた者へ、幾度となく発した言葉を繰り返す彼と、対話をするのは不可能だろう。そして強化体である彼を倒さなければ、此処から撤退することも叶わない――覚悟を決めたエヴァンジェリンは一歩を踏み出すと、優雅に一礼してから名乗りを上げる。
「……ボンジュール、ビルシャナ。アタシはエヴァンジェリン」
　悪夢の花のオラトリオと、かつての忌まわしき呼び名を続けた彼女は、アナタを倒して自分たちは帰るのだと淡々と告げた。オンネウカムイ――オジロワシ、或いは老大な神と呟いて、一方の碧生は静かに偽体の姿を見据えている。
「在るべき形で自然に還るならまだしも、貴方達の糧になる等、御免です」
　光の使徒と名乗るに相応しく、ビルシャナは神々しさを漂わせていたが、此方を愚昧なる者と断じ糧とするのであれば、倒す他無い。
「荒ぶ神擬きは、鎮めて差し上げましょう」
　そしていずれは必ず、本体も討ち取る決意を抱き――碧生の操る黒鎖が硬質な音色を響かせて、オンネウカムイの肉体を一気に締め上げた。
「……アナタは、『誰』だったのでしょう」
　首を傾げてぽつりと呟くオペレッタの記憶に蘇るのは、いつか戦ったビルシャナ達の姿だったのだろうか。人間であった、そのはじまり――彼らが得た悟りを思い出しながら、彼女は機動力を削ぐべく流星の如き蹴りで斬り込んでいく。
（「ああ」）
　けれど頭の中では警告音が響き、オンネウカムイはぎりぎりの所でオペレッタの一撃を回避した。軽快な動きで此方を翻弄する敵に対し、先ずは此方の攻撃が当たるようにしなければと、砲身と化した朝希の鎚が竜砲弾を見舞う。
（「皆を後ろから支えたい。きっとそれが、わたしの戦い方なんだ」）
　そう心に強く思いながら、ラーシュと共に仲間を援護するのはマイヤ。回復はわたし達に任せてと、属性を注入する相棒に続いて、マイヤの装甲から放たれる粒子が皆の感覚を研ぎ澄ませていく。
「よし、死合おうか。ひたすらに壊して壊して――そうして最後に君へ残るものを、見届けてあげる」
　血に猛る本能を笑顔で隠し、エトヴィンは深紅の瞳を細めて地を蹴った。その手に握られた刀は、緩やかな月の弧を描きながらビルシャナの急所を捉え――羽毛と共に飛び散る血飛沫を見た彼は、陶然とした様子で無邪気に微笑む。
「君のそういうとこ好きだねぇ」
「あはは、有難うゼレさん」
　エトヴィンに隠された凶暴さを覗いたゼレフは、負けては居られないと刃を突き立て、銀白の炎を踊るように操った。誰にでも等しく訪れる終わりを――自分もエトヴィンのように、いつか戦場で果てることを望んでいた筈だったけれど。嗚呼、終わりの先に続く未来が、今は余りに眩しい。
「アタシが、守るわ。……絶対に、守るから」
　己に言い聞かせるように呟いたエヴァンジェリンが、因果律を破壊する槍を振るい、稲妻を帯びた突きでオンネウカムイを貫いた。種子に食い破られ、経文がその身を侵食しようとも、彼女は盾となり戦場に立ち続けて――そんな身を挺して立ち向かう仲間たちを支えようと、鐶は呪医として出来る限りの力を振るう。
「……浄化の力よ、雷よ」
　――構築された雷の壁が加護をもたらす中、彼に宿る御業がゆらりと踊った。それはまるで幻想の蒼を帯びた花弁か、或いは美しき蝶を思わせる奇蹟そのもののように思えた。

●勝ちて帰れ
　安全な撤退を考えると、長期戦は悪手――そう判断した朝希は、回復に割いた一手が命取りになる位に攻め立てようと神殺しの毒を放つ。
「戦医の業と覚悟――見せて差し上げます」
　周囲の様子を確認する碧生は、増援が現れないかと注意を払っていたが、退路を断たれる事態には陥っていないようだ。ならば火力を活かし攻めようと、黒の残滓が槍と化しオンネウカムイを貫いて――汚染されていく傷口へ、リアンのブレスが襲い掛かる。
（「なにか、わかるような――……そんな気がするのです」）
　それが何かは掴めないけれど、仲間たちに背を預けて戦うオペレッタのココロが、何かを訴えるように鼓動を刻んだ。尚もビルシャナは経文を唱えて襲い掛かるが、其処へすかさずエヴァンジェリンが庇いに入る。
「……守るって、言ったでしょう？」
　アナタのような頭の固い鳥には、何を言っても無駄だと知っていると、彼女は言った。故に言葉は要らず、自分は武器を振るうだけだと。
（「うん、落ち着いて……大丈夫、わたしだって負けていられないんだ」）
　過ぎていく時間に焦りを覚えるマイヤだったが、盾として皆を護るラーシュの後姿に励まされ、自分に出来ること――皆の傷を癒すことを精一杯こなそうとする。その一方で、ゼレフはお返しとばかりに刃を突き立て返り血を浴びた。
「信じるという行動原理も『これ』は、ただしく理解するにはいたりません。それでも」
　呟くオペレッタの先、オンネウカムイの生を刃で薙ぎ払っていくのはエトヴィンで。躊躇いも無く突き進む彼に導かれるようにして、オペレッタも軽やかなステップの後に加速――超至近距離からの一撃を繰り出す。
「アナタの信じたさきに、救いはありました、か？」
　――その問いに答えること無く、ビルシャナは消滅し草木の糧となった。

　その後、無事にミッション地域からの撤退を完了した一行は、後に希望を託して帰還する。バイバイと笑顔でエトヴィンが手を振る中で、マイヤは皆が無事であったことに胸を撫で下ろしていた。
「……勝って仲間と一緒に帰る。これも、もうひとつの魂の叫びだよね」

作者：柚烏	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年3月26日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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