ミッション破壊作戦～機械仕掛けの回廊

■リプレイ

●速攻降下！
　中国山地西部、恐羅漢山。
　ダモクレスによって占拠された広島県と島根県の最高峰。その最深部へと、ケルベロス達は再び足を踏み入れようとしていた。
「自然豊かで、冬は雪山なんじゃの。んむ、じじい北の出なんで雪景色は親近感あるんじゃぞい」
　そんな景色に、デウスエクスの存在は似合わないと、ショー・ドッコイ（穴掘り系いけじじい・e09556）は付け髭を撫でる。それに、穴を掘るにも少々邪魔だ。そう結んで、颯爽とヘリオンから降下しようとした矢先、彼の目の前を藍色の風が駆け抜けた。
「悪いね！　お先に失礼！」
　半ば抜け駆けするような形で、カロリナ・スター（ドーントレス・e16815）が一足先に大空へと身を躍らせたのだ。グラディウスによる、強襲型魔空回廊の破壊作戦。平時であれば触れることさえ敵わない強大な壁を前に、我慢などできないといった様子で。
「えぇい、遅れてなるものか！　さぁ、行くぞ往くぞ征くぞ！！」
　逸るカロリナに触発されてか、服部・無明丸（オラトリオの鎧装騎兵・e30027）もまたグラディウス片手にヘリオンの床を蹴った。こうなってしまっては、もう続けて飛び降りる他にない。
「むぅ……こうなれば、ままよ！　じじいの想い、全部たたっこんでやるぞい！」
　先行する二人の後を追い、ショーも意を決して空中に身を躍らせた。
　狙うは敵の拠点、強襲型魔空回廊を守りし光の壁。圧倒的な防御力と耐久力を兼ね備えた、絶対障壁を破壊すべく。
「ボクは自らの家の名のとおりホシになる！」
　衝突、爆発、閃光、消滅。あらゆる破壊の要素をイメージしつつ、カロリナは全ての存在を無に帰す星にならんと突き進む。細かい理由など、最初から意味がない。なぜなら、自分は破壊することが好きなだけだから。
「主よ、どうかボクにアレを消し去るための力をッ！」
　歪んだ笑顔に込められしは、純然たる破壊そのものへの願い。それは光の奔流を伴う爆風となって、周囲にいたダモクレス達諸共に広がって行く。
　だが、その爆風が過ぎ去った場所には、未だ何も変わらぬ様子の強襲型魔空回廊を守る壁が鎮座していた。破壊への想いが不足していたのか、それとも純粋な欲望や衝動だけでは、グラディウスの力を引き出すには至らなかったのか。
「……ここ地球は得体の知れん恐ろしい星じゃ。じゃが、ここは第二の故郷じゃ。わしに家族と戦場をくれた……それを、ぶちぶちと穴だらけにしおってクソたわけども！」
「うむ、ぷりちーなお嬢さんの想いもたっくさんあるんじゃ。故郷を守りたいって気持ちはよーくわかるんじゃ。ましてや、穴掘り系いけじじいを自称するじじいとしてはほっとけん！」
　純粋な力押しでは勝てない。ならば、この星を想う気持ちを力へと変え、叩きつけてやろう。続けて仕掛ける無明丸とショー。二人の叫びに刃が輝き、その切っ先が光の障壁に触れ。
「戦の作法とはいえ……気にくわぬ！　よって、叩っ壊す！　ぬぁあああぁぁぁっ！！」
「グラディウスよ、遥かな故郷に似たこの地を解放するんじゃ！　穴掘りのため、麗しき乙女のため、回廊を破壊するんじゃぞい！」
　再び巻き起こる大爆発。が、しかし、それでも煙が晴れてみれば、魔空回廊は未だそこに鎮座していた。
「やっぱり、堅い。でも……」
「ああ……。ここで退き下がるわけにはいかないな」
　白波瀬・雅（サンライザー・e02440）の言葉に続け、御影・有理（書院管理人・e14635）が頷いた。
　この地を根城とする機人、ダモクレスフランケンは、強化素材として人々を攫い、そして殺す。彼らの根底にある思想は、素材として利用できるか否か。そんな血も涙もない者達に、今を生きる人々の命を奪わせるわけにはいかない。
「二度目なわけだが……三度目の正直なんてことにならないように、気合……いや、魂燃やし尽くしていくとしますかね」
　その想いは、ヤクト・ラオフォーゲル（銀毛金眼の焔天狼・e02399）にとっても同じもの。否、ここに集まった者達の殆どが、そういった想いを胸に秘めている。
「家族、友人、故郷……。大切にしてるモンを、奪う。場所を、踏み躙る。なァンて、赦せる訳ねェよ、なァ？」
「この地は、この星は、我等が生きてきた証そのもの。それを汚されて……穢されて、なるものか」
　同意を求めるような霖道・悠（黒猫狂詩曲・e03089）の言葉に、ジェーン・ダンサー（フラグメンテーション・e20384）は力強く即答した。彼らの手に握られし短剣、グラディウス。この一刀が、巨大な壁を突破する一撃にならんことを。そう願って、一斉にヘリオンから眼下に広がる恐羅漢山の地を目掛けて降下した。

●立ちはだかる壁
　恐羅漢山に設けられた敵の拠点。強襲型魔空回廊を破壊するために、今回の作戦で使えるグラディウスは、残り５本。
「大切な人を奪われる、惨たらしく殺される苦悩……。これ以上、あんな想いをする人間を生み出してなるものか！」
　有理の脳裏に浮かぶのは、クビアラの配下との戦いで目にした惨状。そして、妹を喪った時のこと。
　救えなかった人々の無残な亡骸。同じく、自身の妹もまた、あのようにして命を奪われた。
　それは、今も悪夢に魘される程の苦悩。そんな想いは誰にもさせないと、心の内に秘めるのは有理だけではなく。
「ましてや、生物を解体しパーツとする、などと……。どこまで……我等の命を、心を、踏み躙るつもりだ！」
「喪って、失って。生きる事、すら厭ンなる、てのも。好くある話。防げるモンなら、今、此処で叩く。終わらせる」
　もう、これ以上は好きにさせない。ジェーンと悠の口から紡がれるのは、何もできぬまま命を奪われた者達の怒りの代弁。
「そんなにパーツが欲しいなら、その忌々しい回廊とまとめて、バラバラのパーツにしてやるよ！」
　あらゆる存在を部品としてしか見ないダモクレスフランケンへと、ヤクトの怒りの矛先が向けられる。その言葉に呼応するかの如く、グラディウスの刀身は力を増して。
「私にとって、生まれ育ったこの広島は特別なんだ。大事な家族や友達も、今までの思い出も沢山詰まってる、かけがえのない場所なんだ！　だから……」
　この地だけは、必ず自分と仲間達の手で取り戻す。そう、雅が叫んだのを皮切りに、一斉にグラディウスの刀身を叩き付けた。
「アンタ等に、好き勝手させる、てのは、御免だから。絶対、守ってみせる」
「無辜の民を守れと信念が、悪しき者を裁けと誇りが、そして何より……貴様等を許せぬと、『怒り』が叫ぶのだ！」
　守りたかった者、救いたかった人、それら全ての無念を背に、悠とジェーンの持つ刃が光の障壁に突き刺さり。
「てめぇにゃ、ただのパーツひとつかも知れんが、そのパーツにされる奴には唯一の人生があるんだよ！　そんな理不尽通させてたまるか！　奪われる側の怒りを受けて、そのままスクラップになっちまえ！」
「もう一度共に立ち向かってくれる戦友が、かつて力を合わせて奇跡を起こしてくれた友達が、私の想いに共感してくれる人が、一緒に困難に立ち向かってくれる仲間が居る。だから、もう一度……その全ての輝きを束ねて……皆の為に、奇跡を起こせぇぇぇ！」
　ヤクトの叫びが、雅の願いが、純粋なる力となってぶつかった瞬間、響き渡る凄まじい轟音。
　走り抜ける衝撃に、成す術もなく薙ぎ倒されて行くダモクレス達。大地を揺るがし、山をも轟かせんとする一撃は、確かに深々と強襲型魔空回廊へ突き刺さった……はずだった。
「なっ……マジかよ……！？」
　だが、着地と同時に爆風の中から現れたのは、未だ砕け散ることもなく、そこに鎮座する光の壁だった。
「そんな……。これだけ、たくさんの想いと力……それを合わせても、まだ足りないの！？」
　何ら変わることのない光景に、ヤクトと雅は、しばし目の前の現実を受け入れることができなかった。
　全身全霊を込めたのは自分だけではない。デウスエクスの手から、この地を解放したいという様々な想いと願い。その全てを力に変えても、なお届かなかった強大な壁。
　一瞬、自分達の全てが否定されたような考えが、頭の片隅を掠めてしまった。が、それは誤った考えであると、直ぐに思い直して顔を上げた。
　ヘリオライダーから伝えられた、破壊に必要な降下回数は、最大で10回程度。そして、この恐羅漢山に座する強襲型魔空回廊は、ダモクレス達が用いるものの中では、現状で一、二を争う攻略難度を誇る場所。
「むぅ……。どうやら、純粋に相手が堅過ぎたようじゃの」
　油断なく周囲の様子を窺いながら、ショーは拾い上げたグラディウスと目の前の障壁を見比べつつ口にした。
　誰が悪いわけでもない。何が悪かったわけでもない。ただ、８本のグラディウスの力では、この地に開かれた強襲型魔空回廊を破壊するのに足りていなかっただけという話。
「コイツは、やっぱり面白いオモチャですね。個人的にほしいです……が」
　結果には目もくれず、カロリナもまたグラディウスを拾い上げて、にやりと笑った。その、歪んだ笑みと視線の先には、果たして全身をケーブルで繋がれたような、機械の巨人が姿を現していた。
「ふぅむ。いわゆる量産型というやつかえ？　本物は、どこで遊んでおるのやら」
　幾度となく倒されても現れる存在を前にして、無明丸が少しばかり辟易したような表情を見せる。が、しかし、直ぐに気を取り直した様子で、チェーンソー剣を片手に駆け出した。
「まあよい！　相手にとって不足無し！　いざ、勝負！！」

●悪夢再び
　降下したケルベロス達を待ち受けていた、全身をアームやチューブで繋がれた機人。対象の生死に関わらず改造部品としてしか見做さないダモクレスフランケンを相手に、ケルベロス達は果敢に攻撃を仕掛けていた。
「汝、輝かしき未来こそ絶望への足懸りと知れ。汝、耐え難き苦痛こそ安寧への手懸りと知れ。汝、気付かねば逝け。汝、気付けども逝け」
　詠唱の度に魔力の刃を生成し、それを繋げて回すことで、ジェーンが凄まじい旋風を巻き起こす。全てを飲み込む斬撃の渦。それはダモクレスフランケンの身体とて例外ではなく、アームやチューブを次々と切断し。
「テメェの臓腑。その全て、貪り喰らう餓狼の顎門に沈め！」
　両腕に纏う地獄の炎。それらを狼の頭部を模した姿へと変え、ヤクトは敵の両腕に食らい付かせる。そのまま燃え盛る牙を深々と突き刺し、力に任せて左右に引き千切った。
「……ッ！？　腕部……大破……！　損傷率……危険域、到達……！」
　破損部から激しい火花を散らし、ダモクレスフランケンが膝を突く。だが、その傷口から覗く無数のケーブルが不気味に蠢いたかと思うと、その先端は、まるで意思を持ったミミズの群れのようにして、千切られた腕へと殺到した。
「再結合……開始……！」
　ケーブルとケーブルが絡み合い、失われた両腕を取り戻すダモクレスフランケン。ある意味では、重装甲や高火力以上に厄介な技だ。
　以前、この地を攻めた際には、敵の回復を阻害する術を持って戦いを有利に進めることができた。が、しかし、今のケルベロス達は、残念ながら同様の戦い方をする術を持ち合わせていない。だからこそ、その代わりに彼らが用いたのは、圧倒的な手数の差。
「偏在せし万有の欠片、今ここへ集い我が剣となれ。圧せよ！　激流！　Ｄ・Ｏ・Ｓ！」
　一瞬にして膨大な量の情報を流し込み、敵の回路をショートさせる有理。続けて、リムとノアール、二体のボクスドラゴンが体当たりを仕掛けたところで、徐に悠が敵の背後から呟いて。
「にゃあ、お……」
　口から発せられた、猫の泣き声。それに釣られ、続々と影の中から現れる猫の群れ。時雨の如く重なる鳴き声と共に、じゃれ付き、絡み付き、動きを止める。
「わしらも負けてはおれん！　行くのじゃ、クソ猫……って、ぬぁあああぁぁぁ！？」
　一方、そんな悠達の様子を見て、己の相棒であるウイングキャットの有明を投げようとした無明丸が、顔を引っ掻かれていたが、それはそれ。
「ぬぁああああああああああッ！！」
　無難にリングで攻撃する有明を余所に、無明丸は両拳にグラビティ・チェインを集中させて、本能のままに殴りまくった。
　輝く拳は振るわれる度に敵の装甲を砕け散らせ、徐々に内部を露出させて行く。どれだけ回復しようとも、修復不能なダメージは蓄積するのだ。
「後ろはこちらに任せておけい。おぬしらは、思う存分に敵をぶっとばすがよい」
　ボクスドラゴンのショー・ヨッコイと共に、ショーは傷ついた仲間達へと癒しの力を、そして戦うための力を与えて行く。放出された粒子によって研ぎ澄まされた感覚。それの告げるままに脚を繰り出し、カロリナが敵の装甲が脆弱な部分を狙って蹴り飛ばした。
「何度倒されても蘇る……。壊し甲斐のある敵は嫌いじゃないよ！」
　だが、それもここで終了だ。さすがに、こう何度もしつこく立ち上がられては、少々の飽きも感じるというもの。
「私の心の光よ、グラディウスに負けない位強く輝け！　乙女の一撃で勝負だ！」
　飛翔する雅。その身に宿るは、かつての戦いで喰らった戦乙女の魂。その脚に纏いしは、森羅万象を撃ち貫く光槍の力。
「解体、分解、再構築……！　オマエモ……部品ニ……」
　もっとも、それで黙って倒される程、敵も甘い相手ではない。案の定、無数のアームやケーブルを伸ばし、それらを束ねて雅の蹴りを受け止める。
　拮抗する二つの力。しかし、その均衡を破ったのは、他でもない雅の気合いと気力。
「ヴァルキュリア……ストラァァァイク！！」
　どんな強大な相手でも、最後まで決して諦めない。何度、辛酸を舐めさせられようとも、抗うことを止めはしない。人間の持ち得る不屈の精神が、機械の巨人を打ち破った瞬間だった。

●千里への一歩
「わははははっ！　この戦い、わしらケルベロスの勝ちじゃ！　鬨を上げい！」
　戦いの終わった山麓に、無明丸の叫びが響き渡る。
　だが、それに答える仲間達の姿はなく、代わりに浮かぶのは険しい表情。
「一度ならず、二度までも、か……」
「正直、想定外の堅牢さだったな。敵も、それだけ必死ということなのだろうが……」
　渾身の一撃が通用しなかった、ヤクトと有理の言葉は重い。たった10回、されど10回。提示された必要な作戦回数が、途方もない物に思えてくる。
「でも……私は、諦めないよ。絶対に……」
　聳える山頂に凛とした視線を向け、雅は二人の言葉に返した。
　終わらないトンネルは存在せず、明けない夜など、ありはしない。今は、まだ山の麓に辿り着いたに過ぎないが、登り続けていれば、いずれは頂上へと辿り着ける。
　深山幽谷とした山々を背に、改めて誓うケルベロス達だった。

作者：雷紋寺音弥	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年3月26日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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